失敗した。しくじった。
篠ノ之束を、兎を甘く見過ぎていたのだ。一夏の砲撃に邪魔されはしたが、それは兎と交戦した後半だ。兎が俺達を舐め、冷静さを失い切れているうちに仕留めるべきだったのだ。
消費が激しいからと省エネ策を選んだのが間違いだったのだろう。俺の作戦ミスだ。最初から全力で速攻畳んでしまえばよかった。
霊力の消耗から休息を必要とした俺は食事と睡眠を繰り返した。だが、それでも半日程度、具体的にはバスでIS学園へ到着した時点である程度の回復はしていたのだ。その後はしくじったことに対する自己嫌悪と後悔だ。
あ~、しくじった。そんなことを考えていると青衣にどつかれる。反省は必要だが後悔はしても仕方ない。それは解っているんだがな。
さて、箒のIS適性検査は臨海学校から戻ると即行われた。結果は間違いなく適性Sだという。これで適性操作も確定である。発表していないと言うのに話を聞きつけた各国や研究機関、企業などが問い合わせを始めた事もある。学園長がIS委員会に招集を掛けた。
兎と接触した時の青衣の記録はIS学園を通しIS委員会に提出した。範囲は冒頭の幻想世界云々は全て飛ばし、織斑先生が兎を吊るし俺達との間に入ってから紅椿とのデータ取りが始まるまでだ。他人の戦闘データを勝手に出すのは良くないだろう。
そのIS委員会の結果は学園長との会談で聞く予定になっている。どうせ、学園長夫婦と織斑先生、生徒会の更識会長と虚さんで話すのだ。俺達の立ち位置は生徒会ではなく幻想郷だが。
さて、学園長を交えた話は今週末の日曜午前に設定されたから。臨海学校は水曜日までなので3日空く。この間に織斑先生では無く織斑千冬として簡単に話も出来た。とはいえ、寮長室での会話の半分以上は愚痴であった。
まあ、学園長への話も篠ノ之神社で起こったことを話せばいいかと思った。織斑先生はマドカの件で少々発言をしていたのだ。更識会長はその時には突っ込んでこなかったのだが、学園長はそうはいかないだろう。何せ轡木十蔵も付いてくる。遺伝子強化体は話すにしても『織斑』についてどの程度にするかだ。彼女が決めるから、合わせてくれ、と言うので話さない事にした。別件は頼んだが。
「緑兵」
「ん?」
今はその日曜日だ。
朝、身支度と朝食を済ませた俺達は制服姿のまま自室である1028室に居た。青衣はのほほんさんから借りた漫画を机で読み、俺はベッドで仰向けになっていた。少し時間が経つと椅子に座っている青衣が声を掛けてきたので、顔だけ動かし彼女を確認する。
「そろそろ時間です。迎えに行きますよ」
「もう時間か……」
俺は上体を起こすと軽く体を伸ばす。ごきごき、体が鳴った。
さて、行きますか。
---------------------------------------
学園長に轡木十蔵、更識会長、虚さん、最後に織斑先生を『拠点』に案内した。当然ISは持ち込みなしである。今回は奥の和室を使う。靴を脱ぎ、和室内に入ると織斑先生は呆れた様な、どこか納得したような声を出した。
「この空間も貴様が作ったのか?」
「ええ、学園に現れてから寮に入るまで過ごした場所でもあります。」
「どこかの山奥や離島に作ったわけでもないだろうな、これは」
「亜空間という奴です。この世界の何処でもない」
「……なるほど。空間、サポートするタイプか」
そのまま、皆で卓を囲む。IS学園、生徒会、俺達幻想側で固まった。俺の左隣は青衣だが、もう片方には織斑先生が座り学園長に轡木十蔵と続く。青衣の隣は虚さんで最後は更識会長だ。その更識会長の隣が轡木十蔵である。
青衣が人数分のお茶を用意し、俺は『倉』から茶菓子を取り出して分配した。以前に紫姉さん達が持ってきた団子等である。幻想郷の菓子だと伝えておく。これで準備完了だ。
「さて、始めましょうか」
先に俺達は学園長達へ他の世界を巻き込んだ裏の理由を話す。向こうは改めて謝罪を受けれたものの、想定される最悪の影響規模に頭を抱えた。
「……寧ろ助かりました。正直、最初のタイミングで知ったら頭が追いつかなかったでしょう」
苦い顔のまま、学園長が口を開く。十蔵さんも顔色は悪い。最悪の想定とはいえ悪い情報なのだ。
学園長の言い分は最もだろう。当時は幻想側の理解どころか存在すら知らないのだ。下手に話せば益々ややこしくなる。
「今の最悪の想定ですが、束に連絡が付いたので話しました」
織斑先生だ。軽く腕を組みながら苦い顔をしている。というか、最悪の想定を話したのかよ。
「『それがどうしたの?』だそうです」
盛大なため息を付いた。青衣を除き、それを聞いた面々は似た様な顔になる。向こうは裏の理由に最初から気が付いていただろう。ならば今更だ。
「青衣、束の答えは予想していたのか?」
「ええ」
織斑先生が表情を変えなかった青衣に聞き、彼女はあっさりと返す。逆に織斑先生が戸惑う。
「それは何故だ?」
「特別の3人を除いて他は等しく価値がゼロ。ゼロに何を掛けてもゼロでしょう?
