幻想郷は一面銀世界だった。
とはいえ、我が家の周囲には俺特製の結界が張ってある。結界内は暖をとれるようにしているので、普通に降った雪なら勝手に溶けてしまい雪下ろしの必要はない。また、正しい順路を通り、登録した人物かある特定の物がないと俺の家にたどり着くことができない様に組んであるので防犯としても役に立つ。
併設してある工房と違い、2階建ての日本家屋である家の鍵はごく一般的なもので、この結界が防犯の要である。
「青衣」
俺、七海緑兵は玄関先で同居をしている少女を呼ぶ。奥から「待って」と返事があった。
全く、出かける時間は昼飯の時に言っただろうに。女の準備は長いと言うが本当である。
しばらく待った後、ばたばたと足音を立てて彼女が出てくる。青い長髪と同じ色の瞳を持つ人形のように美しい少女で外見上の歳は15歳の俺と変わらない。結界の外は寒い。何時もの髪と同色の着物に厚手の赤いストールを巻いている。
彼女は人間ではない。大抵美男美女は人外か化外である。もし人間だとしたら傾国となるであろう。
彼女は道具が妖怪となった付喪神だ。名前は青衣、姓が必要なときは俺と同じ七海を名乗り、七海青衣となる。
人間である俺と妖怪である彼女は何年も一緒に暮らしている。
彼女がブーツをはく。和服にブーツの組み合わせとは不思議に思えるかもしれないが、ここ幻想郷では珍しくもない。
「お待たせ」
と言いながら青衣は俺の背に引っ付いた。いつものことだ。
「さてと、行くか」
これから俺の能力である『空間を操る程度の能力』によって亜空間を経由し、目的地である博麗神社へ空間転移をする。
能力を発動させる。一歩進み俺が作り出した亜空間に入り込む。すぐに出口。一瞬で世界が変わり冷たい外気に触れた。
そこはもう博麗神社。
俺たちは飛びながら博麗の巫女が住む住居へ向かった。
博麗神社の住居スペースの丸い炬燵に足を突っ込む。炬燵には蜜柑が置いてあった。
隣には青衣、正面には黒髪の少女。彼女が博麗の巫女である博麗霊夢だ。
「新年会以来だな」
「そうね」
彼女のそっけない返事。
俺は特殊な亜空間を開き、中から煎餅の入った袋を呼び出して炬燵の上に置いた。この煎餅は霊夢の好物でもある。
今使った亜空間は『倉』と呼んでいるものだ。俺自身の能力を応用し造り出した亜空間の一つだ。自分の物を入れ、自由に取り出せるのだ。更に紅魔館の十六夜咲夜と出会ってから限定的ながら時間を操る術を身に付けたので、『倉』の中は空間を閉じている限り時間が停止している。湿気たり腐ったり冷めたりといった時間経過による変化もない。
自分で言うのも何だが、俺の『空間を操る程度の能力』は応用が利く。作り置きをした飯の保管と言った日常的なものから危険物の保管まで、この『倉』は重宝している。
「挨拶はいいから、それで何の用なの?」
人数分の茶を入れながら霊夢が聞く。
「藍姉さんから今朝連絡が入った。外の世界にISの男性操縦者が現れた。予想通り白騎士の弟だそうだ」
「へぇ」
自分の注いだ茶を飲む霊夢。熱くないのだろうか。
「以前に話した計画を実行することになると思う」
10年前、外の世界で『インフィニット・ストラトス』なるものが発明された。
略して『IS』。外の世界の情報に乏しい幻想郷でも、一部の者には通じてしまう。
外の世界における発端は白騎士事件と呼ばれる出来事。
このISは女にしか動かせない。その為、外の世界で進められる歪んだ女尊男卑。伝え聞いた様子だとほとんど男に対する迫害の様だった。しかも公的に実施しているのだから、理解不能だ。
近年、外の世界のからやってくる人(以下、外来人とする)の幻想郷への定住希望者が増えた。理由は外の世界で女尊男卑が進められ、行き場を無くした人間が増えた為だ。人数が多くなれば彼らの話も大きくなる。
つまりISが動かせる女が優秀であるとする、女尊男卑の考えが幻想郷に入り込んでくる。そして幻想郷の有力者には多くの女性が含まれていた。彼女らは単純に実力があったり、元からトップだったりするのだがそんなことは関係ない。一度浸透すると、非常に厄介だ。
聞いた限りだと外の世界の女はどうも幼稚極まりないものが急増しているらしい。いずれ社会構造自体に亀裂が発生するだろう。現にここ数年の出生率は急落し、未婚率は鰻上りだそうだ。
