幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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XX_クラスメイトの目線

 クラス代表戦の日。

 私、相川清香の一生の中でこれ以上の衝撃を受ける日は無いと思う一日になった。

 私はクラスメイトと共に我が1組代表の織斑君と2組の凰さんの試合を観戦をしていた。だがアリーナを破壊して謎のISが乱入する。アリーナから脱出も出来ず、観客席はパニック状態だった。

 織斑君と凰さんは謎のISと戦うが倒せない。そこに織斑先生の声がスピーカーから響いた。

 

『織斑と鳳は回避に専念しろ!!

 七海、聞こえるか!! 襲撃者を倒せ!!』

 

 え? 誰? 七海?

 でもそんな思考はすぐ終わる。襲撃をしたISの右腕が飛んだのだ。次に左腕が切り落とされる。

 気が付いたら、ステージ上に新たな謎のISが現れていた。まず目に入ったのは狐の面だ。その黒い体に青の装甲と2つの巨大なスラスターユニットを付けたIS。その狐の面を付けたISは襲撃したISを蹴り飛ばす。

 観客席では悲鳴が上がるが、私は妙に冷静だった。後で思うと半分現実逃避をしていたのかもしれない。

 私には目の前の光景が信じらせなかった。ISは必ず誰か乗っているものだ。だが、腕を失ったISからは血も出ていないし痛がる様子も無い。両腕を失ったISは狐のIS目掛けて突進するが、今度は首を切り落とした。

 再び悲鳴が上がるが、狐のISは気にも留めていない。

 

『やっぱり人が乗って無いな』

『そうですね。血が出ませんでしたし』

 

 響く男女の声。2人? そこで私は狐のISに違和感を覚えた。だがその理由がはっきりしない。

 狐のISに対して織斑先生がピットへ行くよう指示するが、終わっていないと拒否し上空へ飛んだ。そして空中へ花火の様な弾丸やレーザーを撒き散らす。攻撃というより連続で花火を打ち上げた様な、今までに見たことが無い攻撃、いいえ、弾幕だった。

 

「綺麗……」

 

 私は場違いなことを思わず口に出していた。

 だが、その射線上は先ほど乱入したISが現れる。

 狐のISはもう1体いることに気が付いていたの!! 誰も、IS学園すら気が付いていなかったのに!!

 再度アリーナの所々で声が上がった。そのまま先の機体と同じISを圧倒したまま倒す。最後、ステージに落下するのを唯、茫然と見ていた。

 私も唖然とした。皆も同じだ。今度は誰も何も言葉を発しない。

 アリーナのディスプレイには、上空にいる狐のISが映っている。あのISは織斑君と鳳さんが2人で倒せなかった相手から一撃も喰らうことなく、まるで作業をするようにあっさりと倒してしまった。織斑先生からの呼びかけに応じて現れた、それは間違いない。でもあんなISは見たことが無い。

 ディスプレイに映るそのISは狐の面を消した。操縦していた人物が映し出される。

 少年だった。私と同じ年くらいの男性。

 あちこちで驚愕の声が上がった。悲鳴、絶叫ともいうべきものだ。私は驚き過ぎて、声が出せなかった。

 先ほど感じた違和感の正体は体格だ!! あの体格は男性だ!! 織斑君を見ていたので気が付くのが遅れたのだ。

 何故ISを男性が操縦しているの!? 織斑君以外は動かせないんじゃないの!?

 

『織斑先生、終わりました』

『仕事が早いな。お前はピットへ行け。回収は此方で行う』

『了解』

 

 そんな謎の少年と織斑先生とのやりとり。それに仕事が早いって? 呼んだの織斑先生よね? でも織斑君以外の男性?

 事務的とも感じられたが、何故、織斑先生は織斑君ではない男性操縦者とごく自然にやり取りをしているのか。

 頭の中がぐるぐる回っていた。いや、私を含めたアリーナにいる皆が困惑と混乱の真っ只中に居た。

 そんな彼が指示通りピットに行こうとした時に凰さんが突っかかる。そして女の子が現れた。歳は私達と同じ位、青く長い髪と青い目を持った人形のように整った容姿の女の子だ。IS学園の制服を着て、髪は風にそよいでいる。問題は現れた場所だ。空に浮かぶ狐のIS、その肩の上に足を投げ出して座っている。

 一種、幻想的ともいえる光景に、再び驚きの声が上がった。

 二人の自己紹介が始まる。

 男の子の方は七海緑兵、1年1組で生徒会の書記。

 同じクラス!! それに生徒会!!