多分ですが織斑先生、箒、一夏さんだけは守る気でしょうけどね」
「そうか……」
織斑先生が肩を落とす。青衣の言う通りなら兎はどうやって守る気だろうか。一夏も誘拐された事だし。
まあ、今は良いか。事態を起こさせない事の方が大事だ。
「こんな事、言いたくはないんですが」
「何だ?」
「篠ノ之束との繋がりは重要ですけど、周辺を危険に晒しても平然としている奴なんですから友人関係は切りましょうよ」
「……馬鹿を言うな」
ジト目の青衣が織斑先生に青衣が言う。織斑先生は軽く頭を振った。
俺もそんな考えを持つ友人はお断りだ。とはいえ、彼女は兎を見捨てられそうにない。
「兎に伝えてください。『完璧だったらこんな事態になっていないんですがねぇ。自作自演しか出来ないんですか?』って」
「伝えておく」
織斑先生も度重なる事件に嫌気がさしているのか、意外と素直に応じた。何か言うと思ったんだがね。
「IS委員会ですが……」
学園長の話が始まった。通信で行われるIS委員会へは青衣が抜粋した記録、箒の適性操作、第四世代機である紅椿の受領と単一機能、白式のセカンドシフト、IS学園に現れた2機の無人機の件について提出し、委員達への説明と見解を話したようだ。
青衣の話や以前の発表を信じたくなくとも、今回は数々の物的証拠もあり信じざるを得ないのだろう。ISへの絶対命令も篠ノ之束の言動から設定しているとの見方が一気に高まった。女性しか操縦できなくさせた理由と動機も話している。引き起こしたISの暴走、操作だけでも脅威なのだ。一線を越えるスペックを持つ紅椿の製作もある。更に無人機のステルスと自爆もある。
今更ながら恐怖を持ったとしても不思議はない。
「私が全ての話をした後、アメリカの委員から休憩が要求されました。
全員、男性も女性も疲れている様でしたね。休憩はあっさり了解されました」
幻想世界を抜きにしても、常識が引っくり返る話だ。IS委員会のメンバーは全員が海千山千の者達だろう。だが、例外無くダメージは大きいらしい。
「休憩後、アメリカは銀の福音について話しました。突如コントロールを失いIS学園の臨海学校へ突入、最後は織斑君の白式により停止したと。こちらも篠ノ之博士の言動もあります。絶対命令は以前に発表していますからね。それを偶然で済ます者はいないでしょう。
休憩時間中にこの件を話す旨は私と日本の委員にも連絡が来ました。本国から許可を取る為に休憩を入れたのでしょう」
アメリカが話した? ある意味恥とも言える内容だろ?
「今回の銀の福音……福音事件と名前が付きました。各国の情報機関も把握しているはずです。絶対命令を示唆することで、付けられた傷を最小限にする考えだと思います。当然、それ以外にもありますが」
学園長の見方に納得する。銀の福音が絡んだ事件は派手だ。ISの暴走によりアメリカから日本まで突っ込んだから目立つのは当然で気が付かない方がおかしい。
「青衣さんの証言と調査結果を公開した際、篠ノ之博士がISを自由に操れる事を示唆しました。その時はまだ見解を保留していた国家も少なくなかったのですが、この福音事件により危機感を持ち始めました」
「ようやく私の話を信用したと?」
「はい。先も言いましたが今回は各国が把握しています。更に第四世代機を作り出した。無人機の作成者としても有力です。何せISのコアは他の者に作れません。
特に無人機、紅椿、白式、更に箒さんは証拠として存在していますから恐怖でしょうね」
青衣の言葉を学園長は肯定した。
福音事件により認めたい、認めたくないを抜きになったわけか。事実は事実という所だろう。
「同時に篠ノ之博士の価値が急上昇しました。彼女を手中に収めれば世界中のISを、軍事力も手にする事と同じ意味になります」
「つまり兎の争奪戦?」
「はい」
青衣の言葉を学園長は再び肯定した。
それはまた、無謀な。呆れてしまう。
「七海君、確かに直接篠ノ之博士を手にするのは無理だと思われます」
「顔に出てましたか?」
「はい」
そうですか。
「この場合、貴方ならどうしますか?」
「俺なら……なるほど、箒ですか。一夏も使えますね」
「その通りです」
搦め手だ。本人が無理でも周囲を抑えてしまえば良い。
織斑先生が顔を顰めた。不機嫌になるのもわからなくもない。更識会長と虚さんの目は少し細められ、轡木十蔵も俺を見ている。
「つまり、兎を手中に収めたい国や企業からのアプローチが強くなっていると?」
「ええ。ですが一夏君は日本国籍で白式も倉持技研所属です。専用機持ちの時点で正式ではありませんが、将来の日本代表候補生としても目を付けている。
その分、箒さんに集中しています。唯でさえ紅椿がありますから」
「なるほど」
益々、織斑先生の表情が歪む。気に入らないのだろう。とはいえ箒の件は予想通りでもある。仕方ない。
「日本政府はIS発表前の箒さんについて調査する様です。慎重にするべきだと思いますが、男性がISを起動できなくさせた理由の可能性が高いですからね」
「そうですか」
確かに男を操縦できなくさせた理由を纏めると『妹である箒を虐めた男は嫌い。でも一夏は例外』だからな。虐めがあったかは俺は知らない。だが、兎の過剰さをみるに、単に箒の意見に反対しただけで虐めとみてもおかしくはないだろう。それと客観的に見て、木刀や竹刀を持ち歩き気に入らないと振り回す箒は危険人物だ。距離をとられても不思議はない。
