幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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05_学園の震撼

 困惑、疑念、好奇心、そして怒り。クラス中の視線が突き刺さる。

 中止になったクラス代表戦の少し後、1年1組は緊急ホールルームと相成った。他の学年とクラスも同様だ。どうせ無人機の襲撃で中止だし。

 

「改めて七海緑兵です。生徒会で書記をしています」

「七海緑兵の専用機の青衣です。制服は学園の好意で用意してもらいました。体は消すことができますので、突然現れたり消えたりしても驚かないようにして下さい。待機形態は緑兵が首に付けている鎖です」

 

 俺はネックレス状に付けている青い鎖を軽く持ち上げる。

 

「本来はお前たちと同様、初日から授業に出席する予定だったのだが学園側の要請により今まで顔を出さなかった。先の件もあり本日からクラスに戻ることになる。

 部屋は近いうちに用意するので二人で住んでもらう。専用機の青衣が人型になれるのが理由だ。

 何か質問がある奴はいるか?」

 

 発言は俺、青衣、織斑先生。クラスメイトは皆無言だ。

 

「聞きたいことは沢山あるでしょうから遠慮しないで下さいね」

 

 山田先生はなんとか空気を和ませようとするが、無理だ。決定的に雰囲気を悪くしているのが二人いる。織斑一夏と篠ノ之箒だ。

 

「織斑、篠ノ之。何かありそうだが言わなくていいのか?」

 

 織斑先生のため息が混じった言葉にがたんと一夏が立ち上がり俺を睨み付ける。

 

「何で邪魔したんだ」

 

 主語が無いが無人機の件だろう。

 

「さっきも言ったが織斑先生に呼ばれたから。文句を言うなら俺達を呼んだ織斑先生にだろう?」

 

と、俺は織斑先生に振る。一夏は織斑先生を見る。

 

「千冬姉、何でだ?」

「織斑先生だ。まあいい。お前たちの手に余ると思ったから呼んだ。

 あいつはアリーナを破壊して来ただろう? 他の生徒がいたことを思い出せ。速やかに無力化する必要があった。

 全力でやるなら最初からするべきだったな、織斑」

 

 もし、無人機の目的が破壊で暴れていたらアリーナに生徒はどうなっていたことか。それと後付けだがもう一機上空で待機していたことも大きい。

 最悪の事態を想像したのだろう。クラスメイトの顔色がさっと青くなる。震えている者もいた。だが一夏は非常に悔しそうだ。中央最前列で俺の目の前なのも理由だが、気が付いていない。

 バシンと机を叩き勢いよく立ち上がるのは右端の箒。

 

「そんなことは無い!!

 だいたい一体目は不意打ち同然。二体目は剣を持っているのに振るわずに、遠距離から嬲る様に倒す。

 今もよくわからないことで煙に巻くなど余りに卑怯だ。男の風上にも置けぬ!!」

 

 おいおい。俺もそうだが、クラスメイトの目が点になっているぞ。

 

「煙に巻くって、その説明中なんだが……。

 つまり、あれか? 相手の真正面に行けと? あの状況で? 相手に気付かれたら危険性が跳ね上がるぞ。俺達じゃなくアリーナにいる生徒の危険性が。脱出できない以上巻き添え喰らうだろうが。

 後、遠距離攻撃の何が卑怯だ?」

「そうは言っていない」

 

 彼女の言葉に一夏は肯定するように力強くうなずく。

 じゃあ何が言いたいんだよ。気に入らないだけか?

 

「あんな不意打ちで腕を、ISを切るなんて……ちょっと待て、何故そんなことができる?」

「シールドと言われている一部を俺が解体した。だから残るのは単なる装甲。それを切り付けたんだ。

 白式もできるだろ? 零落白夜って名前が付いている。俺のとは威力が段違いに上だけどな」

「は?」

 

 一夏が間の抜けた声を出す。気が付いていると思っていたが。

 

「零落白夜はシールド無効化だろ? 生身を切りつけているのと変わらないんじゃないか? 剣の切れ味考えたら腕位は装甲ごと切断できるだろ」

 

 二人が凍りつく。クラスメイトもだ。

 

「まさかと思うが兵器を使っている、殺し合いの道具扱っている自覚ないのか?」

 

 俺の問いに織斑先生がため息ついた。山田先生も乾いた笑いを出している。

 

「今、解体って言ったよな。できるのか?」

 

 一夏の問いに答える。

 