 思わず生徒会に所属している本音を見る。私だけでなく他の子の視線を集まっていた。本音は首をぶんぶん横に振っている。本音自身も驚いている。また1月程度の付き合いしかないが、こんな顔は初めて見た。多分本当に彼を知らない。

 だが、女の子の方がもっと衝撃的だった。

 彼女の名前は青衣、七海青衣。彼の専用機……専用機!!

 あの女の子はISの意思!! 別の体を持ったIS!! 確かに参考書にISは意思を持つって書かれ授業でも教わったけど、実際に現れるものなの!?

 そして極め付け、『白騎士以前に製造されたISコア』に『女しか乗れないように命令され、ナンバリングしたものとは違います』の言葉。耳に言葉は入るが頭は真っ白。

 

 ナニヲイッテルンダ?

 

 頭がくらくらし、私は意識を手放しかけた。

 青衣という少女が消えた後に始まった、七海緑兵と名乗った彼と織斑君・鳳さんの戦い。直ぐに決着が付いて彼はピットに向かった。

 私が、いいえ学園生徒の大半が初めて見た七海君と青衣さんの姿だった。

 

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 アリーナには織斑先生からの放送が入る。自分のクラスに速やかに戻るよう通達され、私達も戻ろうとしていたが出口が混んでいたので少し待つことにした。

 皆、少なからず衝撃があったようで少しぼんやりし、目が虚ろになっている者が多い。

 

「相川さん?」

「何?」

 

 アリーナから教室へ向かう道。2組の子から声を掛けられる。この子も同じ表情だ。

 

「1組よね。あの……さっきの七海っていう男、見たことある?」

「無いわよ。皆もそうだと思う」

 

 周りを見るが、他のクラスメイトも皆頷いている。

 

「生徒会は」

「知らない知らない。ホントに知らない」

 

 本音はだぶだぶの袖をぶんぶん振って、必死に否定している。

 

「本当に何者なのよ……」

 

 茫然としたように、立ちすくむ。

 

「少なくとも織斑先生は知っているのよね。学園側の指示で現れたのは間違いないわ」

「同じ男性の織斑君も知らなかったと思う。あの感じだと知っているの先生達だけ?」

「後は生徒会長?」

 

 近くにいる癒子とかなりんだ。静寐(鷹月)は何か考えている。

 

「彼の事より青衣だっけ? 専用機を名乗った娘が言った内容よ。

 ISは女しか乗れないように命令している、つまり制限が掛かっているだけって」

 

 それが本当ならISに関する前提条件が引っくり返ってしまう。

 

「嘘に決まってるじゃない!! そんなの……」

 

 2組の子は大声で否定したが、最後は弱くなる。こちらに視線が集まった。

 

「じゃあ、何で織斑先生は何も言わなかったのよ。それにどう見ても男だったじゃない」

「青衣って子もそうよ。ISに意識があるのは確かに習ったわ!! でも現れる何て聞いたことが無いわよ!!」

「……ねえ」

 

 ずっと何かを考え込んでいた静寐が声を出す。私は其方に顔を向けた。

 

「よく考えてみれば、ISに意識があるって何で判明したの? 言葉だけじゃ教科書や参考書に載るわけ無いよね?」

 

 確かに静寐の言う通りだ。単にそんな気がしましたでは、載るわけがない。

 だとすると、それは……。

 

「他にもいるってこと? いいえ、ISってそういうものなの!?」

「だから……制限を掛けた? まさか!!」

「コアって篠ノ之博士以外造れなくて、解析も出来ないのよね!? 世界中誰も出来ないのよね!? ISって何なのよ!!」

 

 別の誰かだ。それは今、私が想像したことでもある。

 混乱は感染する。幾人かは私が冷静になる位に取り乱しているのだ。

 

「ちょっと、落ち着きましょうよ」

 

 流石に熱くなりすぎているので、宥めようとする。皆、混乱しているのだ。

 

「とにかく!!」

 

 今度は大声を張り上げた。今度は全員が黙る。

 

「あの2人に対する説明位はあると思う。教室でそれを待ちましょう。だって考えても訳がわからないし」

 

 荒い呼吸音が響いた。中には深呼吸をする者もいる。

 

「そ、そうね。それしかないわ。うん。邪魔したわ」

 

 2組の子は少し落ち着いたが、まだぎこちない様子で出口に向かう。それを見送った後にため息が出た。

 偉そうなことを言ったが私も同じなのだ。あの子が取り乱さなければ私がそうなっていたかも。

 

「清香」

「うん?」

 

