幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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13_疑惑の転入生

 朝のSHRは転入生の自己紹介から始まった。

 名前はシャルル・デュノア、フランス代表候補生で男性操縦者。彼が教壇で自己紹介をすると黄色い歓声が沸いた。

 一見しての疑問。こいつ女じゃね?

 男性操縦者がいるから来たと言うが、だったらもう少し早くても良いはずだ。もう6月だぞ。

 胸は無い。だが体が丸みを帯びている。男ならもっと角ばっている。喉仏はわからんな。声も少し高く、背も低めだ。身長は俺が言えた事ではないか。

 後は髪。長い金髪を後ろで括っている。あれはリボンか? 趣味もあるだろうが、男で背中の中ほどまで伸ばすのは少数だろう。中性的ともいえるが、怪しい。

 デュノアという苗字も気になる。訓練機として置いてあるラファールの製造元がデュノア社、そしてフランスだったな。その会社の関係者か? こりゃ、怪しんでくれと言っているようなものだろう。

 横にいる青衣を見る。俺と同じだ。明らかに疑っている。

 俺の隣に机が追加されていた。間違いなく、追加された一番後ろで窓側から2番目が彼の席だろう。青衣の席は窓側に移したのであまり関係ない。

 SHRの最後に織斑先生から最初の授業、ISを第2グラウンドで行うので時間までに集合する様に伝えられる。

 

「織斑、七海。2人でデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう。

 それと七海」

 

 呼ばれた俺と織斑先生の目が合う。

 

「最悪の場合、今回は使っていい」

「直ぐに使うと思いますが」

「判断は任せる」

 

 互いに確かめ合うように、首肯する。そして俺は『空間を操る程度の能力』を発動させた。

 男専用の更衣室は無い。目的の場所近くにある、適当な場所を使う。今回の場合は第2グラウンドの近くで空いている更衣室だ。目当ての部屋が無人であると感覚で確認する。

 

「君が織斑君?」

 

 俺が織斑先生とそんなやりとりをしていると、そのデュノアは教壇前の席にいる一夏に話しかけていた。

 

「それは後にしよう。早く移動しないと不味い。こっちに来てくれ」

 

 きょとんとしているデュノアの手を引き一夏が此方に来る。クラスメイト達はきゃーきゃー言っているが、頭の中が腐ってんのか?

 一夏も織斑先生の言った意味を理解している。この後に何が起きるのか。

 引っ張られてきたデュノアは俺の前まで来ると、俺と青衣にもさわやかな笑顔を向ける。

 

「七海緑兵君と七海青衣さんだね。話は」

「悪いが後回しだ。それどころじゃなくなる」

「へ?」

 

 俺はシャルルの言葉を遮る。傍らにいる青衣と一夏も頷いた。やっぱりわかってないのはデュノアだけだ。

 

「あちらを見て貰えます?」

 

 青衣が人差し指を通路側に向けるとそこには既に人が集まっていた。黄色い声がデュノアに向けられている。

 早いな。こりゃあデュノアを連れて回ると騒動になる。間違いなく。

 だが当の本人は困惑していた。

 

「何でみんなが騒いでいるの?」

「男だからだよ」

「え?」

 

 一夏の指摘にきょろんとしている。まだわからないのか?

 

「だから、ISを動かせる男が珍しいわけ。それで集まっている」

「あ、うん。そうか」

 

 俺は一夏の言葉に少し付け足した。

 その愛想笑いに怪しさは倍増する。挙動不審だ。男性操縦者の自覚無し。

 

「おい、塞がれちまったぞ」

「えっと」

 

 言葉とは裏腹に少し嬉しそうな一夏とその様子に困惑するデュノア。

 

「手を出して」

「こう?」

 

 差し出されたデュノアの手を左手で、一夏の手を右手で握る。青衣は俺の背中にくっついている。それを感触で確認すると俺は目当ての更衣室の前に空間転移した。

 視界は一変し、足元に軽い衝撃が来る。人数が多いときは、万一の為に床から数センチ高めに転移するからだ。

 

「え? あ? ええ!?」

 

 デュノアは突然切り替わった世界に困惑し、きょろきょろしている。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 その一方で一夏は両手を掲げている。ここまで喜ばれると正直嬉しい。