「ああ、少し違うが似たような技術があるんだ。そして俺はそれを習った。

 基本が同じだったので解析は進んでいてね。襲撃者のシールドを壊したのはその応用だ」

「ちょっと待て、まるで以前からあるように聞こえるが?」

 

 篠ノ之箒の問いに俺は頷いた。

 

「そう言っている。確か篠ノ之家のある篠ノ之神社は相当古いだろ。何か残っていても不思議はない。たまたま似たようなものが出来たと考えるより、残っていたものを解析してISという形に近代化したと考える方がすっきりする。この辺はまだ調査不足だがな。

 この推測が合っているにしても間違っているにしても凄まじい技術だ。篠ノ之束は正に天才だけど」

 

 すなわち、世間に全く知られていない既存の技術がありISに利用した。だから破る方法が存在する。

 何を言っているんだ、という周囲だが決定的に空気を読めていない者が居た。

 

「私が聞きたいのはお前の心だ!!」

 

 怒鳴る箒。

 まあ彼女の言う通り、煙に巻くには助かるけどね。しかし心とは。

 

「何故、人を切りつけられる? 腕を切った!?」

「篠ノ之さんと同じ。但し使いどころは選ぶ。

 話は聞いているよ。木刀で生身の人間を叩いたり突いたりしている。死んでも不思議は無いってさ」

 

 俺はジト目で箒を見る。この女、木刀で一夏を襲っているよな。情報源は織斑先生の愚痴だ。何度か青衣共々この不良教師に酒に付き合わされた。どうせ戸籍上は死人とISだし罰則は無いだろう、だそうだ。

 箒は一夏に助けを求めるが被害者である一夏は箒から目を逸らす。箒は悔しそうにぷるぷる震えていた。というか、だ。

 

「俺は単に無力化したかったんだが……どうします、この人」

 

 対応するのが面倒になり、俺はうんざりした顔で再び織斑先生に振る。

 

「一刻も早く倒す必要があった。こちらが要請しできた以上は文句の付けようがない。腕の件も問題ない。

 そもそも白式の方が青衣よりも基本性能は上だ。武装に違いはあれど倒せたはず。お前が未熟なだけだ」

 

 俺の言葉を織斑先生が補足する。二人ともぐっと黙る。ぴりぴりとした空気を破ったのは冷静な声だった。

 

「先生、私からもよろしいでしょうか。そちらの青衣さんにです」

 

 長い金髪の西洋美少女が挙手をする。表情は硬い。

 青い目といい顔立ちといい真面目そうな雰囲気といい、そこまで顔は似ていないが知り合いの人形師を思い出すな。

 

「オルコットか、かまわん」

 

 織斑先生の許可の後、真剣な表情の少女が立ち上がり一礼をする。絵になるね。

 

「初めまして、セシリア・オルコットと申します。イギリス代表候補生を務めています」

「丁寧な挨拶、ありがとうございます。話せる範囲でしたらお答えします」

 

 青衣が返す。意を決したようにオルコットさんが口を開く。

 

「青衣さんがISというのもそうですが、あなたは重大なことを言いました。『女しか乗れないようにされ、ナンバリングしたものとは違う』です」

「ええ、その通りです。そしてIS学園に報告済みです」

 

 クラスが一瞬ざわめいた。

 

「詳しく話していただけますか?」

「いや、その前にこちらを読んでもらおう。3人とも一度座れ」

 

 オルコットさんの発言に対して織斑先生が口を挟み、代わりにプリントの束を取り出した。

 

「これは教師にも極秘にしていたことだ。他のクラスの生徒にもこの時間に配布している。

 無論IS委員会にも直ぐに報告する予定だ」

 

 青衣の証言について、俺達幻想郷側と学園側で擦り合わせて調査した結果をまとめたものだ。作成日は3月末日、学園長の印や署名もある学園として正式なものだ。要所には俺達の他に織斑千冬の名も記されている。

 今回配布する生徒用は白黒のコピーだが読む分には問題ない。

 内容は青衣の成り立ちなど学園長室で話した内容と、裏付け調査結果を纏めたものだ。

 特殊なエネルギーをコアを通しているので通常の武器でもコアさえ通せば対処可能になり、また生身で扱える俺は素手で訓練機のシールドを解体し、ダメージを与えることができた旨も入っている。