「今更な上に、調査しても実入りがあると思えないのですが」
「確かにそうですが、やらないと気が済まないのでしょう」
青衣がぼやくと学園長が応じた。
「世間一般に箒や紅椿の件が出回るのは避けられないですよね」
「ええ、今は各国が情報管制を敷いていますが明日には解禁されます。とはいえニュース系のブログでは既に出回っている様です。同時に日本代表候補生の専用機を頓挫させ、白式を優先させた倉持技研へのバッシングもです」
ふむ。ここ数日、ニュースを確認しても出てこなかった。インターネットのニュースも確認するが検索サイトでありブログは見ていない。倉持技研は……自業自得だろう。多分、白式に兎の手が入っている事は極秘にしていただろうからな。
ここで織斑先生が俺達の方を向く。
「更識……簪を除いた専用機持ちの処遇や箒については知っているだろう? お前達への反応もだ」
「知ってますね」
---------------------------------------
織斑先生は俺と兎の戦闘を目撃した専用機持ち達に幻想世界について簡単な話と口止めをしたらしい。だからだろうか、多少の距離感が生まれていた。やっぱりラウラの警戒がうっとおしいがそれ程度だ。シャルロットだけはニコニコして間に入っていたのだが、彼女は何を考えているのだろうか。確かにデュノア社の件や母親の墓参りの件があるが、俺からすればそこまでの事をした訳では無い。
まあ、元々馴れ合いをするために来たわけではないのだ。専用機に戦闘記録が残る事を懸念していたが、兎が抹消したらしい。それも同じく織斑先生経由で聞いた。時々、専用機組が何やら考えている理由もこれだろう。その専用機持ちだが無断出撃の件で全員10日間の自粛となった。要は授業と緊急時以外はISの起動禁止らしい。表向きの処罰は無いが、学園長が専用機の所属が無い箒を除いた全員を纏めて面談した。
『流石にお咎め無し同然は甘すぎます。これでも寛大だと思っているのですが、本国に無断出撃を報告されるのと当分の自粛、どちらが良いですか?』
半分は脅迫だろう。箒は一夏の自粛に付き合っているらしい。箒もISを使わないからって罰則が減るわけではないんだがね。当分は剣道部に戻るだろう。
だが、今度は箒は紅椿を手に入れておきながら何もしないと反発が強まっている。他の専用機持ちも動かしていないが箒だけだ。
唯でさえ専用機をコネで手に入れたことに対し、生徒どころか教師からも反発はあった。面と向かって来ないのは適性操作が関係している。つまり姉である兎の不評を買い、逆に自分の適性を落とされたくないのだ。兎は任意で適性Sに変えることが出来る以上、逆に適性を無くすことも可能だろう。結果、クラスどころかIS学園でも浮いてしまっている。逆に専用機持ちの方に近寄っているが、他の者からすればそれも面白くないのだろう。更に溝は深まり最低限のコミュニケーションしかとられていない。寧ろ関わり合いになりたくないと、避けられている。
箒の立場を冷静に考えれば紅椿は兎も角、護身用のISを持っていても不思議ではないのだが、本人が他の者に対して気を払っていないことも問題だ。生徒会としては頭が痛いのだが、これは箒自身の問題でもあるのに箒の認識が無いのだ。
その箒だが、個別に学園長に呼ばれ相当聞かれたらしい。これは日本政府からの依頼でもあった。そりゃそうだろう。何せ、兎の連絡先を知っていると聞いていないのだから。紅椿や適性操作、IS学園内の反応もあるのだが、当の箒は嫌そうな顔をしただけで何も答えず、最後は学園長も根負けし呆れ果てただけ、らしい。これも同席していた織斑先生経由で聞いた。
要は、面談した夜に寮長室に酒に呼ばれたのだ。そう言えば、青衣の記録で俺達が兎の女性関係を疑った。少なくとも織斑先生はノーマルらしい。本人が力説をしていた。マドカを見ているからか、何かダブった。
というか、織斑先生、やっぱり口が軽くないですか? ストレスが溜まっているから酒を飲んで愚痴りたいのは理解できますけどね。IS学園の事だから、兎以外の友人に話すわけにもいかず、背景を理解していない山田先生や一夏達には愚痴れない。それは解るんだけど俺も生徒なのだ。因みに翌朝、飲み過ぎた彼女に俺達は『倉』に保管していた粥を差し入れた。
次は俺達への反応だ。臨海学校から戻った当日、空気はおかしかったがそれは理解できる。だが、翌日には妙な事に気が付いたのだ。思ったよりもIS学園内で俺達への風当たりは小さく、普段とあまり変わらなくなった。特に臨海学校に居た同じ一年生と教師達は兎とのやり取りに巻き込まれ、幻想世界についても聞いている。だが、俺達に聞いてくるものは少なく反発も少なかったのだ。
それなりに親しいのほほんさん曰く、
『理解不能は何時もの事』
とマイペースにごろごろしていた。鷹月さんは、
『七海君の場合、訳が解らないのが普通よね。寧ろ解ったら七海君じゃないわ』
うんうん頷いていた。夜竹さんも頷いている。余りの言い分に彼女達に反論したくとも出来なかった。否定できない。そんな俺を見て相川さんと谷本さんは、
『じゃあ話す? 話す?』『さあ、全てを吐きたまえ。今ならカツ丼を用意しよう』
非情に楽しげな反応で、話さない事も含めて俺の行動は読まれていた。他の者も似た様なものである。