 

「空間転移の感想は?」

「く? くう?」

 

 理解できないのか、俺を見て目を白黒させている。

 

「テレポートの方が通りが良いのでは?」

「テレポート!?」

 

 青衣の言葉にデュノアが素っ頓狂な声を出した。信じられないと言う顔だ。

 

「やっぱり凄えよ!! これは便利だ!!」

「嬉しいこと言ってくれるけど、今は着替えようか」

「……彼の噂は本当だったんだ」

 

 一夏に軽く返すと、更衣室をノックし少し開けてから中に声を出した。無人なのはわかっているけどね。万一が合ったら困るだろ? 覗き扱い何て御免だ。

 というか噂?

 

 

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 しかし、男女共用で更衣室を使うって不用心だな。無いと思うが、俺達が隠しカメラか何か仕込むとか思わないのかね? まあ俺は青衣がいるし、一夏は……無いな。

 今度、マグネットか何かで無人かどうか、或いは俺達男性陣が使っているか表示させるか?

 

「早くして下さいね」

「はいはい」

 

 俺は適当なロッカーを開け、さっさと着替える事にする。一夏とデュノアも同じ列だ。ばらける意味も無い。

 青衣は俺達が使うロッカーの裏にいる。とはいえ其方にもロッカーがあるが。前に一夏が『女子が見ている中、着替え難い』と言った為、少し離れることにしたのだ。

 俺はデュノアに聞くことにする。

 

「呼び方はデュノアで良いのか? あとフランスのデュノアってことは」

「うん、僕の父はデュノアの社長だよ。それとシャルルの方が良いな。あまりデュノアって言われなくてね」

 

 兵器屋さんですか。実家のことでシャルルには関係ないけどさ、良い印象は無いね、俺は。

 

「社長の息子か。気品みたいなのがあるとは思ったけどな。俺は一夏で」

「俺は七海でも緑兵でもどっちでもいいや。名字の方が言われ慣れているけどさ」

「うわ」

 

 俺が言い終わる頃にシャルルがうめく。思わず俺と一夏は彼を見る。一夏は上を脱いでいた。俺もだが。

 シャルルの顔が赤い。挙動不審だ。顔が赤いし目が泳いでいる。このシャルル、やっぱり女じゃないのか?

 

「どうした?」

「なんでもない……」

 

 言いながらも間違いなく意識をしている。

 その後も一夏のスーツに引っ掛かる発言、そして青衣がぶら下がっている発言によって、シャルルの顔がトマトの様に真っ赤になるのだった。

 また、彼は俺と一夏が着替えている間、どっかの隅で着替えたらしい。いつの間にかISスーツ姿で立っていた。胸が無い。ぺったんこだ。

 いつの間にかにISスーツの話になる。

 

「シャルルはデュノアの特注品なのか」

「うん」

 

 そりゃそうか。自社製品を使うわな。

 

「そういえば七海のスーツはどこで作っているの?」

「一夏と同じところで作ってもらった。前は唯の道着だったんだがな」

「そういえば千冬姉と戦っている試合はスーツじゃなかったな」

 

 シャルルの問いに答える。一夏がその答えに反応した。

 

「ああ。つーか着替えたんなら行かないか?」

「そうだな」

 

 俺達は更衣室を出て、第2グラウンドまで歩いていく。教室からの空間転移が効いたのか時間は少し余裕があった。

 

「なあ、シャルル」

「うん?」

「俺の噂って何?」

 

 俺は隣を歩くシャルルに質問する。さっきの呟きが気になったのだ。

 

「さっきのテレポートだよ。そんな馬鹿なと思っていたんだけどね」

「ああ、なるほど」

 

 確かにIS学園で見せているし、外に出るときや戻るときに使うこともある。噂が立っていても不思議はない。

 

「ねえ、青衣さんがISというのは本当なの?」

 

 今度はシャルルが俺の隣にいる青衣に話しかける。

 青衣はISなので着替える必要が無い。制服のままだ。ちなみに授業前の整列で俺は一番後ろに固定されている。だって制服姿の青衣が混じっていると雰囲気がおかしくなるだろう?

