さて、IS学園は夏休みだが、学園内には生徒が大勢残っていた。授業が無いので時間が有るだけでなく訓練機やアリーナの予約に余裕が出来る為である。俺の様に帰宅する者や帰国する留学生もいるが丸々夏休みを使う気にはなれないのだろう、戻って来るのだ。意欲のある姿勢の上に才能もある。直ぐにそれを実感する
予定通りにIS学園を訪れた俺と青衣はクラスメイトや同学年の生徒相手数人に訓練を行った。事前に第4アリーナで朝8時からの枠を抑えており当然ながらISを、俺の場合は青衣を使うのだが……
「ぜ、全身装甲!?」
「いいえ、其処まで行きませんが……でも遥かに装甲が増えてませんか?」
ISとしての青衣を展開した瞬間に、訓練に参加している夜竹さんと鏡さんが声を上げた。他の者も驚いている。
『うーん、世代に逆行している事は自覚していますけどねぇ』
青衣のぼやきだ。
第一世代から最新の第四世代まで並べると装甲は順々に少なくなり最後は手足と頭部だけになる。だが、青衣は違う。装甲が体を蔽う面積は増えていた。新たなISとしての青衣の装甲には今までにない切り込みが入り、胸部や首の周辺に幾重にも装甲が追加され、メインスラスターは改造によって一回り大きくなっている。この為にシルエットは大幅に変わっていた。未だ作成中で完成系の見えない兎専用追加装甲が加われば更に変化するだろう。
慣らしは幻想郷と亜空間で済ませたが、外の世界で出すのは初めてだ。変化した青衣の外見に少し驚いていたが訓練を開始すると表情は一変する。最初の2人である鷹月の打鉄と2組のティナ・ハミルトンのラファール・リヴァイヴが弾幕を抜ける。レーザーを潜り、赤い誘導弾はギリギリで躱し、周囲を漂う弾にも注意を払い鷹月が、数秒遅れてハミルトンが空を動き回る俺のブレードを捕らえた。
ハミルトンは漂う弾に触れた為に動きが止まり誘導弾を被弾したが鷹月の被弾はゼロだ。オプション数は2つだが手を抜いたわけではない。弾幕を抜ける時間も早い。しかも彼女は早々にマニュアル操作に切り替えていた。彼女は何度も基本となる動きを確認したのだろう。訓練機を扱えなくともイメージトレーニングや動画、実機に比べれば性能は劣るがシミュレーターで進めることができる。終えた2人の顔を見ると何かを考え始めていた。既に反省材料を洗い出しているのだろう。
次の2人に対してサインを出すと二人が飛び出し、数分後に終える。その次、その次、その次。何週か終えた後に今度は2つにグループを分けて銃を撃たせてみた。銃にしたのは要望があったからだ。もう、空中での姿勢も安定している。
これを始めてから全員が着実に伸びている。瞬時加速(イグニッション・ブースト)以外にも特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)、三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)、動きだけで射撃はしていないが2人組になって円状制御飛翔(サークル・ロンド)も教えておいた。得意不得意は出ているが、既に幾人かはマニュアル操作で使用可能になっている。後は実戦で使えるかだが、そこは経験の世界だろう。
人に向けて武器を躊躇い無く振るう。生身でも躊躇するものは多いだろう。更にISは強力な兵器だ。建前がスポーツだろうが何だろうが関係は無い。扱う意味を理解していないと唯の馬鹿になってしまう。俺の様に相手が死んでも構わないと思うなら兎も角、武器を持った途端に気が大きくなる馬鹿ではしょうがない。
例えば生身の相手に振ったりとか。その意味を理解しているのは半々という所だろうか。偉そうなことをする気は無いが教えた側として最低限の責任はある。だから警告は出しておこう。そこから先は自己責任だ。
総括し一通り終了だが時間は残しており個々で総括した苦手な分野や得意分野の練習に入る。簪さんへ提供するデータを集めるのは使える時間が完全になくなってからだ。
「七海君、ちょっといいかな?」
さて、全体を見回していると打鉄を纏う鷹月さんが声を掛けて来て、短時間だが模擬戦を行った。他の者もいるので接近戦のみだが……本当、教えるのが楽しくてしょうがない。
彼女は近接用の武器に薙刀型を好んで用いる。その薙刀を俺へ目掛けて軽くキャッチさせるように放り投げ、気を取られた間にスラスターを全開、一瞬で近づきながら体を縦回転させた踵落としが俺目掛けて落とされる。右足による一撃は2本のブレードを交差させて受けるが、彼女はそれは読んでいたのだろう、俺に抑えられている右足首を支点に体を横回転、逆立ちをした状態になりつつも、いつの間にか右手に出現させたナイフによる一撃が飛んで来た。それを左のブレードで受けるが今度は左手が動いた。だが、此方は無理のある姿勢だったせいか遅い。俺は後方に退いて少し距離を取る。しかし、鷹月さんは上下逆さまな状態で追撃をして来た。右のナイフを俺に投擲しつつ、新たな薙刀を呼び出し左手一本で薙ぐ。俺は左でナイフを叩き落とし薙刀は右で受けるが次の瞬間には突っ込んできた。頭突きだ。これは避けきれず衝突する。多少の衝撃で鷹月さんの表情が歪む。俺はその隙を逃さず、左手に着いた鉤爪の隙間を彼女の持つ薙刀の柄を指し込み、捻って飛ばす。
「あっ!!」
落下していく薙刀を見て鷹月さんは声を上げ、止まってしまった。これは単に経験不足。俺はその隙にブレードを彼女の頭部の前で寸止めをする。これでおしまい。
『惜しい!!』
「ああ」
