幻想のIS   作:ガラスサイコロ

45 / 45
誰が何を知っているかの簡単な纏め

幻想郷を知らない
●表の目的(女尊男卑の撤廃)を把握済み
 目的として公表・報道しているのでIS関係者は全員

●半信半疑ながら『幻想』という言葉を聞いている
 臨海学校参加者(一年と教員)と報告を聞いた関係者

●能力持ちを把握済み(千冬が話し、口止め)
 鳳鈴音、セシリア・オルコット 、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ


幻想郷を知っている
●裏の事情も把握済み(紫と藍、両方に遭遇)
 織斑マドカ、織斑千冬、更識楯無、篠ノ之緋宵

●裏の事情も把握済み(紫と遭遇)
 布仏虚、織斑一夏、篠ノ之箒、学園長、轡木十蔵


●エムの存在は把握済みだが織斑マドカの存在は知らない
 学園長、轡木十蔵、更識楯無、布仏虚

●エムが織斑マドカであることを把握済み
 織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之箒、篠ノ之緋宵、亡国機業(ファントムタスク)の関係者




39.5_宴の夜

 中途半端。

 幻想郷は幻想世界において最も外の世界に近い。それは正解であり、ある意味で間違いである。幻と実体の境界と博麗大結界、この2つ結界により隔離されているが外の世界と陸続きなのだ。故に幻想世界でありながら最も外の世界に近いイレギュラーである。

 俺はどうだろう?

 幻想側に立ち位置を持ち、外の世界では最新鋭の学園で学ぶ外れ者である俺はどうなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 飲み会も少し経ち少々酔いが回ってきた。緋宵が嬉々として酒を提供してきたことも有り俺も飲んでいる。各卓上に置いた大きめの七輪で焼いている椎茸や野菜類を引っくり返しながら酒を一口飲んだ。

 旨い。緋宵が出してきた酒は上物だ。少々辛口ながら、水の様に軽く飲めるそれを味わう。

 この場には卓が2つある。俺と青衣は一夏や箒と同じ卓、云わば年少組だ。もう一つの卓は大人組と言うか年長側、まあ、実年齢で考えたら織斑先生も俺達と似た様なものだが。つーかこの人、順応性が凄い。やっぱり白騎士事件抜きでも英傑だ、この人。

 俺と青衣は酒を飲んでいるが一夏と箒はウーロン茶、つまり素面である。臨海学校で俺達の飲酒を見たからか、今回は何も言わない。俺はIS学園組を寮まで送る以上飲みすぎる気は無いが。

 この二人に俺の仕事や剣について少々聞かれた。向こうが背景を知ったことで特に隠す必要が無くなった俺はある程度話す。

 

「七海は幻想郷の結界を管理する仕事と束さんの件を担当して、青衣さんは束さんと……」

「外の世界から流れ着いた物が安全か解析することですね。私にはISとしての解析機能が有りますから外の世界の代物なら可能です」

 

 正面に座る一夏が俺達の仕事に吟味する様に言ってくる。仕事内容は彼の認識の通りである。右隣の青衣が頷くと一夏は視線を青衣から俺に移した。

 幻想郷を包む博麗大結界の管理は紫姉さんと藍姉さんが行っている。だが、紫姉さんは一日の半分は寝ているし藍姉さんは他の仕事もある。俺の能力は『空間を操る程度の能力』であり結界との相性が抜群だ。俺が任せられている結界の仕事内容は二人からすれば簡単な部類のだろうが、多量にあるそれが無くなるだけでも負担は減る。まあ、俺に知識と技術を仕込む時間も有るのでどこまで相殺されたかはわからないが、先の事を見越すなら悪い手では無い。

 余談だが、IS学園における俺の学業の成績は赤点こそ免れているが下の下だ。しかし、数学に限り学年で10番以内に入る。結界関連は数字を扱う、副産物だ。

 

「緋宵様が言ったのは冥界の剣か」

「ああ」

 

 俺と同様、二人の話を聞いていた左隣の箒が俺に話しかけてくる。

 

「魔力を用い高速飛行を持つ、正真正銘の人外が興した流派だ。俺が人間である以上は生身で全てを扱えないがISを使う上ならぴったりだろ?」

 

 人間がISを纏うと当たり前だが身体能力は跳ね上がる。故に身体能力の高い上に技まで追求した人外が扱う剣を習得したのだ。発案者は藍姉さんである。まあ、紫姉さんと冥界にある白玉楼の主人、西行寺幽々子様の関係性を考えると手短でやり易い面もあるが。

 

「空を自在に飛ぶ術は?」

「兎とのやり取りを見ただろう? 幻想側は飛べる者が多いから三次元戦闘、慣れが大きいな。スラスター等の操作は違ってくるけど」

「……」

 

 聞いてきた箒の額にはしわが寄っていた。目つきも険しい。彼女からすれば俺達と兎の直接戦闘が初めて幻想側の存在を認識した瞬間だ。実の姉でさえ人間か疑い俺に聞いてきた程なのだ。

 そこで俺は以前に感じた、彼女の変なこだわりを思い出した。

 

「言っておくが此方では蹴りに投げ、妖術に飛び道具、何でも有りに近い。俺自身も空間操作を介した方法が主、剣も扱う武器の一つにしか過ぎないぞ」

「剣も手段と割り切っているのか?」

「ああ、唯の武器だ。剣術もその武器の一つでしかないぞ」

「……誇りが無い事に合点が言った」

「誇りねぇ」

 

 お前はあるのか? まあ、いいか。俺に無いのは事実だしな。

 

「俺は兎も角、師の方にはあるぞ、誇りってやつは」

「貴様を見ていると、そう思えないが?」

「何も無ければ何十年も棒振りに費やさないだろう?」

「棒振り……」

 

 箒がウーロン茶の入ったグラスを口元に運ぶ。少し飲んだ後は何かを考えているらしい。

 

「半人半霊か?」

 

 緋宵の声が此方に混ざる、というか彼女は転移で俺と箒の間に現れた。箒が驚き腰を浮かせる。当の緋宵の顔は少し赤くなり手には酒の一升瓶、ゆっくり左右に動く彼女は明らかに酔っぱらっていた。意外と弱いのか?

