幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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09_才女の心

 さて、初日こそ事件から始まったが、二日目の朝は平和なものだ。

 昨晩は今後の事で青衣と話し込んでしまった。いつもより早く寝たのだが、それでも疲れがあったらしくいつもより遅い起床になってしまった。

 朝、普段は頭や体を動かしているが今日は無しだ。青衣は何時もの時間に起きたのだろうが、俺を起こしに来なかった様だ。気を使ったのだろう。

 朝食後に身支度を整える。真新しいカバンが良い感じだ。『拠点』から教室に青衣と空間転移で行ったら再び大騒ぎになったりもしたが、それは良い。

 席は一番後ろの窓側が追加されていた。ご丁寧に机の上には『七海緑兵』と書かれた紙と、隣にもうひとつ椅子も置いてあった。もう一つの椅子は青衣が使えと言う事だろう。体を消さなくても良いかもしれないので青衣は喜んでいた。

 その青衣が授業中に暇という理由で文字通りふわふわ浮いて、ひと騒動あったりもしたがそれもどうでも良い。

 俺を見る目が厳しい者は生徒教師問わずいるが、更識会長や5人相手の試合が効いたのか意味も無く突っかかって来る相手もいない。学力も何とか授業に差し支えない程度にはなっているし、俺の過去(小学校中退も同然)が効いていて突っ込んでくる相手もいない。

 さて、ISの授業だが俺は専用機枠だ。初めて訓練機の操縦をみることになったが意外なことに好評だった。

 訓練機と一緒に飛びその動きを観察していると、なんとなく操縦者の癖や何が苦手か見えてきたのだ。最初は俺自身も半信半疑だった。流石に教えるのは初めてということもあり、山田先生が近くに控えていたので操縦者本人を交えて相談した。すると当たっており、俺には解決方法も見当がついた。何個かアドバイスするとそれだけで上手くいった。アドバイスだけで上手くいく生徒も生徒だ。しかも何人も。後は慣れるだけである。

 ちなみに昼食は食堂で済ませた。

 さて、放課後だが一夏からの自主訓練の誘いを断り、青衣を伴って生徒会室に向かうことにする。今までも手伝いはしていたが、今日からは正式な仕事が待っているのだ。

 

「おはようございます」

「おはようございます」

 

 生徒会室に入ると同時に挨拶をする俺と青衣。生徒会室には虚さんがいた。他にはいない。

 いつもの机で虚さんは書類から顔を上げ一言、

 

「七海君、青衣ちゃん。急いで空間転移で学園長室に行って。ドアではなくそのまま中に入って頂戴」

 

 その言葉に従って俺達は学園長室に飛んだ。

 学園長室は以前に入った時と何ら変わりがなかった。前回話したテーブルには学園長と更識会長が対面に座っている。

 更識会長に手招きされ、俺と青衣もテーブルの所へ行く。俺が更識会長、青衣が学園長の横に座った。二人の表情は硬い。

 

「二人とも。以前ここで話をしたこと覚えている?」

「覚えていますが」

 

 俺が返すと二人は頷いた。

 

「これで全員ですか?」

「そうだけど、どうしたの?」

「……それは俺達や兎の件を含みますか?」

 

 二人は頷いた。織斑先生抜きで篠ノ之束の件を話す。

 

「十蔵さんは?」

「表向きの仕事中よ。下手に呼び出したら怪しまれるわ。そういう話もあるけど任されている」

「その方向の重要な話でしたら、ミステリアス・レイディから兎に情報を送られる可能性があるので外して貰えませんか?」

「もう外しているわ」

 

 俺はミステリアス・レイディの待機形態を知らない。聞いてもはぐらかすし、信じるしかないのだ。

 

「危ないことをしますね……」

 

 この人はある意味で学園中の生徒から狙われている。いつでも狙いなさいと公言しているのだ。

 

「なら、ここではなく俺の場所でしませんか?」

 

