幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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24_各人の世界

 夕食も昼食と似た様な感じであった。とはいえ場所は変わり大宴会場になっていたが。

 

「これ、カワハギだよな」

「ああ、豪勢だよな」

 

 食しながら俺は刺身になっている魚の名前を口にすると、斜め向かい座る一夏が同意した。ふと目が合う。

 

「個人的には味噌汁が気に入った。鰹や昆布の出汁が出ている」

「やっぱプロだよな、出汁の取り方が違う。臭みが無い」

「沸騰させず、鰹節は絞らない」

 

 二人して頷く。こいつも気が付いていた。

 一夏や彼の右隣で俺の正面に座るシャルロット、一夏の左隣に座る少し顔色の悪いオルコットも此方を向く。

 ん? 顔色?

 

「今度、作りましょうか。良質の昆布が手には入れば作れますよ」

「頼む」

 

 オルコットが気になりつつ、俺は青衣からの言葉に頷く。

 

「このわさびは?」

 

 一夏が青衣に聞く。

 

「本わさびですね。皮を剥いた後に鮫肌でおろしたんですよ」

「そう、本わさびだよ」

 

 青衣の回答にぐっと一夏が軽くガッツポーズをとる。おい、どうした? 突然の行動にオルコットが目を剥いた。

 

「本わさびって?」

 

 シャルロットが一夏に質問を開始した。わさびの解説が始まる。練りワサビの原料ってそうなのか。知らなかった。

 そしてシャルロットは自分のわさびの山を箸でつまみ、口へ入れようとして青衣が止めた。シャルロットが目を白黒させる。

 

「そうですね、わさびを戻して、箸の先に付いたのを少し口に入れて下さい」

「こう?」

 

 彼女は青衣の言う通りの行動をし、口に入ったわさびにびっくりした様な顔をする。

 

「わさびは薬味、様はスパイスです。鍋に入っている生姜や山椒も同じですね。

 お刺身ですからわさびは少し乗せたり、しょうゆに溶かしてわさび醤油にします。普通はまるごと食べません」

 

 シャルロットがわさびを見つめながら頷いた。

 

「生わさびが大好きで、そのまま御飯にのせて食べる人もいるみたいですけどね」

「ええ!!」

 

 しかし知らないとはいえシャルロットよ、わさびを塊のまま食べようとするとは思わなかった。シャルロットの正面に居た青衣が止めなければそのまま口へ入れていたのだろうか? それはそれで見たかった気がする。

 箸でつまめるから分からないでも無いけど、お昼の刺身はどうしたのだろうか。まあ、いいか。

 

「ところでオルコット、お前大丈夫か?」

「へ、平気ですわ」

 

 ようやく、オルコットの顔色が悪い理由がわかった俺は声を掛ける。慣れない正座で足がしびれているのだろう。同じ西洋人のシャルロットはよく平気なものだ。俺や青衣は慣れているので問題ないが。

 

「ぐ、ぐ……」

 

 きつそうだ。一夏がテーブル席に移ったらどうかと声を掛けるがオルコットは移動をしないと譲らない。そんな彼女と目が合う。俺は一夏をちらりと見ると、彼女は頷いた。

 ああ、そういうことか。

 

「がんばれ、女の子」

「ありが……とう、ござい、ますわ」

「女の子?」

 

 途切れ途切れになっている。常々思っていたのだが、オルコットって根性あるな。そうでなくては代表候補生は務まらないか。それにしてもこの男、わかってない。更に一夏はあっさり爆弾を放つ。

 

「食べさせてやろうか?」

 

 びっくりするオルコット。俺も同じだ。で、オルコットが本当に箸を一夏に預ける。

 この男はオルコットが惚れている事が解っていて、こんな言動を取っているのか?

