幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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27_互いの怒り

 IS学園の第三アリーナにある管制室、今は学園長が指揮をしている場所で、銀の福音を相手にしている花月荘側の話を聞いた。

 呆れしかない。

 箒は俺が凹ましたが作戦参加が決まると浮かれっぱなし、一夏は最大のチャンスを自ら放棄し、教師達が封鎖している筈の海域に何故か居た密漁船を庇った。結果、箒が単独で挑み、一夏が箒も庇い撃墜された。

 密漁船が銀の福音の近くに居たのも有り得ないが、一夏の行動も有り得ない。どうも零落白夜がある事から指名され気合を入れて参加したらしい。絶対成功させるとも。それが作戦放棄かよ。箒も離脱すればいいのに俺に散々やられのが悔しかったらしく単独で挑んだらしい。一夏は今度は密漁船を放棄して箒を庇う。

 なら最初からするなよ。正に作戦などあってないもの、失敗である。

 白式と紅椿の通信記録を取り寄せて聞くと、一夏は密漁船を見捨てる事を『寂しい事』と言った。それで俺は以前に疑問に思ったことを思い出した。

 一夏は『皆を守る(護る)』と威勢の良い事を言うが、彼は誰を守る(護る)気なのか。密猟者を庇ったが彼の優先事項は何なのか。今回は最悪の事態として、1年生がいる旅館『花月荘』周辺に銀の福音が突っ込む可能性も有るのだ。何せ、情報を信じるなら軍用ISが暴走しているのだ。本当に暴走しているなら、周囲一帯に壊滅的な被害が出てもおかしくない。

 今回の作戦中については箒の言い分が正しいと思う。一夏が最初に密漁船を庇い離脱、二人で戦う作戦を無駄にした。一撃離脱に失敗しても、銀の福音をさっさと倒すか逃走するかすれば問題無かったはず。密漁船もそのままだろう。

 とはいえ本人が何を考えていたかは聞けそうに無い。一夏はISの防御機能を超えた熱波にやられ大火傷、昏睡状態だと言う。箒は付添らしい。俺なら病院へ移動させることが出来るが、織斑先生から拒否されたらしい。理由は不明。

 ふと気が付いた。銀の福音の射撃だが威力は兎も角、青衣の弾幕に比べると弾数は少なく弾速も一定だ。優しく感じる。聞いた限りでは一夏も接近時ならともかく中距離以上なら耐え切れたと思う。初の高速戦闘もあると思うし、精神状態も影響はあるだろう。箒は足を完全に引っ張ったわけだ。というか、この状態の箒を何故出撃させたのか? 素人の一夏に何故、追加で負担が掛かる作戦を実行したのか。

 向こうは新たな作戦を考案していると言う。それまで全員待機らしい。作戦が決まれば学園長に報告が行く。

 さて、それから俺と青衣は攻撃参加は禁止された。何をしてたかと言うとシャワーを浴び、食事をし、自室で昼寝まで行った。俺は時々探知である。どちらにしても頭は冷やさないといけない。『花月荘』周辺は既に探知した。本当に兎はいない。向こうも転移位できそうだ。そうでなくては簡単に身を隠すことなどできない。故に怒りは兎と会うまでお預けだ。

 無人機は教師達がローテーションを組んで、IS学園の周囲に近寄らせない様にしているがそれだけだ。それに下手に倒そうとして、再度自爆されたらたまったものでは無い。元々ISはコアが限られており貴重だ。だから敵味方問わず自爆を作戦に置くこと等など考えられない。それに俺は空間転移でISの自爆から逃げられたが他の面々には無理なのだ。巻き込まれたらISのシールドがどれだけ役に立つか、下手をすれば死亡である。

 俺は更識会長相手にした試合の様に『空間を操る程度の能力』で無人機の動きを止め、遠距離攻撃で仕留めることを暗に匂わせたが学園長と更識会長から却下された。後が面倒になるからだ。無論、最終手段としては使って良いと言われたが。

 俺達が食事や睡眠を採っていた間に学園長は織斑先生に通信で聞き取りを行った。何故、兎に絶対命令を使わせなかったか聞いたらしい。はっきり言って、それで向こうの件もIS学園側の無人機の件も終わる話だ。どうも、兎はのらりくらりと躱したらしい。

 まあ、白騎士事件があったからだろうか、彼女は兎の言う通りにすればすんなり終わると錯覚したのかも知れない。箒の暴走は兎も角、一夏の作戦放棄は流石に予想外だったろうからな。

 で、聞き取りを行う事を聞いた俺達は兎宛ての伝言を織斑先生に送った。まあ、青衣の携帯からメールで音声データを送信しただけだが。

 

「青衣が失敗作なら暴走した銀の福音は不良品だよな? リコールだぞ、普通。ISアーマーを幾ら開発しようと、暴走なんて滅多に起きないんだ。正規ISコアの全品回収を求めます」

「と、緑兵が言ってますが言うだけ無駄ですよね? 責任感なんて初めから無いでしょう?