とはいえ、クラスメイト全員と親しいわけもなく、他クラスや他の学年もある。流石におかしいと思ったが理由は直ぐに判明した。理由は皆の前で織斑先生が兎に話したISに対する見解である。食堂や教室、寮の廊下、職員室等で話をしているのだ。自然と会話が耳に入った。
『束、私も青衣を見てしまった今、女性しか乗れない事はISの欠陥だと思っているぞ。それも重大で致命的な』
『本気でやれば解決できるだろう? 直せることが出来る欠陥じゃないのか?』
『じゃあ、何故直さん!? ワザとなのか!?』
更に俺達に向けてこう言った。
『説得は行う。こんな事態も御免だ。IS学園まで行けるな?』
俺と青衣が女尊男卑の解消に乗り出している以上、兎に対する説得も容易に想像がつくだろう。更に男の俺とイレギュラーの青衣にIS学園を託した。
改めて、織斑千冬は最後の棄権を除けば公式戦無敗の初代ブリュンヒルデだ。その棄権した決勝も下馬評では圧倒的に有利であった。ISが世界に浸透した今日では超が付く世界的な有名人で美貌もありファンも多く、更にISの制作者である篠ノ之束の唯一の友人である。ISに依存した女性至上主義者も例外無く彼女に憧れを抱き、信奉している者も大勢いる。そんな彼女が自分達とは真逆の見解を出したのだ。その上に制作者の兎による紅椿、ワザと男を除外したとしか思えない言動に箒の適性操作、それらを目の前で見てしまった。正に衝撃と言っても良いだろう。意味不明で理解不能な幻想世界の内容よりも、身近なISが優先されるのはある意味で当然だ。俺達は助かったとも言えるが。
正式に兎との会話は外部に漏らさない様にIS学園から通達もあった為に聞けないと言うのもあるだろう。俺達と兎のやり取りでビビった可能性も有るが。
---------------------------------------
「箒以外は直に落ち着くだろう」
「その箒さんが一番厄介なんですがね……」
織斑先生の言葉に学園長が嘆息した。更識会長や虚さんも疲れた様な顔になる。まあ、生徒会としても頭が痛い問題だからな。
「話を変えましょうか」
「そうですね。箒さんの件は打てる分だけ手は打ちました」
轡木十蔵だ。学園長が同意する。
「世界中に散らばるISですが、管理が厳しくなる程度で余り変わらないと思って下さい。女尊男卑も含めて各国の対応待ちです」
おや、多少は扱いに制限が掛かると思ったのだがね。
「先日話したばかりです。国家とはそれだけ大きな組織ですから、簡単に動きは変えられませんよ。女尊男卑に切り替わるまでも1年以上掛かりました」
「兎の言動で多少なり女尊男卑の根拠が揺らいだと思いますが」
「……確かに根拠は揺さぶられました」
あれだけ背景を喋ってくれたのだ。俺が聞くと、やはり根本は揺さぶれたと言う。
「ですが、簡単に特権は手放さない、という事です。それに女性しか動かせないと言う制限は付いたままですからね。
男性の議員や官僚も多いですが、今、その特権を廃止して有力なIS操縦者や開発者が他国に流れるのは阻止したいのでしょう」
「……特権を与えるのが悪いんじゃなくて、その内容と女性全員に与えているのが不味い点だと思いますが」
「それも人材流出が怖いんでしょうね」
俺の考えが甘かったな。そういう考えも有るのだ。
「やっぱり絶対命令の解除は必須ですね。変えるなら一斉にです」
俺が少し考えていると、青衣が頬を膨らませながら言った。兎が頬を膨らませた顔を見たせいか、やっぱり似ていた。
「それにしても……」
「どうしたの?」
呟くと更識会長が反応する。他の者も此方を向いた。
「ISは女しか操縦できないと思ったから、法の下の平等や男女平等を壊してまで女尊男卑を作った。ところが特権だけを濫用して何も生み出さない馬鹿を大量生産、莫大な国家予算と人材を注いで作ったISは自分達のコントロールを離れて自分達を襲う可能性が浮上。止めにそのISの上をいく第四世代機の白式と紅椿の出現。
馬鹿みたいですな」
俺が率直に思ったことを言うと、乾いた笑いが返ってきた。
「それ、外で言わないでね」
「わかってますよ」
「お願いよ」
少し笑った後、更識会長が俺に念を押す。
「青衣ちゃんもね」
「えっ?」
「言わないでね」
「……はーい」
青衣は場合によっては話す気だったのだろう。更識会長はそれを読み、青衣にも念押しした。挙動不審になる青衣に更に念押しする。
青衣から返答が返ってくると、更識会長は一度頷き、真剣な面持ちとなった。
「話を少し変えるわ。七海君達、先週、元日本の政府関係者に襲われているでしょう?」
「ええ」
ショッピングモールの襲撃だろう。襲撃者には『元』が付いたか。そういえば今日で丸一週間になるな。この襲撃にマドカとの出会い、兎の出現、紅椿、福音事件。本当、濃い一週間だったな。
「彼女らの背景が良くわからないの」
「背景?」
「女性至上主義者だけど事件の計画を立てるまで面識が無いわ。事情聴取と捜査によると妙なメールと連絡があって初めて会ったらしいの。
でも全ての証拠は消えていた。だからこそ、噂以上の姿を見せない所が浮上したわ」
この卓を囲む面々が真剣な表情になる。
「世界中でISの強奪を繰り返している組織、けれどもISを奪われるなんて国家の威信に傷が付く。だからどこの国も表に出せずに裏でしか動けない。だから簡単に情報が出回らず、調査は直ぐに行き詰まる。