 

「皆さん、同じことを聞いてきますね。本当ですよ。授業でも見ると思います」

 

 あっさり認めたことで、シャルルは感嘆のため息を付いた。

 

「信じられないけど、そうなんだ。テレビや新聞、インターネットも2人の事で毎日大騒ぎだったよ。別の噂も立ったし」

「フランスもですか。それと、また噂ですか?」

 

 青衣が聞き返す。俺も気になった。一夏もシャルルを向く。

 

「青衣さんは男性にとっては天使だって」

「天使ですか?」

 

 天使ねぇ。青衣は不思議そうな顔をしている。妖怪なんだがな。ま、いいか。

 何か知り合いの不良天人と竜宮の使いを思い出したが、直ぐに消した。どうも方向性が似通う知り合いが浮かんでしまう。

 

「柄ではないですよ」

「世の男性にとっては正に天使だと思うけど。コアの研究も篠ノ之博士の持つ絶対命令について、裏付けを取ろうとする場所もあるみたいだよ」

「今までブラックボックスだったんですから、簡単にいくとは思えませんけどね」

「あはは、手厳しいね。確かに幾ら解析してもブラックボックスだけど、アプローチが変われば少しは変わると思うよ」

「うーん。それでも難しいと思います。

 織斑先生が引退したんだから、さっさとあの兎がコアをふざけた命令から解放すればいいだけの話です。私一人に言ってもどうにもなりません」

「そのコアを解放するという考えだけでも十分天使だよ」

 

 青衣を口説いている様にも見えるのだが、天然か? それとも男なのか?

 

 

 

 

 

 第2グラウンドで行われるISの授業。今日から実戦訓練で格闘や射撃も交えて行うようだ。そして織斑先生の指示で先に模擬戦が行われる。

 ねえ、専用機持ち以外は生身なんですが危険はないのでしょうか。

 案の定、山田先生がラファール・リヴァイヴで生徒の真っ只中に落下して、一夏がラッキースケベに合う。上から落ちてきた筈の山田先生の上に一夏が乗っていた。

 今、どうやったんだ? それに直接山田先生の体に触れてないか? 青衣を纏っておくべきだった。そうすれば何が起きたのかハイパーセンサーで把握できたのかもしれないのに。少し後悔する。

 嫉妬した鈴が生身の一夏を攻撃するが、投げられた双天牙月は山田先生が銃で撃ち落とす。彼女は自分が作った穴から顔を出していた。

 

「おお」

 

 俺は感嘆の声を出した。山田先生が元代表候補生というのも納得、技量が違う。

 上空ではオルコット、鈴相手に山田先生が模擬戦を始めた。山田先生はラファール・リヴァイヴで専用機2機を圧倒している。やっぱり凄い。

 そして織斑先生からシャルルにラファール・リヴァイヴについて講義するように指示が入った。

 彼の話を聞いていると知識は俺なんぞよりよっぽど豊富だ。何より解り易い。理解していなければ出来ない芸当だ。

 さて、上空で広げられている模擬戦だが、オルコットと鈴のコンビネーションが拙く山田先生に撃墜された。落下した地点で互いに互いを罵り合っている。

 その後は専用機持ちが教えることになる。シャルルの周りにも人は集まっていた。彼は女子の勢いに圧倒されている。何故自分の所に殺到して来たのか、理解すらしていない様子だ。というか女に混ざっても、彼に戸惑いが感じられない。

 そんな様子の生徒達に織斑先生から活が入る。勝手に番号順に振り分けられる前にさっさとグループ分けは終わった。

 俺は青衣を纏った後、自分のメンバーの挙動を確認しながら専用機を纏うシャルルを見る。彼の専用機はラファール・リヴァイヴを改造し、オレンジ色に変更したカスタム機だ。

 なぜか、彼は自身のメンバーをだっこしていた。他の人間を抱えているのに彼の挙動は安定している。変な癖も見当たら無い。

 今は教える側として軽く流しているだけだろう。空も飛んでいないし実際のところは手合せしないと解らないが、腕は悪くなさそうだ。この分だと代表候補生という肩書も、男性操縦者だからフランスが唾をつける為に任命した訳では無いだろう。

