IS学園、教室がある棟の屋上に俺と青衣は転移した。空を深緑のラファール・リヴァイヴが3機飛んでいる。挙動がしっかりしている。おそらく操縦者は教師か上位陣の生徒だろう。
青衣が学園長の携帯電話を鳴らす。俺は携帯電話を持ってきてない。臨海学校で使ったロッカールームに置きっぱなしだ。
学園長は話し中らしく、青衣は更識会長に掛け直す。すると数回のコールで彼女は出た。話は伝わっていなかったが、近くの学園長は話を聞いている所だったらしい。タッチの差で山田先生から先に連絡が行った様だ。青衣は既にIS学園へ到着した旨を伝えると職員用の会議室に来るように言われる。職員室の隣だ。
俺は青衣の手を掴むと、指定された会議室へと飛ぶ。学園長の他には教師が数名、生徒としては更識会長に2年生のフォルテ・サファイア先輩、3年生のダリル・ケイシー先輩、布仏虚の4人だ。虚さん以外の生徒は皆、専用機持ちである。多分、虚さんは生徒会役員だから呼び出されたのだろう。学園長以外は皆、立ったまま会議をしていた。メモ程度は近くの机に置いてある。
視線が此方に集まる。青衣と更識会長は互いの姿を認めると携帯電話を切った。皆、空間転移を見慣れていないからか少し驚きの表情を浮かべたが、直ぐに消える。殆どの者は落ち着いているが、教師の一人は苦々しい顔付きだった。
「生徒や学園の人は全員、最寄りのアリーナかグラウンドに避難させている所よ。この場に居ない教師は練習機で出撃か避難誘導、代表候補生は交代要員として待機させているわ」
更識会長の状況説明に頷く。
「無人機には練習機を3機向かわせたわ。後は学園の護衛よ。何か質問は?」
「俺達は、何をすれば?」
「何もしなくて良いわ」
更識会長に返したのだが、答えたのは学園長の傍にいる苦々しい顔つきの教師だった。其方に顔を向ける。
「男は不要。隅で震えてなさい」
見下した目で此方を見る教師。もうこの教師の考えは解った。だから話しても無駄だと理解する。他の教師も似た様な顔が半分いるが口を開かない。同意しているのか、非常事態だから自重しているのかは不明だ。
対して学園長や更識会長は不味いと思ったのか眉を顰め、先輩3人と残りの教師達はその教師達に呆れた顔を見せている。
「で? 更識会長、俺達は何をすれば?」
「何もするなと言っているのよ? 出番はないわ、消えなさい!!」
耳障りな音が響く。
狭い部屋で怒鳴るなよ。机も叩くな。状況わかっているのか? 青衣はその教師に呆れた顔を見せる。多分、俺も。
「言葉が解らない位、馬鹿なのかしら? これだから男は」
「そちらは状況が解らない位、馬鹿なのかしら? 非常事態だから行けと言われ、此処に呼ばれたのよ? 文句は其方に言いなさい」
青衣が言葉を遮る。馬鹿の相手は青衣に任せ、俺は再び更識会長に顔を向ける。
「俺達は学園長か更識会長から指示を受ける様に言われています。他には受ける気はない」
更識会長が俺に何か言う前に、例の教師が口を開いた。
「砂なんて部屋に入れISスーツのままやって来る。全く常識の無い。これだから男は嫌なのよ」
「臨海学校の最中、緊急事態だから飛んで来たまで。その位わかるでしょう?
シャワーでも浴びて、着替えて、のんびり来た方が良かったかしら?」
俺の格好はその教師の言う通り、確かに体に砂が着いている。だが理由は青衣の言う通り。
「あ」
「いい加減にしなさい!! 非常事態だから来たのです!!」
何か言いかけた教師の言葉を遮り学園長の喝が響く。向こうは納得をしていないようだがそれで黙った。
「先ほど臨海学校で何があったのか、簡潔に説明して下さい」
学園長が俺へ言葉を向ける。
「まず、篠ノ之束が現れました。妹である篠ノ之箒に誕生日プレゼントを渡す為です」
どよめきが起きた。全員驚いている。とはいえ学園長は臨海学校前に話をしたからか、少し控えめだったが。
本当だった、という声が小さく聞こえた。織斑先生を含めた臨海学校に居る教師から報告があったのだろうか? 今、学園長が話していたのか?