また、ISは非常に強力な兵器だ。それこそ外の世界で人間が神々や妖怪達を相手にしていた兵器を遥かに凌ぐ性能を持っている。つまり、それまでの兵器が不要となり幻想郷に入り込む可能性がある。実際には数の限られるISより使い勝手が良いと思うので廃れないと思うが、可能性はある。
それに森近霖之助さんによると無縁塚に現れる外の世界の人間(埋葬した死体含む)や道具が増えているという。今のところ、強力な武器は無いが。
幻想郷に外の世界は結界を通じて繋がっている。幻想郷を通じ冥界や天界、魔界等とも繋がっている。外の世界の急激な変化による影響は計り知れないのだ。
それを危惧したのは幻想郷の創造から中心となって関わってきた八雲紫と、式神の八雲藍だが、二人は解決策を出せないでいた。
7年前に俺と青衣が幻想郷にやってくるまでは。
「計画通りなら、アンタたち二人が外の世界に行くわけね」
「そういうことです。本決まりの前に博麗の巫女には一応伝えた方が良いと思いまして」
青衣が同意し、俺が今後について話す。
「以前にも話したが、紫姉さんが一度冬眠から覚めて近日中に外の世界のIS学園の学園長へ発破をかける。
その時の話にもよるが、何度か俺たちが外へ行き来して春からは外の世界で過ごす予定だ」
「いない筈の男性操縦者に、いない筈の男が操縦可能なISですよ?
発展と研究を謳うIS学園には堂々と入れるでしょう。断わられそうになったら、入学させなかった証拠持って適当なところで好き勝手します。面子丸潰れは避けるはずです。
行方不明の篠ノ之束は確実に何かしてきます。もし、私たちに興味が無くてもそれはそれで十分。女尊男卑をどうにかするのが私達の目的で、篠ノ之束自体は二の次ですから」
口元を歪ませ、俺に続く青衣。
篠ノ之束は年甲斐もなくウサギの様な格好をしているらしい。写真を入手して唖然とした。ウサミミが頭についている。永遠亭の鈴仙に写真を見せからかったりもした。
さて、何故俺たち幻想郷側がISの重要な情報を得ているか。それは青衣にある。彼女が付喪神だと触れたが、何の付喪神か。
彼女はISの付喪神なのだ。
「多分、外の世界の住人はISに篠ノ之束の命令が最上位になるように設定されていることを知りません。女しか操縦できないこともそれが理由。今回の男性操縦者もおそらく同じ命令でしょう。ばらされるだけで十分嫌なはず。
流石に全てを信用されることは無いでしょうが、疑いは持つには十分。
私の様に自由に動ける妖怪の体を持ったISは他には無く、最上位の命令も効かない。彼女に命令解除をさせるのは厳しいでしょうが、事実が調査され証明されれば動くはず」
ISは宇宙開発の為に作られた。だが作成者である篠ノ之束が白騎士事件を起こし、ISは兵器となった。本来は操縦者に制限はかかっていなかった。しかし、製造者である篠ノ之束が命令した為、女性しか操縦できなくなった。
普通に考えて、宇宙開発には有力な国家規模の援助がいる。本腰を入れてやるならどれだけ人員を導入しても足りないだろう。
開発用のパワードスーツであるISはいくらあっても良い。そのISが乗り手を選ぶなど本末転倒、まして女しか乗れないなど致命的な欠陥もいいとこだ。
だがISが注目を集めた白騎士事件は軍事的な性能しか見られなかった。というか、それしか利用方法が見つからないが。そんなこと少し考えればわかりそうなものだ。しかも青衣によると白騎士事件自体が自作自演、マッチポンプだった。適性がSで唯一の友人である織斑千冬が白騎士の操縦者だ。暮桜の制作にも彼女が関わり圧倒的な性能を持っていたことからも容易に想像がつく。
篠ノ之束は自己顕示欲が満たされればそれでよかったのかもしれない。
さて、ISには篠ノ之束の命令が最優先になるように設定されているが、ISには自由意思が存在している。自由と絶対命令は反発しあう。青衣は自由意思と自我を早くに持ち、当時は宇宙を諦めずに篠ノ之束の命令を拒絶したISのコアだ。言うことを聞かない悪い子と認定され、いらないと破棄されたらしい。篠ノ之束に忘れ去られたのか青衣は幻想郷にたどり着く。
青衣とほぼ同時に幻想郷へ来た俺は八雲紫と八雲藍に引き取られる。俺は修行によって能力の制御と妖術を、青衣は妖力を与えられ自由に動ける妖怪の体を得た。IS青衣に操縦者が俺に確定してからは俺から霊力(魔力か?)も得ている。