 但し俺の能力や幻想郷、結界や魔力云々は触れていない。幻想郷自体は話していないし余程のことが無い限り話すつもりもない。

 ある程度は推測も明記しているが一応証拠のない織斑千冬が白騎士であること、開発データの盗み見みは除外した。無論ある程度内容を加えた物も別に作ってある。

 この内容と外の世界への公表は幻想郷側の承認も得ている。

 織斑先生自ら生徒に配布する。そして俺達や山田先生にも渡す。

 前から見ていると、生徒たちの顔が良く見える。プリントを読み進める内に全員の顔色が見る見る内に変わり、驚愕していることがわかる。下手すれば価値観がひっくり返ることだ。当たり前だ。

 数分後、一通り読み終えたのか、青い顔で小刻みに震えながらオルコットが青衣に問いかけた。

 

「こ、こ、これは……事実ですか?」

「ええ、少なくともそこに書かれていることは、私が見聞きし、調査した内容です。IS学園に協力してもらい裏付けを行いました。緑兵の入学はその一端です。

 所詮ISなんてブラックボックスの塊ですからね。例えばコアネットワークが何のやり取りをしているか、そんな事すら貴方たちは知らないでしょう? 証明できていませんから仮説から先へは出ていませんが。

 あらゆる情報の最後の行先は篠ノ之束です」

 

 青衣は涼しげに答える。

 

「馬鹿な……」

 

 箒が弱々しい声を出していた。無意識だろう。

 

「女しか乗れない理由が……まさか……姉さん……」

「私に合わせ、束が命令した内容が原因らしいな」

 

 織斑先生だ。一斉に注目する。

 

「私の適性は世界最高のSだ。これは世界に数人しかいない。そしてその中で篠ノ之束と関わり合いがあるのは私だけだ。可能性としては否定できない。青衣がISであることは機体のコアを私自ら確認した。緑兵については」

 

 織斑先生に視線を送られ、俺が口を開く。

 

「書いている通り、俺は青衣でIS適性を出すとSになる。青衣は俺を基準にしているから当然だ。その一方で学園にあるISはどれも動かすことができなかった。これは俺が男だからだろう。

 そういう意味で俺は織斑一夏と異なる。ISである青衣の操縦者だが俗に言うISの適性があるわけではない。二人目の男性操縦者と言うのも正確ではないな」

 

 一夏がびくりと反応した。

 

「どうも適性自体はアバウトでどんな基準を作っているのか青衣本人にもよくわからないらしい。そうだな?」

「その通りです。

 例えるならAは何故Aと読めるのか? Bは何故Bと読めるのか? そう聞かれているのと変わりません」

 

 青衣が肯定し、織斑先生が続く。

 

「私が青衣で適性を出すとCになった。何、手に触れて適性を出しただけだ。先ほども言ったが私本来の適性はS、他の生徒や教師は測っていない。どんな影響があるかわからなかったからな。

 だがISの操作に関係のない者に限定し青衣への適性を出した。

 結果を言うと男性でも動かすことは可能な適性で、女性は適性が異なる者が多かった。普通はどんな機体でも適性自体に変化はない。同じ適性だった者は単に値が同じだったと解釈可能だ。

 青衣の証言を全て鵜呑みにできないが、仮説は十分に成り立つだろう。

 本来適性はIS個別に設定されるものである。全てのISが共通になっているのはコアネットワークの存在と束の命令が影響している為とな」

「重ねて言いますが、これは私の証言とそれに基づく実験結果による推測ですよ。

 女性しか動かせない理由は間違いないと思いますが。私はそれに反して破棄されましたし。ですがまだ他の要因も含まれるかもしれません。

 どちらにしても引き続き調査する必要があります。少なくとも私たちはそのつもりです。ね?」

 

 青衣の言葉に俺も頷く。勘のいい者は俺達が学園の手を借りてこの辺りを調べていたと思うだろう。実際それも含まれている。

 

「俺が動かせるのはその命令のせいなのか?」

 

 今度は一夏だ。青衣が返す。

 

「おそらくそうでしょう。でもそうなると今度は動機が不可解です。単に『お気に入り』だけでは弱い、普通なら。

 ですが篠ノ之束の言動や考えは予想が困難です。

 単に世界で一人だけなんてカッコいい、そんな理由でやったなんてことも十分あり得ます」

 

 おそらく何らかの命令を出したことは間違いないだろうし動機も以前話した通りだが、それを伝えてもどうにもならない。ここはあえてぼかす。

 