 オルコットと一夏のやり取りを見て、青衣とシャルロットの目が輝き始めた。物凄くキラキラしている。同時に周囲が騒ぎ出した。大騒ぎである。

 最後は織斑先生の登場でおしまい。オルコットは食べさせてもらえませんでした。だが、一夏は部屋へ誘った。

 一夏よ。オルコットを部屋に誘うって、お前意味がわかってやっているのか? わかってないだろうな。というか、俺や青衣の部屋でもあるんだ、そこは。

 オルコットは足のしびれがどこへ行ったやら、活き活きと食事を再開する。テンション高いし、何を食べても美味だっていうし。

 うん、精神状態は大事だよな。元気になって良かった。沈んでいると、何を食べても不味くなる。逆もまた然り。目の前のオルコットが良い見本だ。

 

 

 

 

 

 かっぽーん。

 花月荘の大浴場は大きい。元々、男性用と女性用で別れているがIS学園に住む男性は生徒に2名しかおらず教員には居ない。その為に男子は時間帯を指定されているのだ。今は男性が入浴できる時間帯で、俺は夕食後に教員室に着替えを取りに戻ると風呂へ急行した。青衣も同じである。彼女は隣の女子風呂だが。無論、本体をも持っている。

 実は俺達は勉強やら訓練、調査の合間に各地の温泉へ空間転移や『扉』を使い訪れていた。だが、青衣の顔が知られる前の話である。それ以降は時々『拠点』の風呂へ戻るだけだ。俺も青衣ほどではないが風呂は好きなのだ。そして風呂好きの青衣を置いて、俺一人温泉へ足を運ぶのは憚れた。

 故に久しぶりの温泉である。しかも海を一望できる露天風呂だ。

 

「ああ、良い」

 

 頭から足先まで洗い、幾つかある湯船から少し温めの温泉を選び浸かる。行き成り熱い湯に浸かるのは俺の好みではないのだ。

 そのまま寛ぐと数分後、誰かが入って来た。女子が間違って入って来る事は無いとは思うが念のため声を掛けた。顔は動かさない。

 

「七海か?」

「おう、お先に」

 

 帰ってきた声は間違いなく一夏だ。気配からして他はいない。いたら問題だが。

 彼もまた頭や体を洗うと同じ湯船に入って来た。タオルは腰につけていた。

 マナーとしてはどうかと思うが、近年では湯船の中にもタオルを入れる者も多いらしい。禁止されていなければ問題ないだろう。

 

「そう言えば男二人っていうのは初めてだな」

「そうだな。七海の横にはいつも青衣さんがいる」

「お前の方は箒にオルコット、鈴、最近はラウラも付いたな」

「ああ、何でかわからないけどさ」

 

 やっぱり、4人の好意に本気で気が付いていないらしい。まあ、いいか。本人たちの問題である。俺がどうこう言うべきものじゃないだろう。

 

「後、ラウラがいるとシャルも一緒にいる」

「仲良いね、あいつら。ルームメイトだしほとんど一日一緒にいるのか?」

「そうなる」

 

 ラウラが最初に来た日を思い出す。あの時はこうなると欠片も思わなかった。

 

「……今日会った束さんがこんなことを言ってたんだ」

 

 唐突に兎の話である。だが、一夏は少し黙る。言い出しにくい事なのだろうか。

 

「他の世界の者が、この世界を壊しに来た事をどう思う? って」

 

 その言葉に俺は苦笑しか出てこない。俺の笑い声を聞いて、一夏が少し引いたらしい。

 

「そりゃあ、ふざけているとしか言いようがないな」

「ふざけてる?」

「ああ、ふざけてる」

 

 確かにこの答えでは測りようがないだろう。肯定とも否定とも思える。

 悪い。だが、この情報って重要だ。兎が幻想郷を含めた此方側の世界を知っている事は確定だろう。

 風呂から出たら『拠点』の和室にでも、この事を書いた紙を放り込んでおこう。

 

「元はあの兎が、世界をぶっ壊したんだろうが」

 

 自作自演の白騎士事件、女尊男卑の原因を引き起こしてな。

 言葉に怒気が宿った。一瞬、一夏の顔が引きつった。

 一夏は白騎士事件が自作自演であることを知らない。だが、簡単に予想位は着くだろう。特に白騎士の操縦者が誰であったのか。

 ISから発生した女尊男卑の影響が外の世界だけなら幻想郷が危惧を抱くことも無く、俺が外の世界まで来ることも無かった。いいや、もしも女尊男卑が無かったら俺の父親は事件を起こす事も無かっただろう。ならば俺は一生『空間を操る程度の能力』に目覚めることも無かったかもしれない。別のタイミングで目覚めたとしても博麗結界を乗り越えて幻想郷まで行ったかはわからない。そんなことはイフでしかないからだ。

