幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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14_二人の共通点

 更識会長が投げた球は直球、ストレート。相手はボールを受け止められず直撃をしてしまった。

 シャルル・デュノアとシャルロット・デュノア。フランス語でシャルルは男性名、シャルロットは女性名らしい。そして偽名ではなく本名を呼ばれたのだ。全てを察しただろう。

 同じテーブルを囲んでいるが、更識会長は平然としているのに対しシャルロットは体が凍りつき目が泳いでいた。

 

「……ばれてますか?」

 

 やがて彼女はぽつりと漏らした。観念したらしい。

 

「うん」

 

 それに対し、更識会長はあっさり頷く。

 

「入学前から怪しんでいたのよ。最後の決め手は直接会った七海君と青衣ちゃんね。

 シャルロットちゃんの事、その2人にはあえて男性でフランスの代表候補生としか伝えていなかったんだけど、女性じゃないかと連絡があったのよ」

 

 シャルロットはゆっくりと俺と青衣の方を向く。目が死んでる。

 

「2人はいつ気が付いたの?」

「最初からおかしいと思ってた。

 男にしては体のあちこちが丸い。喉仏が無い。声も高い。顔も整い過ぎ。髪も長くてリボンで纏めている。

 行動も女だらけの空間に放り込まれたのに平然としていたり、男性操縦者を見に来るのを不思議がったり、着替えの時に赤くなったりした。

 中性的な奴は確かにいるけど、余りにも疑問点が多すぎた」

「はは、確かにそうだね。でも男性もいるってことにならないかな?」

 

 どう? と一度は認めたも同然の事を言いながらも反論する。だがその言葉に力は無く、単に確認をしたいだけの様に感じられた。

 

「ばれた最大の原因だけど、シャルロットはISに慣れ過ぎていた。此処まで揃うと怪しんでくれと言うようなものだ。

 それに俺達は性別関係なく青衣の事を探りに来るか、破壊しに来るって警戒しているんだ。ISを作っている会社の関連人物が堂々と来たら警戒するに決まっているだろ?」

「なるほどね」

「何だったら、もうちょっと言うか?」

「その必要は無いよ。それと君は探偵をやったらいいんじゃない?」

 

 少し儚げに笑う。

 

「俺、これ以上性格が捻くれたくはないぞ」

「自覚が合ったんですね」

 

 一言余計な青衣。シャルロットは更識会長の方に向き直る。

 

「それで書類上の不備っていうのは僕をここに呼ぶ為ですか?」

「半分本当よ。IS学園が不思議に思うくらいにね」

「え?」

「その前に聞かせてくれるかしら。何の目的でIS学園に来たのか」

 

 更識会長は真剣な顔つきだった。

 

 

 

 

 

 シャルロットが語る理由。

 やはりISの情報を盗むために、産業スパイとして送られて来ていた。標的は青衣か白式、社長直々の命令が下された様だ。

 デュノア社は第3世代機の開発が遅れ経営危機に陥っている。ラファール・リヴァイヴは性能こそ良いが第2世代機でも最後発ということで政府の援助金は減らされたらしい。その時点で経営は傾いた。

 そしてイグニッション・プランにデュノア社は既に漏れている。このままでは他の会社に吸収されるか、倒産する可能性が高い。

 社長は第3世代機を開発するの為にイレギュラーのISである青衣か、最新のISである白式のデータを欲したのだ。男性操縦者として入学というのもデュノア社が広告塔として使う為だった。

 

 

 

 

 

「こんなところですね」

 

 ふうっとシャルロットが一息入れる。

 

「今度は私達の番ね」

 

 更識会長からシャルロットに提出された書類の疑問点、フランスやデュノア社から男性操縦者が見つかった発表が無いことを告げられた。

 正に中途半端。デュノア社の方から自ら探ってくれと言わんばかりの内容である。シャルロットは驚きを隠せない。

 

「提出された書類が徹底していれば時間は稼げたわ。貴女にも男性として演技指導位はするべき。それに此方の調査にも妨害が無かった。

 明らかに変よね?」

 

 シャルロットは混乱している。彼女からすれば妨害も良い処だ。何せIS学園に来てみたら殆ど詰んでいた。

 

「社長は何を考えているんだろう」

「……君のお父さんでしょう?」

 

 ものすごい他人事のように、脱力し切っている。

 

