幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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今回は織斑千冬、一夏、マドカについての捏造設定があります。
束はマドカの事を「ちーちゃん(千冬)の妹」と言いましたが、正体や関係性が公式で出ていませんから。


21_幻想世界のサテライト2

「臨海学校、特に7月7日は篠ノ之束が現れる可能性がある、か」

 

 『拠点』でこれまでの事を報告すると紫姉さんはぼやく様に言った。藍姉さんは今回来ていない。何か用事があったのだろう。

 

「興味のある幻想郷の者がここに来て張ってても良いんじゃないかと思う。来なかったら単なる見物、酒でも出せば良い事だ」

「んー、そうねえ。臨海学校の様子でも見て肴にしようかしら」

 

 紫姉さんが手に持った扇子で自信を仰ぐ。

 

「戦い方について私も考えてみるわ。後は」

「ああ、記録で見せた通り別の亜空間が一応効いた。それに大破しているとはいえ打鉄も手に入った。それと……」

「織斑マドカという少女ね」

 

 その言葉に頷く。

 

「展開しているISごと『倉』に放り込んだから、スキマで除外できるか試してほしい。体内に何か隠す可能性も有る」

「わかってるわよ。本人とそれ以外で分けるわ。まず『倉』を開いて」

「了解」

 

 全員が立ち上がり、俺は織斑マドカを入れた『倉』を、真っ黒で平らな出入り口が開く。紫姉さんはその『倉』に手を翳し、何故か俺を見た。

 

「緑兵、貴方は後ろを向きなさい」

「へ?」

 

 言われている事が理解できず、俺は間の抜けた言葉を発した。

 

「織斑マドカは裸になるのよ?」

「ああ、そうだった」

 

 ワザとではない。以前に話した事ではあるが、すっかり忘れていた。『倉』に対して後ろを向く。

 直ぐに背後から小さな悲鳴が聞こえた。スキマで目の前の『倉』から織斑マドカ本人と本人以外に分けて、本人を引っ張り出したのだろう。

 織斑マドカからすればISで戦っていたら訳の分からない真っ暗な場所に放り込まれ、気が付いたら裸にされていた。しかも何故か和室で見知らぬ女(紫姉さん)もいる。そりゃあ悲鳴も一つも上げるよな。

 

「とりあえず成功ね。緑兵、布団か何か出して」

「ほい。適当にとって」

 

 紫姉さんの指示に従い、背後に別に『倉』を開いてそこから毛布を出す。どさっと毛布が落下する音に織斑マドカの声が混じった。『倉』を見て驚いたのだろう。

 

「はい、使ってね。悪いけどチェックが終わるまで持ち物は没収よ」

「だ、誰が……」

 

 彼女は警戒している。拒否する声が聞こえた。

 

「あらそう? 緑兵、こっちを向いて良いわよ」

「じゃあ遠慮なく」

「被る、被るから待ってくれ!! こっち見るな!!」

「見ないから早くしろよ」

 

 しかし、ならしょうがないとばかりの紫姉さんと、後ろを向いても得しかない俺の返答に織斑マドカは甲高い声を発した。後ろでドタバタが繰り広げられている。

 織斑マドカって男に免疫が無いのか? 過剰反応な気が……しないな。これ位で普通かも。

 

「もういいぞ」

 

 後ろを振り向くと、茶色の毛布に包まり顔だけ出した織斑マドカが立っていた。てるてる坊主である。心なしか顔が赤い。織斑千冬そっくりな顔でこういう表情をされると実に新鮮だ。面白い。

 

「織斑マドカだったな? いろいろ聞かせて貰うぞ」

 

 この言葉に織斑マドカがにやりと笑う。

 

「残念だったな、情報を取ろうとしても無駄だ。話せば私は死ぬ」

「そりゃ物騒な事で」

「私には監視用のナノマシンが注入されている。大分時間が経ったみたいだな。抑制剤もお前らが没収したからもうすぐ死ぬだろう」

 

 返す俺に織斑マドカは余裕を見せる。だが、彼女の言葉に俺は紫姉さんを見た。青衣もだ。織斑マドカは怪訝な面持ちになる。

 

「多分、そのナノマシンは取っちゃったわ」

「は?」

 

 視線を向けられた紫姉さんが困った様な顔する。その一言を聞いた織斑マドカはぽかんとした。

 