実際危なかったのだ。流れるような一連の攻撃を受けた俺と、漏れた青衣の声音には感嘆の含みが多分に込められていた。周囲に居た各々、訓練の手を止めてしまった面々からも俺と似た様な反応が返る。当の鷹月さんは少しの困惑を見せた後、少し照れている様だった。
「薙刀を片手で使ったり、ナイフや別の薙刀を量子化、格闘。良く考えていると思うぞ、俺は」
「そ、そう?」
面の下で思わず笑う。
「後……武器の違いはあるが、俺の二刀流と似た動きだった」
「あ、ばれた?」
彼女が軽く舌を見せた。
「おう、どんどん取り入れてくれ」
本気で大したものです。パッケージも何もない打鉄で俺と似た動きをするなんて。
「そうそう、展開速度も速くなっている」
「え? ええ!?」
「反省点は……言わなくてもわかるな?」
「うん……まだまだ!!」
「なら続きだ」
「よし!!」
地面に落ちた薙刀を拾いに行った鷹月さんは頭一つ抜き出ている。他の者も同時期にISに携わり同じ練習機を使う彼女が見せた動きと攻撃に奮起したようだ。直ぐに訓練を再開する。また、全員のレベルはまだまだ上がるだろう。
さて、何故に俺が希望者だけとはいえ夏休みを削ってまで教えているかだ。ある意味等価交換である。
IS学園は学校だ。故に学期末のテストも存在し、赤点を複数採ってしまった場合は補修や宿題が大量に出されてしまう。俺がそれを避けることが出来たのは皆のお蔭なのだ。この程度なら協力する。何せ、補修や宿題に掛かる時間はそれの比ではない。それに何か楽しいし、復習にもなる。
そんな事を考えているうちに真下で鷹月さんが薙刀を構えた。
「実戦なら高度も関係あるでしょ?」
「……そうだな」
教える上で盲点だった。俺はそのまま体を直角に、地面に対して水平にすると鷹月さんが不敵に笑う。
「さて、やりますか」
「ええ」
時間いっぱいまで、俺達の攻防は続く。
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訓練の後片付けをした後、彼女達は銘々に戻っていった。昼食には大分早い。せいぜい、おやつと言ったところか。
俺は制服に着替えた後、青衣と共に簪さんがいる第2アリーナの整備室に向かう。打鉄弐式制作グループである。まあ、学生レベルでこれはどうかと思うが。兎に角、整備室に到着すると整備課の先輩と一年生達が含めた数人が作業を行っていた。当の簪さんは完全に集中しているのか、机でコンソールを叩いたまま動かない。
「お~、ななみん、髪を切ったんだ」
「ああ、暑くてな」
「さっぱりだね~」
だぼだぼの袖でスパナを持ち、開発中である打鉄弐式の前で佇んでいたのほほんさんが俺と青衣に気が付いたらしい。此方を振り向くと釣られる様に他の者も顔を上げた。
「あら、今の方が良いじゃない」
「そうですか?」
「ええ」
のほほんさんの近くでは眼鏡を掛けた黛先輩が声を掛けてきた。整備課2年で新聞部の方である。同意する様に頷いていたのはクラスメイトで眼鏡を掛けた岸原さんと1年4組の相模さんと駿河さん。
俺は元々目立たない容姿なのだ。髪が長すぎると必要以上に陰気に見えていたがバッサリ切った多少のイメージが変わったらしい。
「これ、データとお土産です」
先のデータを入れたメモリと菓子類が入った紙袋である。夏場なので涼しげな葛餅や水羊羹、日持ちする煎餅、他にもあめやぎゅうひ、有平糖、わらび餅等を用意した。両方を共に近くに居る先輩に渡す。
「よし、休憩休憩。そこのテーブル空けて」
「うん」
中身を見た先輩方が休憩を宣言、近くに居た者と机をあけた。該当のテーブルはやってきた生徒の私物や飲み物などを適当に置いていたものらしい。散らかっているが、あっさりずらす。
各々が持ち場からゆっくり離れ、そのテーブルに向かって行った。俺と青衣も誘われ、其方に移動して適当な椅子に座る。
「簪さん?」
「ごめん、もうすぐ終わる」
ある意味で此処の主役である簪さんは唯ひとり椅子に張り付いたままだ。だが、先輩に声を掛けられ此方に来る。
「お待たせ」
簪さんの近くに居たのほほんさんと共に此方に歩いてきた。彼女達もテーブル近くの椅子に座り、休憩となる。各々がお茶と菓子を手に取って食べ始めた。
「君たちが持って来る和菓子、かなり美味しいのよね。昔ながらの味って奴?」
「私達留学生組から見たら新鮮よ。お饅頭位は食べたことが有るけど。でも美味しいわね」
「日本にずっと住んでいる私達でも余り見ないわ」
菓子の味はなかなか好評らしい。
フィー先輩は留学生だ。だが、甘味好きは国を問わないらしい。プチ菓子談義が始まる。
良く考えたら日本代表候補生の専用機制作に留学生が居たら不味そうな気もする。表向きは所属の無い俺と青衣が直接手伝いをしないのもこれが理由だったのだ。ま、いいか。日本政府や倉持技研も留学生が居る事位は前提でIS学園の整備課に入れたのだろう。もしも、留学生が居たことでとやかく言うのなら、最初からIS学園で作業するのに仕事を投げるなという事になる。
今度は国ごとに特徴的な菓子はある。他国に紹介している者も多くあるが俺達が持ってきたのは文字通り日本昔ながらの代物だ。
幻想郷に定住した和菓子職人から聞いたのだが、小豆から餡を作る時の火が炭かガスかでも味に僅かな違いが出るらしい。そう言えば、和洋問わず菓子職人(パティシエ)は精密機械と聞いた事が有るな。必要な物を必要なだけ使い、必要な工程をこなす。本当、菓子とは繊細なものである。
「本当、君達は何処に住んでいるのよ?」
「内緒です」
「口が堅いわね」
先輩も中身を確認しながら、答えをわかっていて半ばふざけながら言っている。
「私のお姉ちゃんのインタビュー、受けてくれたんだからもう一息」