 と、失敗作認定されたISが言ってみます」

「青衣を失敗作呼ばわりしたんだ。自分で出荷した正規品にはプライドあるよな? 完璧なんだろ? ああ!?」

「言うだけ無駄ですって」

 

 織斑先生は聞き取りの時に学園長の指摘で初めて青衣からのメールに気付いたらしい。感想はなかった。

 さて、実は俺達も一度は再び出撃をした。攻撃目的ではない。青衣を見て、どんな反応をするか見ておきたかったのだ。だが、無人機の行動は他の教師を相手した時と全く同じ。元より近づくなと言われていたのであっさり引き返す。下手に近づいて無人機が自爆するのはよろしくない。

 気が付けば夕方、俺も疲れた。教師や生徒、避難している面々も草臥れているらしい。ずっとアリーナやグラウンドに居たからな。昼食も非常用の固形食で済ませ、各施設のトイレも長蛇の列だったらしい。そんな中、無人機に動きがあった。全速力でIS学園から遠ざかり、そのままステルスで姿を消したのだ。

 何かあったな。多分、銀の福音の方だ。

 管制室に青衣と共に飛ぶ。同じ事を考えたのだろう、管制室は『花月荘』に居る織斑先生に連絡を始めていた。やがて向こうが出て、学園長は状況の報告を求めた。

 

『作戦とは言えませんが、銀の福音の停止に成功しました』

「待機では無かったのですか?」

 

 作戦ではない?

 学園長を初めとする面々は怪訝な面持ちだ。何も聞いていないのだろう。

 

『専用機持ちが全員、勝手に向かい勝手に倒しました。直ぐに戻って来るでしょう』

「……」

 

 おいおい。勝手に出撃って有りか? 指揮者として本格的に役目放棄?

 織斑先生はの声は淡々としているがどこか満足げだ。全員、眉を顰めたり驚いたりしている。良い反応ではないな、これ。俺も青衣も呆れている。

 

『懲罰は与えますので、任せて頂けませんか?』

 

 任せろって、何を? 専用機と言うが要は国家から貸与されているのだ。企業もその国家から又貸しをしているに過ぎない。そのISを、兵器を出撃させたわけだろ? 所属の無い箒以外は専用機を取り上げられ、代表候補生は身分を剥奪されても仕方ない事態だろうが。何、のんびりしているんだ?

 一応、学園所属の俺と青衣は『花月荘』近くに居るだろう兎を探すことをしなかった。学園長から止められたからだ。真面目すぎたのか? 俺達は?

 

「……それは話を聞いてからです。

 ところで織斑一夏君の容態はどうですか?」

 

 学園長は明確に答えず、続きを促す。

 

『銀の福音に止めを刺したのは一夏です。全員、検査しないとわかりませんが、通信では特に問題ないようです』

 

 会話が停止した。俺達を含めた管制室の全員が困惑する。

 

「彼は重体ではないのですか!?」

『先ほどまでは』

「意味が解りません。どういう事でしょうか?」

 

 おい。どうなってる? 大火傷で動けないんじゃないのか?

 

「まさかとは思いますが虚偽報告したのですか?」

『違います』

「ならば、説明を求めます」

『白式が一夏を治療した様です。生体再生能力でしょう』

「……何でしょうか、それは?」

 

 生体再生能力? そんな話は聞いたことが無い。他の教師や生徒も同じなのか怪訝な面持ちの者や、首を傾げている者が居た。だが、織斑先生は不思議に思っていない。

 その後は学園長は何度か質問を繰り返すが、回答は同じである。白式が治したとだけだ。

 青衣は怪我の治療や体力の回復をさせることが出来る。そうでなければ俺は人間のまま修練に努めることが難しかっただろう。しかし、それは青衣が覚えた妖術でありISの機能ではない。決して生体再生などではない。

 俺はその辺は苦手なので頼りきりになっている。まあ、今は良い。別物とだけ抑えれば十分だ。

 

「……この件は別途、詳細な報告をお願いします」

『わかりました』

 

 学園長は今は問う事を諦めたのだろう、別の話に変更した。

 

「先も聞きましたが、篠ノ之博士は何処に居ますか?」

『もう近くに居ると思います。織斑達が帰還し、銀の福音の件が終わり次第話をします』

「場所を知っているのですか?」

『いいえ。ですが見届けに来ると思います。その時に説得を試みます』

 

