幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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17.5_四色の夜

「ざっくりとこんなものですね」

 

 説明を終えた青衣が記録を止めた。

 寮長室での出来事から時間が経ち、再来週から学年別トーナメントが始まる。

 土曜日の消灯時間と同時に俺と青衣は『拠点』に戻っていた。寮の部屋は既に明かりは消した。念のために部屋の中は『窓』で映してある。

 戻った理由は目的は幻想郷への直接報告である。

 普段はノートを交換日記の様に使い、定期的に質疑応答を繰り返すのだが、やはり直接会った方が良いという事で時間を擦り合わせたのだ。もう今夜は徹夜覚悟である。トーナメント直前だと体調管理にも支障が出そうなので、その1週間前で翌日が休みに設定したのだ。

 丸いテーブルを寝間着姿の俺と青衣、スキマ妖怪の紫姉さん、九尾の狐である藍姉さんの4人で囲み、ノートでの報告と被るが最近の出来について青衣の記録を交えざっくりと報告した。

 主に一夏と箒、織斑先生が篠ノ之束への説得を了承をしたこと、織斑先生と寮長室で話した内容、シャルロットとラウラの転入、トーナメントの件だ。但し、シャルロットの件は更識会長と虚さん、青衣と4人で会話した内容は除いてある。これは青衣に頼み込んだ。俺との境遇や紫姉さんの特徴がシャルロットと一致したからと言ってあれこれ見せてしまったことがバレたら、からかうに決まっている。

 後は俺の両親の遺骨の問題も話した。こちらはトーナメントが終わった後か夏休みにでも取りに行き、寺に頼もうと思っている。

 

「前回から1月程度だけど、色々あったわねぇ」

「あり過ぎな気がする」

 

 以前に作ったクッキーやマフィンを摘まみながら、紫姉さんが今まで見ていた青衣の記録の抜粋を振り返る。シャルロットはともかく、第二回モンドグロッソで起きた一夏の誘拐事件とドイツの関係には眉を顰めていた。やはり何か感じ取ったものがあったのだろうか。

 

「しかし、織斑千冬を現役復帰させる事で絶対命令の解除か、良く思いついたな」

「ちょっとハードルがありますけどね」

 

 藍姉さんが俺を見て感心したような声を出し、青衣が合いの手を入れる。

 

「織斑千冬の引退理由ね。まさかそんな背景があったとは思わなかったわ」

「その辺について学園長達にトーナメントが終わった後で話す予定です。今は忙しいですから。重要な話という事で織斑先生が時間を貰いました。

 要望があれば私達も同席します。その時次第でラウラ、ドイツの軍人も巻き込むかもしれないですね」

 

 ふむ、と紫姉さんは軽く頷いた。

 

「任せるわ。手段としては良いと思う。但し」

「入れ込み過ぎない、視野を狭めない様にでしょう?」

 

 被せるように俺が言うと紫姉さんは笑う。

 

「その通りよ。この件もそうね。冷静で客観的に見れる誰かが織斑千冬から話を聞いていれば気が付いたかもしれないわ」

「俺も青衣も脱力したよ。それにまだ、信用したわけじゃない」

 

 実際、この時の青衣の記録、視線はあさっての方向に行き、嘆息気味の音が入っていた。

 

「織斑千冬の件はこれ位にしましょう。そのトーナメントが終わるまでは動きようがないでしょうしね。

 それでトーナメントだけど、驚いたわね」

「タッグのトーナメントにシード、しかも一人枠か」

 

 姉2人は機嫌がいい。藍姉さんは9つもある大きくてもふもふの尻尾が動いている。多分シードの理由が原因だろう。その言葉に頷きながら、俺は幻想郷にある人間の里で売られている煎餅を、青衣は餡子が乗った団子食べていた。

 もう俺は幻想郷側が故郷の味になっている。時々食べたくなるのだ。

 というより藍姉さんが人間の里で菓子をいろいろ買ってきたのだ。『倉』があるから団子とか日持ちのしない菓子もある。更識会長や学園長と会うなら茶菓子として出す様に言われた。

 まあ、俺達が姉と会っていることは向こうも解っている事だろう。

 

「それにしても緑兵の今後か……」

 

 ぽつりと、紫姉さんが呟いた。

 

「俺は外の世界に残る気は無い。幻想郷でもやることはあるし他の世界、例えば冥界や魔界にも興味ある」

 

 それを受けて、俺は自分の進路を言う。

 

「んー、その時に人間のままでいるのも辞めるのも緑兵次第よ」

「まあね」

「最終的な決断は任せるわよ。外の世界に残るか、幻想郷に戻るかも含めてね。

 私としては戻って欲しいけど」

 