 

「ほれ、神の酌は受けれぬか?」

 

 にやにや、青衣の色違いがそこに居た。

 青衣を見ると、彼女がそっくりな顔でそっくりなチェシャ猫笑いを浮かべている。血縁……では無いが、二人には確かな繋がりが合った。ならば俺の負けは見えている。中身の入ったグラスの中身を一気に煽った。

 

「おっ」

「え?」

 

 半分以上残っていた中身は、俺の食道から胃に掛けて熱くしたが直ぐに収まる。

 うん、緋宵の酒はやはり旨い。緋宵は楽しげに、箒は驚きの声を漏らすがどうでもいい。俺は満足半分、グラスを彼女に向けると素直の緋宵が酌をした。

 

「では、有り難く」

 

 軽く礼をして、其方を半分程口にする。飲み過ぎた気がするが……もう、酔ってるかな? 俺も。

 

「ふむ、面白い」

 

 一方、緋宵は値踏みするような視線を俺に向けていた。余り心地よい視線ではない。酒に酔っているからであろうか、思考パターンも少し変わる。要は『気に食わない』。

 

「待て待て、話はお前の剣だ」

 

 俺の反応に気が付いたのだろう、彼女は手を軽く振る。多分それで正解、俺も止まる。

 

「銀髪をおかっぱに近い髪形にした、半人半霊だろう?」

「妖夢先生も来たんですか?」

「やはりあの者か。相手をした時の動きがよく似ていた」

「そうです」

 

 緋宵が頷く。

 当然、俺と兎の戦闘は見ているはずだ。後は経験の差、あっさり気が付かれた様だな。

 

「しかし、お前の周りは面白いな」

「それは幻想郷に集まる面子ですか?」

「それもそうだが、今回は違うな」

 

 言うと、緋宵は俺の対面に座る青衣を見る。一夏と話していた青衣は視線に気が付いて此方に顔を向け、釣られて一夏も此方を向く。

 

「そこに居る青衣は私達篠ノ之の者……というより束に似ているな」

「似てますね」

 

 緋宵は今度、隣の卓に居る織斑先生に視線を移す。俺を含んだ此方の卓の面々もそちらを見た。

 

「織斑マドカ、彼女は千冬にそっくりと聞いた」

「そうですよ」

 

 そこで緋宵がくくっと笑う。紫姉さんやマミゾウ、神綺様と話している向こうも気が付いたらしい、一度目が合う。

 

「面白いだろう? 束と千冬に似た人物が同じ屋根の下にいるのだ」

 

 面白い……か? それに中身は大分違うぞ。

 緋宵は楽しげだが俺は内心で首を傾げる。ひょっとしたら彼女はISが発表される前の織斑千冬と篠ノ之束を思い出していたのかもしれない。

 

「青衣さん、マドカってそんなに千冬姉に似ているのか?」

「ええ」

 

 一夏だ。青衣に確認するように求め、何故か少し慌て始めた。箒も似た様か何時で此方を見ている。

 

「あら、青衣が居るなら見てみたらどう?」

 

 神綺様だ。彼女にも聞こえていたらしい。隣りの卓から青衣に声を掛ける。

 だが、一夏は神綺様の言葉を理解していない。箒も首を傾げていた。

 

「青衣さんって写真か何か、持ち歩いているのか?」

「違います。記録ですよ、ISですからね」

「記録?」

 

 ああ、そう言えばそうだった。二人は知らないのだ。確かに幻想側を知っている者と、IS学園へ無人機が襲撃した件で関わった者しか知らないだろう。べらべら話す事柄でもないしな。

 緋宵も知らないと思うが彼女の表情に変化はない。年季の差だろうか。

 

「お前、何を考えた?」

「そう言えば、一夏達は知らなかったな、と」

「そうか?」

 

 緋宵が感づいたらしい。誤魔化す。危ない危ない、女の感は鋭い。

 そんなやり取りをしていると、青衣が記録を呼び出した。楕円で薄い白い空間が宙に浮かぶ。それを見て一夏と箒は驚き、緋宵は感心したような声を漏らした。

 

「家の中はプライバシー的に……適当に出かけた時で良いでしょうか?」

「良いわ」

 

 神綺様が何かを期待するような顔で頷いた。

 というか、プライバシーと言っても織斑先生には色々見せただろう。今更な気も……ああ、同棲の実姉と男性である実兄に加え他人では勝手が違うか。

 それにしても何だろう、嫌な予感がする。

 

「これが幻想郷?」

「ええ、幻想郷にある人間の里です」

 

 青衣の記録に映し出されている風景を見て、一夏と箒が戸惑いの声を漏らす。

 歩く人々の多くは着物や袴と和装で、子供は元気に走り回っている。木製の建物が並び地面は整地されているが土、小さな水路に掛かる橋はコンクリでは無く木で作られ赤く塗られていた。

 

「まるで時代劇だな……」

「いいや一夏、電灯があるぞ」

 

 一夏達からすれば時代劇の様で、しかし映る並ぶ商店や民家には電気の明かりが有りさぞ奇妙に感じているだろう。だが、どれもこれも現代の日本では珍しい。

 

『ん~と』

 

 青衣の声と共に視点が下がり彼女が持ったメモを映す。

 

『数日の献立 米少ない 味噌 備蓄用の乾麺と干し野菜』

 

 唯の買い出しである。確認を終えた青衣が背後を振り向くと袴姿での俺とマドカが並んで歩いていた。

 

「え?」

 

 一夏の目を見開くと少し腰を浮かせ記録を凝視する。箒も似た様な反応だが、彼女は驚きながら何度も隣の卓に座る織斑先生の顔と青衣の記録を見比べていた。一方、緋宵はにやり笑う。箒も緋宵も、中高生時代の織斑先生を知っているからな。

 記録に映る俺達は幻想郷では何時もの格好だ。周囲に溶け込んでいる。俺より頭半分程背が低いマドカの手には空の買い物籠が、俺は野菜類の入った袋を抱えている。人里の中だからな、空を飛ぶよりも歩き回ることの方が多い。それに米俵の様な重量物でもない限り『倉』の様な能力使用は気が引けた。使うべきときは躊躇しないが。

 過去の俺とマドカは取り留めのない話をしている。というよりも青衣が買い出しを張り切って先行しているだけだ。

 

「顔はそっくりだが性格はどうだ?」

「別物です。当たり前でしょう?」

「それはそうだな」

 

 緋宵からの返事を返すとからからと彼女は笑い始めた。まあ、多少髪型が違う程度だからな。良く見るとくせ毛でもある。

 