「ほとんど会ったことが無いですよ。気が付いていると思いますけど、僕は愛人との間に生まれた子供です。

 でも2年前に母さんが死んだ後、デュノア家に引き取られた。その時に初めて父親がいる事を知りました。直接社長と会ったのは僕を引き取った時と、IS学園への命令を下した時位。実家にも居場所はないです」

 

 シャルロットの身の上話だ。思ったよりも重い。

 

「たまたま僕はISの適性が高くて、IS開発のためのテストパイロットとして教育や訓練を受けさせられました。

 今年になって一夏の件、そして青衣さんと七海が現れた。それで社長からの命令です」

 

 シャルロットは青衣を見る。

 

「白式は最高スペックの第3世代機で、一夏は世界唯一の男性操縦者。

 青衣さんは第3世代機相当のスペックを持ち、男性でも操縦できる。確か装備も自力で作っているんだよね? 莫大な時間とお金がかかる開発を自力で行うISは魅力的に見えたらしいよ。

 それらのデータを欲しがっていたんだ」

 

 その辺は予想していた。

 

「大体の事情はわかったけど、これからどうするの?」

 

 更識会長がシャルロットに聞く。シャルロットは正面、更識会長の方を向く。

 

「僕は代表候補生を剥奪された後、良くて牢屋でしょうか。フランス政府も今回の件を知ったら黙っていないと思います」

「ちょっと待て。『失敗』ではなくて『知ったら』? フランス政府はこの件を知らないのか?」

 

 思わず俺は口を出す。シャルロットが俺の方を向く。

 

「多分知らない。何人かは買収しているかもしれないけど、政府全体でデュノア社に肩入れしてこんな危ない橋を渡る必要は無いよ。もしフランス政府と手を組んでいるなら大使館経由とかになるはずだし」

「じゃあ、何故シャルロットに命令したんだ? 愛人の子だろうが実子を引き取った事に変わりないだろう?」

「学園に入れる年齢で、会社の為に産業スパイまでする人は普通いないんじゃない?」

 

 唖然とする俺を見て、シャルロットはきょとんとした顔をする。

 単なるデュノア社の暴走なら……俺達の考え過ぎ?

 

「なあ、データを盗んだとしてどうやって送る気だったんだ?」

「まかせるって」

「データを盗んだ後、シャルロットはどうする予定だったんだ?」

「決まって無いよ」

 

 頭が痛くなってくる。俺が米神を抑えると、更識会長も虚さんも苦笑いをした。青衣は呆れ果てているのだろう、脱力していた。

 

「実はやる気が最初から無いのか? でも社長命令?」

 

 俺は思わずテーブルを指で軽く叩く。俺の言葉にシャルロットが反応した。

 

「やる気が無いって?」

「受け渡し方法すら決めてないなんて、計画とは言えない」

「まあ、そうだね」

「更識会長、昼間の見解をシャルロットに聞いて貰っていいですか?」

「……そうね」

 

 青衣同様に気が抜けていた更識会長が俺達の見解をシャルロットに伝えた……のだが。

 

「どうなんでしょうか」

 

 よくわからないらしい。父親であるデュノア社長が自分を守るとは全く考えていない。さっき聞いたことが本当なら、血の繋がった他人でしかないから仕方がないか。

 

「提出した書類のせいで最初からバレバレ、男装も中途半端だった。社長に失敗したことを責められてもそう言えばいい。どの道、何日か経てば話が漏れてマスコミやISに関わる者が調べるだろう? フランス国内は特に。

 だったら女とばれるのも時間の問題だ」

「そうだね」

 

 俺が言った内容をシャルロットはあっさり同意する。

 

「おい、本気で今後どうする気だ?

 フランスへ戻ると碌な目には合わないだろう? IS学園に残っても卒業後は不透明だ。在籍期間しか不干渉が貫けない。留年という手もあるが先延ばしでしかない。いや、それが名目で連れ戻されるか」

「どうしようか? いきなりすぎて……」

 

 シャルロットはため息を付く。

 

「結局のところ、シャルロットちゃんがIS学園に女性として残るか、フランスに戻るか決めないと私達も何も出来ないわ。他に手があるならそれも良いけど」

 

 今度は更識会長が言う。

 

「……社長は何を考えているんだろう?」

「聞いてみたいの?」

「はい」

「でも口車には乗せられ無い様にね。IS学園に残るけど産業スパイはやる、それは無しよ」

「わかっています」

 

 更識会長の言葉に俺も青衣も頷く。虚さんに反応はないが、多分俺達と同じ意見だろう。それにシャルロットはデュノア社長に優しい言葉を掛けられたら、ころっと転ぶ気がする。