 重大だが俺の先は大体見えているのだ。幻想郷を知らない者に言う訳にはいかないが。

 紫姉さんの声に俺は頷いた。青衣と藍姉さんもこっちを見ている。同じく任せるという事だろう。

 

「そうそう、あのシャルロットって娘はその後どうしたの?」

 

 同じく俺を見ていた紫姉さんが言う。

 

「約束した墓参りはこの前行った」

 

 シャルロットが育ったフランスの田舎町、その一角にある墓地に彼女の母親は葬られていた。此方では昼過ぎだが現地は早朝、『窓』を介して能力を使い誰もいない事を確認してから制服姿のシャルロットを1人現地へ送った。彼女は花やら何やらを持って行った。

 俺は彼女を映さない様に複数の『窓』と空間支配を使って周辺の警戒に終始した。俺が警戒していたデュノア社の者はおらず、聞き慣れないフランス語を話すシャルロットの声だけが耳に入っていた。何を言っているのか理解はできないしする必要もない。

 30分程経ち、あらかじめ教えていた『窓』で確認できる場所にシャルロットが現れた。すっきりした顔の彼女を見て、俺は自分の性格の悪さを痛感した。彼女を回収後、礼を言われた時に良心が非常に痛かった。当のシャルロットと青衣はそんな俺を見て不思議そうな顔をしていたのが印象的だ。

 

「父親、デュノア社長については……呆れてた」

「へえ」

 

 俺は一度嘆息し、続きを話す。

 

「更識会長と虚さん達も一緒に聞いたんだけど、シャルロットは最初責められたらしい。初日で男装がばれた事と産業スパイがあっさり失敗したことで役立たずだって」

「ふうん」

 

 気の抜けた紫姉さんの反応だ。

 

「デュノア社や社長が提出した書類その他が原因で、転入初日には半分詰んでいたことを話すと絶句したってさ。向こうは本気で気が付いてなかったみたい。男装も胸をコルセットで潰せば何とかなると踏んでたらしい。

 時期を考えて、思いついて即実行したんだと思うとシャルロットが言ってた」

「……」

「俺達、生徒会側の見解を聞いたからそれを美談として使うかもしれない、そう言って呆れ果ててた」

「うわ……」

 

 少し嫌悪が沸いたのか紫姉さんは声を発し、藍姉さん顔を少し歪めた。

 

「IS学園に残って訓練で得たデータは送れと命令されたって。だから専用機も保留、ため息交じりで話していたよ。

 会社はともかく父親とは本気で縁切りするかも」

「父親と直接会わないで正解ね」

「全くですよ」

 

 紫姉さんの後に青衣が続く。

 

「フランスの代表候補生はどうなったの?」

「剥奪されないみたい。男性としてだけど転入前にフランス国内で代表候補生の試験は通っていたらしい。実力的に問題無いからそのままだって。

 俺は少ししか見てないけど、鈴やオルコットと比較しても遜色無いし順当だと思う。

 フランスの担当官も実は女性であることに薄々感づいてフランス政府に報告もしていたって。転入話が急だったこととデュノア社の令嬢、じゃないなご子息扱いだったから迂闊に突っ込めなかったそうだ」

「なるほど、シャルロットさんは一先ず大丈夫か。よかったわね」

 

 藍姉さんの質問に答え、紫姉さんがうんうん頷いた。

 ん? ちょっとした違和感。

 

「紫様、私もシャルロットさんが気になるんですよ。何ででしょうか」

 

 藍姉さんは自身の顎に手を当て、首を傾げる。

 

「これ以上不憫な目に合わなくて良かったと思ったのだけど、何か気になるのよねぇ。藍、どの辺から引っ掛かった?」

「顔を見た時に少し、境遇を聞かされた辺りでもやもやしましたね」

 

 不思議そうに姉2人が顔を見合わせる。まずいかも。

 

「緑兵と同じですね」

「おい」

「間違いなく、緑兵と同じ違和感持ったと思いますよ。出します?」

「出して」

 

 口止めは何とやら、青衣はあっさり裏切る。紫姉さんのゴーサインで記録を再生させた。

 俺と紫姉さん、シャルロットの共通点が記録で流された。更識会長が俺が紫姉さんの技をアレンジしたところまで出なくて助かった。俺からすれば少し恥ずかしい過去が改めて流されるところだった。

 でも、青衣、やってくれたな。

 

「ふむふむ」

「なるほど」

 

 姉2人は満足げだった。さあ、どう来るか!!

 

「すっきりしたわ。他にシャルロットさん関係は無いの?」

 

 それだけで特に突っ込んでこなかった。

 あれ?