当然、外れの可能性も高いけどね。名前だけでも憶えておい」
「亡国機業(ファントム・タスク)」
更識会長の言葉を遮ると、青衣と轡木十蔵以外は顔色を変えた。織斑先生は眉を上げる。
「亡国機業でしょう? ショッピングモールの襲撃は捨て駒だったらしいです。目的は俺が試合以外でどんな行動をするかを見たかったから。
ISの強奪を繰り返している以上、IS学園も狙われると思いますがどうですか?」
面食らっていた更識会長が再起動をする。
「……何故、知っているの?」
「返答次第」
更識会長の表情が戻り、他の面々も徐々に真剣さを取り戻す。例外は轡木十蔵、飄々としたままだ。
硬い顔をする更識会長は答えない。互いの目と目が合ったまま何秒か経つ。
「標的に入ってもおかしくはないですね。IS学園には訓練機はおろか専用機まで多数あります。それだけ警備が充実した場所でもありますが旨味もあるでしょう。操縦者も学生に教師ですから各組織に居るプロの軍人より扱いやすいと思います」
更識会長ではなく学園長が口を開いた。IS学園には世界で開発が進む第三世代機が複数、第四世代機の白式や紅椿まで存在する。止めにイレギュラーの青衣だ。現に青衣は狙われた。
「なるほど。緑兵」
「ああ」
青衣が言う。俺は更識会長から目線を外し、自分の横に『倉』を開くと中から用意しておいた資料を人数分取り出して、それぞれの前に置いた。
「どうぞ」
各人が無言のまま1ページ目を開き、読み始めた瞬間に顔色が変わった。そこから俺と青衣以外は無言で読み込みに突入する。
皆が読んでいる間に俺は『倉』からノートパソコンを取りだし電源を付ける。バッテリーは最大まで充電済みだ。これも使う。
しばらくは紙をめくる音と、ノートパソコンの起動音だけが部屋に響いだ。
「……情報の出所は!?」
資料から顔を上げ、初めて表情を崩した轡木十蔵が声を荒げる。表の顔である学園長では抑え切れない情報なのだ。だから彼が出て来る。事実、冷静な学園長ですら顔を強張らせていた。
---------------------------------------
金曜日の夜、『拠点』へ行くと分厚い封筒がテーブルの上に置いてあった。更に封筒の上には紙が一枚。
『使い方はお前達に任せる。
亡国機業を維持させるも潰すも好きにしろ。
織斑マドカ』
藍姉さんが言ったマドカから贈り物だろう。
字は丸く可愛らしいものだったが、封筒の中身をまるで違った。中身を読んで唖然となる。多分、八雲が所持している映像再生用のノートパソコンを用いたのだろう、きっちり書かれた資料だ。無論、文字は印刷されたもの。パソコンと同時に家庭用とはいえ多機能プリンターも購入していたからな。役に立ったみたいだ。
亡国機業の幹部、構成員、世界各国にいる情報提供者、場所、装備、資金源、所有するダミー企業等々、内部でなくては知り得ない情報の山だ。それが解り易く整理されている。
特に幹部や構成員の情報だ。おそらくサイレント・ゼフィルスの記録をコピーしたのだろう。複数の写真に加え、付属したDVDには短いながらの動画がある。更に本名にコードネーム、似顔絵や身体的特徴、普段使用する言語、マドカの知る情報が書いてあった。しばらく会っていない者には何ヶ月前、何年前等の注釈まで入っている。唯一、手書きである似顔絵は咲夜が書いたらしい。署名があった。あいつ、絵も上手いのか。
日本においても俺達の襲撃には多数の人員が動いている。確かにマドカは色々知っているだろう。唯の戦闘員だからって大した情報は与えられていないと思った俺が甘かった。亡国機業には例のナノマシンが有るのだ。だからある程度の情報を与えられていても不思議はなかった。
俺達は特に情報が細かく動画も写真もある二人に注目した。『コードネーム:オータム、巻紙礼子』だ。強奪されたアメリカの第2世代型アラクネを専用機とする彼女の備考欄に『第二回モンドグロッソで行われた織斑一夏誘拐実行犯の1人』とあった。マドカと同じチームだったこの女が犯人の一人であった。もう一人、此方は幹部でマドカの上司である女だ。『本名:スコール・ミューゼル』『コードネーム:なし(本名と同じ)』『記録上は10年以上前に死亡』『元アメリカ軍所属』『亡国機業により、身体の一部を機械に改造済み』『実年齢は外見より高い』『贅沢志向で反りが合わない』とあった。ゴールデン・ドーンという専用機も持ってるらしい。ちょっと愚痴も混じっている。
幹部の詳細な情報だ。これだけあれば身元の特定も可能だろう。
マドカは本気である。本気で亡国機業を潰しても良いと考えていた。その表れである。
織斑千冬との調整もやり直しになった。何せ『織斑』の情報や一夏の誘拐事件も書かれていたから、このまま提供するのは不味い。
つーか、遺伝子強化体ってばたばた死んでいたのね。殆ど年齢が一桁で亡くなっている。ならば織斑の3人や、ドイツの遺伝子強化体であるラウラ達は問題なさそうだ。寿命は知らんが。
ISや他の兵器の情報も重要だ。ISは各地で強奪している為、マドカが知っているだけでもコアは2桁になるらしい。ドイツのISコアは10個だったよな。それを超えている。確かにサイレント・ゼフィルス、アラクネ、ゴールデン・ドーンの3機に加えて訓練として使用していた機体もあるだろう。他の実行部隊も存在するらしい。