 ならばこその疑問、確実に腕は一夏より上だ。その一夏は専用機を与えられているので、他の生徒よりは成長が早い。

 男性操縦者のシャルルは、一夏より後になって見つかったと考えて良いだろう。

 彼は社長の息子と言っていたが、その筋で集中訓練でもしたのだろうか。それともシャルルは天才か。

 

「七海君?」

「ああ、悪い」

 

 メンバーの夜竹さんから声を掛けられた。彼女もラファール・リヴァイヴを操縦している。

 教えるはずなのに余所見をしていた。俺が悪い。

 

「デュノア君を見ていたの?」

「ああ、お手本みたいな挙動だなってね」

「……凄そう?」

 

 俺と同じく、彼女もシャルルを見る。

 

「多分な。これは全員に言っておくけど。シャルルの機体はラファールの改造機だ。挙動は見た方が良いと思うぞ」

「そうですね。私よりも訓練機に近い方が良いでしょう」

 

 俺が纏っているISとしての青衣からスピーカーが入る。やっぱり最初は騒いでいたのだが、もう皆も慣れたものだ。ふむふむ同意している。

 時々だが、シャルルも此方をちらちら確認している。やはり珍しいのだろう。

 そんなこんなで、ISの授業は終わった。

 また、制服に着替える時にシャルルはいなかった。疑惑は増した。

 

 

---------------------------------------

 

 

 昼休み、俺と青衣は生徒会室にいた。更識会長と虚さんも同じテーブルだ。

 誰かが入ってきては困るので、部屋に鍵も掛けている。

 何故集まっているのか、理由は簡単だ。授業の休み時間に『シャルルは怪しい』と2人にメールを送信したのだ。その後は更識会長からの返信があった、文面は『おごり?』で俺は『手作りです』と返した。

 囲むテーブルの上には『倉』から出したおかず類が湯気を立てている。他にも御飯をいれたおひつ、鍋に入った味噌汁、カブの漬物もある。以前に青衣と俺で作ったものを『倉』に保管していたものだ。『倉』の中は時間経過が無いので作り立てと同じ。食器も人数分出すと御飯と味噌汁をよそう。

 何故か虚さんが少しビビっていた。『倉』の見た目は不定形の真っ黒な空間だ。今までお菓子とか散々出していたのだが、今回は鍋とか皿、おひつ等を一斉に出現させたから『倉』の大きさが今までと違う。だからだと思う、多分。

 

「それで、話題のシャルル君は今どうしているの?」

 

 更識会長は自分の取り皿に置いた野菜の煮物をつつく。

 

「一夏達と食事するらしいですね。学園内を探しますか?」

 

 俺は味噌汁と一口飲み、質問の答えを返す。

 

「それはいいわ。ところで七海君と青衣ちゃんはシャルル君をどう見るの」

 

 食べながら、更識会長が更に聞く。

 

「社長の息子と言ってますが、言動を見ていると女性じゃないかと。

 それにISの操縦に慣れています。一夏より後に見つかったとは考え難いですね。デュノア社が特別な訓練を施した可能性もありますが、以前から乗っていたと考える方がしっくりします」

「私も同意見です。会長は何か気になる事が?」

 

 青衣が更識会長を促すと、彼女は頷いた。

 

「社長のご子息ならデュノア社として宣伝すると思うんだけど、そんな報道は全く無いわね。ここに入学してから広告塔にする予定かも知れないけど。虚」

「……そのデュノア社ですがあまり会社の状態が良くないようです」

 

 更識会長の後を虚さんが続ける。今まで鶏肉を味噌漬けにし、焼いたものを食べていた。間は飲み込んでいたからだ。

 

「欧州で統合防衛計画『イグニッション・プラン』というものがあり、次期主力機の選定するためトライアルが行われています。要はその計画で使う第3世代機の選考ですね。

 ですがフランスは今の所、第3世代機の発表がありません。もし開発出来ていないなら、経営も良くないかもしれません。経営危機という噂もあります」

「ちょっと待って下さい。ラファール・リヴァイヴってかなり売れたんですよね?」

 

 青衣が首を傾げる。俺も同じだ。ラファールは学園にも相当数ある。青衣の質問には更識会長が答えた。

 

「そうね、配備されている量産機では世界第3位よ。でもコアの数が少ないからどうしても機体自体が少ない。それでいてISの開発にはお金も時間も膨大に掛かるから、政府からの補助金頼りになる面があるの」

