幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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02_緑兵の入学試験

 織斑千冬は同僚である山田真耶と共に、学園長の轡木から奇妙な命令を受けていた。

 要約すると『本日の20時頃、第三アリーナにあるISが現れる。相手の実力を判断するように』だ。

 侵入する、ではなく現れる。時間も『頃』がつきあいまいだ。

 打鉄を纏った織斑千冬はIS学園にある第三アリーナの中心で、その誰かを待っていた。

 IS学園の警備は万全だと彼女は思っている。管制室からアリーナ全体を監視している山田真耶もそう簡単に入れないと思っていた。

 ISを使用するにせよ、全く気が付かれずに第三アリーナへ侵入するのは不可能だ。

 

「唯でさえ一夏の件で頭が痛いというのに」

『ええ、驚きました。弟さんは学園に入学するのでしょうか』

 

 昨日、織斑千冬の弟である織斑一夏がISを起動させ、世界が震撼した。

 マスコミや各国の対応に追われている中でこの命令だ。

 学園長も疲れの色を見せていた。千冬には精神的な疲労に思えたが、どうも違和感があったのだ。確証はないが。

 

「そうなるでしょう。ところで山田先生、今は何時ですか?」

『19時55分を過ぎたところです』

「30秒ごとにカウントをお願いします」

 

 照明が付けられたアリーナには織斑千冬一人考える。

 

『58分30秒』

 

 真耶がオープンチャンネルで時刻を告げる。

 

『59分0秒』

 

 相手を待つ。

 

『59分30秒』

 

 まだ現れない。

 

『20時ジャスト。現れませんね』

 

 一息つく、しかし直ぐに気合を入れなおす。20時頃だ。過ぎたからと言って安全とは言えない。

 

「いや、気を抜くのは早い」

『全く』

 

 オープンチャンネルに混ざる第三者。鳥肌が立ち背後を振り向く。アリーナの端に青いISを纏った人物が立っていた。

 千冬はハイパーセンサーで注意を払い、真耶は管制室で全体見ていたのだ。あり得ない話だが、突然現れたとしか考えられない。

 

『お、織斑先生』

「わかっている」

 

 素顔を晒している相手の顔は平凡と言えた。歳は中学生くらいか。

 

「男、だと」

『女に見えます?』

 

 衝撃を受ける二人に対し、それがどうしたとばかりのあっさりとした返答。正面にいるのは少年だった

 ハイパーセンサーで再度確認する。相手はISで間違いない。

 だがISは未登録、操縦者も未登録。どういうことだ。

 よく見るとそのISは変に古臭かった。歴史が浅く第三世代が開発中のISに古いも何もない気がするが、千冬はそう思った。

 胴体と足を覆う装甲は黒、肩から手までの装甲と背後にある二つ巨大なスラスターユニットは青、両手に銀色の鉤爪を持つ機体だ。

 

「何者だ。どこから現れた」

『聞いていないのか?』

「ああ」

『俺は七海緑兵、それと相棒で専用機の』

『青衣です。よろしく』

 

 後半は若い女の声だった。得体の知れなさに千冬と真耶は喉を鳴らす。

 

「その七海が何の用で侵入した? それと今の女性の声は何だ?」

『俺の相棒、専用機の声ですよ。それと侵入? 実力を見たいと呼んだのは学園側だ』

「時間に遅れたのは?」

『頃、でしょう。ぴったりと指定されたわけじゃない』

 

 少々会話が噛み合わないが状況は理解できた。学園長も趣味の悪いことをすると千冬は苦笑する。

 

「なるほど、確かに実力を測るように言われている。遅刻の件はもういい」

『ということは、相手はそちらでいいのか』

 

 ISの出現により女尊男卑に傾いた世の中でブリュンヒルデに対してそちら呼ばわりした男。顔を知らないとは言わせない。

 千冬の出す圧力に管制室にいる真耶は思わず顔をひきつらせた。

 