何故、ISを奪っておきながら表に出てこないのか。それは各国に居る協力者や構成員、更に国家の威信が有るらしい。確かに貴重なISを奪われたと正直にいう訳がないだろう。価値の下がった従来の兵器も横流しされているらしい。だからIS以外の武器も潤沢だ。
余りの情報に少し、途方に暮れた。だが、今は最高のプレゼントだと思う。
---------------------------------------
全員に見せたのはマドカから受け取った情報のコピーだった。とはいえこの情報からは『織斑』とマドカの情報は抜いてある。マドカの資料作成術だろうか、紙は項目ごとになっていたので纏めて抜けば良いだけだ。ページや項番も作って無いから気が付かれない。
ひょっとしたら藍姉さん辺りが情報を纏めるのに協力したのかもしれないな。どちらにしても有り難い。
最近のコピー機は内部に情報を残すらしい。だから昨日の土曜日の放課後にメガフロート内の家電量販店へ行き家庭用の多機能プリンターを購入した。此方には用意していなかったからな。費用は掛かったが仕方ない。経費をケチって情報流出などシャレにならない。
俺は轡木十蔵の声には答えず、動画を皆に見える様に再生させる。スコール・ミューゼルにオータム、幾人かの構成員の会話だ。互いにコードネーム呼びなので『エム』だ。『織斑マドカ』の名前は無い。此方も直ぐに終わった。
「襲撃してきた亡国機業の戦闘員から教えて貰いました。もう、元が付くと思いますが」
茫然となっている全員に向けて言う。
「説明は要りますか?」
轡木十蔵が強く頷くと、俺はマドカの身元を抜きに何があったのかを話す。ショッピングモールで起きた襲撃や背景、後に起きたマドカの襲撃も。最後に『倉』からマドカの体内にあったナノマシン入りの瓶と抑制剤入りの瓶を取り出した。流石に俺と青衣が持っている全てを提供することは無いが、半分は渡す気だったので事前に分けていたのだ。その2瓶を卓の中央に置く。
「……青衣さんを狙った少女を助け、面倒まで見るわけですか?」
「ナノマシンから解放されたら青衣を狙う必要も無い。亡国機業で生まれ育って戸籍も何も無いですが幻想郷なら問題ありません」
轡木十蔵は両手を組み、2つの瓶をじっと真剣な眼差しで見つめた。彼が無言の間に学園長達が資料を軽く持ち上げ、俺達に振る。
「この情報はその少女から聞き出したのですか?」
「そうです。彼女の背景は聞きました。でも、この資料は自分から作ったらしいです。先日、受け取った時は驚きました。亡国機業は再び襲撃するから好きに使えと。
はっきり言って、面倒を見るよりも貰った情報の方が遥かに大きいですね」
「そうでしょう。各地でISの強奪を繰り返している組織、未だ謎な面が強いです。この情報が正しいならかなり巨大ですね」
資料を見ると影響や情報提供者は世界中には散っている。無論、EU諸国にアメリカ、日本にも食い込んでいる。織斑千冬と一夏の戸籍は亡国機業が作ったのだ。だから日本にもある程度の影響力を持つのは当然と言えるだろう。
「ISの強奪も内部からの情報提供が大きい様ですな」
轡木十蔵が何枚か紙を捲りながら此方に問いかける。
「政権幹部、秘書、官僚、軍の幹部クラスが居れば情報など簡単に手に入るでしょう」
だから何処に何があるか把握できるのだ。
各国に巣食う売国奴からしても情報を売るだけで大金が手に入る。それでなくともISを気に入らない者も多い。唯でさえISは金食い虫だ。開発競争により開発費は嵩み人件費や維持費もかかる。企業に払う補助金もだ。ISが無くなればその費用も無くなるが、ISは条約により譲渡も売り払う事も出来ない。貸し出すことは可能だろうが、1つを国外に出すのにどれだけの説明を必要とするか。止めに操縦者の異常と言えるまでのプライドの高さだ。扱い難い。排除計画を立てるには十分過ぎた。
「相手に気が付かれない様に裏付け調査をお願いできますか。特に実行部隊の幹部であるスコール・ミューゼル、彼女と繋がりの深い企業や人物もです。運が良ければ芋づる式になると思いますよ」
「やってみましょう。更識さん?」
「更識家としても探りを入れて見ます」
轡木十蔵が更識会長に振ると、彼女も硬い顔で頷いた。次いで彼は俺を見る。
「一応言っておきますが、身柄を引き渡す気は無いですよ? あいつのISもです」
轡木十蔵と目線が合ったまま時間が過ぎる。
「……実はその少女と面識があります。もう何年も前ですが」
織斑先生だ。轡木十蔵もこれには驚いたらしい。俺から視線を外し、彼女の方を向く。
「私はブリュンヒルデです。二人から記録を見せて貰った時は驚きました」
「……そうですか」
一応、ISはスポーツという括りだ。故に各世界地で試合以外にも振興に向けた行事が行われる。その行事にはISの適性を持った少女たちも来場し、時には直接話す事もある。
轡木十蔵も学園長も、更識会長も虚さんも頭が回る。だから勝手に情報を連結させてしまうのだ。亡国機業は世界各国に協力者が居る。だからその会場へ潜り込ませるのも容易だろうと。
織斑先生と事前に打ち合わせした時に演技を頼んでおいた。更識会長は篠ノ之神社のやりとりを見ているから違和感を持つだろうが、誤魔化すには十分だろう。
「最後に見た彼女はどんな顔をしていました?」
今度は学園長が俺達に聞く。最後に見たマドカの顔?
