幻想のIS   作:ガラスサイコロ

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06_一つの変化

 織斑一夏にとって、いや学園の生徒にとってその日は絶対に忘れられない一日となった。

 クラス代表戦。一年生の試合はそこまで大きな意味を持っているわけではなかった。だが織斑一夏という世界初の男性操縦者の初公式戦でもあり別の意味で注目を集めていた。

 しかし試合中にアリーナを破り乱入者が現れ中止となる。一夏は対戦相手であった鈴と共に戦うが倒せず膠着状態になる。

 後でわかるが乱入者は存在するはずのない無人機であった。これもISを根本から揺るがす大きな衝撃となるが、一夏の印象としては直ぐ後に起きたことが強い。

 男性操縦者の七海緑兵と、自我を持ち人間の様な体を持つISの青衣。千冬に呼び出された彼らは一夏と鈴で倒せなかった相手をあっさりと倒した。しかも一撃も喰らわずに。まだ余裕があるのは見て取れた。

 自分一人だけだと思っていたのが違っていた。同じ男性が居たことに嬉しく思うと同時に困惑した。やはり自分だけの特別と言う思いがどこかにあったことを一夏は自覚した。

 その後、鈴と共に彼と戦った。こちらから仕掛けた戦いは状態が悪いといえあっさり撃墜された。正直万全でもどこまで戦えたか予想が付かない。

 その後、緑兵と青衣からIS学園を通じてもたらされた情報は己を含め、いやISの評価を揺るがすものだった。

 衝撃が止まない中、再戦を希望する鈴がクラスに来る。少し間を置いて女性至上主義者である上級生5人も。

 女性でさえ眉を顰めるほどの口汚く罵る5人を彼はめんどくさそうに冷めた目であしらっていたが、やがて一瞬で黙らせた。

 何をどうやったのかはわからない。一夏を含めて彼の発する圧力に飲まれた。何をするかわからない不気味さを持つ彼を止めたのは姉である千冬だった。しかし5対1での試合を持ちかける。

 そして試験では世界を取った姉と決着つかずと言う結果が知らされた。更識という人物は一夏は知らなかったが、ここで話に出た以上それなりの相手だと言うことはわかる。己が山田先生に勝った時の様にまぐれも考えられるが次の言葉が一夏に衝撃をもたらした。

 

「一年一組に恥をかかせるなよ。別に本気でも構わん」

 

 彼の返答とあっさりとした姉の態度。つまり上級生5人を相手にしても十分に勝機あり。姉もそう思っているのだ。

 彼らが山田先生に案内を頼みアリーナへ向かった後、放心状態だった上級生5人も千冬に発破をかけられ足取り重く指定されたアリーナへ向かった。

 自業自得な5人をクラスメイトを含め周囲にいた生徒は憐れみと侮蔑を含んだ視線で見ていた。

 織斑千冬を敵に回した。そして対戦相手は七海緑兵だ。男をあれだけ下に見ていたのだ。負けたらどうなるか。

 一夏もその様子を見ていたが憐れみは無い。あるのは上級生に対するやり場のない怒り、そして彼に対する嫉妬だった。

 

「一夏」

「一夏さん」

 

 箒とセシリアに声を掛けられ一夏は正気に戻る。皆とアリーナへ向かおうとしたが姉が呼び止めた。周囲の者も千冬を見る。

 

「男性の操縦者は二人しかいない。いずれ貴様が越えなければいけない高い壁だ。あいつが刀だけで試合しても今の貴様に勝ち目はない。おそらく完封されるだろう。

 一撃を与えられたらなどと思うな。その考えは機体に頼りすぎている証拠だ。

 あいつの戦いをよく見ておけ。戦い方は異なるが得るものは多いはずだ」

 

 怒った箒がそんなことは無いと言うが、

 

「篠ノ之、自身の専用機と互いに認め合い、何年も互いに要求を突き付け模索する。あれが駄目だと思う内はお前の眼は曇ったままだぞ。

 それともう一つ。全員に言っておくがこれから醜いものを目にすると思う」

「醜いもの?」

「ああ」

 

 頷く千冬。一夏だけでなく聞いていたクラスメイト達、集まった野次馬も疑問を浮かべる。

 