 今更? 説得を試みるって今更? 俺達の件以外にも今回の件に絶対命令もある。遅すぎる。

 

「早急にお願いします。本来、このような大騒動にならず、直ぐに終わった話ですから。意味はわかりますね?」

『……はい』

 

 学園長も問うても無駄だと判断したのかもしれない、その後は2・3言葉を交わして通信を切った。

 管制室の空気は微妙だ。俺も含め、各々が顔を見合わせるが、全員困惑している。何せ支離滅裂な報告なのだ。その上、誰も知らない生体再生能力なんて出てきた。腑に落ちない。

 ここで更識会長と教師が数人か入って来た。此方の雰囲気に気が付いたのだろう、怪訝な顔で何があったのかを聞かれ、学園長の指示で青衣が記録として今の通信を呼び出した。それを見た皆も反応は同じだ。

 

「更識さん、布仏さん、七海君、青衣さん、ちょっと来てくれませんか?」

 

 学園長が俺達を呼び、管制室の隅に移動する。視線が集まるが学園長は管制室に居る者に待機命令を出した。

 

「あちらの様子が妙です」

 

 小声で話す学園長に俺達4人は頷いた。学園長が俺と青衣の目を見る。

 

「七海君、青衣さん、無人機の目的は理解できませんでしたが、終わったと考えて良いでしょう。何かをする気なら既にしているでしょうから。ですから、一先ず貴方達の役目も終わりです」

 

 何かするなら学園長の言う通り既に終わっているはずだ。兎が俺達が居ると言う理由で止まることは無いだろうし、俺達が抑止になるとも思っていない。銀の福音の件が終わり無人機が去った今、確かに役目は無いだろう。頷いて同意する。

 

「向こうへ行き、何が起きたのか調べる気は有りますか?」

 

 向こうとは『花月荘』だろう。俺と青衣は頷く。

 

「なら、今日は終了とします。後は好きにしてください。更識さん」

 

 学園長は俺達に告げると、更識会長の方を向く。

 

「七海君達に付いて行って下さい。IS学園としても何が起きたのか把握しておきたい」

「二人が良しとすればですが……」

 

 更識会長の目線が俺達に行き、学園長も続く。

 

「程度はお二人が決めてください。駄目だと思ったら学園へ戻して貰って構いません。口止めも可とします。ですがIS学園として更識さんを同行させて下さい」

 

 青衣の方を向くと異論は無さそうだ。頷く。

 

「布仏さんは生徒会室で待機、ずっと管制でしたから休憩を採って下さい。七海君と青衣さんは何があれは布仏さんを通じて此方に連絡を。

 私はこれから忙しくなりそうですから、なかなか連絡が付かないと思います。よろしいですか?」

「わかりました」

「では、これで貴方達は解散とします」

 

 虚さんが返答すると、学園長は管制室の中央に戻った。

 

「じゃあ」

「待って」

 

 俺は更識会長を連れて『窓』を展開している亜空間へ移動しようとする。だが、更識会長が俺を止めた。

 

「制服に着替えてからにしましょう。外に出難いわ」

 

 確かにそうだ。水着の様なISスーツの出入りはISに関係する場所だから通用する。そのまま外を歩いたら変に目立ち、通報されかねない。制服の方がマシのはずだ。

 

「それにどこかで待機する気なら、ミステリアス・レイディもあると不味いでしょう?」

 

 確かに更識会長の専用機であるミステリアス・レイディから情報を送られたらシャレにならん。普段使っている『窓』などは兎も角、部屋として使用している亜空間は困る。以前もそれで外して貰った。

 

「更衣室前まで送ります。どこを使いました?」

 

 時間も惜しい。更識会長から場所を聞くと彼女と虚さん、青衣を連れてドア前まで転移する。俺は部屋に戻る為、青衣と自室である1028室に飛び一息つきながら制服に着替える。制服は学園では毎日使うのだ。何セットか予備はある。

 

「本当、どうなっているんですかね」

「さあな……」

 

 とにかく今は着替えが終わり次第、更識会長と虚さんの待つ更衣室前に戻る事にしよう。

 

 

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「はー、凄いわね。壮観壮観」

 

 俺と青衣は普段の制服姿になった更識会長を連れ元の亜空間に戻ると、彼女の第一声がこれである。感嘆というか、ここまでやるかという呆れも含んだ響きだった。

 確かに壮観だろう。本来は椅子しか無い殺風景な部屋だが、今はメガフロートの上空や海上、或いは海中を映す『窓』が大量に溢れている。俺は更識会長が増えた分として自室から持ち込んだ椅子を適当に置くと、彼女は即座にその椅子に座った。別にいいけどさ。