 

「シャルロットが言ってた篠ノ之束の持つ絶対命令の裏付けだけど、無人機の襲撃が大きいみたい」

「へえ、どういう事?」

「新技術だろうが無人でISが動くんだから男が動かせないのは変という見方があるらしい」

「そういう見方もあるか。正式に無人機をIS学園で管理して貰って正解ね。

 で、シャルロットさんについては無いの?」

 

 変に食い付くね、2人とも。

 因みに無人機はIS学園にある好評されていない地下深くで管理されている。一応入学前にIS学園自体を空間支配したから公表されていない場所位は気が付いた。無人機の回収後、『窓』で保管場所を確認した。

 

「後は記録で見た通りトーナメントで一夏と組んで貰った。コンビネーションの訓練もある程度順調みたい。

 それと一夏に男として転入した理由は話したって。特に何かあったわけじゃないけど、一夏には後日、白式はISを開発している会社が情報を得ようと人を送りこんで来る位貴重なものだから用心するように念押しした位かな」

「ふうん。男性操縦者とのタッグだけど織斑一夏君、随分モテているみたいね。他の娘と、特に篠ノ之箒とは揉めなかったの?」

 

 青衣が話す。当然ながら箒、オルコット、鈴の一夏の取り合いは以前に伝えてある。下世話な話だが男性操縦者の動向として一応といったところだ。

 

「揉めました。他の生徒は緑兵の説明で一応納得したみたいですが、改めて私達の所に何故シャルロットさんと組ませたのかと問い詰められました。見ます?」

「見る」

 

 青衣の言葉に対して即答である。青衣は記録を出す。真っ白な空間が再生を始めた。

 

 

 

 

 

 月曜日、視点である青衣が俺と共に教室のドアを潜ると一夏に箒が詰め寄っていた場面だった。この時、廊下にも声は響いていたが。

 多分、箒も教室に来た直後だろう。彼女はカバンと木刀が入った袋を担いでいた。

 

『何故シャルロットなんだ!!』

『だから七海と組むつもりだったんだって』

『何故奴と組まん!!』

『七海は単独、一人で参加するんだ』

『単独? だったら何故私じゃないんだ?』

 

 ルームメイトから話くらい聞いていないのか? というか誰がルームメイトだっけ?

 

『その七海がシャルと組めって。話を聞いたら納得してさ。シャルも了解してくれた』

『くっ』

 

 そこで俺と青衣が教室に入ってきたことに気が付く。画面の隅に映る俺に肩をいからせて近寄ってくる

 

『おい、七海?』

『何だ?』

 

 おはようもなく、問いから始まった。

 

『何故シャルロットと組ませた!?』

『声がでかい。一夏のタッグか?』

『そうだ』

『全部の距離が対応出来て腕も確かだからだ。専用機持ちということで練習に時間もフルに使える』

『何故私じゃ駄目なのだ!! 専用機を持っていないからか!?』

『剣しかない一夏のフォローができるかだけど? 確かに専用機があるのも大きいけどな』

 

 だが彼女は納得しない。今にも爆発しそうだ。

 この時、シャルロットがまだ教室に居なくて助かった。居たら話は一層ややこしくなったことだろう。

 

『箒は剣が、接近戦が得意だろ?』

『それがどうした?』

『2人揃って剣を振り回してどうするんだ?』

『意味がわからないぞ!!』

 

 少し呆れ気味な俺と怒り心頭の箒。教室からも廊下からも注目も集まっている状態だ。

 

『ちょっと離れるぞ』

『……いいだろう』

『足元に軽い衝撃があるからな』

『ああ』

 

 俺は箒の手と画面に映る青衣の手を掴むと画面が教室から外の風景に切り替わった。屋上に俺が空間転移したのだ。

 箒は初めて空間転移をした。画面の中の箒はきょろきょろしている。

 

『仮にお前が専用機を持っていても近距離タイプなら俺は一夏と組ませなかったよ』

『何?』

 

 俺の言葉に箒が反応する。

 

『白式は剣しかないんだぞ。その欠点は必ず突かれる。俺が相手なら絶対に近づかせない。

 そのフォローが出来て、一夏が近づくまで相手をけん制できるのが必要なんだよ』

『そ、それは私でも……』

『剣ばかり言っているのにそんな器用な真似ができるのか?』

『やってやる』

『やってやる、じゃない。できるのかと聞いている』

 

 黙る箒。

 

『一夏が、男性操縦者が一回戦負けとなったらどうなるか想像してみろ?』

『う……』

『しかも最高スペックの第3世代機である白式を使っている。実際は欠陥機もいいところだがそう認知されているんだ。

 そんな一夏が一回戦負け。さて、どうなる?』

 

 彼女は黙るが、そう簡単にはいかなかった。

 

『勝てばいい』

『何?』

『勝てば問題ない!!』

 

 それが答えだ!! とばかりに声を張り上げる。

 

『そうだな。だから一夏の勝率を上げるためにシャルロットと組ませた。シャルロットは全部の距離がいけるからフォローが可能だ。

 代表候補生で専用機持ちのオルコットと鈴、因縁のあるラウラ、一夏と面識が無い日本の代表候補生を除けばこれ以上の奴がいるか?