「私の知る篠ノ之束は一言でいえば我儘で傲慢な子供。

 他人をまともに認識せず、ごみとか馬鹿とか暴言と暴力で反応し、自分以外の全ての人は無価値と判断します。

 そして自分のやりたい事をやりたい様に進め、他人への迷惑は全く考えません。認識できているのかすら怪しい。その上どんな理由でも自分への批判や邪魔は許しません。例え当然の理由でも。その癖に自己顕示欲だけ異常に強い。とにかく言動が破綻しています。

 例外、認識できる人間は織斑千冬、篠ノ之箒、織斑一夏の3人のみ。そうですよね?」

「ああ。あれでもだいぶマシになったんだがな。

 篠ノ之と織斑、お前達からはどう見えた?」

 

 一度遠い目をした織斑先生が同意し二人に確認を取る。篠ノ之は箒のことだ。

 

「両親は辛うじてそうであると認識していました。他は概ねその通りです」

 

 箒が返答し一夏が頷く。青衣は問いかける。

 

「そんな人が他人の迷惑を考えますか? 認識すらしていないんですよ?」

 

 クラス全体が沈黙した。

 

「今でこそISは軍事関係位にしか使われていませんが開発目的は宇宙開発です。宇宙開発に性別で操縦者に制限を掛けることに利点などありません。女しか動かせないことが欠陥と捕らえているなら直したはずです。

 特に『完璧』と己に絶対の自信を持つ篠ノ之束なら。

 でも何もしていない、する素振りもない。つまり女しか動かせないことは問題ない。この時点で破綻していますよね」

 

 箒は先ほどの元気はどこに行ったのか、意気消沈している。目が虚ろだ。

 

「貴方の様に体を持ったISはいるのですか?」

 

 手を挙げ発言したのはオルコットさんだ。何か思うところがあるのか?

 

「会ったことはありませんし、正直難しいと思います。

 但し私にしかできないなんて自惚れるつもりもありません。プリントに書かれている通り私は破棄されたコアで勝手に進化していますから他のコアと方向性が全く違います。

 他のISは自力で動く必要性ありませんが、私は自力で動くようになりたかったし必要性もありましたから意識を外に出し自由に動ける体を手に入れました。同時に食事や睡眠も必要になりました。

 後、他のコアと違い私はコアネットワークにもほとんど繋いでいません。調査目的で最低限、最大の注意を払いこちらの情報は一切送信していません。ですので、私が行った方法も秘匿しています」

 

 他のコアが人の手で運用される以上、体を持つ可能性は極めて低い。なぜなら外の世界では魔力や霊力など笑われるだけだろうし、自然に青衣の様な付喪神になるには長い年月を必要とする。短期間の妖怪化は誰かが手助けすれば可能だが、管理されているコアに干渉することは無理だろう。

 それにしても……

 

「食事しますの?」

 

 青衣を見るオルコットさんの目が輝いているのは何故だ。ものすごい食い付きだ。一方で他は目を丸くしている。青衣の答えなのか、オルコットさんに対する反応なのかはわからない。

 青衣は窓の外を眺め、

 

「皆さんそういうんですよね。ご飯も食べるし、お風呂にも入り、布団で寝ます。

 生活パターンは人間と余り変わらないと思って下さい」

 

 これ何度目のやりとりだっけ。まぁしょうがない。

 

「は~い」

 

 今度はだぶだぶの制服を着た布仏本音だ。手を振っている。直接の面識はないが、同じ生徒会役員の姉の虚さんとは知り合いだ。彼女は写真で顔だけ知っている。

 

「機体ってどうやっているの~かっこよかったよ」

 

 指される前に彼女は質問を開始した。

 褒められて嬉しかったのか青衣はにっこりと笑い、

 

「自己進化です。自分で作るか他の方が作った部品を取り込んで改造しました。細かいことは書いてある通りです」

 

 プリントに書いてあるのだがこの辺は学園長たちにも説明したことや配布書類と内容が被る。

 

「機体の大半は自分で作るか、知人に作ってもらった物を元に改造を施しました。

 ISの自己進化によって武器や装甲を追加したり、新たな機能を身に付けるのは教科書にも載っているでしょう。それと基本的には同じですよ。無論時間はかかりますが。

 緑兵に相談しながら細かく作成できるわけです。

 学園に所属する前は映像を見たり、展示されたISに触れたり、いろいろしましたね。緑兵はそのたびに引きずり回しました。彼の為に丹精込めて機体を作っていますからね」

「そんな訳で俺は不甲斐ないと機体自身に怒られるわけです。酷いダメージを受けると痛いらしいし」

 