「な、七海?」

 

 声が上ずっているが一夏だ。動揺を隠しきれないまま俺の方を向く。彼は何やら口を動かしつつも赤くなったり青くなったり忙しい事になっていた。

 

「どうした?」

 

 応えるが一夏の反応が変だ。返答したのにも拘らず、百面相で記録と俺を何度も交互に見ている。

 

「しかし、千冬さんに似すぎだろう……」

「最初、私も驚いたな」

 

 箒が記録を眺めながらぽつりと呟き、聞こえたらしい織斑先生が答える。此方はつまみを口へと入れている。のんびりしたものである。

 

「千冬と一夏も十分似ている。女なら尚更似ているだろうよ」

 

 そこに緋宵が混ざる。まあ、この3姉弟は良く似ている。一夏が女顔で髭が薄い事もある。

 記録の中の俺達は、マドカが茶屋を見て家の茶葉が切れそうなことを思い出していた。少し話した後は何時も購入している店へ足を向ける。

 

「首飾りは? 千冬さんの話だと体一つで幻想郷へ行ったのだろう? 以前から付けていたのか?」

 

 流石は女の子、箒が目敏い。青衣と紫姉さんは無言でにやにやしながら俺を見るな。そして他の面子も釣られて俺に視線を向けないでくれ。

 

「七海、お前か?」

「……ああ、俺が贈った」

 

 戸惑いを隠せない箒に俺は返す。事実だしな。肯定すると驚いた様だ。目を見開き、表情が変わる。笑みだ。

 

「何だよ、文句あるか?」

「いいや、だが」

「だが?」

 

 箒の口の端が少し伸びる。さっきの緋宵とよく似た表情になる。

 

「貴様は機微に気が付かないと……」

「おい」

 

 俺を何だと思っているんだ、箒は。というかお前が言うな。

 その一方、一夏は奇妙な行動を取り続けていたが突如止まる。目は見開かれ固まったままだが眼球だけを俺へ向けた。

 嫌な予感がする。暴走しがちな男でもある。警戒をしておこう。

 

「青衣、本当に一緒に住んでいるのか?」

「住んでますよ」

 

 少しばかりの戸惑いを含んだ箒の声に青衣が答え、俺は『空間を操る程度の能力』を発動させた。

 反射的だった。だが、正解だった。一夏だ。彼がゆっくり立ち上がり、一歩を踏み出した。

 

「え?」

 

 だが、足を動かしても全く進まない事に気が付いたらしい。驚いた顔をした彼と目が合った。

 当然、原因は俺だ。俺が空間を操れることは一夏も知っている。

 

「何か聞きたいことが有るのか?」

「どういう関係なんだ?」

「誰との?」

「マドカだよ!!」

「同居人」

 

 無駄だと悟っているのか彼は足を止め、少し苛立たしげに言う。俺が適当に返すと眉を顰めた。

 

「……本当に?」

「ああ、とりあえず落ち着け。今は飲み会だぞ」

 

 同居人以外に関係は無いとも言ってないけどね。

 渋々、彼は座る。そのまま隣の青衣と話し始めた。マドカの事を聞いているが青衣は当たり障りのない事だけ話している。下手な事を言うんじゃないぞ、頼むから。

 

「そうそう、箒に一夏」

 

 緋宵が何か思い出したかのように二人に投げかける。

 

「少し、白式と紅椿を貸せ」

「え?」

「貸せ」

 

 二人に対してISを要求し始めた。一夏と箒は訝しげな顔でISの待機形態を外すと緋宵に渡す。俺の意図が読めない。更に強化をする心算だろうか。

 

「紫」

「ええ」

 

 緋宵が受け取った白式のガンドレットと紅椿の鈴を転移させる。転移先は紫姉さんの目の前だ。彼女は2つのISを掴むとスキマを開き、中に潜った。紫姉さんを吸い込むとスキマも消える。

 

「「「え?」」」

 

 一夏と箒が驚きで声を上げる。まあ、知らなければ解らないよね。

 

「紫が白式に紅椿と直接話したいと言っていたのでな。手元にあるなら丁度良い。会いに行った」

「あ、会いに行った!?」

 

 立ち上がる緋宵の言葉が信じられないのか、箒が俺を向いたので首肯する。

 

「紫姉さんなら出来る。と言うか、それで青衣は実体化したんだ」

 

 次いで青衣に視線が移るが、その青衣も首肯した。

 

「まあ、その内戻るだろう」

 

 緋宵が酒を口に運び、笑いながら言う。でもさ、結構重要な事をさらっと流しているよね。

 

「……お前も出来るのか?」

「無理」

 

 緋宵では無く、箒が俺に問いかける。出来るようになるにどの位時間が掛かる事か。それこそ人間としての寿命を費やしても不可能かもしれない。

 

「他にも聞きたいことがある」

「ん? どうぞ」

 

 一度座り直し、正面に俺を見据え一度迷う様な表情を見せるが直ぐに意を決した顔となった。

 

「姉さんの件だが、これだけ大事になっているのだ。お前や青衣が動かなくてもいずれ捕まるのでは?」

「兎を探すには、外の世界に出る必要がある」

 

 何だかんだで強力かつ多数の幻想側勢力が兎を追っている。でも、頷く箒は重要な点を見落としていた。

 

「基本的に、幻想側に住む者は外の世界に関わり難い。外の世界に出れば弱体化や制約が付いてしまう事や、最悪の場合は消滅する危険性があるからだ。現に緋宵もこうして本来の篠ノ之神社に結界を張り過ごしている。それに近代兵器もある」

 

 緋宵は信仰が集まっているから、本人がやる気になれば外である程度は実体化が出来そうな気もするけど。

 

「と言う事は?」

「平たく言うと、兎が外の世界に留まる以上は出来る事が少ない。どうしても幻想側に足を踏み入れた時が本命になってしまう」

「幻想側に足を踏み入れるとは、つまり此処……本来の篠ノ之神社の様な場所にか?」

「それに死後だな」

 

 俺の発言に少し青い顔をした箒が緋宵を向く。緋宵と目線が合い、彼女は軽く頷いた。

 

「それは幻想郷も魔界も是非曲直庁も同じ。とはいえ減衰しても実体化できるほど強力な者も多いわけじゃない。

 だから外の世界でも力を保てる俺みたいな人間や、制約の少ない青衣が出るわけだ」

 