 

 俺の脳裏をオルコットのブルー・ティアーズがかすめる。欧州にあるイギリスの第3世代機だ。既に形になっている。

 

「そのトライアルに出せないと、デュノア社はどうなると思いますか?」

 

 俺が聞くと虚さんが答える。

 

「もし次のトライアルに出せないと、フランス政府の援助が受けれなくなる可能性があります。

 補助金も無くなるか減額、ISのコアも没収か減らされるでしょう。大きな利権が絡むしデュノア社以外でもISを作っています。寧ろフランスにあるデュノア社以外の企業は足を引っ張りたいでしょう」

「それを防ぐ為に、デュノア社は形振り構わず何かする可能性がある、というわけですか?」

 

 俺の問いに更識会長と虚さんが頷いた。

 

「それでね。学園長から面白い話が聞けたの」

「学園長から? というかそこまで話が大きくなっているんですか?」

 

 おいおい、単に気になるのが発端でしょう。

 

「だって男性操縦者よ。IS学園としても気になるでしょう? 調査位するわよ」

「……いっそ身体検査や身元調査をやって貰えばよかったのでは?」

「フランス相手にいきなり喧嘩売れないでしょうが」

 

 確かに。書類は正式な物だっただろうし。

 

「でもね、学園に提出された書類が妙なのよ」

 

 妙? 更識会長は真剣な面持ちになる。

 

「シャルル君の両親だけどね、父親はデュノア社長だけど母親は夫人の名前ではないのよ。ファミリーネームもデュノアではなかったわ」

 

 それって結婚していないけど認知はしたという事か? いいや、フランスで書類がどうなるか仕組みがわからんな。

 

「ご丁寧に欲しい情報は大抵提出された物に書かれていたから調べるのは簡単だった。妨害すらなかったわ。浮かび上がったのはシャルロットという女の子よ」

「……本決まりですか?」

 

 俺の問いに更識会長はばしっと音を立て扇子を開く。そこには『(多分)確定』と書いてあった。多分かよ。

 青衣の顔を見る。ちょっと疲労感が見えていた。俺も同じだろう。更識会長は扇子を閉じる。

 というかそれってさ、おかしくない?

 

「何でシャルロットでは駄目なんだ?」

 

 デュノア社はシャルロットをいう女性をシャルルという男性として送ってきたとする。

 報道されていない男性操縦者としておきながら、その一方で提出された書類の中身は怪しさ抜群にした。なら調査されることなど織り込み済み。その上で更識会長の話だとその書類にはシャルルを調査する上で欲しい情報は書いてあるという。

 シャルルを思い浮かべる。胸の無い女性もいるので外見上は完璧に女だ。本気で男に変装させるなら、まず髪を切って、最悪整形手術もある。言動も俺からすれば女に近いのだ。一人称が『僕』の女がいても不思議はないし、フランス人が日本語を間違って覚えた可能性も捨てられない。何せ一人称が多いから、日本語は。

 全てが中途半端なのだ。デュノア社はそんなシャルルをIS学園に送って何がしたいんだ?

 IS学園に入学させたいなら普通に入れればいい。実際に転入をしている。一夏へ接触を考えても女性で十分だ。わざわざ男性にする必要性が無い。

 IS狙いか? IS学園には第3世代機が数機ある。そして男性として入学したなら、数少ない男は同じクラスになる可能性が高い。寮のルームメイトも常識で考えて俺か一夏だ。一人部屋の可能性もあるが、青衣が体を持って活動している以上は操縦者の俺が青衣と暮らし、一夏は空くと簡単に推測できる。これまで一夏は箒と同居したが、男の代表候補生に女を宛がう様な真似をさせるとは考えられない、多分。

 青衣か白式に狙いを絞る?

 青衣は男性でも操縦できるISだ。スペックも第3世代機相当だし、外の世界では非常識極まる弾幕もある。特殊極まりないが、欲しがるだろう。

 白式ならどうか。俺は以前、白式の奇妙さから篠ノ之束の関与を疑った。似た様なことを思いついた者が他にいても不思議はない。それでなくてもハイスペックだ。

 でも社長の子供に産業スパイなんて真似させるか? フランス政府が絡んでいるとしたら他の代表候補生を送るよな。同い年もいるだろうし。辻褄が合わない。

 考える方向性がおかしい。ストレートに社長の子供を送る理由は何だ? 生徒にしてどうする気だ? IS学園に入学した生徒が得る利点は何だ?