 

「……どうするか決めた後なら、デュノアの社長を連れて来ても良いぞ。電話でも構わないが、直接言いたい事もあるだろう?」

「うん」

 

 シャルロットが相槌を打つ。だが彼女は何秒か後に俺を不思議そうな顔で見た。

 

「七海君?」

 

 だが、言葉を発したのは虚さんだった。こちらも同じ表情だ

 

「何ですか?」

「今、社長を連れて来て、って言ったけど何をする気ですか?」

「居場所を特定して連れてきます。拉致とも言う」

 

 虚さんは俺の言葉に眉を顰めた。ぴんときていない。何回か見ているはずなんだけどね。シャルロットは知らないので意味が解らないのは仕方ない。更識会長は理解したのだろう、何故か青衣と同じく呆れた様な顔をしている。

 

「そこのノートパソコン、ネットに繋がってますよね。借りて良いですか?」

「良いけど」

 

 俺は仕事用の机に置かれたノートパソコンをテーブルへ持って来る。ネットへは有線で接続されていたが問題無い長さだった。

 皆の見ている前で、ブラウザを開いてデュノア社にアクセスする。IS関連企業は日本語のページがあるので助かる。企業情報からフランスにある本社の住所をコピーする。

 別のタブを開いて地図上で2地点の距離と方角を図ることが可能なページにアクセスする。一方はIS学園、もう一方はデュノアの本社で測る。

 更に別のタブを開いてデュノアの本社周辺の地図をわかる状態にしておく。

 この前まで全くパソコンを使えなかったのに、我ながらスムーズにできるようになったものだ。

 俺はテーブルに小さな『倉』を開き、外の世界で入手した高精度な方位磁石を出現させた。

 

「ひっ」

 

 真っ黒が空間が俺の手元に現れた瞬間、シャルロットが小さく悲鳴を上げたがそれは無視する。

 パソコンに映された距離と方角を基に、方位磁石頼りで『窓』を開く。

 

「うわっ」

 

 俺の前、ノートパソコンの上に突然現れた長方形にシャルロットは驚いて声を出した後、好奇心からか横から覗き込む。

 『窓』にはある都市の航空写真の様なものが映し出されている。向こう朝みたいだな。流石にIS学園から距離があるので場所はぴったりとはいかない。だから『窓』はかなり上空から映した。『窓』に映る光景とパソコン画面の地図を照らし合わせる。大分、目的地とずれている。だが地形や川などで目星がついた。

 何度か地図の縮尺や『窓』の位置を変更、最後に見つけた目的地を拡大させる。フランスにあるデュノアの本社が『窓』に映された。

 最後に更識会長と虚さんからも見えるよう、同じ場所が見える『窓』をもう1つ出現させる。

 

「後は社長室でも見つけて映しておけば、いずれ現れます。潜れば向こうに行けますので強制的に連れて来ますよ。

 というか虚さんも生徒会室まで潜ったことがありますよね?」

 

 以前に『拠点』で生徒会室と学園長室を監視し、出入り口も作ったのだ。それをシャルロット以外は見ているはずだ。

 だが虚さんは呆気にとられ、更識会長はため息を付き、初見のシャルロットは固まった。

 

「まるでスパイ衛星ね。向こうから気付かれない上、自由に出入りまでできる。それも世界中……って七海君?」

「はい?」

 

 更識会長はうめくような言葉を出した後、此方を向く。

 

「今思ったんだけど、首相や大統領の官邸、政府や軍の主要施設とかも場所がわかれば同じ事ができるわよね?」

「できますよ。何を今更」

 

 そう告げると更識会長は大きく呆れた様なため息をつき、虚さんとシャルロットは驚いた顔で俺を見る。

 

「神出鬼没。貴方達が国家や企業に中立で本当に良かったと思うわ」

 

 第3世代機相当の青衣を使う俺は世界中のどこにでも現れ、消えることができる。

 それを理解した更識会長の言葉に虚さんがこくこくと頷く。シャルロットは再び固まった。

 

「映す場所、見つける仕事は別ですよ?」

「それが何?」

 

 実にそっけない返事である。悲しくなるね。

 

「で、シャルロット?」

「え、あ?」

 

 俺に声を掛けられて、シャルロットは我を取り戻す。

 

「そんなわけでデュノアの社長に面と向かって話そうと思えばできる。

 もう一回言うが、女性としてIS学園に残るかフランスに戻るか、その選択した後なら俺は協力する。どうする?」

 

