それと原作を安く売ってたので3巻~7巻まで購入しました。とはいえ3巻以外はまだ読んでいませんが。その為に『原作未読』のタグは削除します。
海中に『倉』を出して魚を海水ごと吸い込ませ、魚とそれ以外を分けて取り出す。ナノマシンや身に付けている服やISと違い、これなら出来るだろう。取り出した魚は再度『倉』に入れると時間が止まるので鮮度も抜群だ。俺、漁師が適職かもしれないな。
そうだ、鳥等の空にいる獲物の捕獲にも使えるかもしれない。陸だと被害が出そうだが、空気なら被害が少なく空気は戻せるから何とかなる。
何でこんなことを考えているのか? 健康な男にとって、今俺がいる場所は天国であると同時に苦行でもある。女の半裸何て青衣で見慣れている筈なのに。それに皆も部屋着は変に露出が多いのに。
クラスメイト達がバレーをしている。彼女達が動くたびに色んな箇所が飛んだり跳ねたり揺れている。他にも海で泳いではしゃいでいる。此処には青衣も混じっていた。オルコットなんて視界の片隅で、上の水着を解きうつ伏せになっている。油断し過ぎである。
もしもにやけた顔をしたらセクハラと言われそうだ。だが、何の反応も示さなければおかしい。
「貴様は何をしているんだ?」
俺は砂浜に首だけ出して垂直に埋まっていると、頭の上に影が出来て声が掛けられた。声の主は俺の視界に入る位置に移動する。黒いビキニを纏ったとんでもない美人だ。織斑先生である。
すらりと伸びた足から下半身、しっかり見える大きな胸元まで全ての見方が異なる。更に昨日、マドカの裸を見てしまったからか瓜二つな彼女に声を掛けられると変な錯覚が出てきた。何というか、布地で隠れている箇所に昨日見た部分を合致させてしまったのだ。更に俺の目線は彼女のほとんど真下からのアングルとなる。際どい。
「いろいろ自重しています」
「そんなに魚を採りたいのか?」
俺は表情に出さず、一言だけ言う。その言葉に織斑先生は呆れた様な顔を見せた。漁が真っ先に出てきたのはバスの件があったからだろう。
「……自分を落ち着かせたいだけですよ。流石に色んな意味で暴走しかねない。セクハラと言われるのは御免だ」
故に男として突っ込まれない事を考え、出した結論のままに行動しているだけです。
俺の口元が歪む。それを見て織斑先生が顔を引きつらせた。俺から見える自分のアングルが際どい事に気が付いたのだろう、顔に軽く朱がさす。
……その顔、本気で赤くなったマドカにそっくりなんですけど。半分事故とはいえ妹の裸を見たことがバレたら殺されるかもな、俺は。
「俺にはあの中に入るのは耐えられません」
「……女に興味があったんだな」
ため息交じりで言う俺に、織斑先生は『初めて認識した』と言うような顔をした。そんな顔をされても困る。
「無いと思ったんですか? 色恋沙汰をする気はないですけどね」
「そうか」
向こうもため息を漏らした。
「あそこ、一夏を見てくださいよ」
両手も埋めてしまっているので、顎をしゃくり彼女を誘導する。
そこではフリルをふんだんに着けた水着を纏ったラウラと、直前までミイラになっていたラウラを包んでいたタオルを持ち、オレンジの水着を付けたシャルロットが一夏の前に立っていた。
「一夏がどうした? 普段と変わらんが」
彼の前にいるラウラは顔が赤く挙動不審、それを横にいるシャルロットはニコニコしている。だと言うのに彼は平然としている。
「逆にそれがおかしいと思いません?」
「何?」
再び織斑先生が目線を下げて俺の方を向き、目が合う。
「本当にいつもの反応、制服の時と何ら変わらない。あの状態のラウラにですよ?」
「……」
「更に目の前には水着のシャルロットです」
「……確かに変だ」
俺の言いたいことに気が付いたらしい織斑先生は複雑な顔をしている。
普段、ラウラはズボンを履いているので他の生徒と比べて露出は低い。そんな彼女が下着の様な水着を付けているのだ。更に恥じらいを見せている。まるで小動物の様な仕草だ。そしてシャルロットも美少女である。水着も非常に似合っている。
何であの状態で平然としているんだ? お前は一切動じない修行僧か?