 しかし、風が吹けば桶屋が儲かるというか、バタフライ効果というか、物事は繋がるものである。

 

「他の世界、その言葉の意味が解るんだな」

 

 わずかだが、一夏の顔に真剣みが帯びる。

 

「ああ。それを兎が知っていることも、何故ISにその技術が使われているのかもよーくわかった」

 

 そう返すと、彼は戸惑いを見せた。

 

「そう言えば、以前からある……似た技術って言ってたよな」

「ああ、言った。少なくても基本は同じだ」

 

 初めて皆の前に現れた時、1年1組の教壇でそう伝えた。学園から発信した資料にも記載してある。

 

「そうか」

「……意味が解らないなら、聞かないのか?」

 

 一夏からの返答は無かった。

 

「鈴って前世は人魚らしい」

「人魚?」

 

 ようやく返ってきた言葉がおかしい。どう繋がるんだ? まあ、いいけどさ。

 

「鈴、泳ぎが上手いのか?」

「まあ、今日は溺れたけど」

「……駄目じゃないか」

 

 一夏の前で何かやったのか? まあ、良いか。それにしても人魚とはね。

 俺は知り合いで、幻想郷にある霧の湖に住む人魚を思い浮かべる。わかさぎ姫って淡水人魚だったな。あいつは海に入れるのか? 夏休みに戻ったら聞いてみるか。

 

「青衣さんと七海で家事は半分ずつ何だよな」

「ああ。入学前はすったもんだで青衣がやっていたけど、今は半々だな」

「どんなものを作るんだ?」

「手に入る食材が違うだろうけど、例えば……」

 

 その後は料理の話がメインとなってしまった。一夏も家事をする。織斑先生は苦手らしい。ふと寮長室を思い浮かべる。散らかっていた。まあ、彼女は仕事仕事でそれどころではなかっただろうしな。

 やがて先に一夏が風呂から上がっていき気が付いた。

 これ、男二人の会話か? 半分近くが家事や飯の作り方だぞ。

 まあ、どうでも良いか。俺はそのまま、露天風呂を満喫した。

 

 

 

 

 

 一時間近い長風呂の後、教員室へ戻る為に歩いていると、ドアの前で奇妙な光景が繰り広げられていた。箒に鈴、オルコットの3人がドアに耳を付けて張り付き、青衣は目を閉じて中の様子を伺っている。更に青衣を含めた4人の様子がおかしい。青衣は顔を赤くして何やら浮かれ、ドア前の3人は沈んでいる。

 何かあるなら室内だろう。とりあえず俺は『空間を操る程度の能力』で室内を確認する。狭い範囲だから鮮明にして感覚を掴む。

 うつ伏せの織斑先生の上に一夏が跨り……ってマッサージか、これ。びっくりした。

 俺には聞こえないが、織斑先生の感じだと嬌声でも上げているのか、口の付近が動いている。だとすると、皆はその声を聞いている事になる。壁に比べてドアというものはそこまで防音がしっかりしていない。だからこいつらは真っ赤で惚けているのか。完璧に勘違いをしている。

 

「一夏がマッサージしているだけだぞ」

 

 俺に気が付いていなかったのだろう。此方を振り向きほぼ全員が固まる。

 防音の壁を通しても俺の声が聞こえたのかそれとも気配を察したのか、部屋にいる織斑先生は体を浮かし立ち上がると乱れた浴衣を直している。気が付かれたのだ。だが、青衣以外の3人はその事に気が付いていない。青衣はこそこそドア前から離れる。

 つーか青衣、お前も俺に気が付かなかったのか? 文字通り人外の視聴覚を持っているのに、そんなに集中していたのかよ。

 

「お前ら、何を想像していたのさ」

 

 次いで皆がしどろもどろになる。顔は赤いし珍しい表情で汗ばんでいるし、うむ、良い眺めだ。

 そしてドアが開かれ、青衣を除いた3人へ衝突する。そりゃあ、ドア前に張り付いていたからね。

 その後に逃走を試みても無駄。あっけなく織斑先生に確保された。しかし俺と青衣、箒と鈴へ何故かシャルロットとラウラを連れて来いと命令しする。

 荷物位は置きたかったんだが、しょうがないか。オルコットを置いて俺達は二人を探しに行った。

 