 青衣は最後に半べそになる。あれは罪悪感がすごい。

 

「学園に出入りできるようになってからは楽ですね。

 ラファール・リヴァイヴや打鉄は実機があるので大変参考になりますし、専用機のデータや情報も手に入りますから。それを参考に改造を施しています。

 おかげで小さなスラスターはびっちり増えて足回りがしっかりました。効率的な装甲の配置も理解できましたし」

「お蔭でより一層扱うのが大変になりました」

「もっと私を使いこなしなさい。私の体は好きなように使って構いませんから」

 

 自分の胸に手を置き、俺に向かい蠱惑的な笑みを浮かべながら言う。言い方が大分アレだ。わかってやっているな。

 

「おう、頭から足の先まで使うからそのつもりで」

 

 軽く返すと青衣はにんまり笑う。

 そこの生徒、赤くなるな。山田先生、あなたもトリップするな。

 

「そんなの、あり?」

「適性まで合わせた専用機かぁ……」

「ほとんど反則じゃない」

 

 呆れた様な声がちらほら聞こえた。でもよかった。真面目な者もいる。

 

「反則じゃないですよ。むしろ私はIS本来の使い方だと思っています。

 ISが操縦者に適性を合わせて万全に動くようにする。そして操縦者に合うように機体の作成や改造し調整する。操縦者は機体を活かす。活かせなければISから苦情が入る。

 後は互いに意見のぶつけ合いですね。やってみないとわからないこともありますから

 もちろん欠点もありますよ。完全に個人専用機ですから訓練機の様な扱いはできません。それと私を見れば解る通り自我が強いですから、初期化も拒みます」

 

 青衣が真面目な声を受けて話す。

 こうして前から見ると真面目な生徒が多い。天才秀才揃いだから当たり前か。ぶつぶつ言っていても話が始まった瞬間に雰囲気が切り替わり、真剣に話を聞いている。

 いや、すごいね本当。俺に真似できるかな。

 

「機体を作るときは、基本的に理想に合うようにこつこつ作って微調整を繰り返します。これはものづくりの基本です。

 もっとも頭の中と言うか、バックというか裏側で作っていますが。

 使わない物や余ったものはスロットの無駄になるので、一度吐き出して別の場所に保管です」

 

 保管先は俺の亜空間である。

 本人は言っていないが、機体へのダメージが本体へのダメージにもつながることもある。シールドを突き破るダメージを受けると痛いらしいし、ダメージレベルが一定を超えると体の方にも影響が出て治るまで時間がかかる。その辺は人間と変わらない。俺が回避重視なのはそういう背景もある。

 

「緑兵が言っていたシールドの件も似たようなものですね。

 他にはありますか?」

 

 とりあえず誰も手を上げない。常識が引っくり返る情報に才女達はパンクしつつある。その光景を見た織斑先生が締めに入る。

 

「よし、この辺にしよう。他に何かある者は個別に聞くように。

 七海、お前の席は明日用意する。部屋はすまんが少し後にしてくれ」

「授業以外は今の生活と変わらない、そう思っていいですかね。俺はどっちでもいいですが」

「んー、水とか消耗品を考えると私としては学園の方が助かります。食費も浮くでしょうし」

「申請しておけ。此方の要望なんだ。善処する」

「まるで主婦ですね」

 

 俺達の言葉に今まで窓の近くにいた山田先生が言う。織斑先生は

 

「ここは全寮制で今までが特例だ。もう少し続くが部屋が出来たらそこで生活してもらう。

 今日から学園の設備は全て使って良い。但し以前にも言ったが緑兵は大浴場禁止だ。授業で使う更衣室は織斑に聞け」

「……そうでしたね」

 

 俺は学園長室でも出来事を思い出した。ここには女湯しかない。

 

「青衣さんは構いませんが録画機能とか付いていませんよね?」

 

 学園長室のやりとりを知らない山田先生は、確認するように言う。

 

「付いていますけどやりません。私も女ですよ? この件は操縦者の権限も拒否します。

 というか緑兵一人でできると思いますよ。やろうと思えば、ね?」

 

 口だけにやにや笑いながら手に持った扇子で俺を突っつく青衣。

 

「やったら姉達に殺される。いや殺されるだけで済むか?」

 