「さっき貴方本人と本人以外を分けたのよ。だから裸で出てきたわけ。

 ナノマシンって要は極小の機械でしょう? 分けちゃったからもう体に入って無いわよ。だから死なない、簡単ね」

「いや……まさか……」

 

 この言葉に織斑マドカの目が泳ぎ始めた。ごにょごにょと口の中で何かを呟き始める。俺は『窓』を開き、寮の自室にある時計を表示させた。それを見て織斑マドカがびくんと跳ねた。『窓』ではなく、24時近くを示す時計に反応をしているのだ。

 

「寺で会ったのは17時半位だったよな。いつ死ぬんだ?」

「……もう死んでいるはずだ」

 

 ナノマシンが取り除かれたと確信しているから出来る方便だ。ナノマシンが時限式で体内に残っているなら、織斑マドカの時間が『倉』で停止して為に起動していない可能性も有った。

 

「とりあえず、座ったらどうだ? 俺達も座るから」

 

 俺は近くにある座布団を手元に引き寄せ、横に置いた。これは織斑マドカの分だ。

 

「あ、ああ」

 

 俺が座ると、織斑マドカは戸惑いながらそこに座った。織斑マドカのもう片方の隣は紫姉さん、正面に青衣がいる。

 

「本当にナノマシンは無いのか?」

「無いわ。分けちゃったもの」

「そうか……」

 

 青衣が新しく茶を注ぎ、織斑マドカの正面に置いた。織斑マドカは湯呑をじっと見ている。

 

「織斑マドカだったよな」

「マドカでいい。聞きたいことがあるなら全部話してやる。

 ナノマシンが有れば話せば死ぬからな。真偽はそれでわかる」

 

 俺の声に彼女の視線は湯呑から動かさず、受け答えをする。

 

「なあマドカ、何で体にナノマシンなんか入っていたんだ?」

「亡国機業(ファントム・タスク)に対する忠誠心が欠片も無いからだ」

「亡国機業って何だ?」

「……私が生まれ育った組織だ。簡単に説明する」

 

 亡国機業は第二次世界大戦中に成立し「裏の世界」で暗躍する秘密結社だ。非合法な手段を使い利益を得ている。亡国機業は運営方針を決める幹部会と実働部隊に分かれていて、マドカは実働部隊に属している。ISの強奪も亡国機業の仕事であり、奪ったISを使い各地を襲撃して新たなISを得ていた。

 マドカは遺伝子に手を加えた身体能力の強化体として生を受け、戦闘員として育った。そして今に至る。

 マドカの使用しているサイレント・ゼフィルスはイギリスの第3世代機であり、イギリスから強奪された物をマドカが受領した。ちなみにオルコットのブルー・ティアーズのデータが使用されたBT兵器を搭載する二号機である。

 

「マドカ、お前は織斑先生のことを『ねえさん』と呼んだよな?」

「正真正銘、血の繋がった姉だ」

 

 なら話も簡単に繋がってしまう。余りの情報に自分で考えるのを止めていた場所だ。

 

「織斑千冬も織斑一夏も亡国機業で生まれた。私と同じ遺伝子強化体だ」

 

 その予想は、別の意味で予想を超えていたものだった。息を飲む。

 紫姉さんは表情を崩さないが、青衣は俺と同じく驚愕していた。

 

「そういえば、織斑先生は生身でIS用のブレードを使ってISの一撃を止めましたね」

「あったな、そんな事」

 

 ラウラがまだ転入したての時、オルコットのブルー・ティアーズと鈴の甲龍相手にひと悶着を起こした。俺達はアリーナで一部始終を見ている。

 青衣の言葉に頷くと、マドカが続ける。

 

「私達は同じ遺伝子提供者から生まれた。その遺伝子提供者は『織斑』という者だ。

 能力の低い者はやがて失敗作とされ処分されるが、合格した者には弟や妹を作りだす。性格にもよるが身内で縛るのが常用手段だ。生まれた弟や妹にも訓練を施し実力を測り、を繰り返す。

 その内に私と一夏が双子で生み出された。私が双子の妹になる。私はねえさんと同じ方法に改良を加え、一夏は新規で作られた。だから私は姉さんにそっくりなんだ。

 小さいときは3人で暮らしたこともあった。ねえさんに弟と妹がいる事を実感させるためにな」

 

 感情無く、マドカは淡々と言葉を発し続けている。

 