 

 

 

 

 風呂上がりのシャルロットとラウラを連れ、ノックした後に教員室へ入る。奥では真っ赤な顔をしたオルコットが布団から飛びあがり、そそくさと乱れた浴衣を整え始める。一瞬見えた。黒か。

 その光景にシャルロットを除いた3人がオルコットを睨み付けている。

 おーおー、嫉妬ですか。自分が関係無ければ確かに楽しいかのしれない。

 俺達の到着早々、一夏が風呂へ戻された。確かに織斑先生の言う通り、彼は汗をかいている。風呂に入り直して着替えた方が良い。一夏は布団から離れると、そそくさと風呂へ向かって行った。

 

「じゃあ、俺も行ってくるか」

「貴様は今、行ってきたばかりだろうが」

「入り溜めをしておきたいんですよ、温泉なら特に」

「何だ? それは? いいから大人しく座っておけ」

 

 織斑先生に止められる。青衣にもストップを掛けられたので渋々従った。

 何をして良いのかわからず、戸惑いを見せる5人の女子を置いておき、俺と青衣は風呂場から持ってきた荷物を片付け始める。その後は海が見える窓際の椅子に座った。

 その間に織斑先生が畳の上に5人を座らせた。座布団も敷いていある。次いで織斑先生自身は備え付けの冷蔵庫を漁り、ビニール袋を取り出した。

 

「まあ、飲め」

 

 織斑先生はビニール袋の中身、缶飲料を箒達5人に配る。で、最後の俺と青衣にも渡す。って、これは。

 

「ビールじゃないですか!!」

 

 5人には紅茶やらスポーツドリンクやらのノンアルコールだが、俺と青衣はビールだ。冷えている。5人は俺達に渡されたものを見て驚き、箒は非難するように言う。

 

「ん? こいつらは酒を飲むぞ。何度かつまみも作らせたしな」

「ありゃあ、俺が死人だったから成立した言い訳でしょう?」

「なら、今日に限って死んでおけ。青衣はISだから最初から問題ない」

 

 無茶苦茶を言う。そんなに飲ませたいか。

 俺達が飲酒をあっさりと認め、しかも担任を交えていたという言葉に箒のみならず他の面子も固まった。

 

「まあいいだろう? 口止め料も払った事だ」

 

 口止め料って飲み物かよ。安。

 

「そういえば、ISの青衣は兎も角、お前は生き返ってからは飲んでいるのか?」

「一滴も飲んでません」

「変な所で律儀だな」

「じゃあ、浴びるくらいに呑みますか?」

「夏休みにしておけ。流石に二日酔いはカバーしきれん」

 

 織斑先生は軽く笑いながら自分の缶ビールを開け、カシュッという心地良い音が耳に届いた。彼女は一気に煽る。

 

「責任取らされるのは、担任も同じですよ」

「……おまえら、聞かなかったことにしろよ」

 

 彼女が睨みを効かせると、視線を向けられた5人はあっさり頷く。リズムが揃っている。息ぴったりだ。

 やれやれ。

 俺は缶を開け口を付ける。ほろ苦さと炭酸、アルコールが伝わる。うん、美味い。見ると青衣も飲み始めている。向こうは俺に付き合って禁酒状態だったのだ。久しぶりの味だろう。

 

「本当に飲んじゃった……」

 

 呟くようなシャルロットの声が届く。

 

「ん? ヨーロッパって16歳位から飲める国もあるだろう?」

「ここは日本だよ? それに少なくとも、僕は飲んだことが無いよ」

 

 呆れたような、って本当に呆れているみたいだな、シャルロットは。他の連中も似た様な顔付きである。

 

「そちらで酒を飲んだことある奴は?」

 

 気になって尋ねるが、誰も手を上げない。意外でもないか。箒は堅物だし他は現役の国家代表候補生である。下手に酒など飲めば剥奪も有り得る立場だ。だから彼女達には勧めない。

 

「そういえば、つまみは無いか?」

 

 俺達がビールに口を付けたことで織斑先生はつまみを要求する。

 

「まだビールは何本かあるが、どうする?」

 

