幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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39_篠ノ之の暗躍

 15分経過したが奥に引っ込んだ織斑先生達は戻ってこなかった。説明が難航しているのだろう、青衣、紫姉さん、マミゾウに神綺様と適当に話して時間を潰す。

 結局、俺達が居る部屋に4人が戻ってきたのは30分近く経過してからであった。別にそれは良いんだ。一夏と箒を落ち着かせることが優先だからな。

 少しぐったりしている箒と呆れ顔の緋宵は兎も角、興奮した一夏が荒縄で拘束され、疲労の色が濃い織斑先生に担がれながら戻ってきたのに対し俺は理解が追い付かなかった。彼が腕に付けているはず待機形態の白式も織斑先生が手に持っている。

 何があった?

 興奮覚めやらぬ一夏は俺と目が合うと更に暴れ何かを言ってくるが口を塞がれているので内容は解らない。ふごふご言われてもね。その彼を織斑先生は部屋の隅に転がした。一応、怪我をしないように気を配っているが扱いは雑である。疲れのある背中で織斑先生は嘆息するとその場に座り、俺達の方を向く。

 

「この際だから亡国機業(ファントムタスク)や、私達織斑の遺伝子強化体についても話したのだ。一夏は2回目だがな」

 

 そこまで話したのか。珍しい事に大人しく座る箒が少し反応した。多分、ショックが強かったのだろう。

 

「そこで一夏がマドカの事を思い出してな」

「記憶、戻りました?」

「いいや、言い方が悪かった。貴様達は帰郷していたが一夏が騒いだ件だ」

「ありましたね、そんな事」

 

 戻ってから面倒臭い事になったもんな、あれ。思いだし、嫌な顔になる。

 

「そのマドカがお前達と共に暮らしていると知ったら暴走した……静かにしろ」

 

 ふごふご言っている一夏は頭を織斑先生に叩かれると静かになる。酷い音がした。涙目で堪えているが俺は笑う心算はない。それだけ強烈なのである。

 それにしても、一夏は記憶が消えていようがシスコンか。姉だけでは無かったか。まあ、話してしまったのは仕方ない。

 箒が顔を上げ感情の籠らない目で俺を見る。箒も俺が青衣以外の女と同居していること位は知っているだろう。あの時食堂に居た鷹月さんとルームメイトだしな。緋宵は感心するよう目だ。すごい楽しそうである。

 

「何でそんな事を話すんですかね。面倒な事になるのは解っているでしょう?」

「仕方ないだろう、一夏が妹の行方を知りたいと言い出したのだ。他の二人も含めてな」

 

 織斑先生の言葉に緋宵が大きく、箒は小さく頷く。

 

「マドカは人質ではないかという話もあったが否定しておいた。接触もお前達を襲撃した事だろう?」

「そうです。というよりも人質取る必要無いですよね。IS学園や織斑先生とは協力体制ですから逆に不評を買うだけです」

「ああ」

 

 織斑先生が疲れた顔で頷く。

 しかし、マドカと出会ってから2月足らずか。随分前の気がする。それだけ濃いという事か。

 

「幹部直々にエムであるマドカの殺害宣言を受けた事も話した。

 お前達を通じ亡国機業の情報を流したからな、外の世界に戻ったらそれこそ命が狙われる。其方の方が安全だ」

 

 スコール・ミューゼルの電話は生徒会室で受けた。当然ながらIS学園に会話内容は報告済みである。その電話は携帯から掛けられたという事しか判明していない様だ。普通に考えてIS学園宛に電話を掛けるのに、足が付かないようにするに決まっている。

 

「それに私達は10年以上マドカを放置した。今更口出しする気は無い。強いて言うならマドカの選択に合わせるだけだ」

 

 と、ここで彼女はにやりと笑う。

 

「それに貴様がマドカの面倒を見るんだろ?」

 

 スコールとの電話は今になって思えば随分恥ずかしいことを言ってしまった。録音代わりに青衣の記録を見た轡木夫婦(学園長夫婦)がエムの件で口元を緩めていたり、織斑先生に諦めの色が混じったり、更識会長と虚さんが嬉々としていたり中々混沌とした打ち合わせだった。俺からすれば公開処刑とも言う

 織斑先生はにやにやしながら、畳に転がり俺を睨み付ける一夏の猿轡を取った。口を解放された彼は大きく息を吸い込む。

 