 癒子が声をかけてくる。近くにいたクラスメイトは一ヶ所に集まっている。

 

「私達も行きましょうか」

「そうね、空いてきたし行きましょうか」

 

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 だが、教室で私達は解決どころかISの常識が丸ごと引っくり返る出来事が待っていた。七海緑兵君と七海青衣さんの話、そしてIS学園として作成された公式資料の写しも配布される。

 その内容に私は凍り付いた。

 

『私に合わせ、束が命令した内容が原因らしいな』

 

 調査責任者でもあり、渡された資料を作成した織斑先生の口調は淡々としている。だが内心はわからない。資料の見方によっては自分自身を貶める内容なのだ。

 だって『ちーちゃんがいちばん』何て命令、これが本当なら『ブリュンヒルデ』の称号ですら篠ノ之束博士が予め用意していたことになる。だが、世界最高の適性Sは織斑先生を含めて世界に数人しかいないのも事実だ。

 

『女性しか動かせない理由は間違いないと思いますが。私はそれに反して破棄されましたし』

 

 確かに青衣さんの証言通りならそうなるだろう。ISのコアを篠ノ之束博士しか作れないのは常識だ。ISである事は織斑先生が確認したと言うし、青衣さんは篠ノ之束博士の命令に反しなければ破棄されることもなく、普通のISコアとして世に出ていたはずなのだ。辻褄が合ってしまう。そして嘘をつく必要性も全く感じられないし、ISに偽装する何てどうやれと言うのだ。

 IS学園への入学はISに対する適性も大きく関係する。学力はあっても適性によって入学できない娘もいたと思う。

 世の中の男性は乗れないため、ISに載れる女性から下に見られてしまった。法律すらできて、世の中は大きく変わった。女性と男性ではまるで昔の身分制度の再現だ。

 篠ノ之束博士を良く知る織斑先生、篠ノ之さん(箒)、織斑君、そして青衣さんが彼女の人格を証言する。一部の例外を除いて全ての人を無価値とするとらしい。篠ノ之束博士がそんな人物ならやりなねないし、他の人への影響を何とも思わないだろう。

 世界中で起きた社会の変化、その全てが篠ノ之束博士の単なる我儘なら……。

 理不尽。

 ぞくりと、悪寒が走る。

 私は篠ノ之束博士が何故『天災』と呼ばれているのか、理由の一端を理解した。

 

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「では明日」

 

 寮の前で七海君と手を振る青衣さんは消えた。例の空間転移とかいうものだろう。恥ずかしい位にぶんぶん手を振っていた本音も止まる。

 配布されたプリントには天地が引っくり返る位に驚いた。

 上級生5人どころかクラス中を震え上がらせて、本能が危険信号を出して体が動かなくなるような体験も、5人纏めて一方的に倒してしまうような試合もあった。だが、皆と学園内の案内をすれば彼らは年相応である。少し好戦的な言動も怒らせなければ許容範囲だろう。その一方でアリーナや食堂、今寮の前で見せた空間転移という非常識極まる行動、いや技能か?

 食堂では本音や癒子の合わせて空間転移する時に乗せてくれと言ったが、実は半分混乱していたのだ。本人が自分で異常と言ってたけどさ、訓練ってことは他に出来る人いるのかな。

 

「何かさ、ものすごい人が来ちゃったね」

 

 癒子だ。皆でうんうん頷く。

 

「空間転移?」

「超能力者?」

「テレポーター?」

 

 私も乗っかって言う。

 

「その上七海君の素性も」

「行方不明になった後、戸籍上は死んでいるってね……」

「青衣さんは体を持ったISだと言うし」

「お化けが幽霊を乗っけてきた……」

「ホラーにはまだ早いわよ」

「ならサスペンス?」

 

 織斑君という男性操縦者が見つかった事といい、七海君と青衣さんの件といい今年は何かある。私はその中心ともいえる場所にいるのだ。

 まあ、この日はいろいろあり過ぎたが。

 

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 彼らが来て2日目になった。報道は今朝も七海君と青衣さんの事一色だった。当たり前か。

 始業前、癒子と教室へ向かおうと廊下を歩いていたら叫び声が聞こえた。

 通行人の視線は1年1組の教室に集まっている。私たちのクラスで何が起きたのか、2人で走って教室へ入る。まず目に入ったのは尻餅をついたかなりんだった。他にも何人か驚いた表情で固まっている。四十院さんが真っ青な顔をして震える指をさし、その先には制服姿でカバンを持った七海君と青衣さんが困った顔で立っていた。

 

「おはよう」

「おはようございます」

「お、おはよう」

 

