幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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37_本物の女傑達

 篠ノ之緋宵と会う事になった。

 紫姉さんへ報告したところ、行けと言う命令が返ってきたのだ。但し、俺と青衣の二人ではない。紫姉さんも聞きたいことがあるらしく、一緒に行くことになる。俺達に何かあっても困るし、機会が合わず臨海学校の監視に来れなかった者も居たらしい。其方も連れて行きたいというか、機会が有ったら知らせるように頼まれていた様だ。故に後日、篠ノ之神社を訪れる事となる。

 日程を篠ノ之緋宵との間に入っている箒へ伝えたが、向こうは俺達の対応に対し眉を顰めた。

 

『警戒ばかりの軟弱者が』

『仕事しないさぼり魔が』

 

 次にふざけた事を言ってきたので、俺は即座に返す。ほぼ条件反射、箒と一夏が持ってきた内容は敵とも言える相手の本拠地に来いと言うものである。警戒は当たり前、勇気と蛮勇は違うのだ。

 

『何だと!? 私の何処が!!』

『兎への説得はどうした? 学園長には一人で十分とまで言ったらしいが?』

『誰から聞いた?』

『織斑先生、俺も関係者だし教えられても不思議じゃないだろ?』

『……』

 

 平たく言うと、織斑先生から愚痴られたのだ。

 怒りの表情を浮かべ反論して来たがそれで黙る

 

『侍を気取るなら少しは引き受けた仕事をしろよ。やる気が無いなら最初から受けるな。無理なら言え。それは恥じゃない。こっちは前提や勘定に入れているんだぞ』

 

 箒は不機嫌そうな顔をした後、立ち去ってしまった。

 後悔は文字通り後で悔いるという事である。確かに兎へ説得が出来れば一気に解消へ向かう為にIS学園の案を受けいれた。それは良い。だが一夏は兎も角、箒をその説得工作へ入れるように進言した事は後悔でしかない。

 俺が知る限り、箒はIS学園から依頼された説得について何もしていないのだ。一夏は織斑先生へ説得するよう詰め寄り、臨海学校で俺達と篠ノ之束の間に入ったのを見聞きしている。撃たれたけど。最初は怪しかった織斑先生も今は協力的だ。まあ、幻想郷や外の世界への影響に加え、親友である兎の命が本気で掛かっている事もあるだろうが。

 学園長達へ言った通り、二人が何もせずに事態が終結し男性でも操縦可能になれば一夏は兎へのコネで世界唯一のIS男性操縦者になった男に、箒は世界を大混乱させた篠ノ之束の妹になるだけだ。説得の可能性を上げるのが主目的ではあるが二人も貢献したかどうかで評価もガラッと変わるだろう。これは二人に対して事態終結後のフォローを含めていた。

 

「話、聞いているかしら?」

「聞いています」

 

 現実逃避は止めにしよう。今、対応しなくてはならないのは夕方近くに戻ってきた目の前に居る彼女だろう。

 

「そうそう、4位入賞おめでとうございます」

「あら、ありがとう」

 

 此処は生徒会室。簡単な打ち合わせや休憩に使うテーブルを囲み、にこやかな笑みを浮かべているのは学園へ戻ってきた更識会長だ。

 彼女はEUで行われたISの世界大会で総合4位となった。しかも現役国会代表としては最年少。ロシアもだがIS学園も鼻が高いだろう。だが、そんな更識会長がピリピリしている。因みに優勝は第2回モンドグロッソで優勝者にされたイタリア国家代表だ。未だに当時のISのままであり、最新機と言う訳では無い。まあ、セカンドシフトし単一能力を使用しているのだ。下手に乗り換えるのも無理だろうし機体も可愛く思っているのだろう。シャレになら無い位強いし。

 この場には青衣と虚さんも居るが澄ましていると言うか、苛立っている更識会長から目を逸らしていた。各自に置かれているウーロン茶に入っている氷も俺達が発する熱気に解けたのかカランと音を立てる。

 

「一月足らず学園に居ないだけで、何で此処まで大きな事が起きているのかしら?」

「アメリカの件は」

「そっちは別にいいわ。各国の対応もね」

 

 更識会長は国家代表、それに暗部の当主だ。一連の流れは報告を受けているのだろう。鈴達から聞いた各国の暗黙の了解は知っていて当然だ。

 なら、何だろうか。

 

「問題は食堂でぶちまけた件よ。IS学園到着早々、ある生徒が半泣きで訴えてきたわ。貴方の発想が怖いって」

「それで更識会長は?」

「十分あり得る、現実的な話だと答えたわ。と言うよりも彼女もそう思って無ければ怖がらないでしょうね。

 それと七海君達は手出ししなければ安全だし、解消しなければいけない問題と思っているから私達も協力している、そう言っておいた」

 

 そこでにっこり笑う。

 

「とは言え、キミは頭のネジは随分飛んでいるけどね」

 

 頭のネジって……。

 

「今更ながら気付いたわ。キミは幻想郷でも相当、外れている方でしょう?」

 

 彼女はジト目になる。答えは返さない、いいや返せない

 

「四季様……閻魔様に何度か追い回されましたよね、緑兵は」

「随分その閻魔を知っていると思ったけど、やっぱりね」

 

 青衣が事実を話すと、更識会長は諦め交じりのため息を付いた。

 

「事実ですが」

「刺激が強過ぎたって言っているのよ」

 