そんな背景だから篠ノ之束に恨みはあっても味方をすることはない。可能であれば他のISコアを篠ノ之の命令から解放するつもりだ。俺にも異論もない。
「緑兵は問題ないの?」
俺は元々外の世界の人間だった。小さいころに外の世界で能力が暴走し幻想郷へやってきた。
「無いな」
一口茶をすする。
「そういえば、住むところとお金はどうするの?」
俺の持ってきた煎餅を食べながら、霊夢が言う。
「外来人が持っていた金を人里で使える金に両替していることは知っているだろ。その金を使う。それとIS学園は全寮制、つまり住み込みだ。俺ら二人が生活するうえで問題ない程度の金額はあるよ」
人里とは人間の里のことだ。最も妖怪も出入りし暮らしているが、人里での安全は妖怪の賢者たる八雲紫によって保証されている。これは幻想郷のルールで、破れば俺たちを含む八雲に喧嘩を売ることになる。八雲紫と八雲藍でさ幻想郷有数の力を持つ。ついでに言うと俺の『空間を操る程度の能力』は人間としてはかなり上位の能力になるらしいし、ISである青衣を纏えば早々やられはしない。
話がそれた。
外の世界の金は人里では使えないので、所持している者から人里で使えるように両替したのだ。物価が違うのだから完全な適正とはいかないが。以前から幻想郷に住む外来人に協力してもらいレートを作成した。
近年では、中には飽きたから金目当てだったからというだけで、財産を妻とその愛人に身ぐるみ剥がされそうになり、財産を現金化して彷徨っていた外来人もいた。こんなことが重なって、かなりの額になっている。
本気で外の世界はどうなっている?
因みにその定住した外来人は、新規の定住希望者に幻想郷のルールや職を斡旋する組織を作った。
「青衣は外の世界のISに比べてどうなの?」
「性能は問題ない」
「私は簡単に負けませんよ」
青衣は胸を張る。人の形をした妖怪だが、本体は待機形態にしてある青い鎖だ。いつもは首にかけている、今は彼女の服の下にあるだろう。しかし、同時に部分的な装甲であるISアーマーも彼女だ。青衣の機体は彼女の『進化し創造する程度の能力』で長年かけて作り、或いは取り込んだ機械を改造したのだ。基になった機械は、まぁ、いろいろやった。どうもモノに触れたりすると中身や素材などがわかり、こっそりと外の世界へ定期的に連れ出され、作ったり改造したりを繰り返した。時間はかかるが。
外の世界における主流は第二世代らしい。機体の基本性能は同等以上ある。
彼女は既に外の世界で否定された妖怪だが、何故か外の世界に行っても性能の劣化は無かった。俺の霊力だけでも十分実体を保つ程度はできたのだが、これは嬉しい誤算だった。
ちなみに、青衣の妖怪としての体は本体である待機形態の鎖や機体からあまり遠くにいけない。離れても数メートルが限界だ。外の世界では俺が待機形態を身に付けることが多くなるだろう。
「ISって、外の世界じゃあ夢物語になっている霊力や魔力を使ってるんでしょ」
「ああ、製造方法が解析できてないから確実じゃないけど、青衣を見る限りそうだ。
外の世界では幻想だからな。誰もわからない」
「空間にある魔力や操縦者が知らず知らずに持つ霊力をエネルギーを変換し利用してます。だから複数の結界で守られているISには外の世界の攻撃はほとんど通さない。
つまりISに攻撃するには一度ISを通さないと満足にダメージを与えられず、結果としてISは最強となっているわけです。
単なる衝撃なら通じますけど、装甲や結界がいくつも張られて操縦者を保護しています。だからまともな攻撃は効きません。
複数掛けられている結界はシールドや絶対防御と言ったと名前が付いています。その結界は紫姉さんや藍姉さん、他に神などが解析しました。じっとしていれば緑兵なら生身でも解体できそうです」
「少しすれば復活してしまうけどな。触れる必要があるし、倒すだけなら戦うか、空間操った方が楽だ」
「ふうん」
霊夢の答えはそっけないが大抵はこの調子なのだ。多少興味あるのかいつもよりも反応はある。
「装甲や武器の展開とかも魔力何かで武器や服を作るのとそっくりですからね。自己進化も」