「やがてねえさんは性能の限界に直面した。性格が甘くなり競争で周囲に負けたんだ。

 亡国機業内の派閥抗争もあり、一般社会に適合できるかどうかの実験に回された。戸籍や金銭を用意してな。遺伝子提供者、遺伝子上の両親は日本人だ。だから場所を日本とした。一夏は記憶を消されてねえさんに同行し、私は人質として亡国機業に残され戦闘員として訓練を積んだ。

 それに男と女では単純な身体能力なら男の方が勝る。手元に残すなら女の方が楽だろう? 当時はISも無かったしな、利用方法が無くなれば悲惨な使い道もある。これでも容姿は良い方だろう? そちらの方が喜ばれるに決まっている」

 

 突飛で残酷な話だ。流石に困惑する。紫姉さんも珍しく唸っていた。

 

「そんな人間が簡単に表に」

「ドイツから来た遺伝子強化試験体は知っているだろう? 国家代表候補生として表にいるじゃないか」

 

 俺の言葉は途中で遮られる。そして知り合いにドイツ人は一人しかいない。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

 

 銀髪の少女が頭を過ぎった。マドカは首肯する。

 

「ドイツ軍は亡国機業の顧客だ。第二次世界大戦後に4つに分断されてたドイツにそこまでの国力が無かったからな。良い客らしい」

 

 それは知っている。やがて東と西に2つのドイツになり今は統合された。

 

「人間の遺伝子に手を加える方法も亡国機業から買った技術だ。もう十分という事で売り払ったんだ。それはねえさんも知っているはず。

 それに一時的な教官としてドイツ軍に入った程度でドイツの遺伝子強化試験体が生まれた経緯、端的に言うと国家機密級に触れるなんておかしいだろう?

 ドイツ軍は知っても公表しないと考えた。同時に任せた試験体を仕上げることもだ」

 

 ラウラはドイツ軍内で生まれたと聞いたが、流石に予想を超えていた事に衝撃を覚える。

 マドカに嘘をつく理由は無い。ということはそれが事実の可能性が高いという事だ。これには流石に紫姉さんも驚いている。

 

「さて、話を戻すがねえさんは実験として社会に出た。それは失敗作として烙印を押されたも同じ事だ。そのねえさんはやがて篠ノ之束に協力し白騎士事件を引き起こす」

 

 俺は織斑千冬から聞いた、白騎士事件を起こした理由を思い出した。

 

 

 

 

 

 あの日、学園長室で織斑千冬は自虐的な笑みを浮かべて淡々と語った。

 

「私は否定された。最後には見ず知らずの環境に一夏と二人で放り出された」

 

「一夏以外は周りに誰もいなかった。私達は何をして良いか全くわからず周りから浮いた。それで当時は荒れた」

 

「やがて友人が出来た。だが束も自分の作ったものを否定され、私と同じになった。だから協力して白騎士事件を起こした」

 

「ミサイル、戦闘機、戦艦……力を圧倒的な力で潰す。全てがゲームの様で楽しかった。だから全てを壊してみたかった」

 

 

 

 

 

 あれはこういう事だったのか。あの時俺はゲーム感覚でやったと言われ彼女に呆れたが、本気で世界を壊したかったのだ。その通りに世界は壊れた。

 

「余りに目立ち、世界をも引っくり返した。それは私という人質を切り捨てた事になる。

 事実、同時期に連絡が取れなくなった。ねえさんは亡国機業を裏切ったんだ」

 

 そういえば織斑先生は生活の為にISの操縦者として働いたと言ってたな。

 

「ISを作った篠ノ之束に注目が集まり、近くにいるねえさん達へ迂闊に手を出せなくなった。定期的に行っていた送金を止めるのが関の山だったらしい。

 本当なら私は処分される筈だが、篠ノ之束にどう伝わっているかが不明だった。その為にナノマシン処理で済んだ」

 

 マドカの顔があの時の織斑千冬そっくりな自虐めいたものになる。

 

「実は白騎士事件以降、ねえさんの能力が亡国機業に残った者と比べて突出していたんだ。

 ちなみにそれが原因で失敗作と判定を下した者は処分される事態にもなった」

 

 ここでマドカはくつくつと笑い始めた。

 