再び織斑先生は一夏達の方を向く。俺も同じ方を向くと一夏が此方を見ていた。海にやってきた織斑先生が、首だけ出した俺と会話をしているのに気が付いたらしい。
「何か……明らかに反応が違いますよ? 織斑先生に見とれてません?」
まあ、年上の美人に反応するのは男として当然とも言えるが、お前の姉だぞ。
「姉として嬉しいのか悲しいのか、良くわからんな。ん? 今は睨んでないか?」
「水着の姉と会話している俺に対してですよ。間違いなく」
はあ、と頭上でため息が聞こえた。どうやら俺と同じことを思ったのだろう。
「……あいつの性癖についてどう思う?」
「好意的に言うなら年上が好み」
「違うなら?」
「ノーコメントで」
同級生の水着には反応している様に見えず、実の姉には反応する。口に出したくない。
「そんな貴様は?」
「ノーマルだと信じたい」
織斑先生は幻想郷の事を知らないので、俺の言うノーマルと彼女が思ったノーマルの意味は少しずれているだろう。
ぶっちゃけた話、幻想郷で育ったからか、見た目さえ近ければ俺は人間とか妖怪とかの種族はおろか年齢も関係が無くなっている気がする。幻想郷ではあまり変わらないからだ。それがノーマルかどうかは疑問があるだろう。
時々、複雑に思うのだ。見た目は自分と同じ年頃の者が何百歳も年上だったり、逆に妖怪化してから年齢が一桁だったりするのは。
まあ、妖怪等の別種族である彼女達が外の世界に出れば姿形は変化するかもしれないが。
「デュノアも此方を見ているな。呆れている様だが、貴様は何かやらかしたか?」
「ああ、さっき一緒に遊ばないか聞かれたんですよ」
「ほう? 何があった?」
「これもノーコメントで」
俺がどうしたのか察したのだろう、彼女はにやりと人の悪い笑みを浮かべる。
正面にいるんだもん。どうしても見てしまうのだ。色んなところを。
「暴走して、デュノアとラウラに埋められたのか?」
「……暴走しそうだから自分から埋まったんです。兎に角、落ち着きたかった」
くくく、と抑える様な笑い声が俺の口から発せられた。
「この際です。俺と一夏の反応の違いをどう思います?」
「お前の方が真っ当に感じるな。奇行に走らなければだが」
彼女は軽く腕を組む。その行動は胸を強調させるのだが気が付いていない。
「ところで貴様はどうやって埋まったのだ?」
「空間転移です。昨日言ったでしょう? 転移した物体はその場にあった物体を押しのけますから」
「……使い方が明らかにおかしいな」
「サウナみたいで気持ちいいんですよ、これ」
再度、呆れた様な吐息が聞こえた。
「もうじき昼食だが、貴様はどうする気だ?」
「行きます。海にでも転移して砂を落としますよ」
「ふむ、そうか。
おい谷口、鏡、夜竹、国津、いいや、その辺の連中全員」
何故か織斑先生はクラスメイト達が遊んでいる所に声を掛けた。とはいえ他のクラスの生徒や青衣も混じっているが。周辺の者にも聞こえた為に此方へ視線が集まった。その中でも呼ばれた彼女達が特に怪訝な顔を此方へ向ける。
「七海を埋めるから協力しろ」
「は?」
次いで彼女の口から出た言葉に俺は間の抜けた声を出す。言葉を向けられた彼女達も少し驚いている。
「何を言ってんですか!?」
「ん?」
此方を向く。この顔は悪戯小僧だ。大人の顔で悪戯小僧になっている。
「漁を止めたら今度は首だけ出して埋まっているだけ、まともに遊べ」
「もうすぐ飯でしょう!!」
「だからこそだ。埋められたくなければさっさと出て来い」
「あんた、酔っぱらってないか!!」
「素面だ」
そう言うと彼女は俺の背後に回った。背後からの音からして砂浜に膝をついているらしい。そして本当に俺の頭に砂を掛け始めた。反射的に目を固く閉じる。
「貴様も馬鹿だな」
目の前の俺と、離れてはいるがISとしての聴覚を持つ青衣以外には聞こえ無い位に小声だが、そこには不釣り合いな位に大きな愉悦が含まれていた。
「あれだけ痛い所を突いた私の前で無防備になるとは」
更に低く笑った。その声に背筋が泡立つ。身の危険を感じた俺は海中へ空間転移を行った。水着のポケットに入れているゴーグルを付ける暇など無く、海水が目に沁みた。
シャワーを浴び、浴衣に着替えた後に座敷へ向かうと、個別に膳が用意されていた。とはいえ正座が出来ない生徒向けにテーブル席もあるが。
昼食は和食中心のメニューでかなり豪勢である。昼間から刺身を食えるとは。他の料理もかなり美味しい。わさびも本物を使用している。
これで酒が有れば最高なのだが、外の世界では自重である。仕方がない。
「七海君、何をやったのよ?」
「埋まってただけで、他には何も」
俺は右隣に座る谷口さんの攻撃を躱す。彼女も浴衣だ。この旅館『花月荘』では食事時はその浴衣着用がルールらしい。左隣の青衣は茶碗蒸しの味を解析していたのだが、谷口さんの声に反応して顔を上げた。
「あの後、七海君が海から顔を出したのを見て織斑先生が大笑いをしていたのよ?」
「あんなに壊れた織斑先生は初めて見たわ」
「そうですね。意外でした」
更に向かいに座る鷹月さん、近くにいる夜竹さんや四十院さんまで参加をしてきた。他の者達も頷いている。皆、俺を埋めるから協力しろと言われたメンバーだ。
「で、何をしたのよ?」
再度、谷口さんが質問をして来る。
確かに客観的に見たら奇妙な状況だろう。気になって居た者達からの変な注目が集まっていた。現に他の者や少し離れた一夏達専用機組もちらちらと此方を伺っている。特にラウラに付き添うようにいるシャルロットの視線は怖かった。
「と、言ってもなあ……」