「ああ、君の実力を測らせてもらう」

 

 千冬はブレードを出し、七海緑兵と名乗った男に向けて半身に構える。

 

「了解」

 

 そんな圧力など何も感じていないのか緑兵は平坦な声で返し顔を面で覆う。狐を思わせる奇妙な面に紫と橙のラインの入ったものだ。

 空中に浮くと、左手に刀と思しき武器を出現させ切っ先だけ千冬へ向ける。右手はだらりと下げ正面を向いたままだ。唯前を向いただけ、半身でもない。

 武器を出す一秒にも満たない速さに千冬は感心していた。一方で不審に思う。

 

「構えないのか?」

『もう構えています』

「そうか、ならば行くぞ」

 

 言うと同時に千冬は地を蹴る。打鉄のスラスターを全開にし、緑兵との一気に距離を詰めた。音速を超えることも可能なISの機動力ではすぐに到達することができる。

 緑兵は動かない。反応できないのか何か考えがあるのか、面で覆われた顔からは読めない。

 手にしている刀で迎え撃つにしても、動きがない。

 奇妙に思いつつもそのまま斬り付ける。そしてブレードは空を切った。

 緑兵が消えたのだ。死角に入ったのではない。当たる寸前でいきなり消え失せた。

 

「馬鹿な」

 

 千冬は思わず口に出す。何かあるとは思っていた。七海に反撃されても対応できる自信があった。だが消えてしまうなど流石に予想外だった。

 いや、そもそもこいつはどうやって現れたのか?

 そこまで千冬の思考が到達したときには既に遅かった。

 

『上です!!』

 

 オープンチャンネルから届いた真耶の悲鳴にも似た叫び声。

 遥か上空に現れた緑兵の機体から放たれた白い極光がアリーナに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 アリーナに大穴が空いていた。

 真耶は思わず自分の手で己の口に手を当てた。そして気が付く。緑兵が端に近い場所に現れた理由は逃げ道を狭める為だったのか。

 真耶の発言で気が付いたのか、千冬はイグニッション・ブースト(瞬時加速)で切り抜けた。

 それでも余波でダメージはあったようだ。小さいものではない。直撃ならばどうなっていたか。真耶の背に冷たい汗が伝った。

 

「山田先生、横から口を出すのは」

 

 背後からは初老の女性が現れる。紙袋を手に持った学園長だった。

 すみませんと謝罪し、アリーナの戦いに視線を移す。

 彼にとって時間は数秒で十分だったのだろうが、戦いは一変していた。

 青衣を纏う緑兵の周囲には、くるくると不規則に飛び回る4つの黒い球体(オプション)が追加されていた。

 バスケットボール程度の大きさのオプションは奇妙な文様が刻まれていた。そこから豪雨、或いは暴風雨と言うべきか、上空に現れた緑兵とオプションから、常識では考え得られないおびただしい数の飛び道具が放たれていた。

 緑兵は弾切れなど無いのか気にしていないのか大小の赤いエネルギー弾、死角を狙うような誘導弾、途中で破裂し無数の球を生み出す弾など弾幕を放つ。

 嫌らしいことにスピードも生身でも躱せそうな遅いものから、ISを使わなければ避けられないほど速いものまで大きく異なる。

 遠距離攻撃はライフルやミサイルが主流である。似た様な武器にビットがあるがまだ試作段階のはずだ。そして弾数が段違いだ。

 千冬も真耶もこのような戦い方をする相手を見たことが無かった。

 当初、千冬は回避した先にある遅い球を受けたものの、コツを掴んだのか距離を詰めていく。とはいえ一発一発が軽くは無い。シールドエネルギーは減っていた。

 本来射撃武器を使用するべきだが、千冬の打鉄にはブレード以外の武装は外されていた。接近するしかなく、相性は最悪だった。

 更に上下左右と細かく動きつつ後退する緑兵から、千冬を直接狙う赤い針の様なレーザーが追加される。

 光弾やニードルレーザーの威力は大きいものではないが数が違い過ぎる。直線的な動きになるイグニッション・ブーストは使えない。ダメージ覚悟で突っ込んだら、大量の光弾に触れてしまい、シールドエネルギーすぐに尽きてしまうだろう。