「プレゼントの中身は新造した世界最高スペックのIS紅椿とISの適性Sです」
「「「は?」」」
幾人かは素っ頓狂な声を発し、会議室に響いた。他は驚きの余り声が出せなかったらしい。例のやかましい教師も、学園長も、更識会長も関係ない。全員だ。
「後は」
「もう1回、プレゼントの中身を言って下さい」
学園長が俺の言葉を遮る。顔が強張っていた。そりゃそうだろう。
「篠ノ之束はコアごと新しく造り出した専用機を篠ノ之箒に渡し、適性はSに書き換えました」
間。
時間が止まったようだ。俺、咲夜と違って普通の空間では時間停止は出来ないんだけど。
「貴方達……本気で言ってる?」
「ええ」
先ほど女性至上主義者の言葉に眉を顰めた他の教師だ。彼女も此方の正気を疑っている。まあ、主義主張に関係なく耳を疑うよな。俺も自分自身で見て無ければ疑っただろう。
ここで青衣が記録を呼び出した。広がった楕円の平らな空間に全員がどよめく。
「長くなるので抜粋ですが、信じられそうにないので」
確かに話しても長引きそうだ。
青衣は記録を全員が見える位置に移動させた。それに映すのは箒へ紅椿への受領と試運転、兎が『箒ちゃんの適性はSにした』と言い喜ぶ場面、所々カットされているが、何が起きたのかくらいは理解できる内容だ。見終わった全員は絶句する。
「紅椿のやりとりを全部見たければ後で言って下さい。今は非常時ですから」
記録は真っ白になり、青衣の言葉に皆が我を取り戻す。
「……青衣さん、続きを」
少し後、学園長が絞り出すような声を出した。
「記録の続きでしょうか? 臨海学校の出来事でしょうか?」
「出来事です。記録は抜粋で構いませんから入れてください」
「わかりました」
普段、学園長は明確に指示を出す。表情に変化は無かったが、流石に動揺しているのだろう。青衣は聞き直す。
「ISが女性しか動かせない理由は、篠ノ之束が私が証言した命令以外に何か別の命令を発した為と思われます。適性操作は箒で確定ですからね」
再度、時間が止まる。青衣も止められたのか。
「詳細は不明ですが、結果として男性はISを使えなくなった。それだけの事でした」
「……理由は?」
学園長に青衣が再度記録を再生させる。
『束さんに逆らったり、ちーちゃんを怒らせたり、箒ちゃん虐める連中に使わせたくないよね?』
『……それが理由ですか』
『うん。何か変?』
記録の中の兎は不思議そうに首を傾げ、記録は止まった。
「もう一回言いますが、全体のやりとりを見たければ後で言って下さい。長くなりますから」
固まる全員に青衣の言葉が掛けられるが、どれだけ届いているのか。
「一夏さんの白式にも公開されていない事実があります。機密らしいですが篠ノ之束があっさり話し、皆聞いてしまいました。こちらはどうしますか?」
「……話して下さい」
青衣の言葉に反応した学園長の声には疲労感が混じっていた。流石に疲れを覚えたのだろう。
「白式は倉持技研で放置されたISを篠ノ之束が引き取って完成させた機体でした。とはいえ日本代表候補生更識簪さんの件を見るに、倉持技研に投げたようですが」
「……」
誰も言葉を発さない。幾人かは表情が消えている。更識会長もだ。簪さんの専用機の件は俺以上に知っているだろうが、この件を知っていたかはわからない。何せ機密だからな。ロシアの国家代表だ。日本の機密に触れる機会があるとはいえ、これは最重要だったろう。
それを兎の特別であり世界唯一の男性操縦者である一夏が使っているのだ。繋がりは疑える。
「白式の事は織斑先生が機密と言ってたのですが、学園長はご存じでは?」
「……聞いていません」
機密とは倉持技研の機密なのか? それならIS学園に報告していない理由にもなるな。
「緑兵、大きい所はこの位でしょうか」
「そうだな」
青衣が此方に顔を向け、俺は同意する。
「それで私達の役割は何でしょうか?」
「貴方達はクラス代表戦に現れた無人機を見つけていますよね? 空を飛び、隠れていた方です」
青衣が学園長に尋ね、返答は質問だった。