 言い訳というかあの時思った事を返す。しかし即座に返される。まあ、マドカの安全で元から頭の片隅にあった事でもあるが。

 

「刺激、ねえ……」

「純粋培養で育っているのが大半だからね」

 

 ここで彼女は自分のウーロン茶に口を付け、間を置く。

 

「女性……というよりIS至上主義の純粋培養って一番性質悪そうですが」

「そっちじゃないわ」

 

 彼女が頭を軽く振る。

 

「女の子も一緒に住んでいる件よ」

「そっちですか……」

 

 更識会長が呆れたかの様な表情に変わる。

 

「私も吃驚したわよ。絶対、出会いは有っても良い人で終わるタイプだと思っていたし、育ての親であるお姉さん二人も美人、青衣ちゃんもそう。七海君に家事を仕込んだのもお姉さん達。

 間違いなく好みの女性のハードルを高くしていると思っていたわ。それも異常な位に」

「私はお会いしたことが無いですが、もう一人のお姉さん……九尾の狐もそうなのですか?」

「文字通りの傾国よ」

 

 気になったのだろう、紫姉さんに会ったことのある虚さんが会話に交じる。更識会長はあっさり同意した。まあ、紫姉さんに藍姉さんがそこまで褒められるのは嬉しい事ですが。

 そこで急に更識会長の表情も年相応に戻る。

 

「それで、彼女さんとはどこまで進んでいるの?」

「……誰にも言いません?」

「ええ、約束するわ」

 

 いい笑顔で更識会長が頷き、虚さんも興味津々という顔で俺を見ている。

 

「一つ屋根の下、と言う意味じゃあIS学園の寮も同じでしょう?」

「「「え?」」」

 

 更識会長と虚さんが目を丸くさせた後、ぱちぱちさせた。

 

「部屋は違うけど生徒全員が同じ場所に住んでいる。違いますか?」

「「「ええ!?」」」

 

 次いで身を乗り出した。食い付きが凄い。

 

「俺と同じ家に住んでいるけど部屋は別ですからね。それは青衣も同じだし、泊まりに来る姉さん達もそう」

「ちょ、ちょっと待って下さい!! 随分話が違いませんか!?」

「俺は事実を言っただけです。周囲は勝手に想像して暴走。まあ、ハニートラップ防止には十分ですか」

 

 誘導したけどさ。笑いながら虚さんに返す。

 唖然、二人の表情はこれに尽きる。

 

「青衣ちゃんが『浮気は駄目』って言ったらしいけど? 相手がいるんじゃないの?」

「俺は浮気云々を肯定してないです。その辺は青衣に聞いて下さい」

 

 青衣に視線が集まる。

 

「あの子は本気で緑兵に惚れているみたいです。それで色々と頼まれているんですよ。だから応援することにしました。虫除けとハニートラップ防止です」

「え?」

 

 俺は聞いてない。青衣に聞き返すが、にやにやとした笑みを浮かべていた。

 

「緑兵、あの子はどうするんです? よくべたべたしているし、寝る前にも毎晩部屋へ入れているのに」

「毎晩!! 寝る前に部屋へ入れているの!?」

「好意丸出しじゃないですか!!」

「はっきり言って、此処までされて手を出していないのが不思議な位なんですが? 本気で何を考えています?」

 

 青衣め、マドカが訪れている事に気が付いていたか。とはいえ、一度手を出そうとして逃げられたことは知らない様子。更識会長と虚さんの視線も俺に戻る。

 

「アイツがどう思っているか何となく気が付いているが……俺は家主みたいなものだろ? あいつから家賃取っているわけじゃないし生活費も俺が家に置いた金からだ」

「……それがどうかしました?」

 

 まあ、大した金額ではないが日々の飲食や生活消耗品に困らない位は常備してある。姉達からもマドカには普段の生活費はそこから出す様に伝わっていた。真面な金銭感覚が養われないかららしい。俺達もやったし、マドカもその枠内で生活をしている。自炊が良い例だろう。

 とはいえ、俺達は体が資本でもある。食費はそれなりに割いているし、姉達も食事時にはきっちり食べているか確認している。というよりも、藍姉さんは直接料理を教え、橙も共に食べている。

 後、マドカもISに伴う実験でそれなりに報酬を得ている。衣類や外食、ちょっとした贅沢品に使う金は本人が出せるだろう。

 

「これで手を出したら、俺が立場を利用しているみたいでさ」

「「「え!?」」」

 

 三人が少し驚いたらしい。

 本当、一度それっぽい雰囲気になったがマドカもその気なら透過を使う意味が解らん。まあ、懲りもせず毎晩来るが。

 

「俺から告白染みた事を言うのも同じだろう? あいつは断れない。という訳で」

 

 言葉半ばに胸倉を思いっきり掴まれる。隣の席から腰を浮かせ、青筋を浮かべた青衣だ。

 

「馬鹿だ、頑固だ、クソマジメだ、そう思っていましたけどねぇ……」

「あ!?」

 

 青衣の言葉には抑えられた怒りが込められていたが、俺には理解できないのに怒られるなど御免だ。俺は反発し睨み合いが始まる。

 数秒後、盛大なため息を付いたのは虚さんだ。横目で其方を確認する。そこで俺と目が合う。向こうはじっと見ており目が離せない。

 

「ば~か」

 

 唐突に冷めた目で俺に一言。いつも冷静な虚さんとイメージが合わず青衣共々固まってしまう。

 

「少しは女心を考えなさい」

「……」

「返事っ!!」

「はいっ!!」

 

 怒鳴り声に思わず返してしまう。

 

「次、青衣ちゃんは手を離す」

「はいっ!!」

「よろしい、これで終わり」

 

 逆らえず、青衣も即座に胸倉から手を離す。つーか、ビビっていた。虚さんが勝手に終了を宣言した後は沈黙が降りる。半分立っていた青衣も大人しく座る。

 全員が無言だ。怖いとか迫力ではない。有無を言わせない切れ味鋭い何かがあった。俺と青衣も驚いているが、青い顔で一番ビビっているのは更識会長だ。

 ひょっとして、過去に何かありました?

