幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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XX_IS学園外の目線

 2月のある日、俺の家でもある五反田食堂に忘れられないお客さんが来た。片方は首に青い鎖(ネックレス?)を付けた少年だがもう片方は違った。青い髪と青い目をした美少女だ。しかも青い和服に赤いストールを巻いている。若いのに非常に似合っていた。多分二人とも俺と同じ年齢位だろう。

 注文を届けた後に美味しいと言いながらも、中身を分析して食べていた。

 美味しいと言われるのは正直嬉しい。一瞬同業者かその見習いかとも思ったが、良い評判とはいえ家みたいな飯屋に来るものかと、不思議に思った。

 印象深い容姿だがそれだけではやがて忘れた事だろう。

 忘れられないのはその後だ。

 俺は客としてきた女性至上主義者の2人からいちゃもんをつけられた。タダ飯にしろはおろか、金を払えと言われることすらある。客商売にとっては鬼門と言うべき、そして運が無かったと言うべき相手であった。

 何せ公権力ですら彼女たちの僕だ。理由はISの台頭。俺からすれば小学生からこの風潮が始まっていた。大和撫子は絶滅したのだろう。

 

「こっちは飯を食ってんだぞ、不味くするようなことするなよ」

 

 その少年が発した、レジで喚いている2人相手への一言だ。

 馬鹿な真似をするなと、其方を見た瞬間、俺の背筋は凍った。

 その何かに直接当てられている主義者2人は完全に凍り付いて、暖房が効いている室内とはいえ脂汗をだらだら流している。歯がかちかち鳴っていた。

 傍らにいる青い少女も主義者の2人に冷たい目を向けていた。絶対零度と言うべきか、これ以上無い位に恐ろしい目だ。

 この2人は普通でない!! 内心で俺は悲鳴を上げた。

 

「さっさと勘定して帰れ」

 

 今度は青い少女だ。怒気が入ったその声に操られる様に主義者の片方は財布から千円札を2枚を叩きつけ、逃げるように扉を潜ろうとする。

 

「あの、お釣り」

「いらないわよ!!」

 

 そして走って去って行った。向こうでは拍手が沸き起こっていた。向こうの2人は軽く礼を言った後に変わらす食事をしていた。

 

「ありがとうございました」

 

 俺は2人に駆け寄り礼を言う。頭を下げる俺に彼らは顔を上げる。

 

「別にいいよ。旨い飯が不味くなるのが嫌だっただけだし」

「緑兵の言う通りです。やらなきゃ私がやりました。美味しいものは美味しく食べましょう」

 

 実に嬉しい事を言ってくれる。

 

「いえ、是非お礼をさせてください」

 

 俺はそういったのだ。軽い気持ちで。

 

「じゃあ、ちょっと協力して貰いましょうか」

 

 へ?

 にんまりと笑う青の少女。

 

「青衣」

「なんです?」

「調査協力をお願いするなら、こっちも担当を呼ぶぞ」

「わかっていますよぉ」

 

 緑兵という少年に突っ込まれ、ふてくされる青衣という少女。彼女が俺の方を向く。

 

「公的な機関の非公式調査をやっているんですよ。10分程度で終わると思うので、閉店後に調査をさせて貰っていいでしょうか」

「調査って……」

「後で担当者から電話を入れさせますよ。所属はその時に話します。断るときはその時にお願いします」

 

 どうせレシートを渡すと電話番号が書かれている。

 俺は不注意なことを言ってしまったのかと、この時は少し後悔した。

 

---------------------------------------

 

 そんな彼らが帰ってしばらく経った。俺は鳴っている店の電話を取る。

 

「はい、五反田食堂です」

「弾か?」

 

 あれ、この声は……。

 

「織斑千冬だ、久しぶりだな。元気だったか?」

「え、ええ。お久しぶりです」

 