 にやりと笑う。年齢的に俺は表だって酒を買えないからな。酒を断っていたのもその辺が理由と思われても不思議はない。

 

「つまみねえ……」

 

 確かに欲しい。

 俺は缶ビールをテーブルの上に置き『拠点』へ空間転移した。裸足なので和室に直行だ。まだ誰も居ない。青衣もいない。何せ本体は彼女自身の首にかけっぱなしだ。

 俺は『倉』を開いて鶏肉の焼き物を取り出す。わざわざ『拠点』へ戻ったのは、青衣以外には見せたくないからだ。シャルロットには見せてしまったが、あの場には他の者もいる。

 台所へ移動し、皆が爪楊枝などでつまめる程度の大きさに切りそろえ、複数の皿に盛りつけた。とはいえ使うモノは爪楊枝ではなくフォークだが。一夏もいるだろうから予備も何本か入れて置く。

 幻想郷では一般的な兎の肉にしなかったのはラウラが居たからである。彼女は黒ウサギ隊の隊長だ。流石に兎は不味かろう。さて、目の前には肉が入った皿だが何か物足りない。色が乏しいので葱も添えてみたのだが。

 漬物が欲しいな……。

 俺は開きっぱなしの『倉』から浅漬けを入れている壺を取りだしきゅうりと人参、ミョウガを切る。無論、野菜は幻想郷産だ。

 そういえば酒飲みだけでなく素面もいるな。

 女子たちには青衣手作りのクッキーに既製品のチョコレート菓子だ。甘い飲み物が多かったな、青衣手製のあられや煎餅、クラッカーも付けるか。

 皿とフォークは取り出したお盆に乗せ、取り出した物は纏める。

 そしてようやく気が付く。和室のテーブルに紫姉さんからの『明け方に入るわ。大半の連中が集まりそう。幾つか部屋を借りるわね』という手紙が置いてあったことに。

 目先の事に集中し過ぎたか。一通り読むと『拠点』の廊下から繋がる部屋を操作する。俺や青衣の個人部屋などをひっこめ、和室や洋室など当たり障りのない部屋を複数こしらえた。寝具もある。これら使っていい部屋の扉は開けておき、手紙にも記しておく。

 俺は自分の仕事に満足すると、元の教員室へ空間転移した。

 戻ってきた俺を見て、皆が驚くがそんなのは無視。

 

「テーブル持ってきて」

 

 適当に指示を出す。端にあったテーブルを近くに居た箒と鈴が動き、支度をする。俺はその上に置いただけ。自分と青衣の分はキープし、青衣がいる海が見える椅子へ戻る。そこにはビールも置きっぱなしだ。

 

「わ、これって漬物?」

「ああ。青衣が漬けた」

 

 シャルロットが食い付いた。他の面子もだ。返答後は俺の向かいにいる青衣に視線が注がれ、頷いた。

 

「こっちの焼き物は?」

「俺が作ったんだが?」

 

 箒に返すと今度は俺に視線が集まる。

 え、何だ? その信じられません、と言うような顔は。

 

「そう言えばあんた。学園の調理室に居たことがあったわね」

 

 鈴だ。IS学園の何度も調理室へ行っているが?

 

「青衣が料理を再現するって言っててな。俺も手伝ったがそれがどうした?」

「個別に普通に食事を作ってたって聞いたけど?」

「二人いるんだ。青衣が作っていたから俺も別なものを作っても不思議はないだろう?」

「本当、家庭的よね」

「何を言ってるんだ? 青衣と二人暮らしだったんだぞ? 少なくともうちは家事は半々だ」

「……」

 

 呆れた様な顔を向ける鈴に俺は反論する。

 

「やっぱり日本人の男性って家庭的なのでしょうか?」

「……そうだよね」

「一夏と七海は例外よ。私達と同じ位の年齢に限定するならね」

 

 食べながらシャルロットとオルコットがぼやく様に言う。今朝のバスと言い出した側が異なるだけだ。その場に鈴は居なかったはずだが、のほほんさんと同じようなことを言う。そんなに例外か?

