学年別トーナメント期間中もHRは行われる。試合が無いからと言って休みの様にごろごろするのを防ぐ為だ。
2日目の朝、この日もHRになったのだが……ドイツの冷水が温水になってしまった。
ラウラは一夏にキスをし嫁と呼んだ。その光景をみた箒は木刀を、オルコットはライフルを一夏に突き付けた。織斑先生はHRの後にしろ、で終わる。俺はぽかんとその光景を見ていた。青衣のテンションは上がっている。他の女子たちもだ。まあ俺と一夏以外皆女だが。
一夏も試合までに復活すれば良いか。馬に蹴られたくない。
ちなみに隣のシャルロットはその光景を見て、にこにこ笑っている。驚いた様子も無い。
ルームメイトだったよな。何か吹き込んだのか? まあ俺達に実害が無ければ良いか。彼女が何を考えているのかはわからない。
さて、その後は解散となる。ラウラは俺に席にやってきて
「いろいろすまなかったな」
とだけ言い残し、ラウラは再度一夏の所に向かった。シャルロットはにこにこ笑顔で俺達に手を振った後、ラウラの後を追って行った。
なんだろう。シャルロットは本当に何を考えているんだろうか、正直怖い。
その後織斑先生、山田先生と共に第一アリーナの管制室へ向かい、缶詰となった。
俺は再度各アリーナに振り分けられた試合をモニターで見ていた。今日は2年生と3年生の試合が消化されている。
1年生は明日、つまり3日目に全試合が振り分けられた。イメージ的には最後までトーナメントを行う2年生や3年生の試合の合間だ。
さて、上級生の観戦をしていると皆さん候補生とまではいかないが動作はきっちり身になっており、空中でもある意程度の動きは出来ていた。そんな中、知った顔がモニターに映った。俺がクラスに姿を現した日に戦った5人だ。織斑先生が腕は並より上だと言っていたがその通りだろう。その5人、2年生が2人で3年生が3人だが、一回戦を突破した。あの時より腕は上がっていた。とはいえ、リーダー格の2年生は瞬殺したので良くわからなかったが。
「……訓練したんじゃないですか? 伸びてますね」
「だな」
傍らの青衣が漏らす。同じような事を考えていたのだろう、肯定した。
「でもまだ私に当てるには遠いですよ~」
「だな」
青衣はにやりと笑いながら、モニターに映る生徒に言った。
確かにまだ当たる気はしない。だが戦ったのが5月中旬、今は6月末と1ヶ月と少しで伸びている。全くIS学園の生徒は才能がある奴が多い。恐ろしいね。
後は2年生の更識会長とフォルテ・サファイア先輩、3年生のダリル・ケイシー先輩達専用機持ちは当然のごとく一回戦を突破した。他に一際操縦の上手い2年生が居た。名前はサラ・ウェルキン、間違いなく留学生だ。彼女を注目していると山田先生から彼女はオルコットと同じイギリスの代表候補生だと説明された。但し専用機は持っていないらしい。でも単純な腕ならオルコットより上な気がする。
そう言えばブルー・ティアーズはBT兵器の試験機だったか。やはり、本人の適性と機体の目的が合致しているかが関係しているのだろう。本当に専用機持ちというのは狭き門なのだ。その事を改めて思った。
それと皆さん、人種は違えど美少女揃いなのですが。青衣以外のIS適性には容姿も含まれるのでしょうか?