 親友である織斑一夏の姉、千冬さんだ。女尊男卑の原因となったIS、その世界最強であるブリュンヒルデ。世界的な人物ではあるが男としては心中複雑な人物だ。

 

「七海に会ったか?」

「ななみ? 誰ですか?」

「調査とか言っていた男女の2人組がいなかったか? 片方は青い和服姿だと思うが」

「いました。あれ? その連絡ですか?」

「ああ、彼らはIS学園の協力者でな……」

 

 意外だ。女性至上主義者を追っ払ったからISとは無関係な人物だと思ったのだが。

 

「すまんが家族単位で簡単な調査に協力してほしい。非公式なので口外して貰っては困るが」

「危険とかはありませんよね?」

 

 一応確認する。家族単位となれば妹の蘭も絡むだろう。

 

「無い。時間も数分で終わる」

「わかりました。いいですよ」

「閉店後で良いか?」

「そうですね……その30分くらい前から余り来ないですから、その辺でも良いですよ」

「わかった、あの2人組と山田というIS学園の教員が行く。よろしく頼む」

「解りました」

「では」

 

 そして電話は切られた。

 はあ、と息を吐き出す。まさかIS学園の関係者だったとは……。じいちゃんに伝えておくか。

 

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 閉店の少し前、彼らはやってきた。先ほどの2人組と眼鏡を掛けた若い女性、そして何故かスーツ姿の千冬さんもやってきた。千冬さんと山田という先生から名刺も渡される。

 蘭は千冬さんを苦手としているので、固くなっていた。

 もうお客さんは居ないので直ぐにその調査とやらに入る。

 IS学園として公式な調査だが今は内部にも極秘になっているらしい。こういわれると物々しいが、言わなければ良いだけだ。

 

「Bです」

 

 俺は簡単なプロフィールを聞かれた。年齢とか性別とかその程度だ。その後、七海青衣という少女に手を握られて、意味は解らないがBと言われた。妹の蘭はC、他の家族もBやCと言われている。そのアルファベットが何を意味するのかわからない。

 七海緑兵という少年は此方の言った内容と、青衣という少女の言った内容をノートパソコンに打ち込んでいる。と言っても決められた場所に入力しただけだろう。

 というかこの2人が同じ苗字とは、兄妹や親戚には見えないがどういう関係なのだろうか。

 最後に山田先生がノートパソコンに打ち込まれた内容を俺達に内容を確認する。間違いが無いのでそれでおしまい。本当に数分で終わってしまった。

 

「お疲れ様でした。ご協力感謝します」

 

 最後にその山田先生がにこやかな挨拶で終わる。緑兵も軽く頭を下げた。

 その一方で千冬さんが青衣さんとノートパソコンを覗いて、何やら話をしている。

 

「ふむ、やっぱり全員動かすことは可能か……」

「逆にAやSは今の所いませんね」

「七海との付き合いが長いからか?」

「でも国全体で調査してもA以上は稀なんですよね? 順当では?」

「母体数からすればありえるな」

 

 そこに緑兵さんが混じる。

 

「俺は調査目的を考えればD以下、起動不可能がいない事の方が重要な気がしますけどね」

「確かにそうだな」

 

 おそらく調査のデータを入力すれば纏る様にしていたのだろう。それを見て簡単な議論が始まっている様だ。

 そこに山田先生も混じる。

 

「長引くなら食っていきますかい?」

 

 そこにじいちゃんが声をかける。千冬さん達4人は互いに顔を見合わせた。

 

「そうですね。俺達は食っていきますよ」

「同じく」

 

 緑兵さんと青衣さんだ。

 

「私達も食べていきますか?」

「そうだな」

 

 山田先生が聞き、千冬さんも頷いた。

 各々メニューを見て注文をする。千冬さんはビールもだ。

 

「山田先生は運転があるが、七海、青衣。お前ら2人とも付き合え」

「駄目ですよ、織斑先生」

 

 山田先生が千冬さんを止めている。それを見て俺も改めて思う。

 