「笑ってた……よな?」
「ええ、良い顔をしてました」
その時を思い出しながら隣の青衣に振ると同意した。満足気であるが、少し様子がおかしい。
「でも笑い上戸じゃないかと思うんだ。笑いっぱなし」
「絶っ対!! 違います!!」
「そうか?」
青衣は俺を向き強い口調で言う。答えると、彼女は呆れたかの様に僅かに眉を潜ませた。
「そうです!! 本人も否定しました。最初と最後では雰囲気も違ったでしょう!?」
「まあ、そうだな……」
確かに敵意有りの状態から自然と笑うまで変化した。あれは解放感か? つーか、青衣は何故ここまで必死なんだ?
「なるほど、わかりました。その少女の身柄も要求しません。何かあれば情報提供者として擁護しましょう。
エムさんでしたか? よろしくお伝えください」
学園長は機嫌良く頷く。にこやかな学園長に対し、隣の轡木十蔵は薄く笑った。人の悪い、片側の口角だけが吊り上った笑いだ。何を思いついたのだろうか。
「ちょっとした悪戯を思い付きました。エムさんが許可を出したらですが」
轡木十蔵が悪戯だと? 実は遊び心のある愉快な性格なのか?
「亡国機業に対する作戦の頭文字はMで統一しませんか? 日本語ならマ行です。
向こうが気が付いたら歯ぎしりするでしょう。標的も襲撃された七海君に向きます。ですが君は元々標的でしょう? 隠れている者に出て来てもらう訳です」
なるほど、それは面白い。俺の口元にも笑みが浮かぶ。どうせ狙いは青衣も含む。マドカも俺達を襲撃し消息不明になった。ならば出所は簡単に想像つくだろう。だが、ナノマシンが有るので本来なら何も情報を出すことが出来ない。しかし俺達は情報を得ている。相当のプレッシャーがかかる。
ひょっとしたら別のナノマシン処理された者が裏切るかもしれない。ならば『倉』にでも一時的に入れておけば済む。
「幻想郷への報告は都度入れてますから、その時に聞いてみますね。何れ返答があるでしょう」
「ええ、お願いします」
向こうも同じことを思ったのだろう。にやりと笑った。
「揃って悪い顔をしている所、申し訳ないのですが」
虚さんだ。渡した資料を指している。
「オータムの情報に『第二回モンドグロッソで行われた織斑一夏誘拐実行犯の1人』と有りますが、どういう事でしょうか?」
ああ、そういう事か。更識会長も頷いている。
「……私から話そう」
眉間にしわの寄せた織斑先生が口を開く。第二回モンドグロッソの決勝戦棄権の理由、ドイツ軍の教官をした背景、最後に現役復帰を兎へ伝え説得を試みている事もだ。当然、俺達が絡んでいる事に気が付いているだろう。時々、二人は俺と青衣に視線を向けた。
「ドイツ軍と亡国機業の繋がりは確定ですか……」
「ええ。この資料の通りです」
青衣を除いて全員、神妙な面持ちである。まあ、そうだろうな。
その後は無言。
「専用機持ちにはどうします? もうすぐ夏休みですから出歩きますよ」
青衣が学園長に向けて言う。確かにIS学園の外なら狙われやすい。俺が狙われたタイミングもそうだった。
「夏休み前には要注意人物としてスコール・ミューゼルとオータムの顔写真を見せましょう」
「わかりました」
少し考えた後に学園長が言う。青衣が納得した様だ。
「これ位でしょうか……」
「少しいいですか?」
「織斑先生、どうかしましたか?」
学園長が締めようとしたところ、織斑先生が止めたのだ。彼女が俺達を向いている。
「魔界と言ったがどの様な場所なのだ? 正直、イメージが付かん。この際だから聞いておきたい」
ああ、そういう事か。
「出しますよ~」
青衣に話を振る前に彼女は真っ白な記録を出現させ、固まった。俺の方を向く。
「……魔界って、いつ行きましたっけ?」
いつごろだっけ?
