学年別トーナメントの当日、IS学園は人で溢れていた。
朝のHRの後、俺達は警備の為に俺は他の生徒と離れて青衣や山田先生、ほかの先生達と一緒に第一アリーナの管制室にいた。この部屋にコーヒーメーカーやポット位はあるのでトイレと食事以外は缶詰である。ペットボトルの飲み物も持ち込んだしな。それに関係者以外は立ち入り禁止なので他の者と接触はしない。ある意味で青衣を守るには打ってつけだ。それに全てのブロックを見ようと思えば観戦できる環境でもある。
待機場所が決まった直後に此処へ入り、IS学園全ての場所に駆け付けられるか空間転移でテストも行ったが問題無し。トーナメント期間中に限り、俺は学園内のどこでもISとしての青衣を展開することは認められている。また、俺と青衣は制服だが、俺は下にISスーツを着込んでいる。
「七海君達は此処に閉じこもって平気なんですか?」
「別に平気ですよ」
俺の隣にてくてく歩いてきた山田先生が申し訳なさそうに言う。
普通は気が滅入りそうでもあるが、俺達は『拠点』で何日も張り込んだこともあるのだ。閉じこもるのは慣れている。慣れて良いものか少し考えものだが。
「2人は前回来た端末と椅子を使って下さい」
「りょーかい」
青衣と共に先生たちが使う正面のメイン端末の以外に、部屋の右に予備端末がある。そこの1つに椅子が2つ用意されていた。奥になるので、山田先生の近くでもある。
目の前には複数のモニターと制御・操作用の端末がある。手っ取り早く言うと暇つぶしに全ブロックの試合を観戦しても構わない。操作は前に入った時に教えて貰った。本程度なら持ち込みも許可されているが、流石に初日なので止めておいた。緊張感が削がれる。
「とりあえずはAブロックだな」
「ですね」
端末を操作しAブロックを複数のモニターに映し出す。SPやボディガードに固められたVIP席には各国の首脳陣がいる。それに他にも各国の政府関係者にIS関連企業の担当者、研究員達だろう、スーツ姿の男女が多い。とにかく人で第一アリーナは埋められていた。トーナメントは直前にならないと組み合わせが発表されない。まだ発表前なのに苦労な事です。
とはいえ俺の位置は先行して発表されている。Aブロック三回戦の一組目に固定だ。つまりAブロックの最初に行う4組とまず当たることになる。
「山田先生、組み合わせはそろそろ発表ですよね」
「そうですね、もう表示されても良い頃です。発表されたら声かけますよ」
「わかりました」
そう言うと山田先生は自身の席に戻る。俺は手元の端末を動かし他のブロックも映るか確認した。問題なし。
「緑兵、暇ですね」
「そうだな」
はっきり言って俺達は暇である。複数のモニターの切り替えは出来ても各カメラの操作が出来るわけではない。
「七海君、青衣さん、発表されました」
「わかりました」
2人で山田先生が座るメインの端末、そのモニターを見る。まずAブロックを確認すると一回戦1組目は『織斑・デュノアvs篠ノ之・ボーデヴィッヒ』であった。
「……いきなり専用機持ちの代表候補生対決ですか?」
「みたいだな」
「初戦にこの試合って、大丈夫なんですか?」
「うーん、どうでしょう?」
呟いた青衣に山田先生も混じる。困惑していた。
興行やっているわけじゃないけどさ、不味くない? 2組目は……知らない名前だ。3組か4組の生徒だろう。ざっと確認するとオルコットと鈴のタッグ、簪さんはAブロックにいないようだ。
順当にいけば1組目のどちらかと戦う事になる。悪いがやはり専用機は機体性能が違う。更に互いに代表候補生がいるのだ。代表候補生で専用機持ち相手には2対1でも一般生徒の分は悪い。
そんな事を考えていると管制室の自動ドアが開く。織斑先生が入って来た。そのまま奥にやってくる。
「七海、青衣、Aブロックは確認したか?」
俺達に向かいそう言うと中央辺りで仁王立ちになる。余っている椅子でも持ってきて座ればいいのに。