 七海君と青衣さんが私達に気が付き、挨拶をして来る。思わずどもってしまったが返す。

 その後、一番近い四十院さんに何が起きたのかを聞く。

 

「何? 何があったの?」

「い、いい、いきなり……」

 

 目が泳いで、七海君をさしていた手はぐるぐる動いている。

 

「昨日、アリーナで見たと思うんだけどな」

 

 返ってくる七海君の声。ああ、空間転移だったっけ。

 

「ああ、あれね。驚くわよ、普通」

「そうね」

 

 私と癒子は食堂で話を聞いていたし、もう何回か見てしまった。嘆息はするが、それだけである。

 

「ええ!! 何でそんな反応が薄いの?」

 

 軽く返した私たちの反応に驚いた四十院さんがこちらを見る。

 

「昨日、見ちゃったから」

「……噂は聞いたけど、そういうものかしら」

「噂?」

 

 私が聞くと四十院さんは頷く。

 

「超能力者とかテレポーターとか」

「ああ……」

 

 確かにそんな噂が立っても不思議はない。

 

「そんな噂が立っているのか」

「まあ、似た様なものですから」

 

 七海君と青衣さんが聞いていた様だ。

 

「そこまで騒ぐほどでも無いだろ」

 

 ふうっと、彼は軽いため息の様なものをつく。

 十分騒ぐに値すると思いますが。

 

「私たちはそうですけどね。此方ではそうはいきませんよ」

「そうだったな。どうも慣れないね。青衣、明日から通学どうする?」

「一度誰もいない場所に飛びませんか? 面倒ですけど、騒ぎが起きるよりはいいでしょう」

「そうするか……」

 

 そういうと、彼は一番後ろの窓側に追加された席に向かう。椅子は2つ用意されていた。

 

「これって青衣の分か?」

「そのようですね。いちいちこの体を消さなくて済みます」

「学園も嬉しい事してくれるね」

「はい!!」

 

 ものすごく喜んでいる青衣さんと同意する七海君。もう2人の会話は異次元である。これからの事を考えると少々不安が残った。

 

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 教壇にいる織斑先生が大きくため息を付いた。そして注意する。

 

「青衣、授業中は飛ぶな」

 

 だが意味が解らず、青衣さんの席の方を向く。私の席は一番前なので必然的に後ろだ。

 目が点になる。

 なんというか、青衣さんが正座の格好で浮いていた。七海君の頭上にぷかぷかと、逆さまで。スカートはしっかりと抑え、ゆっくり回転している。長い髪が七海君にかかり、彼は鬱陶しそうにしていた。

 クラスで軽いざわめきが起きる。

 

「ほれみろ。やっぱり落ち着きが無いってさ。後、髪は纏めようか」

 

 七海君は頭上の青衣さんを見上げて言うが、そういう事なのだろうか。

 

「そうですね、すみません」

 

 くるっとその場で1回転して、彼女が止まる。でも浮いたままだ。髪から解放された七海君は正面を見直す。

 

「青衣さん、授業中に飛ぶのはやめてくださいね」

 

 山田先生からの注意だ。ちょっと寂しそうな顔をして今度こそ彼女は自分の席に降りた。

 

「宙に浮いている事は何も言わないのですか?」

 

 篠ノ之さんだ。当たり前の指摘で、何人か同意するように頷いている。私もその一人だ。

 それに対して織斑先生はため息を付き、山田先生は軽く笑う。

 

「普通はそうですよね。でも慣れました」

 

 山田先生のその一言に全てが集約されていた。

 異常も異常と思わなくなってしまう。慣れって怖い。

 

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 その授業が何コマか終わった後、彼らの席を見てみる。机に突っ伏した七海君は動かない。頭から湯気が出ているみたいだ。代わりに隣に座っていた青衣さんは心配そうにしている。

 最前列で通路に近い私の席とは真逆だが、思い切って話しかけてみた。

 

「あの、七海君と青衣さん?」

「はい?」

 

 青衣さんが此方を振り向くが、七海君は全く動かない。

 

「えっと、解らない所とか無い?」

「ここを教えてください。意味が解りません」

 

 起き上がった彼は必死である。簡単なことだったので、直ぐに終わる

 

「そういうことか……」

 

 七海君は納得した様だ。ノートを見て安堵している。

 

「……ねえ」

「ん?」

 

 彼が私の顔を見る。

 

「報道されている事、本当?」

 

 クラス中の音が一斉に止む。両親の事件にも驚いたが、彼はずっと行方不明だった。だから戸籍上も死亡している。あの報道が事実なら彼は小学校の2年から通っておらず、授業も受けていないことになる。