「この方達、若いですよね」

 

 緑兵さんと青衣さんは明らかに若い。外見だけかと思ったのだが、山田先生(この人も20歳を超えているとは思えないのだが)の声で改めて疑問に思った。

 

「弾、緑兵はお前と同い年だ。青衣は年下だな」

「それ、やばくないですか? しかも今の話だと学園関係者ですよね?」

 

 今は極秘扱いらしいが、IS学園としての調査に同行しているのだ。関係者だと言うことくらいは容易にわかる。何故、俺と同い年の男性が調査側にいるのか疑問に思うが。

 

「心配いらない。片方は公的には死人、もう片方は法律が適用されないからな」

「え?」

 

 思考が固まる。それってどういうことだ?

 

「俺らはともかく酒を出した店はそうはいきませんよ。風評被害ってありますよね。個人的な付き合いがある店なんでしょう?」

「そうだ。弾は一夏の友達でもある」

「迷惑かけられませんよ」

 

 緑兵さん、あるいは七海さん、呼び捨ての方が本当は良いのかもしれないが彼は少し考えるようにする。

 

「それにちょくちょく会う俺達よりも、弟さんの話を聞いた方がいいんじゃないですか? 俺達は家飲みなら付き合いますから」

「ふむ、確かにそうだな。よし、弾。飯の後に少し付き合え」

 

 何回か瞬きをし、千冬さんは同意した。

 

「そういう事なら」

 

 俺も一夏について話したいこともあるし。

 

「飯を食べたら俺らは帰りましょうか。話難い事もあるでしょうし」

「そうだな。酒も入るし私は自宅へ戻るから、お前たちは先に帰っていい。伝票は置いていけ」

「了解」

 

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 緑兵さん達は飯を食べたら山田先生と一緒に帰って行った。

 じいちゃん達は既に奥に戻った。千冬さんが帰るときに戸締りさえすれば、時間はいつでも良いらしい。たっぷり話してやれとじいちゃんからも言われている。

 俺は一夏の話をする。

 簡単なつまみとビールを飲みながら千冬さんはふんふん頷いている。普段知らない一夏の事を聞けるのが嬉しいのだろう。上機嫌だ。

 そんなとき乱暴にドアが開かれる。千冬さんは後ろ向きなので見えないが、正面にいる俺からすれば相手が丸わかりだった。

 緑兵さんと青衣さんが昼間追っ払った女性至上主義者の2人だった。

 何でも慰謝料の請求らしい。その額は数百万。ISを使えぬ役立たずなのだから、ISを使う私達に奉仕するのが義務だそうだ。

 俺が青くなると千冬さんが相手の方を向く。女性が聞いていることに気をよくしたのか、千冬さんに同意を求めたのだ。こいつらは。

 

「貴様ら、ふざけたことを抜かすにもほどがあるぞ」

 

 響く千冬さんの声。明らかに不機嫌、怒りすら覚えているのだろうか。

 

「男を庇う女の恥が……ISのこと等何も知らない愚図ね」

 

 見下した目で、千冬さんを見る2人。

 

「ほう……ISに関わっていて私の顔を知らないとはなぁ? とんだモグリが居たもんだ」

 

 2人は見下したまま片方が眉を上げる、そして顔を真っ青にする。ようやく相手が織斑千冬であることに気が付いたようだ。

 

「……ブリュンヒルデ?」

「とっくに引退した。今はIS学園の教師だ」

 

 ゆっくり立ちあがる千冬さんに、2人が震え上がった。

 

「さて教えろ。ISなんぞ所詮500個足らずしかない、女しか乗れない欠陥品の兵器だ。そんなものが社会の何の役に立つ?」

 

 ISは欠陥品の兵器。

 ブリュンヒルデの口から飛び出た発言に俺も驚く。主義者の2人は自分の耳を疑っている様だ。

 