 何か言おうとした更識会長を抑え、俺は提案する。俺の場所、これだけで一度招いた『拠点』だと気が付くだろう。学園長室よりは『拠点』の方が誰かに聞かれる危険性は低い。

 二人は顔を見合わせた後、頷いた。

 

「そうね。お願いするわ」

「持っていくものは?」

 

 更識会長は近くのカバンを、学園長はノートPCと書類をいくつかを取る。

 

「では行きます」

 

 俺は二人の肩に触れると『拠点』へ空間転移した。

 

---------------------------------------

 

「内装が変わりましたね」

「はい。使いやすいように拡張しました」

 

 学園長からだ。今の簡易応接室と言っても床は木の板、大きめのテーブルも椅子もある。当然明かりも十分だ。俺は壁の近くに『窓』を開けて学園長室を映しておく。

 

「向こうから此方は見えません。必要があれば直ぐに戻れます。

 奥は土足禁止の和室ですから、申し訳ありませんが此処の方が良いと思います」

「……私、70年近く生きていますが、この年になって此処まで驚くことがあるとは思いませんでしたよ」

 

 待機形態を青衣に渡そうと首の鎖に手をやった時、

 

「ごめん、お茶とかはいいわ。話に時間を取りたいの」

「……わかりました」

 

 それぞれが手短な椅子に座る。カバンは足元に置いた。俺と青衣が隣同士、俺の向かいが学園長で更識会長はその隣。織斑先生が居ないが、最初に学園長室で話した時と同じ並びだ。

 俺は『倉』を開き、未開封のペットボトルの水を4本取り出す。無論冷えている。これは最近放り込んだもの。『倉』の中では時間が止まるとはいえ、お客さんに賞味期限切れは出せないだろう。

 

「貰うわ。それにしても本当に便利ね」

 

 感心しているのか、呆れているのか更識会長の表情はどちらとも取れる物だった。

 

「では始めましょうか」

 

 学園長から始まった。

 

「昨日今日と、通信でIS委員会と会議を行いました。

 結果を先に言います。貴方達の目的も伝えたところ、支援は委員会でも問題無しとされました。ISを命令から解放することも構わないです。貴方達の目的である女尊男卑の撤廃、社会正常化は後からついて来るでしょう」

「……失礼ですが、女性しか乗れない方が都合の良い連中も多いのでは?

 今は企業の幹部は女性が多いですよね。寧ろ今はそっちが主流だ。そして政治家はその企業の金で動くものも多い。嫌がるでしょう」

 

 単純な俺の疑問。そちらはISが解放されたら困るはず。

 

「確かに腹の中では何を考えているか分かりません。

 ですが昨日の無人機の件が効きました。後は白騎士事件の再認識。証拠はありませんが篠ノ之束博士が有力な容疑者です。細かい話は後で行いますが、要は七海君が言った『気まぐれ一つで、世界を破壊できる』を皆が認識し始めたのです」

「白騎士事件とこの件では弱いでしょう。結局他人事では?」

「もちろん葛藤している者や危機感が希薄な者は多いでしょう。でも委員や関係者に男性も多くいますから、貴方達の動きを歓迎する者は多いでしょう」

「なるほど。そこは納得しました」

 

 俺は青衣に顔を向ける。彼女も真剣な面持ちのまま頷いた。

 

「次の無人機なんだけど」

 

 更識会長がノートPCの画面を此方に向ける。

 

「これを見て頂戴。昨日の今日でわかっていることは少ないけど」

 

 何枚かあるISの写真、そして現在までわかっていることを箇条書きにしたものだ。調査担当者は織斑千冬と山田真耶の名前になっている。

 

「昨日の無人機、コアは登録されていなかったの」

「そうでしょうね。予想はしてました」

「やっぱり貴方達も篠ノ之束博士の仕業と考えているのね」

「そうです。無人機の妙に観察めいた動きといい何かがおかしかった。2体いたのに1体を空で遊ばせていたのもおかしい。そして空の機体は俺達を遠慮なく襲ってきた。それに貴重なISのコアを使い捨てにするなんて方法はまず取れない。