「七海ぃぃぃぃ!!」

「うるさい」

 

 絶叫である。俺を含め、幾人かが耳を軽く抑えた。織斑先生の平手が彼の頭に落ち、べちんという音と共に止まる。

 

「おっ、おっ、おっ、おおおお」

「お?」

 

 声を絞り出しながら、彼が再起動を始めた。逞しいな。

 

「お前、俺の妹を!!」

「亡国機業から掻っ攫った。それがどうした?」

 

 俺の言葉に対し、彼はぎりぎりと悔しげに歯ぎしりをする。

 

「外の世界に戻せよ!!」

「マドカは幻想郷で過ごす気だぞ」

 

 マドカの選択を話すと一夏が固まる。

 

「現に俺達の家に住み込み姉さん達に弟子入りした。自分の意思でな。習得するのは幻想側の技術だ。外の世界に戻る気が有るなら表だって使えないな」

 

 俺は一夏の言葉を遮る。すると彼は吃驚したような顔になった。彼は紫姉さんの方に顔を向けるが、扇子を片手に微笑する紫姉さんは軽く頷いただけである。よし、今の内に畳みかけよう。

 

「それにマドカは外の世界では社会的に存在しない人間だ。だから学校へも行けないし真面な職も無い。誰かを頼ろうとしても亡国機業以外に知り合いもいない。

 さて、どうする?」

 

 彼が俺に向き直る。

 

「戸籍や知り合いだって作ればいいだけの話じゃないか」

「そう簡単にいくか。それに此方ではもう友達がいるぞ。現に俺達が戻った時は遊びに行ったりもしている」

「……それって普通じゃないのか?」

「生まれた時から最近まで亡国機業だ。一般社会に出されたお前と一緒にするなって」

 

 気が付いたら俺の言葉には怒りが込められていた。殺気も滲んでいたのだろう。一夏、そして箒が喉を鳴らす。幻想郷の面々は一切気にしてない。お茶を飲みつつ、少々楽しげに俺と一夏の様子を伺っている。箒との間にいる織斑先生も同じだ。

 国籍や経歴も細かい事を無視するならサイレント・ゼフィルスを上手く利用すれば用立てることが出来るかもしれない。しかし、簡単ではないだろう。仮にできたとしても、また戦闘員や組織の駒扱いになるだけだ。何よりも命の危険がある。

 

「仮にその辺りがクリアされたとしても亡国機業が24時間待ち構えている。一生、逃亡生活や表に出ない生活を送らせる気か?」

「俺が」

「守ると言いたいのか?」

「そうだ」

 

 一夏が頷く。それは予想通りの答えだった。24時間張り付く気か? 軟禁しているのと大差ないぞ、それは。

 ため息を付くがそれが癇に障ったのか彼の眉間にしわが寄る。

 

「ISを、白式を使う気か?」

「ああ」

「言っておくがマドカは俺よりも強いぞ。試合をしたら惨敗した」

「「「なっ!!」」」

「ほう」

 

 驚愕の声は一夏だけではなく箒からも上がる。一方、一度内容を聞いている織斑先生も感嘆の声を上げた。嬉しそうだ。

 一夏とは何度か試合や訓練を、箒は臨海学校でデータ取りと称した試合に様なものをしたが完封している。相性はあるが実力の差も理解できるだろう。

 

「それにお前達、今日俺の『倉』に吸い込まれたな」

「……ああ」

 

 当然、これには箒も含まれる。二人に視線を移すと肯定した。

 

「マドカにも同じことをやったがアイツは瞬時にISを展開、落下を防いだ。

 当然、生身でも相応に強いだろう」

 

 二人が息を飲む。流石に意味は理解できるだろう。

 

「それに、これは戦闘でどうにかなる問題じゃない。つーか、どれだけISや腕っ節に頼っているんだよ。

 白式だって日本政府からの貸与品だ。一生持っているわけじゃないぞ」

「……」

 

 それにマドカが自由に動いた場合、ひと段落ついたら一夏と織斑先生は殺されかねないぞ。内心で追加する。

 だが、一夏は俺の言葉に考え始めた。

 

「なあ……」

「ん?」

「亡国機業を潰せないか?」

「どうやって?」

「……」

「そもそも俺達の仕事じゃないな」

 