 ある意味で青衣は例外だ。最初は実体化が出来なくともISとしての役割があり、操縦者から魔力の提供が可能だから出てきた。それとISに対する評価が活きた。単純な付喪神としての自力なら相当に弱っていただろう。

 

「だが、姉さんも人間である以上は寿命がある」

「甘い」

「流石に、私もそれだけ時間を費やせば、取り返しがつかないこと位理解している」

 

 俺が箒の言葉を遮ると、彼女は同意する様に頷く。

 

「違う、寧ろ斜め上だ」

 

 俺の言い方が悪かった為か彼女はむっとした顔をする。だが、傍に居る緋宵は苦笑いを浮かべた。

 

「そもそも『束は死ぬか?』という事だろう?」

「正解」

「……そうか、姉さんは」

 

 緋宵の言葉を肯定すると箒は直ぐに理解したらしい。箒は兎の『全てを変化させる程度の能力』を知っている様だ。

 兎は自分の体を自身の能力で書き換えることが出来る。純粋な人間でありながら寿命から逃れ、常に若々しい体を保つ可能性がある。人間を捨てた妖怪とも、永遠を生き或いは生きてすらいない蓬莱人とも、寿命に逆らう仙人とも違う存在になる可能性を持つのだ。

 

「だが、お前達が警戒をしてたのは厳密には違うだろう? 妖怪化か?」

「それも有る」

 

 にやけた顔のまま緋宵が、口を一文字にして何かを考えている箒も俺を見る。

 緋宵のいう事は本当である。俺達が兎の能力を知ったのは最近だ。別の可能性を念頭に置いていた。

 

「なるほどなるほど、やはり『も』か」

 

 緋宵の笑みが深くなる。

 

「現人神化か?」

 

 人でありながら神格を持つ存在、仮にこれに成られたら厄介極まりない。なぜなら、外の世界で生きている人間の中で篠ノ之束程崇拝と恨みを買っている人物はいない。ISと女尊男卑、言うまでもない現状故に自然と信仰が集まってしまう可能性がある。そこから人間と言う種族の枠が外れ、更に厄介になるのだ。

 箒は緋宵の答えにぎょっとしている。

 

「やると思いますか?」

 

 出来るか? ではない。本人にやる気が有るかだ。何せ手本とも言える緋宵が師匠だ。こっそり織斑先生の様に解析したかもしれない。

 ふむ、と緋宵が一升瓶を抱えたまま器用に腕を組み、数秒後に小さく嘆息した。

 

「束は何を考えているか、生まれた頃から見ている私も予想が付かない。肯定も否定も出来ん」

「そうですか」

 

 師ですら理解不能の思考回路とは驚いた。というか、そんなのを育てるなよ。才能の塊かもしれないけどさ。

 口には出さず、酒を一口飲む。

 

「但し、束は人間に拘りは持ち合わせていないだろうな」

 

 お前みたいにな。

 緋宵は声に出さず、口だけ動かし追加する。紫姉さんから何か聞いていたのか感づいていたのかは知らない。俺も否定しない。

 

「少なくとも、今は人間という事で」

「そうだな」

 

 緋宵が軽く頷きそのまま箒の方を向いた。実に良い笑顔で彼女の肩を軽く叩く。

 

「ああ、言うまでも無く箒も生まれたてから見ているからな」

「あ、緋宵様!!」

「幼少の恥ずかしい過去から何から、全て知っていると思え」

 

 箒は悲鳴に似た声を発する。ああ、こういう箒は新鮮だ。

 

「例えば?」

「七海!!」

 

 どうせなら、便乗する事にした。普段、箒は面等な相手だし知っておいて損はない。

 

「そうだな、何が良いか……」

「緋宵様!!」

 

 にやにやする緋宵に対し、箒は完全に狼狽えていた。

 ガキの頃から知っている者には勝てん。まして身内且つ格上ならな。緋宵が何やら単語を言い始め、箒が益々動揺する。俺からすれば意味不明の単語だらけで会話にすらなっていないが、意味が有るのだろう。百面相となった箒を眺めるのであった。

 

 

---------------------------------------

 

 

 しばらく箒を肴にしていると、スキマが箒と一夏の手元に開かれるた。二人は驚きの声を上げ、話は中断する。

 紫姉さんが戻ってきたのだ。彼女の席にスキマが広がると、其処から降り座る。

 散々からかわれオーバーヒートを起こしていた箒に青衣と話していた一夏も顔を向けた。

 

「紫、どうだった?」

「ええ、中々有意義だったわ」

「なら良かった」

 

 何を話して来たのか知らないが、満足そうだ。緋宵に答える。

 

「さて、織斑一夏に篠ノ之箒。二人に手紙を預かっているわ」

「手紙?」

「ええ。但し、読むのは自分と千冬だけにしなさい。それぞれの操縦者に当てたものだからね」

 

 二人は目の前にある待機形態に視線を落とす。良く見ると待機形態の下には封筒が挟まっていた。二人とも各々の封筒を切り、中の便箋を読み始める。

 

「さて、一度戻るかな」

 

 緋宵は立ち上がるとあちらの卓に混ざる。俺と青衣は顔を見合わせた。

 何と言うか、一夏と箒が見るからに落ち込んだのだ。何が書いてあったんだ?

 

「この世代は良い粒が揃っているわ」

「じゃな。儂も長いこと人間を見ているが個人は兎も角、世代単位で才気あふれる者が集うのは稀じゃな」

 

 暗くなっている一夏と箒を眺めていると俺の身内且つ格上……紫姉さんの声が耳に届いた。隣の卓、俺からすれば背後だが声が良く通る。其方を向くと4人揃って何やら話していた。

 

「ええ、幻想郷には中々の素質がある者が集うわね。人妖関係なく」

「そんなにですか?」

「ああ、こればっかりは何百年と見ていないと実感が無いじゃろう」

 

 少し驚いている織斑先生に、マミゾウは何かを思い出したのか少しの哀愁を感じさせる声音であった。

 

「おそらく、外の世界における数少ない幻想と、外の世界との緩衝地帯でもあるという幻想郷の土地柄も関係しておるな」

「と言うと?」

「人妖問わず、本来はばらばらの土地に居た幻想側の素質を持つ者が、最寄である幻想郷に集ってしまうんじゃ。それは刺激となり過去に封印された者や中々出てこんかった連中も出て来おる。幻想郷には外の世界と幻想世界の中継地や緩衝地帯以外にも、有望な人材発掘の場でもあるのじゃ」