「しました。いきなり潰し合いですか」
「抽選の結果だ、仕方無い。お前たちが当たるのは織斑達かラウラ達かだろう。私の事は気にしないで良い。叩き潰せ」
「わかってますよ」
青衣と適当に話しながらモニターを見ていると、第一アリーナに益々人が増えていく。
「やっぱりAブロックは注目度が高いですね」
「そうですね」
織斑先生と山田先生のやり取りだ。
Aブロックには男性操縦者の一夏、フランス代表候補生のシャルロット、ドイツ代表候補生のラウラ、そして俺と青衣が集まっている。悪いが箒は篠ノ之束の妹というレッテルしか見られないだろう。この試合で相応の働きをすれば別だが。
「さて織斑・デュノア組と篠ノ之・ボーデヴィッヒ組のどちらに分があると思う?」
織斑先生が俺達の方を振り向き声を掛ける。他の教師たちも聞き耳を立てているのは丸わかりだ。
「織斑・デュノア組」
「同じです」
「ほう、何故だ? 七海から理由を言え」
織斑先生は面白がるような顔をする。
「単騎の実力はシャルロットとラウラを同程度、一夏と箒は専用機を使う分一夏が少し上と見ています。この位なら引っくり返りますが一夏とシャルロットはコンビネーションの訓練をして、ラウラと箒はしないでしょう? だからです」
「ふむ、青衣は何かあるか?」
ご指名の俺が答えると、今度は青衣に振る。
「そうですね、ラウラは例え箒が不味くても何もフォローしないでしょう。シャルロットさんはしますね。多分、ラウラは自分1人で2人を破壊することしか考えていないと思います。
極端な話、箒は何もしなくて良いとすら思っているかもしれませんね。それと試合ですから倒せば十分のはずですけど、過剰に攻撃すると思います。狙うならそこでしょうか」
納得顔の織斑先生と喜んでいる山田先生、不機嫌そうな一部の教師達。
「他に無いか?」
「ありませんが、緑兵は私の意見をどう思います?」
そして青衣は何故か俺に振る。
「俺が持っていた違和感はそれだな。今は試合だが破壊だけしか考えていない。
過剰と言ったけど一応試合目的に応じてはいる。だが試合を有利に進めずに単独にこだわる節がある。そういうことか?」
「そこまで考えていますかね? 情報が足りません」
「まあ、攻撃力だけ追求するならもっと強力な武器を持ち込みそうなものだよな。極端な話、軍事用で周囲を焼き尽くすものとか」
「確かに性能の高い姉妹(IS)と武器があれば良いだけなります。ですがそれを扱うのに腕を示す必要が出ます。単に暴れたいだけでは無さそうです」
「そうか? ラウラはISを上手く使う事には自信がありそうだ。その辺は自己顕示欲じゃないのか?」
「んー、そういう考えも有りです。私は視野が狭いと思ったのですが」
青衣も引っ掛かったようだ。確かにそうなのだが……。
唸りながら、ラウラの仏頂面と編入以降一切変わらない言動を思い浮かべる。それ以外に無い。
青衣の顔を見ると向こうも俺を見る。
「確かに、俺達はラウラを知らな過ぎるか」
「ですね。出せるのはこれ位でしょう」
「だな」
「おまえらな……」
織斑先生の声で其方を向くと何故か彼女は青筋を立てていた。山田先生はぽかんと口を開けたままになっている。
「すいません、何でしたっけ?」
「いや、もういい。全部聞きたいことは……いいや、他に出て来たな。
お前ら喧嘩や意見の対立は無いのか?」
はて? おかしなことを言う。今も意見は合わない点があった。
「割とありますよ。互いにそういうのも有りか、で終わります。終わらなければ徹底抗戦ですね。
考えたことが正しいなんて限らないし、同じ意見なら2人いる意味が無いじゃないですか」
青衣の言葉に俺は頷く。
「互いの嫌な面や汚い面は?」
織斑先生が真剣な顔で尋ねる。
「そんなの腐るほど見てますよ。お互いに。ねえ、緑兵?」
「当然、それも込みだろう?」
「ええ」
「……やはりお前ら一人枠で正解なのかもしれん」