 微妙な空気を壊したのは一本の電話だった。生徒会室備え付けの電話が鳴っている。俺は取ろうと席を立ちあがるが虚さんに制され、そのまま彼女が取りに行った。

 

「生徒会室です。ええ、どうも……外線ですか? お嬢様に?」

 

 外線か、生徒会室に掛かって来るとは珍しい。

 

「スコール・ミューゼル!! 相手はそう名乗ったのですか!?」

 

 虚さんが声を上げる。空気は一気に引き締まり緊張が走った。更識会長と青衣の目線も虚さんの持つ受話器に注がれる。

 おい、まさか亡国機業(ファントムタスク)の幹部で、実働部隊『モノクローム・アバター』のスコール・ミューゼル? 本物か?

 

「虚、変わるわ」

 

 更識会長が硬い表情で立ち上がり、虚さんから受話器を受け取る。虚さんは受話器を渡した後、自分の携帯電話を弄り出した。どこかに連絡をしているのだろう。

 

「更識楯無よ……あら、随分な言いぐさね。私はどうでも良いって訳。

 ええ、良いでしょう。聞いてみるわ」

 

 電話の保留ボタンを押すと俺の方を向く。

 

「七海君宛てよ。出る?」

「へえ……」

「受話器は持っても良いけど、受信はスピーカーにして頂戴。私達も聞きたいから」

「了解」

「それと成るべく話を引き延ばしてね」

 

 俺は頷くとスピーカーのボタンを押した後、受話器を取った。

 

「変わりました、七海緑兵です」

『初めまして、スコール・ミューゼルよ』

 

 マドカから提供された動画と同じ声だ。本物かもしれんな。

 

『エムは元気?』

「元気ですよ」

 

 未だコードネーム呼び、マドカをばらす気が無いのか? まあ、騒動になるだろうし。

 生徒会室にいる誰かが喉を鳴らした。

 

『そう、驚いたわぁ、あのエムを倒すだけでなくナノマシンから生き残らせるなんてね』

「誤算?」

『誤算よ誤算、あらゆる点を見誤っていたわ。貴方達を利用して挽回はさせて貰ったけどね』

 

 あっさりと誤算と認めた上で楽しげに笑っている。

 

「挽回とは、アメリカの件ですか?」

『ええ、貴方達のお蔭で上手く行ったわ。ありがとう』

「どういたしまして」

『ふふっ』

 

 向こうはこれもあっさり認める。意図が読めない。スコール・ミューゼルは何を考えているのだろうか。

 

「俺からも一つ」

『あら? 何かしら?』

「エムと比較して勝てると踏んだんですよね?」

『ええ』

「ご名答。試合のルールでやったら負けました。6割減らしたんですけどね。いや、完敗」

 

 スコールは息を飲んだらしい。予想通りの反応で俺の口角は思わず歪む。一方、更識会長と虚さんも目を剥いていた。おそらくスコールと同じ表情だろう。

 

「冗談抜きに国家代表クラス、専用機との相性も良い。とは言え何でも有りかルールに縛られるか、大違いでしょう?」

『そうね』

 

 マドカとサイレント・ゼフィルスは純粋に強い。

 至近距離では格闘とナイフを、接近戦と遠距離は銃剣『スターブレイカー(星を砕く者)』を駆使し、中距離はシールド・ビット『エネルギー・アンブレラ』によるフレキシブル(偏光制御射撃)が待っている。死角が無いのだ。

 互いに笑う。俺はくつくつと、スコールはくすくすと。

 何か良いな、この緊張感。楽しい。俺達の会話を聞く更識会長と虚さんは未だ困惑気味、青衣は楽しそうだ。

 

『軽いジャブは終わりでいいかしら? 楽しいけど、用件を先に済ませたいの』

「いいですよ、用件とは?」

 

 おや、向こうも同じらしい。

 

『貴方と青衣、亡国機業(ファントムタスク)に入らない?』

 

 生徒会室の空気が完全に凍った。青衣、更識会長、虚さんの3人は斜め上過ぎる話に目を見開いている。俺もそうだ。予想外、とんだカウンターである。俺が止まった間にスコールが続きを話す。

 

『貴方達にも本来の所属はあるでしょう? 其処を抜けろと言わないわ。協力関係に持っていきたいの。希望すれば正規メンバーに推薦するけどね。

 そうそう、空間転移目的の人体実験や青衣の解体もする気は無いわ。稼働データは取るけどそれはIS学園も変わらないでしょう? 仕事をこなして貰えれば良いの』

「何故、俺達を?」

『貴方達は善悪に拘る性格でない。それにルールを決めるのはいつも有利な側、でも、そのルールすら事実上……いいえ自らは違反し他者には押し付けようとする。ISは軍隊が所有しているのにも関わらず軍事作戦を禁止しているアラスカ条約なんて解り易いかしら? 馬鹿げているでしょう?』