 仮に篠ノ之束以外にコアを作れる者がいたとしても、こんな事件を起こす意味が無い。一夏や鈴、或いはその機体の調査なら試合を見た方が安全だ。学園に対してもこんな方法では嫌がらせにしかなりません。

 俺がIS学園を潰す目的で無人機を動かすなら、アリーナごと生徒を殺して回った方が早い。例のステルスもありますからそれこそ学園ごと潰せます」

 

 これは昨晩、紫姉さんが帰った後に2人で細かく話し、導き出したものだ。

 やっぱり風呂は良い。俺も青衣も風呂で考え事をすると、いろいろと思いつくことがある。

 

「……貴方の発想も随分怖いけど、そうでしょうね」

「大筋で私達と同じ見解ですね。無人機のコアが登録されていない事は委員会にも報告しています」

 

 一度戸惑った後、更識会長は強く頷く。学園長も少し引き気味だ。何か俺、変なこと言ったか?

 

「後は…」

「ちょっといいですか」

 

 学園長の言葉を遮ったのは青衣だ。学園長は頷く。

 

「……他にもあるのでは? 例えば私達の自作自演を疑われたとか。今思いついたのですが」

 

 青衣は少し考えながら言う。その一言で二人は凍り付く。

 確かにありえるな、それ。そういえば白騎士事件も自作自演だった。

 

「……そういう話が出たことは事実ですね。貴方も未登録のISで体を持つと言うイレギュラーです。私達からすれば無人機と同じ未知のIS、現れたタイミングも上手過ぎるとも」

「その辺は相談して決めた事でしたよね? 呼ばれたから行ったまでですし」

「ええ、昨日公開した資料の説明を含めて話をしました。ですが本当に貴方の様なIS、この場合は破棄されて復活したISが他に居ないのか証明できませんから」

 

 ふと、青衣は考える。俺もそのおかしさに気が付いた。

 

「その疑いはあるが証拠も無い、そしていない事も証明できない。半分は悪魔の証明じゃないですか」

「その通りですね」

「構いませんよ。私達も逆の立場なら疑いますし」

「……貴方達の冷静さが逆に怖いわね。怒ると思ったから話さなかったのよ」

 

 更識会長の言葉に俺と青衣は軽く笑う。

 

「その辺も仕込まれました。裏切ったり敵対しない限り協力体制になるんですから、そこは割り切って下さいよ」

「……そうね」

 

 少し更識会長は引いた様だった。何故だ。

 こほん、と学園長が咳払いをする。おかしくなった空気を一度リセットする様だ。

 

「あなた達からIS委員会に要望はありますか? 後でも構いませんが」

 

 学園長からの一言に俺は青衣と顔を見合わせる。唐突の事だ。流石にこれは予想して無かった。何がある? 頭を回転させる。

 

「それは幾つです?」

「あくまで要望ですから幾つでも。多すぎると悪印象ですが」

 

 青衣の問いだ。なるほど、別に数に制限は無い。だが要望ではあるので通るとは限らない、ということか。

 それにしてもIS委員会に直接要望を出せるとは。

 

「青衣に相談してからに……」

「後からでもいいですが、今思いついていれば伺いたいですね」

 

 俺の顔をじっと見ている。即興でどの程度頭が回るか測っている様だ。

 

「俺からは何個か思いつきました。後で増えるかもしれませんが、とりあえずIS委員会にお願いしたいことがあります」

「何でしょうか」

「1つ目は青衣の所有権。正式に俺個人と認めてもらいたんです。無人機の件もありますしね。当然、俺に所有権があれば余計な詮索も強奪は禁止になります」

「正当と言えば正当ですね」

「例えば、今回の無人機を含め今後は未知のISに特殊な番号を付けるのはどうでしょう。

 イレギュラー或いはインフィニット・ストラトスにちなんで青衣はナンバーI01で所有は俺、無人機はI02、I03で調査目的で所有はIS学園。コアを刻むとかは当然無しで」

 

 学園長は頷いた。宙に浮いているだろう無人機のコア所有もこの方法なら一時的には何とかなるはず。もめるだろうし。

 