 

「更衣室やお風呂が映っていたら、どうしようか考えてたけどね」

「お望みなら映しますか? ばれても生徒会長指示で映したと言いますが」

「冗談、それは止めて」

 

 更識会長が少し焦る。やろうと思えばやれてしまうのだ、俺は。

 

「花月荘に切り換えて」

「了解」

 

 俺はを管制室と虚さんの居る生徒会室を映している『窓』以外を『花月荘』や海岸などの臨海学校で使用した周辺に切り替える。昼間に調査したのだ。朝まで居た場所でもあるから簡単である。

 俺は無数の『窓』から兎の探知を始める。幾つかの窓を移動させ、増やし、探すが今は見当たらない。

 

「更識会長、監視を手伝って下さい。私だけじゃあ手、じゃないや、目が足りません。緑兵は探知で監視する余裕が無いですから」

「そうね、わかったわ」

 

 青衣の言葉に更識会長はざっくりと無数の『窓』について監視の配分を決めた。俺が探知にかまけて重要物に気が付かなければ意味が無いからな。目が多いと本当に助かる。

 やがてどこか満足げな専用機持ち達が『花月荘』にゆっくり帰還する。甲龍を展開した鈴がISスーツを纏った金髪の女性を抱えていた。気を失っている彼女は銀の福音の操縦者だろう。歳は俺達より少し上か。

 

「簪さんが居ないですね」

「専用機が無いからかしら」

 

 ハブられたか。まあ、仕方ないだろう。無断出撃に参加しなかったのを、仕方ないと言っていいか分からないが。

 待機していた教師達が操縦者を受け取り奥へ消えていく。おそらくは医療の心得がある者が検査をするのだろう。そちらは追わない。救助された以上、そこから先は俺にはどうでも良い。

 さて無断で出撃した専用機組6人には花月荘の大広間でお説教が待っていた。全員正座だ。山田先生はくどくど大声を浴びせている織斑先生の近くに居るが、他の教師は席を外していた。おそらく仕事が残っているのだろう。というか、織斑先生はのんびりして良いのだろうか。それよりも、だ。

 

「更識かいちょ~」

「何?」

 

 心理的な疲労感からか、間延びした言い方になった。

 

「これを正座と反省文で済ますなら、俺達は学園長の制止を無視してこっち来ても問題なかったんじゃないですか?」

「……」

 

 更識会長が固まり、青衣は俺の言葉に首を縦に振った。

 

「俺達に処罰を与えるような所属は無い。せいぜいIS学園ですが、目的があるから所属しているだけで、達成できたなら退学もどうでも良い。

 正直言って後悔しているんですよ、行かなかったの」

「……そうでしょうね」

 

 更識会長が軽く頭を押さえる。

 

「学園長を通じて処分は知らされると思う。抗議しておくわ。生徒会長としても、国家代表としてもね」

「まあ、どうでもいいですけど」

 

 青衣が言う。どうでも良いと言うが不満は口調で感じ取ることが出来た。

 向こうの説教は終わり食事だ。ああ、途中に会った検査とISスーツからの着替えは流石に『窓』から除外した。

 さて、食事中はいつも通り、一般生徒も混じり駄弁っている。一日閉じ込められてしまった彼女達は何が起きたのか聞かされていない様だ。尋ねるが一夏達は話さない。すこし妙に思ったのは、箒には誰も話しかけていない事だった。まあ、今は良いか。

 

「篠ノ之博士、見つかった?」

「見つかりません」

 

 更識会長に返事をする。

 兎の所在は今も不明だ。展開中のISが見つかりやすいのは実に簡単、サイズが大きいからだ。人型で馬鹿でかいやつ、それで済む。だが、普通の人型サイズだとそうはいかない。人数が多いからだ。一方で織斑先生の動向に注目するが動きは無い。

 

「結構経つけど何度も確認しているなら、おねーさん、休憩した方が良いと思うな」

「そうですね、お茶を入れますよ」

 

 更識会長が俺に言い、青衣も同意する。

 まあ、何度か探知しているが一向に見つからないのは事実だ。何処かに転移したのか、作った亜空間にでも引っ込んだのか。ああ、俺は兎を見くびってはいない。自分が出来ることは向こうも出来ると考えている。

 空間系は広範囲に作用する。利点として射程が長いが、悪く言うと大雑把なのだ。俺の様に別の亜空間から見ている事を考えるなら、なかなか気が付けるものでは無い。

 例えるなら、勝手に部屋へ開けられた除き穴だろうか。大きな部屋で針の太さ程度の穴を開けられても早々気が付かない。熟練した空間系の能力持ちか術者なら気付くだろうが今の俺には無理だ。そこまでの腕が無い。