「痛快だった。私はねえさんに見殺しにされたも同じなのに本当に面白かったよ。裏社会で生まれた失敗作が世界をぶち壊し、表社会で世界を取ったのだからな。

 ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒに特に目を掛けたと言うのも自分そっくりの境遇だったからだろう。向こうも勝手に造り出され失敗作とされた者だからな」

 

 ラウラがマドカの言う通り遺伝子強化の試験体なら生まれも育ちも同じだ。

 話が途切れたので、俺は気になったことを聞く。

 

「一夏の身体能力は高くない。確かに飲み込みも悪くない方だと思うがラウラみたいに強力だとは」

「環境としか言いようがないな。普通の学校で普通に育ったわけだろう?」

「ああ、なるほど」

 

 素質はあるが入学まで訓練をしていたわけじゃない。納得し、頷いた。

 一夏の飲み込みの悪さ? あれは教えていた3人も悪い。シャルロットがしっかり教えたら覚えていた。

 

「ところで第二回モンドグロッソ、ねえさんの棄権理由は知っているか?」

「ああ」

 

 マドカはにやりと笑う。

 

「一夏の誘拐にも亡国機業が絡んでいる」

「はあ!?」

「ドイツ軍が依頼主なのか協力を頼まれたは知らんが、ドイツ軍が情報の提供と操作を担当し亡国機業が実行した。その実行犯の一人はオータムという。私も良く知っている奴だ。

 ねえさんは組織の裏切り者だからな。制裁のつもりかもしれん」

 

 ここでマドカは一拍置いた。

 

「だが私は少し違う。一夏が足を引っ張った事、ねえさんが棄権したことが馬鹿だと思った。一連の動きに亡国機業の影がある事に気が付かない愚かさもだ。

 私の一方的な感情だが更に裏切られた気になったよ。私を見捨てて置いて、一夏が絡んだとたんにこれかと。

 ねえさんと一夏を殺す為に訓練に明け暮れた。そうしたらサイレント・ゼフィルスを渡された。ナノマシンがあるから問題は無いと思ったのだろうな。

 面白い話だったろ?」

「ああ、最高で最低な話だったが面白い」

 

 くくっとマドカが笑った。

 さらっと言われたがマドカの目的は織斑千冬と一夏を殺す事、復讐か。だがこれで色々繋がった。裏を取る必要はあるがドイツ軍が黒なのはほぼ確定か?

 

「人間って、やることがえげつないわ」

 

 黙っていた大妖怪の称号を持つ紫姉さんがぼやき、ため息を付いた。それにマドカが頷く。紫姉さんが妖怪であることを知らないので、額面通りの意味を取ったのだろう。

 確かにえげつない。世間で妖怪がやったと伝わる悪行も霞んでくる。

 

「今日の襲撃も亡国機業が?」

「ああ、そうだ。七海緑兵、お前のISである七海青衣を奪う事が目的だ」

「なるほどね。それと俺は緑兵で良い」

「私も青衣で良いですよ」

「わかった。そう呼ばせてもらう」

 

 俺と青衣の言にマドカは首肯する。

 

「昼間の方だ。ISに乗っていた元代表候補生は女尊男卑の筆頭ともいうべき女でな、男は絶滅させたいと周囲に漏らしていたらしい。そんな主張を持ちながら、日本政府に連なる組織でISを用意できる立場にあった」

「なんでそんな人を国が雇うんですか……」

「全くだ」

 

 青衣の言う通りだ。マドカも苦笑いをする。

 本気で日本政府には呆れてしまう。国民の虐殺を考えている者を入れるなよ。わかったら首にしろよ。周囲に漏らしたって、他の連中も同様なのか? 本当に政府は阿呆の集まりなのか?

 ……そういや女尊男卑の法律って国会(立法)が作り政府(行政)が実施しないと起きなかったんだよな。政権与党も含めて阿呆で当然かもしれない。

 