 

 だから幻想郷は何でも有りの特殊な場所と化した。俺も集まった典型だな。

 

「なるほど。私が教鞭をとっているIS学園とも似ている。各国が教育し高い適性を身に付けていなければ入学できない」

「確かに似ているわね。此方にも似た様な土地が有るわ」

 

 神綺様が織斑先生に相槌を打った。

 IS学園の例外は俺位か。同じ特例の一夏は世界唯一の男性操縦者だし、箒も剣道で日本一になった。素質としては十分だろう。

 

「豆腐が美味しい」

 

 ぽつり、と少し煤けた箒が冷奴を摘まみ、呟いた。

 そりゃあそうだろう。これは藍姉さんも贔屓にしている人里の豆腐屋で売られている、云わば昔ながらの製法だ。豆乳を薄めて凝固剤で固めた現代日本の粗悪品と訳が違う。まあ、IS学園の豆腐は本物で生徒にも人気があるが。

 俺も自分の冷奴を摘まむ。うん、大豆の味が濃縮されて旨い。

 さて、戻った緋宵は幻想側女性陣に織斑先生と盛り上がっていたのだが、すぐに内容の大半が愚痴に変化した。

 紫姉さんや神綺様は他の世界や組織との調整役でもある。織斑先生は若い身で中間管理職だ。緋宵は緋宵で信仰が減った時代に最近の騒動である。どうも己の消失や幻想側への移住も考えの一つに入っていたらしい。そんな瀬戸際で誕生した兎の優秀さから延期し、ISや白騎士事件が起きた為に移住の考えは吹き飛んだが。

 実はストレスの多い面々に対しマミゾウは聞き役に徹していた。

 

「……」

 

 箒と一夏は無言である。当然、俺と同じ卓に居る青衣や一夏もその内容を聞こえているのが、二人の雰囲気が少し変だ。

 

「どうしました?」

 

 馬鹿正直に青衣が一夏に尋ねると、箒も混じる。

 どうも、隣の卓で織斑先生が愚痴を吐いているのを余り見たことが無いらしい。箒はイメージが少し崩れたのだろう。一夏は多少の動揺はあるものの多少マシ程度である。まあ、多少は自宅で飲んだり寛ぐ事もあると思うしな。

 そう言えば紫姉さんも家ではごろごろしている事が多いな。仕事も多いし、織斑先生との共通項は多いかもしれない。さて、聞こえてくる中には『緑兵』に『青衣』、『一夏』や『束』が混じってきた。子育て組や師匠組でもあるか。神綺様は魔界人が大勢いるし、マミゾウも部下を大量に育てただろう。苦労に不思議はない。

 

「なあ……」

「お?」

 

 一夏だ。彼の声で幻想側の卓から自分の側へ意識を戻す。彼は俺に何か聞きたそうだ。

 

「千冬姉は、何度もお前と青衣さん呼んでいたのか?」

「愚痴の聞き役だ」

 

 箒の眉が少し跳ね、一夏が食い付いてきた。彼の表情も少し険しくなる。何を想像しているんだか。

 

「何でだ?」

「兎を含んだ幻想側の情報を拡散するわけにはいかないだろうが。知っている人間は限られる」

「楯無さんにのほほんさんのお姉さんもある知っているんだろ? 学園長は?」

 

 IS学園の学園長夫婦に加え、生徒会の更識会長と虚さんはマドカと緋宵の件を除けば一夏達と殆ど同じ程度の知識を得ている事は話した。そうでないと、IS学園の行動がおかしくなるからだ。不信感を持つより先に話すと言うのは手である。

 

「ロシアの国家代表に学年主席だぞ。万が一、酒の席に居たことがばれたらどうするんだ。学園長にも話は出来るが上司だ。それに学園の寮、不自然だろ?」

「居酒屋にレストランは?」

「機密性とコストだろ? それに織斑先生は寮長でもある。夜間外出は頻繁に出来ないだろうしさ」

 

 普通の通勤組なら帰宅途中に居酒屋なりレストランなりに入ることが出来るだろうが、織斑先生はIS学園から一歩も出る必要が無いのだ。

 

「まあ、そうだな……」

「その点、俺は卒業や退学もどうでも良い。空間転移で帰れるから何とでもなる」

「どうでも良い?」

「俺と青衣は終わったら全て幻想郷に戻るんだ。卒業も退学も関係無いだろう?」

 

 箒は納得、というか反応は無いが一夏は面食らったらしい。

 俺達が外の世界に残ると思っていたのか? 青衣はマイペースに酒を飲み、つまみを食べている。

 

「学園でも仲が良い人もいるだろ?」

「いるな、でも外の世界に居ても進路はばらばらだろ? 一生会わない者も出て来るんだ。大騒ぎする事でもないって」

「……随分、寂しいことを言うな」

 

 数秒後、彼は言うがそんなことは外の世界でも大差ない事だろう。

 

「逆に聞くが小学校、中学校、高校に上がる時に違う学校に行った奴もいるだろ?」

「そりゃあ、いるよ」

「卒業以降、会わない奴はいるか?」

「……いる」

「所詮は小中学校、近所でもそんなもんだって」

 

 一夏は納得がいくような、いかないような微妙な顔をしている。一方、箒は頷いていた。

 

「逆だが、私もIS学園に入れられていなければ一夏と再会することは難しかっただろう」

「そうだな。俺もまた会えて嬉しかった」

 

 少しどもり、恥ずかしさと緊張を含んだ声で箒は言い、お気楽な一夏は満足げに頷く。

 ああ、わかってないな、こいつ。少し赤くなった箒もそう感じたのだろう、こっそりむっとした彼女は一夏の足を抓ったらしい、悲鳴を上げた。

 そういう行動するから気が付かれないんだよな。いいや、一夏の察しが良かったら逆に箒は嫌われていると思うかもな。まあ、どうでもいいか。箒は気を取り直す様に軽く首を振ると此方を向く。

 

「ところで七海に青衣、二人はこのまま幻想郷に帰るのか?」

「寮に戻るが?」

「酒が入っているだろう、大丈夫なのか?」

「「「あ」」」

 