「まあ……確かに」

『それにエムからも色々聞いている。これは貴方個人に聞くわ。IS委員会が政治で作った割り振りを無視し、亡国機業もISを保有する事も文句は言わないでしょう?』

 

 ふむ。個人としてか。

 

「俺個人の意見としては好きにしろ、って言う感じですね。最初から守る気の無いルールも制定しているんじゃあ意味が無い、馬鹿馬鹿しい」

『ああ、やっぱり思った人物ね』

 

 最初からルールを守る気は無いが、他者には押し付ける。

 俺の回答を聞いてあちらは満足している様だ。一方、虚さんは驚いている。更識会長は動きを見せない。

 

『貴方達は私達からすれば打って付けなの、来ない?』

「その話、受けることで俺と青衣のメリットは?」

『金で動く人間ならもう何処かの国なり組織なりに入っているでしょう? 高額な報酬は無意味』

「それで?」

『安全ならどうかしら?』

「安全?」

『私達と同じで貴方は最重要視するでしょう?』

「そりゃあ……まあ」

『IS学園が篠ノ之束に付いたら貴方達はどうするの?』

 

 再度、生徒会室の空気が固まる。

 

『有り得ない話じゃないでしょう? 唯一の友人である織斑千冬が教師として在籍し、可愛がっている妹も織斑一夏もいる。IS学園丸ごと手に入れようとしてもおかしくない。

 それに例の絶対命令が有る。IS学園としてもその辺りの研究をしたいでしょうし、ISを暴走させると脅せばいいだけの話。被害なんて気にしないでしょう?』

「……ふむ」

 

 少々考える。一理あるな。

 

「スコールでしたっけ? 確かに有り得ない話じゃないですな」

 

 更識会長、虚さんは此処で動揺を見せる。青衣は……頷いていた。

 

「でもさ、亡国機業につけば安全が確保できると決まったわけじゃない。違いますか?」

『そうねぇ、こればっかりはねぇ……』

 

 スコールは俺の言い分をあっさりと認めた。本当、何を考えている?

 

「それに俺達はIS学園と組んでいる。仮に其方の方が良い条件だとしても、IS学園へは俺達から持ちかけた話だし簡単に相手を変えるほど尻軽でもない。

 と言うよりも、そんな連中なら其方も信用できないでしょう?」

『……確かに言う通りね。幹部として真っ先に切り捨てるわ』

「そういう事です」

『残念、今回は縁が無かったという事ね。IS学園から切り捨てられたら是非考えて、歓迎するから』

 

 言葉とは裏腹に、電話の向こうのスコールは満足そうな声だ。

 

『これは個人的な質問だけど、一つ良いかしら?』

「何でしょうか?」

『一緒に住んでいる女性って、エム?』

 

 その言葉に完全に固まる。

 

「何故、そう思う?」

 

 数秒後に口に出してから気が付く、拙い。更識会長は目を細めているし。

 

『あら、簡単よ。貴方はエムの好みに合いそうだもの、懐いちゃったでしょう?』

「どういう事で?」

『エムは男も女も寄せつけない。それどころか全員を噛み殺しかねない狼よ。アレが誰かを好きになるなんて普通なら考えられないわ」

 

 事実だろうが酷い言い草である。次いで軽い笑い声を出す。

 

『けど貴方はある意味で命の恩人、その時点で他の人物と異なる。彼女さんと一緒に居るのも姉達……つまり女性でしょう? 男性は貴方だけ』

「確かに黒一点ですな」

 

 女性が一人しかいない事を紅一点と指す。逆だから黒一点。

 IS学園の食堂でばらした情報を得ているみたいだが内通者がいるのか? いいや、こんな事で危ない橋を渡る馬鹿は居ないだろう。

 

『内通者が居たとしても、こんな馬鹿な事で言わないわよ』

「ですね」

 

 考えている事も読まれていた。おそらく各国や企業に報告が行き、そこから入手した情報だろう。その女性を特定しているのだ。亡国機業は他を抑えて一歩先に進んでいるとも言える。まあ、大したことはないが。

 

『エムやその姉弟が亡国機業で生まれ育った経緯は聞いているの?』

「聞いています」

『それでどう思ったのかしら?』

「質問、俺と比べてどちらが人外ですか?」

『……貴方ね』

「そうでしょう? 身体能力が異様に高い事もこっちでは大したことじゃない。エムも『馬鹿馬鹿しくなった』と」

『あらあら、確かに少し考えたらそうねぇ』

 

 遺伝子強化体だからってねえ? 正直、幻想側からしたら『それがどうしたのか』となる。

 だが、スコールは満足げに肯定した。

 

『やっぱり考え方も私達に近いわ。その上に大が付く悪党』

「悪党?」

『女尊男卑になった世界をもう一度引っくり返そうと言うのだもの、掃いて捨てるほど居る主義者からすれば悪党だと思うけどね、現に半分指名手配されていると言ってもよい状況、しかも Dead or Alive(生死問わず)でしょう?』

「あ~、そうですねぇ」

 

 うん。納得である。受話器の向こうに居る相手は見えないのにも関わらず頷く。

 