「2つ目は青衣のシールドエネルギーやスラスターエネルギーなどの消耗について。今は付いていませんが弾薬なども。

 今までの訓練や昨日の件はIS学園と織斑先生の指示で学園から貰いましたが、本当は各国か企業が負担するんじゃないかと思いまして。それを正式にIS学園か委員会で負担してもらいたいんです。無論所属している間ですが」

「弾薬はともかく、エネルギーは元から学園持ちですよ。まあいいでしょう。

 ところで今まではどうしていたんでしょうか」

「学園に所属する前は青衣が自力で作り出していました。少し時間はかかりますが」

 

 二人は青衣を凝視する。

 

「本当ですか?」

「はい。自然と身に付きました。エネルギーの消耗は疲れが溜まる様なものですから寝てましたね。そうすると回復が早いです」

「……やっぱり青衣ちゃん、とんでもないわね」

 

 それが何か、とでも言いたげな青衣。学園長と更識会長は顔を見合わせる。普通は出来ないらしい。

 冷静に考えてみると、食料と睡眠程度で膨大なエネルギーが戻るということは確かに半分永久機関が入っている。

 

「わかりました。では3つ目は?」

 

 少したどたどしく、学園長は話を進める。

 

「3つ目は」

「どうしました?」

 

 途中で会話を止めた俺を学園長と更識会長は怪訝な顔で見る。俺は一度息を大きく吐いた。

 

「青衣はイレギュラーのISです。欲しがる勢力も多いでしょう。俺は操縦者として青衣に守られるが、逆に俺も青衣を守らなければならない」

「そうでしょうね」

「もし青衣を狙うなら襲撃者はISを使いますよね?」

「……当然ですね」

 

 緊張感が生まれた。

 

「その襲撃したISを頂きたい。ISコアごとね」

「なっ!!」

 

 青衣も流石にこの発言には目を見開いて驚いた。

 

「俺は保険と相手に払わせるリスクが欲しいんですよ」

 

 言っていることが分からないのか、学園長は眉を顰める。

 

「連中にはリスクが無い。失敗してもトカゲのしっぽ切りが精々です」

 

 皆黙ったままだ。俺は続ける。

 

「俺は青衣を守らなきゃならない。だから正式に認めさせたいんですよ。

 狙うのは勝手だが相応のリスクがあるぞ、撃破されたらISを奪われる。トカゲのしっぽ切りは出来ないぞ、とね。

 仮に俺達が襲われ相手のISを倒したとします。ですが『そのISは奪われたもの、裏切り者がやったことで我々には責任が無いから返してくれ』と言われても、俺は『認めただろ』で済みます。返却すればまた襲いかねないですからね。

 これならリスクが大きい。相手は躊躇すると思いますよ」

「なるほど」

「IS寄越せと言う訳ではありません。あくまで襲われた場合です。

 例えば今回の無人機はIS学園の指示ですし、その分はIS学園の記録にも残るでしょう。

 他にも模擬戦とかですかね。白式や甲龍を撃墜したから寄越せと言う訳でもない。

 俺は青衣に対する保険が欲しい。これを避けて青衣を強奪するにはIS学園丸ごと襲撃することですが、そんなことまともな国や企業がやればどうなりますかね?」

「でもその要望は少し難しいと思いますよ」

「だから保険と言っているんですよ。どうせ詮索禁止と言ってもいろいろして来るでしょう?

 これは本来なら成立しない状況です。ですからこのリスクも本来なら無い。結局のところ青衣を狙わなければいい。そもそも奪い合いは認めていない。ルール違反を狩るだけです。

 逆に反論したら『貴方は青衣を強奪するつもりですか』となりませんか? 俺の名前を出して貰っても良いですよ」

「……本当に盗られていたISだとして、貴方はどうするつもりですか?」

「気の毒ですが俺には関係ない事です。それが本当の話か見分ける術もないですし。

 そういえばISのコアは取引や譲渡は禁止ですので。この件について申請期間を設けない、無制限にする手もありますね」

「……わかりました。そう伝えておきましょう」

 