「それは何だよ、千冬姉」

「織斑先生だ。

 まあいい。自分の目で見てそして考えろ。皆もだ。行けクラス代表。あいつは貴様のクラスの一員だ」

 

 そのままクラスを出された一夏はクラスメイト達と共にアリーナへ向かった。

 

 

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 アリーナは満員だった。口コミが口コミを呼んだ結果だ。逆に試合前のステージには誰もいない。

 一夏は出入り口に近い一角にクラスメイト達や鈴を含めた先ほどまで近くにいた生徒が固り席を取った。

 だが周囲からは口々に男を罵る声が聞こえる。緑兵ではなく男が、だ。一夏にとってそれは己が言われているのと同じであり、それが不快であった。

 

「一夏、大丈夫か」

 

 心配そうに右隣にいる箒が言う。反対にいるセシリアも、セシリアの横にいる鈴も同様だ。皆理解をしているのだ。

「ああ、俺は大丈夫だ。ただ……」

「ただ、何だ」

 

 一夏は拳を握りしめ、やり場のな怒りを込めて吐き出した。

 

「この学校の生徒のほとんどは、やっぱり男というだけで下に見ているんだな。それが良くわかったよ」

「そ、そんなことありませんわ」

「あるんだよセシリア。この状況を見てわからないのか」

 

 セシリアだけでなく、他の者も周囲を見回す。

 

「確かに、これは……」

「冷静なの私達だけ?」

 

 おずおずと、そんな発言が飛び出してくる。

 

「多分そうだな」

「ISに乗れる人間ほどその傾向が強いと言うが、これほどとは」

「千冬姉の言った醜いものは多分これだ」

 

 周囲の騒がしさに反して一夏の周囲にいる生徒達は黙る。誰かが喉を鳴らした。

 

「俺は変えなきゃらならいんだ。この状況を」

 

 決意を込めた一言は喧騒に飲まれるが、それでも通じる者はいたようだ。

 

「オリムー……」

「一夏さん」

 

 皆が心配そうに見る。一夏は真剣な目で一度誰もいないステージを見る。その後周囲にいる者達に質問した。

 

「なぁ皆、5体1ならどうやって戦うんだ?」

「どうやって、て……」

「普通は直ぐ囲まれて負けるよね」

「うん」

 

 次いで隣にいるセシリアを見た。

 

「ブルー・ティアーズは多対1に向いているんだよな。ビットもある」

「ええ」

「さっきの七海の戦いを見て、七海は5人相手にどう戦うと思う?」

 

 少しセシリアは考え込み、

「わたくしなら囲まれないようにしながら、遠距離から1人ずつ倒していきます。

 多数相手に囲まれたら終わりですもの。あの七海さんも同じ様にすると思いますわ」

「そうだよな」

「一夏、なぜ私に聞かん……」

 

 箒は不満そうな声を出す。

 

「あら、あの七海さんはわたくしと同じ遠距離を得意とする……とは限りませんわね。最初は刀でしたし。

 彼らには何か隠し玉がありそうですわ」

「隠し玉ねぇ。確かに余裕はありそうだったわ。

 問題のずっと弾を撒く4つの黒い球体、2本の刀、本体からの針状のマシンガンみたいなレーザー、それだけじゃなさそうだし」

 

 セシリアの言葉を受け鈴はそこで考える。近くにいたクラスメイトの谷本が思い出したかのように言った。

 

「そういえば彼ってどうやって現れたの? 観戦してた私にはいきなり現れたように見えたけど。どうだった?」

「私も同じよ。織斑君と凰さんはどうみえたの?」

 

 谷本が隣にいる相川に問いかけるも答えは同じだ。相川はステージにいた二人に確認をする。話を振られた二人は思い出そうとするが、

 

「千冬姉が呼んだ直後にいきなり現れた」

「同じよ。いきなり現れたとしか言えない。違って見えた人はいる?」

 

 鈴が周囲に問いかけても誰も口を開かない。困惑した目で首を横に振る。再びの沈黙で喧騒がやけに大きく聞こえた。

 やがて、おずおずと相川が口を開いた。

 

「ステルスは無いかな? 自分でも苦しいのはわかっているけど」

「ステルスだとしたらやるなら遠距離攻撃でしょうね。できるのはわかっているし、刀を振る必要がないわ」

「織斑先生が呼んだ直後ですから接近戦は無理なのでは? ぴったり張り付いていたとは考えにくいですし」

「そうよねぇ」

 