 

「七海、貴様は酒に釣られたのか?」

 

 呆れた様な箒の声が届いた。と言いつつも、本人も鶏肉を食べているが。

 

「文句があるなら全て没収で良いな。今からでも回収するか?」

「……私が悪かった」

 

 箒が観念し、青衣が笑う。

 全く話に入ってこなかったラウラは何をしていたのかと言うと、人参の漬物をぽりぽり目を輝かせ食べていた。本格的に兎だな、こりゃ。最初の『ドイツの冷水』とは何だったのか。

 

「ちょっとした飲み会だな」

「そうですね」

 

 もう少し豪勢になれば宴会か。青衣と二人で駄弁る。

 織斑先生は皆を集めて何を考えているやら。

 

「食い物と飲み物で口が軽くなったところで聞かせて貰おうか」

 

 織斑先生がにやりと笑う。この人、もう2本目を飲み終えかけていないか?

 

「デュノア、七海の暴走って何だったんだ?」

 

 シャルロットに問う。

 おい!! つまみを提供したのは俺だぞ!!

 

「真正面から見られたってだけです」

 

 涼しい顔でシャルロットが言う。正直助かる。同時に俺はその時を思い出した。

 彼女はオレンジの水着が似合っていた。スタイルも良い。砂浜と言う環境も何だかんだんで俺をおかしくしていたのだろう。だからつい見てしまったのだ。思いっきり。

 海で顔を赤くし身を屈めたシャルロットに言われたことは、

 

『えっち』

 

 この一言である。俺はもう自分が駄目だと思った。理性に歯止めが利かなくなると困る。だから自ら埋まることにした。

 多分、マドカからこの流れは発生しているのだ。しかし、これは他人には言えない事でもある。特に織斑先生にバレたらどうなる事か。

 

「なるほどなるほど」

 

 その織斑先生は上機嫌だ。俺には織斑先生以外の女性全員から視線が突き刺さっていた。ちくちくする。

 男の本能だから、これ。

 

「さて、篠ノ之に凰、オルコット、ラウラ。一夏のどこがいいんだ?」

 

 標的は変わる。

 本当、俺達が居ない所でやってほしかった。正面の青衣を見る。ものすごい食い付きであちらを見ていた。訂正、俺が居ない所でやってほしかった。

 ビールを一口飲む。

 一人一人問われていく。シャルロット以外の4人が各々の答えを出す。というか、この場に呼ばれた以上、シャルロットも一夏に惚れたのではないのか? 何でスルーされているんだ?

 

「まあ、私や一夏の事を知って、良いと言うならそれでも良いか、どうだ? 欲しいか?」

「「「くれるんですか?」」」

「やるかバカ。自分を磨いて、知って、それでも良いなら手に入れろ」

 

 織斑先生の言葉に亡国機業(ファントム・タスク)で誕生した遺伝子強化体という秘密が込められていると思ったのは俺だけだろう。少しだけ酔いが醒める。

 この場にいる留学生は国籍がばらばらだ。俺は箒や織斑先生と同じ日本国籍だが実際は幻想郷の者である。当然、過ごしてきた環境が異なるのだ。別に世界と言うのは大きな話ではない。個人個人でも世界がある。同時に大きな世界もだ。

 その後は少しの間だけ騒いでいたが、一夏が戻ると一時的に沈静化する。俺と青衣は飲酒を咎められたが提供したのが織斑先生だと知ると急に頭が低くなった。

 何だかんだでその後は解散となった。青衣が一夏に野菜の入手先について問われていたがはぐらかして終わり。だって幻想郷だもの。そう簡単に手に入るか。

 

 

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 いくら飲んでいても、数時間もすれば酔いは覚める。ましてビール一缶なら、一晩寝ればアルコールは残らない。

 さて、騒いでいた畳の和室だが俺と一夏は通路側で織斑先生と青衣は窓側で寝ていた。窓にはカーテンが掛かり、俺達との間には仕切りが置かれている。この仕切りは旅館側の好意で貸し出されたものだ。これで男性と女性で分けている。

 俺は起きた早々に布団を畳み、既に活動していた青衣とテーブルを出すと適当に寛いでいた。織斑姉弟はまだ寝ていた……のだが。

 

「……ちょっといいか?」

 