 意図は通じたようだ。『申請期間を設けない』や『無制限』は交渉の余地はあるぞ、と俺は言っている。

 これなら通りやすいだろう。無論、俺はさっさと申請するつもりだ。

 

「俺からはこんなもんですね、今は」

「なら青衣さんからは何かありませんか?」

 

 顎に手を当て、青衣は少し考える。

 

「私たちにいろいろアプローチが来ると思うんですが、全ての窓口をIS学園を通じた一本に絞れませんか? 何処かに所属する気も無いですし、多分量が多くて捌けないと思います」

 

 確かにそうだ。個人宛てに来られたらたまったものではない。

 

「なら、学園として用意しましょう。国家や通常の企業なら一括で通達できるようになっていますから」

「お願いします。他は破棄なり保管なりして下さい」

 

 ぺこりと青衣は頭を下げる。

 

「では、一度置いておいて次の話にしますか。

 貴方達はどうやって篠ノ之博士に命令を解除させるつもりですか?」

「とりあえず生け捕りにします。後は説得でも何でもいいですよ。性格的にIS学園に居れば必ず姿を現すと思いますし。最悪、学園に居る特別な3人がいますから其方を使っても良いです」

「ちょっと、それは……」

「多分、ISなどで武装しているでしょうからそこは何とかします。何でもありなら手はあります」

 

 俺は戸惑う学園長を遮る様に言った。更識会長が口を出す。

 

「まず説得を頼みましょう。織斑先生は未だに篠ノ之博士と連絡を取り合っている様です。それを使いましょう」

 

 はっきり言って上手くいく可能性は低いと思う。俺達はもう織斑千冬の監視はしていない。IS学園と更識会長に知らせた後丸投げしたのだ。向こうの意向でもある。

 だが青衣への適性検査に織斑千冬は同行しているのだ。あの時は冬で今は5月。説得するならしているだろう。

 

「非合法ですが連絡を取り合っている証拠はIS学園も手に入れています。青衣ちゃんの調査に織斑先生も絡んでいますので、ISの解放をするように説得するように頼みましょう。それが無理な場合は捕獲後に説得はどうでしょうか」

 

 俺は青衣の方を見る。少し渋っている様だ。他に何か無いか、有るな。

 

「その案に2つ追加をしたいですね。1つは捕獲が無理な場合です。どうしましょうか」

「それこそお任せします。でも手荒にはしないで下さいね」

「此方としても絶対命令を安全で確実に解除できる人物を失いたくないですから、善処しますよ」

 

 俺が同意した。昨晩、紫姉さんが言ったことでもある。

 

「それでもう1つは何でしょうか?」

「篠ノ之束の説得に篠ノ之箒と織斑一夏を加えたいんです」

 

 この提案には3人とも驚いた様だ。

 

「あの2人も現状に嫌気がさしています。特に一夏は女尊男卑とふざけた女性優位を何とかしたいと思っています。

 2人に全く関係が無い話ではないですし、どんな結果でも全く関われず後で知らされたら何かしたかったと思うでしょう。だから説得に協力して貰います。

 タイミングは今後の話次第ですが早い方が良いと思います。篠ノ之束の特別3人での説得なら成功する可能性も少しは上がるかと」

「……私は賛成ですね。確かに可能性は上がるでしょう」

 

 軽く考えた後に更識会長が同意し、学園長も頷いた。

 

「青衣、お前が自分で蹴りをつけたいのもわかる。

 でもな説得後や捕獲後にでも言いたいことは言えばいいし、一発殴りたければそうすればいい、違うか?」

 

 青衣は顔を顰め何やら考え込んでいる。やがて諦めたように大きく息を吐き出した。

 

「そうですね。どの道出てこないと捕獲できないですから終わった後に殴らせてもらいましょう」

 

 バシッと自身の掌に拳を打ち付ける。

 

「ちょっと、青衣ちゃん?」

 

 青衣の行動に更識会長は冷や汗を浮かべながらおずおずと声をかける。

 