「神綺様から呼ばれた時だから……2年前、確か夏だ」
大体の目安を言う。記録は有っても何時、何が起きたか再生するまでわからない。記憶やメモ頼りになるのだ。だから覚えていないとこうなる。
「パンデモニウム(万魔殿)ですか、懐かしいですね」
幻想郷にある博麗神社、その裏山にある洞窟を進むとやがて門に出る。その向こうは魔界に繋がっているのだ。因みに魔界側はサラという者が門番をしている。幻想郷側は素通りだ。基本的に来るもの拒まず。それが幻想郷である。だから魔界の者が観光に訪れる事もある。
「とはいえ正確には解らんな。古い日記でも見てきたらどうだ?」
「そうですね。織斑先生、ちょっと待ってて下さい」
「あ、ああ……」
青衣の本体を返すと彼女は記録を消し、後ろの襖に入って行った。自分の部屋に行くのだろう。
「お前達を呼び出した神綺という者、どんな人物なのだ?」
「魔界の唯一神」
「……は?」
「魔界神です。早い話が魔界のトップだと思ってもらえれば」
織斑先生が少し戸惑った声に返すと、全員が完全に凍り付いた。
「……なあ、七海」
「はい?」
何秒か後、織斑先生は再起動をするが少し様子がおかしい。戸惑っているのか?
「お前ら、実はとんでもない仕事をしていないか?」
「俺達は下っ端ですよ。単に向こうが実行者を見たいから呼ばれただけです」
「だが……なぁ?」
「とんでもないのは姉達ですって」
「……九尾の狐ですら従者だったな」
「「「九尾の狐!!」」」
織斑先生の呟きに反応したのは学園長に轡木十蔵、虚さんだった。驚いている。
「もう一人、藍姉さんは九尾の狐で紫姉さんの従者です。それが何か?」
会っていない3人は固まっている。
「七海君」
「はい?」
更識会長だ。紫姉さんと藍姉さん、両方との面識がある彼女は固まっていない。
「今更だけど紫さんって貴方が完敗した藍さん……九尾の狐よりも強いわけ?」
「強いですよ。でも、どちらかと言えば紫姉さんは頭脳派ですね」
彼女は大きな、大きなため息を付いた。何だ? この反応は。
「七海君、貴方は感覚が麻痺しているわ。改めて、とんでもない世界よ……」
更識会長に同意する様に全員が頷いた。
麻痺、ねえ。確かに俺からすれば身内だからな。紫姉さんの同格以上も居る。というか、更識会長と織斑先生は顔を合わせたろうが。
まあ、いいや。黙っておこう。これ以上ややこしくなるのは御免だ。
「お待たせしました!!」
少し経った頃、ノートを数冊持った青衣が襖を開け、元気良く入ってくる。
「あれ? 何かありましたか?」
空気が淀んだ此方に気が付くと、キョトンとした顔で見渡している。
「何でもないわ……」
「はあ」
更識会長に青衣はあいまいな返事を返すと、俺の隣に座ると記録を出し直す。
「では、再生させますよ」
魔界の協力を取り付ける為に行った、魔界の門からパンデモニウムまでの荒っぽい大歓迎の抜粋が再生された。
---------------------------------------
妙に煤けた学園長達がIS学園に戻り、『拠点』には俺と青衣だけになる。
「さて、どうしようか」
「どうしましょうかねぇ」
ISアーマーとしての青衣の事だ。兎によって装甲は幾つも分解されていたが過去に取り出しておいた予備パーツで埋めた。自己修復頼りになるまで深刻なダメージでは無かったので助かった。刀である無名が駄目になったのは痛いが、まだ他の武器が有るから何とかなる。IS学園からも打鉄のブレードの貸し出しを取り付けた。当面は其方も使うことが出来る。
問題は兎の『全てを変化させる程度の能力』だ。このままだと一撃で穴が開き、最後は解体されかねない。
「案がある」
「聞きましょうか」
「白騎士だ。全身装甲に近くする。でもそれだけでは駄目だ」
「はあ」
細かな話を青衣に伝えていく。全身装甲であろうと、兎の一撃は防げない。元々、ISとしての青衣は装甲が多い。薄目だが、胸部など装甲が多めであるラファール・リヴァイヴよりも遥かに多いのだ。
「鱗?」
「イメージだ。浮遊している小さなパーツが集まって一つの装甲になれば、兎の攻撃を喰らっても鱗が消えるだけで、先には浸食しないだろう?」
少しの間、青衣は考える。
「小さな装甲が独立して集まり、外見は全身装甲に近くする。というか追加装甲?」
「それでもいいな。白式、銀の福音、紅椿、データも使えるだろう?」
「使えます。少し重くなりそうですから、スラスターも大きくしましょう。それとも追加しましょうか」
「装甲の方は、今のモノに切れ目を入れて、浮かす手もあるぞ」
「それも面白いですね」
青衣がにやりと笑う。急ぎではないのだ。だが、早い方が良い。
話は続く。気が付いたら数時間経過していたのだが、それは別の話だ。
後日、幻想郷から連絡があった。マドカは『是非、エムを使ってくれ』と言っていたそうだ。上機嫌だったらしい。
さて、どうなることやら。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
今度は青衣の強化フラグが立ちました。タイトルは束から箒へのプレゼントと、マドカからの緑兵・青衣へのプレゼントから。
次回は夏休み前後の話か番外を考えています。重い話は今回行ったので、少し軽めの雰囲気にしたいですね。
それにしても『20_千客万来の休日』の投稿日が2月11日で今は9月10日。作中は1週間でも投稿は7ヶ月経過ですか。
本当、ちまちま書いていても全然進みません。書き溜めが残っていても時間が掛かりました。でも、今回で切れました。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
誤字脱字修正