 少し考え鈴とセシリアが否定した。

 

「テレポかなぁ?」

「本音、真面目に考えなさい」

 

 布仏本音が言い、相川に注意される。

 皆が困惑しながら話す中、箒が言った。

 

「始まるぞ」

 

 一夏は真剣な目でステージを見る。丁度ピットから打鉄が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 先に飛び出してきたのは上級生の5人。中距離から遠距離の装備を付けたラファール・リヴァイヴが2体、アサルトライフルを装備した打鉄が3体だ。武器は量子化しているだけで他にも積んでいるだろう。

 ラファールはかなり後方に下がる。おそらくラファールが支援で打鉄で緑兵を囲み倒すつもりだ。

 次いで別のピットから七海緑兵の駆る青衣が飛び出した。仮面は付けていない。素顔のままだ。

 オープンチャンネルで上級生は妙に演説ぶった、聞くに堪えないことをずっと騒いでいる。

 アリーナには上級生に歓声が緑兵には野次が届けられる。呆れ顔の緑兵は無言。

 

『何か言ったらどうなの!!』

 

 リーダー格で中心の打鉄を纏った上級生が言う。

 

『じゃあ少しだけ。

 これだけ言って負けたら恥なんてものじゃないな。どうする気だ?』

『恥知らずの様ですからきっと無かったことにして平然と過ごすでしょう。でなければ無意味にハードル挙げませんよ。

 とりあえず、ぐるっと一周眺めてみたらどうです?』

 

 緑兵と青衣の声がオープンチャンネルから伝わる。その内容に5人は誘導されたように周囲を見渡した。

 期待を込める視線、勝利を疑わない視線、自信に満ちた視線、視線、視線、視線。プレッシャーを感じたのか少し震え顔もこわばる。

 

『男なんかに負けるはずないわ!!』

『その通りよ!!』

 

 プレッシャーを跳ね除けるように、ますます語気を荒く罵声を飛ばしながら同意する他の者。

 緑兵は無言のまま仮面を出現させて被る。次いで両手に一本ずつ刀状の近接ブレード『無名』と周囲に4つのオプションを呼び出した。彼の周囲をオプションが不規則に回る。

 速い。剣とオプションの展開に一秒かかっていないだろう。それを見た5人が一瞬怯んだように感じた。

 

『無駄口を叩いているようだが、準備は良いか?』

 

 千冬の声がスピーカーから届く。

 

『俺はいつでも』

 

 緑兵が左腕を軽く持ち上げ、剣を中心にいる打鉄に向けた。

 

『私たちも』

 

 上級生の言葉の後、開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 ブザーと同時に緑兵のオプションが弾幕を撒き散らした。だが無人機を倒した時と異なる。

 相手のいる前方広範囲に速度の異なる大小の赤いエネルギー弾を、誘導弾の大半は前衛に、残りを後衛に振り分ける。そして誰も気が付いていないが途中で破裂する球も混じっている。色も赤なので知らなければ見分けは付かない。

 これらの弾幕は試験時に織斑千冬を相手した時と似ていた。緑兵はこの対応で5人の力量を図るつもりなのだ。

 おそらく自分たちと同じ女性至上主義者から事前情報を仕入れていたのだろうが、全く違う展開に5人は動揺する。

 そんな隙を見逃さないように曲線的だが高速で一番近いリーダー格の打鉄との距離を詰める。打鉄は誘導弾が多い為、回避と防御で手が回らない。後衛のラファールは掩護するようにミサイルやライフルを打つが緑兵は難なく躱す。緑兵はスラスターの噴射で軌道を変えているので直進速度はほとんど変わらない。逆にライフルを打つために体を空中に固定させたラファールの一体はエネルギー弾の直撃と、左右から分裂した弾を食らった。

 狙われたリーダー格の打鉄は避けられない弾を何とか物理シールドで防ぎつつ、武器をブレードに切り替えた。

 そこで緑兵は標的に近づきながら全身から赤い二―ドルレーザーを発射させた。予想外だったのか、慌てて回避行動をとるも避けきれず半分以上喰らい、次に誘導弾が命中、彼女は体制を崩す。