さて困った。今の状態にも、織斑先生と同室に泊まる事もだ。
「多分ですが、ストレスでは?」
此方は平然としている青衣である。そちらへ視線が動く。
「まず5月には無人機の襲撃、先週の学年別のトーナメントでは大きなトラブルが起きました。臨海学校も2度ある事は3度あると言いますからピリピリしています。
イベントの度に何か起きて、予定していた内容が出来ていませんから。
それで昨日の休みを利用し、臨海学校の準備も含めて出かけてみれば今度は私達への襲撃に巻き込まれ、今朝は日本政府が電話してきました」
ここで青衣は一拍置き、俺の方を見た。
「さて、そんなストレスが溜まってもおかしくない状態で海に来たら当事者の一人である緑兵が顔だけ出して呑気に砂浜に埋まっている。
海で遊んで来いと言ったら顔だけ出して埋まっているなんて、人を馬鹿にしている様な光景を見てプッツンしても不思議はないですよ」
ありえる。話を聞いていた各々もそう思ったのだろう、俺と似た様な反応を見せた。
クラスメイト達は知らないが、篠ノ之束も現れる可能性まであるのだ。止めにマドカの件と一夏の記憶の件もある。
「……胃に穴が開いても不思議じゃないな。少しは労るべきか?」
織斑先生も胃が鉄でできているわけではない。今の状況で彼女が倒れたら困る。
「トラブル続きですからね、そっちが原因ですよ」
「だな、本当に何事も無ければ良いが……」
何か起きそうな気がひしひしとするんだ。皆、苦笑いである。昨日の学園長室で話した時と同じだ。
「そういえば、昨日は何で織斑先生や山田先生と出かけたの?」
夜竹さんだ。確かに疑問だろう。
「元々、別件で呼び出されていたんだ。その流れで行くことになった」
「緑兵が足扱いというのも有りましたけどね」
「足?」
「例のごとく空間転移。流石に目立つから駅までだけどな。それでもかなりの短縮になる」
IS学園で単に駅と言えば最寄駅を刺す。夜竹さんは俺達の返答に納得をしたらしい。
「先生達とデートなんて羨ましいと思うけど?」
だが、谷口さんが茶化してくる。ほう?
「単に俺の有効活用。買い物もあったからな。
現にショッピングモールに着いたら一夏達と合流した。まあ、その直後に昨日の襲撃だが……うらやましいなら一回くらい立場を交代して、青衣の待機形態を持ってみる?」
「守れる自信が有りません。謹んで辞退します」
あっさり拒否されるのであった。
昼食後、俺と青衣は再び海にやってきた。とはいえ少し離れた日陰にビニールの敷物を引いて寝ているだけだ。砂浜では午前中に続き、遊んでいる者も多い。
「横になるなら、部屋に戻ってもいいのでは?」
「何か言われたら嫌だろう? 何となくだ」
ザザーン。周囲の喧騒が少し遠いからか波の音が響く。
「ああ、良い。のんびりできる」
「多忙でしたからね」
「というか最近、休日が休日じゃあ無くなっていたよな。トーナメントもあった」
「そうでしたね」
そのままごろごろする。こういう時間の使い方は贅沢だ。IS学園も海に囲まれているので、波が聞こえる場所でたまにやろうか。
「こんにちは」
声を掛けられ其方を見る。眼鏡を外した簪さんと軽く手を振るのほほんさんが立っていた。簪さんは近眼という訳ではないので、眼鏡が無くても問題が無かったりする。
のほほんさんは例の着ぐるみ姿だが、簪さんは青衣と似た様なセパレート型の水着姿だ。色は水色で髪色に合わせたのかもしれない。それもおとなしい雰囲気を持つ彼女に合っている。
「どうも~」
時々、電話やメールのやりとりをするが直接会うのは一月ぶりだろうか。俺と青衣は体を起こす。
「ここ、いい?」
「良いですよ」
簪さんに青衣が返すと、二人は敷物の上に座る。丁度向かいだ。
「ちょっと相談」
彼女は俺に向かい、物凄い嫌そうな顔をしている。あれ?
「……何? 俺、何かやった?」
「七海はやってない」
簪さんは首を横に振り、のほほんさんはあはは、と困った様な笑いを浮かべていた。青衣と顔を見合わせる。
「実はさっき政府から電話が掛かってきた」
「日本の?」
「うん」
簪さんが首肯する。彼女は日本の代表候補生だ。政府から直接電話があっても不思議は無い。
「打鉄の件、貴方を説得するように言われた」
「俺への連絡はIS学園を通すはずなんだが」
学園長に青衣が要望を出し、認められたはずだ。だからこそ今朝の連絡もIS学園にあった。
「知ってる。はっきり言ってルール違反。だから断った。それに印象は最悪でしょう?」
「当たり前だ」
簪さんが頷く。
ここまでふざけたやり方をするなんて、何を考えている?
「2人を説得したいなら目的を、女尊男卑を撤廃位しないと」
「……政府からすれば、打鉄一体で割に合うかは別ですよね?」
青衣が返し簪さんが頷いた。のほほんさんはじっと青衣を見つめている。
「それも含めて今は無理だって答えておいた。嫌な話はこれでおしまい」
流石、よく解っていらっしゃる。頭の回転が早い。でもさ、日本だけでは駄目なんだ。仮に実行できたとしても根本的な話にならない
「それとは別に、青衣さんへ個人的に聞いておきたい事がある」
「どうしたんです?」
「私からISの意識へアクセスする方法ってある?」
「え?」
驚いた声を出したのは俺だ。青衣も驚いている。
「ISの意思と操縦者がシンクロすることは報告されているけどそれは突発的。自由に操縦者と交信しているわけじゃない。青衣さん以外は」
「え、ええ。そうらしいですね」
青衣は例外だ。何せ接触するべきISの中身が出歩いている。
簪さんは大きく頷いた後にびしっと指を1本立てた。こんなキャラだったっけ?