「あれは必要があると感じたから受けただけです」
黛先輩の姉は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長だ。普段なら取材など全面的にお断りなのだが、簪さんの専用機に協力して貰っている黛先輩の顔を立てた。俺だって、無意味に敵を作る気は更々ない。とはいえ、向こうは直接会いたいと言ってきたのだが、電話で俺が『先日の様な襲撃が有っても俺と青衣はさっさと逃げますよ。暴走した馬鹿が武装して突っ込んでこないと良いですね。正直、どこから情報が漏れるか分かりません。何せ男相手なら襲撃し放題ですから』と返事をするとアチラは完全に凍り付いたらしく、二つ返事で直接会うのは止めとなり、ネット回線を通してのインタビューに変更となった。今の時代がどういうものか、多少は理解してくれると嬉しい。
追加して出した条件は『書いた内容を掲載前に俺に見せる事』『インタビューを受けたことで其方の会社に害を成した馬鹿が来たとしても俺達に責任を押し付けない事』だ。これだけなら記者ならどうとでもするだろうが、どうせ俺は世間では色々言われている。だから問題ない。それに仲介に入った黛先輩の責任として吹っかけて彼女の顔が潰れるだけだ。向こうも姉と言う立場を利用してインタビューを受けている立場である。というか黛先輩には直接言った。
「凄い反響らしいわよ、緊急で増刷したって、この前、家に帰ったらお姉ちゃんも感謝していたわ」
「それは何より」
今回のインフィニット・ストライプスという若者向けの雑誌において異例とも言えるお堅い内容だったが、それでも売れたらしい。
俺達の主張は今更言うまでも無いだろう。インタビュー内容は何故、俺と青衣が現れたか。女尊男卑や女性至上主義についてどう思うか、女性観についてはどうか、これから起きると思われる社会問題はどうか等だ。掲載された内容には上記のネット回線越しになった理由も添付されている。写真もタッグマッチで俺が戦っている姿だ。狐の面により顔は解らない。まあ、ネットにより氾濫しているのだ。例えばIS学園の学生がアップしたらそれで終わる。まあ、信用されるか別だが。
さて、俺達の意見の中でも『国家代表や特殊な技術者の様に、能力や人物を見極めて特別な権限を与えればよかった。能力が有れば文句は言えない。だが、無差別にしたから何もせず胡坐をかいた連中だらけになった。要は他人のふんどし、虎の威を借りる狐。結果として歪みが強まった』という考えは一定の層には受け入れられた、と聞いた。
曰く、ISが出て来る前から当時の一般的な常識を持った古い世代には今の風潮を憂いている者が少なくない。俺の両親の件が珍しくないように親や息子、孫、兄弟が害されたケースも多い。最も今ではその害も女性の特権としている。
同時に『ISの優越感に浸るなら、操縦者か開発者になる位の気概を見せろ』と言った事で、俺に対する殺害予告件数は一気に増えたらしいがね。
「そうそう、約束を守って俺達の主張を伝えてくれたこと、礼を言っておいてください」
「これは私が作ったクッキーです。お姉さんに渡して編集部で食べてください」
俺の言葉の後に、青衣が傍らに持っていた大きめ箱を黛先輩に渡す。
「う~ん、すっかり慣れちゃったけどISの手作りって凄いわよね」
「唯のクッキーですけどね」
黛先輩はにこにこしながら箱を受け取る。まあ、ある意味で貴重かもしれない。
話は進む。
此処でISの組み立てに参加して勉強をしている筈の一夏だが、白式の武装の件で各企業担当者と面会に回っているらしい。外付けの装備を付けられない筈なのだが、どういう気で専用の装備開発をしているのだろうか。また、何故に売り込もうとしているのだろうか。まあ、男性操縦者の装備となると良い広告になるのは分かる。しかも後が断たないらしい。無下にも断れず、本人が足を延ばしているとの事。
あのさ、他人よりも自分の心配をしたらどうなの? まあいい、俺にも言えることだ。
「白式に篠ノ之博士の手が入っているのにはびっくりしたけどね」
俺は茶を一口。簪さんの反応も特にない。一夏が居る時点で吹っ切ったのだろう。
「倉持技研は相当叩かれたみたいですね」
「社長が会見までしたからね」
青衣が京子先輩に聞く。
「でも、一夏が起動した日と白式の開発日が合わなくて、どうなってんだ? と突っ込まれたとか」
「誰でも突っ込むでしょう。一夏がISを使えるのもほぼ確定ですね」
「白式は放棄され、篠ノ之博士が手を加えたものを組み上げただけ。ファーストシフト前から零落白夜が使える件もあって其方の解析を始めちゃった。それで打鉄弐式は簪さんに投げて、今も私達でこうして作っている」
一夏が動かしたのが1月末だ。そこから篠ノ之束が接触し、白式の改造を始めては間に合わない可能性があるだろう。たった2月しかないのだから。
京子先輩が口に出す。こうして並べると……・
「本当、仕事しろって事になったのよ。補助金も税金から出ているからね。卒業した先輩から話だと中はがたがたらしいわ」
そりゃ、そうですな。
京子先輩が苛立たしげに言う。2年生でも上位の彼女だ。倉持技研に就職した卒業生とコネもあるだろう。就職希望先と捉えて情報を集めても不思議はない。
「……国家代表や別の代表候補生も私に事実確認をしてきた」
簪さんが口を開く。日本の国家代表が使う専用機も倉持技研製だろうし、気になるだろう。
「皆、少し考えているみたい。約束を破られた上に苦情まで来たらたまんないって」
「苦情?」
「うん」