「それは無いでしょう?」
「そうかも知れんがそうで無い」
意味が解らない事を言いながら項垂れる織斑先生と顔が赤い山田先生、他の先生方も似た様な反応だったり、中にはやさぐれている者まで居た。何なんだろう。
「お前ら、パートナーだな」
「何を今更、相棒だって散々言っているでしょう?」
俺の言葉に織斑先生が大きなため息を漏らす。
「……教室に行った初日だったか青衣を降りたら他を乗せるとか話をしなかったか? 相手した5人が来た時だ」
そんなこともあった気はするが。
「ありゃ例え話でしょう? 実際に降りる気は無いですよ、俺」
「私もです。他の人を乗せたければ初期化でもするんですね。拒否りますけど」
「……そうか」
それだけの言うと、織斑先生は無表情のまま、山田先生はものすごく嬉しそうな顔で正面のモニターに向く。
「山田先生、後でコーヒーを淹れてくれませんか? 我儘を言って申し訳ないが濃いのが飲みたい」
「奇遇ですね、私も飲みたいです。ブラックでいいですか?」
「頼みます」
おや、織斑先生は砂糖を入れていなかったか?
何か気まずいのでそのまま黙る事にする。もうすぐ試合が始まる。
試合開始前から一夏とラウラが互いに火花を散らす。開始直後に一夏が突っ込み、停止結界、AICにつかまるとシャルロットが一夏の背後から現れ発砲した。
そして箒も参戦、シャルロットと箒の戦いになる。箒の近接戦は大したものだ。代表候補生で専用機が相手でなければ箒は相手を倒せたかもしれないが、シャルロットがより凄いのだ。高速切替 (ラピットスイッチ)で武器を量子構成を一瞬で終えて全ての距離に対応をし、収納している武器も多彩だ。相手が悪い。やがて箒はエネルギー切れで動けなくなり、ラウラは2対1の状況になってしまう。
織斑先生が箒に対して訓練機ではしょうがないと言っていたがその通りだ。ラウラがきっちりサポートしていればこんなに早く終わらなかったはずだろう。それにラウラは箒を最初から頭に入れて無いと言うが、ラウラは本当に少佐で特殊部隊隊長なのだろうか。普通に考えて団体行動が主だろう? 黒ウサギ隊ってISを3機持っているんだよな。それとも一騎当千しか認めない英雄志願なのだろうか。
やっぱり専用機持ちは分けて試合をするか、あえて訓練機を使うべきではないか? こうして見ると腕の差も大きいが同時に性能差がありすぎる。両方とも上では一般生徒に勝ち目はない。箒も腕が悪いわけではないのだ。
そんな中、シャルロットがイグニッション・ブーストを見せた。それを見てラウラは焦る。彼女の言葉通りだとトーナメントの練習かこの試合で身に付けてしまったことになる。
シャルロットは銃を使いこなし、弾切れだったのかアサルトライフルは捨てた。
ラウラは強い。大口径レールカノンにプラズマ手刀、ワイヤーブレードを使いこなして全距離に対応をしている。その内に一夏はシャルロットが捨てたアサルトライフルを拾い、撃った。遠距離攻撃が無いと思っていたラウラは直撃をする。
なるほど、AICは集中しないと使えないのか。俺の『空間を操る程度の能力』とその辺が違う。俺は自分の能力を自由に使えるまでの修行を思い出した。どんなものでも容易く使えるものではない。
一夏は自分の役割を理解し、シャルロットが一夏に上手く合わせている。連携が良い。ラウラの注意がシャルロットに向いた瞬間に一夏は零落白夜を発動させ突っ込むが躱され、シャルロットが回避したラウラを狙う。だがラウラがAICを使いシャルロットは止められてしまう。ラウラが笑みを浮かべるが、そこで一夏が放った弾がラウラを直撃してAICは再び破られる。そしてシャルロットのパイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』がラウラを直撃した。破壊音が響き、ラウラの表情が歪む。衝撃が吸収しきれないのだろう。ラウラは壁に吹っ飛ばされた。