「IS同士はコアネットワークで繋がっているけど、青衣さんは繋いでない」
「その通りです。表に出て以降はコアネットワークは一切繋いでません。それ以前もこっそりやっていた調査程度です。
下手に繋いだら、最悪ハッキングされかねませんからね。コアネットワークに関係する機能は完全に止めていますから、私は云わばスタンドアロン状態になっています」
簪さんとのほほんさんが同意する様に頷いた。
スタンドアロン状態だから理論上は篠ノ之束でもハッキングできない。まあ、本来なら外部から操作できない各国のミサイルを発射させた白騎士事件を起こした以上安心できる相手ではないが。
「ISが何を考えているのか聞いてみたい。コアネットワークか何かを介して接触できない?」
再度立てた指を降ろしながら、簪さんが尋ねる。
それは……どうやるんだ?
「うーん」
青衣は腕を組んで考え始める。
紫姉さんはISのコアに意思がある事に気が付いて、境界を操る事でコアの中の青衣と接触したんだよな。それで魔力を与えて妖怪・付喪神となった。青衣が体を持ったから俺もコミュニケーションが取れたわけで、それ抜きとなると、どうすればいい。
外の世界でもコアについて研究されているだろうが、意識体にアクセスする方法は今の所は存在しない。だから純粋な研究者たちにとっても青衣の存在は貴重なのだ。
「すみません。ちょっと考えたことが無いですね」
「姉妹の事なのに?」
「コアネットワークで会話している事は知っていますが、それ以外となると……」
「そう……」
簪さんは残念そうな顔をする。
「ああ、でも……確実じゃないか」
何か青衣は思いついたらしい。一度声を上げ、トーンを下げた。
「確実じゃなくても良い」
「そうですか? かなり無茶苦茶な思いつきですよ?」
「うん」
簪さんが首肯する。傍らののほほんさんも真剣な目だった。
「ISの中に居ても外の様子は掴めますからね。寝るときにでも待機形態で身に付けていれば、言いたいことがあるなら夢の中にでも乱入して来ると思います」
「夢?」
「はい」
滅茶苦茶な事を言っているように思えるが、実はISとしての基本的な能力らしい。当のIS側にやる気があればの話だが。学園長には話しているが実例が余りに少ない事なので伏せられている無い様だ。簪さんは聞いていたらしいが、可能性が限りなく低いという事で外していたらしい。
「あくまでIS次第という事?」
「はい、しかも確実にIS側から連絡できる保証もないですね。本当に唯の思いつきです」
「……待機形態にはなっていないけど、少し考えてみる」
ぐっと、簪さんが拳を握る。
「ところで二人は何をしているの?」
「何もしていませんよ。強いて言えば寝ているだけです」
「うん、ここ涼しい~」
硬い話が終わったからか、のほほんさんが前のめりになりうつ伏せになる。その後は完全に溶けていた。
涼しいって言ったけどさあ、首から下は着ぐるみだもん。その恰好じゃあ暑いだろうよ。だが男の俺からは脱げと言えない。
「逆に俺からも聞いて良い? ちょっと聞き難い事だけど、生徒会の書記として気になる事がある」
簪さんの方を向く。のほほんさんは俺の方を見た。
「良いけど、何?」
「更識会長とはあれからどうなった? 時々仕事にならんのよ」
ぶっちゃけた話、簪さんの事が気になると机に突っ伏したりいじけてみたり、まともに話が聞き出せる状況ではないのだ。
「接触禁止」
「さいですか。これ以上は聞かない」
「よろしく」
しょうがないか。更識会長、妹の事になるとペースが崩れる位シスコンなのにな。そういえばペースこそ崩さないがレミリアも似た様な感じだったな。まあ、仲の悪い兄弟姉妹もいるけどさ。
はあ、とため息を一つ着く。
まったく、更識会長も織斑先生も妹の事を心配する位なら……。あれ? さっき考えたよな、これ。
何だ? 小さな違和感がある。
……。
マドカは何て言ったんだったけ? 姉である織斑先生は亡国機業からすれば失敗作、だから一般社会に出た。何で失敗作になったんだっけ? 思い出した。性格の変化だ。ということは……。
あれ?