 一夏だ。布団からむっくり起き上がり第一声がこれだ。頭にも寝癖がついている。のそのそと立ち上がり、俺達の方へ来る。青衣が彼の分のお茶を用意し、一夏は一口飲んだ。一息つく。彼の寝ぼけた頭が覚醒するのを待つ。少し経ち、彼は口を開いた。

 

「最近変な夢を見るんだ」

 

 ここで一夏はもう一口お茶を飲む。

 

「夢?」

「ああ、昨日、のほほんさんが言ってたんだ。

 ISが夢の中に出て来てもおかしくない、そう青衣さんから聞いたって」

「ええ、確かにその辺を話しましたね」

 

 簪さんを交えてした会話だろう。青衣が同意する。

 

「それで、今まではぼんやりだったんだけど、今日ははっきり会ったんだ。2人も」

「普通、ISの中は一人だと思うんですが、2人?」

「何か……白い帽子と服を着た女の子と剣を持った白いISに乗った女性」

 

 おいおい、それって。

 

「多分、どちらかが白式だ」

 

 あり得る。とはいえもう一人が気になるが。二重人格?

 

「ISって初期化したら人格はどうなるんだ?」

「どうでしょう。記憶を消されるようなものだと思っていましたが……」

 

 青衣は一夏の問いに満足のいく回答が出せないでいた。彼女自身、困惑をしているのが解る。

 

「青衣。お前の場合はお前自身の人格や記憶と、ISとしての記録は別物扱いだよな」

「ええ。初期化したらどうなるかわかりませんが。でも初期化の度に人格が消えたらそれこそ成り立ちませんよ? 例えるなら記憶を真っ白にするか、赤ん坊からやり直すのと同じですから」

「だよなあ」

 

 人間である俺はISがどうなるのか、完全に理解が出来ない。いいや、昨日、簪さんと話したことを考えると、ISである青衣自身理解しきっていないのか?

 

「でも青衣さんが居るんだ。ISとコア人格が別でもおかしくは無いよな?」

「確かにそうですね。否定できません。実際、初期化や他の機体に変更するたびにISコアの中身が変わるとは思えないです」

 

 一夏の疑問は最もだ。俺もそう思う。

 ISコアと機体の関係か。調べたら面白いかもしれないな。

 

「そういえば白式のコアは白式になる前は何をしていたんでしょうか? 倉持技研辺りから聞いてます?」

「何も聞いてない。千冬姉の暮桜か?」

「それは違うと思うぞ、行方不明じゃなかったか? 暮桜は」

「そうなんだよなぁ」

 

 俺は知っている。同じ零落白夜が使える暮桜はIS学園の地下に置いてある。だから白式のコアではない。

 3人とも唸る。

 

「考えて、これ以上の答えは出るか?」

 

 短時間とはいえ煮詰まっているのだ。まして今は早朝であり、答えを急ぐ事柄でもない。

 

「……無理でしょうね」

 

 青衣が大きく息を吐いた。一夏が困った顔で頬を掻く。

 

「まあ、俺が見た夢が本当に白式かわからないし……」

「そうだけどさ、直感って大事だぞ」

 

 一夏を惑わす様だが事実である。誰も口を開かない。

 そんな中、今だ寝ている織斑先生の呻き声が聞こえた。何を言っているのかわからない。だが緊張は削がれた。

 

「青衣さん、千冬姉を起こしてくれない? もういい時間だと思う」

「……そうですね」

 

 確かに仕切りで見えないとはいえ、この状況は余り褒められたものでは無いだろう。一夏の頼みに青衣は織斑先生を起こしに行った。

 

 

 

 

 

 臨海学校、合宿二日目は丸一日用いて各種データ取りが待っている。今いる場所もIS試験用のビーチでドーム状の崖に囲まれている。

 それに今日は7月7日。兎こと篠ノ之束が現れる可能性が高い日でもある。そういう意味でも遊びは終わりだ。当然、青衣の待機形態は俺の首に掛かっている。

 今日は珍しくラウラが遅刻し、罰として彼女がISのコアネットワークについて解説を始める。既に知っている内容だ。だが欠けている事がある。篠ノ之束が絶対命令を流し、情報を取得する為に活用している事だ。少なくとも正体不明の情報が一方に流れている事はIS学園としても認めている。