 それに中立だからな。オルコットと鈴も納得済みだ』

 

 その日本の代表候補生である簪さんだがこの前会った。のほほんさん達整備課志望の生徒数人や上級生と専用機を作成しているそうだ。まだ時間は掛かるそうだが。

 

『だから私が組むと……』

『また最初から説明させる気かよ。お前、『一夏が勝つ』ではなくて『私と組む』が目的になっていないか? 訓練もそうだったよな。青衣が散々指摘したろ? 目的が違うだろって』

 

 俺が疲れた顔でそう言うと、何故か箒は狼狽えた。

 

『お前、何故それを知ってるんだ?』

 

 あまりの言葉に俺は顔を引きつらせた。

 

『俺も住んでいる部屋で、俺の目の前で散々青衣に言われただろ!? 俺、居ただろ!? 椅子に座ってただろ!?』

『あ』

 

 必死な俺と呆気にとられる箒。記録の中の俺は肩をがっくりと落とす。記録を撮っている青衣のため息が大きく響いた。

 シャルロットが転入して来る前、切れた青衣に携帯で箒達いつもの3人が部屋に呼び出され纏めて説教を喰らったのだ。あの時箒達3人はベッドで座り、俺は隅で椅子に座っていた。

 この女、俺の存在をすっかり忘れていたのだ。流石にこれは無いだろう?

 

『それなんだよ。相手がどう思うか、青衣が言ってた通りその辺を一切気にしない……』

『っ!!』

 

 言い返せない箒は袋から木刀を取り出すと俺に向けた。俺はこの時も『空間を操る程度の能力』は解除していない。

 

『……姉そっくりですね』

『何?』

 

 画面は青衣の視点なので顔は出ないが、呟くような一言で箒は止まる。

 

『私の知る兎に良く似ています』

『私が? どこか似ていると?』

『理由が私の言うことを聞かないとか、そんな理由で今、木刀を持ち出しましたよね?

 相手の言うことは一切聞かず、そっくりじゃないですか』

『元は一夏が』

『その辺もそっくりですよね? 一夏さんが悪いとか、誰それが悪いからとかそんな風に考えてしまう理由を聞いているんです。

 その内、誰かを殺しますよ?』

 

 己の言葉を遮った青衣の言葉によって、箒は動揺し始めた。

 

『殺す? 私が?』

『中学生の時に剣道で全国優勝したって聞いていますよ。そんな人が木刀使えば凶器です。素人でも危険なのに。

 冷静に自分を振り返って下さいね? 将来刑務所に入りたくなければ。それともIS作った姉がいるからそんなことは無いと思っています? 実際そうかもしれませんけど』

 

 箒はショックを受けている。

 

『流石に予鈴が鳴ります。2人とも戻りますよ』

『あ、ああ』

 

 俺だ。青衣の剣幕に押されてしまったのだ。

 

『箒も手を出して下さい。緑兵、よろしく』

 

 そこで青衣の記録は元の白に戻った。

 

 

 

 

 

「無いわー」

 

 紫姉さんはごろんと転がった。

 

「特別広くも無い部屋に住んでいるのに、緑兵の存在すら気が付いていないとは……」

 

 藍姉さんも呆れた顔をしている。

 

「この後が面倒だったんだよな」

「そうでしょうね、喧嘩売ってこなかったの?」

 

 俺がぼやくと紫姉さんが状態を起こしながら聞いてくる。

 

「一回売られたけど、剣、剣道ではない方法で蹴散らした」

「へえ?」

「妖夢先生見ていたらわかるでしょ?」

「完璧にルール違反ね」

「ルールなんて知らないよ」

 

 姉2人は俺に対して呆れた顔をする。

 

「俺を武道場に呼び出したかと思えば、竹刀を放って一方的に『私が勝ったらシャルロットを解任させる』だからな。当然防具も何もない」

「剣道ですらないわね、それ」

「俺を叩きのめす気だったんだろうな。何せ中学校の日本一、勝つ自信はあっただろうな」

 

 俺の対する呆れは箒へと移動したらしい。青衣は思い出したのか意地の悪い笑みを浮かべた

 