「決着、付きそうですね」
「そうだな」
シャルロットの追撃に苦しむラウラを見ながら言う青衣に俺が同意する。
ところがパイルバンカーを再び受けたラウラが絶叫し、閃光が走った。モニターが白で埋まる。俺は目を細めると同時に『空間を操る程度の能力』を発動させた。範囲はIS学園全体だ。
すぐにモニターが色を取り戻す。そこには泥のような黒いものがラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを覆っていた。俺の空間支配による感覚でも同じである。変形を繰り返す奇妙な粘液上の物体がラウラを覆っていた。
明らかに異常事態だ。
俺は椅子から立ち上がり青衣に視線を送る。青衣は妖怪の体を消し俺は端末から離れる。
織斑先生がマイクに向かい指示を飛ばし始めた。
「七海君!!」
山田先生の呼びかけでISである青衣を纏う。ハイパーセンサーが作動し視界がクリアになる。そして4つのオプション、両手に無名、顔には狐の面を呼び出した。
再度モニターを確認するとラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは大きな黒い泥人形のような何かに変貌し、手には白式の雪片弐型に似た刀を握っていた。
ISが変化した? 前の形態の面影が無いくらいに? 馬鹿な。
やがてモニターに映る一夏は向かっていき、泥人形に弾き飛ばされた。一夏の様子がおかしい。切れている。再度一夏は向かっていこうとするが箒が何事か話している。泥人形も変だ。止まっている。
織斑先生と山田先生の話だと泥人形は自動的に相手に反応をしているらしい。
だが、俺への出撃は無い。
一夏と箒にシャルロットも加わり、何事か話し合っている。何をする気だ?
丁度その頃、教師の部隊がアリーナに到着、泥人形を鎮圧に行くが周囲を取り囲み空中に浮いているだけだ。織斑先生の指示なのだ。
あれが何なのか分かっているのだろうか到着した教師達の表情は固く何もしない。まるで案山子だ。
「あの泥人形、なんですか?」
青衣が体を出現させ、後ろを向いている織斑先生の前へとつかつか歩いていく。
「何故か止まってますよ。情報位は出して下さいな」
端に座っていた教師の一人がその光景を鼻で笑い、次の瞬間には目を見開き悲鳴を上げた。
原因は俺だ。周囲の空間を操作し殺気を叩きつけた。周囲の空間を歪ませた後一瞥する。目線が合う。怯えている。
周囲は違和感を感じるのだろうが、何もできない。とはいえ誰が行っているのか何となく想像がついているのだろう。俺を怪訝な目で見ているだけだ。
「待機なら待機と言ってくれませんか?」
青衣は変わらず背を向けている織斑先生に声を掛け、俺は無名の峰で肩の装甲を軽く叩く。小さく金属音が響いた。
「待機だ。お前達の機動力はこれを見てどっかの馬鹿が騒いだ時に使う。あそこには教師がいるからな」
なるほど。確かに第一アリーナに教師陣がいる以上他に回すのも手だろう。襲撃を考えている者が居るなら今が好機となる。カウンターに使う気だ。
「なら、あれは何なんです? それともそこの先生と同じように鼻で笑って終わります?」
青衣が身動きが取れずがたがた震えている教師を見る。
モニターでは一夏がなにやらシャルロットからエネルギーを受け取っていた。
「……VTシステムは解るか?」
「条約で禁止されている奴ですよね?」
「そうだ」
Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)というのがある。通称VTシステム。過去のモンドグロッソに参加した選手の戦闘方法をデータ化し、再現するシステムだ。
あらゆる企業・国家で使用はおろか、開発が禁止されている。まさか泥人形みたいに外見すら変わってしまうとは。
なるほど、ドイツは知ったこっちゃないってか? ラウラの言動と織斑先生の引退の件から偏見に満ちているが、悪印象の塊なのだ。