 そこにイグニッション・ブーストで急接近した緑兵の刀が直撃する。右の刀と左の刀、そして勢いを殺さぬまま入れられた前蹴りに飛ばされ、背後にあった数々のエネルギー弾と誘導弾に触れる。止めのニードルレーザーを連続で喰らいシールドエネルギーは尽きた。悲鳴を上げながら放物線を描き落ちて行く。ここでようやく援護のミサイルが到達するが、緑兵は全てを躱す。

 緑兵は次の獲物を近くの打鉄に定めると弾幕を吐き出しながら青衣を向けた。

 ここまで開始から十秒と経っていない。

 リーダー格が落とされたことにより後方にいたラファールの一体は放心状態になるが、もう片方は逆に冷静になったようだ。

 

『撃って!! 近づけさせないで!!』

 

 叫びながら彼女は狙われた打鉄と緑兵の間に集中砲火する。誘導弾に晒されながらも打鉄は防御をしながらライフルをひたすら撃つ。もう一体も同じだ。放心していたラファールもエネルギー弾を喰らうと正気に戻りミサイルを放つ。

 緑兵は小型のスラスターを調整し不規則な軌道を取ることで、ラファールと打鉄の攻撃を回避し近くの打鉄に接近する。標的にされた打鉄の操縦者は小さく悲鳴を上げた。

 檄が響く。奥にいる冷静なラファールだ。彼女は前衛が崩れた時、後衛の自分たちでは勝てないことを既に理解しているのだろう。必死に標的となった打鉄へ指示を飛ばしている。それにより打鉄の操縦者も少し冷静さを取り戻したようだ。

 故に緑兵はそのラファールを他の搭乗者に比べて厄介と考え先に仕留めることにした。イグニッション・ブーストを使った後、緑兵はその場から姿を消した。

 目の前で起きたことが理解できず、アリーナにいる観客を含めた全員の思考が一瞬止まる。そして緑兵にはその一瞬で事足りた。

 タイムラグ無しに、狙ったラファールの真上に現れた緑兵は両手の刀を叩きつけるように一撃を喰らわせる。イグニッション・ブーストの加速が入った頭上からの完全な不意打ちだ。更に凄まじい速度で落下するラファール目掛けオプションから大小の赤いエネルギー弾を収束させたもの、集中させた誘導弾、破裂弾、二―ドルレーザーを打ち込んだ。

 ラファールが地面に叩きつけられ高く土煙を舞い上げる。そして弾幕はラファールの落下点に次々に着弾し、ラファールのシールドエネルギーはゼロになった。おそらく乗っていた生徒は何が起きたのかすら理解できていないだろう。

 

『そんな……』

 

 ハイパーセンサーによりその容赦ない光景を見てしまったもう一体のラファールの操縦者の顔がこわばる。

 更に舞い上がった土煙を背に既に緑兵は自身へ向かっている。面で隠されているはずの彼の目と合った気がした。

 何もしなければ数秒の距離だ。同じ目に合わされることを理解した操縦者は総毛立った。

 叫び声を上げながら彼女はミサイルやライフル、持てる武器を乱射する。冷静さを失った彼女に周囲に向かって吐き出され続けるエネルギー弾と誘導弾は躱せるはずもなく着弾し体勢を崩す。緑兵は接近するのを止め、中距離から放ったニードルレーザーにより彼女は止めを刺された。

 残るは前衛だった打鉄二体だ。両方とも飛び交う破裂弾や誘導弾の回避に集中するあまり、ほとんど意味をなさない発砲しかできない。距離が近い打鉄に対して緑兵は攻撃しながら一気に距離を詰める。当たらない攻撃は回避する必要もないのだ。

 ニードルレーザーに狙われた打鉄はもう一体と合流するべく、回避と防御をしながら移動するがどうしても遅くなる。3機落とされた為に自機狙いの誘導弾が倍近くに増えたからだ。もう一体の打鉄も同じく援護できる状態ではない。

 唯でさえ青衣の方が速い。このままでは追いつかれ斬られるか、このままシールドエネルギーを削られるかの二択なのだ。

 彼女はライフルをブレードに切り替えた。もう勝利は無い。だからせめて一撃を当てる覚悟をした。だが己に近づいてくる緑兵は突如消えた。

 慌ててもう一体の打鉄を確認すると既に斬りつけられ、撃たれ、悲鳴を上げながら落ちていくところだった。

 