 

「確かにそうですね」

 

 このまま無駄に、感情のまま行動しても上手く行くとは限らない。一先ず休憩を入れるとするか。探知をストップし、適当な『窓』を眺めることにした。青衣が量子化していたお茶を入れるセットから受け取った湯呑みから緑茶を飲む。

 さて、向こうの専用機組は食事を終えたらしい。そのまま一夏と箒を中心に監視を続ける。一方、織斑先生は他の教師に合流して報告を受けつつ指示を出していたが、合間を見て携帯からメールを飛ばした。

 宿泊していた教員室に戻る為に廊下を歩いていた一夏の携帯に着信が入る。角度から内容は見えないが画面を見てボタンの操作だけだ。間違いなくメール、タイミングから差出人は織斑先生だろう。更識会長が監視していた箒も同じらしい。メールが入った様だ。

 やがて一夏は教員室に到着する。もう暗いと言うのに海に行く気なのだろう、支度を始めた。

 

「一夏さん、海に行こうとしてますけど、夜の海って危なくないですか?」

「行こうとしてるの? 危険だわ」

 

 一夏を見ていた青衣の疑問に場面を見ていない更識会長が答えるが、そんな事を知らない彼は海へ繰り出した。

 

「篠ノ之さんが一夏君の部屋近くにいたわ。

 多分、其方を見たのね。部屋に戻って追う気だわ」

 

 なるほど。ところで海に向かったお二人さん、兎に対する説得は覚えているのかな? 織斑先生のメールも気になる。

 で、合流した一夏と箒がカップルの様にお見合いしていると、他の専用機持ちもやってきた。だが、簪さんはいない。まあ、一緒に居るところは余り想像できないが。

 

「状況わかっているのかしら、何故ラブコメをやっているの?」

「……さあ?」

 

 専用機組の言動を見て、更識会長は呆れた様子だ。

 

「篠ノ之博士への説得はどうなったのかしら? 私も依頼する時に同席したけど」

「一夏から説得するから待ってくれって、昨日言われましたね。今朝も一夏は兎との間に入って似た様な事を言いました」

「……やって居る様に見えるかしら?」

「見えないですね。今日はそんな余裕があったか不明ですが」

「そう」

 

 俺が答えると、青衣も頷いた。

 

「織斑先生からでしょうか、メールも気になります。此方から内容が見えませんでした。其方は?」

「ちらっとだけど『これから二人で会う』と書いてあったわ。海で遊ぶ理由にならないけど」

「居場所、知っていたんですね……」

 

 青衣の疑問に更識会長は答えると、ため息を付いた。

 

「本当、IS学園の面目は丸潰れだわ」

「あの二人、一夏と箒を説得に加えたいと提案したのは俺ですよ?」

「そうだったわね」

 

 IS学園に無人機は沸くわ、一夏と箒は兎の説得をしない(失敗?)、任務中に暴走して失敗、最後は専用機持ちの勝手な出撃で解決するわ、もう散々である。無人機は自爆と言う滅茶苦茶をやったからどこも対応できないだろうが、銀の福音は違う。IS学園の看板にも相当の傷がついただろう。一夏と箒が認識しているか不明だが、代表候補生は解るよね。俺の過大評価だったのだろうか。

 

「織斑先生が外に出ましたね。一夏さん達が居る方向ですがスーツのままです」

「ほう」

 

 青衣の報告に、俺は織斑先生を映す『窓』を大きく、数を増やす。彼女は歩いていた。但し、海ではあるが行先は岬だった。ラブコメが繰り広げられている場所が見える岬で、兎が柵に腰かけている。織斑先生が少し距離を取り、二人の間で会話が始まる。

 最初は白式についてだった。どうも一夏を治した生体再生については兎ですら予想外だったらしい。一番目の機体『白騎士』と二番目の『暮桜』、両方の能力を得た、初期化したはずの『白騎士』が『白式』だった。更に一夏が操縦できる件もやはり兎だった。だが一回こっきりで後は不明。

 俺は『いっくんはIS開発には関わっていない』という兎の言葉が気になった。兎の他に居たという事だろう。だとすれば、誰だ? 織斑先生以外では誰だ? 何となく目星がついた。

 次いでこの銀の福音の事件について、織斑先生の考察だ。基本的に俺達と見方は同じで箒のデビュー戦を狙ったもの。後は白騎士事件を臭わせる発言が飛び交っていた。

 

「織斑先生……」

 

 更識会長が歯ぎしりをした。怒りか? これは?