確かに俺が『空間を操る程度の能力』を用いて探知した。
「向こうが何かしない限り、IS学園ではあのステルスを探知できません」
この一言は重い。最先端たるIS学園でも無人機には先手を許すと言うようなものだからだ。
「IS学園やメガフロート周辺を探って下さい。どこにいるかは任せます。自由に出入りしてください」
学園長は俺の能力の一部を知っている。更識会長と虚さんもだ。故に俺が他の者に見せたくない事も見当がついている。正直ありがたい。
確かに『窓』経由でも探知や空間転移程度なら実行できる。
「報告は学園長がいる部屋に直接現れます。どうでしょうか?」
「構いません。この会議の後、私達は第三アリーナの管制室に移動します」
「……送りましょうか」
「いいえ、その時間があれば探知に使って下さい。後は」
学園長が更識会長の方に顔を向け、振った。固い顔をした更識会長が口を開く。
「見えている機体は私達や教師達が対処、捕獲する」
捕獲ね。確かにシールドエネルギーを失わせたら可能だろう。以前に俺がやったみたいに。
「でも突然現れた無人機や、私達が間に合わないと判断したら七海君達が行って。事前連絡は不要だから。
私達から呼び出すときは……そうね、管制室から発するわ。全方位の通信が届かなければ学園のスピーカーを使えばいい。それで現れて」
「了解」
更識会長は知っている。いくら通信を広げても俺達には届かない。だが、管制室を監視していれば違う。学園もだ。これはそういう指示だろう。
互いに頷き、やり取りがすぐに終わる。例の教師は苦い顔をしていたが、学園長が其方へ視線を向け牽制していた。素直に、助かります。
「行って」
更識会長の言葉に従い、俺と青衣は亜空間へ再び飛んだ。専用の部屋は必要かもしれない。
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木の床と椅子が二つしかない殺風景で土足で入れる広めの部屋だ。俺は椅子に座ると『窓』を使い、まずは無人機を確認した。以前、アリーナに現れたものと細部が違うが同じだろう。臨海学校の砂浜で呼んだ端末の情報だとその無人機は何かをする訳では無く、IS学園のあるメガフロート周辺を漂っていたらしい。速度は低速で高度も上げたり下げたり、一見して現れた目的が見えない。
だが、その無人機は教師の3機のラファールが近寄っている為に飛びまわっていた。今までが気ままな散歩なら、今は追いかけっこである。俺には無人機が遊んでいるかのように感じられた。
俺は職員用の会議室と第三アリーナの管制室を見る『窓』も造り出し、青衣に現れている無人機を含めた監視というか、情報収集を任せる。第三アリーナの管制室では一人の教師と複数の生徒がせっせと装置の準備をしていた。設備を使えるようにしているのだろう。青衣は俺に気を使ったのか、背中合わせに座る。『窓』もそちらに移す。集中力を監視に割くことは出来ない。
俺はIS学園やメガフロートに『窓』を一定間隔で作り出し、俺を中心に配置させる。目の前の『窓』介して『空間を操る程度の能力』を使用しIS学園周囲の空間に無人機が隠れていないか探った。探知が終われば次の『窓』だ。
上空に存在は無し。次に接している海上、海中、海底にも無し。次に陸上だ。ざっくりと見ても居ない。ここからが面倒。陸上は木々や建物の隙間を注意深く探っていく。
以前、ラウラをIS学園の端に放り出した後に織斑先生へ『広い場所を探すなら歩き回るのと手間は変わりません』と言った。多少言い過ぎだが事実である。少しずつ、IS学園敷地内を漏れが無い様に螺旋を描いて探知し、塗り潰していく。次にIS学園敷地外からメガフロート全体だ。