『あ、あは、は』

 

 乾いた笑い声がアリーナに響く。

 彼女もIS学園に入学できるだけの頭脳を持つ立派なエリートである。故に彼女は緑兵が突然標的を変えた理由を理解した。

 彼女がライフルからブレードに武器を変更したことで、標的を変えても緑兵は撃たれる危険性が消えたのだ。それどころか腹を括ったことも見透かされていたのもしれない。

 見下した男相手に、無条件に勝てるはずの男相手に5人がかりで手も足も出ず、一撃も与えることもなく、手の内で転がされ蹂躙された徹底的な負け。

 止まってしまった彼女を振動が襲う。漂っていた弾幕と誘導弾が直撃したのだ。

 

『ある程度で済んだな』

 

 緑兵の声が試合開始後初めてアリーナに響く。

 彼女の脳裏に自分たちが乗り込んだ一年一組で起きた内容が蘇る。彼は確かにそう言っていた。

 もう彼女は笑うしかなかった。彼は手加減こそしていないが全てを出したわけではなかったのだ。

 そして緑兵から新たに放たれた弾幕が己に突き刺さるのを他人事のように感じていた。

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者、七海緑兵。0分41秒』

 

 アナウンスを一夏達は呆然としながら聞いていた。

 最初から最後まで正に一方的だった。彼は一撃も喰らっておらず、まだ先がある。

 

「テレポで合ってた」

 

 わぁい、と喜ぶ本音。その一方で

 

「5人を1分足らずで……」

「負けた……嘘よ」

「い、今のって、何なのよ!!」

「恥よ、あいつらは!!」

 

 責める声、責任を問う声、混乱した声、罵声が感染するかの如く広がる。最早、怨嗟に近い。

 

「あ、ああ……」

 

 一夏と周囲の者、女尊男卑の主義に染まっていない者、男を見直した者、客観的に状況を見れた者は主義者の醜態を見ていた。

 試合内容よりもこちらの方がショックだった。

 

「醜いものって、これだ……」

 

 一夏達は理解する。千冬は七海の勝ちを確信していた。だからその後も予想できた。言っていたのはこれだったのだ。

 5人に対する非難、中傷、悪口が響く。

 

「ひどい……」

「醜いですわ。わたくしもこれの仲間だった……」

「いえ、一年一組のほとんどがそうだったのよ」

 

 ステージにいる倒れた5人はどう思うのか。ISの持つ絶対防御で意識があり、ハイパーセンサーで全て聞こえ、シールド切れで全く動けず耳も塞げない。正に生き地獄だろう。

 だがそんな生き地獄は直ぐに終わる。

 轟音。そして振動が伝わった。

 悲鳴が上がった後、皆黙り込む。

 緑兵が弾幕をアリーナのシールドにぶつけたのだ。拡散させていた弾幕を全方向に一通り打ち込んだ後、緑兵は止まる。

 

『なぁ、騒いでいる連中。ごちゃごちゃ言わないで文句があるならこっちに来たらどう?

 全員IS乗れて訓練してるんだよな。こんな時でないと使う機会は無い』

 

 左の刀を正面に向け七海が言う。仮面のせいで表情が分からないが声は明らかにイラついていた。

 

『おい、七海!!』

 

 この暴挙に千冬の声がスピーカーから響く。七海はそれを無視して逆に問う。

 

『織斑先生、下で倒れているのはこいつらの代表みたいなものですよ。余りのISは何機あります?』

『本気か?』

『本気ですけど? 全部まとめて相手します。戦わなければ負けは無いんですよ?』

 

 沈黙。

 

『青衣、お前はいいのか?』

 

 織斑先生は青衣に問いかける。

 

『緑兵がやるならやりますよ。もう少しデータが欲しいですし。

 それに織斑先生、結果わかっていて試合やらせたでしょう? 5人に同情の欠片もありません。正直いい気味です。でも唯やられただけなのか、やられても仕方ないってなるかで多少違う。