ぽりぽり煎餅を齧っていた青衣が口を開く。俺も聞いてない。簪さんが頷き、のほほんさんが困った様な顔をした。
「簪さんに苦情ですか? 謝罪では無く?」
「謝罪は無い。逆に担当者から苦情が来た」
余りの対応に青衣と共に驚く。空いた口が塞がらない。その時を思い出したのだろう、簪さんは一瞬怒りの表情を浮かべ他は苦笑いだ。
「何で篠ノ之博士が話すのを止めてくれなかったって苦情」
「うわ……」
「専用機も協力しないとか、いろいろ言ってた」
ドン引きである、向こうの対応に。
「そもそも、白式に篠ノ之博士が絡んでいるって私は聞いてない」
「だろうな」
「専用機、打鉄弐式も完成してませんよね」
「うん、倉持技研にいた開発チームも凍結状態。前に言ったけどそっくり白式のチームに移った」
ありえない。俺も青衣も共通の見解だろう。
「そもそもISについては政府の権限、製作費負担もそこからの補助。ISコアも企業は借りているだけ。自分で言うのもどうだけど、個人でISコアを借りれているのが不思議でしょうがない」
呆れしかない嘆息が俺と青衣から漏れた。簪さんから補足が入る。
「会話は携帯に録音してあるけど聞かない方が良い」
「録音?」
「専用機の頓挫も含めて言った言わないの揉め事が前にもあった。だから録音、今回は証拠付き。
皆、国家代表や代表候補生、日本政府も対応を考えざるを得ないって話になった。もう提出してあるから」
「……当たり前だろうな」
俺だって、そんな所と仕事をしたくない。信用、信頼は大事です。本当。
「倉持技研はこの辺にしましょうか。空気が悪くなる」
「うん」
フィー先輩の温度で話は強制的に変わり、進む。先ほどの訓練の話になった。
更に俺が模擬戦で『一撃を喰らった』と話した途端に、即座にデータを要求されアリーナで保管されていた記録を用いた鑑賞会となる。アリーナの方は持ってなかったので、俺が空間転移で取りに行った。本当、便利屋扱いだ。
運んできた記録を見る全員の目が鋭い。例外はののほほんさん位だが、目に普段のお茶らけは無い。
「この鷹月って1年生、やるわね」
フィー先輩である。
「こんなに強くなってたんだ」
岸原さんである。口をあんぐりと開けていた。
「しずりんってね~、操縦課に入りたいんだ~」
「へぇ」
「専用機も欲しいんだと思うよ~」
「妥当だろうな」
のほほんさんの言葉に返す。まあ、納得である。
「でもね~、ルームメイトのしののんが手に入れちゃったから、気合が入ったんだ」
「……なるほど」
鷹月さんには納得はした。要は嫉妬とやる気が入り乱れて急激に上達した訳か。心の底から納得する。
「しののん? ひょっとして……」
「篠ノ之箒です。篠ノ之博士の妹の」
「ああ……第四世代機紅椿の専用機持ちで適性Sの……」
京子先輩の問いに岸原さんが答える。同時に黛先輩が渋い顔をした。フィー先輩も似た様なものである。
「「「……」」」
その後は嫌な沈黙が降りた。
「私はわかる、その鷹月さんの気持ち」
ぽつりと、だが意を込めた言葉が簪さんから漏れる。
「簪さんは、現在進行形で作っているからな」
「うん」
彼女が頷いた。周囲に専用機組が多くいるから麻痺するが、それを得るには大変だという事だろう。何せ、数少ないISコアを1つ占有するのだから。
「この鷹月さん、他の皆もそうだけど、代表候補生の候補や企業からマークされるかもしれない」
「ほう」
そうなったら彼女は夢に一歩前進するわけだ。それは喜ばしい事です。
---------------------------------------
そのままの流れで打鉄弐式制作グループと昼食を採った後、俺と青衣は生徒会室で書類仕事を行った。更識会長はロシア、虚さんは明日に来る予定なので俺達二人しかいない。鍵は役員が所持しているのだ。俺も持っている。
作業内容は9月に行われる学園祭の前準備である。主催は生徒会側だから相応に書類も多い。とはいえ此方は一度申請すれば承認待ちの半ば流れ作業だ。期限は月末と大分後だが面倒事はさっさと終わらせるに限る。去年の書類を参考に次々作成を続けていく。
目の前のノートパソコンから印刷した書類が多数、既定の用紙に書き込んだ種類も多数ある。夏休み前から作り始めていたが総チェックは行っていなかった。不足が見つかり新規作成した書類を青衣が確認する。彼女が書類一覧と書かれた表にチェックを付けた。
「休憩をいれますか」
「……そうだな」
俺は青衣の言葉に答えると、椅子に腰かけたまま上体を大きく伸ばす。ぼきぼき体が鳴った。青衣も体を左右に捻っている。向こうも腰が固まっていたのだろう。
数時間に及ぶ作業だ。定期的に休憩は入れる。
「このペースだと、今日明日中に終わりそうですね」
「急ぎじゃないから、後にして良いが……」
「駄目ですよ、終わらせるときは一気にやらないと。更識会長か虚さんが来る前に私達で終わらせましょう。そうすれば後が楽です」
二人が確認した後にIS学園側へ提出すれば良い。何枚かは差し戻されるだろうが、大きい仕事は9月に決定される各クラスや部活の出し物待ちである。
「そういえば、10月にやるキャノンボール・ファストに合わせて1年生はイベントをやるらしいな」
「みたいですね。前に潰れた学年別トーナメント(タッグマッチ)の変わりだとか」
「その書類も生徒会側で作るのか?」
「さあ、具体的な話が届いていませんからね」
そのまま、茶を飲みながら青衣と話していると俺の電話が鳴りだした。発信先は織斑千冬だ。
「七海です」
『織斑だ。戻ってきたようだな』
電話越しは不機嫌そうに聞こえる声だ。やはり彼女の癖かもしれない。