 何かを思いついたのは良いが、それは俺からすれば無謀かつお門違いの答えであった。俺は一夏の考えを切って捨てる。

 

「なら、誰がやるんだ?」

「知らん」

「知らん!?」

「幻想側は知った事じゃないし、教育機関のIS学園がやる事でもない。IS学園所属の専用機持ちとして防衛や情報提供位はするが俺たち側から仕掛ける気は無いぞ」

 

 彼は怒りを覚えたのだろう、声を荒げるが俺はそちらも否定した。

 亡国機業は世界各国の闇に潜み、組んでいる組織だ。其れなりの歴史もある。実際問題どうすれば良いのだ? 更識家や轡木十蔵は動いている様だが、現状の俺には関係ない事である。向こうもそれは理解しているので、最低限の事以外は協力を要請してこない。

 

「重ねて言うが、マドカ本人が此方で生活する事を選択した。だから戻す気は無い。

 というか後にしないか? 今日の集まった理由と違うし、話が先に進まない」

「いいや、少しくらいなら私は構わんよ。其方次第だが話を進めたらどうだ?」

「は?」

 

 横から口を挟んだのは緋宵である。目が合うとにやりと笑った。

 

「こっちも良いわ」

「え?」

 

 今度は紫姉さんである。其方を向く。扇子を口元に当てているが目は笑っていた。マミゾウや神綺様も同じだ。

 

「話、終わらないと思うんですが」

「その時はその時だ」

 

 青衣である。俺も同感だが織斑先生が涼しげに追加する。ああ、味方は少ないのね。

 結局、予想通りに話が無限ループとなり最後は織斑先生の強制終了により幕を閉じることとなる。

 

 

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 改めて仕切り直しとなった。一夏の拘束も解かれ彼は不機嫌そうに俺から一番離れた席に座る。とはいえ白式は織斑先生が持ったままで何かあれば即座に取り押さえるらしいが。

 

「私から提案がある」

「提案?」

 

 口火を切ったのは緋宵だった。

 

「そこの二人の強化をしようと思う」

「はい?」

 

 俺と青衣を指しながら彼女が言う。だが強化だと? 何を言い出しているんだ? 疲れ切っている筈の箒が少し不満そうな顔をした。

 

「私は『強化する程度の能力』を持つ。今風に言えばスペックやステータスの向上だな。逆に相手のスペックを下げることも出来る。それが私の流儀だ」

 

 己を強化し相手を弱化するのか。実にシンプルだ。シンプルと言うのは実に強力で敵に回すと厄介である。何せ、ネタがわかっても対策できない事もある。何をどこまで強化できるか不明だが。

 

「その強化、リスクは?」

「何を、どの程度強化するかによるな。相応にリスクもあるが抑えれば問題ない」

「逆を言えば、ある程度ならほぼリスクは無い?」

「当然だ」

 

 緋宵が満足そうに強く頷く。

 

「普通は体が壊れないように制限が、リミッターが掛かっている。それを外すのにリスクが無い?」

「勘違いしているみたいだな。リミッターぎりぎりまで自由に扱えるようにすること位は造作もないぞ。これなら元々持っている分を引き出すだけ、リスクは無い。当然、時間制限もない。

 まあ、数日は筋肉痛が有るだろうがその程度だ」

「という事は、リスク覚悟なら一気に跳ねあげられると?」

「ああ、例えば筋力を数倍に強化するとする。それだけなら骨や血管が持たず体が壊れてしまうが私の場合は必要なものも一気に強化可能だ」

「リスクは?」

「私の霊力を使うだけだが、与えた霊力が切れた途端に使った分の負荷が掛かるからな。

 これは生物であれ物質……ISであれ同じ事だ。筋肉痛どころか怪我をしかねない」

 

 おいおい。逆を言えば緋宵は霊力切れを起こさなければ幾らでも強化可能という事か。今の話の通りなら『強化する程度の能力』だけでも十分すぎる。彼女が他に何を出来るかは知らないが、最低でも転移は使用できる。しかも自身の巫女である篠ノ之束とはいえ遠距離を自らの場所に飛ばしたからかなりの使い手だ。腰の刀も飾りではないだろう。何せ、篠ノ之流の剣術が有る。多分、其方も使えるだろう。

 博麗霊夢を相手にした時は相性が最悪だったからか。人間相手という事で舐め切っていただろうしアイツに攻撃は一切通じない。

 