 此方の様子を知らない織斑先生、いいや、白騎士の操縦者である織斑千冬はにやりと笑う。彼女は幻想世界について兎に質問を開始した。

 兎は幻想郷について説明する。そこから繋がる魔界や冥界等の世界についてもだ。世界が別れる前と後、正しい認識である。但し、兎本人は足を踏み入れたことは無いらしい。話が進むにつれ織斑先生の顔に困惑が増していく。

 俺の横に居る更識会長は苦い顔だ。何せISが幻想の力を文字通り核(コア)としている事が確定したからだろう。逆を言えば、ISには幻想側の知識や技術が無いと根本までアプローチできない事を示している。

 

「……つまり、七海緑兵は幻想側に行った人間ということか?」

「うん、間違いないね。多分、先天的な能力持ちだと思う。云わば超能力者かな?」

 

 困惑。織斑先生にあるのはそれだけだ。間違いなく幻想世界を知らなかったのだろう。既に異世界と言っても良い場所を兎から明かされたのだ。混乱しているのだろう。

 

「失敗作もいるから行先は幻想郷だと思うよ。束さん忘れちゃってたからね。だから幻想郷に流れ着いて妖怪化したと思う。そういう世界だって聞いているよ」

 

 聞いている? 誰から? あそこに居る者か?

 

「七海が超能力者の人間、はまだわかるが……青衣は妖怪だと?」

「うん」

「妖怪とは、あの妖怪か?」

「他にないでしょ? ある程度他の術も使えそうだね」

 

 更に困惑を乗せ、織斑先生が俺と青衣の名前を出すが兎から返ってきた答えに絶句する。まあ、当然の反応だろう。

 

「転移も術として基本の一つ、当然束さんも使えるよ。あの操縦者はちょっと毛色が違うけど、やってることは似た様なものだから」

 

 確定。兎は転移を使える。だから近くにいなかったのだ。

 

「だからちーちゃんみたいに特別じゃないって。その辺の石と変わらないよ」

 

 織斑先生の眉がぴくっと跳ねた。

 石ね。兎よ、こうして石に監視されているのに気が付いている様子が無いお前はどうなの? というか能力持ちとして俺が行使する空間転移と、術としての単なる転移は結果は同じだが過程は別だと思う。天才なのは認めるが気が付いていないのか。

 

「でもさ、笑っちゃうよね~」

「何がだ?」

 

 兎の口調が変化する。小馬鹿にした感じだ。

 

「神を信じているくせに、人間は神を排斥したんだから」

 

 兎の笑みが深くなる。

 

「……それは神社の娘としての発言か?」

「何で? 神様なんてもうこの外の世界にはいらないのに? 存在するけど、いらないよ」

「いらない?」

「この外の世界に神さまはいらないでしょ? だから弱体化した。幻想と言った方が良いかな?」

 

 兎が柵から織斑先生の方に向くと立ち上がり、くるっとその場で一回転する。

 

「お馬鹿さんだよね~、幻想を知らずに夢中になって調べれば調べるほどドツボに嵌る。外の世界ではほどんど消失した幻想だから」

 

 笑顔を見せる兎の性格は最悪だ。

 知らない事を利用しているともいえる。例えるなら、日本語が解らない者に日本語で書いた紙を渡し貶める様なものだろう。日本語だったらまだ理解出来る者を探すか辞書等で何とかできるだろうが、幻想の知識は違う。知る者は普通は表に出ない。だから真面な方法で知識を得るのは不可能だ。

 更に、俺の予想ならISの開発に関わり、兎へ幻想を伝えた篠ノ之神社に祀られる神ですらいらないと言っているのだ。

 

「……逆に言うと、幻想世界の者ならある程度は理解できると言うことか?」

「多分」

「だからISが解析可能だったのか……」

 

 兎の表情がわずかに変化する。兎自身、幻想側の技術が未熟だと俺達に今朝言われた事を思い出したのだろうか。

 逆に織斑先生は俺達が過去に話したISについてを思い出しているのだろう。苦虫を噛み潰した表所だ。その顔もすぐに普段通りに戻る。

 

「七海達が目障りなら、それこそISを男性でも操縦できるようにするべきじゃないのか?」

「何で?」

「女尊男卑が解消されれば七海達は行方不明になると言っていた。今の話だと幻想世界に戻るのだろう? 束としても悪くないはずだ」

「やだ」

「何故だ!!」

「やなものはやだ」

 

 兎がそっぽを向く。その反応に織斑先生は大きく息を吐いた。

 

「私が現役復帰を考えているとしてもか?」

 

 兎がびっくりした表情を浮かべ、再び織斑先生の方を向いた。

 同時に俺達の横に居る更識会長も驚き、『窓』へ向けた視線が強くなる。学園長にしか話していなかったからな。

 