『何処に居る?』
「生徒会室です」
『学園長室に来い』
「今からですか?」
『大至急だ。急いで来い』
電話が切られた。ねえ、こっちの返事位聞いて下さいよ。
学園長室の扉をノックすると返事が返る。入室すると片隅の机で硬い表情をした学園長と織斑先生が並んでいた。この二人が揃っていると言う事は、何か面倒なことが振ってくるのは間違いないだろう。
俺達は二人に促され、向かいにある椅子に腰を掛ける。奥の俺の前が学園長、青衣の前が織斑先生だ。
「これを見て欲しい」
据わると同時に織斑先生が机に並べたのは書類の数々だ。英語だらけで内容は良くわからない。
「これらの書類は貴様が署名すれば有効となるものだ」
「中身は?」
「アメリカ軍に入れと言う命令書と国籍変更届だ。アメリカ大統領直々のな」
「命令書?」
「国籍変更?」
完全に予想外だった俺と青衣が素っ頓狂な声を漏らす。
俺達の反応は予想通りなのだろう、呆れたように織斑先生が肩をすくめた。学園長も大げさなアクションは見せないが、似た様なものなのだろう。
「気持ちはわかる。貴様の国籍は日本だ。少なくともアメリカ人ではないしアメリカ軍人でもないな」
「ええ」
「だと言うのに命令書だからな、全く」
テーブルの上に置いた書類を織斑先生が中指で軽く小突く。とんとん、という音が妙に響いた。
「更に言うと演習と称して日本の領海ギリギリ……要はIS学園を中心としてアメリカ軍が展開、国家代表のイーリスまで専用機で待機しているようだ。在日米軍もスタンバイに近い。
幾度も貴様の国籍変更と入隊要請は断っていたがな、とうとう強硬手段に出て来たらしい」
「何故、急にそんなことに?」
おいおい。アホかと。
「大きく理由は3つあります」
ここまで黙っていた学園長が口を開く。
「まず1つは亡国機業(ファントムタスク)とスコール・ミューゼルの調査がばれた可能性です。やはり彼女は元はアメリカ軍所属、随分前に死亡していましたが在籍時代の写真を入手しました」
それでアメリカ軍が展開ですか。口元に笑みが浮かぶ。
黒い繋がりが非常に解り易い。何らかの関係が有るな。
「2つ、七海君は臨海学校でIS学園まで来ましたね」
「行きましたね」
良く覚えている。無人機が出現した為に織斑先生の命令でIS学園に戻った。
「貴方に空間転移がある事は知られていましたが、有効範囲は知られていませんでした。現に、私達も詳細は聞いてません」
「伝えてませんから、ああ、そう言う事ですか」
「そう言う事です。その機動力に改めて軍事的価値を見出しました。だから是が非でも欲しいと言う事です」
「……へえ」
それで一方的に所属と命令を押し付けて来た訳ね。こっちの意見や都合は無視で。
「最後はIS学園にあるISの操縦者と機体が通常時よりも減っている為です」
「減っている?」
「今は夏休み、しかも始まったばかりでIS学園内に専用機持ちは半数以下に減っています。更に教師も交代で休暇を入れてます。十分な戦力は残していますが、それでも通常より低下していますからね」
なるほど、それで戦力が下がっているわけか。
「馬鹿みたいですね」
「馬鹿?」
じっと話を聞いていた青衣がぽつりと呟く。
「こんな恫喝や脅しに近いやり方、喧嘩を売っているのと同じでしょう? しかも私達なら兎も角、IS学園ごと」
「それで売られた喧嘩に貴様等はどうする? 唯々諾々と従うほど素直ではないだろう?」
織斑先生がにやりと笑う。
売られた喧嘩か。相手をするにはアメリカ軍は大きすぎるな。ならば手は一つ。
「送り主は大統領、アメリカ合衆国軍の最高司令官でしたよね」
「ああ」
「これから青衣とホワイトハウスまで行って書類を突き返してきます」
「そうですね。諦めさせるにはそれしかないでしょう。しないなら潰しましょうか」
今度は青衣がにやりと笑う。
組織の頭を潰す。規模に関係なく有効な手段だ。まして巨大すぎる組織が相手なら個々を潰しても意味はない。ならば使えるのはこれだけだ。
ISをいつでも使用できる状態でホワイトハウスへ行き、直談判。必要なら更地にしてしまおう。
「……行けるのか? ワシントンDC、ホワイトハウスまで」
だが、織斑先生は疑うように眉を動かす。学園長も似た様なものだ。
「行けます。問題は大統領が今、何処に居るかですがホワイトハウスに滞在してるなら探せばわかるでしょう。不在なら周辺をうろついて手短な奴に渡せばいい。俺はいつでもここに来れるというメッセージなる」
「そうか」
俺の返事に納得したらしい。何時もの調子に戻った。潰すの潰さないのは流している。俺達の性格や思考位、もうわかっているだろう。
ホワイトハウスは官邸も兼ねる。故に大統領も家族ごと住んでいるのだ。危機感を持つだろう。
「……七海君は相手に気が付かれず監視が出来きましたね。移動も」
「ひょっとして学園長も七海の技を」
「彼の『窓』と『扉』でしたら以前に見ています。滞在していた部屋も」
学園長は紫姉さんとの会談時に学園長室の監視として、織斑先生は臨海学校にて監視体制と篠ノ之神社への移動でそれぞれ見ている。
「貴様は警備を潜り抜けて現れると思っていたが……『空間を操る程度の能力』の射程はどの位あるのだ? 地球を覆うのか?」
「無茶言わないで下さい、俺は人間ですよ。本来なら臨海学校も射程外です」
「ならば、何故届く?」
「創意工夫」
一言だけ返す。一つの能力は使い方次第で幾らでも拡張でき、使用方法も増えるのだ。