後、昼食は大変だった。食堂に向かおうとアリーナの外に出た途端、どっかの企業の人は名刺を持って来るわ、何やらスカウトめいた人も来るわ、結局は最後は空間転移で逃げた。誰が青衣を狙うか分かったもんじゃないしな。
やっぱり自室で昼食となった。『倉』に調理済みの食事を保管していて助かった。自分で言うのも何だが便利だよ。その上生き物相手だと時間停止による永久封印になるだろう。しかも場所は亜空間だ。空間に干渉できて、俺か許可を与えた者以外はまずたどり着けない。
日常を便利に過ごすのに作ったものが、気安く使っていたものこそ実は一番恐ろしいものかもしれない。
さて、VTシステムだがIS学園として調査中だ。ラウラも自分のISにVTシステムが仕込まれていることを知らなかったらしい。ドイツ政府を通じてドイツ軍にIS学園として正式な調査と回答を要求した。何せ目撃者も学園関係者だけではない。それによって学年別トーナメントの初日が流されてしまったのだ。ラウラ達黒ウサギ隊に責任をなすりつけるかもしれないが、その時はその時だ。ともかく今は回答待ちである。
お昼以外は平和に終わった。
3日目、朝のHRの後は変わらず缶詰である。一夏とシャルロット相手の試合は、午前の最終試合だ。
時刻は11時を過ぎている。進行具合から俺の試合まで1時間程度というところか。
「織斑先生」
「何だ?」
管制室の中心で使っていない端末から持ってきた椅子に座っている織斑先生と、退屈そうにぷかぷか宙に浮いている青衣、山田先生の他何人かの先生が俺を見る。
飛んでいる青衣への反応? 皆慣れたそうだ。
「ピットへ行って良いですか。試合があるので」
「少し早いが、どうした?」
「準備運動するんですよ。体を温めます」
「そうか……いや、待て」
青衣が地面に降り、彼女を掴もうとした俺を織斑先生が止めた。
「ピットは不味い。他の生徒達の集中が乱れる」
「じゃあ、どこでやります? ここは不味いでしょう?」
管制室で体を動かしても集中できないだろう。お互いに。
「男性用に更衣室を一つ用意しているだろう? そこでやれ。試合も映る様になっているはずだ。呼び出し放送も入る。それにお前は移動に時間はいらんだろう?」
「そうですね」
そういえば更衣室が用意されていたな。あそこは十分広い。ISスーツは下に着込んでいたので用意された更衣室は一度も使っていない。すっかり忘れていた。
「もう行っても良いぞ。何かあったら青衣の携帯か放送で呼び出すことにする。それでいいな」
「わかりました」
青衣も頷く。
「七海君」
「はい?」
山田先生だ。其方を向くと、彼女は座ったま俺を見てにっこりと笑う。
「試合、頑張ってくださいね」
「はい」
その笑顔に答えると立ち上がる。軽く伸びをすると、座りっぱなしですっかり固まった体がぽきぽき音を立てた。その後、青衣と無人の更衣室へ飛んだ。
俺の試合は変わらず第一アリーナで行われる。更衣室で体を温め、前の試合が始まった直後に俺と青衣はピットのドア前へ飛んだ。
中に入るとつなぎを着た女子が何人か待機をしていた。訓練機の調整を行う整備課の生徒達だ。課が別れるのは2年生以降なので整備課全員が先輩になる。
挨拶をすると一気に話しかけられた。
専用機組だと作業が無いので楽らしい。それと青衣はにんまりとした先輩達に矢継ぎ早に質問をされている。俺は……置いてけぼりである。とはいえ目を白黒させる青衣なんて久しぶりに見た。
どうも更識会長や虚さんからいろいろ聞いているらしい。特に虚さん、彼女は整備課で全員同級生か後輩だ。整備室でも顔を合わせるだろう。
俺はその光景を眺めていると青衣はヘルプを出してくる。
「ごめん、無理」
「見捨てるんですか!!」
「ノリについていけない……体を消したら?」
青衣ははっとした顔をする。そしてその場から消えた。俺の首にぶら下がっている本体に戻ったのだろう。
おおおお、と感嘆の声が響いた。風呂とかで見てないのかな。大浴場には学年別の時間制限とかあるだろうか? 後で青衣に確認をするか。
そうこうしていると、山田先生から俺に向けて放送が入った。
『この試合が終わった後に名前を呼びますので、ステージへ飛び出して下さい』
「ちょっと良いですか」
向こうには此方の様子は伝わる。音声もだ。
『どうしました?』
「空間転移で行くって有りでしょうか?」
俺の言葉に山田先生は戸惑っている様だ。スピーカーの向こうから伝わってくる。近くにいる先輩たちもだ。体を再び出した青衣の顔にはまた始まったと書いてあった。とはいえ彼女は止めはしない。