 

「あ」

 

 その何かに気が付いた。俺も使っている最大の利点。それを確認するために懐から生徒手帳を取り出し、IS学園の生徒全員に対する特例事項が掛かれたページを開く。青衣も俺の手帳を覗き込む。

 

「第21項」

 

 ぽつりと更識会長が漏らす。俺はその第21項を読んだ。

 

「本人の同意が無ければ外的介入が原則として許可されない。表向きとはいえ、シャルルをあらゆる国家・組織・団体から守ることが出来る。これが狙いなのか? なら何故、今まで入学させなかったんだ?」

「何から逃がすのかわからないけど、彼女を守るためにIS学園へ入れた。男性で、というのがおかしな話だけどそれがしっくり来るわ。

 時期はISを開発する目途すら立たなくなったと考えることもできるわね」

「ああ、なるほど」

「シャルル君は代表候補生ですもの。留学生に対するお金はフランスが面倒見ているでしょうし、その書類もあるわ。流石にフランス政府は知っているでしょう。それに代表候補生になるときに健康診断や身体測定も行うでしょうしね。いえ、普通の学生でもする事よ。

 政府から支給されるお金もあるはずだから、普通に暮らす分なら生活に困ることも無いはず。専用機は取り上げられるかもしれないけど、それ位よ」

「仮に会社が倒産したとしてもIS学園で3年間は過ごせる。代表候補生を降ろされても、腕があれば最悪の場合他国へ移ることが可能だ。

 でも待てよ、結局は子供なんだから」

「私たちの読み通りなら手は打っているでしょうね。負債は会社に対するものでしょうし、シャルル君は被らないと思うわ」

 

 なるほどね。でも引っ掛かるんだよな。

 

「でも、これは気になる点が少しありますね。IS学園に対してですが」

「へえ、何だと思う?」

 

 面白がるように、更識会長が俺に問いかける。青衣も虚さんも止めない。

 

「まず、事実でないことを書いた書類です。男性としての提出でしょう?」

「それは事情次第ね。ちょっと面倒だけど、生徒として扱う事が出来るわ。それよりも1番大きいのがあるでしょう?」

「本人の同意ですね。結局はシャルル次第である」

 

 更識会長は再度扇子を開く。『正解』と書かれていた。さっきまで『(多分)確定』と書いてありましたよね。どうなっているんですか、その扇子。ひょっとしてそれがミステリアス・レイディですか? いや、今はどうでも良いか。

 

「シャルルに確認する必要がありますね。その前にこの事に気が付いているかな?」

「さあ?」

 

 更識会長の口調は変わらないが顔は真剣だ。

 

「放課後、シャルルを連れて来た方が良いですか?」

「ええ。そうして頂戴。最悪、空間転移で強制的にしても良いわ。おかしな点が多過ぎる」

 

 更識会長は野菜と鶏肉を口に入れ、満面の笑みを浮かべる。

 

「それにしても、野菜がおいしいわ。素材が違うのかしらね」

「豊穣の神がいます。作り方も昔ながらの化学肥料を使わない作物ですからね。此方では珍しいかもしれません」

「それすら幻想か、こっちでもあるけど高価というのがちょっと悲しいわね」

「そうとは限りませんし料理次第ですよ。それはそうと」

「何?」

「シャルルについてそこまでわかっていたなら、俺らが出る意味が余り無かったのでは?」

「そんな事は無いわ。最後の一歩が踏み込めなかったのよ。直接出会った人の感想は役に立つのよね」

 

 舌を出しながら、しれっと彼女は言うのであった。

 

 

---------------------------------------

 

 

 本日の授業が終わる。HRが終わると俺は隣のシャルルに声を掛けた。

 

「何か書類上の不備があるらしくて少し確認したいんだ。悪いけど一緒に生徒会室まで来てくれないか?」

「不備? うん、いいけど、何で七海が?」

 