「……それをやったことは」

「ある。というより、そこに実例が居る」

 

 緋宵が織斑先生の方を向くと視線も集まる。

 

「私だと?」

「ああ」

 

 織斑先生が目を丸くし、緋宵が肯定した。

 

「千冬の身体能力は過去の英雄たちと比較しても遜色無いものだからな、宝の持ち腐れを外し眠っている力を全て起こした。突然、身体能力が上がっただろう?」

 

 心当たりが有るらしい。唖然としている織斑先生が小さく頷いた。

 

「文字通り、神頼みが成功した例だ」

 

 織斑先生だけではない。一夏と箒も驚いた顔で織斑先生と満足げな緋宵を交互に見ている。一方、幻想側は動かない。ひょっとしたら緋宵の能力を聞いた時に半ば気が付いていたのかもしれない。そういえばマドカは白騎士事件に能力が上がっていたと証言したな。

 

「織斑先生に施した時期は白騎士事件の前後?」

「白騎士事件の少し前だ」

 

 やっぱり、マドカが言った通りの時期か。

 

「しかし、何故そんな事を?」

「束に無条件で味方してくれた。それに成功確率も上げたかったからな」

「なるほど、納得」

 

 マドカは言っていた。織斑千冬の身体能力が白騎士事件以降に亡国機業に残った者と比べて突出したと。こういうからくりだったか。

 

「それと白騎士事件、起こす事は知っていたんですね」

「当然」

 

 同時にこの発言は緋宵が白騎士事件を企んでいる事を知っていたことになる。にやりと緋宵は笑った。

 

「さっき聞くべきだった……何故、姉さんを止めなかったんですか?」

 

 今度は箒である。休憩時聞いた白騎士事件についてだろう。緋宵に向けられた声音には若干ながら怒りが籠っていた。

 

「止める理由だと? 何かあるか?」

「え?」

 

 しかし、緋宵はあっけらかんと返す。それにより箒、そして一夏と織斑先生は戸惑いを見せる。

 

「成功させれば問題無い。現に成功しISは認められた。それにより巫女である束を介し篠ノ之神社に信仰も再び集った。

 女尊男卑は私にとっても予想外だったがその法は人の政治家が作ったもの。原因となった束の命令は兎も角、人の世の法律まで責任は持てん」

 

 緋宵の発言に箒は再度唖然としたようだ。

 

「ですが!!」

「篠ノ之神社の内輪揉めは後でやってくれない?」

 

 俺は腰を浮かせ抗議を始めた箒を止める。唯でさえ時間を食った。これ以上、本筋から逸れた話に時間を割きたくないのだ。

 

「神は信仰を得ることが主体だ。妖怪は畏れ。例外もいるけどそれらが力の根源だから。人間と同じ考えだと思わない方が良い」

「しかし……」

「言わば自然災害と同じだ。それを敬うか恐れるかその違いにすぎない。人間はそれをどうやりすごすか、または対策するかだ。

 どっちにしても後でやってくれ」

 

 緋宵は俺の言葉に頷き、箒は渋々腰を下ろす。

 ん? 自然災害……天災? 篠ノ之束の考えって人間と言うより神に近いのか?

 

「私の能力を使った実例だったな」

「ああ」

 

 危ない危ない。考え込むところだった。

 

「白式と紅椿は済んでいる。束は見事だったが現状でも伸び代が存在した」

「ちょっと待て!!」

 

 思わず突っ込む。白式と紅椿!? 強化済みだと!!

 

「……織斑、篠ノ之」

 

 地の底から呻く様な声を発したのは俺ではない。顔を引きつらせた織斑先生が首をゆっくりと動かし、隣に並ぶ二人を見た。幽鬼だ、幽鬼がいる。

 

「今の話、本当か?」

「ほ、本当です」

 

 織斑先生の様子に箒は泡食いながら、一夏は慌てて首を縦に振った。織斑先生はその肯定に眩暈を起こしたらしい。額に手をやった。顔が半分手で隠れ表情が伺えなくなる。

 

「……またか」

「また?」

 

 ぽつり、彼女が感情を感じさせない声で漏らす。首を傾げる一夏と箒は解っていないようだが俺はその一言で理解してしまった。

 

「……お疲れ様」

 

 沈痛な面持ちの紫様が隣の織斑先生の肩に手を添える。マミゾウも似た様は表情で頷いていた。

 