「でも、エムがそう思うと限らないのでは?」

『貴方は見るからに普通っぽいもの』

「それで?」

『群がるだけしか能の無い、派手な餓鬼にエムが好意も興味も持つわけない。腐るほど見ているし私達は本職よ。寧ろ蛇蝎の様に嫌うでしょうね。

 でも貴方は先に行った通りの人物で正に異質、ギャップと言えば解り易いかしら?』

「ギャップですか」

『ええ。それにああいう子はね、一度誰かに好意を持ったら止まらないのよ、くっ付いたら二度と離れない』

 

 そう言えば、毎晩人の部屋でごろごろしていますな。べたべたくっ付くし。

 

『心当たりが有るようね。狼がワンコになっちゃったのかしら?』

 

 向こうは非常に楽しそうだ。だが、別の女の声が混じる。上手く聞き取れないが他に人がいるのだろう。

 

『ちょっと待ってくれるかしら?』

「どうぞ」

 

 保留音は電子オルゴールらしい、落ち着くメロディが流れる。此方側は誰も何も言わない。流れる音とは逆に緊張感が増すばかりだ。30秒くらいか、体感時間なら数倍に感じられたが、向こうはあっさり出て来る。

 

『御免なさいね、この辺で終わりにして良いかしら?』

「……どうしました?」

 

 更識会長を見ると首を縦に振っている。もう十分という事だろう。

 

『オータムがね、いつまで話をしているんだって』

「ああ、そう言う事ですか」

 

 スコールは同性愛者で部下のオータムが恋人だったっけ?

 

『最後、エムに伝えてくれるかしら?』

「内容次第ですが……何を?」

『裏切り者は殺さなければいけないわ。だから二度と現れるな。でも折角生き残ったのだから幸せになりなさい。

 そう伝えてくれるかしら?』

 

 面食らった。生徒会室に居る三人も同じだ。優しい言葉にびっくりしている。

 

「伝えます。それと……」

『あら? 何?』

「エムは俺も見ますので、ご心配無いように」

 

 無言。いいや、息を飲む音がした。

 

「当たりだと言っているんですよ。あれは良い女だ」

 

 次いで聞こえる笑い声。どこか上品だが大笑いだ。

 

『貴方、意外と豪快と言うか、本当に恐ろしいわねぇ』

「その割には楽しそうですが?」

『ええ、楽しいの。

 そうそう、伝言ついでに一つ頼み事を聞いてくれるかしら?』

「今回に限り、大抵の事なら聞きますよ」

 

 向こうは大笑い。俺も釣られて笑う。数秒後、笑い声を必死に抑えながらスコールが言う。

 

『エムの事、よろしくね』

「言われるまでも無く」

 

 電話が切られた。受話器を戻しスピーカーを止める。

 残るはツー、ツーという無粋な音だ。受話器を戻す。

 

「ポーズかもしれませんが……びっくり、予想外です」

「そうだな」

 

 スコール、部下思いじゃないか。そういえば、殺すなという命令を下していたんだよな。

 未だに驚いている青衣が言う事に納得だ。いや、俺も驚いた。互いに顔を見合わせ、頷き合う。

 

「七海君?」

 

 一方、笑顔だが額に青筋を立てているのは更識会長だ。虚さんは真っ赤な顔を抑えているし。

 

「スコールの言っている事、当たったわけ?」

「会話の通りです」

「掻っ攫ったってこういう事?」

「そう言う事です」

「エムさんについて聞きたいんだけど、容姿とか性格とか実力とか」

「黙秘します」

 

 嫌な沈黙が降りる。だが、数十秒後に再び壊したのはまたしても電話だった。

 とはいえ今度は俺に渡されている携帯電話から流れる電子音で、電話の着信音に設定したものである。ズボンのポケットから取り出して相手を確認すると『織斑千冬』と表示されている。

 今度はエムの実姉かよ。

 

「七海です」

『織斑だ』

 

 いつも通りの不機嫌な声である。

 

『貴様は今、何処に居る?』

「生徒会室です」

『更識たちと一緒か?』

「そうですが?」

『丁度いい。貴様へ電話が入っていた』

「……過去形ですか?」

『何時もは断るのだが今回は面倒な相手でな……掛け直すと伝えた。

 向こうが何を意図しているかはわからんが、テレビ電話を使いたいとの事だ』

「相手は?」

『イーリス・コーリングといえばわかるか?』

「イーリス・コーリング……アメリカ国家代表!?」

『そうだ』

 

 おいおい。

 

『テレビ電話の設備は一部にしかない。学園長の許可は取った。直ぐに掛け直すので指定した教室に来い』

 

 そのまま切られた。もう、悪癖だな。

 と言うか、パソコンやスマートフォンで映像付き無料通話が出来る気がするが、わざわざ学園の設備を使うのか。何を考えているのだろうか。

 俺は怪訝な顔をしている3人に電話の内容を伝えることにした。

 

 

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『イーリス・コーリングだ。イーリスで良い』

「七海緑兵です。ご用は何でしょうか?」

 

 俺に用意されたのはIS学園に多数存在する通信設備がある部屋の一つ、機材を操作するのは虚さんで部屋の隅には青衣に更識会長、IS学園側の立ち会いとして織斑先生がいた。

 マイクとカメラの付いたテーブルで、モニターに映るイーリス・コーリングに挨拶をする。彼女の口から出たのは流暢な日本語だった。金髪をショートに青い目をした白人女性で豪快そうな美人である。アメリカ軍仕様のISスーツの前面に付いたファスナーを腹まで大胆に外し肌を露出させ、下着も付けていないらしく胸の谷間が露わだ。

 痴女か?