 

「テレポートか? 驚いたが弾をばら撒くだけで手の刀は飾りか?」

『そいつは試験官としての発言で?』

「どうだかな」

 

 明らかな挑発。緑兵は挑発を受けたのか、飛び道具の速度と軌道が千冬を包囲するように変化した。

 放った弾も調節できるのか。変化した弾幕に千冬は後退したものの、回避に専念すれば彼女の腕なら当たることがそうそう無い。

 だが、真耶は自分ならどこまで躱せるだろうと考えた。

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、千冬は緑兵との距離を数十メートル程まで詰めていた。

 ISならば一瞬で詰められる距離だが簡単に近づけない。それだけ弾の密度が濃いのだ。

 緑兵から放たれた弾幕の集合体を千冬は紙一重で躱すが、移動した先にあったエネルギー弾に掠ってしまう。

 

『ふふ』

 

 じわじわとシールドエネルギーが削られる中漏れる笑い声。千冬だった。傍目に彼女の動きがだんだんと動きが良くなっているのがわかる。

 

「織斑先生、楽しそうですね」

 

 学園長からだ。茫然としていた真耶も首肯する。こんな千冬は初めて見たのだ。

 長いブランクがあるにせよ、彼女が攻撃できないなんて。

 千冬が一定の範囲で回避に専念する。距離が離れてしまえば弾同士の距離も開くことになる。今の彼女なら簡単に当たることは無い。

 当たらず、攻め込めず。状況は停滞していた。

 

「綺麗」

 

 思わず真耶の口から出た感想。まるで花火だ。広範囲に渡り放たれる弾幕は一種の芸術の様だった。

 弾幕を放つ緑兵の実力の判断など忘れ、見惚れていたのだ。

 時間にして更に数分、弾の量はますます増えていく。中には空中に留まるものもある。

 二人は一定の距離を保っていたが、戦いは突如動くことになる。

 最少の動きで回避していた千冬が一気に距離を詰めたのだ。見切ったのか、小さなダメージは無視し距離が詰まる。

 そして今までふらふらと漂っていた緑兵が一気に千冬へ向けて接近した。

 二人は真っ向からぶつかり合いブレードと刀の間に火花が散る。押し負けたのは千冬だった。これは機体性能の差だろう。

 いや、性能差を利用し緑兵の勢いが付いた時にぶつけたと言うべきか。

 しかし千冬は逆に押された瞬間を利用し体を回転させ、緑兵の側面に回り込みブレードを振るう。しかし、緑兵は押した状態のままイグニッション・ブーストで直進し一撃をやり過ごす。この時に自らが放ち、漂っていた光弾が数発当たるが、問題ないのかシールドエネルギーが減らない。

 しかし触れた弾は消失した。一筋の道ができる。

 千冬は追う。打鉄ではスピードが劣っていた為、緑兵に向き直る時間を与えていたが、傾いていて体制は万全でない。

 今度はブレードで突いた。しかし緑兵は安定した姿勢で千冬の突きを刀で払う。明らかに空中の動きに慣れている。

 千冬はそのままイグニッション・ブーストを行い肩から緑兵に衝突する。緑兵は吹き飛ばされたが瞬時に消え、千冬の真下に出現する。

 加速はそのまま真上にいる千冬へ向けて、彼は後ろを向いたまま左手一本で刀を振り抜いた。

 周囲360度全方位を見ることができるハイパーセンサーに慣れていなければできない芸当であり、同時に真下というハイパーセンサーの死角を利用した不意打ち同然の攻撃だったが、千冬は体を横転させブレードで受ける。