「そんな女に情報を流せば勝手に探り始める。他にも何人か同じ情報を渡し結託させれば襲うだろう。だが襲われても緑兵と青衣の勝ちは揺るがない、亡国機業は判断を下した」

「俺達、ずいぶん大層な評価を貰っているな」

「そうだな。評価は高いぞ。それに緑兵は空間転移という馬鹿げた事をやってのける。私はおろか皆最初は耳を疑ったがな。

 どこまでが有効範囲か不明だが、寺に予定を入れていた。だから移動時間で不可能なスケジュールでもやってのけると思った」

「なるほどね」

「昼の目的はお前が試合とは違う状況で、どんな行動を取るか観察することだった。

 もっとも観察する前に終わったらしい。あの連中と一緒になってお前を追うと一緒くたにされかねないからな」

「あの連中、様は捨て駒か」

「そうだ。最初から私が寺で襲撃をするのが本命だから完全な捨て駒だ。失敗しても悪影響はないし尻尾もつかませない。その捨て駒が機体だろうが心理的だろうが少しでもダメージを与えてくれれば良し。その程度でしかない。

 私はお前たちを倒し、捨て駒のISも可能なら回収をするのが目的だった」

 

 えげつない手を使うね。まあ、そういう主張の女達なら獄中に繋いでいた方が良いと思うけど。

 

「俺が寺に行かない、中止するとは思わなかったのか?」

「その性格から予定通りに行うと推測していた。ましてダメージが欠片も無い状況ならな。

 同時に寺の様子に違和感を覚えたら中止にして逃げるだろうとも予測があった。だから私一人で待機したんだ。来なければ単に中止にしただけだ」

「……」

 

 完全に俺は読まれていたわけね。行動から性格まで何もかも。

 

「なあ青衣、俺ってそんなに単純?」

 

 マドカとは反対側にいる横にいる青衣に投げかける。

 

「単純ですね」

 

 あっさり返され紫姉さんの方を向く。

 

「単純よ」

 

 此方にも返された。マドカが大笑いを始める。

 

「マドカ、お前は笑い上戸なのか? さっきから笑いっぱなしだが」

「違う違う、ここまで笑ったのなんか何年ぶりか……」

 

 笑い過ぎたのか、彼女の言葉は途中で詰まった。次いでけほけほと咳をする。気管にでも入ったのだろう。涙目である。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫だ」

 

 自身の胸を叩いているのだろう、体を包んでいる毛布の下からドンドンと音がした。

 完全に落ち付いた様だ。俺に向き直る

 

「これからもお前達に亡国機業が接触して来るだろう」

「そうか」

「次は何を聞く?」

 

 何故か俺の方を向く。さて、どうしたものか。

 

「俺達の目的は知っているな?」

「ああ、女尊男卑の破壊だろう? 手段として男もISに乗れるようにするらしいな」

「その通りだ。織斑千冬を殺すなら、それが終わってからにして欲しい。篠ノ之束が何をするかわからない」

「ほう、私を止めないのか?」

 

 マドカは少し驚いている様だ。俺は一応教え子だし止めると思ったのだろう。

 

「何も知らない、というか覚えてない一夏はともかく、織斑千冬なら止める気はないぞ」

「面白い奴だな。そちらの二人はそれでいいのか?」

 

 紫姉さんと青衣に振る。

 

「個人単位のいざこざに干渉する気はないわ」

「同じく、私達の邪魔をしないならどうぞ」

 

 表情すら変えない二人の言葉を聞き、再びマドカは軽く笑い始めた。

 なあ、本当に笑い上戸じゃないのか?

 

「ああ、本当にナノマシンが無いんだな」

 

 ふうっと、一息ついたマドカが清々しい顔になる。

 

「あら、残っていると思ったの?」

「流石に何年も体内にあったものだからな。すっきりした」

 

 おどける様な紫姉さんの問いにあっさり答えた。そういう事か。

 

「ところで、他に何か聞くことは無いか?」

 

 再び俺の方を向く。何故?

 

「一人で来たってことは、それだけ高評価の俺達にISなら勝てると判断されたんだよな?」

「ああ、何なら後でやるか?」

 

 にやりと、マドカは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「そうだな。ひと段落ついたらそれもいいか」

「面白い」

 

 俺の返事ににやりと笑うマドカは立ち上がろうとし、前へ、つまり俺の方に転んだ。

 

「足が……」

 

 足が痺れたらしい。上体を起こしながら顔を顰めるマドカと目が合う。

 彼女を包む毛布を抑えていた両手は体を支えるべく反射的に畳についている。その為に毛布は全開になってしまった。彼女の正面にいる俺からは中身が全てが丸見えだ。

 自分の状態に気が付いたマドカが固まる。次いで発せられた特大の悲鳴が俺の耳を直撃した。

 

 

 

 

 

「それで、当面お前はこれからどうする?」

 