 

「事実」

 

 彼は一言だけ答えた。

 

「でも小学校2年生以上の事もある程度理解しているよね?」

 

 とても聞き難い事だ。でも明らかに彼は小学校2年生以上の事を理解している。

 

「学園長自らの入学プレゼントだよ。参考書やドリルを渡された」

 

 彼は軽く笑う。だが影がある。

 

「あの時、焦ってましたよね?」

「当たり前だ。2月の頭に小学校2年生から中学校3年生までの内容をやれって纏めて渡されたんだぞ? 段ボール1箱分に加えて例の電話帳みたいな参考書もあったし」

 

 青衣さんに対する軽口だ。

 

「そ、それどうやったの?」

 

 量はとんでもなく多いはずだ。

 

「生徒会の虚さん、のほほんさんのお姉さんに内容と覚える範囲を削って貰って、それを必死で詰め込んだ」

「それに調査と訓練もありましたからね、大変でしたよ」

「お前が馬鹿じゃ困るって言うから、止めが入ったんだろう」

「それ抜きで半分決まっていたじゃないですか。事実ですし。私一人が反対したところで、ねえ?」

 

 つまり勉強と訓練、その上に例の調査まで行っていたのか、彼は。

 

「た、大変だったわね」

 

 私は半笑いになっているが、しょうがないだろう。その時期、私は参考書が出されていたとはいえIS学園に合格した嬉しさ、そして春休みを満喫していたのだ。

 

「自分で言うのも何だけど、しんどかった」

「睡眠時間、何時間でしたっけ?」

「頭の回転が鈍るから最低限の仮眠程度はしたけど、徹夜も辞さなかったからな」

「そうでしたね。疲労回復のご飯を作りましたっけ」

「お前は甘い味付けと言っていたけど、俺は飯の味すらわからない時があったぞ。睡眠不足が一番の敵だった気がする」

 

 とにかく大変だったらしい。

 

「ま、まあ、解らなかったら聞いてね」

「本気で頼むことが増えると思うから、その時はよろしく」

「わかったわ」

 

 彼は結構真面目なのか?

 

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 お昼。彼らも食堂に行く。専用機持ちと篠ノ之さんも近くにいたが、七海君達は犬に蹴られたくない言って少し離れていた。

 私は七海君や青衣さんと同じテーブルに着く。静寐もそうだが、気になったことを聞いてみるとある程度は答えてくれる。でも言えない事は言えないという。

 

「けちー」

「そう言われてもなぁ」

 

 七海君は困った顔をしている。彼は真面目なのだ。青衣さんとおかずの交換とか、腹立たしい事をしなければだが。

 次の瞬間、七海君と青衣さんは一瞬固まり周辺をきょろきょろする。

 おかず交換を見た食堂にいる者の大半が何かを出したのだろう。多分、その中に私も含まれる。

 よし、割と敏感も追加だ。

 

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 ISの授業になれば彼も専用機持ちとなる。状況は一変した。

 山田先生が傍らについていたのは教えるのが初めてだかららしい。でも後になれば必要だったのか疑問すら残った。山田先生を交えてとはいえ、彼の指摘はビシバシ当たる。その解決策も出て来るのだ。

 最初は本人や山田先生も交えて相談していたが、後半になってくるとそんな必要がなかった。

 

「ISに乗ると目線が高くなるからな。単に腰が引けている。それと足開くから歩きにくい。でも今は下を見るな。こけたら支えるから、まっすぐ前を見て歩けばいい。直ぐに慣れるから」

 

 歩行が苦手の彼女はあっさり解消された。

 

「スラスターの位置にイメージとのずれがあるな。別の人に交代して、スラスターの位置を再確認しようか」

 

 その後、彼女はまっすぐ飛ぶようになった。

 

「やる気があるのは良いけどさ、ちょっと焦ってるね。まず落ち着け。練習なんだから2・3回深呼吸してから始めたら?」

 

 スタートでつまずく彼女もそれだけで解消された。

 なぜ彼はこんなに欠点がわかるのだろう。山田先生がぽかんとしていた。

 

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 彼らが来て少し経った。何か実際の時間と体感時間にずれがあるような気がする。何か濃すぎてほんの1日や2日だと思えないのだ。

 彼の空間転移や青衣さんが時々空を飛んだりと驚かされたが、いい加減慣れた。最早突っ込むのが疲れたともいう。

 そういう点を除けば七海君の普段の言動は割とどこにでも居そうな人。反面、青衣さんは飄々とした人、じゃないIS。少し好戦的だが怒らせたり、此方から仕掛けたりしなければ許容範囲だろう。その攻撃性も何もしなければ何もしてこないのだ。