「わかってくれますか?」

「ええ」

 

 俺も理解してしまった。多分、青衣も。

 一夏がISを動かした件、更に臨海学校では箒が紅椿を受け取った事と適性がSになったことにより忙殺された。俺達の時は、事前に対策が取れたから何とかなかったと信じたい。

 青衣は深いため息を付き、紫様とマミゾウは同情するような目線を織斑先生に向けた。多分、俺もそうだ。仕事をしている以上、進めなくてはいけない作業がある場合は俺も徹夜することはある。外の世界に出て以降は……IS学園入学以降もあったな。頭の中に詰め込むだけ詰め込んだ。

 

「山あり谷あり、乗り切れば楽になるわ」

「ありがとう」

「うん」

 

 神綺様はいつの間にか織斑先生の背をさすっている。礼を言っていた。

 世界唯一のブリュンヒルデという頂きを登った以上、谷は転がる一方な気がするが無粋な突っ込みは止めておこう。

 

「千冬姉?」

「どうしたんですか?」

 

 一夏と箒は理解していない。まあ、しかたないか。自らの責任で仕事をした経験はないだろう。これは年齢も一切関係ない。

 

「具体的に、白式と紅椿の何を強化したのですか?」

 

 気を取り直したらしい織斑先生が顔を上げて緋宵に問いかける。その答えは俺も知りたい。ここ数日、二人がISを動かすのを見ていないのだ。多分、他のアリーナに居たのだろう。いいや、織斑先生というかIS学園に強化されたことが伝わっていない事から考えると動かしていないのか?

 

「全体的な性能を向上させたが白式はエネルギー量の増加、紅椿は装甲に力を入れた。

 最良のメンテナンスをしたと思ってもらえればよい。効果は格段に上だがな」

「……そうですか」

 

 得意気に大きな胸を張る緋宵に対し、がっくりと織斑先生が肩を落とす。ああ、スペックが向上すればするほど厄介になる。

 これで世界中からの更なる問い合わせにより仕事が増える事は確定だ。しかも真相は話すわけにいかず、仮に話しても誰も信用してくれないと言う落ちまで付いている。こうなっては解決策が無いだろう。本当に、心の底から同情しよう。

 残業地獄に落とした2人は戸惑っている。多分、紅椿の件でIS学園関係者がどれだけ大変だったか知らないのだろう。緋宵は知った事では無い。

 たった今、思い出したが一夏はバイト経験があるんだったな。どんな仕事だろうが責任が付いて回ること位理解出来るはずだ。何故、一夏はこんなに察しが悪いんだ? 本当、自分に好意を持っている女が居ても鈍感なのに、更に女が寄って来るんだ? 外見か? 血縁か? 天然のフェロモンでも撒いているのだろうか。

 

「雑音を気にしておるのか?」

 

 呆れ顔の緋宵である。やっぱり彼女は気にしない。

 

「雑音……」

「そんなもの、叩き潰せば良い」

 

 唖然とする箒に緋宵はあっけらかんと言う。力任せとも言える方法だ。

 俺は何となくだが篠ノ之の姓を持つ者の考えが見えてきた。高い性能と技術を活かしたゴリ押しだ。おそらく篠ノ之緋宵から始まっているのだろう。

 

「話、変えません? さっきも言いましたけど、本筋とずれている」

 

 だめだ、俺の思考もループしている。強引に話を変えることにした。

 

「ああ、お前と青衣の強化だったな」

「ええ」

 

 といってもね、どうしましょうか。

 

「俺と青衣は場合によっては篠ノ之束を殺す立場だ。いいのか?」

 

 音を立て誰かが立ち上がろうとした。多分、箒と一夏だ。

 横目で確認すると、織斑先生が二人を手で制していた。紫様とマミゾウ、神綺様は面白そうな笑みを浮かべ、青衣は俺と緋宵を見ているだけだ

 

「だが、お前達は最終手段としているだろう?」

「次、手段を選ぶ気は無いが?」

「別にかまわんよ。対応できないほど束は弱くない。知っているだろ?」

「まあね」

 

 実際に篠ノ之束と戦ったのだ。アレは強い。それに不意打ちに成功したとしても、ダメージなら無効化するだろう。

 