「あんな風に外見まで変わるものなんですか?」
「……流石に動いたところは見たことが無い。だがさっき見せた技は私の動きだ」
結局良くわからないが、それ以外に無さそうってことか。とはいえ、あの変貌はシステム何ていうものを超えている気がする。
「七海、彼女を解放してやれ。倒れると負担が増える」
例の教師を確認すると今にも倒れそうだ。
「質問した者を笑う教師は必要ですか?」
青衣は生徒ではないが俺も解らなかったのだ。青衣が聞かなければ俺が質問しただろう。
「……今は緊急事態だ。オペレーターとして手が欲しい。万一は起きないと力説した者でもな」
例の女性至上主義者はこいつか。命令されたので、仕方なく解放する。
その教師は全身から汗を噴き出し俺を一度憎々しげな眼で見た後、織斑先生の一喝で荒い呼吸のまま自身の正面モニターに顔を向けた。
どうでもいいか。
「ところで織斑先生。一夏さんが攻撃しそうですよ。あのVTシステムは攻撃に反応するんですよね? 止めなくていいんですか?」
「一夏に任せる。改めて全員手を出すな」
織斑先生の言葉は命令だ。モニターに映るVTシステムを取り囲む教師陣は動かない、いや動けない。本当に何のために先生たちを送ったのだろうか。他の教師の目も少し疑惑が出ている。
さて、その一夏は雪片弐型を振るう。切り口からラウラが現れた。よくラウラごと斬らなかったものだ。
一夏がラウラを受け止めると、再度の織斑先生から命令が下り、教師達は間に入ると救護に行い始めた。
まるで茶番だ。織斑一夏を活躍させるための茶番だ。
「青衣」
「なんですか?」
織斑先生が青衣の方を向く。何か勝ち誇っている様な顔だ。
「あれは私を模していた。だったら一夏を攻撃するわけなかろう?」
にやりと笑う。
「ひょっとして知ってました?」
「まさか、VTシステムを知るわけなかろう」
「……さっき、一夏さんは攻撃されましたよね」
「何?」
素っ頓狂な言葉が飛び出す。
「2回目が無くて、一夏さんを認識できてよかったですね。出来なきゃ一夏さんは真っ二つでしたよ。織斑先生は生身でISの攻撃を防げても他の人は違うんですから」
その一言で織斑先生は顔色を変える。
俺はその時、ラウラの一撃を織斑先生がIS用のブレードで防いだ光景を思い出した。多分、私なら斬らない、或いは一夏なら出来る位の認識だったのか。
しかしこのVTシステムはドイツが仕込んだのか? 順当に考えるとそうだろうが、VTシステムを仕込んだことの公開がラウラが負けるよりマシとは考え難い。
それとも篠ノ之束の仕業か? でも、何か違う気がする。第一アリーナは避難できたのだ。篠ノ之束なら目撃者を作る為に無人機の時と同様、閉じ込めるだろう。教師陣の到着に妨害も無かった。何か違う。
まあ、今はいいか。事態が収拾するまで時間は有るだろうし情報も足りない。
モニターに視線を移す。ラウラは無事救助された。何も出来ないしする必要も無いだろう。もう俺はモニターに映る光景をどうでも良い目で見ていた。狐の面をしていて助かった。多分、馬鹿馬鹿しい展開に仏頂面だろう。
青衣は織斑先生に背を向け俺の前に戻ってくる。多少はスッキリしただろうが、それでも収まらないのだろう。額には青筋が浮かんでいた。
ああ、少し荒れるかもな。
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その後は事件の処理で教師たちは忙しくなり、今日のトーナメントは中止となった。とはいえ暫定的な対応が発表された。明日以降は1年生はデータ収集目的の1回戦のみに減らし、2年生や3年生は全試合を行うらしい。重要度からすれば妥当だろう。それに1年生に対しては後日穴埋め的な試合を行いたいらしい。今日、事件が起きた第一アリーナをチェックして何も問題無ければ更に変更される可能性があるが。3回戦からの予定だった俺達は……知らん。