 そういえばそうだ。宴の流れで飲んでしまったが不味いかもしれない。俺と青衣が声を出す。

 

「ふむ、流石に酒を飲んだ生徒を学園の寮に戻すわけにはいかんな」

 

 隣りの卓から織斑先生が此方へ声を掛けてくる。向こうも此方を伺っていたのだろう。

 

「……担任も混じってますしね」

 

 そこに青衣が突っ込む。少し驚いた織斑先生と困った表情の青衣は顔を見合わせた後、乾いた笑いを浮かべた。同罪ですな。

 

「どうせ夜ですし、部屋で寝ていればいいでしょう? シャワーもある」

「臭いが残るだろうが。IS学園の教師や生徒の一部には何とかして貴様を退学させようとする動きはまだある。隙を見せる訳にはいかんな」

「「「え?」」」

 

 呆れを込めた表情で織斑先生が俺に言う。その言葉に一夏と箒、それに青衣も少し驚いた様だ。

 あるに決まっているな。これだけ世界中をさらに引っ掻き回したわけだし。俺は納得する。

 

「あらあら」

「面倒じゃのう」

 

 同時に紫姉さんにマミゾウは呆れを見せる。他の者も顔が物語っていた。

 

「簡単に諦めないでしょうね、緑兵を追い出せたとしても無駄だけど」

「そうでしょうが、外の世界では矢面に出てますからね」

 

 確かに俺と青衣は目立つポジションだ。そういえば、織斑先生は先と違い、紫姉さん達に対して少し大人しい言葉を使っている気がする。教師モードになったのか? まあ、いいか。

 それにIS学園に残る一部の動きについても納得だ。簡単に主義主張が変わるわけがない。それに口実なら何でもいいな。それに酒は俺でなくとも、真っ当な教師や生徒として不味い。庇えない。だから攻め立てる。

 俺ならそうする。他の誰かだってそうする。納得するが、どうも不足に思えたらしい。向こうは嘆息する。

 

「貴様達は知らんだろうが何度か訴えられかけたんだぞ。警察からも問い合わせが来た。其れも世界中、正に世界中の警察総出だ」

 

 彼女は鼻で笑う。

 でも、訴えられかけたって何? 初耳です。他の者達も、織斑先生以外は知らなかったらしい。談笑をしていた紫姉さん達も少し驚いていた。

 

「空間転移が原因だ」

「……どういう意味ですか?」

「IS学園からワシントンDCまで現れたから世界中どこでも行ける……つまりどこでも事件を起こせると逆に利用したでっちあげだ。全く、よく考える」

「……はあ、大した執念ですね」

 

 呆れ半分、驚き半分と言ったところか。嫌がらせ目的なら最高のダメージだが。

 

「様は気に食わないので容疑は何でも良いから拘束しろ、拘束されたら研究させろ。どうせ裁判は長くなるから有罪無罪も関係無く退学させIS学園を離れたなら何とでもなる。そう言う事だ」

「何だよ、それ……」

 

 唖然とした一夏の呟きである。受けた織斑先生はにやりと笑い、彼を見る。

 

「一夏、貴様も私に篠ノ之束という後ろ盾がなければこうなっていたかもしれん」

「後ろ盾?」

 

 一夏は自分がいかに守られているか、気が付いていないらしい。ピンと来ていないようだ。

 まあ、何から何を守りたいのかすらはっきりしていないからな。

 

「しかし……」

 

 くくっ、と織斑先生がくぐもった笑いを浮かべる。

 

「どうしました?」

「七海に関して言えば認識違いも良い所だと思ってな」

 

 怪訝に思ったが、彼女はあっさり続きを話した。

 

「寧ろIS学園在籍という制限が外れたなら何をしでかすかわからん、そうだろう?」

「さあ?」

「良く言う」

 

 織斑先生の言う通り、俺達はIS学園から離れたら外の世界のルールに従う必要性は全く無くなる。軽く同意を投げかけるが俺は曖昧な返事を返した。すると一夏と箒は此方を見てごくりと唾を飲む。

 相手の予想外だったのは俺も同じだが、まあ、織斑先生の認識を含めて納得である。

 

「だが各国の警察……というよりも真面な頭を持った法曹関係者は悲鳴を挙げていたぞ。空間転移など組み込んでいたら何でも有りになってしまうからな」

 

 完全に他人事の口調である。まあ、他人事だけどさ。

 俺はどちらかというと警察や法律関係は嫌いだが何というか……うん、苦労は理解出来き無くはない。

 

「中には七海の顔すら知らんのに貴様を傷害や暴行で訴えた件もあった。挙句に照合するから指紋やDNAを提出するようにと言ってきたぞ。捜査機関なら兎も角、自称被害者達がだ」

「正に俺の生体データ目当て……」

「ああ。その為にわざわざIS学園までアポ無しで来てな、私も立ち会ったが自称被害者……権利団体の下っ端にダミー写真を見せたら『こいつだ』と叫んでな。あっさり嘘がバレた」

「ダミー写真?」

 

 おいおい、何だそれ? 俺は何も聞いてないぞ。

 俺の言葉に織斑先生は一瞬『しまった』というような顔をする。視線も集まる。だが、織斑先生は気を取りなおす。

 

「念の為にと学園長や更識がお前と同じ年頃の男にIS学園の制服を着せた写真を用意していたのだ」

 

 同時に観念した様らしい、此方に情報を出した。だが、その中身は予想外でもある。

 

「ちょっと待って下さい、誰がそんな役を引き受けるんですか?」

 

 下手をすれば俺の仲間認定され襲われる可能性も有る。同じ事を思った青衣が聞くが織斑先生は軽く首を横に振る。

 

「学園長や更識の親戚や部下の息子らしい。無論、身元は簡単に割れないように写真は顔を弄っている」

 

 少々酔っている織斑先生は鼻で笑う。実は楽しんでないだろうか。

 ん? ……あ、思い出した。

 

「俺の顔ってテレビではモザイクが掛かってましたけど、実際にはバレているんじゃないですか?」

 

 織斑先生の呼びかけで、一夏と鈴が戦っていた無人機を相手にした時だ。テレビに映し出されていた事を思い出す。俺が青衣を纏った姿で、顔はモザイク処理されていたが、処理前の映像を手に入れること位は可能だろう。それにIS学園内に仲間がいるなら写真や映像を採ることも出来る。