 少し黙った後、シャルロットは自分の選択を話した。

 

 

 

 

 

 シャルロットは織斑先生と山田先生に全て話してくると告げ、職員室へ1人で向かった。場所はわかるらしい。選択は決まったので自殺は無い。逃げるかもしれないと一瞬考えたが、その時はその時だ。

 必要があれば生徒会室に電話が掛かってくる。その時は更識会長と虚さんが行く事になっている。

 勿論シャルロットには俺が見せた内容は誰にも言わない様に強く口止めをしておいた。他の者は空間転移以外は知らないし、見せていないとも伝える。何故教えないか、話したらどうなるか理解できるかと質問すると、シャルロットは真っ青な顔で頷いていた。完全に脅しだが仕方ない。

 学園長へはシャルロットが退出後すぐに更識会長が電話で報告した。これで織斑先生や山田先生に何も言われないだろう。

 ひと段落が付いた俺達4人は、休憩として淹れ直したお茶を飲んでいる。

 

「七海君、ちょっと気になるんだけど」

「何がですか?」

 

 更識会長が不思議そうに俺の事を見ている。

 

「何でシャルロットちゃんには簡単にいろいろ見せたわけ? 何だかんだで隠していたでしょう? さっきの様子だと一目惚れしたわけでも無さそうだし」

 

 言われてみればそうだ。確かに俺らしくない。何でだ? シャルロットに惚れた? それも違うな。同情心? 境遇には少し同情したが、それで左右されるほど俺は人間が出来てはいない。ぽろっと話してしまったわけでもない。

 理由が思いつかず俺は首を傾げる。そんな俺を見て更識会長も虚さんも同じような顔になる。

 

「簡単ですよ」

 

 お茶を一口飲んだ後、青衣が言った。視線が集まる。

 

「さて緑兵、ここで問題です」

「は?」

 

 俺の困惑は無視し、青衣は人差し指を立てた。

 

「シャルロットさんの髪と目の色を答えなさい」

 

 俺はシャルロットの顔を思い浮かべる。

 

「髪は金色、目は紫色だな」

「私たちの身近に、似た色を持つ者がいますねぇ?」

「紫姉さん!?」

「はい、正解」

「……で? それが何の答えになる?」

 

 髪と目が紫姉さんと似た色だからって何? 意味が解らない。

 

「ぱっと見、特徴が似ています」

「いやいやいや、髪と目の色だけだろ。他は似てないだろ」

 

 俺は即座に否定する。あんな胡散臭い人と一緒にするのはおかしい。

 

「後は共感ですかねぇ」

「共感?」

 

 どういうことだ。青衣は続ける。

 

「シャルロットさんはお母さんが亡くなって、面識の無い父親に引き取られて見知らぬ場所に行った。そして高いISの適性を持っていたから強制的にISの訓練を受けた。

 緑兵は両親の事件で突発的に能力持ちになり、見知らぬ場所にたどり着いて面識の無い相手に拾われた。そして制御できるようになる必要があったとはいえ強制的に訓練を積んだ。

 2人の境遇って似てません?」

 

 そう言われればそうだ。自分では全く気が付かなかった。更識会長も虚さんも驚いた顔をしている。

 

「紫姉さんも藍姉さんも子供好きで面倒見が良いです。橙も居ましたし、私達も育ててくれました。シャルロットさんとの違いはその位では?

 無意識ながらも容姿といいその境遇といい、気になる事が揃ってしまったからですよ」

「なるほどな」

 

 俺はようやく自分が何を思っていたのか合点がいった。そうか、だからほいほい見せてしまったのか。

 

「それでシャルロットちゃんに甘かったのね。お姉さんの特徴があったから特に」

 

 ふと更識会長を見ると、少し口元が緩んでいた。

 

「七海君の技って先日会ったお姉さんの技を、自分なりにアレンジしたんでしょ?」

 

 何故知っている!?

 彼女は扇子を開き口元を隠す。扇子には『世間話』と書いてある。虚さんが小さく噴き出した。

 

「君のお姉さんからいろいろ聞いたのよ。技を見せると目をキラキラさせて、ひよこみたいに後ろをくっ付いて来たってね」

 

 なんてことを話すんだ!! よりにもよって、この人に!!