さて、警備で待機していた俺と青衣だが、織斑先生から今日は帰って良いと言い渡され管制室を出た。時刻は昼食を取るには少し遅い時間だ。
トーナメントが中止になったとはいえ、関係無く要人はまだ残っていそうだ。警備を外れて良いのか確認したが構わないらしい。これを好機と見た馬鹿の抑えに俺を使うんじゃなかったのだろうか。
そして管制室の前で更識会長に電話で出来事を報告したところ彼女は絶句した。その後に呆れた様なため息交じりで織斑先生の言葉に従う様に指示された。改めて本当に警備をしなくて良いのかと聞けば『本当は不味いけどしょうがない。もう今日は帰って良いよ、お疲れ様』だそうだ。
向こうも事の顛末に何か思うことがあるのかも知らないな。
さて、本気で暇になった。アリーナからとりあえず一夏に電話を掛ける。もう事情聴取は終わっているのだ。数コールの後繋がった。
『何でお前は来なかったんだ!!』
一夏は俺が名乗る前に怒ったような口調で言い出した。皆、俺が警備に参加していることも知っている。空間転移もあるのにVTシステムの時に来なかったことを批難しているのだ。事情を知らなければ当たり前の反応だ。
「織斑先生が俺に待機命令を出した。教師陣にも取り囲んだ後に手出しを禁じた。お前に任せるってな」
向こうは絶句した様だ。なんとなく空気を察する。
「今日はもう終わりになった。個人的に話がしたい。俺かお前の部屋、できればシャルロットや箒を交えてな」
『……2人ともここにいるから聞いてみる』
保留にしたのだろう。電子音で奏でられた曲が流れる。直ぐに止む。
『2人とも構わないって。お前、昼はどうした?』
「まだだ」
『こっちはもう食べた。1時間後に俺の部屋でどうだ?』
「わかった。お前の部屋だな」
『ああ』
食堂には人が多い。俺と青衣は自室で『倉』から出した食事で済ませる。約束した時間に数部屋隣の一夏の部屋へ向かう事にした。
1025室の幾度となく修理した形跡のあるドアをノックすると間もなくドアが開かれる。一夏だ。中に入ると一夏の他に箒、シャルロットが居た。2人は以前は箒が使用し、今は主のいないベッドに腰を掛けている。軽く手で挨拶すると2人が返す。
本来は机用の椅子が2つ、ベッドの方を向いて転がっていた。そこに座れという事だろう。
俺達が座ると同時に最初に口を開いたのはシャルロットだった。
「ラウラはどうなったの?」
「意識不明みたいだが大事ないらしい。そのうち目が覚めるだろうって」
シャルロットと一夏はその答えにほっとしたようだ。箒は反応なし。
「あの現象、VTシステムなのか?」
「……らしいな。それ以上は解らない」
一夏がVTシステムの事を知っていても不思議はない。事情聴取で聞かされたのかもしれないしな。シャルロットも箒も反応はない。知っているのだろう。
まず、管制室で俺が何をしていたのかを話した。ちなみに俺達は口止めなどされていない。向こうはされたようだが、俺達は警備である程度知っているのだ。3人から試合中に何が起きたのかを聞いた。で、俺は呆れた。
「一夏、お前は織斑先生の技が模倣されただけで切れたのか!?」
「あれは千冬姉のものなんだ。千冬姉の技でおれが教わった技だ」
「技……なのか? VTシステムの出来の悪さではなく?」
「当たり前だ!!」
一夏は怒りが再度沸き起こったのか、珍しく怒気丸出しの表情をしている。
姉の技を真似されたからって切れるとはドン引きである。青衣も似た様な顔をしている。
シャルロットと箒は俺と青衣の反応にやや納得している様だ。多分、白式がエネルギー切れになりステージ上での会話が途絶えた部分と同じなのだろう。
俺も紫姉さんや藍姉さんの外見が模倣されたら腹が立つが、技の方は少し違う。
確かに織斑一夏という人間にとって織斑千冬という存在は何よりも大きいのかもしれないが、ちょっと行きすぎではないか?