俺は亜空間も使うことが出来る。その亜空間は世界の何処でもない。ある意味で射程から外れた場所だ。故に、一度亜空間を介せば距離に関係なく届くのではないかと思ったのだ。結果は的中。とはいえ最初は亜空間を使えば直ぐに霊力切れを起こしダウンした。今はこの通り使い放題である。慣れた為に消費する霊力も下がりスタミナも十分ついたが。
「……今はアメリカ対策だな」
対して織斑先生は深く突っ込んでこない。納得したかは別だが。
「緑兵、大統領が何処に居るかもそうですが、アメリカ合衆国とでは時差がありますよね」
「ああ。向こうは……どうだろう、何時だ?」
「日時は気にしないで良いと問い合わせ先に書かれています。電話は転送されるかもしれませんが、政府機関のどこかに掛かるでしょう」
「英語、話せないんですが」
「電話程度なら私が通訳しても良いですよ。あちらの対応も気になりますので」
青衣に答えると学園長が補足を入れた。国際的なIS学園の学園長なら英語を含め何か国語か話せても不思議などは無い。寧ろ当然と言えるだろう。
さて、どうするか。
「……学園長に織斑先生、今回の行動はIS学園と言うよりも俺と青衣を狙ってるんですよね」
「だろうな、とはいえ正規にアメリカ軍を投入するとは考えにくい。送るならISを所持した不正規軍、亡国機業(ファントムタスク)と結託しているなら其方だろう。
エムからの資料にもアメリカ政府内に亡国機業(ファントムタスク)への内通者がいると有った。人物の特定はできなかったが有り得ない話ではない」
織斑先生が見解を話す。確かにそうだろう。
「では、その辺も含めて準備といきますか」
さてさて、どうしましょうかね。幾つか案は浮かんだけどさ。
「貴様等……特に七海、何を考えている?」
「まず、警告の意味も込めて大統領へ書類を突き返します。赤いバツ印でもいれてね。それでも向こうがIS学園に攻めてきたら各個撃破。
大雑把ですがこんな所でしょうか」
単に気になったのだ、それとも何かを感じたのか、織斑先生が俺に尋ねてくる。返すと学園長と織斑先生が息を飲んだ。
「あ、緑兵、電話は学園長が通訳してくれるとしても、向こうは日本語がわかりますかね?」
「事前に『これから行きます』って電話でも入れておくか? 護衛のIS操縦者位いるだろう? 通訳できるんじゃないか?」
「鉢合わせたら戦闘ですかね」
「大統領の前ではやらんだろう?」
渋い顔をする織斑先生が突っ込んでくる。
「仮に正規軍が来たならどうする? 現状のIS学園は質も量も分が悪い」
「そうなったら周囲に居るアメリカ軍艦隊に挨拶してきますよ。
青衣、路線変更だ。大統領は浚って展開しているアメリカ軍の旗艦に乗り込むぞ。最高司令官直々に中止命令を出させてやる。
どちらにしても、総大将を浚われた不甲斐ない連中を嘲笑ってやろう。目の前で」
「いいですねぇ!!」
青衣は珠の様な声を出す。物凄く楽しそうだ。
神隠しの主犯、その従者舐めんな。『空間を操る程度の能力』で掻っ攫ってやる。
「やり過ぎです!!」
「そうですか?」
「中止、それは中止です!!」
「大国の意地があるだろう? それに大統領が居なくなれば大騒ぎになる」
多少、泡食っている学園長と顔が強張っている織斑先生だ。
「ならば命令後に戻します。中止命令が出れば十分ですし害する必要もない。ガタガタ抜かすならホワイトハウスを含めた政府機能、証券取引場などの経済拠点を消し飛ばすと通告します。
どちらがダメージが大きいか、その位は理解出来るでしょう?」
「そんなことをすれば!!」
「アメリカ政府と経済が崩壊しますね。両方とも世界中に余波が年単位で起きるでしょう。それがどうした?」
学園長の指摘など、理解した上で言っている。
「……発想がテロリストだな、脅す気か?」
「やる気ですが、何か?」
織斑先生に返すが、二人が苦い顔をした。
でも織斑先生、白騎士事件を起こした貴方に言われたくはないです。これは内心で追加する。
「外の世界の影響が、此方にもやってきます。逆も然り。影響されるだけだとでも思ってますか?」
二人の喉が鳴る。
「書類の付き返しは兎も角、本当に襲撃までしたら指名手配を喰らうぞ?」
「元から世界中の女性至上主義者に強硬派の女性権利団体から指名手配されているも同然の身ですが何か?
最早、篠ノ之束が目当てになってますからIS学園から離脱すればいい。理由もアメリカ政府の強硬策ですからね、それこそ加減する必要が無くなるだけですよ」
これは事実。メガフロートより外は怖い女性が目を光らせて居る。出会ったらいちゃもんをつけられ警察が出動するだろう。容疑は何でも良い。だから俺達はIS学園のあるメガフロート以外は簡単に外出できないのだ。まあ、ゲリラ的に人に無関心な大都会や、遠く離れた地方都市なら行けるかもしれないが其処までする理由も無い。
「緑兵、修学旅行はどうしましょうか。京都ですよ、京都」
「……行かない手もあるな。今は後回した」
緊張感の見られない青衣が、今はどうでも良い事を気にし始めた。余裕とも言える。
「全く、貴様らは……」
「二人とも、大統領の誘拐は止めて下さい」
「最後の手段という事で」
「……」
呆れた顔をする二人だ。それは兎も角、具体的にどうするかの話が始まった。
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結果から言うと何とかなりそうである。
「Nice to meet you. Madame. President(初めまして、大統領)」
おや、女性の大統領だからマダムプリシデントで良かったはずだが、反応が無いぞ。