一通り探り終わり、安堵する。IS学園のあるメガフロートから約10キロメートルには居ない。距離は指定されていなかったが、多少余裕を見た方が良いだろう。ISの音速を超える性能が有れば不足だろうが速度を出せば流石にばれると思う。空気や海水、他にも影響は出るからだ。今の警備体制なら見逃さない筈だろう。その位はIS学園に期待しても良いはずである。それに音速は確か秒速約340メートルだったか。温度で変化するだろうが今は良い。10キロメートルなら音速で移動しても到達するまで20~30秒余裕が出来る。十分なはずだ。
俺は今までの作業を急いで行った。たまたま探るタイミングで隠れいている無人機が移動し、漏れた可能性も有るので海底から地上とまで逆回しに探知をもう1回行う。
途中、『倉』から出した外向けにも配布しているISの案内図を出しておく。もしも、何かいたら口で言うよりも印をつけた方が説明しやすいだろう。しばらくして、2回目が終わる。
「一体だけだ。周辺10キロ、他に居ない」
椅子の背もたれに体重を預け、大きく息を吐く。本気で疲れた。時計を見ると大分時間が経っていた。
「学園長達は管制室に到着しています。ISも配置済みですね」
「無人機は?」
「変わりません。圧倒的な速度で逃げ回っています。教師陣は発砲を中断しました。弾の無駄ですから」
「逃げ回っているって、無人機側の攻撃は?」
「無いですね。楽しそうに向こうからの攻撃を躱していますよ」
楽しそう、か。
「まあいい、報告に行くか」
「ですね」
此処にはすぐに戻るだろう。『窓』を出しっぱなしにして、俺達は立ち上がった。
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管制室、中央の席に座る学園長に直接報告する。俺達は立ったままだ。この部屋に居るメンバーは先ほど準備していた教師を含む数人と虚さんだ。他の者はISに乗って展開か待機をしているので居ない。
だが、なんだろう、管制室の空気が重い。皆、顔色が優れないのだ。非常事態とはいえ何かおかしい。
「メガフロートから周辺約10キロを探りました。飛んでいる一体以外、他に居ませんね」
「……そうですか」
「確実ですか?」
俺の報告に何かを思案するような学園長と、オペレーターの椅子に座る虚さんだ。返してきた彼女は顎に手を当て考えている。
「2回確認しました。確かに無人機が速度を出し、たまたまタイミングがかち合えば探知漏れが出る可能性がありますが、それだけの速度を出せば他のISが気付きますよ。だから大丈夫です」
「わかりました」
学園長が頷いた。虚さんも満足そうだ。
「七海君はそのまま周囲の警戒をお願いします。とはいえ新手の無人機はゆっくりと来るでしょうし、疲労もあります。倒れたら困りますから、休んでください。
それと時々、此方に報告へ来て下さい。時間は任せます」
「わかりました、ところで質問があるのですが、良いでしょうか?」
「何ですか?」
「臨海学校はどうなってます?」
此方を優先させているのだが、あちらの様子が流石に気になったのだ。向こうの緊急事態が何なのかも気になる。
そういえば青衣に管制室を監視させていた。先に聞くべきだったかもしれないな。
「何も聞かされてないのですか?」
「非常事態が2件、学園の方へ行けとだけ。それがさっきです」
「……」
学園長は少し驚くが、俺の回答を聞いたら黙る。言い出しにくい事なのだろうか? 他の者も顔が渋い。青衣は変わらないがこれは演技だろう。多分、聞かされる内容を知っている。
「決して漏らさないで下さい。口外した場合は査問委員会からの裁判と監視が有り得ます。……お二人相手に拘束は無駄でしょうが」
「まあ、話すなと言うなら言いませんが……」
別に話しても良いけどさ、裁判云々よりも信頼や信用を失いそうだ。
「布仏さん、奥で彼に説明をお願いします」
「はい」
オペレータ席の虚さんが紙束を手に席を立ち、俺達を誘導する。近くの椅子を集めて青衣を含めた3人で固まった。
「何か起きたのか話します」
硬い顔をした彼女から説明が始まった。
銀の福音と言うアメリカ軍所属の軍用ISが暴走したらしい。ハワイ沖で試験運用していたのが、暴走によって監視区域を突破したが、臨海学校ある海岸2キロ前を通過することがわかった。その為にIS学園が対処するように依頼された。つまり学園の上層部から臨海学校側へ連絡が行った。