「それで、結果は?」

「向こうのお蔭で俺の土俵で戦えた。真っ当な剣道だったら俺に勝てただろうに」

 

 紫姉さんの問いに答えると、にやりと笑う。

 

「青衣、出して頂戴」

「性格悪いですね、まあいいですけど」

 

 青衣は口ではこう言いながら、楽しそうに記録を再生し始めた。

 

 

 

 

 

 青衣の記録が映すのはIS学園の武道場だ。木製の壁と窓、床は板の間で一見古風に見えるが金が掛かっているだけ有り、床は畳に引っくり返る最新の施設である。

 そこの中心に裸足の俺がいた。記録では見えないが青衣も裸足になっている。入るときにそうする様に言われたのだ。

 奥から箒が出て来る。両手には竹刀を持っていた。

 

「この時、もう能力は使って武道場は支配下に置いてます」

「正解ね」

 

 記録を見ながら伝えておく。紫姉さんは答え、藍姉さんは力強く頷いた。

 

『ほれ』

 

 箒は片方の竹刀を俺に投げる。

 

『おいおい、お前何を考えているんだ?』

『私が勝ったら一夏と組む。意義は認めない。シャルロットは解任だ』

『はあ? 何言ってんだ?』

 

 構えながらにやりと笑う箒が言った内容を、俺は理解できず間の抜けた返事を返す。

 

『行くぞ』

『待て』

 

 俺は青衣の待機形態を隣にいる彼女に渡す。映る青衣の手には本体が握りしめられると、記録が少しずつ遠ざかる。

 当たり前だが青衣は俺の近くにいた。襲いかかってくる箒から距離を取ったのだろう。本体を外したのは青衣から離れられないからだ。能力は使用していたので何かあっても守ることはできる。

 

『念のために確認するが……』

 

 俺は軽く竹刀を握りながら箒に声を掛ける。左半身で剣先を後ろに向ける独特な、俺にとってはいつもの構えだ。

 

『何だ』

『一夏と同居していたよな』

『それがどうした?』

『妊娠して無いだろうな? 妊婦だから攻撃できんだろうと言われても困るぞ』

『してる訳なかろう!!』

 

 顔を真っ赤にし、箒は叫びながら一気に踏み込んできた。だが、俺はその場から消えた。空間転移で箒の真正面、つまり前に移動した。

 

『なっ!!』

 

 間合いが狂った箒は竹刀を振り下ろすことができず、身を屈めた俺が持つ竹刀の柄頭(持つ方の端)による一撃が彼女のみぞおちに入る。前のめりになった箒の首筋に俺は竹刀を当て、そのまま止まった。

 箒は目が大きく見開き停止する。そして俺は首筋から竹刀を離すと一歩退いた。

 俺は話をしている最中に妖術を掛け自身の反射神経を高めていた。箒の踏み込みは恐ろしく速かったが、それでも彼女が羞恥で無駄な力が入っていたこと、妖術の効果、動きを読んでいたこともあって完全に嵌ったのだ。

 

『あああ!!』

 

 ぼんやりしていた箒が叫んだ後、俺を切り付けてくる。俺は彼女の左側面に空間転移をすると、自分の足で箒の左足を、竹刀で箒の右足を払う。両足を払われた箒はバランスを崩し転倒する。

 箒が握っている竹刀を蹴り飛ばし、再度空間転移を行い飛んで行った箒の竹刀を回収すると二刀流の構えを取る。ISである青衣を纏った時と同じ構えだ。

 すこし離れた箒はゆっくりと立ち上がる。明らかに怒っている。

 

『貴様、剣道を知らんのか!!』

『知らん』

 

 叫びに俺はあっさり返す。箒は息を飲んだ。記録に映る俺の目は完全に据わっている。

 

『俺は剣道なんてやったことが無い』

『何? お前は剣を……』

『教わった。だがルールなんて無えよ。単に斬ればいい。それだけ』

 

 箒がごくりと唾を飲んだ。

 

『というか今のが剣道なのか?』

 

 この言葉に彼女は悔しそうな顔になる。

 

『全うな剣道なら俺に勝ち目は無かったろうな。ルールすら知らないんだ。多分、俺の技は殆どが反則だろう。正直、助かった。

 帰るぞ、青衣』

 

 俺はその場に2本の竹刀を置くと記録が近づいて行き、再生が終わった。

 

 

 

 

 

「無いわー」

 

 紫姉さんはごろんと転がった。

 

「2回目ですね」

 

 青衣が突っ込む。

 

「それで、この後はどうなった?」

 

 藍姉さんだ。

 

「今はもう大人しい」

 

 俺が淡々と返すと、ふむ、と藍姉さんが軽く頷いた。

 