 

『あ~、警戒されて当然だけど、今回は違うから。単なるお知らせとおしゃべり』

「お知らせ?」

『そうだよ』

「内容は?」

『焦らない焦らない。ギョウムレンラク? とは違うしね』

 

 少し警戒をする俺に対し、イーリスは軽く手を上げリラックスしている。待てという事だろう。

 

『先日の作戦はいけ好かないけどさ、狐とやりあえるかもしれないってわくわくしていたんだ。それがトンボ帰りだからな』

「狐?」

『アンタの事だよ』

 

 画面の彼女は屈託のない笑みを浮かべつつ、俺に向け指を付き付ける。

 

『篠ノ之束博士が兎で七海緑兵が狐。IS関係者で定着しつつあるあだ名だよ。資料で見た顔で安心した』

「俺の顔、知っていたんですね」

 

 まあ、資料位は作っているか。別に顔を隠して生活しているわけじゃない。

 

『兎が引っくり返した世界をさらに引っくり返そうとしている男だ。顔位は覚えているさね。

 それにティナ……ハミルトンの妹から聞いた話じゃあ本当の狐になった事もあるそうじゃないか。織斑千冬のダブル(ドッペルゲンガー)も出たと聞いた』

「良くご存じで」

 

 狐になった俺を青衣が抱えて食堂に行くまでの道にティナも居たという事だろうか。別に口止めされている内容でもない。親しいなら話していても不思議はないな。

 

『ところで、ありゃあ何だったんだい?』

 

 イーリスは小首を傾げる。

 

「狸の悪ふざけ」

『タヌキ? ……って何だ?』

 

 向こうは分かっていない。首を傾げた。ああ、そう言えばそうだった。狸は日本以外に居ないらしい。世界的に見れば珍獣だそうだ。

 

「日本固有の動物でアライグマ……ラクーンに近い」

『そりゃあ、笑う所かい?』

「事実」

『……まあ、IS学園からホワイトハウスまでテレポーテーションやる男が居るんだ。狐になってもおかしくないか』

 

 大げさに肩をすくめる。アメリカナイズと言う所か。だが、直ぐに戻る。

 

『そうそう、ホワイトハウスに来たらしいけど私と遭遇したらどうする気だったんだい?』

「その時は逃げさせて貰った」

『逃げる?』

「ああ、キングを取らなければ勝ちは無い。最強のクイーンを幾ら相手にしても意味が無い。だから逃げる」

『へえ……』

 

 チェスで例えた。クイーンは将棋なら飛車と角を合わせた最強の駒だが取っただけでは勝ちにならない。キングは将棋の王将と同じであり、それを取ることで初めて勝利となる。

 

「此方に向かう空母の中に国家代表イーリス・コーリングが居るって情報があったからな。ならホワイトハウスには居ないし、他の手練れが居ても問題ない方法を採った」

 

 俺の言葉を聞いた彼女が面白そうに笑い始めた。とはいえ、直ぐに止まる。

 

『思った通りだ。あんたは player(選手)じゃない、stabber(刺客)……いいや ninjaだ』

「絶対、忍者は認識が違うと思う」

 

 ある意味、間違った日本文化の発信と言えよう。侍に忍者、芸者何て良い例だ。日本刀だって切れ味鋭いが無限に切れる訳じゃないんだぞ。

 

『ん? 個人の名誉よりも任務を重んじて、真っ向から戦わずに諜報に暗殺を得手とする技術者集団だろ?』

「申し訳ない。発言を取り消します」

『ジャパニーズコミックを読んだだけだ』

「漫画かよ!!」

 

 向こうはけらけら笑っている。と言うか俺はそんな認識されているのかよ。

 

『それは兎も角、私も個人的にアンタの言い分に賛成でね。何もしない連中がいい気になっているのは面白くないってわけ。一度話してみたくてさ』

「へえ……」

『特権に胡坐描いている奴は役に立たないだろ? そもそも実力じゃないし。

 それに報酬目当てなら軍人じゃなくて傭兵だって』

「違いない。全面的に同意する」

 

 くっくっく、と向こうは軽く腹を抱えて笑う。全く、いちいち大げさすぎるアクションだ。

 

『ここからが本題』

「やっとですか」

『急かさない急かさない。ティナ・ハミルトンが代表候補生にスカウトするリストに入ったよ。成長速度にもよるけど、この分だと数ヶ月後に任命されるね』

「ほう」

 

 下種な想像が浮かび、思わず口元が歪む。

 

『タイミングが悪いから勘違いしてもしょうがないけどさ、安心しな』

 

 画面の向こうであちらが手で制して来る。

 

『ティナには恥知らずな命令が出たら即、言うように伝えてある。私の目が黒い内は絶対にさせないよ』

「なら安心だ。アメリカから似た様なことが有ったら俺も知らせることにしよう。

 後で軍以外のメールアドレスか電話番号を教えてくれるとうれしい」

『ナンパ……とは違うね。試すみたいで悪いけど聞いた通りの人物で安心したよ。ティナの事も考えている』

「俺は火の粉を払いたいだけですが……他にどんなことを聞いているんです?」

『見かけによらず豪胆、無茶苦茶を平然と行う男だってさ』

 

 見かけによらず、ねえ……。

 

『どうしたんだい?』

「さっき、見かけによらないとか、頭のネジが飛んでいるとか言われたもので」

『おや、ひどいことを言う者が居るもんだ』

 

 肩をすくめるイーリスに傍らに居る生徒会メンバーが軽く笑う。

 

『それに突如中止されたいけ好かない作戦、理由を国家代表の私が知らないわけないだろ?