マドカの言っている事もおかしい。辻褄が合わない。いや、まてよ。マドカが嘘を言う理由なんて無い。ナノマシン処理をされていたことは事実だろう。そんな亡国機業を庇う真似はしない。
「あ」
マドカは嘘を言っていない。だがおかしな点がある。
だとすると……。
「ちょえい」
「うおっ!!」
衝撃が走り、思わず体が跳ねた。青衣が俺の脇腹を突っついたのだ。
「七海って毎回止まる?」
「いつもの風景~」
小首を傾げる簪さんとごろごろしているのほほんさんが印象的だった。
その後は二人は少し話した後、海へと戻って行った。
まあ、唐突に話が切られたので何かおかしいと思っていたのだが、理由は直ぐに判明する。一夏だ。彼が此方に向かって来ていた。珍しい事に一人である。いつもの専用機組が居ない。
「ちょっといいか」
「おう、どうした?」
何故か周囲を気にしながら一夏が正面に座る。
「実は束さんに会った」
「ほう、いつ?」
「旅館に着いてからだ。七海達より先に海に出ただろう? その時だ」
ニアミスか、惜しいね。
傍らの青衣を見る。彼女は笑っていた。獲物が来たことを歓迎するような臨戦体制に近い、妖怪然とした普段は見せない笑みだ。
以前に先輩を相手した時とはまた違う。青衣は完全に兎を狩る気かもしれない。そういえば一発殴ると言っていたな。
「俺が説得する。だから手を出さないで欲しい」
「いいですよ」
一夏がこの表情をする青衣を見たのは初めてなのだ。彼は慌てながらも釘を刺してくる。当の青衣はその釘をあっさり受け入れ、一夏は安堵するような顔をするが、
「向こうが何もしてこなければ、説得を受け入れたなら、ですけどね」
この言葉に一夏は喉を鳴らした。説得する身としては責任重大である。
「織斑先生には?」
「さっき伝えた」
俺の問いに対する一夏の答えに頷く。ならば学園にも伝わっているだろう。でなかったらおかしい。
「のんびりした時間も一先ず終わりか……」
その言葉で俺は立ち上がる。青衣もだ。
「おい、何処に行くんだ?」
「報告」
どこへ? は言わない。
「ここ使うなら居て良いぞ。終わったら戻る気だからさ」
どうせ敷物の四方は石や飲み物で抑えているから、今程度の風では飛ばない。
「……俺は少ししたら海に戻る」
「そう? 敷物はそのままでいいから」
「わかった」
俺とサンダルを履くと体についた砂を軽く落とす。青衣も同様の事を行い、俺の手を取る。
「じゃあ、後でな」
「ああ」
俺は返事を聞くと、青衣と共に『拠点』へ空間転移をした。
---------------------------------------
『拠点』に着くと出入り口にしている簡易応接室から『空間を操る程度の能力』を使い内部を確認する。まだ誰も来ていないようだ。流石に話は昨晩の事だ。マドカの件もある。それに前日の昼から待機するわけがないか。
簡易応接室の机に座ると。『倉』から紙とボールペンに座り、一夏から篠ノ之束が現れた事を書く。正面に座る青衣に中身を確認して貰うと、それを『扉』から和室のテーブルの上に置く。『扉』を介したのはまだ体に付いている砂を落としたくなかったからだ。
『倉』からペットボトルの水を二人分出し、一息入れる。一先ず幻想郷側への連絡は終了である。
「それで、今度は何を思いついたんですか?」
「ん?」
青衣が俺にそう聞く。
「簪さんとのほほんさんが来たときですよ」
ああ、あの件か。
「織斑先生とマドカについて」
「でしょうねぇ、それで?」
少しの呆れを見せ、青衣が俺に続きを促す。
「マドカは確か『織斑先生は弟と妹が出来て性格が甘くなった』と言ったな?」
「それが原因で失敗作になったと言ってましたね」
「でもマドカを見捨てたんだよな」
「少なくともマドカ視点ではそうなりますね」
「でも、会いたいって言ったよな」
「緑兵はそれで怒ったんでしょう? それがどうしたんです?」
その通りだ。俺は首肯する。
「失敗作扱いになるまで性格が変わったんだぞ? それで妹は考えないって有り得るか?」
え? と青衣が一度驚いた後、眉根を寄せる。
「弟だけ、一夏だけ可愛がっているなら『弟が出来て』って言うよな。妹であるマドカは入らない」
「でもマドカが言った通りなら、妹のマドカ本人も入りますよね?」
「ああ。そもそも織斑先生は身内大事だ。つまりマドカも可愛がっていた」
「そうですね……あれ?」
青衣も首を傾げ始めた。
「それと亡国機業とドイツ軍の繋がりを知っていて、そのドイツに行ったときには一夏の誘拐事件が起きた。ドイツ軍からの情報提供を受けて、更にドイツ軍で教官をやった時は自分達と同じ遺伝子強化体に出会った。
少なくても何か変だと思うよな? それでお前、織斑先生に想像力を持てって言ったな?」
「え、ええ」
その時を思い出しているのだろう。青衣は少し時間を置き、困惑しながら頷いた。