「ラウラという軍人は?」

「今はもう大人し……くは無いけど騒ぎは無い。睨んで来るだけ」

「織斑千冬に相当お灸を据えられたな」

 

 藍姉さんが茶を飲む。

 

「まあ、2人とも頑張りなさい。貴方達もまだまだ未熟者なんだから」

「ん」

 

 横になったまま紫姉さんが俺と青衣を見て、軽く笑いながら言う。

 

「それで他に面白い事は無いの?」

「面白いと言うか……」

 

 再度上体を起こした紫姉さんの問いに青衣がぽつりと漏らす。

 

「私達って本当に『非常識』側なのか時々疑問が浮かんでくるんですが」

「……」

「外の世界は科学技術が常識で幻想が非常識なのは解るんですけどね。何か変な錯覚が出て来るんですよ」

 

 それは俺も常々思っていたことだ。青衣に同意して頷く。記録によってなんとなく俺達の疑問は解っているのだろう。姉2人は沈痛な面持ちだ。

 

「これを見て貰えます?」

 

 青衣が記録を再生する。

 

 

 

 

 

 見慣れた生徒会室が映される。何時ものテーブルで俺、更識会長と虚さん、そして視点である青衣が座っている。

 

「私達、トーナメントの警備について何か無いか聞かれたんすよ。その回答です」

 

 青衣が前情報を出す。

 

『万が一の時は織斑先生が指示を出すことになっているから、織斑先生と一緒にどこかのアリーナにある管制室で待機になるわ。

 あそこなら飲み物位は飲めるしね』

『解りました』

 

 俺が軽く頷いている。画面も少し揺れた。青衣が頷いたからだろう。

 何せ動いたりすると画面が揺れてしまうのだ。下手をしたら酔う。それに記録の加工が出来ない、つまり補正は効かない。これはある意味欠点でもある。

 

『それで七海君が出した質問なんだけどね』

 

 あはは、と更識会長が作り笑いを浮かべた。

 

『一応考えるってことになったわ』

『さいですか』

 

 俺の反応は薄い。こうなること位読んでいたのだ。

 

『揉めたんですか?』

『揉めたわ』

 

 記録から青衣の声が響くと更識会長は呆れた様な顔をした。

 

『大方、男だからとか始まったんでしょう?』

『……始まったわ。一部では失笑まで出てきたのよ。私達は十分ありえると思ったんだけどね』

『性別関係ないと思いますけどね、俺は』

 

 この言葉に更識会長が頷いた。

 

「緑兵、お前は何を聞いたんだ?」

 

 横にいる藍姉さんが俺の方を向く。

 

「慌てない慌てない」

 

 藍姉さんは記録の方を見直した。

 そこで更識会長が大きくため息を付いた。

 

『毎回IS学園が襲われるなんて有り得ない。だから七海君が聞いた『トーナメント中にIS学園が襲撃されたりトラブルがあったら進行はどうするか』なんて考える必要はないって力説していたわ。

 ついこの前、無人機に襲撃されたばかりでしょう? 流石に私達も呆れたわよ』

 

 更識会長はまるで愚痴を零すみたいだ。俺もその誰かさんには呆れた。

 

『その件で嫌っている俺達が表に出たはずなんですが』

『全くよ。専用機も多いし七海君や織斑君もいる。より実践的なタッグ戦。例年と全然違うんだから。男性に指摘されたから反射的に反発したのよ、多分』

『何10機もISがあるから安全だ、何て決まったわけじゃあないでしょうに。所詮、人が扱うものなんですから』

『そうね。でもどうするのかしら。

 例えば初日の第1試合で何か起きたら1週間のトーナメント全て中止するのかって話よ』

『俺達1年生は参考程度でも2・3年生は重要でしょう?

 わざわざ日本まで訪れた世界中の来賓が収穫ゼロ、手ぶらで帰らせるのは不味いですよね。IS学園としては』

『運営する側、学園長達は頭が痛いでしょうね。クラス対抗戦はあくまで学内だけど今回は各国の首脳やISを作る企業が正式に来るのよ。規模が違い過ぎる。

 後は判断次第ね』

 

 

 

 

 

 そこで青衣は記録を止めた。藍姉さんは納得したらしい。

 

「難しい判断だろう。イベントの中止と面子、その影響か」

「状況を推測して叩き台は作れても実際は起きた程度に寄り切りだし、その場で判断を下すしか無いわね」

 

 紫姉さんの言う通り、あれこれ考えてもしょうがない。

 俺は『倉』から酒瓶を取り出す。一升瓶が13本ある。

 

「佐渡の地酒です。佐渡の妖怪狸、マミゾウの子分達に会って購入してきました。

 マミゾウから教えて貰った銘柄で味はお墨付きです」

 

 俺は20歳以下なので表だって酒は買えない。マミゾウ配下の妖怪狸を経由して買う事になるとは思わなかったが。

 

「随分多いわね。うちはそんなに飲む方じゃ無いし、どうするの?」

「2本はマミゾウの分、1本は俺達からでもう1本は佐渡の妖怪狸達からです。

 1本は姉さん達。飲むでしょう?