『織斑だ。理由を言え』
「一夏とシャルロットの2人を揺さぶりたいんですよ」
向こうは黙る。少し後、織斑先生が楽しげに言った。
『ほう、面白い』
「手を抜く必要は無いでしょう?」
向こうで軽い笑い声が聞こえた。
『だがそれが効くかな?』
「効けばラッキー程度、効かなければ普通の試合になるだけですよ」
『ふむ……良いだろう。許可してやる。試合では相手は何をして来るか分からないからな。お前のそれを考えたら大抵の事は驚きに値しないだろう。2人にとっても良い経験になる。
改めて言うが私の事は気にしないで良い。試合の範囲でやれ。試合の範囲でだ』
「了解」
放送が切れる。内心でややこしい事を言う、と思いながらも同意する。
「やっぱり七海君は何かするのね」
「どういうことですか?」
先輩の一人がぽつりと漏らしたので、俺は彼女に尋ねる。
「虚が言ってたんだけどね、七海君なら反則にならない範囲で何かするって。特に試合前」
「……俺、読まれてました?」
先輩方が頷く。今度は別の先輩が口を開く。
「こういうことがあったらって、楯無さんから伝言があるわ。『策士、策に溺れる』だって」
「……肝に銘じておきます」
「でも『面白くなるならもっとやれ』だって」
「どっちですか!!」
「さあ?」
そんなことを話していると、前の試合が終わった。思ったより早い。動かなくなった機体は教師達に回収されピットに戻ってくる。
操縦していた一年生の2人は反省材料を言いながら直ぐに練習機から降りる。練習機の方は先輩方が専用のキャスターに乗せた。これを整備室へ持っていくのだろう。
だが、2人は更衣室なりに戻らない。戸惑いながらも俺と傍らに立つ青衣を見ている。俺は知らなくても向こうは知っているのだ。
ああ、そうか。俺は用意されていた椅子を指さす。単に俺が座らなかっただけだ。
「見ていくなら座れば? 午前最終試合だからもう来ないしさ」
そう声を掛けると、俺はISとしての青衣を纏った。
2人は顔を見合わせ横に振った。おや、違うのか?
だが青衣に興味はあるのだろう。妖怪としての体の青衣と並んでいると興味深げに此方を見ていた。
俺は『空間を操る程度の能力』を発動させアリーナ全体の様子を探る。空気が変わっていた。やはり『織斑・デュノアvs七海』の試合はやっぱり注目を集めているようだ。
『七海君、出ますので準備をしてください』
「了解」
青衣が体を消す。
「いってらっしゃーい」
「お土産宜しくね~」
そんな声援? を受けた。軽い、先輩達軽いよ。それと一年生の2人、その苦笑いは止めろ。
青衣を少し浮かすとステージの初期地点に空間転移をした。高度はある程度の自由が認められているので俺は地面から20メートル程高い場所だ。
視界が切り替わるとそこはステージ、アリーナのど真ん中だ。観客の視線が集まった。突然現れた俺にざわついている。
俺は気にせず両手に無名を、狐の面を右の側頭部に呼び出す。顔は見えているだろう。出現した4つのオプションもくるくると俺の周囲を回り始める。これらの動作はほぼ一瞬で終わる。
さて、向こうのピットから一夏の白式とシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが飛び出し、此方に向かってきた。一夏とシャルロットは動じていない。
「やっぱりね、何かすると思ったよ」
2人は初期地点に止まると同時にシャルロットが言った。
「読んでいたのか?」
「うん、だから一夏にも会わない様に言っておいたんだ」
なるほど、どうりで更衣室が無人だったわけだ。
「……俺、そんなにわかりやすい?」
「うん、とっても」
「……そうですか」
にこやかな笑顔を浮かべるシャルロット。くすくすと笑う青衣の声がアリーナにこだまする。
「お前は揺さぶりを掛けてくる。それが本気で来る証明だって」
一夏だ。其方の方を向く。
「参考になったか?」
「ならない」
少し忌々しげに一夏は言う。
「何で強いのにこんな小手先の事をするんだ?」
「少しでも勝率を上げる為、逆に何も考えない方が失礼だ。シャルロットが気付いたが別に俺にとっては何もマイナスが無い。それにこのやり取りや舌戦もなかなか楽しいだろ?」
「楽しくない」
「ラウラや箒達ともやってたじゃないか?」
「それは……」
一夏の目が泳ぐ。
「一夏、しっかりして。緑兵はちょっと極端だけど煽ったりするのは普通だから」
「その通り、もっと褒めて良いぞ」
「褒めてないよ!! そんな性格だったっけ?」