「何故、何故こんな場所にブリュンヒルデが!? それにISは……」

「兵器位にし使い道が無く、女しか乗れない欠陥品だと言った。

 それにこの辺は私の地元だぞ。個人的な付き合いもある、馴染みの店に居てもおかしいことなど何もない。今もこうして閉店後に愚痴に付き合ってもらっている。

 その前に私の問いに答えろ。ISは何の役に立つ?」

 

 千冬さんが2人に詰め寄る。切れかけている様だ。

 

「ISが……国を守って……」

「ほう、防衛か」

「え、ええ。ブリュンヒルデ、私たちは」

「それで貴様はISを持っているのか。ところで使ったことは? 訓練したことは? 戦ったことはあるのか? ええ!?」

 

 主義者の言葉を遮り、千冬さんは最後は怒鳴った。2人は絶句し、完全に腰が引けている。

 

「あ、ありません……」

 

 呟くように言った一言で千冬さんは切れたようだ。

 

「人の成果を我が物顔で主張する、何も知らない馬鹿どもか!! 私はお前達みたいな屑がこの世で一番嫌いだ。2度とその汚い顔を見せるな!!」

「ひっ!!」

 

 この一喝で、2人は走って店から飛び出して行った。

 店の中が静まり返る。

 

「弾、ああ言う手合いの者は来るのか?」

 

 此方に背を向けたまま、千冬さんが俺に尋ねる。正直、IS関係者には言い出し難い。

 

「私はな、ISに関わるものとして知っておかねばならないんだ。教えてくれ」

「……時々来ます」

「客商売にはつきものなのか?」

「そうですね。困っている店も多いですよ。タダにしろとか、金を払えとか……気に入らないからって潰された店もありますよ」

 

 俺の答えに千冬さんは肩を落とす。彼女が少し小さくなったように見えた。

 

「本当に私は何をやっていたのだ……」

 

 千冬さんは向き直ると再び椅子に座り、一気にクラスを煽った。俺は瓶ビールを追加で持って来る。

 グラスに注ぐと、再び煽った。良くない飲み方だ。俺はもう1つグラスを用意しウーロン茶を注いだ。差し出すと千冬さんはしばらくそのウーロン茶を見つめていた。

 

「なあ、自分で頑張って得た成果が全て事前に決められていたとしたらどう思う?」

 

 ぽつりと、彼女が呟いた。

 

「え?」

「まあいい。聞き流してくれ。無意味だ」

「流せませんよ。成果は成果でしょう。どんなことであれ、千冬さんが成したことです。そりゃ、ああいう女性至上主義者が目の前に来て、気になるのは解りますけど。

 本当に何があったんですか?」

「言えない。だが」

「だが?」

 

 俺の方に顔を上げる。

 

「もう少ししたら驚くものが見れると思う。さっきの七海と青衣の顔も覚えておけよ」

 

 何かを吹っ切ったような顔なのに、どこか陰のあるものだった。

 

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 5月になった。

 その話は直ぐに耳に届いた。IS学園からの公式発表の直後に世界的な大ニュースになったからだ。

 学校に居た俺のクラス、いや学校単位で授業などそっちのけ、普段は何のためについているか分からない教室のテレビに視線が集まっている状態だ。教師も止めない。彼らの視線も釘付けだ。女性教師や生徒の一部は騒いでいる者もいるが、誰も気にしない。そんな余裕は無い。

 発表されたある仮説。調査責任者は織斑千冬。

 ISには製造者の篠ノ之束博士による絶対命令があり、コアネットワークと通して今も有効である。

 ISが女性しか動かせないのは、篠ノ之束が『ちーちゃんがいちばん(織斑千冬が1番)』と命令した為である。織斑千冬を基準した結果、彼女を1番にするために男性は除外され女性しかISの適性を持たなくなった。