 戻された黒い服に着替えたマドカに俺は声を掛ける。

 

「さて、どうするかな? 亡国機業に戻る気は無いが行く当ても無い」

「……しばらく幻想郷にいらっしゃいな」

 

 言いながら紫姉さんはスキマから取り出した抑制剤入りのガラス瓶と、ナノマシンが入っているらしい瓶(空き瓶にしか見えない)を軽く振る。それは2組用意され、片方は俺が念のために持って帰る予定だ。IS学園か何処かを通して分析をするかもしれない。

 

「幻想郷?」

「これだけ情報を出してくれた娘をそのまま放り出せないわよ。

 とりあえず永遠亭にでも連れて行くわ。取り出したナノマシンと服用していた抑制剤の影響も見ないとね」

 

 マドカは疑問符を浮かべるが、紫姉さんは俺と青衣に対して言った。

 

「いいんじゃないか?」

「そうですね」

「お、おい。幻想郷とは何だ?」

 

 あっさり同意した俺と青衣にマドカは困惑している。

 

「説明するわ」

 

 実は説明好きの紫姉さんと青衣の目が光った。

 

 

 

 

 

「そんな世界があるのか……」

 

 紫姉さんは青衣の記録を交え、マドカに簡単な幻想郷の説明を行った。少し錯乱したマドカに俺は一部の能力も見せた。納得出来たかは別として一通りの話が終わる。

 彼女は困惑した顔をしている。半信半疑と言ったところか。まあ、当然の反応だろう。

 

「そっちも似た様なものだろう? 俺からすれば亡国機業の存在を疑いたい。知らないからな」

「確かに知るわけないな。だが嘘は言ってないぞ。少なくとも私の知る限り、本当の事を言った」

「だろうな。嘘をつく理由も無さそうだ」

 

 心外という顔で頬を膨らませたマドカに俺は返す。彼女は年齢より子供っぽく見えた。俺と同い年のはずなんだがな。

 

「で、どうするの? 幻想郷に来る? 来ない?」

「私は遺伝子強化体だぞ?」

 

 紫姉さんの問いにマドカは自嘲を乗せて返す。

 

「妖怪ですが何か?」

「同じく、妖怪ですが何か?」

「人間だけど、能力持ちですが何か?」

 

 だが、俺達3人の言葉で彼女は固まってしまう。

 

「遺伝子強化体? 結局人間だろう?

 外の世界だって外国人嫌いとか地元民以外信用しない者はいる。こっちにも外来人は信用しない者とかいるしな」

「……人間と言ってもだな」

「生身で空を飛ぶ人間がその辺にいる世界だぞ。俺も飛べる」

 

 青衣の記録を見ても、どういう所か完全に理解していない。俺の言葉にマドカは目をぱちぱちさせている。

 

「それに人間に限っても俺が知るだけで仙人や蓬莱人、天人、人間の魔法使いが居る。

 千年以上生きている者や不老不死がうろついて、普通の生活している場所だ。元人間の妖怪もいる。遺伝子強化体と知ってもちょっと変わった人間程度で終わると思う」

 

 この説明にマドカは喉を鳴らした。

 

「確かに外来人、外の世界から定住した人間なら織斑千冬の顔を知っているだろう。お前はそっくりだしな。でも何で妹が幻想郷に来てるんだ? と思うだろうな。遺伝子強化体も含めて理由を知ったら同情するかも」

「……」

「まあ、結局はマドカ次第だ。ここが有るから急かす気は無い。だが何日も悩まれたら困る」

「そうか」

 

 俺の言葉にマドカは考え込んでいる。

 

「なんなら一日か二日考えるか?」

「いいや」

 

 少し経ち、再び声を掛けるとマドカは考えが固まったのか大きく頷いた。

 

「決めた。幻想郷に行く。此方に戻るかは別だが、今は落ち着いて身の振り方を考えたい。それは可能か?」

「それでいいわ」

 

 その答えに紫姉さんは軽く首肯した。

 

「なあ、サイレント・ゼフィルスはどうする?」

「さっきの説明だと、青衣以外のISを持ち込むわけにはいかないだろう? お前が好きに使えばいい」

 

 俺の問いに、マドカは此方を向いてやりと笑う。

 

「とは言っても表に出すと面倒な事に」

「なるだろうなぁ。あれは最新鋭の第3世代機で亡国機業が強奪したISだ。下手をすればイギリスから共犯を疑われるぞ」

 

 俺の言葉に被せてくる。急に雰囲気が明るくなったな、こいつ。良い傾向ではあるが。

 とはいえ、どうしたものか。そのまま渡せば面倒だし、イギリスに要求する事なんて無い。何せ国相手だからな、いちゃもんも付けようとすれば付けれるだろう。サイレント・ゼフィルスという大きな手札が手に入ってしまったがどう使うべきなんだ? イギリス代表候補生のオルコットにでも渡す? 何か利用方法が……待てよ?