 残りは宴会か何かがある時にでも開けて。足りなかったらノートに書いてくれれば佐渡まで行くから」

 

 紫姉さんは俺の言葉に頷いた。藍姉さんは1本を手に取る。

 

「緑兵は?」

「寮内で酒臭くしたらばれます。手元にあると飲みたくなるから持って行って」

「なら預かっておくわ。私達の分を含めて2本手元よ。宴会もこれだけあればいいでしょう? 足りなかったら言うしね」

「じゃあそれで」

 

 紫姉さんは俺が出した酒を全てスキマに吸い込ませた。

 

「幻想郷、ね」

 

 スキマを操る光景を見て、俺はふとある事を思い出した。

 

「幻想郷がどうしたのよ」

「更識会長に聞かれたんだ。幻想郷に住んでいる普通の人間にとって危険じゃないかって」

「あら」

「なんでも、俺を見てどういう中で生活したのか奇妙に思ったらしい」

「それでどう答えたの?」

 

 俺が言う前に、青衣が記録を出した。そっちに視線が移動する。

 確かに便利だけどさ、言わせてくれよ。

 

 

 

 

 

『そっちの人間にとって、危険は身近なのかしら?』

『どうしたんです? 突然』

 

 記録の中で机の上を片付けている俺を近寄ってきた更識会長がしげしげ眺め、不思議そうな顔をしている。

 

「さっきのトーナメント云々から1時間位後、ひと仕事終わった時に聞かれた」

「へえ」

 

 紫姉さんが相槌を打つ。藍姉さんも記録をじっと見ている。

 

『七海君って用心深いと言うより自然と身についているのよね』

 

 虚さんも寄ってきたので、記録に映る。

 

『実は七海君の地元って結構危険なんじゃないの?』

『危険ですよ』

 

 あっさり返す俺に、更識会長と虚さんがぎょっとした顔をする。

 

『人間にとって人間の里以外、全て命の危険がありますね。妖怪側に属していようが俺にとっても同じです。里の中も犯罪が無いわけではないですしね』

『……実はずっと気になってたんだけど、人間の里って言う言い方自体おかしいわよね』

『何が変なんです? 人間が集まっているから人間の里。万単位で住んでますよ。まあ、少し妖怪も混じっていますが』

 

 じっと俺を見る2人。

 

『その人間の里から出ることはできるの?』

『出来ますよ。狩りや魚釣り、山菜採り、里の外にある店に行くのに出歩いてますね。後は神社や寺の参拝とか』

『閉じ込められているわけじゃないのね?』

『子供でも外に出れますよ。基本的に危険なんで親か年上が付いていきますが。

 そうですね、俺達生徒も用事が無ければIS学園から出ない様に、意味なく人里の外へは行かないだけです』

『その人里に住んでいる七海君みたいな能力持ちは?』

『同じですよ。里に住んでいて突然俺みたいに不思議な能力に目覚める者も珍しくない場所です』

 

 俺の顔には何を言っているんだと書いてあった。

 

『じゃあ、その人間の里の外に出ると普通の人間は危ないの?』

『危ないですよ』

 

 ここで更識会長が息を飲んだ。

 

『外の世界でも手つかずの自然に、例えば山奥へ入ったら危険でしょう? 猪や熊みたいな動物に毒のある虫や蛇、道に迷って遭難とか。

 こっちは携帯電話で救助を要請するなんて無理ですからね』

『それは……そうね』

『基本的に自然と人間、他の種族と調和しているんですから、人間主義で世界中を改造した世界と一緒にしないで下さい』

 

 更識会長は少し納得をしたようだ。

 

『危険な動物がいるのに妖精なんて道迷わせるし』

 

 だが、続く俺の言葉に2人が吃驚した顔をする。

 

『本能しかない、理性が無い人食い妖怪もいるし』

『ちょ、ちょっと待って下さい』

 

 今度は虚さんだ。慌てている。

 

『それ、かなり危険な世界じゃあ……』

『妖怪や妖精が跋扈する世界ですよ? 楽園であるとともに理不尽な死が襲う世界でもあります。人間の里みたいに管理していれば別ですが。

 ある程度ルールがありますのでそれに沿って行動していれば、運が悪くない限り大丈夫ですよ』

 