虚さんが紙束を俺達に見せる。銀の福音のスペックが記載されたものだった。虚さんの解説付きで説明が始まる。
銀の福音は広域殲滅を目的機とした機体で、オールレンジ射撃を行うことが出来る。軍用らしく第三世代型ISだが他のISよりスペックは上だ。無論、青衣よりも基本スペックは上である。というよりも第三世代型では群を抜いているな、これ。
まあ、軍用とスポーツ用の違いがいまいち解らないが、試合で禁止されている武装も積めるという事なのだろうか。
「オールレンジ射撃……全方位の弾幕、青衣と似た攻撃方法ですか?」
「そう考えて良いと思います。後、高出力の多方向推進装置(マルチスラスター)が両手両足にあり柔軟な動きを可能にします。加えて急加速も出来る様です」
「青衣は小型とはいえスラスターを全身に付けています。本当に似た機体?」
「そうですね。コンセプトは似ていると思います。格闘戦は不明ですが」
俺の言葉に虚さんが頷き、ISである青衣は紙を読み込みながら何やら考えている。改造をするのに銀の福音はピッタリだ。何か考えがあるのだろうか。
「暴走した機体を止めるんですよね? 誰が何をするんですか?」
「対応は織斑一夏、篠ノ之箒両名で行う事になりました」
「……は?」
俺の思考が止まり、青衣も驚いた様子で紙から顔を上げた。
「代表候補生が揃っているでしょう? 何故に?」
「織斑君には白式の零落白夜があります。それにスペックが高いから追いつけます」
「ああ、なるほど。確かに他がフォローすればいい。でも何故たった二人? それも箒?」
白式があるから一夏か。だが、フォローする箒もド素人でさっき専用機を受け取ったばかりだ。不安、不安だよ、この人選。
「篠ノ之博士の強い後押しがあった為です。作戦も同じです」
顔に出ていたらしい。そうでなくても疑問だろう。で、虚さんの答えに呆れた。
「何で兎が作戦立てている場所に居るんですか?」
「会議に乱入した様です」
それって、さあ。
「ISを最初に発表した時と同じでしょうか?」
青衣が口を開いた。俺と同じことを考えたらしい。
「さあ? 篠ノ之博士は会議に乱入し出続けた、これ以上は解りません」
「それはそうですね。現場じゃないと」
虚さんが頷き、先を進める。
「この作戦は11時30分開始予定。篠ノ之さんが背中に織斑君を乗せて出発、銀の福音に一撃離脱を試みるそうです」
時計を確認する。開始時間はしばらく後か。
作戦も妥当かはわからないが、まあ良いだろう。でもさ、気になった。
「確認しますが。これ、高速戦闘ですよね?」
「ええ」
うん、銀の福音は高速戦闘を行う。だから此方も高速戦闘になる。ちょっと考えれば誰でもわかる。当たり前だ。
「二人って、高速戦闘やったことありましたっけ?」
「無いと思います。少なくともIS学園ではまだ行っていません。他で訓練も受けているとも思えません」
「ですよね~。代表候補生組は?」
「全員、あると思います。特にラウラ・ボーデヴィッヒは軍人ですから間違いなくあります」
そう、二人は未経験なのだ。確かに経験が有ろうが無かろうがやらなければいけない時はある。だが、他に訓練を受けた経験者がいる。しかも一人は留学中とはいえ軍人だ。スペックが不足していようが人数でカバーできることもあるだろう。そこは作戦次第になる。
織斑先生達教師陣、何やってるの? 兎の言いなりじゃん。まあ、現場に居ない俺がいう事でもないか。
因みに俺は訓練していない。だが、亜空間で高速の攻防を行ったことはある。自分が放った弾幕を調節、自身へ向けたのだ。まあいい、話が逸れる。
「その時に……」
虚さんは言葉を濁らせる。表情も曇っている。何か変だ。
「その時に紅椿と白式が第四世代型ISである事が判明しました」
「「「え?」」」
俺は自身の耳を疑い、青衣と声をハモらせた。
第四? 第四と言ったか?