 寧ろわからないことが合ったら話せる範囲で話してくれる。逆に質問されることもあるが、知ったかぶりよりは断然良いだろう。

 また、彼らは意見の対立があってもまずは会話を選ぶタイプだ。余程のことが無ければ暴力に訴えることも無いだろう。ISで生身の人を攻撃したり、木刀で叩く人に比べれば常識的な面も持ち合わせている。時々、変な所でずれるけど。

 

 

 

 お風呂の時間。大浴場。今日は本音や静寐と一緒に入りに行った。髪や体を洗った後、入ろうとした浴槽内に青く長い髪をタオルで上げた青衣さんがいた。

 何か軽く目を瞑って蕩けている。見た目では幸せそうに湯船につかっている普通の女の子だ。こうしてみると本当にISなのだろうか?

 

「おや、のほほんさん、相川さん、鷹月さん。こんばんは」

 

 声を掛けようと近づいたら彼女はぱちりと目を開け、声を掛けてきた。

 

「こんばんは。七海君は?」

 

 皆でお湯に浸かりながら聞いてみる。彼とセットという印象しかないのだ。

 

「部屋のシャワーですよ。此処は女湯ですから入れません。迎えに来るように言っておいたので、そろそろ外にいるかもしれませんけどね」

 

 当たり前ね。此処にいるわけ無いか。

 

「離れられないんじゃ……」

「本体、持って来ていますから」

 

 彼女は自分の首に付けた青い鎖を軽く持ち上げる。

 自分で待機形態を持っていれば自由に動き回れるのか。そんな事を言っていたかもしれないけど忘れていた。

 何か、自己紹介の時の七海君と同じ仕草に見えたのは気のせいか?

 

「今日から寮生活です。よろしく~」

「こちらこそ」

「よろしく~」

 

 それにしても……。

 

「肌、綺麗よね」

「更識会長と同じこと言いますね~」

 

 女の子の気になる事は同じらしい。

 

「ねえ、操縦者とはいえ男と同じ部屋で危なくないの? 裸を見られるとか」

 

 静寐が聞く。私も同じことを思っていた。

 

「裸を見られるなんて、いつもの事ですよ」

「「「ええ!!」」」

 

 思わず叫ぶ。真面目そうにして覗くのか?

 

「でも恥ずかしいんですかね。風呂から裸で出て来るなって言うんですよ」

 

 ああ、自分から見せているのか。びっくりした。ってそれもそれでどうかと思う。

 

「小さいときは一緒にお風呂に入ったりもしたのに、全くいつからこうなったんでしょうか……」

 

 少し寂しそうに言う。

 

「マンネリですかねぇ」

 

 知らないよ、そんな事。本当にマイペースな青衣さん。まるで横にいる本音だ。その本音も幸せそうな表情で蕩けている。

 その後10分くらい会話は進む。

 

「そろそろ緑兵も待ちくたびれるかもしれませんね。私、そろそろ出ます」

 

 そう言うと、青衣さんはゆっくりと立ち上がる。悪戯したかったんだが、次回に持ち越しか。

 

「ああ、うん」

「では」

 

 そして彼女は浴槽から出ると浴室の隅に向かう。不審な動きと言えば不審なので思わず目が向く。静寐や本音も同じだ。

 彼女は絞ったタオル、髪を抑えていたタオル、待機形態である鎖を近くの桶に入れるとその場から消えた。人を模した多くの水適が残る。その水はその場に落ちて音が響いた。

 え?

 唯でさえ彼女は目立つのだ。更にこの怪現象。彼女が消えた箇所に視線が集中する。周囲もまるで時間が止まったように固まっている。

 再び青衣さんがその場に出現した。体に付いた水滴が無い。髪もすっかり乾いている。

 ぽかんとしている此方を見ることなく、彼女は本体とタオルを持つと浴室から出て行った。

 それはそうだ。体も髪も濡れていないもの。体を絞ったタオルで拭く必要なんて無い。

 

「そっか、体を出し直したんだ。頭良いね~」

 

 本音の声が響く。

 ああ、なるほど。そう思うと同時にやっぱり彼女はISなんだと納得をした。

 

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 静寐と本音と3人で浴室から出ると、青い着物を着た青衣さんが篠ノ之さん、オルコットさん、鳳さんと何やら話し込んでいた。