 彼女は見てなかった。感を頼りに受けたのだ。

 しかし、緑兵は二発目を振るう。いつの間にか右手に別の刀が出現していたのだ。

 二本目は単に刀を二本収納していただけだが、展開速度が速い。これは流石に予想外だったのか、千冬はブレードから左手を離し緑兵の右腕を掴むようにして止めた。

 瞬間に緑兵の蹴りが入れられるが千冬は足で受け止める。二人は互いに互いを抑えるように動きが止まる。

 ここで千冬は驚愕する。その後、笑う。今まで見せたことのない獰猛な笑みだった。緑兵は面で隠れているのでわからない。だが彼の纏う空気は普通ではない。明らかに何かを狙っている

 真耶はそんな二人の様子を見て直感的にまずいと感じた。止めるべきだ。

 そこへ緑兵の周囲にあるオプションが千冬目掛けて突進してきたのだ。

 千冬は緑兵の腹部に蹴りを入れて離す。これを読んでいたのか、蹴りに合わせた緑兵のダメージは少ない。スラスターの噴射を合わせて真下に進んだからだ。千冬はオプションへブレードを振りかぶり、オプションが消え失せた。たたらを踏む千冬に緑兵は落下しながら刀を消し、右手に出現させた八角形を掲げ、

 

『そこまで!!』

 

 真耶からの一言で二人は動きを止めた。

 

 

 

 学園長は二人にピットへ呼んだ。

 学園長と真耶がたどり着いたときは、二人は睨み合いをしていた。学園長に気が付くと千冬は打鉄から降りて真耶と並ぶ。緑兵は三人の向かいでISを解除した。

 彼の格好は時代錯誤と言えた。通常は専用のスーツだが彼は和服の様なものを着ていたのだ。

 首に巻きつけた青い鎖と足元のブーツがアンバランスだった。他に装飾品が無い以上、鎖がISの待機形態かもしれない。

 

「君が七海緑兵君ね」

「そうです」

 

 学園長の問いに対し単純な返答。

 

「専用機は青衣さんね。彼女にも出てもらえるかしら」

 

 ISに敬称をつけた発言に千冬と真耶は怪訝な顔をする。意味が分からなかったが直ぐに回答は出る。

 緑兵の斜め後ろに青い長髪と青い瞳を持つ少女が現れた。

 歳は緑兵と同じくらいか、彼の背後に青い着物に厚手の赤いストール、人形のように美しい少女が宙に浮いていた。余りに非常識な光景に千冬と真耶は驚きで後ずさりをする。流石に学園長も目を見開いた。

 ゆっくりと彼女が地上に降りる。

 

「初めまして。私が青衣、彼のISです」

「ええ、こちらこそよろしく」

 

 ぺこりと挨拶するする彼女に学園長も答える。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 真耶は軽くパニックを起こしかけていた。

 

「あなたがIS?」

「はい、正確には意識を移した体ですね。本体は緑兵が持っています。私たちISのコアに独自の意識があることはご存じでは?」

「確かにそう言われていますが」

 

 返答に困る。現実に現れるなどは聞いたことがない。

 

「それと、織斑千冬さん。お久しぶりです。あなたは気が付かなくて当然ですが」

「何?」

 

 学園長と真耶の視線が千冬に向かう。

 千冬は困惑していた。青衣と名乗る少女から伝わる空気はどう考えても好意的なものではない。

 

「その辺はいずれまた。それで緑兵の入学はどうなのですか?」

「入学自体は問題ありません。織斑一夏君も同じ男性がいれば心強いでしょう」

「それはわかりませんよ。合うか合わないか実際に会ってみなくては」

 

 彼は笑う。

 

「ところで織斑先生、彼の実力は?」

 

 学園長の問いに千冬は返答に困る。結果と言えはブリュンヒルデに対してよく戦ったと言える。特にテレポートと弾幕は脅威だ。並みの相手ではすぐに弾幕にやられてしまう。だがそれよりも