 こうしてみると自分でも危険なんだか呑気なんだかよくわからない返答だった。

 事実2人は不安そうな顔になっている。

 

『外の世界でも道を歩いているだけで車にひかれることもあれば、通り魔に殺されることもある。家に居ても強盗に襲われるかもしれない。理不尽な死は全く変わらない。

 何か違いますか?』

『そう言われると何も返せません。でも七海君がルールや約束を重んじていたり同時に破る方法を見つけようとしている理由がわかりました』

 

 虚さんが俺をじっと見る。

 

『生き方、というのでしょうか。それが身についています。今の話もルールを破れば死ぬ確率が跳ね上がるという事ですよね?』

『そうです。でもそれって普通では?』

『普通だけど、なんて言うのかしら……変な所で達観している?』

 

 虚さんが少し首を傾ける。俺は少し唸っている。この時、どう伝えたら良いか考えていたのだ。

 

『例えば熊が出る場所に行くなら熊避けの鈴は持つし、雪山に登るなら準備は万端にするでしょう?』

 

 彼女はこくんと頷く。

 

『ハイキング程度はともかく、本格的な登山は準備を万端にすることが前提ですよね。死が付き纏うでしょう? 俺はやった事ありませんが』

 

 彼女は今度は少し躊躇った後に頷く。

 

『その辺を散歩する格好のまま手ぶらで雪山に登ったら唯の馬鹿、遭難しても不思議は無いでしょう?』

 

 先ほどよりも長く躊躇った後に小さくこくんと頷く。改めて見るとのほほんさんの仕草そっくりである。

 

『それが普通です』

『何となくわかった』

 

 いまいち読めない表情の虚さんと納得した顔の更識会長を写し、記録は止まった。

 

 

 

 

 

「確かに幻想郷の住人は死が隣にある事も珍しくないからね」

「ですね。先の少女ではないですが」

 

 頷いている姉2人。

 

「そうそう『倉』の実験だけど」

 

 紫姉さんの言葉で思い出した。『倉』の中で人間も時間が止まるか確かめようとした件だ。

 

「やろうって言う人はいないわね。ぶっつけ本番かも」

「んー、別にいいのでは?」

「悪いわね。引き続き探しておくから」

「了解」

 

 保留だ。仕方ないか。

 

「他に何かある?」

「特に無いわね」

「じゃあ、お開きにしますか」

 

 とっくに日付は翌日になっている。随分話し込んだものだ。

 紫姉さんは軽く体を伸ばす。

 

「緑兵、青衣」

 

 藍姉さんだ。まだ座っている。

 

「トーナメントの結果、待っているぞ」

「了解」

「はいっ」

 

 受ける俺と楽しげな青衣だ。

 

「計画は大事だけど、貴方達も学園生活を楽しみなさい。

 学園長や更識さん達によろしく言っておいてね」

 

 今度は紫姉さんだ。

 

「それじゃあ」

 

 俺達が返事を返すと、2人はスキマを潜って帰って行った。

 後には湯呑や手つかずの菓子が載った複数の皿が残される。

 

「湯呑と受け皿は……寝てからで良いか?」

 

 片づけの事を言っている。

 

「そうですね。緑兵はもう眠いでしょう?」

「少し」

 

 妖怪である青衣はぴんぴんしているが、俺は最近の規則正しい生活が影響してか睡魔が襲ってきている。

 

「食べてないお菓子だけ回収してください。後は起きてからにしましょう」

 

 俺は『倉』を開いて手を付けていない皿を全て回収する。

 

「さて、戻るか」

「そうですね」

 

 俺は立ち上がると寮の自室を映した『窓』を消し、玄関でサンダルを履く。同じくサンダルを履いた青衣が俺の腕にしがみ付いた。

 いつもの柔らかい感触を感じながら俺は自室に空間転移した。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

緑兵の構えは東方緋想天の妖夢から。まともな剣道なら作中の通り緑兵は箒に対して勝ち目は薄いです。真っ向から勝てる才能は無く、修練も積んでいません。箒は方法を誤り、嵌っただけです。決して箒の実力や剣道を軽く見ているわけではありませんので悪しからず。
そして『本当は怖い幻想郷』の一面です。個人的にメリットを出したらデメリットも出さないとフェアではないと思うので。

やっぱり某掲示板の見方が入りますね。多数の意見・議論は恐ろしい。
しかし、幻想側相手で緑兵の口調を砕けさせようとしても、何か先輩や千冬相手の口調になってしまう。校正に時間を食いました。そして校正すれば色々思いついて文字数が増える。何故だ。

書き溜めが切れましたので、次回の更新は時間が掛かると思います。


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