 仮に俺が覗きをしてばれたとする。

 紫姉さんと藍姉さんに殺された後は中有の道(幻想郷にある三途の河へ繋がる道)に落っこちる。あそこには屋台が多くあるが店員は皆地獄に落とされた罪人だ。つまり性質が悪い。知られたら確実に絡まれる。

 三途の川では死神の小野塚小町にからかわれ、裁判では閻魔の四季映姫にしこたま説教を食らうだろう。幻想郷に居た時に説教されたことがあるが、アレはきつい。

 仮に判決が転生となり冥界へ行ったらある意味最悪で、冥界の管理人である西行寺幽々子と庭師の魂魄妖夢が待ち構えている。妖夢は剣を俺に教えた者だ。そんな事になったら消滅しない程度に斬られるだろう。魂だけの俺は文字道理手も足も無い。されるがままだ。幽々子様は紫姉さんの親友なので紫姉さん達が再登場する可能性もある。また転生時期は幽々子様の判断次第だ。下手をすれば永遠にそのままだ。

 正直、想像するだけでぞっとする。俺と同じ結論だろうが青衣は実に楽しそうだ。

 

「済みませんねぇ、死ぬだけじゃあ」

「だな」

 

 少し青くなった俺とそれを見て楽しそうな青衣。

 

「織斑はこいつらに学園の案内をしておいてくれ」

 

 織斑先生が一夏に声を掛ける。彼は少し頷いたが、まだ放心状態に近い様だ。

 ちらほらと、生徒が立ち上がる。俺は正面の一夏に声を掛けようとするが、青衣に袖を摘ままれた。

 ちょいちょい、と箒を指している。それに気が付いた山田先生がフォローに入っているが、彼女はショック状態から抜け切れていなかった。まだ整理がついていない一夏に一声かけて待ってもらい青衣と共に箒の方へ向かう。

 

「あなたに質問があります」

 

 青衣が座っている箒の正面に立つ。大きな声ではなかったのだが、教室内は静まり返り変な緊張感が生まれた。

 山田先生はおろおろし、クラスメイトは固唾を飲んで見ている。

 

「何だ?」

 

 暗い顔をした箒が顔だけ上げた。

 

「お姉さん、叔母さん、呼び捨て、どれがいいですか?」

「……何の話だ!!」

 

 一瞬彼女は固まり、次に怒鳴った。

 

「っ!! 声大きすぎです」

 

 耳を抑え、顔をしかめる青衣と戸惑う箒。クラスメイトはずっこけ、織斑千冬と山田先生はぽかんと口を開けたままだ。

 

「な、何なんだ!!」

「製造者の妹なんですから叔母ですよね。このままだと箒叔母さんになるのですが。でも叔母さんではきついですよね? 年齢的に」

 

 押し黙る。青衣は実に楽しそうだ。にまにまと口元が歪んでいる。多分俺はジト目。無論、青衣に対してだ。

 そして箒が何か言おうとした瞬間、

 

「これは保留にしましょう。お二人さん、お待たせしました」

 

と言い、青衣はくるりと翻した。

 

「おい、いいのかよ!!」

 

 一夏が豹変した青衣に慌てたように突っ込む。

 

「いいんですよ。少しは元気になったでしょう」

 

 ひらひら扇子を持った手を振りながら言う青衣と、あっけにとられて口をぱくぱくさせる箒。

 

「すまんな。俺の相棒はこういう奴だ」

「あ、ああ」

 

 一応、箒に弁解しておくと彼女はぎこちなく頷いた。

 

「ではでは、案内をお願い」

「再戦なさい!!」

 

 青衣が一夏に声を掛けた直後、扉から聞こえた怒声。そちらを見ると肩をいからせた凰鈴音がいた。

 

「主語がねぇよ」

 

 俺は反射的に突っ込んでしまった。

 凰鈴音は俺と青衣へ交互に指を突き付け、言った。

 

「七海緑兵、七海青衣、二人とも再戦しなさいって言っているの!!」

「うん、やろうか」

「何時にします?」

「「「ええ!!」」」

 

 あっさり同意した俺と青衣に、織斑先生を除いた周囲は驚き凰鈴音が固まった。ねぇ、何で驚くの? 固まるの?