「あー、シャルロットさん。もう術中に嵌ってますよ。それより始まりますけどいいんですか?」
ぐだぐだにして緊張感を削いでいます。
青衣の言葉にはっとなる二人。慌てて一夏は雪片弐型を、シャルロットは右手にアサルトライフル『ヴェント』を呼び出し構えた。俺は油断なく無名を持ちながら面を顔に移動させる。これで表情は見えない。逆に向こうも少しの緊張感を見せた。
「一夏、ひょっとこの面に変えようか検討してるんだ。試合相手としてどう思う?」
「ふざけてんのか、お前!!」
「何を言う、ひょっとこは火の神様として扱われる地域もあるんだぞ」
狐の面についている紫と橙のラインを、無名を持つ手の甲で撫でながら一夏に質問をすると、彼は声を荒げた。顔も険しくなる。
『緑兵、一夏さんの言う通りですよ』
響く声は青衣だ。一夏はそうだろうと言わんばかりに首肯する。
『ひょっとこなら、おかめも必要になります。2つ揃って縁起物です』
「そういう事じゃない!!」
一夏は叫んだ。突っ込み、ご苦労様です。
「一夏、落ち着いて。それとひょっとことおかめって何!?」
シャルロットが頭に血が上りぷるぷる震えている一夏を宥めている。日本語がペラペラとはいえフランス人のシャルロットは知らなかったか。
『シャルロットさん、ひょっとこですよ、ひょっとこ。後おかめ』
「それは気になるけど……後にするよ」
最後は青衣が煽るが、シャルロットは平静を取り戻しているように見える。とはいえ、口ではこう言っているが気になるだろうな、色々と。
さて、オープンチャンネルでの会話だったせいかアリーナの中も少しざわついていた。俺は各国のお偉いさんが『ひょっとこ? おかめとは何かね?』と近くの護衛や教師に尋ねる光景を想像した。
「ちなみに緑兵、私は反対です」
「冗談だ、変えるなら猫はどうだ?」
「ひよこもどうでしょう? まだ嘴は黄色いですから」
「自虐だな、でも、それも有りか」
2本ある無名の切っ先を二人、それぞれに向ける。おふざけ、ではなく煽ることは終わりである。向こうは十分ペースを乱されたはずだ。
俺の纏う空気は少し変わったのだろう、向こうは冷静さを取り戻……せてない。一夏はぴりぴりしたまま、顔も苦虫を噛み潰したようだ。この位で大騒ぎするなんて精神的な修業が足らんな。一方でシャルロットは立て直している。
やはり面は便利だ。表情が相手に見えない。だから俺の口元に浮かぶ笑みも伝わらない。
その後は無言。やがて開始のブザーが鳴り、俺は上空へ全速力で飛ぶとオプションから誘導弾、速度に幅を持たせた大小の赤いエネルギー弾、そして初見である俺を中心に時計回りと反時計回り、2つの螺旋を描きながら外へ向かう光弾を撒き散らした。
一夏とシャルロットはブザーと同時に後ろへ下がった。俺相手に距離を取るのは無謀ではないかと思ったが、右にいた一夏が左へ、左にいたシャルロットが右に分かれる。交錯した時にシャルロットのアサルトライフルを一夏が受け取っていた。ほぼ同時にシャルロットの手にはアサルトカノン『ガルム』が瞬時に現れる。ラピットスイッチか。やっかいだな。それにシャルロットと一夏の動きは俺を挟み撃ちにする心算か。
先に仕留めるならまだ冷静さを取り戻せていない一夏だろう。だが彼は中距離から近距離では弾幕の回避はできない。量が増えればそれだけでシールドエネルギーは削れていくはずだ。だから俺は一夏がいる方向へ弾幕量を増やし、シャルロットは俺が直接狙う事に事にした。
俺とシャルロットは初顔合わせだ。シャルロットは取り出したアサルトカノンを撃ち、背後では一夏がアサルトライフルを乱射するがそんなものには当たらない。同時にシャルロットも俺の誘導弾を避け、或いは楯で凌いでいる。数を少なくしているとはいえ慣れたにしては早過ぎる。
おそらく他の専用機持ち、或いは更識会長辺りに聞いているのだろう。むしろそれで正常だ。
一夏も俺から距離を離しているとはいえ必死に躱し、或いは防御をしている。彼は上空にいる俺の背後を取ろうとし、シャルロットと反対側から攻めてくる。
そこでシャルロットが物理楯を構えたまま、俺に向かいイグニッション・ブーストを試みる。的になるだけだ、正気か? オプションから放つ弾幕をシャルロットに多く振り分け、ニードルレーザーを連射させる。だが、一夏もイグニッション・ブーストを使用し、俺へ突っ込んできた。弾幕が薄くなったためだ。
2方向からの特攻か? シャルロットを囮にしたか。
俺はあえてシャルロットに向かいニードルレーザーを放ったままイグニッション・ブーストを使った。