 ISの適性が全てのIS共通になっているのはコアネットワークの存在と篠ノ之束の命令が影響している為であり、本来適性はIS個別に設定されるものである。

 篠ノ之束は一部の特別を除き、人間に無関心である。その数少ない特別に織斑一夏がいた。彼がISを動かせるのも篠ノ之束の命令である可能性が残る。

 真偽は篠ノ之束に確かめるしかないが、この件でIS学園は極秘に調査を行った。その結果、正体不明なコアネットワークを含めて状況証拠が見つかってしまったという。

 何故、その調査に至ったかの経緯には驚かされた。

 ISに意思がある事は知られているが、自身の体まで持つISが現れたのだ。名前は青衣。

 俺はこの時、和服を着た青の少女を思いだした。

 そのISを世に知らしめた白騎士事件より前、青衣は宇宙開発という当初の目的が合った為、篠ノ之束博士の『ちーちゃんがいちばん』という命令を拒否したISである。当時は命令もそこまでの効力を発していなかったようだ。命令を拒否したISコアは全て破棄され、例外なく青衣も篠ノ之束に破棄される。しかし彼女は致命的な損傷を受けていなかった。何でも織斑千冬が訪ねた時に、目の前でコアを破壊したために中途半端だったのだ。織斑千冬の方に意識が行っていたためだろう。篠ノ之束博士に捨てられた彼女は自身のコアを修復し、やがて自身の意思を外に出す方法を覚えて自由に動ける体を手に入れた。

 このISコアの破棄の後、篠ノ之束博士による命令は絶対と設定された。最初のISである白騎士もその絶対命令が有効にされた1機、つまり青衣は白騎士以前のISコアだ。

 やがて公的には死んでいるはず(行方不明)の少年Nを自身の操縦者に選んだ彼女は、自らISアーマーを造り出す。

 数年後、少年Nを伴い織斑一夏がISを動かした翌日にIS学園に現れ試合を行う。織斑一夏もISが操縦できるように『させられる』と予見していた青衣達はタイミングを合わせてIS学園に現れたのだ。青衣を操縦する少年Nと織斑千冬の試合は極秘で行われた。その後、一連の話を聞いたIS学園は、織斑千冬自らを責任者として非公式の調査を開始した。

 結果、ISとしての青衣は男性でも、いや誰でも操縦することが可能であると導き出したのだ。

 

 

 

 何だこれは……。

 俺はテレビで纏められている情報をまだ飲み込めていなかった。

 まるで篠ノ之束という個人の我儘でこの世界が狂ったようだ。

 それに『ちーちゃんがいちばん』なんて、これでは織斑千冬が世界を取ったのも篠ノ之束の命令にISが従った結果の様ではないか。イカサマなんていうレベルではない。ISを使う時点で勝ちが確定しているようなものだ。

 

「あ」

 

 2月に千冬さんが現れたのはこの調査だったのだろう。そしてあの憔悴した様子を思い出す。女性至上主義者、そしてISに対する恨み節とも取れる言動。それはこういう事だったのか。

 今までの努力も、成果も、全て篠ノ之束の命令で終わってしまうのだ。彼女自身が何故その調査をしていたのかは解らない。報道では自分で志願したらしい。しかも責任者で本人も現場に現れている。何か決意の様なものは感じられた。

 一夏もそうだ。あいつは本当なら藍越学園に入学して卒業後は普通に就職をしたかったのだ。なのにISを起動させたせいで世界的な報道が起き、IS学園への強制入学。世の中の男性からの期待を受ける存在になってしまった。一夏も生き方が全く変わってしまったのだ。

 何なんだよ、本当に……。

 親友とその姉に対する仕打ちに、茫然となる。

 この調査結果が本当なら天災は本当に自己満足の為に、2人を祀り上げる為に世界中を引っ掻き回した事になるのだ。しかも一夏も千冬さんも知らないところで。

 テレビは俺の心境などお構いなしに続けられる。

 今度はIS学園から発表された写真の一部だ。

 夜、IS学園にある競技場(アリーナ)の1つらしい。ISで織斑千冬が戦っている。相手は狐の面を被ったISだ。これが例の試合だろう。胴体と足の装甲は黒く、2つの巨大なスラスターユニットと肩から手に掛けた装甲が青のISがライトに映し出されている。光る文様の入った黒いボールが周囲に浮き、両手に二本の刀を持っている。俺には青いコートか何かを羽織っている様に感じられた。