 

「不完全燃焼はお互い様、再戦は歓迎しますが何か?」

 

 こてんっ、と首を傾げ青衣が言い俺は頷いた。

 ここまでは平和だったのだ、実は。

 

 

 

 

 

 さて、俺は幻想郷育ちの為か単に年上というだけで敬うとかは余りない。数年どころかあそこには数百年、千年以上も年上がごろごろ存在しているのだ。同時に先輩ということに一定の敬意は払ってもそれ以上も無い。

 予想通りと言ったらそうなのだが上級生が5人やってきた。

 なんでも俺も青衣も認めないと顔を真っ赤にしている。

 間違いない。女尊男卑、いいや女性至上主義者だ。

 どうせ十把一絡げである。適当にあしらっているとだんだん発言がエスカレートしてきた。

 ほうほうと俺達が黙って聞いていると、実にいい気なものだ。

 彼女らの発言に、やってきた鳳もクラスメイトの幾人かも嫌悪の表情を浮かべている。仕舞いには一夏と鳳を男に負けた恥だと言いだした。そして俺が今まで戦った相手は全て雑魚、ごみだとも。

 一夏は男だし、つーかどれだけ偉い? どれだけ強い? 面白い。

 

「へぇ……」

 

 俺は『空間を操る程度の能力』を発動させ周囲の空間、とりあえず半径数十メートルを支配する。感の良い者はこの瞬間に違和感を持ったようだ。怪訝な顔や目を見開いた者が何人かいる。だが演説染みたことをやっている上級生は気が付いていない。実に鈍い。俺は支配した空間内部に殺気を充満させ、威圧の意味を込め空間自体を軋ませた。

 ギシリ。

 格下を見下す顔だった上級生達はようやく気が付き、表情を一変させる。顔から完全に血の気が引け、青くなっている。殺気を直接浴びていないクラスメイトや鳳たち野次馬も顔色が悪い。

 空間自体が軋むなど通常はあり得ない。故に動物としての本能が理解できない分一層の恐怖を感じるのだ。

 

「あれだけ言ったんだ。まさかこの程度で身動き取れなくなるなんて、そんな情けない事言わないよな。セ・ン・パ・イ?」

 

 更に空間を軋ませる。俺の殺気を直接浴びている上級生達は小刻みに震えている。口からカチカチ音がする。いや手前の二人が尻餅をついた。

 

「これぐらいでビビるなら、やらなきゃいいのに」

 

 呆れた様な声を出す青衣だが目は冷たく笑っていない。蔑む様だ。

 青衣は妖怪。そして篠ノ之束が製造者であり、似ている点がある。これがそうだ。

 

「織斑先生、ちょいと疑問なんだけど」

「何だ?」

 

 一方で俺の雰囲気は大して変わっていないだろう。逆にそれが周囲の者にとって恐怖になっている。

 声を掛けられた織斑先生は俺が殺気を出した瞬間に身構えたものの、それ以降は警戒している程度だ。

 

「ISという兵器は最強かもしれませんけど、この程度で動けなくなる連中に使いこなせます?」

 

 目をしぱしぱとさせた後、苦笑い。返事としてはわかりやすい。

 

「青衣」

「何です?」

「仮に俺がお前を降りたとして、後任にこの5人を選ぶか?」

「論外ですね。乗せませんよ。自由意思を奪われて乗せてしまう他の姉妹たちに同情します」

 

 ISである青衣に完全否定される5人。姉妹というのはISの事だろう。

 

「……この、道具のくせに」

 

 一人がつぶやく。小声だったが静まり返っている為、響いた。

 

「あら、その道具であるISのお蔭で大きな顔をしているのでしょう? 貴方からその道具を除いたら愚昧な女のしか残らないわね。

 いいえ、貴方の言う男が居なけりゃ女である意味も無い。だったら残るのは何でしょう?」

 

 出現させた青い扇子で口元を隠し、嘲る青衣。何も言い返せず、涙目で悔しそうな面々。青衣の言葉が多少は響いたのか幾人かの野次馬が俯く。

 

「緑兵。どうしようか?」

「どうせ一山いくらの連中だ。一人一人相手してもしょうがないだろ」

「……男のくせに」

 

 プライドは異常に高いな。この状況で更に相手を怒らせるか。

 俺は一歩相手に近づく。それだけでびくっと肩を振るわせた。目に涙を浮かべ怯えた表情など普通なら良心が痛むが、こいつら相手に容赦する気はない。

 本当にどうしようか。亜空間にでも放り込んでしまおうかと思った瞬間だった。

 

「待て」

 

 織斑先生が俺を制止する。5人の顔に少し希望が宿る。

 まさかとは思うが彼女の弟も侮辱しておいて、助けてくれると思っているのか? だとしたら相当におめでたい。

 