それは読んでいたのだろう、シャルロットはラピットスイッチでアサルトカノンからショットガン『レイン・オブ・サタディ』へ切り替え、連続で発砲をした。同時に俺も弾幕を全てシャルロットに向ける。ショットガンから放たれた散弾が青衣のシールドエネルギーを削る。同時にシャルロットも全ての弾幕とニードルレーザーをくらう。衝撃があったのか、彼女の顔がゆがんだ。俺は撃たれた衝撃はお構いなしに、そのままスラスターを全開して突っ込み、右手の無名を斬りつけるがシャルロットも気にせず正面から対峙し、彼女は無名を左の楯で防いた。パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』搭載された代物だ。俺達がぶつかり合った衝撃で互いにシールドエネルギーは減った。青衣のシールドエネルギーは20%以上無くなり、1つのオプションが消失する。だがシャルロットは今の攻防で半分近くに減った。
息が掛かりそうな距離だ。俺は左の鉤爪で彼女を突く。同時にシャルロットは右手に出した近接ブレード『ブレッド・スライサー』で刺そうとしてたのだろうが俺の方が早い。それを受けてしまう。
今までの試合で鉤爪を使ったことは無く初めて使用したが、飾りではないのだ。
だがシャルロットは体を捻ると、しがみ付いてきた。俺が接触箇所からシールドを破壊できることを知らないのだろうか? シャルロットのシールドを接触箇所から破壊し始めた時、彼女はにっと笑った。
「おおおおおお!!」
そこに一夏が叫び声を上げながら向かってきた。イグニッション・ブースト、速い。手にアサルトライフルは無く雪片弐型を持っていた。アサルトライフルは途中で投げ捨てたのだろう。
俺はシャルロットにしがみ付かれている。空間転移以外では逃げられない。だが俺は慌てず右手の無名を量子化し、宣言する。
「幻符・偽マスタースパーク」
一夏は近距離に入ると零落白夜を発動させた。ほぼ同時に青衣に残っている3つのオプションが消失し、俺の右手にIS用ミニ八卦炉が出現する。そのプロセスは一瞬で終わり、そこから白い極光が放たれた。それは至近距離で一夏を直撃する。予想をしていなかったのだろう、極光はカウンターの様に一夏を飲み込んだ。
そこで俺は腹部に衝撃を受けた。シャルロットのパイルバンカーだ。俺が右手をずらした瞬間に自由になった左手に搭載されたパイルバンカーをがら空きになった腹部に放ったのだ。
吹っ飛ばされた俺はシャルロットの左手にあるパイルバンカーからパージされた盾が落下していくのを目撃した。
俺は『幻符・偽マスタースパーク』は発射したままだ。そのまま横薙ぎにし白式に命中させる。弾幕と零落白夜、イグニッション・ブーストの連発で削れていたシールドエネルギーはゼロになり、白式が落ちた。
「まだ隠している手があったんだ」
流石にスペルカード再現を使ったままシールドを、結界を削ることは出来ない。いいや、シャルロットなら自身のシールドが削られ様がお構いなしに使っただろう。にこやかな彼女に迫力は余り無い。だがそれ以外に不気味な何かがあった。
体制を立て直した俺に戻ったオプションは2つ。青衣のシールドエネルギーは半分近く減っていた。
シャルロットはラピットスイッチでマシンガンに切り替え、俺はニードルレーザーとオプションから弾幕を放った。互いに互いの攻撃を喰らう。
うめくシャルロットに対し、俺は再度イグニッション・ブーストで一気に距離を詰めて斬りつける。彼女は近接ブレードで受けた。だが俺の無名は2本なのだ。右に出現させた無名で絡め取り、シャルロットの近接ブレードを弾き飛ばす。
だが、シャルロットは後退し、空いた手に今度は拳銃を出現させ発砲する。またしてもラピットスイッチだ。
俺は弾丸を喰らうが、強引に不安定な姿勢のままスラスターを操作、シャルロットに向かい突進した。ぶつかるような形で無名を薙ぐと、ようやくシャルロットのエネルギーはゼロになった。
ブザーが鳴り、試合終了が告げられた。青衣のシールドエネルギーは半分を切っていた。
「負けっちゃった」
妙にすっきりした顔のシャルロットだ。
「空間転移を使うとは思わなかったのか?」
「うん」
俺は使わない、シャルロットはそう思っているように感じられた。あっさり肯定される。
「それに使ったら使ったらで僕はついていく気だったよ。でも、何で使わなかったの?」
「何か、使ったら負けな気がした」
「そう?」
俺の問いにあっけらかんとしたシャルロット。何か勝った気がしない。誘導されていたのか?