 それに聞いたよ、危ないから自分の女を掻っ攫ったって。羨ましい事で』

「羨ましい?」

『おいおい、私だって掻っ攫ってくれるような男が居たら嬉しいって』

 

 実に意外なことを言う。俺の表情が伝わったのだろうか、

 

「……同意だからな」

『事後承諾だろ?』

「本人がオーケーしていりゃあ問題無い。違う?」

『違わない違わない』

 

 部屋の隅に居る青衣が隣の織斑先生に耳打ちする。何を言ったのか姉である彼女が凍りついた。次いで般若が出現し殺気が漂う。俺の相手が妹だという事を何も知らない虚さんがその様子に少し引く。多分、単なる嫉妬だと思っている。一方で青衣は楽しそうだ。もう、この上ない位に。まあいい、それは置いておいて更識会長!! 何でアンタまで青衣と同じ顔しているんですか!? 虚さんは二人の様子に気が付き呆れている様だが止める気配は無い。

 イーリスには此方の状況が伝わっているのかもしれない、向こうは一拍置いた後に大爆笑を始めた。10秒程続き次第に落ち着きを取り戻す。

 

『あー、笑った、笑った……』

 

 次いで番号とメールアドレスの交換だ。イーリスが所持しているスマートフォンからメールが飛んでくる。此方は青衣の携帯電話も行った。

 

『じゃあ、またな』

 

 また、ですか。面白い。

 

「では、また楽しくおしゃべりしましょう」

 

 そう言うと、向こうは吹き出した。そのまま通信は終わる。

 ああ、楽しい。

 単なる感想。スコールと言いイーリスと言い楽し過ぎる。同時に俺は起こりかねない面倒事が頭を掠める。これで何も無ければ最高だけどさ。

 

 

---------------------------------------

 

 

 数日碁、篠ノ之神社へ行く日となった。

 同行するメンバーは俺と青衣、織斑先生だ。一夏と箒だが朝に俺と青衣が住む1028室に呼び出し、白式に紅椿を持ち込まない条件で俺達と同行をするか聞いたが、ISは持ち込む上に頼らないと言ったのでその場で『倉』に叩き込んだ。二人とも予想外だったのだろう、咄嗟にISを起動出来ず『倉』へ落下していく間抜け面が印象的である。

 大分前、一夏が授業中に山田先生のラファール・リヴァイヴに潰されかけた後、即座に起動できないと危険だと伝えて訓練項目まで追加したのに。

 まあいい。『倉』は時間停止だ。どうせ篠ノ之束にはばれているし紅椿と白式から情報も取れないだろう。仮に内部で稼働し記録を撮っていたら流石にわかる。

 さて、目の前で一夏も『倉』送りになったのに織斑先生は少し驚いた程度で反発をしなかった。どうも疲れている様だ。兎に加え、箒や紅椿の件で心労が祟っているのだろう。

 

「どうせ貴様の事だ。何か意味が有るのだろう?」

 

 聞かれたので説明する。

 一夏や箒が出歩けば各国のエージェントを始めとする人間が多数動く。IS学園が有るメガフロート内は違うが、メガフロートから外に出れば監視と護衛が居る事に気が付いていない。二人が馬鹿正直に篠ノ之神社へ向かえば世界中に拙い事がバレる事だろう。正直、箒と一夏が篠ノ之緋宵と会った時も不安が残る。仮に見ていたとしても、いきなり二人が消えた位だろうが。

 とはいえ油断するわけにはいかない。記録も撮っているのは当然だろう。一度撮影され、ネットか何かを介して送ってしまえば消すのは困難だ。故に二人とも『倉』へ放り込んだ。後が面倒だから連れて行かないと言う選択肢は端からない。

 

「なるほどな」

 

 これで終わり。本当、織斑先生は変わったと思う。そう言えば『倉』送り3号が一夏で4号が箒だ。うん、1号から3号まで織斑が揃ったな。どうでも良いけど。

 そのまま夜まで日々を過ごす。一夏達は知らないと答えて置いた。

 時間になったら寮長室へ織斑先生を迎えに行き『拠点』へ空間転移、そのまま奥の和室へ向かい凍り付いた。

 

「早いわね」

「ようやく来おったか」

 

 和室にはスキマが幾つも漂い、外の世界の様子が映し出されている。日本を含んだ世界中の都市、田舎、海上、砂漠、数々の風景が映し出されており、中にはIS学園もあった。

 部屋の中心にあるテーブルに3人の女性が座椅子で寛いでいた。各自に羊羹と日本茶が入った客用の湯呑が用意されていた。完全に寛いでいる。

 俺達が固まった原因はスキマを出している紫姉さんでも巨大な尻尾を晒して眼鏡を弄っている二ツ岩マミゾウでもない。問題はもう一人だ。

 多分スキマで外の世界の様子を見ながら三人で話していたのだろう。此方の反応を見てにやにやしているマミゾウは解説役か、詳しいだろうしな。

 

「二人とも、久しぶりね」

 

 当の彼女はにこにこしながら羊羹を食べていた。うん、何が起きるから行きたくないとごねたのは俺達である。織斑先生も一度、青衣の記録で彼女を見ているからか目が点になっていた。

 

「臨海学校の時、神綺は来られなかったのよ」

「行きたかったんだけど話が急でね、夢子ちゃんから止められちゃった」

 

 長い銀髪をサイドテールにし何時もの赤い衣を纏った人物、名は神綺。魔界の創造主であり唯一神だ。流石に6枚羽は出してない。出していたらこの『拠点』が吹き飛びかねないが。

 ちなみに夢子とは神綺様に付いているメイドの魔界人だ。神綺様とっておきの娘である。多分、神綺様は夢子に仕事を押し付けた。逃げたなら夢子は魔界中を探し回っているだろう。

 

「仕事、溜まっていたんでしょ?」

「ばれた?」

「ばればれよ」

 

 これは無いんじゃない?