 

「自分なりに真似るから面白くてしょうがなかったって、楽しそうに笑ってたわ」

 

 そんな事言ってたのかよ。

 更識会長は扇子を閉じる。現れたのはからかう対象を手に入れた者特有の意地が悪い笑みだ。

 

「休憩の時、七海君が来なかった時よ」

 

 俺が学園長室と生徒会室を見張っていた時か。『和む』とは俺の昔話だったのかよ。

 紫姉さん、やってくれましたよ、本当に。今度来たときはおかず抜き、いや苦手なものを出してやろうか……。

 

「いやー、七海君にも可愛い時代があったのね。おねーさん、感激しちゃった」

 

 今は更識会長だ。頭を回転させろ。思い付け。あの腹が立つ笑顔に対抗する何かを考えろ。

 そうだ、あれがある。

 

「青衣」

 

 自分でもわかる。俺の声に愉悦が混じっている。呆れたように更識会長を見ていた青衣が俺の方を向く。

 

「この前、更識会長が大泣きした時の記録、出せ」

「ちょっ!!」

 

 更識会長はあの時を思い出したのか、血の気が引けた。知らなかったのか虚さんはびっくりしている。

 

「簪さんにプレゼントだ。おねーさんにも弱点あるよって。これで親しみやすくなりますね。仲直りへの一歩です」

「まっ!!」

 

 待てと言いたいのだろうが泡を食って言葉になってない。

 

「IS学園最強の生徒会長で国家代表のおねーさんが座り込んで、わんわん泣いている姿、可愛かったですよ」

 

 びくっと彼女の体が小さく跳ねた。今度は羞恥で顔を真っ赤に染める。

 攻守逆転、俺の方が悪い顔になっているだろう。

 

「簪さんだけでなくIS学園の関係者全員に見て貰いましょう。全世界へ公開という手もあるな。折角ネットを覚えたんだ、動画サイトの練習をしよう。

 俺の小さい時の話と違ってごく最近の話、しかも写真や映像付きです。実に衝撃的、すぐに人気者です」

 

 顔が赤くなったり青くなったり忙しい。眉も八の字になっている。簪さんの姉であると納得がいく顔だ。

 それに普段は強気の美人さんがびくびくしていると、そそるものがあるな。というかこの方が可愛い。変な方向に目覚めそうだ。

 

「あ、青衣ちゃ」

「すみません、更識会長」

 

 狼狽する更識会長の言葉を青衣は遮る。

 

「貴方はからかい過ぎました。お世話になっていますけど、対立したなら緑兵が優先です」

「あ、あああ……」

 

 にっこり笑いながら自分の扇子を取り出す青衣に、更識会長は捨てられた子犬みたいな目をする。

 

「2人とも、待って下さい」

 

 俺達のやり取りを見ていた虚さんだ。眼鏡を直しつつ俺を正面から見据える。更識会長の目が希望に輝いた。

 

「確認しないと判断できません。その記録、一度見せて下さい」

「そうですね、確認は大事です」

「虚!!」

 

 乗り気の虚さんに更識会長は悲鳴交じりの声を上げる。青衣も見せる気満々だ。

 これで仲間はいないぞ。更識会長が机に突っ伏してしまった。ぷるぷる震えている。

 

「ふう、満足」

「あら、いいんですか?」

 

 意外そうな青衣、虚さんも少し驚いている。

 

「これ以上やるとまた泣きそう。こういうのは回数が限られるんだ。次で良いよ」

「次……次があるの?」

 

 のそりと更識会長が顔を上げる。涙目だった。やばい、本当に可愛い。

 

「青衣、更識会長の今の顔、記録しておいて。これも材料になる」

「うう」

 

 また机に突っ伏した。

 

「次は本当にやりますからね」

「……はい」

「でも虚さんと簪さんには見て貰いますから」

「止めて~」

「簪さん、更識会長の事を完璧超人だと思っていますよ。少しぐらい弱点があった方が可愛げがありますって」

「編み物が……」

「編み物が苦手、それが何か? 青衣はともかく俺は編み物をしたことが無いですよ。逆にそれくらいしか苦手が無いと言う事ですか?」

 

 俺の答えに今度は頭を抱え、左右に動き始めた。葛藤しているのか?

 

「緑兵、その辺にしましょう」

「おお」

 

 すっかり満足した俺は自分のお茶を飲んで、一息入れた。虚さんはこの状態の更識会長が珍しいのか、しげしげと見つめている。

 

「それはそうと、シャルロットさんのお願い、いつにしましょうか」

 

 青衣が強制的に話題を変えた。まあ、これ以上は俺もよろしくない気がする。

 

「俺の方からは条件を出したんだ。後は向こう次第で良いんじゃないか? 様子がおかしかったら即逃げればいいだろ?」

「……シャルロットちゃんを信用して無いの?」

 

 更識会長がゆっくり顔を上げた。虚さんも不思議そうにしている。

 

「最低限の警戒はしますよ。今日会ったばかりですし、さっきまでの事も考えてください。当たり前でしょう?」

「……いつも通り、用心深くて安心したわ」

「お嬢様、私は少し嫌な人とも思いました」

 

 虚さん、ひどくね?