「私からすれば造り出しておいてコアを半壊させた後放置した女ですよ。云えば私を捨てた親なんです。一発や二発殴りたいのは当たり前でしょう」

 

 バシバシと掌を軽く殴りながらじっと更識会長を見る。

 

「た、確かにそうね……」

「ほどほどにお願いします。教育者として暴力沙汰は……」

「善処します」

 

 学園長の言葉を全く意に返さない様に青衣は綺麗な笑顔を浮かべる。所謂営業スマイルである。

 

「……何時覚えたんだ、そんな顔」

「今日、クラスで教えて貰いました」

 

 ニコニコ俺を見つめる青衣。周りとうまくいっているのは良い傾向だろう。

 

「すっごい違和感があるんだけど」

「ちぇっ」

 

 そしていつもの顔に戻る。俺はため息を付いた。

 俺は気を取り直して、水の入ったペットボトルを開けて一口飲んだ。学園長と更識会長の方を向く。

 

「これは方針の確認ですが、篠ノ之束を説得させて誰でもISを操縦可能にする。誰でも操縦可能になれば女尊男卑の根拠も無くなり男女平等に戻る。それで良いでしょうか?」

「はい」

 

 俺の言葉に学園長は頷いた。

 

「この時点で俺達の目的は達せられますけどその次はどうしますか? ISは元々宇宙開発が目的ですが」

「宇宙開発は各国の思惑が絡みますからね。軍事的な内容もおいそれと変えられないでしょう。一応提案はします」

「わかりました。これも確認ですが方法は大きく分けて3つ。

 1つ目は『織斑先生や織斑一夏、篠ノ之箒が篠ノ之束を説得する』、2つ目は『篠ノ之束を捕獲、その後に織斑先生達3人が再び説得をする』、3つ目は『捕獲が無理なときはこちらに任せる。但しなるべく手荒にしない』です。

 その後は『IS学園を通じて本来の宇宙開発を提案』、これでよろしいでしょうか」

「はい、それで良いです」

 

 俺の確認に3人とも頷いた。

 次に更識会長がカバンから2台の携帯電話と取扱説明書を取り出した。ガラケーと言うのか? シンプルな携帯電話で青と緑の色違いだ。

 

「学園名義の携帯電話よ。貴方達に渡しておくわ。

 盗聴や青衣ちゃんの測定みたいな真似はしないから安心して。争う気はないから。私たちの番号やメールアドレスは登録してあるから後で確認して。但し番号やアドレスは勝手に変更したら困るわ。何かあったら相談して頂戴」

 

 多分名前に合わせてある。俺が緑で青衣は青だ。

 

「クラスメイト達に番号を聞かれたらどうします?」

「その位だったら良いわ。でも使い過ぎないでね。一応公費だから。

 それと、明日から寮に入ってもらうから山田先生から鍵を受け取って。此処に戻っても良いけど携帯電話には出て欲しいわ」

「ここは電波も遮断します。今日は生徒会室、明日からは部屋に携帯を置いておいて、それと同じように見れれば良いですか?」

 

 無人の学園長室を映す『窓』を俺は指差した。これは音が入る。

 

「方法は任せるわ。それで十分だと思うし」

「解りました。……他にIS委員会への要望があれば追って伝えますよ。特に期限は無いですか?」

「無いですね。随時あれば言って下さい。後、更識さん、もう一つ」

 

 再び更識会長がカバンから書類を数枚を取り出した。

 

「貴方の戸籍が復活したの。日本政府も焦った様ね。書類はその関係よ。後、パスポートも送るみたい。

 それと両親の財産は法的に処分されていたけど、本来相続する分を政府が出すみたい。計算があるから少し後になるけど、近いうちに通帳やカードが届く予定よ。税金は引かれているから安心して」

「昨日の今日でですか!?」

「早すぎるのは解るけど、そこは解釈して頂戴。IS学園として調査を徹底していたこともあるけどね」

「法律には詳しくないんですが、俺は15歳ですよ? 20歳前には保護者か代理人がつくのでは?」

「それは無しになっているわ。選挙なんかの年齢制限以外はほとんど成人と同じ扱いよ。銀行のカードもクレジットカードとしても使えるわ。多分諸外国に配慮したのね。お金は貴方達にだけど」