「他にも引退の理由を聞いた時に指摘したよな。何で関係者とかに話さなかったのか? とか、何でドイツ軍が情報を持ってんだ? とかさ」
「しましたね。凹んでました」
「でも織斑先生はドイツ軍や亡国機業に気が付いていなかった。関係性も疑ってない。大ヒントを知っているのにな。それにマドカについても考えていなかったみたいだ。可愛がっていた妹なのに。
いくらなんでもおかし過ぎる。でも織斑先生もマドカも嘘は言ってないと思う」
「……」
俺の言葉に青衣は黙り、考え始める。
「一夏は記憶の消去、マドカは後にナノマシン処理、織斑先生だけ何も無いって不自然だろ?」
青衣が顎に手を当て考え始め、顔が固くなる。
「……何かされた? 亡国機業や顧客であるドイツ軍が不利にならない様に考える方向性が変わる様に」
「ああ。多分、無意識だ」
彼女が出した答えに俺は頷く。
「そう考えると……白騎士事件は一般社会に放り出された直後で亡国機業への不満が別方向に向いたとしたら納得できます。ISの存在や性能、それに白騎士事件の影響は織斑先生本人にも予想外でしょう」
「仮に亡国機業に敵対しない様に心理的なものが働いたとするなら、亡国機業に対して報復もマドカの救出も考えられなくなる。
そういえば亡国機業って敵対する組織とかいるのか?」
「非合法組織なんですから、快く思わない国の警察や軍なら追われていても不思議はないですよね。同じ非合法でも対立している組織位はあるでしょう。そんな敵性組織の一つや二つ、知っててもおかしくない」
俺の思いつきに青衣が答える。十分あり得る。
「実験だろうが何だろうが織斑先生は外で自由に動けて、ある程度の情報を持っています。現にマドカは見捨てられたと思っていました。
マドカを見捨てるなら対立組織や適性組織に情報を渡しても不思議はありません」
本当、青衣は頼りになるよ。俺は思いついてもそこまで細かく導けない。
「それに亡国機業は記憶を弄れる上に監視用のナノマシンも持っています。放逐するなら織斑先生に限らず、何か敵対しない様に、情報を漏らさない様にする方法を持っていたとしても不思議はありません。想像に想像を重ねるのは嫌ですけどね」
俺は大きく頷いた。青衣はため息を付く。
「心当たりが無いか、確認する必要がありますね」
「そうだな。それともう一つ」
「今度は何ですか?」
まだあるのか、そう青衣の顔に書いてある。
「マドカだ。あいつは最初、忠誠心が無いからナノマシン処理されたとも言っていたが、結局は白騎士事件の影響だよな?」
「ええ……えっ?」
青衣も気が付く。彼女の顔に再び疑問符が浮かんだ。
「マドカの流れって本当は逆じゃないのか? ナノマシン処理をされたから忠誠心を無くした」
何秒か青衣は考える。
「確かに、そっちの方がしっくり来ますね。白騎士事件があって亡国機業への忠誠心を無くすと言うのはおかしいですから」
俺は再び青衣の答えに頷く。
「多分、マドカの中で順番が狂ったんだと思う。それこそ無意識にな」
青衣が唸る。
「当時のマドカは5・6歳だ。単純に姉と双子の兄に会いたいから組織を裏切るならともかく、あいつは真逆だぞ。殺意を持った」
「そうですね」
「聞いた境遇だと、ある意味で亡国機業そのものが親みたいなものだろう?
姉や双子の兄と離れた挙句、姉の行動のせいで亡国機業からナノマシン処理を受けたから、同時に組織への信頼が消えたと考えるのが自然じゃないのか?」
北風と太陽という話がある。当時の年齢もあるだろうが、マドカにとってナノマシン処理という北風が強すぎたから自分の生まれ育った亡国機業を見離した。そう考える方が綺麗な流れになる。流石に酷過ぎる処置だからな。
「もし当たっているなら、無意識って怖いですね」
「当たって無くても怖いぞ。考える事すら出来ないって言うのは」
「そうですね」
ぼやく青衣に俺は訂正を加えた。だって、気が付かない。それは自分ではどうしようもないこと。何をやっても無駄なのだ。
「帰るか、学園長にも連絡しないといけない」
「そうですね」
外の世界に帰ると、俺は更衣室に置いてある携帯電話から学園長に電話を入れた。繋がりはしたが向こうが取れなかったので学園長と更識会長にメールを打つ。『人参が出ました』と傍から見たら意味不明なメールだ。事前に決めた暗号で、人参は篠ノ之束を示している。
また、話があるので夕方に部屋に来る様、織斑先生にもメールを出しておく。これで時間までやることは終わりだ。
よし、ごろごろするか。
---------------------------------------
夕方、宿泊する教員室で俺と青衣は待機していた。海から戻った後は再びシャワーを浴び、浴衣に着替えてある。このまま夕食へ向かう事が出来る格好だ。
しかし、この部屋は贅沢だね。これで広々としているし、海側は一面窓で見渡すことが出来る。風呂や洗面所まで個室だ。IS学園持ちとはいえ、この部屋の宿泊費は幾らするんだ? 俺達が居なければ姉弟の二人だったのか?