「それに束は最大限まで広げておるからな」

「……更に篠ノ之束は『全てを変化させる程度の能力』で織斑千冬を解析し、身体能力を跳ねあげている。だから全く鍛えてないのに超人的な身体能力を得た」

「その通り。先に行った通り、英雄と言っても差し支えない身体能力だ」

 

 俺に言葉に緋宵が頷く。一夏と箒は織斑先生と緋宵を交互に見て、織斑先生本人は自分の手を見つめていた。

 さて、どうしようか。緋宵は曲がりなりにも協力するのだ。だというのに伸ばしてきた手を即弾くのは宜しくない。

 それに篠ノ之束は天災と言われる頭脳に加えて強力な能力持ち、術も多数使用できるだろう。その上、その能力を用いて遺伝子強化体の身体能力まで手に入れた。訓練をさぼる事による劣化や衰えも無い。冷静に考えると恐ろし過ぎるスペックだな。

 

「……確かにこのまま挑む方がリスク高い」

「そうだろう? 私も見たいからな」

「見たい?」

「お前達が束に対し何処まで出来るかを」

「へえ……青衣は兎も角、俺に対して甘くないですか?」

「薄々、感付いているだろう?」

 

 緋宵の口角が歪む。人の悪い笑みだ。

 

「気が付いたのはついさっき、休憩中だけどね」

 

 何となく思った。何となく気が付いてしまった。

 

「ずっと勘違いしていた。俺の能力が暴走していようが篠ノ之神社に置いてあった青衣……ISコアが空間転移に巻き込まれるなんて起きるはずが無い。

 何せ、訪れたことの無い此処の結界内にあった。結界内を把握している今なら入り込めるが、当時は扱う事すらできなかった。引き寄せることも無理だ。だとしたらISコアは別の誰かが飛ばした事になる」

「それで?」

 

 緋宵の笑みが少し、ほんの少し深くなる。

 

「臨海学校では篠ノ之束を手元に引き寄せたな。空間に干渉する術を持っているわけだ」

「……ほう」

「だったら答えはこれしかない。篠ノ之緋宵、アンタが俺と青衣を幻想郷に送った」

 

 緋宵の口角が今度は大きく歪み、完全な笑みの形になった。

 またしても誰かが動く。今度は青衣だった。驚愕し腰を浮かせた青衣を隣の織斑先生が手で制しているが、本人も表情は硬く鋭い目を緋宵に向けていた。

 

「厳密には違うな。私は能力の発生と暴走を察知し転移先を安全な場所に到着するように誘導しただけだ。束が放棄し未だ半壊したISコア……そこにいる青衣も送る形でね。幻想郷なのは予想外だ」

「そうですか」

 

 裏を返せば其処以外、緋宵が行った事だったわけだ。

 

「けど、動機が解らない。俺を知っていた事も」

「簡単だ。お前の母親は白騎士事件後、何度も熱心に参拝に来た者の一人だ。お前も一度来ている。それにお守り位は家に無かったか? 私はそれで気が付いたのだが」

 

 俺が来たことある? そういえば、結界を探知した時、本殿の裏まですんなり行けたな。しかし思い出せない。

 

「……駄目だ。覚えてない。本当に来たことが有るのか?」

「あったのだ。臨海学校も似た様なもの、そこにいる箒に加え束が全力を出したから何が起きているか把握した。

 仮にも信者の息子、死なないように暴走状態から行先を安全な場所に誘導した。流石に幻想郷は予想外だったがな」

「……なるほどね。俺は礼を言うべきか?」

「別にいらんよ」

 

 くくっ、互いに皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「それで何故、青衣を?」

「気まぐれだよ。物置で腐らせるよりも適当な者に渡す方が有意義だと思ったからだ。それで放り込んだ」

「なるほど」

 

 気まぐれ、か。神らしいと言えば神らしい。

 

「どうする? やるか、やらないか。お前が決めろ」

 

 緋宵が聞いてくる。

 ふむ……どうしようか。神綺様も立ち会っているし変な事には成らないか。

 

「よし、やってくれ」

 

 

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 背後に回った緋宵が俺の背中に手を当て即終了。体が熱くなり高揚した様な感覚に襲われるが直ぐに消える。呆気にとられていると今度は青衣が本体を要求された。其方も渡し直ぐに終了、あっさり返却される。

 

「へぇ」

「やるのう……」

「おお~」

 

 その早業に幻想側は感嘆の声を漏らしていた。一夏達は何が起きたのか解っていないが、それは仕方ないだろう。

 

「どうですか?」

 

 同じく緋宵から施術された青衣が俺に聞いてくる。彼女も少し困惑している。

 

「霊力量と……出力も上がっている。そっちは?」

「私も魔力量が上がって、ISとしての容量は1割増えた感じですね。体も軽いです」

「俺も体が軽いな。凄いぞ、これ」

 

 細かい点は調べないとわからないが、霊力は2割増しってところか?