 ねぇ緑兵?』

『余計なことは言うな』

『ふっふーん。何年付き合っていると思うんです? 丸わかりなんですよ。

 手の返しが気に入らない、逃げずに体張った分だけ少しはマシ。そんなところでしょうかね』

『やかましい、どうせお前も似たようなこと考えているだろう』

 

 ステージで漫才の様に騒ぎ続ける緑兵と青衣。

 千冬はため息をつく。

 

『何機かは言えん。機体も装備も学園の資産なんだ。全部潰されたらたまらんからな。

 あれで5人とも生徒の中では並より上の実力だったんだ。お前の相手をしたい奴から腕の良いのを何人か選ぶ。それで良いか?』

 

 彼女は諦めたようだ。

 

『俺はそれで良いですよ』

『私も構いません。それと緑兵は壊れない程度に加減してましたよ。とはいえ次の保障できませんけど。ねぇ、緑兵?』

『相手による』

 

 緑兵と青衣の会話後、千冬が締めにかかる。

 

『さて聞いての通りだ。結果に納得いかない者は今から20分以内に管制室にいる私の所に来い。七海は一度ピットに戻れ』

『了解』

 

 言われた通り緑兵がピットに向かう。途中で面で隠れた顔が一度地面にいる5人に向く。

 

『下の者は』

『そっちで回収してください。俺はやりたくないし義理も無い』

『わかった。こちらで行う』

 

 緑兵がピットへ消えた後、アリーナにざわめきが戻る。

 

「男のくせに調子に乗って」

「ならあなた行きなさいよ!!」

「嫌よ!! あんなのに勝てるわけないじゃない!!」

「反則よ。反則負けにしなさいよ」

 

 そんな声があちこちで飛び交う。

 一方、一夏達はその光景を見て別の感想を持っていた。

 

「あいつ……」

「どんな相手でも負けた者の侮辱を許さないとは、武士だな」

「それに引き替えこいつらは……」

「わたくしも他の人からはああ見えていたのでしょうか」

 

 一夏と箒は変な方向に感動し、鈴はやり場のない怒りを覚え、セシリアは過去を思い返していた。

 

「それを言うなら」

「私たちもねぇ」

「青衣さんと何年いっしょにいるんだろう」

 

 一年一組のクラスメイトも入学式後『男が強いなんて昔の話』と笑い飛ばしたのだ。やはり思うところはあったようだ。一夏、箒、鈴、そして本音以外にも暗い雰囲気が漂う。

 

「あ~、反省はここまで」

 

 このままではまずいと思ったのか、雰囲気を壊すべく手を鳴らして鈴が言う。

 

「一夏、あいつの戦い方を見てどう思った? 同じ男だし真っ先に比べられるわよ」

 

 まずは一夏に話を振る。

 

「どうって、いきなり秒殺しただろ、あいつ。動きも攻撃も凄いとしか。その上瞬間移動まであるし」

「そうね、でもあいつは瞬間移動が無くても無傷で終わらせることができたと思うわ。

 一夏からすれば最初の秒殺はお手本も良い処じゃない? 武器が近距離だけとはいえ白式の方が基本能力は上なんでしょう?

 あと判断力もあるわね。厄介な相手から順に潰している。あの瞬間移動あってとはいえ、ね」

「そうですわね。特に最後の一機、武器をライフルからブレードに切り替えたので攻撃を受ける心配が無くなりもう一体を先に倒した。見事な判断です」

 

 一夏の答えを鈴が受けセシリアが繋げる。やはり代表候補生、見抜いていた。

 あちらこちらで小さな議論は始まる。

 

「あえて遅い弾をチャフの様に撒いて相手の動ける範囲を狭めた。上手くいけば狙撃を活かせる?」

「瞬間移動は別にしても、あの回避……」

「あの弾、どうやったんだろう?」

「スラスターかなぁ、あの不思議な軌道」

 

 セシリアと鈴の様に観察し貪欲に吸収しようとする者、本音の様に技術を観察する者、男を見直す者や冷静に試合を見れた者にとっては各々収穫があったのだ。

 ある意味で千冬の試みは成功と言えた。

 

 

 

 

 

「ちょっといいか?」

「うおっ!!」

 

 突如、制服姿の七海緑兵が目の前に現れた。一夏の驚く声に周囲の者もいきなり現れた緑兵に驚愕する。

 