 青衣さんの目が冷たい。正直怖い。

 強いとか勝てるとか、そんな物騒な話の断片が聞こえた。

 悪いが私たちは巻き込まれたくはない。さっさと離れることにした。

 

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 七海君は青衣さんの言葉通り、大浴場の近くで青衣さんを待っていた。本を広げているが、多分読んでいない。

 何やら考え込んでいる彼に本音が話しかけて見れば、生徒会の仕事量についてだった。仕事が溜まっているから手伝ってと言う彼の言葉に本音は逃げた。

 本音は何の為に生徒会役員になったのだろう。

 

「風呂入った意味、あるのかね」

 

 確かにそうだ。風呂上がりだと言うのに、あの着ぐるみを着ている時点で疑問はあるけどね。

 そうそう、彼はからかい易い。青衣さんの裸について言うと思った以上に動揺した。まあ、女の子だらけの場所で過ごすのだ。来てたった数日で変態扱いは困るだろう。

 当然、青衣さんが体を消して、体に付いた水を取ったことを予想していた。

 青衣さんが篠ノ之さん達と話をしていたことを伝えると、彼は大浴場の出入り口が見える場所に移動、やがて青衣さんが篠ノ之さん達3人と出て来る。ぱたぱたと駆け寄ってきた青衣さんが一言。

 

「土曜日の午後、専用機持ち3人と試合することになりました」

「……」

「「「はあ?」」」

 

 さっきの話って試合を組んでいたの?

 

「放課後、訓練に来ないからよ」

 

 ししし、と軽く笑いながら鳳さんは言う。

 

「単に生徒会の仕事に追われていただけなんだが」

 

 彼の反論。確かにそれで本音に手伝うように言っていた。

 

「あら、専用機持ちなのに余裕ありますわね」

 

 今度は好戦的な笑みを浮かべるオルコットさん。後ろで篠ノ之さんが頷いている。

 

「……そっちも部活か何かをやっているんじゃないのか?」

 

 確かオルコットさんはテニス部、篠ノ之さんは剣道部だったはず。鳳さんはクラスが違うこともあって知らない。彼が生徒会で仕事をしていても余裕とか言えないだろう。それとも多分デスクワークだから言っているのか?

 

「それはそれ、これはこれ、ですわ」

 

 オルコットさん、便利な日本語を覚えたね。

 

「土曜日の午後だな。それで俺は3人纏めて? それとも個別か?」

 

 彼は事も無げにとんでもない事を言い出した。いや、すでに臨戦態勢に入っている。先ほどまでと雰囲気が全く違った。

 

「個別よ、1対1を3回ね」

 

 舐められている。そう感じたのか、鳳さんは犬歯をむき出しにした。

 

「アリーナの許可申請は?」

「此方で取るわ」

 

 鳳さんの返事に、頷く七海君。

 

「わかった、午後は空けておくから時間が決まったら教えてくれ」

「ええ、首を洗って待ってなさい」

「ああ、楽しみにしている」

 

 顔形が全く変わらないのに、軽く腕を組んだ彼は妙に余裕があるように感じられた。

 篠ノ之さん達3人は気合を入れながら帰っていった。篠ノ之さんは余り関係なさそうなんだけど。というか織斑君はこの事を知っているのか? 多分知らないだろうな。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

 私は流石に心配になり、七海君に声を掛ける。だが、彼はその意味が伝わっていない。逆に私を見て不思議そうな顔をする。

 

「専用機持ちの3連戦って大丈夫なの?」

「問題無し。寧ろ確認しておきたい位だ」

 

 あっさりとした彼の言葉に絶句する。

 

「じゃ、俺らは行くか」

「あ」

 

 思わず声が出る。彼と青衣さんが此方を向いている

 

「えっと、部屋ってどこ?」

「1028、一夏と同じ階だ。用事があったらそっちに来て」

「うん」

 

 そうして彼らを見送った。普段しっかり者の静寐が珍しく意地の悪い笑みを浮かべている。

 

「七海君の部屋を聞いて、どうするのかな~」

「私は第一印象で織斑君です」

 

 そもそも彼には青衣さんがいるだろう。ISだからノーカンか?