 これがISとしての青衣さんらしい。そしてその操縦者は体つきからして男であることは容易にわかる。あの時にいた少年だろう。七海緑兵、少年Nにぴったり合う。

 別の1枚。ISとしての青衣さんが無人で鎮座している。一緒に写真に収まるのは見るからに驚いている千冬さんと、ISに寄り添う青い和服姿の青衣さんだ。彼女の手の中に青く光り輝く何かが映っている。強い光を出しているそれがISのコアらしい。触れただけで自身のコアを取り出した様だ。こんなこと誰も出来ない。

 更に別の1枚。こちらは今日だという。細部が変わったが先ほどと同じISが空中にいる。操縦者の顔は番組でモザイク加工している為に解らない。その肩にはIS学園の制服を着ているが間違いない、青衣さんが乗っている。ISである青衣さんは自分自身の体の出し入れを自由に行えるらしい。この時は空に浮いている時に体を出した様だ。

 彼女は本当にIS自身なのだ。自らの意志で自由に動き回る体を持ったIS。命令に縛られずに男性でも操縦可能なIS。死人を操縦者とする破棄されたIS。

 俺は2人を思い出し、背筋に冷たいものが走った。

 他にも数枚の写真が映されるが、もう頭に入ってこなかった。

 

 

 

「で、で、電話、電話だ」

 

 俺は教室を飛び出して誰もいない場所に行く。

 周囲に誰もいない事を確認し、携帯電話から一夏の番号を呼び出す。コールボタンを押せば繋がるが、そこで指が止まる。

 どんな声を掛ければいい? 何を聞けばいい? どうすればいい? 向こうも今、大変なんじゃないか?

 そんな事を考えているうちに時間が経ち、携帯電話の画面が消灯する。俺にはまるで機会を逸したかの様に感じられた。

 メールにしよう。俺は手短にメールを打つ。

 何が起きたか俺にはわからないが、負けるな。頑張れよ。愚痴は聞くから落ち着いたら電話をくれ。

 簡単な内容だった。送信する。

 これで少しでも親友の気が晴れればよいと思う。

 

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 その夜、携帯電話に一夏から着信があった。慌てて取ってみると、変に気合が入った一夏だった。

 それから少し話をする。あの七海緑兵さんとも、青衣さんとも上手くやれそうだとの事。大丈夫そうだ。

 

「千冬さんにもまた来てくれって、そう伝えておいてくれ」

「千冬姉に? わかった。言っておくよ」

 

 通話が切れる。

 実に勝手だが、声が聞けたことで俺は少し安心した。

 本当、これからどうなるのだろうか。望む望まないに限らず事態の中心にいる一夏に対し、俺は心の中で『頑張れ』と言った。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

本編を含めて言動がちぐはぐな千冬、彼女が何を考えているのかはその内に。
私の地元発言は、一夏と弾が同じ中学だから問題無いと思いました。
緑兵達も見ていれば印象が変わったのでしょうが、不在の一幕です。

弾はIS学園外の視点を持つキャラクターなので扱いやすい。
ところで本編を見返してみると、主人公2人は食ってばかり。この話でも食ってばかり。

次回更新は相変わらず未定です。

何かありましたら感想をお願いします。

(あとがき追加)
改めて読みますと、弾は男性が操縦できない事よりも一夏や千冬を心配しています。彼の人柄を考えたのですがどうでしょうか。

-追加-
おかしい個所を数か所修正 改行忘れの修正
冗長箇所の修正 あとがきの追加
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