「貴様ら5人で七海と戦えばいい。これからアリーナに機体を用意してやる。白黒つけろ。予定があるならキャンセルしろ。何、相手には私からも言っておいてやる」

 

 やっぱり、こうなると思った。

 織斑先生が薄く笑いながら言った。これは切れているな。この傲慢さは腹立たしいが今は利となる。放っておこう。

 山田先生が止めに入るが、

 

「山田先生、彼女らは今まで相手をしていたのが雑魚といい、私に同意を求めました。

 つまり入試のとき彼の相手をした私も雑魚、エネルギーが尽きかけていたとはいえ彼に倒された織斑と鳳も雑魚ということになる」

 

 より一層、5人の血の気が引く。敗者を侮辱した報いだろう。何せ戦ったからこそ負けがあるのだから。

 

「ちなみに私との入試は中断、勝敗つかずだ。そういえば更識相手にも良いとこまでいったな」

 

 モノも言い様ですね。

 織斑先生とは強制的な中断、更識会長を相手にしたISの訓練では一度も勝ったことが無いんですけど。

 

「ところで七海」

「はい?」

「一年一組に恥をかかせるなよ。本気でも構わん」

 

 俺へ向けてにやりと笑う。この人も美人なだけにこういう表情をすると必要以上に怖い。

 

「さっき見せてしまった物もありますし、ある程度なら出しますよ。いや、それ以上も出す必要あるかな?

 何せあれだけ馬鹿にした以上、最新鋭の専用機を持っている織斑一夏と代表候補生で専用機持ちの鳳鈴音のタッグよりも戦力が上でしょう。5人とも専用機持ちで無いし、訓練機でそこまでできるなら相当な腕だ」

 

 5人はここで初めてはっとした様な顔をする。まさかとは思うが気が付いていなかったのか?

 俺はこう言ったが、訓練開始約一ヶ月の素人同然である一夏はともかく、鳳より上とは考えにくい。だが油断はしない。絶対は無いのだ。

 

「ところで俺達はアリーナに直行ですから、誰かに会長への連絡を頼んで貰って良いですか?」

「私から生徒会室へ電話しておこう。取らなければ誰かを寄越す」

「お願いします。ところで先生、イライラしていません?」

「……ああ、だがこういうことは今後も起きるだろう。面倒は早々に終わらせるに限る。それにお前の姉が言っていたことが良くわかった。いやようやく理解できたと言うべきか。

 正直、吐き気がする。教師としても今のうちに矯正しておかねばな」

「教師にもいるって聞いていますよ。俺を隠していた理由の一つでしょう」

「そうだったな」

「なら少しはスッキリしましょうか」

「ああ、楽しみにしているぞ」

 

 そして怒気剥き出しで獰猛な笑みを浮かべた織斑先生は意識が半分飛んでいそうな5人に顔を向ける。顔色は青を通り越して真っ白になっていた。こいつらだけじゃなくて、他の連中も気絶しそうなのだが。あ、何人か半泣きだ。

 

「そういうわけだ。お前達もこの足でアリーナへ行け」

 

 見たものが寒気するとびっきりの笑顔に、5人は壊れたからくり人形の如く、かたかたと奇妙な動きをしている。

 でも同情しない。する気もない。遠慮無く、残酷に潰させてもらおう。

 

 




紫と藍が育ての親であることがわかる行動でした。

更識会長との模擬選の結果だけ。緑兵君は全敗中。
緑兵本人の『空間を操る程度の能力』抜きですと、実は一定以上の回避技術の持ち主なら緑兵と青衣相手では優位に立てます。
でも能力はある程度使います。本人の技能だし、テレポートしてはいけませんなどとルールに書かれていませんので。

これは東方Projectのクリア動画を見て思ったことです。
ルナシュータ(難易度のLunaticがクリアできる人)とか、どういう腕なんでしょうか。

あくまでイメージとして
  国家代表上位:Lunatic
  国家代表下位:Hard
  代表候補生上位:Hard
  代表候補生下位:Normal
  他:Easy
※但し得意不得意があるので参考程度。

私はノーマルですらノーコンテニュークリアが出来ません。がっくり。

-追加-
誤字修正 一文追加 あとがき追加 全体見直し 「待機状態」⇒「待機形態」
全体の改行修正
「伯母」⇒「叔母」
全体の誤字脱字修正

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