「あの『ちーちゃんがいちばん』で私が世界を取ったことも正当性が揺らいでいるからな。それこそISを解放し、対等なルールで取るべきだ。同然、男性も操縦して、だ」

 

 だが、兎は頬を膨らませる。

 

「あいつらがばらすからいけないんだよ!! だからやだ!!」

「私自身が知らなかったのだぞ!! それに疑問を持っているのだ!! あれは本当に私も実力だったのか!?」

 

 織斑先生の反応は正当と言える。兎は怒っている様だ。とはいえ、どこかふざけている空気は拭えないが。

 兎も俺達のせいにされてもな。

 

「それってちーちゃんの案じゃないよね?」

「……確かに思いついたのは七海だ。だが、向こうの意向抜きでも賛成だ。異論はない。

 それに七海達、いいや幻想世界の目的である女尊男卑の解消にも賛成だ。だから採用した」

 

 織斑先生は首を一度軽く振る。

 

「正直、女尊男卑には悪印象しかない。今までは単に気に入らんとだけ思っていたが、少し前に馬鹿げた場面をこの目で見てしまった。実にふざけた話だったよ。周辺でもよく聞いてみるとそんな話ばかり。しかも好き勝手要求をだし、それが正当だと思っている。

 そんな考えの根拠がISである以上、私は加担したようなものだ。何せ、勝手にISの成果を使っているのだからな」

 

 何かを言いかけていた兎が黙る。ISの作り手として、仕掛けた本人はどう感じているのだろうか。

 

「別にどうでもいいじゃん、そんなの」

 

 あっけらかんとした答えだ。少しは感じていると思った俺が愚かだった。兎は言葉通り、何も感じていないのだろう。

 他者から聞いた相手の話と、自分が直接会った相手で印象が全く違うと言うのはよくある話だ。だが、兎は聞いた限りの性格のまんまだ。感じていなくて当然だろう。

 織斑先生も二の句を告げない。数秒間、沈黙する。

 

「束、少し聞いても良いか?」

「何?」

 

 織斑先生が軽く首を傾げた。

 

「何故、お前は幻想世界に行く気が無いのだ? 幻想の技術を知り、此方の世界には何の魅力も感じていないのだろう?」

「まさか!! 束さんは外の世界が大好きです。不愉快に思うけど、外の世界を愛しています!!」

 

 おどけたように言う。言葉が薄っぺらい。織斑先生もそう感じているのか、眉間にしわが出来た。

 

「世界はおもちゃ箱と言ってなかったか?」

「うん。好きに出来るおもちゃを嫌う人っている?」

 

 兎はクスクス笑い、その場でくるりと一回転。その反応に織斑先生は開いた口が塞がらない。更識会長も似た様な反応だ。

 

「それに幻想世界は外の世界のゴミに排斥された、更にゴミが住まう世界だよ? 幻想世界もカビの生えた存在に何の価値はあるの?」

「束、お前……その幻想世界の知識でISを生み出したのだろう?」

「そう? でもちーちゃん、それはコア周辺で他は常に進化する外の知識だよ?」

 

 そう、だから厄介極まりない。ISアーマーは外の世界で急速な進化を続ける。その上で幻想世界の技術が導入されているから魔力等の此方の技術が入らないと通用しない。

 

「だから束さんからしたら全部無価値、正にゼロだよ」

 

 今さらだけどこれ、幻想郷のメンバーが聞いているんだよな。酒も入っているだろうし今頃はブチ切れてそうだ。俺達もだけどさ。

 兎は織斑先生に背を向けると霊力が高まる。転移をするつもりだろうか。

 俺と青衣は腰を上げると、更識会長が『窓』から此方を目線を移動させる。

 

「二人とも、気を付けてね」

「行ってきます」

「それでは」

「いってらっしゃい」

 

 察したのだろう、簡単なやり取りの後に俺は青衣を纏い外の世界に帰還した。場所は兎のいる場所から1キロメートルほど海上、ISのハイパーセンサーで向こうをはっきり見聞きできる。その遠距離から『空間を操る程度の能力』を発動させた。今回は本気だ。過去に織斑先生は気が付いた素振りがあったが、今度は向こうも気付かない。兎もだ。

 被っている狐の面で隠れているだろうが、俺の顔には笑みが浮かんでいる。あれだけ此方をコテンパンに言ってくれたのだ。どうしてくれようか。

 足を止めた兎の表情が変わった。転移するはずが出来ない。俺が空間自体をがっちり支配しているからだ。

 普段、俺の能力である『空間を操る程度の能力』は世界に置いて最優先される。破る方法は力技しかない。空間に干渉する術を有し、大量の魔力を注ぎ込めるなら力技で振り解けるが、兎はそれを出来るかは別だ。