 

「あのテレポートは何だ。そちらの青衣のワンオフ・アビリティーか?」

 

 これが一番の異常だ。間合いも何もあったものではない。

 緑兵は空中の動きに長け、イグニッション・ブーストも使用した。青衣の機動力も高い。逃げ回られたら捕まえるのは難しい。

 

「あれは俺の能力です」

 

 あっさりと返答する緑兵。

 

「お前は、自分を超能力者だとでも言うのか?」

 

 余りの返答に千冬は一瞬唖然となり、睨み付ける。真耶はぽかんとしていた。

 

「まぁ、その辺はどうでもいいでしょう。できるとだけわかってくれれば」

 

 千冬は納得いかないものの、これ以上は無駄だと考えた。ここで彼女は思い返す。

 

「あの弾は何だ? 見たことがないぞ。あんなものは」

「今まで見たことが無いだけでは?」

 

 青衣だ。馬鹿にされていると思ったのか圧力が増す。

 真耶は顔色を青くするが、緑兵と青衣は平然としていた。胆力があるのか、馬鹿なのか。

 千冬は間違いなく人間としてトップクラスの迫力の持ち主だが、二人は大妖怪と九尾の狐に育てられているのだ。胆力は並ではないし、そうでなくては幻想郷で過ごせない。

 

「織斑先生」

 

 学園長に宥められ圧力が緩む。実は一番ほっとしたのは真耶だった。

 確かに見たことがないのだから言うことに間違いは無い。しかし腑に落ちない。

 

「弾を全方位に出していたが、無駄とは思わないか?」

「思いません。相手の自由に動く空間を奪い、削るのが目的です。

 テレポートと言うんでしたっけ、方法はともかくいきなり現れるなんて何時もの事です。背後を取られてはたまらない」

「……普通はテレポートなどできない」

「何人かできるのを知っていますけど」

「ねぇ」

 

 信じられないが、顔を見合わせる二人に嘘を言っている様子はない。千冬は頭を軽く抑え、真耶は乾いた笑いを漏らした。

 

「弾をある程度なら操れるのだろう? あれはフレキシブル(偏光制御射撃)に似た様なものか?」

「何ですか、それ?」

 

 フレキシブルはビットから射出されたビームを操る技術だ。だが質問に対する緑兵の答えと首を傾げる青衣。意味が通じていないらしい。

 

「専門分野は学ぶ必要がありそうだな。

 射撃は相手が動ける範囲を考え絞る方がいい。相手の数にもよるがそこは対応しろ。

 ところで途中から距離を取るのを止めたのは何故だ? テレポートができるならまた距離を取り直せばいいはずだ」

「単に接近戦が見たいと解釈しました」

 

 なるほど、挑発したときに試験官としての発言か聞かれた。緑兵はあれを接近戦の試験と取ったのか。

 しかし、放った弾が操れるなら相手にしてみれば厄介だろう。

 

「遠距離と空中での動き、回避は大したものだ。だが接近戦はまだ慣れていないようだな。少し訓練が必要だ」

「わかりました」

 

 緑兵は首肯する。そこで千冬は真剣な面持ちになる。

 

「ところでお前の蹴りをガードした時、大幅にシールドが減った。剣を受けた時もだ。あれは昔私が乗っていた暮桜にあった零落白夜そっくりだった。何をやった?」

 

 問い詰めるような勢いだ。

 

「其方ではシールドと呼んでいますけどね。あれは元々こちら側の技術ですから、接触すれば解体や破壊はできますよ」

「は?」

「俗に結界って呼ばれている代物ですよ。俺が身に付けたものと、基礎はほとんど同じだったので解析が進んでいるんです。

 まぁ、体系の違いでしょう。武道でいう流派の違い程度ですよ。それを身に付けているので触れた時に一時的に壊しました。結界の仕組み自体が荒いので無理やり破ろうとすればできますが。