まあいいか。どうも家計を見た経験があると経済的な感覚がせこくなっていくね。
そんなことを考えていると織斑先生がやって来る。俺達と違い彼女はスーツだ。無言で表情も硬い。仕事モードなのだろう。
俺は彼女が部屋に入ると同時に今朝と同様、この部屋を誰からも認識できない様にした。
ごろごろしていた俺達はテーブルに移動する。座椅子は用意しておいた。一つだけ置いた奥の席が織斑先生で、俺と青衣は隣同士、向かい合う。青衣がお茶を人数分淹れ、各自の前に置くと俺は口を開いた。
「兎が現れたみたいですね」
この一言だけだ。これで意味が通じる。彼女も予想はしていたのだろう、驚かない。
「一夏から聞いたか?」
「そうです」
「学園長にはお前達の方からも伝えたか?」
「ええ、更識会長にもメールをしています」
「そうか」
彼女が一口飲む。
「だが、それだけではないだろう? ならメールで済んだはずだ」
「ちょっと気になる事が出て来たんです。織斑達について」
「またか」
俺がこう言うと織斑先生が苦い顔をする。
「お前がそういう風に言う時は碌な事が無い。散々突っつかれたからな。今度は何だ?」
「織斑先生、亡国機業から何か細工されてません?」
「何?」
俺の質問に彼女は素っ頓狂な声を出した。
「青衣、さっき話したことを音声だけ出してくれ。結論までだ」
「はい」
織斑先生に『拠点』や亜空間は見せていない。これからも何も無ければ見せる心算も無い。知られる情報は少ない方が良いのだ。
俺の傍らにいる青衣は白い空間を作り、記録を再生させる。俺の言った通り音声のみだ。記録自体に加工は出来ないが、一時停止や音声のみ位は出せるのだ。
『マドカは確か『織斑先生は弟と妹が出来て性格が甘くなった』と言ったな?』
記録から流れてくる俺達の会話が進むに連れ、彼女の表情は徐々に険しくなっていく。何か思い当る事でもあるのだろうか、途中から腕を組み最後は眉間にしわが寄った。
『もし当たっているなら、無意識って怖いですね』
『当たって無くても怖いぞ。考える事すら出来ないって言うのは』
『そうですね』
記録が終了する。織斑先生を見ると考え込んでいる。同じ姿勢で完全に固まっていた。
「……お前達の言う通り、確かに不自然だ」
少し経った後、彼女は感情を感じさせない声を漏らす。
「亡国機業とそのお客さんであるドイツ軍が絡むと、頭が異常な位に鈍っている気がします。マドカの件も含めてね」
俺の言葉に再び唸りだした。
「今まで織斑先生から聞いた話も、元は俺達が痛い所を突いたから消極的に口を開いたんですよ」
「お前たちほど深く突っ込んでくるものはいなかったからな。逆を言えばそれが無ければ誰にも話さないまま終わっていたな」
織斑先生は俺を見てため息を漏らす。何故?
「仮に心理的なものは仕掛けられていても俺達には解りません。門外漢です」
「当然だろうな」
地霊殿の主である古明地さとりに出て貰うという手もあるが、これは不可能に近い。それにさとり妖怪が頭の中を覗いたところで上手くいくのか疑問もある。単にトラウマ抉りになりかねない。
「お前達の考え通りなら、復帰するにしても足枷となるか……」
「今までの再現ですよ。下手をしたら故意に情報を流させるとか?」
織斑先生は大きなため息をつき、俺にジト目を向けた。
「まるで私が操られているみたいだな」
「あっさり誘導され、挙句に引退した人が言うセリフじゃあ無いですよ。こういう場合は最悪を考えないと」
「そうだな。何か考えよう」
「その考えることが出来なくされている可能性があるんですが」
「……そうだったな」
だが俺の返答に少し悲しげに漏らすと、織斑先生は組んでいた腕を解いた。
「それと一夏はどうなんです? あいつも変に鈍いところが有ります。
正直、ラウラにキスされて嫁と呼ばれても好意に気が付かないなんて普通はありえないですよ? 今日も平然としていましたし」
それに箒と同居してあれだけアタックされているのに手を出さなかったり、オルコットや鈴、他のクラスメイト達の好意を意に返していなかったり鈍感というにも程がある。
「否定できない。記憶の件もある」
「どうします?」
「……夏休みにでも私から話そう」
「具体的にはどの程度?」
「一夏が関わる事だ。言わば白騎士事件以外だな」
白騎士事件は除くのか。まあ、いいか。最初から任せる心算だったんだ。
「俺達からはこれ位ですね」
「……時間を作った甲斐はあったな」
ふう、と織斑先生が大きく息を吐いた。そして何かに気が付いた様に俺を向く。
「時に七海、お前も相当鈍感だと思うが」
「そうですかね?」
クラスメイトや専用機持ちとして話したりするのは何人かいるが、友人より先には成らないだろう。
「何人か居てもおかしくないだろう? 世界に二人しかいない男性操縦者だぞ?」
「単に男二人という事で色眼鏡が入っているからでしょう。それと俺は誰でも起動可能な青衣だけで一夏とは別物ですよ」
「そうか? 目に見えるのはお前と一夏の二人だぞ?」
IS学園には何百人も生徒がいる。自意識過剰かもしれないが、確かにそう言われるとモノ好きが一人や二人は居てもおかしく無い気がする。
だけどね、俺は事情がある。
「それに以前にも言いましたが。俺は時期が来たら地元に帰ります」
「……そいつ次第だが連れて行ったらどうだ? 卒業後なら問題無いはずだ」
「そんな気は無いですよ」
「人間関係以外に問題があるとは思えんが、どうなんだ?」