 

 なるほど。日本政府は一夏を手に入れている以上、俺もとなると非難の嵐だろう。金は手心と言うところか。

 

「そうですか。ところで印鑑は直ぐに作り直して、銀行に出し直しますが失礼になりませんよね?」

「ならないわ。寧ろ当然、言っておこうと思っていたの。

 それと届いた印鑑は使わない方が良いわ。他人から貰った印鑑を使うなんて馬鹿げている。その銀行だけと聞いているけど、万が一があるから証拠として保管するのも良いわね」

 

 問題無いらしい。俺は一息つく。

 

「わかりました。他に受け取る物は」

「物は無いわ。それ以外なら」

 

 更識会長は俺の事をじっと見ている。昨日も俺の頬を抓ったりするし、最近は纏う雰囲気がおかしかった。何だ? 俺を睨み付けているが何かが違う、困惑か。

 初めて見せる顔なのだろうか、学園長も戸惑っている。

 

「それ、渡した物、先にしまって」

「……」

 

 まず携帯をポケットの中に入れる。青衣も同じだ。説明書や書類は自分のカバンに仕舞う。

 

「……カバンもしまって」

 

 俺は『倉』を開けてカバンを放り込む。それを見て更識会長の顔がますます歪む。

 

「七海緑兵君。貴方は本当に何者なの?」

「調べたのでは?」

「調べたわ。あなたは徹底的に調査させた。何度も、何度もね。

 親は会社経営とはいえ社長自らが現場にも出ている小さな会社。貴方の成長具合も平凡、通っていた小学校も唯の公立、成績は良かったけど所詮小学二年生まで。当時の担任も普通の生徒だって言ってたわ」

「そうですね」

「今も見た感じでは平凡、どこにでもいる普通の人よ」

「……」

 

 あまり平凡や普通を連呼されると凹むが、その通りだ。

 

「ところで私は誰? 貴方の知っている限りで良いから言ってみて?」

 

 俺は言っていることの意味が分からなかったが、思いつくまま言ってみる。

 

「名前は更識楯無、IS学園の生徒会長、自由国籍権を持つロシアの国家代表、自分で改造した専用機持ち。

 詳細は知りませんが多分後ろ暗いこともする組織のトップ或いは幹部。普通の生まれではそんな組織の高い地位にいるわけではないのでその筋の家出身と予想しています、後は……」

「その位で良いわ。大体合ってる。違うのは私は組織のトップで上はいないこと事よ。お客さんはいるけど。

 自分で言うのも何だけど私は常に優秀であり続けた。生まれもあるけどこれは付いてきた結果よ」

 

 改めて見ると凄い経歴だ。怪物ですね。

 

「その私は貴方に一方的に負けたわ。今も勝てる気が全くしない」

「いや、その試合は」

 

 バシンとテーブルを叩き、更識会長は俺の言葉を遮ったまま立ち上がる。会長に渡したペットボトルが振動で転がり床に落ちた。

 俯いているので髪で顔が隠れ、表情は解らない。

 

「ISも回避以外は私の方が上よ。青衣ちゃんの性能にもずいぶん助けられている。スラスターやふざけた量の弾幕とかね。

 学力も付いてきたとはいえ学園では下から数えた方が遥かに早い。いいえ、正規でも本来ならかなり下、私達で教えていなかったたら底辺かも。経歴からして無理はないとは思うけどね。

 頭も回転が速いのは解ったけど、その性質は癖付けや訓練を行った後天的な面が強い。事実、考える時間が少し長いことがある」

 

 よく俺をそこまで分析したものです。

 

「でもね、そんな相手に私は手も足も出ないまま、一方的に、何もできないまま負けたのよ」

 