「技なんて、真似て取り込んで吸収するものだろうが。特許があるわけじゃあないんだぞ」
「何?」
俺の言葉に一夏はびっくりした顔をし、次に親の仇を見るような顔になる。
「お前、アレを認めろって言うのかよ!!」
「違う違う。見せた技なんて真似られて当然だってことだ。出来る出来ないは別にしてな」
「お前……」
言葉に益々怒気が籠る。
「例えば野球少年が野球選手の投球フォームやバッティングフォームの真似をするなんて普通だろう? 俺もやった。
剣やISも同じだろう? 実用的な技があれば取り入れるさ。ましてブリュンヒルデの技だ。試合の記録もある。皆参考にしているんじゃないか?」
「それは違う。あれは千冬姉の技なんだ」
「VTシステムは俺もどうかと思うが、技の真似は普通だろう」
だが一夏は怒りが冷めやらないようだ。目つきがますます険しくなる。
考え方が根本から違うのだろう。このままでは不毛だ。
「誰にも譲れない一線があるってことか。わかった、この話は終わりだ」
「いや、終わらない」
今度は箒だ。俺を見据えている。
「七海、貴様は他の者の技を盗んだのか?」
此方も此方で険しい目つきだ。さっき俺と青衣の言葉に少しは納得したのではなかったのか? 一夏の味方なだけか?
「確かに俺の技は姉や剣の先生に教わっただけじゃない。対戦相手や観戦して技を真似たり参考にしたものも多いぞ。再現するものもあるな」
「だが、堂々と言う事か?」
「私もそうですね。友人知人、以前に戦った相手の技から取り込めるものは取り込んでいます」
「お前もか!!」
「逆に持っていかれたことも多いがな。少なくとも俺の周りでは誰もがやっている事だ」
青衣も話に交じる。箒は信じられないような事を聞いた様な反応だ。だが、俺の見る限りではIS学園の生徒の多くはやっているし、幻想郷では当然の事だ。
特に幻想郷の霧雨魔理沙という人間の魔法使いは模倣を得意としている。
青衣も彼女の魔砲マスタースパークを『幻符・偽マスタースパーク』として利用している。その魔砲マスタースパークも別の大妖怪の攻撃を元に作ったのだ。
俺もそうだ。幻想郷には十六夜咲夜という『時を操る程度の能力』を持つ少女がいる。例の紅魔館のメイド長だ。時間と空間は密接に関係し、俺の『空間を操る程度の能力』と互いに相性が良い。彼女の技を見て俺は自分の『倉』を始め時間操作を限定的だが扱えるようになり、彼女は空間を弄る技術が向上した。最後は互いに教え合ったが、最初は技術を盗み合ったものだ。
その咲夜曰く、空間操作を利用すればごみ掃除や投げたナイフの収集が一瞬で終わるらしい。時間を止めているんだから一瞬も何も無さそうだが、随分楽になったようだ。
しかし、俺も咲夜も飯や物の保管、部屋の拡張や掃除に時間を止めたり空間を操ったりと、外の世界の住人が知ったら正気を疑われるレベルをやっているな。
だが俺と青衣の言葉に一夏は怒りを覚え、箒は憮然としている。
「寧ろやらないって、何の為に模擬戦や試合観戦しているんだよ。クラスメイトも他の生徒もやっている事だぞ、これは」
一夏の進歩が遅い理由、その1つかもしれないな、これ。
俺は自分がISを使わなくてもアリーナで他人の練習を見たり、他者の試合を観戦をすることがある。当然、試合の記録も確認することがある。現に以前に一夏とオルコットの試合も記録で見た。他人の操縦を見るのは参考になるし、少なくともアリーナで出会った生徒達やクラスメイトはどんなやり方なのかとか自分だったどうするかとか話しているのはこの耳で聞いているぞ。
皆、ISを覚えたくてとんでもない倍率を潜り抜けIS学園に入学した。数少ないISに触れる機会である授業も基本的には真面目だ(男装時のシャルロットは流石に別)。腕に個人差はあっても、意欲という点では代表候補生に限らず旺盛な者が多いのだ。
そういえば一夏はある意味で一つの目標地点である専用機を最初から用意されたのだ。箒は強制入学らしい。ひょっとして進歩が遅い原因の一つなのか?