 

「お願いを聞いただけでも良しとしてもらわなきゃ」

「まあ、そうよね」

 

 

 

 

 

 シャルロットの選択とお願い。

 まず、シャルロットはIS学園に女子として再入学することを選択した。そして父親とも会わなかった。実家でもあるデュノア社との関係も切りたいらしい。デュノア社長とは再入学後に電話で話すと言っていた。

 とはいえ彼女は正式なフランス代表候補生で専用機持ちだ。本人が専用機を返すと言っても当分は現状維持だろう。それにデュノア社としても、産業スパイは抜きにしてもIS学園は情報の宝庫だ。シャルロットが訓練や模擬戦などで真っ当に得たデータなら提出しても何処も文句は言わない。だから簡単に関係は切れないだろう。

 今回の件がデュノア社や社長の暴走なら、フランス政府や会社内部で片を付けるだろう。そこまで関与出来ないし、俺はする気も無い。

 さて、そんなシャルロットからのお願いだが、母親の墓参りに行きたいらしい。葬儀から2年経つが一度も行かせて貰えなかったようだ。墓地は母親と暮らしていた場所の近くらしい。住んでいた家の住所は覚えているだろうし、墓の位置も特定できるだろう。

 俺は現地の人の目につかない時間帯という条件で承諾した。条件を出した理由も皆の前で話してある。日本にいるはずのシャルロットがフランスで目撃されると、騒ぎになる可能性があるからだ。それに一応、不法入国になるのか?

 

 

 

 

 

「俺はどうするかね……」

「ん? どうしたの」

 

 俺の呟きが聞こえたのか、更識会長が此方を向く。青衣もだ。

 

「更識会長、以前に俺の事を徹底的に調べたって言いましたよね」

「ええ、言ったわよ」

「俺の先祖、父方と母方、両家の墓がある寺の場所ってわかりますか?」

 

 彼女は少し考える。

 

「わかると思うわ。親戚も調べたから資料が残っていると思う」

「わかればで良いですから、教えて下さい」

「……いいわよ」

 

 俺に血縁者はいない。普通、親戚付き合いが無くても血の繋がった者がいるはずだが、本当に居ないのだからしょうがない。実は拒否されただけかもしれないが、俺は知らない。

 両親の遺骨は住んでいた自治体の施設に保管されていた。一定の年数が経てば引受人の無い遺骨は無縁塚として纏めて埋葬されるらしいのだが、まだ残っていたらしい。それを引き取ってくれとこの前、IS学園を通じて連絡があったのだ。

 確かに遺産を金という形で受け取った以上、埋葬するべきだと思うがその両親が死亡した経緯が経緯だ。

 母親は俺を捨てることを算段し、父親には殺さるところだった。だが縁のある寺があるなら、個別に預けて永代供養してもらえばいい。無ければ適当な寺を選ぼう。俺は幻想郷に戻るので墓守は出来ないし、そこまでする気も無い。

 これらの事情は青衣も知っている。相談しても結論が出る内容ではないので、俺が決めるだけだったのだ。

 そんなことを考えていると生徒会室の電話が鳴った。一番近くにいた俺は立ち上がると受話器を取る。

 

「はい、生徒会室です」

「織斑だ」

 

 少し不機嫌な声である。

 

「どうも、七海です」

「全く、お前達は……。まあいい、デュノアの面倒を見たようだな」

「出来る範囲ですが」

 

 受話器の向こうで軽く笑う。更に後ろで山田先生が何か言っているが聞き取れない。何か嬌声のようだったが暴走しているのか?