「第四世代型IS、です……」
虚さんが大きなため息を付いた。珍しい。唯でさえ女性が人前でため息を見せるなど滅多に無い。本当に呆れた時か、疲れた時くらいだろう。
だが、これは当然の反応だ。世界各国は膨大な予算と時間、優秀な人材を割いて第三世代型ISの開発にやっと取り掛かったのだ。ブルー・ティアーズ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲンは試作機の面が強いし、フランスのデュノア社は第三世代型ISを開発するためにわざわざシャルロットをスパイとして寄越した位だ。なのに、兎は第四世代型ISを作ってしまった。しかも2機存在する。
技術に関わり、研究をするものからすれば馬鹿馬鹿しいだろう。本当にやってられない。心が折れる。妹も学年全体を萎えさせたが、姉は正に世界規模の『天災』だな。
それにしても、なるほど、倉持技研もこの件を知っていたとするなら打鉄弐式を放置した理由になる。何せ手元に第四世代型が1機あるのだ。最優先にもなるか。
俺は改めて管制室を見渡す。空気が重かったが、虚さんの言葉が流れると重みが増した。理由はこれか。
「後、白騎士事件を強調していたようですね」
虚さんが小声になった。まあ、良い話ではない。
織斑先生に対する脅しか? 作戦を通さなければ暴露すると。虚さんと学園長は白騎士が織斑先生であることを知っている。他の者も疑っているだろう。それに白騎士を操縦者に手渡したのは兎自身だ。だから兎の証言一発で終わる。
「こんな所でしょうか、質問は?」
「ありません、青衣は?」
「無いです」
「そうですか」
気分を切り替えたいのか、虚さんが背筋を伸ばす。
「監視に戻ってください。作戦結果は伝えます」
「了解」
俺と青衣は立ち上がり、元の亜空間へ転移した。
---------------------------------------
時間は経った。あれから再度、メガフロート周辺を確認したが反応は無し。
暇である。休憩時間があるのは嬉しいし、助かるが暇なのだ。もうすぐ昼時で腹も減った。これでは緊張が解かれてしまう。
『窓』にて無人機の様子を確認するが、4機に増えたラファール相手にひたすら逃げ回っている。しかもその4機は新手、最初の3操と入れ替わっているのだ。教師たちの腕が悪い訳では無い。性能差もあるが、相手が徹底的に逃げているのだ。攻撃はほとんどしてこない。逆を言えば、時々攻撃をして来るのだ。だから厄介、相手は正に省エネ対応である。ISが4機、正に一部隊を相手にしている無人機だが、それ位の戦力になると言うのだろうか。
教師の方が弾切れやエネルギー切れを考えてか、個々の手数は減っている。その為か、せっかく外側に追いやったのだが少し経つと元に戻り、また遠ざかりの繰り返しだ。正にいたちごっこである。
そんな様子を見ながら、もう一回位、探知しておこうかと思った時だった。
「緑兵」
「ん?」
背後に居る青衣に声を掛けられる。
「学園長が呼んでますね。行きましょうか」
俺達は立ち上がると、再び学園長に会いに行った。
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俺も青衣を纏い、攻撃に参加することとなった。とはいえ攻撃は奇襲の一回こっきりだ。
一撃離脱という点では臨海学校の一夏や箒と同じであろうか。
『悪いわね、私達でやるって言っておいて』
「構いませんよ」
「退屈してましたからね」
『そう言うと思ったわ』
管制室に通信を入れてきた更識会長に青衣と共に返す。無人機相手に更に更識会長が攻撃要員として加わることになったのだ。
それにしてもまた更識会長に読まれた。俺って其処まで単純なんだろうか。まあ、今はいい。置いておこう。
作戦はこうだ。