 因みに量子化も似た技術はあります。青衣はそれを使って、体を維持していますし服も作っています」

 

 青衣に困惑した視線が集まる。青衣は頷いた。

 

「他にもありますけど、聞きます? 聞いても今はどうかなると思えないですけど」

「……そうだな。話を戻そう」

 

 千冬は軽く頭を振る。

 こいつはテレポートをした。もし相手に絶対に接近されずに一方的に射撃を行うとしたらどうなるか。

 

「最後に掲げていた八角形はもしや最初の?」

「そうです」

 

 幻想郷には実力者が多くいる。そしてスペルカードには強力なものが多く、青衣がISの兵器として再現可能な代物もあったのだ。

 オプションに回しているエネルギーを一時的にカットし、スペルカードを模した攻撃にする。ある意味で、それが青衣のワンオフ・アビリティーと言えるだろう。

 使ったものは『幻符・偽マスタースパーク』。八卦炉を霖之助に注文し、ISの装備として青衣が取り込んで改造を施したIS用ミニ八卦炉を使い、魔砲マスタースパークに似たものを発射させる。

 つまり、先程は真下から『幻符・偽マスタースパーク』による一撃を考えていたわけだ。千冬は下手をすれば直撃をしていたかもしれない。

 弾幕といい、オプションといい、ミニ八卦炉といい青衣の装備と緑兵の戦い方は完全に予想外のものだった。

 いい加減痛みを覚えそうな頭を抱え、再度千冬は問いかける。

 

「お前本来の戦い方は?」

「……IS同士の戦闘は初めてですから、これから考えます。完全に我流ですし。

 今日は遠距離から相手が自由に動く空間を奪う弾幕と、本人を狙う攻撃を試しました」

「初めてでこれか……。

 なら一から基礎を学んだ方がいい。無論既にできるものも多いだろうが、甘く見るな。テレポートを使うことなく間合いを制するようになれ。テレポートは切り札として取っておけばいい」

 

 ここでふと気が付く。理事長が笑顔だったのだ。

 

「それでは織斑先生。来年度、彼のことを宜しくお願いしますね」

「宜しくお願いします」

 

 一礼をする緑兵と後ろでくすくす笑う青衣。もう千冬は何も言えなくなった。

 

 

 

 

 

「俺達への調査と情報の確認で時間はいるでしょう」

 

 学園長と緑兵達は一週間後に会う約束をする。名目は新入生向けの資料の受け渡しや制服の採寸をするらしい。

 調べられるのは前提、なかなかに図太い。

 

「それでは失礼します」

 

 青衣が緑兵の手を取り、二人は消えた。

 本人ができると言ったのだ。もう驚かない。

 

「あの、学園長」

 

 おずおずと真耶が問いかける。

 

「なんでしょうか、山田先生。とはいえ何を聞きたいのか見当は付きますが」

「二人は何者ですか?」

 

 理事長は困った顔で、

 

「実は私も昨日聞いたばかりなので、何も言えないです。

 しかし、あの二人が現れた以上、伝えられた情報が事実である可能性は高くなる」

「伝えられた情報とは何でしょうか」

 

 これは真耶だ。

 

「今は言えませんが織斑先生には確認を取らねばなりません」

「私ですか?」

「ええ。非常に重大なことです」

 

 理事長は腹に括った顔をしていた。

 

 

 

 アリーナで、一部始終を見ていた生徒がいた。

 名は更識楯無。一年生ながら学園最強である生徒会長を務め、ロシアという大国の代表候補生だ。

 彼女は口元に扇子を当て笑った。

 

「おもしろいじゃない」

 

 




更識楯無がいつロシアの代表になったのかわからないので、一年生は代表候補生、二年生への進級時に代表になったとしておきます。

-追加-
少し修正 全体見直し 「待機状態」⇒「待機形態」
全体の改行修正 「ビット」⇒「ピット」
誤字脱字修正
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