 

「さあ? その程度すら把握できない程度だった事だろう。何せ女尊男卑を楯にすれば無茶が効く」

 

 要はゴリ押しね。それで成立していた社会背景は恐怖だが。それにしても学園長達には頭が下がります。本当、ありがとうございます。

 

「それに下手に手を出すと碌な事が無いだろう? ある事を言った瞬間、向こうは完全に凍り付いたな」

「何を言ったんです?」

「貴様には空間転移がある。まず逃げられないし対抗できない。だというのに何故、見知らぬ者を殴り放置する必要があるのだ? 容易に浚えると言うのに。

 そう疑問を尋ねた。貴様らの性格上、きっちり報復する事も遠まわしにな」

 

 涼しげにグラスに入った酒を一口飲みながら織斑先生は言う。

 この発言に一夏と箒が凍りつく。一方で紫姉さんは口元を扇子で隠し、マミゾウはからから笑う。神綺様はうんうん頷き、緋宵は『まあ、そうだろうな』とでも言いたげな表情だ。

 

「これは学園長もIS委員会で発言した様だ」

 

 完全な脅しだな。或いは成果とリスクのバランスが悪いと言うか。

 

「ひょっとして、鈴やオルコット達が言っていた対応って……」

「ほう、何を言われた?」

 

 食堂で聞いた各国の対応を伝える。要は『放置しろ』という事だ。織斑先生は教師という事も有り把握しているだろうが。

 

「お前達相手に仕掛けると碌な事が無いからな。日本は大恥を掻いた揚句に打鉄と新型パッケージを失い、アメリカは新型を2機も亡国機業に奪われた。

 アメリカはお前達に直接関係はないが、他の国も二の足を踏むには十分だ。様子見だろう」

 

 織斑先生は軽く笑う。言い方はアレだが此方側も納得した様だ。苦笑いを浮かべていた。

 寧ろ疫病神扱いな気がするな、それは。

 

「それにラウラ達……お前と束の戦闘を目撃した者にはプレッシャーを掛けておいた。ISの戦闘記録消去もある。

 国家代表候補生だ。直接的な事は無くとも国元から懐柔や情報提供を指示されていただろう。全員将来は責任ある立場になるかもしれん。そういった教育、特に貴族のオルコットは受けているはずだ」

「鈴も言ってました。何処の国も私達を手に入れろと指示が出ていたって」

 

 例外はシャルロット位か? デュノア社といい余り関心は無さそうだ。鈴もIS自体には興味が大きいだろうが、そこまでの忠誠心は感じられない。やはりオルコットとラウラだろう。

 

「程度の低い連中は兎も角、本格的にお前の排除を考えている者達もいる」

「酒は格好の的ですな」

「だろう?」

 

 だからIS学園へ戻らない方が無難だ。納得。

 

「それで、二人はどうするんだ? 今夜」

 

 再度一夏である。元々の話は俺と青衣の帰宅だったな。

 

「家に帰ったらどうだ?」

 

 ちょっと予想外の人物だ。俺が以前に仕留めた猪肉に舌鼓を打ち、神綺様と話していた緋宵である。相手をしていた神綺様もにこにこした笑みを浮かべながら此方を見ていた。

 

「家に帰ったらどうだ? マドカとやらもいるのだろう?

 それはそうと、なかなか美味だな、臭みもない」

 

 彼女はもぐもぐと嚥下し、次に温かいモツ煮を手に言ってくる。

 

「私達、下処理はきっちりしますからね」

「うん、野生の肉に臓物は滋養強壮にも良い。束は料理を一切覚えなかったが青衣は出来る様だな」

 

 青衣が流すと緋宵が兎の事を出した。そうか、兎って料理できないのか。

 

「といっても俺達はマドカに帰るって伝えてない。

 以前の通り『拠点』……要は亜空間に泊まろうかと思う。俺や青衣の個室もそのままだ」

 

 一夏と箒、緋宵は『拠点』を知らない。だから亜空間と説明を入れたが緋宵は兎も角、一夏と箒はピンときてない様だ。首を傾げている。

 マドカについては親しき仲にも礼儀ありだ。連絡なしに帰ったら不味いだろう。

 

「あら、二人とも連れて帰るかもしれないってマドカに言っておいたから問題無いわよ」

「え?」

「こんなこともあろうか、とね」

 

 紫姉さんがさらっと言う。準備が良いのか何なのか。

 

「それに私は言ったはずだ、肉体を強化すると筋肉痛になる。霊力や妖力ならどうなる?」

「最悪、能力が暴発する」

 

 青衣と顔を見合わせた。

 単純な肉体より面倒です。筋肉痛と違い、能力行使や術にしくじったら痛いでは済まない。空間転移他も控えた方が良いな。

 

「両方に使用したのだ。二人とも少しは大人しくしておけ。

 どうせ束は千冬が居る間はちょっかいを掛ける程度だ」

 

 そのちょっかいが怖いんですけど。

 だが、俺にとって両方の世界に居るメリットとデメリットなど考える必要すらない。外の世界は酒が回った状態で滞在するのは不味い。

 

「……そうします」

 

 帰ることにしよう。のんびりするか。

 

「すると、新学期か直前まで戻る事になりますね」

 

 夏休みは残り数日だ。今夜戻って明日帰るのも馬鹿らしい。数日は滞在するだろう。青衣も頷いた。

 

「生徒会の仕事は残って無いし宿題も終わっているから、新学期前日か前々日、その辺りでIS学園へ行くか?」

「そうですね」

「どうせ夏休み、残り少ない自由だ。学園長や更識には私から言っておこう」

「宜しくお願いします」

 

 酒を飲みながら織斑先生が俺達に言った。

 

「では決まりだな」

 

 緋宵がにやりと笑う。嫌な予感をすると同時に彼女の手に新たな一升瓶が現れた。どこからか転移させたらしい、というかまだ飲む気か?

 

「あら? 制限は無くなった?」

「おう、千冬達を送るにも七海が飲み過ぎなければ問題無かろう。どうせ、支障がでるのは明日からだ。今日は問題ないはずだ」

 

 元々送るその心算ですが?