今度は一夏からプライベートチャンネルが入る。
「二人ががりで半分かよ……」
「今回はタッグ戦、自分の役割に徹したんだから良しだ」
「そうかよ……」
疲れ切った声の一夏と通信を終えると、目の前にはやっぱりにこやかなシャルロット。
「青衣さん」
『はい?』
「緑兵ってこうなの?」
『こうなんですよ』
「じゃあ、行くから」
「あ、ああ」
そう言い残して彼女はピットに飛んで行った。俺は困惑したまま飛んでピットへ戻る事にした。
「お土産は?」
と、ピットに戻るや否や先輩達に速攻聞かれた。ようやく俺は気が付いた。一夏を連れて来いという事だったのか。
「ありませんよ」
「え~?」
「どうしろと?」
こうして俺の試合は終わった。
なお、更識会長からは『面白かったわ』と、簪さんからは『ひょっとこは賛成』、虚さんからは『やりすぎです』とメールが入っていた。三者三様、性格が出る返答だった。
夕食後、シャルロットから一夏の部屋に来るように電話があった。他の専用機持ちもいるらしい。
部屋に行くと持ち主の一夏の他に箒、鈴、オルコット、そしてラウラがいた。
シャルロットはあの笑顔は無くなっている。付き合いは長くないが何時もの状態だ。俺の仮面、ポーカーフェイスに似た様なものだったのか、あれは。
彼女達はひょっとこやおかめをインターネットで少し調べたら面白くなり、そのまま他の事も調べ始めたらしい。妙にテンションが高い。一夏や箒は日本人である。どういうものか、一夏の部屋に移動してホームページに書かれた内容を解説して貰った様だ。それで警備が終わる時間を見計らい、俺達も呼んだとのこと。
箒はともかく、一夏は鈍感なのか何なのか、平然としている。よくこの空気の中男一人で耐えられたものだ。俺なんか青衣が早苗やら他の連中が集まったとき、流石に取り残されたものだぞ。
さて、夢中になってパソコンを弄るラウラが愛玩用の兎に見えてしまった。目をきらきらさせている。あれ、こんな奴だったっけ? もっと殺伐とした雰囲気じゃあなかったか? そういえば変に素直だったな。
そのラウラだが一夏を嫁と呼んでいる。気になってラウラに確かめてみるとクラリッサという黒ウサギ隊の副隊長に相談し教えられたようだ。何でも日本の少女漫画が大好きらしい。
日本の知識偏っているから、間違っているから。ラウラが語るクラリッサという人物に悪意は無いのだろう、だから余計に性質が悪い。
残りの日程は平和なものだった。俺達は食堂を使うに使えず『倉』の食糧を大量に消費してしまったが。何せ、買い出しにすら行けなかった。近所のスーパーにまで張り込まれていたからな。
さて、学年別トーナメントの残りをざっくりと。2年生はやはり更識会長が優勝した。2位のペアにはサラ・ウェルキンが名を載せていた。フォルテ・サファイアは準決勝で更識会長に負けた為に3位となった。3年生はダリル・ケイシーの圧勝で終わった。
簡単な表彰式が終わり、見届けた要人達が帰って行く。スカウトを始めとする企業のエージェントは一部残っているだろうが警備としての仕事は終了した。織斑先生の号令で管制室から出る。
とりあえず一仕事片が付いたのだ。管制室から出て更識会長に電話を掛け、報告すると食堂で合流する事になった。
食堂で虚さんも交えて4人で食事をしているとこんな事を聞かされた。
ここ数日で日本文化に興味を持った者が増えたらしい。IS学園の生徒は頭に超が付くエリート校だ。だから入学するまで勉強や訓練漬けの者が大半を占めている。結果として遊びや民族的な文化面には疎いらしい。
更に入学してからもIS学園から外に出ることもあまりない。余計に狭い世界になってしまうのだ。
ひょっとことおかめが原因かもしれないって、話が変な方向に広がって無いか?
まあ、いいか。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
タッグ戦は飛ばせばよかったと少し後悔しました。東方ではボス戦の前にズレた会話が基本かと思い、こうなりました。それと和風。
例のごとく、書き溜めはありません。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
2重表記修正 一部修正 「ビット」⇒「ピット」