 御世辞でもなんでもない。ガチで凄い。何が凄いって早い上にリスクが少ない。それでこれか。

 

「そうだろう、そうだろう」

 

 得意気に俺の正面に座り直す緋宵だが、言うだけの事はある。

 

「とはいえお前の瞬発力は殆ど上がっていない。完全な持久力寄りだ」

「……やっぱり?」

 

 筋肉は白筋と赤筋に分けられ、その割合は遺伝で決まるらしい。白筋が瞬発力、赤筋が持久力だったか。

 

「剣か棒を振る様だが、そこは地道に鍛えるしかないな」

「そこまで解りますか」

「ああ、それも宙を舞い、空を蹴る事が前提の流派だろう? 其処に居る箒や過去に居た篠ノ之流の門下生と筋肉の付き方が違う」

「……ばればれですか」

「当然だ、私を誰だと思っている」

 

 向こうがにやりと笑う。

 この辺りを知らない織斑先生は興味深げに、一夏と箒は驚いた顔で俺を見る。

 

「お前の様な人間は此処百年、見ていなかった。実に懐かしいな」

 

 緋宵の機嫌が良い。

 

「ちょっと見ただけで其処まで解るんだ。武道やスポーツにご利益があるって宣伝した方が」

「そんな事は数十年前からやっておる。現代の人間には届かんよ」

 

 飄々としながらも、緋宵が世知辛いことを言う。まあ、そうかもしれないな。

 

「さて、他に何かあるか?」

「他に……本題は無いか」

 

 気を取り直した緋宵が俺に問いかける。

 

「他にはあるような口ぶりだが」

「ありますよ」

「何だ?」

 

 俺は『倉』を開いてそこからあるものを取り出す。それを見て緋宵は少し嬉しそうな顔になる。

 

「前回もそうだが、最後はこれか?」

「そうです」

 

 緋宵がお猪口で飲む仕草をする。俺の手にあるものは酒瓶であった。

 

 

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 篠ノ之神社の縁側と今まで使用していた一室を借り、そこで軽く飲むこととなった。皆と机を並び直した後『倉』から酒につまみ、食器等を一通り置く。神との直接対談で座りっぱなしだったことも有り少しリラックスしたい。青衣は緋宵と話し始めているので俺は一人、靴を履き庭に出た。体を軽く動かすとぽきぽきなる。

 

「七海」

「ん?」

 

 背後から声を掛けられたので振り向く。声を掛けてきたのは一夏、隣には箒で立っていた。既に白式は彼に戻され箒は最初から紅椿を所持している。一方で俺は丸腰だ。警戒はしておこう。それだけの意味もある。

 

「千冬姉が白騎士だって知っていたのか?」

「ああ、寧ろそこがスタートだ」

 

 あっさり頷くと二人とも動揺する。

 

「青衣の記憶と簡単な調査で織斑千冬が白騎士だと確定させた。自作自演である事もな」

「……それで?」

 

 硬い顔で彼が言う。

 

「それで、とは何だ?」

「お前は千冬姉をどうする気だ?」

 

 彼は声を荒げている。姉が心配なのだろう。でも、お門違い。

 

「別に? 俺達、幻想郷側は何もする気は無いが」

「何もしない!?」

 

 二人が驚いている。おいおい。寧ろどうすると思ったんだ?