 ゆっくりと顔を上げ立ち上がる。

 俺は息を飲んだ。多分青衣や学園長も同じだろう。更識会長の目は壊れかけた人間の目だった。

 椅子を倒しながらゆらりと一歩後ろに下がる。

 

「最初に会った時から違和感は感じていたわ。見たことないタイプで面白いって思ったけどあれは間違いだったのよ。

 例えばこの部屋『拠点』と言うんだっけ? そこの学園長室を映すもの、カバンをしまったり水を取り出したり、それに空間転移、前の試合ではまるで吊るされたみたいに何もできなかった。

 そんな不可解過ぎることを自然に行っている。私には全く分からないけどまだ見せていないもの、先がある事位はわかるわ。

 私はルールに助けられた。それが無ければ絶対に勝てない」

「それは俺の能力だって」

 

 だが俺の言葉は届いていない。彼女は片手を軽く上げ、自らを嘲る様に笑いながら続ける。

 

「青衣ちゃんと行動し、こんな計画任されている以上優秀な方でしょうけど、貴方はまだ若い。私の1つ下よ?

 それに上がごろごろいるって言ったわよね? 本当にわけがわからない……」

 

 彼女の目から涙が零れていた。

 

「どうして!! どうしてそんなことができるのよ!! 本当に何者なのよ!!」

 

 これは嫉妬と呼ぶべきものだろう。

 ずば抜けた天性の才能を持ち、他を寄せ付けず圧倒的な実力で勝ち続けた少女。他者を寄せ付けず常に強者として弱者を薙ぎ倒してきた少女。そんな彼女が生まれて初めて味わった理解不能と理不尽なまでの敗北だった。そこまで追い詰めたのは俺。

 その場に座り込み、更識会長は声を上げて泣き続ける。

 完全に固まった青衣と学園長。

 

「……」

 

 どこまで話す? 俺の能力を話しても解決にならない。能力を使えるから? 使えない事で更識会長はこうなっているんだ。

 幻想郷の事か? どこまで? リスクが高すぎるぞ。むしろ逆効果になるんじゃないか? 他の手、他の手は……。

 頭がフル回転する。だが思いついた事は俺自身で否定材料を出してしまう。焦っている。

 まだ泣いている。どうすればいい?

 

「全く、女の子を泣かせるなんて育て方を間違えたかしら?」

 

 少し高めの女性の声が混じる。俺と青衣には聞き慣れた声だ。

 

「失礼」

 

 俺達がいる簡易応接室の奥、空間が曲線状に割ける。スキマだ。

 更識会長が顔を上げた。目を見開いている。学園長も驚愕し少し腰を浮かせた。多分以前に見ているからこの程度なのだろう。

 スキマが開く。中は赤黒い空間と此方を向く複数の目、両端には赤いリボン。

 その中を降りてきたのは長い金髪の端を複数の赤いリボンで結い、紫の目と導士服を纏った少女。扇子を持った彼女は俺と同年代に見える。

 

「この2人の保護者、八雲紫です。同席を許可して頂けますか?」

 

 紫姉さんは優雅に一礼をした。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

ミステリアス・レイディの待機形態って未発表ですよね。
IS用のスーツでも、裸エプロンもどきですらそれっぽいものが無い。

賛否両論あると思いますが、更識楯無は自分で自分を追い詰めました。
頼りになる先輩として出てきましたけど、登場方法が違えば鼻持ちならない嫌味な敵役にもなるキャラクターでしょう。
特に生徒会長ってフィクションでは何故か変な権力持たされていたり、嫌な役回りが多いみたいですし。
さて、彼女は名門出身の現当主で完璧超人、チートを絵にかいたようなキャラクター。
緑兵という一見普通の正体不明を興味本位で横に置いてしまった為、己を追い詰めてしまったのです。

この話から数話続けて全体のプロットに無い話です。何故だ、プロットがどんどん増えていく……。
次の話では幻想郷の説明回。本筋とは違うので基本的にはざっくり流そうと思います。

感想にありました、地の文とセリフの間に一行空ける方法を行いました。此方の方が読みやすいでしょうか。
何かありましたら感想をお願いします。

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