「だからって、師弟関係でもない他人の技を盗んだことを堂々と言うなんておかしいぞ」
「見学やってありますよね?」
「……あるな」
見て学ぶ。青衣が漏らし俺が同意するが、箒と一夏は当てはまらないらしい。
「だけど」
「それ、僕はどうなのかな?」
今まで黙っていたシャルロットが一夏の言葉を遮る。俺を含めた全員がシャルロットを見て押し黙る。
「一夏のイグニッション・ブーストを見ているうちに使えるようになった僕もおかしいって言うのかな? 僕はまだ来て間もないけど、2人とも他の生徒達にもそう言っているのかな?」
笑顔のシャルロットは怖かった。怒気とも殺気ともいえない恐ろしい何かを放出している。髪や目の色だけではない。紫姉さんが切れた時とそっくりであった。
イグニッション・ブーストを覚えた経緯はラウラの言葉通りだったか。シャルロットはIS絡みで色々あるだろうが意欲的な事には変わり無い。最悪の場合、彼女は自分の腕頼りになるのだ。伸ばす機会があれば貪欲に吸収するだろう。
その後はシャルロット無双だった。俺が気が付いたことなど彼女もお見通し、2人を論破しこってり絞ったのであった。標的が一夏と箒でよかった、本当に。
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一夏に電話を掛けてきたオルコットと鈴が合流してしばらく話すともう夕方、皆と食事に行くことにする。たまたま食堂までの途中でクラスメイト達が集まっており、彼女らも交えて向かう事になった。
各々がトレイに夕飯を持ってきて食事を始めた。俺達もシャルロットやのほほんさん、谷本さん、鷹月さん、相川さん達と共に話をしながら食べていた。
その時、食堂の一部でざわめきが起きる。其方を見るとモニターにトーナメントに関して正式な発表されていた。目を通すと暫定的な発表と1点だけ、1年生の試合が追加されていた。その試合は『織斑・デュノアvs七海』とある。
俺は正面に座るシャルロットを見た。彼女は不敵な笑みを浮かべている。次いで隣のテーブルに座る一夏を見る。向こうは挑戦的な目で俺を見ていた。2人とも驚いてない。
ひょっとしたら事前に聞かされたのかもしれないな。何にせよ、楽しみである。自然と口元に笑み浮かんだ。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
VTシステムで一夏との共闘も書いたのですがぱっとせず、こういう形になりました。
でもアニメで教師達はVTシステムを取り囲んで何をやっていたんでしょう。何故か一夏は近づき剣を振っただけ。原作は教師陣が来る前に決着を付けたらしいですが。
ところでシャルロット以外に他人の技を見て覚えた人っているのでしょうか。多分、無茶な事なんでしょうが。
書き溜め何て無し。次回更新までは長引くと思います。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
シャルロット以外に後のセシリアがいました。
重複箇所の修正
思いのほか感想が多かったため、箒の言動を中心に少し修正