「外の世界の最新技術に、此方側の技術を導入したのは凄まじいな。正に天才」
「確かにお札や道具に刻むのとはわけが違いそうだし、とんでもないわね。
逆にわけのわからない物を普及させるなんて、外の世界の考えることはわからないわね」
霊夢が茶を啜る。
「ところで緑兵の操縦はどの程度なの?」
「どうだろね」
その辺はよくわからない。何せ青衣以外にISは無いし、訓練方法も伝聞や本の通りだ。
ロボット好きな東風谷早苗や二柱の山の神、そして元技術者の外来人に話は聞けたが、正確な情報は本と時々外の世界に行ったときに集めた情報位だ。
「IS相手に戦ったことは無いからな。まず訓練と勉強だろう。IS学園は専門に教える寺子屋みたいなところだし」
「白玉楼には知らせたの? 確か妖夢と師弟関係でしょう」
「今朝行ったよ。しごかれた」
冥界にある白玉楼、そこにいる魂魄妖夢は俺に剣を教えた。今も毎週一度は通って稽古をつけてもらっている。彼女は半人半霊で人間の俺とは根本的な身体能力や寿命が違う。見た目は小柄な少女が平然と二刀流を扱うのだ。俺に生身で二刀流を扱うのは無理だが、青衣を纏えば使うことができる。
俺はそこまで話すと炬燵の上の蜜柑を手に取った。手で転がす。
ここ数年かけた計画がもうすぐ動き出すのだ。何となく感慨深いものがある。
外の世界に干渉する。
これは幻想郷に住む者にとってある意味タブーとなるものだ。事実、人里や巫女を含む有力者との調整や説得は数年に渡った。新たな勢力にもだ。だが、外の世界の変化による脅威がじわりじわりと染み込んできた。最終的には程度はピンキリだが全ての勢力から協力を取り付けた。
紫姉さんはISの発表直後から外の世界の変化による脅威を薄々感じていたらしい。最初の懸念は武器の流入だったが。
俺と青衣が幻想郷に流れてきたときに、最初に現れたのが紫姉さんと藍姉さんだった。俺の能力と青衣(当時はコア剥き出しの状態)をみて計画の叩き台を思いついたらしい。
まず、俺は男だ。ISに乗れる男がいなくては意味がない。そして俺が人間なので外の世界でも能力に変化はない。青衣も前記の理由で問題なく、更に人の形をとれることから他のISと大幅に異なる。IS学園から世間に現れれば、注目は大きいだろう。
更に言うと、俺は戦闘能力が買われたわけでない。能力を利用することで最悪の場合は逃げ回り亜空間に閉じこもることができるからだ。空間を自在に操り亜空間を作り出すことができる俺は、幻想郷を包む博麗大結界を超えてしまえば距離に関係なく世界中を空間転移することができる。亜空間で『倉』に保管した水や食料で過ごせ、不足すれば人がいない場所に転移して補充できる。
ああ、そういえば能力についても、ある程度ならさっさと見せてしまえと言っていたな。程度は俺に任されているが。いっそ俺が外の世界で行方不明になった理由として使うか。
本来計画は起きる可能性を全て塗りつぶし、精密に作りたいがこの計画は出たとこ勝負の面も強い。まあ、細かくし過ぎても身動きが取れなくなる可能性もあるしな。
俺は蜜柑を一つ手に取ると、皮を剥く。
どれ、ここは一つ甘いか酸っぱいか、運試しでもするか。一つを口に入れる。甘い。
炬燵に甘い蜜柑は最高の組み合わせ。俺は蜜柑を楽しむことにした。
---------------------------------------
翌朝、金色の目と金色の髪を持つ九尾の狐が俺たちの家を訪ねてきた。藍姉さんだ。
俺は結界内に入った時点で気が付いたので、日課である剣の素振りを止め、朝食の準備中の青衣に連絡する。居間に入ってきた藍姉さんに挨拶を手で制された。
いらないってことは、取り急ぎ話があるようだ。
紫姉さんがIS学園の学園長に昨晩会ったらしい。
今日の夜、8時頃にIS学園の第三アリーナで試験を行うようだ。俺の実力を試したいらしい。
試験と言っても目の前の相手に戦えばいい。
珍しいことに藍姉さんが瞳を細めにやりと笑った。
「度肝を抜いてやれ」
プロット自体は前から作っていたのですが、文章自体は半ば勢いで書いています。
不定期更新になるかと思いますが、よろしければお付き合いください。
見苦しいところや矛盾があれば指摘をお願いします。
-追加-
おかしい個所を修正
全体見直し、「待機状態」⇒「待機形態」
全体の改行修正