「お前、ピットにいるんじゃ」

「そうだけど」

 

 一夏達は答えになっていない、と思うが言い出せなかった。緑兵に気が付いたのかざわめきが広がっていく。

 

「青衣さんはどうした?」

「ピットでエネルギーの補充中だ。

 俺達は必要ないって言ったんだけど、学園側に我儘を言ったんだから言うことも聞けってさ。俺もすぐ戻る」

 

 確かに彼の首に青衣の待機形態である青い鎖も無い。

 それにしても何故こいつは現れたのだろうか。疑問に思った一夏は聞くことにした。

 

「何か用か?」

「織斑先生から学園の案内について頼まれただろう? あれどうしたらいい?

 こっちの都合でずいぶん時間食ったし、明日以降でも良いけど」

 

 そんなこともあったわね、と周囲から漏れる。

 

「終わった後で良いよ。試合を決めたの千冬姉だし」

 

 もっと深刻なことが起きたと思った一夏は安堵する。

 

「なら俺達はどこで合流すればいい? 終わったら青衣とここに来た方が良いか?」

「それじゃあ騒ぎになる。ピットに行くから待っていてくれ」

「わかった。それじゃあ」

「ちょっと待った」

 

 戻ろうとする緑兵を一夏が制止する。

 

「何?」

「頬が赤いけど、何かあったのか?」

「……」

 

 一夏の単純な疑問。そして他の者も指摘され気が付いた。左頬が少し赤くなり妙な跡が付いている。

 憮然とした緑兵が左頬を抑える。

 

「どうした?」

 

 再度聞く一夏。周囲は冷や冷やしていた。

 

「……聞かないでくれ」

「……わかった」

 

 ぽつりと呟いた緑兵に一夏何かを感じた。

 

「じゃあ戻る。後でな」

 

 緑兵はそのまま消えた。

 

「抓られた様だな、あれは」

「そう見えたわね」

 

 箒が見解を述べ、鈴が同意する。

 

「ですが、誰に?」

「織斑先生かしら」

「多分無いわ。出るなら出席簿よ」

 

 セシリアが疑問を呈し、相川が言ったことを鈴が否定した。

 

「青衣さんかしら?」

「でも同意していたよ。半分煽っていたし違うと思う」

「他は……山田先生にイメージは無いわね」

「というか知り合いがいるの? ほっぺた抓るってそれなりに親しくないと無理よ」

「いないんじゃない? 今日来たのよ、彼」

 

 ざわざわと周囲が予測を立てる中、ある意味で空気の読めない男が一人いた。

 

「なぁ、あいつ生徒会長がどうとか言ってなかったか?」

 

 空気が止まる。そこでセシリアが思い出した。

 

「確かに生徒会長への連絡を頼んでいましたわ。それと書記でしたか。間違いなく知り合いでしょう」

「まさか」

「でも書記なら役員だし、急に試合やるって聞いたら見に行くんじゃない?」

 

 わいわい騒ぎ始める生徒達。女性はこの手の話が大好きである。エリートだろうと何であろうと関係ない。

 そんな中、一夏たちの上、通路にいた上級生が言った。

 

「ここに来るとき早足の会長に追い越されたわよ。

 ピットに行ったかまではわからないけど、アリーナに来たならこの辺り通ったんじゃない?」

「私も来るときに抜かれた」

 

 更に別の生徒が証言し、何人か頷いた。

 確かに出入り口に近い。無論他にも通路があり出入り口もあるが、彼女達の証言通りの方向から急いで来たなら最短距離を選ぶはずだ。この辺りを通ることになる。

 ざわざわと別の意味で騒ぎが大きくなり、感染したかのように広がっていく。今のところアリーナで会長を見た者はいない様だ。

 

「会長に聞いてみようか~」

 

 そんな中、本音が袖に覆われた手で自分の携帯電話を高々と掲げる。

 

「是非!!」

「やって!!」

「おっけ~」

 

 本音が携帯を操作する。どうやってボタンを押していているのかはわからない。あれだけ騒いでいたのに辺りは静まり返る。空気を読めない者は居るが間もなく周辺の者に制圧された。

 本音の携帯電話は数回コールした後、生徒会長に繋がる。

 