 

「どうした?」

 

 兎が転移しようとしてた事に気が付かない織斑先生は少し困惑した声を掛けた。

 

「あの操縦者が来たみたいだよ」

「何!?」

 

 俺は笑った兎の足元に大きな『倉』を出現させるが、兎は転移を中断し空へ飛んだ。生身だ。やはり俺たち幻想側と同じく兎も空を飛べるのだ。

 『倉』に強い吸引力は無い。飛べば簡単に離脱できる。だから俺は『空間を操る程度の能力』を使い兎周辺の空間を弄り、簡単に逃げ出せないようにしていた。だが兎は空間に干渉する俺の能力自体に干渉した。

 こういうタイプの能力持ちか。それでも簡単に動けないのだろう、兎の動作は鈍く、緩慢だ。

 

「空間干渉!?」

 

 兎が俺の能力を見破り、表情から余裕が消えた。

 ご名答。一発でわかるとはね。

 兎は俺の能力を力付くで振り解こうと集中し、霊力が高まっていく。だからこそ、隙が出来た。

 俺は『倉』に兎を入れるべく兎の頭上に転移し、両手持ちの無名の峰を背を向けている兎に叩きつける。狙いは右肩、死にはしないだろう。だが、俺に気付いた兎が恐ろしいスピードで振り返り両手で刀を挟み込んだ。ISを纏っている相手に白刃取りである。人間技ではない、どんな反射神経と力があればこのような真似が出来るのか。だが兎の集めていた霊力は霧散し、呼吸は乱れた。

 

「七海!!」

 

 織斑先生は兎が生身で飛んでいる事に目を剥き、俺達の登場に声を上げる。

 

「依頼した説得は失敗、転移で逃げたから捕らえに来ました」

『そういうことです』

 

 俺が出現したのは織斑先生との間だ。少し離れているとはいえ、背後にいる織斑先生に俺達は一声を掛ける。今度は兎。

 

『やあ、今朝ぶりですね。言いたい放題でしたが気持ち良かったですか?』

「誰に向かって言ってるのかなぁ!! 失敗作!!」

 

 音声だけの青衣の言葉に兎は怒号を浴びせた。俺はISとしての出力を上げた。兎が呻く。

 

「手間を掛けさせるな、落ちろ」

「や~だよ!!」

 

 俺の言葉に反応した兎は言葉や表情とは裏腹に焦っている。一方で、狐の面に隠された俺の表情は読めないだろう。

 

「織斑先生、危険ですから保護します」

 

 俺は織斑先生に一方的に言葉を叩きつけ、彼女の足元にも『倉』を出現させた。

 

「何!!」

「ちーちゃん!!」

 

 兎は飛んで『倉』を回避した。だが織斑先生は違う。彼女は飛べない。足元に出現した『倉』に慌てたのだろう、黒い平面空間の淵へ手を伸ばすが届かず彼女は引き摺り込まれた。益々焦る兎が叫んだ。

 この場に生身でいるのは危険だ。織斑先生を『倉』に入れたのは安全のためだが同時に人質でもある。向こうがIS学園を人質同然にし、更に青衣の妹を捨て駒に使ったなら俺も兎の特別を利用するまで。

 安全に絶対命令を解除する為に兎を殺すことができない。しかし、向こうは俺達を気にする必要が無い。俺達は不利になる。

 だから織斑先生を『倉』に放り込んだ。これで向こうも俺を早々殺せない。織斑先生が担任で織斑一夏が在籍する1年1組へ入ることが決まった時に考えた事でもある。最悪、人質にできるのだ。使う気は欠片も無かったが、使うべき時があれば使う。

 

「ちーちゃんを……」

 

 兎は器用にも、刀を挟み込みながらもわなわなと肩を震わせる。歯を食いしばり、目は吊り上がった。

 

「ちーちゃんを返せぇぇぇ!!」

「お前を捕らえたらなぁぁぁ!!」

 

 俺と兎、互いの怒りが絶叫となり交錯する。

 目には目を、歯には歯を、外道には外道を、怒りには怒りを。こうして第二ラウンドが始まった。

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

ルールが無いなら束と同じく好き勝手、主人公も大概外道です。盗み見、背後から攻撃、今度は人質。彼らもなかなかえげつない。でも使う方からすれば、暴走しない分だけ扱いやすいと思う、多分。
素人ながら納得がいくまで時間が掛かりました。しばらく後まで流れは決まっていますが難しい。次も時間が掛かる見込みです。


何かありましたら感想へお願いします。


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