 

「なあ、マドカ。最新鋭機を預かるってことは亡国機業でも腕は良い方だよな? 亡国機業も俺達に勝つと判断したから襲撃させた訳だし」

「確かに自信はあったが、その初任務でお前にやられたんだぞ」

「ほとんど戦ってないだろ? 亜空間に入れただけだ」

 

 マドカは少し頬をひきつらせた。俺は紫姉さんの方を向く。

 

「せっかく最新鋭機と訓練した操縦者がいるんだ。マドカにIS対策の実験を頼めないか?」

「……確かにね。マドカ?」

 

 紫姉さんは少し考えた後にマドカに振った。マドカは紫姉さんを向く。

 

「安全は保障するからIS対策用の実験として乗ってくれないかしら? 此方の技術が通用するか、立てている対策が有効か見たいのよ。当然、報酬も出すわ」

「それは構わないが……さっきも言ったが幻想郷にISを持ち込むのは不味いだろう?」

 

 降って沸いた話にマドカはちょっと戸惑っている。

 

「持ち込まないわ。幻想郷の外に緑兵の作った亜空間があるから十分よ。此処もそうね」

「ここは……私達が居た場所とは違うのか!?」

「亜空間、世界と世界の合間に緑兵が造り出した場所よ。幻想郷からも外れているわ。それでいて幻想で作られているから外の世界にでると滅んでしまう者も存在できる。

 外の世界にある幻想の避難所というところかしら」

 

 マドカが戸惑っている。俺が能力持ちで一部も見せたが、此処が何なのかまでは伝えていなかった。

 

「マドカにも役割が出来れば堂々と幻想郷で受け入れることが出来るわ。何なら外来人の纏め役に紹介しても良い。この計画自体は隠していないし彼らにも協力して貰ったこともあるから納得するでしょう。

 選択できる道は多い方が良いわ。もし幻想郷に定住するなら人間の里も候補に入るでしょう? それに何もせず今後を探るより、慣れた事をしながらの方が良い。別に毎日実験する気はないから」

「確かにそうだが……」

「じゃあ決まりね」

 

 紫姉さんはぱしっと扇子を開く。

 

「いや、私でいいのか?」

 

 だが、マドカは挙動不審だ。何をそんなに戸惑っている?

 不思議そうな目で其方を見ると、マドカは逆に俺を見る。

 

「幻想郷に行く事はともかく、私はさっきお前達を襲った相手だぞ?」

「蹴りはついただろうが。青衣を奪いに再戦する気か?」

「する気はない。再戦は実力勝負だ。そうではなくて昼間の襲撃も亡国機業が絡んでいるんだぞ?」

「マドカは外の世界に戻ることはあっても、亡国機業に戻る気は無いんだろ?」

「そ、そうだが……」

 

 そう返すと、彼女はぱくぱくと口を何度か開閉させた。

 

「サイレント・ゼフィルスはともかく、私でなくても」

「ISの訓練をした者はいないよ。今から鍛えるのも無理だ。間に合わん」

「お前は……無理だったな」

「ああ。俺は男だから青衣以外は乗れない。手元のISは青衣を除けば今日奪った打鉄とサイレント・ゼフィルスだ。

 その打鉄は大破しているから治るまで待つしかない。青衣は幻想郷で過ごしたイレギュラーで幻想郷の皆は知っているから参考にならん。使えるのはサイレント・ゼフィルスしかない」

「なら尚更だ。そんな背景なら実験は重要だろう?」

「重要だよ。行う予定の対策が机上の空論に終わるのか効果が有るかの線引きになる。それに幻想の住人が訓練したIS操縦者相手にやれるかも見たい。なおさら腕の良いISの操縦者が必要だな」

 

 マドカの目が泳ぎだした。改めて織斑先生そっくりだな。

 