「かいちょ~、今ピットにいますか~?」

 

 邪気のない声で、本音は相手と話し始める。

 

「……直球だ」

「一夏、黙れ」

 

 空気を読まない一夏は箒に口をふさがれる。

 

「何でななみんのほっぺた抓ったんです~?」

 

 ななみんとは七海緑兵の事か。そもそも抓られたのか不明なのに、何時の間にか断定されていた。

 

「なぁ、セシリア」

「一夏さん、口を閉じていてください」

「鈴」

「黙って」

 

 口をふさぐ箒の手を強引に外した一夏だが、口を開くとセシリアと鈴に制止される。

 

「え? ええ? え~? あははは」

 

 会話が読めない。興味津々の目は本音の携帯電話に注がれていた。

 

「ななみん達によろしくお伝えください~。え~?」

 

 益々注目が集まる。

 

「わかりました~」

 

 何が分かったのか。本音が電話を切る。

 

「何だって?」

 

 別の生徒が身を乗り出して問う。

 

「んっとね~、会長はななみんのピットにいるって~」

 

 おおお、どよめきが走る。

 

「ななみんはすぐ隣にいて、抓ったのも会長だって~」

 

 おおおおおお、どよめきが大きくなる。

 

「理由は秘密だって~」

 

 えええ、落胆の声が響いた。

 

「でも最後にななみんって言ったら、からかうなって大騒ぎ~」

 

 最高潮に達した。あちこちできゃあきゃあ黄色い歓声が上がる。

 

「……なぁ」

 

 箒たちも含めて皆が高いテンションで騒ぐ中、一夏は変な孤独を感じていた。でも何故か自分が男である事とは無関係だと頭の片隅で理解していた。

 数分経過する。

 

『織斑だ』

 

 不機嫌な声がアリーナに響く。騒ぎは一斉に止む。

 

『誰も私の所に来なかった。よって後の試合は無しとする。

 以上だ。解散』

「一夏、行くぞ!!」

「重大なことです!!」

 

 放送が終わるや否や、箒とセシリアを含めた皆が立ち上がる。

 

「皆、行くわよ!!」

「「「おお!!」」」

 

 鈴の掛け声が響く。何時の間にか一致団結していた。

 

「……何なんだ?」

 

 やっぱり一夏は状況を飲み込めていなかった。

 

 

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「おーい、会長?」

「何がどうなってるんです?」

 

 緑兵が一夏の前に空間転移したのはアリーナの様子を直接確認する為でもあったのだ。先ほどまでアリーナは憎悪や殺気などの負の感情が渦巻いていたはず。

 そして更識会長から身辺について警戒するように言われ、緑兵も納得していた。

 だからわからなかった。何故、好奇心旺盛な目で歓声を上げてピットに生徒が大量にやってきたのか。しかも更識会長に向けた視線が遥かに多い。

 緑兵と青衣は困惑した目で更識会長に問いを投げかけるが、確実な所は彼女にもわかるはずもなかった。

 

「私にもわからないわよ……」

 

 実際の所、更識は本音との会話から推測はできている。だから皆の勘違いに彼女は頭を抱えるしかない。それとも緑兵が受け入れられたも同然の状況を喜ぶべきか悩んでしまった。

 そんなことも知らず緑兵は考え込んでしまう。

 自分達と同様に、外の世界から幻想郷にやってきた東風谷早苗が以前『この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!』と言ったらしい。だがこの学園にも常識は無いのだろうか、それとも根本から常識が違うのか、或いは俺個人がおかしいのだろうか、と。

 

 




最後まで読んで頂き、有難うございます。

訓練機相手の無双、相性もあり多数相手に立ち回れます。
でもISなら更識はもっと強い。強くしすぎたか。

最後はこいつらノリが良いねという話。もちろん誤解。
女性って基本的に好きですよね、こういう話。

弾幕は機体からは1種類(ニードルレーザー)、オプションは3種類できるとしています。但しオプションは変更可能。緑兵と青衣の二人分なので。


しかし、数字と漢数字の使い分けは難しい。

-追加-
誤字修正 あとがき一文追加 表現がおかしい個所を修正
全体見直し 「待機状態」⇒「待機形態」
全体の改行修正 冗長箇所修正 「ビット」⇒「ピット」
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