俺達が加速を付けた状態で無人機の背後か頭上に空間転移し接近戦による一撃を喰らわせ、再度無人機ごと空間転移する。行先は更識会長と教師達のラファールが取り囲んでいる場所だ。俺は離脱し、無人機は集中攻撃で一気に落とす。
攻撃も前回同様に斬る心算で行って良いとのこと。ダメージも多ければ良しだ。『空間を操る程度の能力』は別に触れてなくても射程内なら目標物を好きな所に飛ばすことが出来るのだが、まあ、いいか。それだとダメージ無いし。
「じゃあ、俺達も戻ります」
「ええ。タイミングは虚のカウントに合わせてね」
再度、亜空間へ飛んだ。正に行ったり来たりである。青衣を纏い、同じ管制室を見ている『窓』と無人機を捕らえた『窓』を目の前に、他は一時的に隅へ寄せて置く。
やがて作戦が始まった。管制室を通じ更識会長の声が『窓』から伝わる。後30秒で更識会長が無人機を取り囲むポイントへ到達する。俺は青衣を浮かせると正面に加速を始めた。だが狭い部屋だが壁にぶつからない。自身の『空間を操る程度の能力』を使い、自分たちを一か所に留めているのだ。これは以前に更識会長相手に試合し、無効試合となった時と同じだ。いくら加速しても壁に到達しない。
『10』
虚さんによるカウントダウンが始まる。両手に無名を構える。
『9』
俺は自身に妖術を掛けて反射神経を向上させた。
カウントは続く。加速は続く。緊張も続く。
『3』
俺は『窓』に映る無人機をまっすぐ見据える。
『2』
加速し、既に最高速度。
『1』
更にイグニッション・ブーストを行う。負担も増える。
『0』
無人機の背後へ飛ぶ。
視界は変わる。室内から大空へ、真下は海面、正面は無人機の背だ。その背中に右手の無名を突き刺し、俺の視界は強い光で……え?
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心臓がバクバク音を立てている。呼吸も荒い、汗もどっと噴き出した。視界もチカチカする。
あっぶねえ、命拾いした。反射神経、強化して助かった。出来る事やっておいて助かった。シャレにならん。いや、ホント。
無人機が自爆した。俺が突き刺すと自爆した。
無人機の背から僅かに見えた視界の先に、右手を離して咄嗟に飛んだのだ。だから助かった。向こうもISのシールドを容易く壊せるだろう。転移しなければ巻き込まれ、転移しても無人機と刀を介して繋がっていたなら同じ事だ。実際、無名は無人機と共に消滅した。残骸すらない。爆音と閃光を残し、消滅した。その威力にぞっとする。作戦通りにしていれば、俺と青衣のみならず、更識会長や教師達も大ダメージだろう。
周囲を確認する。2キロメートルほど離れた場所に、茫然としている更識会長に教師のラファールが3機飛んでいた。ハイパーセンサーで確認するが損害は軽微、問題ないだろう。そうか、咄嗟とはいえ2キロメートル飛んでいたか。
「あ、の……」
青衣の声だ。堪える様な、怒りが籠った声だ。
「あの兎!!」
青衣が吠えた。理由に俺も気が付く。
無人機もIS、云わば青衣の妹だ。それが完全に捨て駒となり自爆した。怒るなと言うのが無理だろう。
此方を発見したのか、スピーカーの声を聞いたのか、更識会長達の顔が向いた。
『ちょっと、大丈夫なの!!』
更識会長が此方に飛んでくる。他の教師も此方を伺うが、更識会長が止めた為に無人機があった場所に向かって行った。
「ええ、大丈夫ですよ、更識会長」
青衣の声が弾んでいる。これは怖い。完全に切れている。通信相手の更識会長も異常に気が付いたのだろう、顔が青ざめた。
「更識会長、ところで私用事が出来ました。お出かけしたいんですが、よろしいですか?」
『落ち着いて、まずは冷静になって』
泡食っている。向かってくる更識会長が珍しく泡食っている。
「なってますよ? 姉妹が目の前で捨て駒にされて黙ってろと? 誰がそんなことできるか、わかっているでしょう?」