此処は大統領執務室、俺はISとしての青衣を展開し目の前に居る中年の白人女性、現職のアメリカ大統領に書類を突き返していた。顔は狐の面で覆っているが武器は出していない。青衣はIS学園の制服では無く青の和服で左肩の装甲に座りニコニコ笑っている。書類は全てコピーを取ったが、突き返すオリジナルには全てに赤のマジックでバツ印を入れた。これで書類は無効だろう。
日本時間は夜、アメリカのワシントンDCは朝になっている。窓の外に見える朝日が眩しい。
学園長室からあちら側に連絡をした。幾度かの転送が入り、最後に出たのは大統領本人である。通訳に徹した学園長を通して、スピーカーにした電話で全ての要求を拒否する旨とこれから書類を返しに行く旨を伝えた時に、大統領は大声で笑いがら
『どうぞどうぞ、お菓子とコーヒーを用意しましょうか。
何なら青衣さんを起動して来るとよろしい、私も生で見たい』
と余裕綽々だったのだ。しかし、次の瞬間目の前に現れたらこれである。他に2人、アメリカ政府高官固まっていた。一人は国防長官、『窓』で事前に確認したから問題ない。皆、信じられない者を見た様な、恐ろしいものを見た様な、そんな表情である。
硬直が取れたアチラは喚いているが英語である。
「日本語しかわかりませんが……Japanese only」
うん、発音がおかしい。向こうには通じず、あちらが何を言っているか俺にはさっぱりだ。
書類を全て大統領の机の上に置き、大統領が使用している電話に手を伸ばすと彼女は受話器から手を離し後ろに大きく引いた。彼女が目的ではない。指先についたISの爪で受話器が落下した電話をスピーカーに切り替える。
「学園長、聞こえますか」
『聞こえますよ』
「なんて言ってますか?」
『無駄な抵抗は止めて武装解除しろ、だそうです』
「何ですか、そりゃあ? 来ても良いと言ったのは其方でしょうが。俺は書類を突き返しに来た。そう伝えて貰えますか」
電話から英語が流れる。だが、向こうは止まる気配が無い。完全に混乱しているらしい。
そこで誰かが何かをしたのだろう、元々騒がしかった真後ろにある執務室のドアが乱暴に破られた。ハイパーセンサーでわかる。現れたのはアメリカ製の第三世代型IS、深緑色のファング・クエイクだ。操縦者は無論女で手には見たことのない銃器を持っている。軍事用か、新型かもしれない。顔は見えないが向こうは俺を見て驚いている。彼女が一瞬戸惑った隙に俺は4つのオプションを展開した。それを見て相手は硬直する。口元が悔しげに歪んでいた。
俺の攻撃手段である弾幕は知っているだろう。だから向こうは動けないのだ。
「俺達は書類を返しに来ただけ。許可付きでね」
無駄を承知でファング・クエイクに話しかける。だが、あちらは俺の言葉に反応した。
「許可? あるの?」
「お、日本語わかりますか?」
「少しだけ」
ファング・クエイクの操縦者だ。たどたどしく、発音も完全な英語だが助かる。本当、ISの世界では日本が強いんだな。
「アメリカ軍がIS学園へ攻めてくるのは良いが、逆に攻められるのは考えてなかったみたいだな」
「アメリカ軍? 攻めてきた?」
「ファング・クエイクの、この書類の意味は分かる?」
背を向けたまま机の上に書類を並べ、彼女に見えるように少しずれる。その間に、大統領は動こうとしたが俺が顔を向けると止まった。
「これをIS学園に送り、アメリカ軍をIS学園周囲に展開した。意味は解るだろう?」
「……」
書類の中身と俺の発言を理解したのだろう、ファング・クエイクから唸りとも取れる音が聞こえた。多分、彼女は知らなかった。
「さて、どうするね?」
大統領の方を向く。すると彼女はゆっくりと立ち上がり椅子に座り直した。その後、強い口調で何やら言う。ファング・クエイクを除いた周囲は感銘を受け一往に頷いていたが、俺は英語がわからない。
『どうやら、無人機も目当てだったようですね』
電話から学園長の声が漏れた。襲撃を受けたものをIS学園で保管をしているのは確かだ。
「無人機?」
『無人機が有れば世界は変わる。正義を成すには必要だ、そう言ってます』
「はあ? 正義ぃ?」
正義って、おい。白けた。青衣も呆れた顔を向けている。だが、アチラは俺をしっかりと見つめ、再度強い口調で何かを言った。
『無人機の技術を持てば、ISは女性が操縦する必要が無くなる。君達が本気で目的を果たすならIS学園で無く我々に協力するべきだ、だそうです』
「アメリカが無人機の技術を占有したら、俺達の目的は達成どころか果たせなくなるんですが?」
通訳された後、向こうがが止まる。馬鹿か、こいつらは。
「アメリカが無人機技術を得たとしても、それを他国へわざわざ教えないでしょう? 機密にされるのが落ち。それにあくまで無人機だ。有人なら女性しか動かせない状態は変わらない。
IS学園なら技術は開示されるルールですから、そうですよね、学園長?」
『ええ、研究が進み無人機が可能になれば開示されますよ。無論、其れなりの『援助』は頂きますがね』
やはり一筋縄ではいかないらしい。国が傾くくらいの金を掛けている以上、ボランティアは無いからな。
「実際に使うのはアメリカ軍。軍隊なら使用目的は兵器だ。俺達の目的と大幅に違いますね」
学園長が俺に答え、更に通訳は進む。あちらが何か言った。
『そんなことは無い、我々は平和の為に行動している、だそうです』
「誰の平和だ?」
通訳されるが向こうは答えない。だが相手は大統領、先手を与えたら引っくり返されるかもしれない。何か言う隙を与えず俺は発言する。
「それに具体的にはどうするんですか? 銀の福音なんて軍用IS作っているでしょう? 軍事転用を禁じたアラスカ条約は?