 

「更識に変われ」

「わかりました。織斑先生です」

「ん」

 

 既に隣に立っていた更識会長に受話器を渡す。彼女は少し話すと受話器を置いた。

 

「虚、職員用の会議室に行くわよ。

 七海君と青衣ちゃんはお留守番ね。学園長から電話があったら場所を伝えておいて。遅くなるようだったら後で電話するから」

「職員用の会議室ですね。わかりました」

「じゃあ、行ってくるから」

 

 俺達は2人を見送る。その直後に学園長から電話があり、居場所を伝えておいた。

 さて、1時間と少し経った頃に2人は戻ってきた。更識会長が掲げた扇子には『解決』と書かれていた。

 

 

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 翌日。教室に入るとシャルロットの席の隣に一つ机が増えていた。ドイツの代表候補生、軍人が来るのか。

 そして一夏が何やら腕を組み考え込んでいる。気になったので話を聞くと、シャルルは部屋に来ず、別の部屋に移動したらしい。一夏は自分が何かやらかしたのかと悩んでいた。

 

「安心しろ。一夏が何かやらかしたわけじゃない」

「七海、お前は何か知ってるのか?」

「直ぐにわかるよ」

 

 思わず口元に少し笑みが出た。一夏のみならず、集まっていた皆が怪訝な顔をする。それに構わず、青衣と共に自分の席へと行った。何か言われても

 

「楽しみにした方が良い」

 

 で俺達は通す。皆は首を傾げていた。

 さて、朝のSHRは少し遅れて始まった。山田先生がふらふらしながら入って来る。後に続く織斑先生も少し疲れている様だ。

 

「2日連続ですか転入生を紹介します。とはいえ片方は紹介が済んでいますし、どう言ったらいいか……」

 

 テンパってるな。後で何か差し入れようか。

 

「もう、入って下さい!!」

 

 その言葉を合図に、教室のドアがスライドして2人の生徒が入ってくる。

 

「「「え!?」」」

 

 その姿を見てクラスメイトは唖然とした。

 教壇の前に立つ女子の制服を着たシャルロット。いいや、クラスメイトからすればシャルルのままだ。そして昨日は平らだった胸がある。というかでかい。どんな方法で隠していたんだ!?

 もう片方は初めて見る生徒だ。左目に黒い眼帯を付けた背の低い銀髪の女。スカートではなくズボンを着用している。場違いともいえるほど威圧感を撒き散らし、今にも爆発しそうだ。

 俺は少し警戒した。

 

「シャルロット・デュノアです。故合って男性になっていましたが、女性に戻ることが出来ました。改めて、皆さんよろしくお願いします」

 

 ほとんどの生徒が唖然とする中、シャルロットが挨拶をする。教室には俺と青衣の拍手だけが響いた。

 

「ということで、実は女の子でした」

 

 山田先生の言葉を合図にしたように、半ば悲鳴が轟いた。シャルロットの容姿に対して嫉妬の様な言葉も聞こえた気がするが。

 

「騒ぐな、静かにしろ」

 

 織斑先生の一声で教室は静かになる。よく訓練されていることで。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 ラウラと呼ばれた銀髪は背筋を正す。そして敬礼、軍人形式と呼べばいいだろうか。

 

「織斑先生と呼べ。ここは軍では無いし私も教官ではない。お前も一般生徒だ」

「了解しました」

 

 見慣れないやり取りが繰り広げられる。そしてラウラの反応。

 俺は以前、織斑先生に『自分を崇め奉る女達』と言ったことを思い出した。元教え子とは聞いていたが、こいつは正にそうだな。

 その後、ラウラは俺達クラスメイトを見据えた。

 彼女の右目を見た瞬間、俺は反射的に『空間を操る程度の能力』を発動させ、教室はおろか周囲数十メートルを支配下に置いた。認識等ではなく空間の支配、独特の感覚が戻る。

 俺の行動に気が付いた青衣が目を見開く。

 咄嗟の空間転移はともかく、外の世界に戻ってから反射的に能力を発動させたことは無かった。本当に久しぶりである。つまり、俺は無意識にラウラが危険だと認識している。

 原因はラウラの目だ。全生徒を見下げ、いいや蔑んでいるな。

 どういう育ちだ、こいつは? 外の世界で初めて軍人を見るが、こいつは暴力しか考えないタイプなのか。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 それだけだ。山田先生が続きを促しても意味は無かった。

 

「以上だ」

 

 一方的に挨拶を終えた彼女は、前に座る一夏を見る。敵を見る目だな。さっきからの剣呑さといい不味い。

 

「織斑一夏だな?」

 

 一夏が答える前に、ラウラは右腕を振り上げ停止した。彼女の右腕には俺の左手が添えられている。空間転移で一夏との間に入ったのだ。

 

「貴様、どういうつもりだ!!」

「そりゃ、こっちのセリフだ」

「私のセリフでもありますよ」

 