 

「うむ、それはそうと紫」

「あら、何?」

 

 彼女は納得顔で頷いた後、紫姉さんを見る。

 

「片や空間干渉……片や自力でISを作る付喪神。良く育てたな」

「篠ノ之束を育てた緋宵が言えた事?」

「違いない」

 

 つーか、さっきから互いに呼び捨てだな。いつの間に仲が良くなったのだろうか。

 まあいい、俺は俺で飲むとするか。グラスを持つ。

 

「青衣」

「どうしました?」

「……」

 

 隣りの箒が青衣に話しかけた。箒は何かを悩み、数秒後悩む様子を見せた後で口を開く。

 

「七海の師、半人半霊とはどんな人物なのだ? 稽古も見たい」

「俺も見たい」

「見ます?」

 

 其処に一夏も混じり青衣が記録を呼び出す。だが、そこには何も映っておらず真っ白であった。

 

「うーん、どのあたりが良いですかねぇ……」

 

 青衣は悩んでいるらしい。聞き耳を立てていた織斑先生も気になるらしく此方をちらちら見ている。

 どの道、妖夢先生を見たら一夏も箒も暫く煤けるだろう。何せ見た目は小学校高学年か中学生程度だ。

 

「何、にやにやしているんだ?」

「別に」

 

 一夏に適当に返す。俺は二人の反応を予想し、肴にしながらグラスの酒を傾けた。

 

 

 

 

 

 それから少し時間が経つ。俺は記録を眺めながらちびちびと酒を飲み、つまみを口に運んでいるだけだったが楽しい時間だった。

 一夏が『人間って、空飛べるんだ』と俺達が空中戦を行っている記録を見て呟いたり、箒が『平然と空間ごと斬るとは……』とか妖夢先生に殺されかけた模擬戦の様子を見たり。仕舞いには咲夜まで登場した。俺は咲夜が時間を止めても動くことが出来るが青衣は違う。だから俺と咲夜がやり取りをしていると一気にコマ送りを行ったような記録になる。結果、紙芝居状態と化していた。

 

「ねえ、金と銀のメイドが両脇に控えていたら華やかだと思わない?」

 

 そこに神綺様が混じる。記録の妖夢先生に加え、時間を操る咲夜に目を付けていた。金のメイドとは神綺様付きである夢子だろう。確かに金髪で赤のメイドと銀髪で青のメイドが揃ったら壮観だろうな。しかも両方ともナイフの使い手と来た。

 その一方、妖夢先生の剣に加え咲夜のナイフを見た箒が何故か燃え出していた。ぶつぶつ呟いているが中身が物騒だ。緋宵から此方の技術を覚える気かもしれない。嫌っている姉と同じになる気かよ。

 

「もう、こんな時間か……」

 

 談笑をしていた織斑先生が漏らす。腕時計を眺めていた。

 本来の篠ノ之神社を訪れてからどのくらい経ったか、時計を持ち歩かない俺には感覚でしかない。だが、外は夏場だが真っ暗でIS学園の寮は就寝時間が掛かる頃合いだろう。

 

「もう少ししたら戻らないといかんな。門限がある。

 七海、お前は出られるか?」

「いつでもどうぞ」

 

 寮に送るのは俺の役割だ。酒の入ったグラスとは別、氷水の入ったグラスを煽り頭をスッキリさせる。織斑先生は己のグラスを飲み干し、一夏と箒も帰る準備を始めるようだ。

 

「残すなよ」

「わかっているよ」

 

 一夏は料理をする。残すのはもったいないので俺はしっかりと釘を刺すのであった。

 

 

 

 

 

 各々別れを済ませると、俺は3人を連れてIS学園の片隅に空間転移する。『窓』によって周辺に人がいない事も、監視カメラの類がない事は確認済みだ。街灯にベンチこそあるが今の時間は使用する者は少ない。本来の篠ノ之神社の違い、蒸し暑い空気が纏わりつき潮の香りが鼻に届く。

 一夏と箒は朝から居ない事になっているので、突然学内に現れたら変な事になるだろう。だが、織斑先生も一緒に居るので何とかするはずだ。まあ、この件は俺が犯人だが。

 

「……本当に便利だな」

 

 箒が言い、一夏は頷いていた。此方側に来る気だろうか、彼女は。

 

「それじゃあ、俺は此処で」

「ああ、また」

「待て、七海」

 

 3人に別れと告げ、一夏は手を軽く上げ返事をしたが織斑先生が俺を止める。彼女は珍しく口元に笑みを浮かべていた。

 

「私は、お前がマドカとどんな様な関係になろうと気にせんからな。寧ろ応援する」

 

 かちん。

 一夏は凍り付き、箒の顔が瞬間湯沸かし器の様に赤くなる。

 

「紫さんから聞いているぞ、事細かに」

「……酔っぱらっているでしょ?」

「ああ、酔っぱらいだ。だから素面では言えない事も平気で言う。

 いずれどこの馬の骨ともわからない男が持っていくかもしれん。なら見知ったお前が良い」

 

 どこか晴やかな笑みを浮かべる。状況間違っているし色々可笑しいから。完全に楽しむ気だ。

 

「な」

 

 ん? 一夏だ。俺と織斑先生を見比べ激しく動揺している。

 

「な、なな」

 

 ああ、爆発するかもな。

 

「私が言いたいことは終わった。一夏は抑えるから戻れ」

「そうします」

 

 暴走しかけた一夏から逃げる為、さっさと篠ノ之神社に戻ることにした。

 

 

 

 

 

「緑兵、手伝って下さい」

 

 篠ノ之神社に戻ると、青衣が俺が使っていた箸や皿を大人組の卓に移していた。其方を見ると既に青衣は自身が使用したものを動かした後である。人数が少なくなったから一つに纏めるのか。

 俺は自分の座椅子やらグラス、さらに大皿に乗った料理を移す。

 

「では、飲み直しましょうか」

 

 ああ、やっぱり。飲み足りないのね。

 神綺様の音頭により唯の飲み会として再開された。

 




 最後まで読んで頂き、有難うございます。また、長い期間が空いてしまい申し訳ありません。

 およそ8ヶ月ぶり、お気に入りも相当減ってるだろうと思っていたのですが、余り減っておらず少し首を捻っております。
 また、投稿がこんなので良いか散々迷いましたが投稿することにしました。夏休みも終了し次回からは本編に戻り新学期となります。
 本当に書けなくなる。パソコンの前に半日以上座っていても一行も書けない。そのままシャットダウンする。恐ろしい事でした。


 何かありましたら感想へお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。