「再び行方不明になると言ってるんです。俺達は」
彼女は吃驚した顔をする。
此処まで言えば流石に気が付くだろう。『地元に帰る』と『行方不明』がイコールで結ばれる事に。
「お前も青衣も顔が売れているだろう? そう簡単に」
「なら、俺が今まで何処に居たか少しでも情報は得ましたか?」
この言葉に織斑先生は黙る。
「青衣は体を持ったIS、そんなことは俺が住んでいた場所では皆知ってますよ。青衣を纏って町の上空を飛んだ事もあります」
時間にして数秒後、固い顔をした彼女は口を開いた。
「……聞いたことが無い。街中で飛ぶISがいるなら騒ぎになったはずだ。お前達にしても何処に居たか誰も知らない」
「でしょう?」
俺と青衣が何処に居たのか、行方不明の期間に何があったのかを調べている者もいるだろう。
時々、偵察がてら外の世界に来たとはいえ簡単に痕跡は出てこない。何せ幻想郷を中心に生活してたのだから。
「それに簡単に情報が出るような場所なら、マドカも同じになりますね? そっくりですから」
「私とそんなに似ているのか?」
今の顔を知らない彼女は困惑気味だ。一夏が成長している以上、頭では大きくなっている事はわかっているだろう。だが、彼女の中ではマドカは今でも幼児の姿なのだ。
とはいえそっくり以外は言いようがない。説明がめんどくさいな。
「青衣、寺で会った時のマドカを出してくれ。名乗ったら停止だ」
「そうですね」
青衣も似た様な感想を持っていたらしい。彼女はあっさり記録を呼び出し再生させる。マドカとの遭遇時、青衣は本体に戻っていたが本体からも記録をとれるので問題は無い。
青衣が造り出した白くぼんやりした空間に黒い服装で日傘で顔を隠したマドカが映される。背景は当たり前だが例の寺だ。背後に墓場が見えている。日傘は徐々に下がり顔が見え、日傘を畳みながら名乗った。そこで画面は一時停止される。
織斑先生は驚きと喜びが混じった顔をしている。成長したマドカを見ることが出来て感激もしているらしい。
「本当に中学や高校時代の私ではないか……」
「瓜二つでしょう?」
彼女が大きく頷く。正直、この姉妹は声まで同じだったらクローンでも通じてしまう。
「だが、ここまで似ているとお前達の地元でも……」
マドカの存在がばれて騒ぎになる事を予想したのだろうか、微妙な顔をしている。
「妹がいたとわかっても、俺達が住んでいた場所ではそれ以上の騒ぎになりませんから。むしろ姉達なら有力者や協力者に紹介して回ると思います」
「尚更騒ぎにならないのか?」
「さっきも言いましたが俺達が何処に居たか、その事は知らないでしょう?」
「……その通りだな」
マドカは幻想郷にいる。俺と同じく外の世界では誰も騒ぎはしないだろう。
織斑先生は困惑した顔をしているが、一応の納得はしたのか、それ以上は話してこない。
「お前達を襲撃したんだ。マドカはISを持っていただろう? それはどうした?」
これは当然の疑問だ。
「今はうちの姉が持っています。例の打鉄も含めて必要に応じてマドカに渡す予定ですよ」
サイレント・ゼフィルスは昨晩渡し、打鉄は置いてある亜空間を知らせてある。治れば回収するだけだ。
「……奪った申請はしないのか?」
「今後次第です。少なくとも今はする気が無い。申請するならいつ、誰に襲われたのかはっきりしないといけないからマドカの存在が表に出てしまいます」
「マドカを連れて行ったのはお前達を育てた者だったな?」
「姉達は暫定ですけどね。結局はマドカ次第ですよ」
「ふむ。見知らぬ者達だが悪い事にはならんか。今更、マドカについて何か言う心算も無い」
彼女が安堵したようだ。
「マドカが阿呆な事をしなければ、心配は無いと思います」
「阿呆な事だと?」
「……怒らせる怖い」
普段は温厚……という程でもないが紫姉さんも藍姉さんも切れると怖いなんてレベルではない。ついでにその友人である西行寺幽々子や剣の先生である魂魄妖夢も。
俺達もいろいろあったのだ。悪戯した時とか、危なっかしい事をした時とか。
「そうか」
青くなった俺達を見て、ある程度は察したのだろう。織斑先生からは乾いた返事が返ってきた。
「まあいい。夕飯には遅れないようにしろよ」
彼女はお茶を飲み乾すと席を立つ。同時に俺は能力と結界を解除した。その瞬間、織斑先生が少し変化させたが何も言わない。そのまま部屋を出て行った。
ひょっとしたら冷静になった今、俺が能力を使っていたことに気が付いたのかも知れない。
しかし、兎が出て来る前だと言うにこれか。手を付けていなかったお茶を一口飲む。ふむ、いい感じに温くなっている。
お茶を持ち、海が見える場所に移動する。静かだ。嵐の前の静けさかも知れないが、もう少しゆっくりすることにしよう。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
いろいろ遅れましたが、それでも今月中には何とかなりました。
そういえばIS学園には刺身定食が有るらしい。でも鈴以外の留学生組は食べたことが無い様な反応。で、刺身が出たらしい昼飯もスキップ。まあ、いいか。
千冬への追加見解、親友である束だけでなく他にも鈍い(甘い)のにマドカ放置の理由付けです。亡国機業からしても内情知っている人間は、簡単に放り出せないと思います。
さて、臨海学校の初日すら終わらず、次話以降です。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
誤字脱字、文章を少し修正