 俺と背中合わせで佇む青衣。青衣は覗くようにラウラを見ている。その眼は冷たいだろう。

 俺を怒鳴りつけるラウラの右肩から手首までは動かない。俺が周囲の空間を固定したから動けないのだ。

 どうせ織斑先生には更識会長相手に本気でやった試合、ミステリアス・レイディ周囲の空間を支配したのを見られている。別に問題無い。添えた左手はラウラとクラスメイトに対するポーズだ。

 一触即発の状況に、クラスの全員が息を飲むのを感じた。

 

「貴様が七海緑兵。そして専用機の七海青衣か」

「そうだ」

 

 俺が認めると、ラウラはにやりと酷薄な笑みを浮かべる。

 

「貴様達はこの私が必ず壊し、スクラップにしてやる。覚悟しておけ」

「……織斑先生、彼女に何を教えたんですか?」

 

 ラウラを無視し、織斑先生に質問をする。彼女はいつものように腕を組んだまま、動かない。

 

「私を無視するとはいい度胸だ!!」

「吠えんな、獣」

 

 俺を殴ろうとしたのだろう。だが左腕も両足も、全身のほとんどは既に空間ごと固定している。

 ラウラを一瞥すると、彼女は一瞬焦るような表情を見せた。自分の身に何が起きているのか理解していない。

 だが相手は軍人だ。何をするか分からないのは此方も同じ。おそらく専用機を持っているだろう。ISを発動させても次の瞬間には破壊してやる。

 

「そこまでにしておけ」

 

 ようやく織斑先生が静止に入る。

 

「……相変わらず遅いですね。それと何を教えたんですか?」

「貴様、教官を愚弄する気か!?」

 

 ラウラの言葉に一層の怒気が籠る。

 

「少なくともお前が暴れれば暴れるほど、吠えれば吠えるほど、誰もがそう思うだろうな。現役の軍人が一夏に殴り掛かり、俺と青衣には破壊すると予告したんだ。お前の方こそ覚悟しろよ。

 で、織斑先生。本当に何を教えたんですか?」

「言う必要はない。お前はラウラを解放しろ」

 

 ようやく出た織斑先生からの返答がこれだ。

 

「ふざけてません? 解放したとたんに噛みつかれますよ」

「お前は接近戦もできる。それに空間転移で戻ればいいだろう」

「そういう問題じゃねえだろ」

 

 カチンときた俺と、それこそ見下げ果てた目で織斑先生を見る青衣。教壇近くの山田先生やシャルロットはおろおろしている。

 

「ラウラは私が何とかしておく。今は席に戻れ」

「教官!! こんな奴相手に引き下がれと!!」

「黙れ小娘!! 貴様は教官と呼ぶなとの指示もすぐ忘れるのか!!」

 

 非難めいた声を発するラウラを遮り織斑先生が一喝する。そしてラウラは悔しそうな顔をした。

 よく似ていることで。その光景を見て俺は馬鹿馬鹿しくなる。

 

「話にならない。織斑先生、首輪はきっちり付けてくださいね。

 青衣、戻るぞ」

「ええ」

 

 俺は自分と青衣を席近くに空間転移させ、空間を支配していた能力も解除する。同時にラウラが解放された。もがいていたのだろう、勢いで半歩前に出る。

 その後、彼女は席に座る俺と青衣を睨み付けた。

 

「席に就け。ラウラは中央の最後尾だ」

 

 その後、ラウラは肩をいからせて自分の席に歩いていく。シャルロットは困った顔でその後ろに続く。

 ラウラは席に着いた後、俺達を改めて睨み付けた。間に挟まれたシャルロットは、あははと困った顔で笑っていた。今回は本当に同情する。

 さて、俺は幻想郷、つまり『非常識』の世界で7年間育った。だがその常識と非常識の境は科学技術や認識の話だ。理性或る者としての常識は別だと、俺は再認識した。

 

 

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

主人公、Sに目覚める。冗談です。今回は彼の本領発揮です。
シャルロットと緑兵の共通点は書いている途中で気が付きました。

原作やアニメでシャルロットの書類ってどうしたのしょうか。検索してみたらフランスに戸籍や住民票は無いようですが、出生届はあるみたいです。ちょっと調べたら女性とばれます。
後、一夏がシャルロットの正体を知った後も黙って同じ部屋で過ごしていたのも考えられない。ハニートラップにかかったのかと。仮にそれで白式のデータを盗まれたら目も当てられない。
ま、いいか。

次回の更新は来年かも知れません。


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