違うと言うなら、アメリカ軍から全ISを外す位見せてくれ。其処までするなら信用する』
銀の福音はアメリカ軍の所属だ。だから話したところで問題はないだろう。
「そうそう、正義と言ったな。世界中が認める正義ならこの件がIS委員会へ伝わっても文句無いですよね? そう聞いて貰えますか」
『IS学園としても正式に抗議を入れさせて頂きます。IS委員会に伝える事は問題有りません』
学園長が同意する。そのまま通訳されたらしい、大統領が苦い顔をした。
電話に向かい学園長に抗議している。英語の応酬が繰り広げられた。何を言っているかは解らないがジャスティスがどうたらフリーがどうたら。何を言っているか解りたくないな、寧ろ。
大統領が座ったまま何かを叫ぶ。直後にファング・クエイクも何かを言った。
「君を倒せと命令、あなたも死にます、答えた」
「通訳、ありがとう」
「どういらしまして」
所々、違っている気がするが、まあいい、礼を言う。
「学園長」
『どうしました』
「あくまで最終手段、アメリカが戦争を望むなら、と言った上で伝えてください。
攻撃すれば反撃されて当たり前。ホワイトハウス等の政府機関、証券取引場、警察組織、俺は他にどこを潰せば良いですか?」
『……良いでしょう』
向こうに伝わったのだろう、大統領は俺に向け憤怒の表情を浮かべている。一方でファング・クエイクは驚いていた。
互いに黙る。膠着状態だ。
ピリピリした空気を破ったのは1本の電話だった。部屋の片隅にある電話、それが鳴っている。
「電話を取るならどうぞ、そう伝えてください」
学園長が言うより早く、ファング・クエイクが俺の言葉を通訳したらしい。国務長官がゆっくり電話へ向かって行き、コードレスの受話器を取った。何やら話し始めるが、実はハイパーセンサーで丸聞こえだったりする。とはいえ英語だ。シルバリオ・ゴスペル(銀の福音)? ファング・クエイク? 本当、英語を勉強しておくべきだったかな。
俺と同じ状態だがファング・クエイクの操縦者はアメリカ人だ。当然、会話内容は理解できるだろう。口元が大きく驚きの形に変わっていった。
国務長官は大統領へ向かい歩いて行き、受話器を彼女に渡す。少し後、同じ報告を受けたらしい彼女が深刻そうに話を始めた。電話を切ると、彼女が苦み走った顔で何かを言う。
『直ぐにアメリカ軍は撤退するそうです。貴方の拒否も受け付けました。さっさと帰ってくれ。だそうです』
学園長が言う。おいおい、やけにあっさりだな。
俺の訝しげな雰囲気が伝わったのだろう、大統領が更に何か言う、その内容に学園長は絶句したらしい、何となく伝わった。その後は二人の間で会話が始まり直ぐに終わる。
『青衣さんの記録を解析すれば、今の電話で何の報告を受けたのか直ぐに伝わると話して貰えました。凍結された銀の福音と新型の軍用装備を付けたファング・クエイクが強奪されたとの事です』
「何!?」
「ちょっと!!」
俺と青衣の驚愕した声が飛ぶ。ファング・クエイクはアメリカの第三世代型、銀の福音は最新の軍事ISだ。それを奪われただと。
『どうも、IS学園へ向けてアメリカ中の戦力を集めた為、手薄になった基地を狙われた様ですね。今は太平洋からですから簡単に戻れないでしょう。
銀の福音並みの機動力を持ったISでも数時間は掛かります。しかも航空機が飛び交っているアメリカ国内を通過しないとならない』
「こんな朝っぱらに襲撃ですか? 早朝という訳でもないでしょう?」
『私に聞かれましても』
「……そりゃあ、そうですね」
情報を頭の中で纏めよう。IS学園へアメリカが進攻したらアメリカ国内の基地が襲撃されISが奪われた。亡国機業(ファントムタスク)か?
タイミングと言い情報が筒抜けだ。間違いなく、アメリカ国内に内通者はいるだろう。アメリカも嵌められたかもしれない。マドカ(エム)の情報にも内通者はISを高値で売りさばいていると言っていたな。IS学園を囮として使ったか。サイレント・ゼフィルスもマドカと共に今は幻想郷だ。手に入らないだろう。だから、一層ISを求めた? 駄目だな、想像でしかない。それにアメリカが正当化されるわけでもない。今は考えるだけ無駄だろう。
『七海君、青衣さん、これ以上は無意味です。戻ってください』
「……そうですね。俺達も帰ると伝えてください。」
受話器から伝わると、向こうの緊張感も取れた様だ。青衣が俺の肩から下に飛び降りる。
「では、私達はこれで失礼します。行きましょう」
青衣がぺこりとお辞儀する。対して、向こうは引きつった笑みを浮かべていた。
「お願いします」
一方でファング・クエイクが銃を降ろし軽くお辞儀する。何がお願いなのか、言葉の意味が解らず彼女の方を向く。だが、それ以上は話さず口元も一文字で結ばれ、表情も読めない。
青衣に突っつかれ、俺はもやもやを抱えたまま空間転移した。
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翌朝、朝食の為に食堂へ行くと何やら困った顔をしたハミルトンが声を掛けてきた。
「昨夜、お姉ちゃんから電話があったんだけど……」
「お姉ちゃん?」
「うん、二人に会ったって。凄い嬉しそうだった」
「はい? いつ会ったって?」
「昨夜だって」
まさかと思い詳しく話を聞く。姉はアメリカ軍でISの操縦者だと言う。細かい事は教えて貰えなかったが、ファング・クエイクの操縦者は彼女の姉だったかもしれない。
だとすれば、軍が攻める矛先が妹の留学先であるIS学園であると知らされない筈である。
「会ったからな……」
「え?」
「何でもない」
妹のいるIS学園へ攻め込んだのだ。そりゃあ、彼女も作戦に加わっていないわけだ。撤退したことで安堵も覚えるだろう。
それにしても何がどう繋がっているか、人間関係はわからないものである。
そういえば、簪さん以外の専用機組に会わなかったな。どうしたのだろうか。なあ、青衣、知っているか?
え? 単に出くわさなかっただけ? 少しは仕事や作業から離れろ? だってさあ……ってマドカも? あいつもそう言っていたのか?
しゃあない、少し考えるか。
あ~、篠ノ之束に対する対応も、最低でも織斑先生には話さないといけないんだよな。全く、面倒である。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
簡素ながらオリジナルキャラ
1年4組の相模さん 駿河さん
簪と同じクラスから誰も来ていないとぼっちになるので。名前は湾から適当に。
ファング・クエイクの操縦者
一応、書いている時にはセリスと名前が有りました。だってティナがいるんでから。
それはそうと、髪を切った緑兵が最近連載終了した某忍者漫画で敵役の彼にしか見えません。同時に一度やってみたかった大国首脳陣への登場。作中で語った脅威についてと、実際に喧嘩を買ったらどうするかやってみました。批判は承知です。
でも、この話では丸一日と後日少しなんですよね。話が進まない。
何かありましたら感想へお願いします。
-追加-
誤字脱字修正 2重表記修正 話合いの描写追記
鷹月さん頭突きを当ててます、修正しました。