「そんな重要な役割……私で良いのか?」

「嫌なら仕方ないけどさ」

「私で良いのかと聞いている!!」

「良いよ。それに実際問題としてマドカにしか頼めない」

 

 今度はかちんと固まった。

 

「わ、わかった。引き受ける」

「助かる」

 

 やがて再起動をしたが今度はびっくりするくらいに挙動不審だ。何だろう。紫姉さんと青衣は何か楽しそうだし、訳が分からない。

 

「命令された事は幾らでもあるが、人に頼まれたのは初めてだ」

 

 視線に気が付いたのか、マドカはぶっきらぼうに返す。

 

「幻想郷に行けば互いに頼み、頼まれることが多くなるぞ」

「……そうなるのか?」

 

 マドカ、照れてないか? 顔も赤い。まあ、挙動不審の理由がわかったから良いけどね。

 

「頼まれたからって、何でも聞く都合のいい女になるなよ。断わるべきことは断れよ」

「わかってる!! きちんと中身を聞いて断るから!!」

 

 彼女は何故か言葉を荒げた。

 

「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」

 

 くすくす笑い、扇子で口元を隠しながら紫姉さんが言う。開かれたスキマを見て、マドカは一瞬身構えた。

 

「一ついいか?」

「何だ?」

 

 マドカはスキマから視線を外し、俺に声を掛けるとにやりと笑う。

 

「一緒に暮らしていた頃の一夏を除けば、私の裸を見た男はお前が初めてだ」

 

 呆気にとられた。傍らにいる青衣もだ。対照的に紫姉さんはくすくす笑い始めた。

 

「双子の兄妹だぞ? 小さければ一緒に風呂やシャワーに入れること位はあるだろう?」

「……だろうな」

 

 当時は幼児だな。その年齢なら自然だろう。銭湯も異性の側に入ることもできる。

 

「IS発表前は戦闘員としての教育、発表後はずっとIS乗りだ。そんな私に男が近寄ると思うか?」

「……思わない」

「私は優秀な成績を修めていた。それ以外の使い方をされると思うか?」

「……思わない」

「レズはいたが個人的に近づかなかった。裏社会にいたからってふしだらだと思ったか?」

「人によるとしか……」

「私はそう見えるのか!?」

「見えません!!」

「ならいい。言いたいことは終わった」

 

 スキマが大きく開かれる。紫姉さんの先導でマドカが一歩中に入る。

 

「じゃあ二人共、またな」

「ああ、夏休みに少し戻るからその時に会おう」

「楽しみにしてますよ」

「そうだな、私も楽しみにしている」

 

 此方を振り向いたマドカが初めて自然に笑った。俺は何故かそれを見て固まる。マドカがスキマに完全に入ると紫姉さんは内側から締めた。

 辺りは静かになる。だめだ、何か疲れている。俺は軽く頭を振った。

 

「青衣、さっさと寝よう」

「そうですね、疲れました」

「明日は朝、体を動かすのは無しにする。睡眠時間が欲しい」

「わかりました」

 

 変に楽しそうな青衣が気になったが、こうして俺達は寮に戻った。

 朝はギリギリまで寝れば、妙に残る疲れが取れるだろう。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

普段驚かす側の主人公が驚かされる話です。千冬『も』遺伝子レベルで規格外という事なのでこうなりました。
一夏は小学校1年生(ISの発表年)より前の写真が無く、記憶もあいまいで親についてもおぼろげにしか覚えてないようです。何より公式で親が居ませんから。何故か施設に入ることも無く。

マドカは幻想郷へ旅立ちました。これは最初に決めていた流れです。
彼女が好戦的で慢心しがちでも、それ以上に幻想郷には好戦的でやばい連中が集っています。それでいて幻想郷全体としては呑気で牧歌的。
遺伝子強化体? 普通の人間と何が違うの? その辺で人間が空飛んで、人外が一緒に酒を飲んでますが何か?
空も飛べない、能力持ちでもない、魔法や妖術も無いマドカは幻想郷だと普通の人間にカテゴリーされますね。え? 魔法少女……げふん、げふん。

書き溜めはこれで切れました。次回更新は未定です。
何かありましたら感想へお願いします。

-追加-
誤字脱字修正、『ファントム・タスク』⇒『亡国機業』、くどい個所を修正
『臨海合宿』⇒『臨海学校』
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