 俺達の驚きを見て、紫姉さんと神綺様が呑気に返してくる。

 

「紫から細かい話を聞いてね、次に外の世界の神に会うときは教えて欲しいと言っておいたのよ。いい機会だから見に来たの」

「しばらくは幻想郷に逗留するんでしょ?」

「ええ、休暇の心算よ。アリスちゃんの家でのんびりするわ。

 そんな訳よ。私の事は気にしないでね」

 

 彼女はにっこり笑うが気にするに決まっているだろ、いくらなんでも大物過ぎる。

 何かあったら外の世界に対して魔界とその中に存在する法界が敵になるぞ。幾人か会ったことがあるが、毘沙門天やらサリエルやら本気で世界中の神話クラスが存在しているのだ。

 神綺様が立ち上がり、固まっている俺達の正面まで来る。

 

「緑兵は大きくなったわね、もう私の身長を超えたか」

「……どうも」

「青衣ちゃんも制服似合うわよ」

「ありがとうございます」

 

 本人はのんびりしていると言うか呑気な性格だ。ノリは久しぶりに会った親戚である。

 

「織斑千冬さん、この二人をよろしくね」

「は、はい!!」

 

 名指しされた織斑先生が上ずった声を上げる。そう言えば織斑先生が緊張した声を発するのを初めて見た。

 

「それにしても妹さんとそっくりね、びっくりしたわ」

「マドカを知っているんですか!?」

「ええ、此処に来る前に会って来たわ。いい娘さんよ」

 

 驚く織斑先生に対して、神綺様が軽く笑う。その後ろではいつの間にか紫姉さんが立っていた。

 

「初めまして、七海緑兵と青衣を育て、送り込んだ八雲紫よ」

「貴女が!!」

「ええ、藍には会っているわね」

「え、ええ」

 

 まあ、胡散臭いからそうは見えないだろう。

 

「まだまだ時間もあるし、立ち話も何だから座ったらどうじゃ?」

「そうね」

「緑兵は貴方達の分の座椅子を、青衣はお茶を淹れて頂戴、千冬さんは此方へ」

 

 テーブルに残っているマミゾウが声を掛ける。それに促され織斑先生達はテーブルに、青衣は台所に向かって行く。俺は部屋の隅にある座椅子を取りに行く。

 

「先日は電話で失礼したのう」

「ひょっとして、私に化けた……」

「二ツ岩マミゾウじゃ、よろしくの」

 

 マミゾウが座り掛けた織斑先生に軽く笑いながら声を掛ける。彼女は軽く驚いていた。

 

「まさか、こんなに早く会えるとは……」

「また今度、そう言ったのは千冬殿じゃろう? 約束通り酒と肴も用意しておるよ。篠ノ之神社での話が終わってからのお楽しみじゃ。緑兵殿がおるから帰りは心配無用じゃて」

「ああ、楽しみだ」

 

 そうか、マミゾウがIS学園に現れた時、随分楽しげに電話を切っていたが飲む約束をしていたのか。しかし、織斑先生……外の世界の者が人外とわかっている相手と飲もうなど勇敢だね。これぞ勇気、第一歩を踏み出す事か。

 テーブルの4人は直ぐに盛り上がり始める。

 

「緑兵、座椅子を運んでからで良いからお菓子を出して」

「外の世界のお菓子なら大衆向けが良いわ。どんなものを食べているのか知りたいのよ」

「神綺殿、ここ百年で菓子も発達しておる。一般向けでも美味しいぞい」

「ふむ、私は生まれる前の話も聞きたいな」

 

 織斑先生はよくあの面子に臆さずに、混じることが出来るな。

 俺は確かに警戒心から篠ノ之緋宵と会いたくないと言った。邪魔されたので悪印象も多分にある。だが、これから予備知識無しで神綺様も混じるのだ。あちらは下手な事が絶対にできないだろう。

 楽しそうな会話が聞こえる。俺は座椅子を運びながら、ほんのちょっぴり篠ノ之緋宵に同情した。

 

 




 最後まで読んで頂き、有難うございます。

 予定になかった準備回、同時に置いてけぼりの楯無回でもあります。ここ数ヶ月、ISなのにバトルを一切書いてない事に気が付きました。それにマドカが絡むと妙に書きやすい。何故でしょうか。
 今回は女傑との会話です。テロリストの女幹部、現役国家代表が二人、止めに魔界神が登場しました。私の勝手なイメージですが神綺は戦闘向きではないが強力、温和なカリスマ性と権威から周囲が放っておかないタイプだと思っています。

 さて、書き溜めというかストックが切れました。更新は少し後になります。

 何かありましたら感想へお願いします。

-追加-
誤字脱字含め全体を校正、指摘箇所修正、夢子の記述箇所の位置修正
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