 シャルルは不思議そうな顔をする。他のクラスメイトも俺の発言には疑問を持ったようだ。

 

「俺、生徒会の役員なんだ。昼休みも呼び出されたしな」

「簡単に言うと、また緑兵は仕事を押し付けられました」

 

 俺の後に青衣が続く。呆れた様な口調だ。

 

「また、何だ……」

「また、何ですよ、この人」

 

 青衣の答えに苦笑いするシャルル。なんか同情されている気がする。

 

「また、何だよなぁ。生徒の個人情報が絡むんだからさ、学園で処理しろって」

「仕事が増えるのは毎度では?」

 

 茶々を入れる青衣に、シャルルは乾いた笑いを出した。

 

「という訳だ。悪いな」

 

 此方に歩いてきていた一夏に言う。シャルルと話をしようと思っていたらしい、周囲のクラスメイトもだ。

 

「まあ、しょうがないか。訓練に誘おうと思ったんだけど」

「その前に学園の案内だろ? あー、時間が余ったら俺と青衣で案内するよ。シャルル、それで良いか?」

「うん、良いよ」

 

 一夏は残念そうだ。女だらけの場所に男性が来て嬉しいのは解るけど、ちょっと食いつき過ぎじゃないか? そんなことを思いながら俺は席を立つとシャルルに振る。

 

「そんじゃあ悪いけど、付いて来てくれ」

「じゃあ一夏、後でね」

「ああ」

 

 俺達は教室を3人で出る。

 

「寮は一夏と同室なのか?」

「うん。鍵は山田先生の所に受け取りに行くことになっているよ」

 

 まあ、箒との同居が異常だったしな。シャルルとの同居はやっぱり、としか言えないな。

 ん? 箒は誰との同居なんだ? まあ、いいか。

 

 

---------------------------------------

 

 

「いらっしゃい、シャルル君」

 

 生徒会室に着くと既に更識会長はテーブルの端っこに居た。昼間、食事をした場所でもある。その上には大きな封筒が置かれ、更識会長の隣に虚さんが座っていた。

 テーブルにはお茶が5つ置かれている。その中身は緑茶で、内2つは更識会長と虚さんの前だ。

 

「俺達、授業が終わってまっすぐ来たんですけど、早くないですか?」

「私達も今来たところよ。シャルル君はここに座ってね。それと緑茶は平気?」

「はい。大丈夫です」

 

 俺に返すと、更識会長は1つの湯呑を自分の正面に置く。そこにシャルルを座らせた。見た目は更識会長は何時もと変わらず、不自然な点も見つからない。

 俺はこっそりドアに鍵を掛けた後、シャルルと1席開けて座る。青衣は俺の隣だ。2人で残っていた湯呑を取る。

 

「ごめんなさいね、手間を取らせて。私がIS学園生徒会長の更識楯無、2年生よ」

「いいえ、こちらこそ。貴方のお噂はかねがね伺っております」

「私は会計の布仏虚、3年生です」

「宜しくお願いします」

 

 2人が簡単な自己紹介をする。シャルルは多少緊張した面持ちだ。

 

「まだ覚えていないだろうけど、虚さんは同じクラスにいるのほほんさん、布仏本音のお姉さんだ」

「そうなんだ」

 

 俺はクラスメイトとの接点を伝えておく。

 

「それでシャルル君、いきなりだけど確認させてほしい事があるのよ」

「はい」

 

 更識会長の声に、シャルルは背筋を伸ばす。

 

「緊張しないでよ」

「……はい」

 

 にこやかな笑顔を向ける更識会長。シャルルも穏やかな笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ名前から、シャルロットよね?」

 

 シャルル、いやシャルロットが音を立てて固まった。

 

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

空間転移で教室からの脱出。これをやりたかった。

原作準拠ならラウラも同時の転入するみたいですが、私は原作未読なので単体で2回転入させます。
シャルルもラウラも席が良くわかりません。調べたらシャルル(シャルロット)は一夏の隣みたいです。でも隣の子は消えてしまう。この話ではシャルルの席は作中の通り、緑兵の隣にします。
さて、男性でも操縦できる青衣がいますので、IS学園のチェックはより厳しくなっています。シャルルは引っ掛かりました。


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