 

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 IS学園は土曜日も午前中は授業がある。その日の午後に試合が組まれた。

 私はクラスメイトの全員とアリーナに居た。クラスで織斑先生からも重要な用事の無い者は見るように言われている。それが無くても私は見るつもりだったが。

 今回は狐の面を外す様に言われたらしい。放送がわざわざ入った。

 彼は空間転移なんて常識外れなことを行う。入れ替わりを疑う人がいたからだろうか。

 さて、その3連戦。空中にいる彼は淡々としながらも時より表情を変える。完全な機械ではない。戦士、或いは侍。そんな言葉が頭を過ぎった。

 横にいる本音はぽかんとして、癒子とかなりんは観戦者になっている。静寐は何か空気が違う。

 イギリス代表候補生のオルコットさんに無傷で勝利。続く中国代表候補生の鳳さんに対してはシールドエネルギーを70%以上残しての完勝だった。やっぱり強い。

 鳳さんとの試合でシールドエネルギーが20%減った後に4つある丸いボール、オプションという物が1つ消えた時は驚いた。だが、その後『幻符・偽メガフレア』と言った後にステージで炸裂した赤い光弾には圧倒された。

 こんなのを隠し持っていたのか、というのが率直な感想だ。それと偽って何? 本物があるの?

 最後の織斑君との試合。彼は突っ込んで七海君からの弾幕を喰らい続ける。白式のシールドエネルギーが半分程になった後は、七海君はオプションを引っ込めて剣だけの戦いになった。だが七海君は躱しているだけでほとんど何もしない。最後は一太刀で終わった。

 七海君の勝利が宣言された後、ステージ上で彼は頭を抱え、負けたはずの織斑君は困惑していた。

 プライベートチャンネルで何か話している。会話が終わったのか、2人はそれぞれのピットへ戻って行った。

 

 

 

 その後、アリーナの方角から多分生徒会室に向かう彼と青衣さんを見かけた。七海君は少し落ち込んでいる様だったが、何かあったのだろうか。

 

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 日曜日、授業の無い休日だ。

 お昼過ぎ、七海君と青衣さんは共用の調理室にいた。私が気が付いたのはたまたま近くを通った時に人が多く居たからだ。学園内では食堂を使うものが多く、調理室を使う人は少ない。

 私は何があったのだろうかと覗いてみると、青衣さんと七海君が一心不乱に何かを作っていたのだ。かなりんもいたので近くに行く。

 青衣さんは料理が趣味、確かにそんな事を言っていた。もうISだからとかは無しだ。七海君はそれに付き合っているのだろう。本人も嫌いではなさそうだ。妙にエプロン姿が似合っているし、作業が手慣れている。

 ふとレシピを見てみるとクッキーやマフィンである。分量は多い。

 私は料理にそれほど興味があるわけではないのだが、結局最後まで見てしまった。味見と称してそのお菓子の一部を皆で食べたが中々おいしかった。隣にいるかなりんが黙々と食べ続けているのは初めて見た。気に入ったらしい。

 香ばしさと軽い甘みを舌で感じつつ、私は彼らを見た。満足げであるが青衣さんは何やら考えている。菓子職人にでもなる積りだろうか、彼女は。七海君はさっきまで菓子類が積んであったところに居たのだが、今はその菓子が無い。かなりの量があったはずだが、半分以上、いや殆どと言っても良い。そんな量がいつの間にか消えていた。どこに行ったのだろうか。食べたわけではあるまいな。

 私達が食べ終わると、彼らは片付けに入る。私とかなりんもそれを手伝った。

 

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 さてさて、意外と七海君も青衣さんもクラスで上手くやっている。

 やはり彼は学力面で劣っているのを自覚している。時々私達に聞きに来るが、私達もISについては彼から教えて貰っているのだ。そこはお互い様と割り切った。

 彼らは『女尊男卑』を何とかするために来たらしい。だからといって『男尊女卑』にしたいとも思っていない様だ。多分『男女平等』に落とし込むつもりだろう。

 確かに男と女にはわかり合えない点はあるだろうし、女尊男卑の中で育ってしまった私達の世代には彼らを変な目で見る者は多くいる。

 だが、彼らや織斑君を見ていると、なんというかいちいち気にするのが馬鹿らしくなる。

 ISが無い時代、男と女は上手くいっていたのではないか、そう思ってしまうのだった。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

ひとまずIS学園内外の第3者は終わり、次からは話を進める予定です。
主人公の行動は指針があるので書きやすいですが、それを傍から見ると……やってみないとわかりませんね。本気で戸惑いました。それと女性視点は難しいです。
ISヒロイン目線も考えてみたのですが一夏が絡むので中立には立てず、生徒会や教師目線だとそれもそれでどうか。
そんなわけで相川さんです。何故彼女なのかは、読み返してみて名前付きのモブでは毎回いた為です。

書き溜めが切れました。そしてペースを落とすつもりが落ちていない。次回は本当にペースを落とします。


今後もよろしくお願いします。

-追加-
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