『落ち着いてないから』
「じゃあ、簪さん、消滅させますよ? よろしいですか?」
『良いわけないでしょ、ふざけないで!!』
「私にとって、そのふざけたことが今、目の前で起きたんですよ!?」
青衣の声は高いまま、テンションが異常な位に上がっている。その上で青衣は更識会長は簪さんならどうするか聞いているのだ。向こうは黙る。
「こっちが問題無いなら、俺達は臨海学校の兎を捕まえに行きます」
『七海君も!! 二人とも落ち着いて!!』
だから俺も参加することにした。
「落ち着いてますよ。だからこそ、これ以上は放っておけないでしょう?」
『いいえ、落ち着いてない』
「だから落ち着いている。元を断たねば意味は無いだろうが!!」
『頭に血が上った状態なら尚更、行かせることが出来ないわ』
確かに、俺も十分頭に来ている。自覚もあるし、口調も荒い。更識会長も理解しているのだろう。
「説得は無駄だった。あっちの事件もある。
更識会長、言っている意味は解りますね? 聞いている学園長もです」
今までのやり取りは管制室にも届いているだろう。すぐに学園長から通信が入る。
『許可できません』
「理由は!?」
即座に青衣が尋ねる。その言葉には明らかに怒気が混ざっていた。
『まだ、無人機が居る可能性があるからです。それに今は行っても無駄でしょう』
「何故ですか!!」
『たった今、向こうも終わりました』
「それで? どうしたんですか?」
『……』
学園長は無言。説得はどうした? 作戦もだ。どうなった?
『いろいろ聞きたいこともあるでしょう。
ISを展開したままで構いません。更識さんを連れて管制室に来て下さい』
この一言で通信は終わり、切断された。向こうの作戦が成功したならそう言うはずだ。何かあったな。
苛立ったまま、空中に制止した状態で少し考える。何があった? あり得るとしたら何だ? 失敗? 成功したけど被害が出た?
『送ってね』
目の前にやってきた更識会長が腕を出す。固い顔をした彼女の腕を無言で引っ掴むと、俺は管制室へ飛んだ。ISを解除し体を出した青衣、更識会長と共に話を聞く。
そこで銀の福音側の作戦失敗と一夏が重傷を負った事実を知ることになる。銀の福音も補足できず、兎は姿を消してしまった。
無人機の消滅に向こうの作戦失敗。止めに兎は居なくなった。織斑千冬に織斑一夏、篠ノ之箒へ兎の説得を依頼したのは間違いだっだのだろうか。とにかく、俺は自分の判断が甘かったことを実感した。少しだけ頭に登った血が下がる。
とりあえず向こうの詳細だ。全てはそれからである。
「報告!! 南の海上に所属不明機が現れました!! 距離は……」
管制室に響く声。
訂正、この騒動が終われば、だな。俺が調べた10キロメートルよりずっと、ずっと先に現れたわけね。本当、ハイパーセンサー様々だ。何10キロ先でも障害物が無ければよく見えるもん。
俺は米神に青筋を浮かべながらそう思った。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
福音事件開始です。同時に主人公の消耗開始。機体は刀を一本失い、精神的消耗は目の前での自爆による切れ具合と疲労、しかもIS学園に張り付いていますから、向こうも気になってしまいます。合間を見て行く手もありますが非常時には間に合わなくなる。後は能力の連発による霊力の消耗でしょうか。
結局、人間(緑兵)と人間に頼るIS(青衣)です。対応策は幾らでもあります。
ところで、地図上で一点から任意の距離を円で囲むサイト見ました。半径10キロメートルって広いです。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
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