 とはいえ今は準備に追われる。俺も青衣が造り出した試作品や、幻想郷に置いてあった工房から紫姉さん経由で持ち出された装備を扱うのだ。今は『倉』に保管しているソレを、空間転移か何かで亜空間へ行き持って来るのだ。楽しみでもある。

 やがて織斑先生に準備をしていた箒が呼ばれ、同時に砂煙りを上げながらISらしきものを纏った『乱入者』が現れた。

 同時に俺の背後で冷たい殺気が発せられる。青衣だ。俺も『空間を操る程度の能力』を発動させる。遠慮など要らない。俺達がいる砂浜を半径数百メートル支配下に置く。アレがISならこれでも範囲は不足だろう。

 生徒と教師、ほぼ全員の動きが止まる。ふざけた緩い笑顔の『乱入者』に気が付き、咄嗟に俺や青衣との間に入った一夏もだ。

 だが、『乱入者』は意も介していない。織斑先生ですら青衣から受ける殺気は2回目なのに脂汗が滲んでいる。その『乱入者』と此方を交互に注視する中、『乱入者』は箒を呼ぶ。その箒は『乱入者』のセクハラから受け、反射的に殴った。

 青衣からの殺気が少しだけ薄まる。あくまで少しだが。

 此方側と『乱入者』に視線が注がれる。織斑先生は「準備しろ」と言うが止まるわけがない。皆、『乱入者』の顔は知っている。そして始まる『乱入者』の自己紹介。

 

「私が天才の束さんだよ、はろー、終わり」

 

 『乱入者』は篠ノ之束、兎だ。

 同時に全員がゆっくり青衣を見る。関係性を知っているからだ。

 俺は兎から目線を動かさないが、『空間を操る程度の能力』により何が起きているか掴んでいる。俺達と兎の間に一夏が入り、汗だくになりながら必死で此方を呼び止めなければ俺はISとしての青衣を使い、自身の能力を完全に発動させ、仕掛けていただろう。

 一夏は頑張っている。初体験であろう殺気を受け、しかもその質は妖怪と能力持ちの人間という異質なものだ。それも皆、本能で察しているだろう。笑う馬鹿な者は居ない。そんな余裕など欠片も無いからだ。

 平然としている兎はそんな一夏にも声を掛け、一言二言返す。そして兎は初めて此方を見た。

 兎の雰囲気が変わる。外見こそ同じ笑みだが、そこにあるのは壊れた者特有な、普通の連中にはまず見ることの無い代物だ。

 睨み合う。互いに口は閉じ、俺と兎、青衣と兎の視線が交互に交錯した。

 何秒か経ったか、その場にいるだけで苦しいであろう教師や生徒の荒い吸音音が響き、兎の口が開かれた。

 

「幻想世界の人妖(もの)が外の世界を跋扈するなよ」

 

 表情や雰囲気とは裏腹に怒りも何も感じさせない声だった。逆に子供じみた兎だから不気味な声でもある。そんな事よりも、兎の口から出た内容だ。

 外の世界。この単語が兎の口から出たことで確信した。兎は幻想郷を知っている。幻想世界もわざとぼかしたのだろう。跋扈とは、のさばり、はびこることである。

 つまり俺達が外の世界にいるのが気に食わないと。外の世界に出る理由を作った貴様が言うか。

 俺は一歩前へ出た青衣を制し、首に掛かっている青衣の待機形態、つまりISを兎に見える様に持ち上げ口を開く。

 

「幻想世界の技術(もの)を外の世界に跋扈させるなよ」

 

 俺の言葉で青衣の笑み、そして何を考えているか分からない兎の笑みも深くなる。

 この二人の表情は本当にそっくりだった。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。
生活リズムが変わり更新速度も遅くなっていますが、少しずつ続けていきたいと思います。

今回は準備回。
この設定ではISによる『幻想跋扈』で外の世界は荒らされたという所でしょうか。何せ外の世界の住人には理解不能なわけですから。
外の世界にやってきた緑兵と青衣の『妖々跋扈』ならぬ『人妖跋扈』に兎が臆するわけも無く、ようやく遭遇しました。


何かありましたら感想へお願いします。

-追加-
描写不足を修正 誤字修正
IS学園に男は2人だけとも取れる箇所を修正(轡木十蔵)
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