 

「ああ……正確にはマドカ以外と言うのが正しいか。その辺の話は聞いているだろ?」

 

 一部訂正する。

 

「だけどマドカ以外? 他に居るのかよ?」

「お前達だって、織斑先生が白騎士だと疑ったこと位あるだろう?」

 

 質問に対し、逆に問いかけると一夏は固い顔で頷いた。

 

「当然、IS学園も把握している。全て終わった後、織斑先生本人も含め、一生この件を黙るか公開するか決めるだろう。どっちにしても俺達はその決定に関わらない」

 

 まあ、決定的な証拠は無いだけで疑われ続けるだろうが。多分、その内ばれる事は二人に言わない。単なる予想だからな。

 

「じゃあ……幻想郷が千冬姉に何かすることは」

「無い。つーか、有力な協力者に危害を加える訳がないだろう? 信用問題になる」

 

 別に事態が解決したら俺達がタッチする事でもない。裏を返せばIS学園が糾弾しようとも、織斑千冬本人が公表しようとも一切手を出さないという事だ。

 俺の回答に二人は黙ったままだ。表情を見る限り納得がいかないらしい。

 

「そうだな……多種多用の中でそれぞれの結び付けるものが信用や信頼以外にあるか?」

「……ない」

「そういう訳だ」

 

 渋々と一夏が頷く。納得したかはわからない。

 

「……何故だ?」

 

 今度は箒だ。胡乱毛な表情で問いかけてくる。

 

「白騎士事件によりISが認められた。それにより女尊男卑が発生し、貴様の家庭……七海家は崩壊した。違うか?」

「違わんな。事実だ」

「ふざけるな!!」

 

 ここで箒は表情を一変させる。隣に居る一夏が驚愕する位に。

 

「何故だ?! 何故恨まん!!」

「大事の前の小事」

「な……に?」

 

 箒が声を荒げるが、目が合った瞬間にどもる。傷つくなぁ、そのリアクション。

 

「何だよ。俺が恨んでないとでも思っているのか?」

 

 二人は更に一歩後にさがるがそれ以上は反応をしない。だから続きを話す。

 

「でもさ、使われただけの白騎士を討ったところで何の価値がある? 意味など無いだろう? 潰すなら大本だ」

 

 俺は首を縦に振るが、二人は一体誰を、いいや何を見ているのだろう。何かおかしいし。

 

「ああ、一夏、マドカは白騎士の妹でもあるが俺からすればそんなのどうでも良い。マドカはマドカだ。仮に織斑先生が裏切っても危害は加えることは絶対に無い、理解したか?」

 

 かくかくと、青い顔をした一夏が頷く。箒は一歩後ずさったまま動かない。だが、警戒も解かない様だ。何か的外れな気がするが。

 

「そういう訳だ篠ノ之束、俺達は敵対しない限り危害を加えることは無い。

 同時にマドカも一切無関係だ。存在を知った……思い出したからって手を出すなよ」

「え?」

「姉さん?」

 

 静かに篠ノ之束に問いかけると二人が困惑する。

 

「白式と紅椿のデータを通し内容を聞かれるに決まっているだろ? 織斑先生に此方側の4人が静かだったのは2つのISを警戒していたからだ。リアルタイムで聞いて、制御を奪い大暴れっていうことも考えられたからな。銀の福音みたいに」

 

 完全に気が付いていなかったらしい。二人は見るからに動揺し腕に付けている待機形態を見る。

 

「という訳だ。可能ならデータを消してくれ。復元されそうだけど」

 

 多分、兎なら可能だろう。まあ、いいや。

 今は宴会に提供するつまみだな。温かい料理がもう一つくらい欲しい。体が冷えすぎる。

 

「ところで二人とも、温かいものを出そうと思うが、幻想郷の野菜、獣肉、川魚、何が食いたい?」

 

 さて、目の前で身構えつつも困惑気味な一夏と箒もようやく理解した。緋宵ですら俺達に協力することになった以上は動くはずだ。協力者が増え兎の味方が徐々に少なくなっている。これで解決の見込みが上がるだろう。

 しかし、俺には何かへばりついている様な、嫌な不安感は拭えなかった。心配性だろうか、俺は。

 




 最後まで読んで頂き、有難うございます。

 ようやく後編が終了。『大体、束のせい』ではなく『大体、篠ノ之のせい』というのが真相でした。今回で背景の中心部分は粗方だせたと思います。それと緋宵は本気で強いです。主人公に勝たせるに困る位。前回は相性最悪な上、相手が多すぎただけ。

 さて、書き溜めは相変わらず切れています。次話はいい加減誰が何を知っているのか複雑化してきたので簡単な纏めにすると思います。話か、箇条書きの説明文にするかも決めていませんが。

 何かありましたら感想へお願いします。

-追加-
感想にて指摘された箇所を含め誤字脱字、マドカとの試合の千冬反応修正、感想より強化を受ける前に一文追加。
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