「俺の三敗」
「いいえ、一勝二敗よ」
俺と更識会長が睨み合う。互いに納得せず、もう何度もこれを繰り返しているのだ。
外の世界の男と比べて俺は背が少し低い。更識会長に数センチ足した程度だろう。視線はほぼ同じ高さ。
ピットに集まった者の反応は様々だ。但し青衣を含めた一部は実に楽しそうに俺と更識会長を見ている。
何でこんなことになったのか。
ピットに来た一人の生徒が言ったのだ。女性至上主義者だろうな。
「会長、女が男に負けるのは納得いきません。女の意地を見せてください」
それを更識会長は鼻で笑った。
「貴女がなさい。私は男だけという理由で劣っているなんて考えてませんから」
「この二人は女を馬鹿にしているんですよ。こんなところに来るなんて!!」
意味不明だ。
「馬鹿にしているのは貴方の様な者ですよ。というか私も女ですし。因みに私たちは血縁はありませんけど姉と言える方二人に育てられています。
女と言うだけで劣っているなんて思っていたら、既に殺されています。ねえ?」
悔しそうな顔で強調する女に青衣が呆れた顔で言う。その発言で俺に注目が集まった。
「殺されているな、確かに。俺達がここに来たのは『女尊男卑の破壊して正常に戻して来い』と言われたからで、要は姉達からの命令。女を送っても意味が無いだろ?」
かちんと音を立てたように固まる女たち。
「姉に、命令された? 女性が女性優位を壊したいの?」
別の女だ。俺が言ったことを理解できないのか何度も繰り返す者も何人かいる。
「そんなにおかしいか? 自分の実力と勘違いした馬鹿女が増えて困るの一言だったぞ。なあ青衣」
苦笑いを浮かべる俺の言葉を中心に静寂が広がっていくようだった。
「気に入らないと武器振り回して、権利も振り回す。武器を振り回す強盗と変わりませんよね? 馬鹿みたいにIS、ISって持ってもいない武器を自慢してばっかり。強盗どころかまるでチンピラ。
虎の威を借る狐もといISの威を借る女ってとこかしら。仮に持っていても使う度胸あるのかしらね? 殺し合いぐらいにしか役に立たないけど。
本当に姉妹たちがかわいそう。宇宙に行くはずがチンピラの武器に成り下がって」
よよよ、とワザとらしく悲しげに言う青衣。更識会長は慌てて青衣の口を塞ぐも既に話してしまった。意味は無い。
生徒達の中には怒りで顔を赤くしたり、今更ながら気が付いたのか青くなったりと反応は様々だ。
こいつもナチュラルに喧嘩を売るんだよな。いや、売り言葉に買い言葉というやつか。
俺は更識会長に目線を映す。彼女は一度ため息を付いた後言った。
「弊害は既に出ているわ。未婚率の急上昇に出生率の急低下は社会問題になっているしね。無能な男が上に立つのと同じで無能な女が上に立つのも問題なわけ。少し前を見据えれば、危惧を抱いても何も不思議もないわ。
それはそうと貴方、彼をどうこう言うのなら何故戦おうとすらしなかったの?」
更識会長は青衣の口から手を離さないままその生徒をまっすぐ見る。青衣は強引に引きはがそうとすればできるのだがする様子もない。こちらは冷めた目、いや見下した目で見ている。衆目を集めている主義者は真っ赤な顔をしてたが反論できなかった。
此処にいる以上アリーナにいたことに間違いはない。そして俺と戦おうとすらしなかったのだ。
「本題に戻りましょうか。七海君?」
更識会長が強引に話題を変える。
「いいですよ。俺が女と言うだけで馬鹿にしているかでしたよね?
俺達を育てたのは姉達で、いろいろ俺に仕込んだのもそう。剣を教えたのも女。教わった云々は男もいるけど大きなところはこれだ。答えは出ていると思うけど。
馬鹿にする内容に男も女も無いよ。そいつがどうかだけ。以上」
面倒事はさっさと終わらせるに限る。俺がそう言うと主義者がますます顔を赤くさせた。納得いかないのか?
「会長!! 男がいるなんてISの操縦者として、生徒会長として恥にならないのですか?」
「ならないわね。それを言うなら織斑一夏君はどうなの? 入学してから一ヶ月経つけど何も言わなかったわね。織斑先生の弟だから怖いのかしら?
それともう一回聞くけど、それだけ言うなら貴方はなぜ戦おうとすらしなかったの?」
今度こそ更識会長は主義者に対して呆れた目をした。
「……実力はどうなんです?」
追い詰められたような主義者の問いに、更識会長はため息で返した。
「あれだけのモノを見て疑っている様じゃそうとう目が曇っているわよ。
それと私は貴方を何度か見ているけど彼と戦った五人の方が腕は良いと思っているわ。敗北も戦わなきゃつかないものよ」
「……会長と比べてはどうなんです?」
主義者は絞り出すような声で問うがこの質問にはもう笑うしかない。
俺を含めた何人かは言っていることのおかしさに気が付いているが、彼女は気が付いていない。もう頭の中がいっぱいいっぱいなのだろう。
「何がおかしいのよ!!」
顔に出ていたのか、彼女は俺を批難する。
「会長はロシアの国家代表だ。現役のね。俺の比較対象にそんな人物が出てくる時点で光栄だと思ってな」
俺の指摘でようやく気が付いたのか、はっとした顔をする。
一年坊主の比較に更識会長を持ちだす時点で既におかしいのだ。
IS学園へ正規に入学している時点で頭は非常に良いのだろう。だが思考が凝り固まっているのと冷静さを失ったせいでこの体たらくだ。
いや、似た面は俺にもあるな、気を付けよう。
「もっとも練習試合、模擬戦だったか? 会長に負けっぱなしだな。勝ち無しで三敗だ」
「「「えっ」」」
会長との試合で負けを認めることで女と言うだけで下に見ていないと言うアピールでもある。今考えれば試合後の言動は挑戦的過ぎた。
俺の言葉に周囲の目線が俺から更識会長に移動する。さて、どうする?
「いいえ、七海君は一勝二敗よ」
おや?
苦々しげに更識会長は俺の言葉を否定する。そしてロシアという大国の国家代表が言う一勝という重みに周囲はフリーズをした。
「反則だって言ってたじゃないですか。
だから俺の三敗です。織斑先生も『良いところまでいった』でしたし、勝ちならそう言うでしょう」
「確かにあれは反則同然だけど、私の負けは負けよ」
俺と更識会長は互いに否定し合う。
「反則同然って言ったでしょうが」
「明確な決まりはないわ。だから同然。試合にならないから使わない様に言ったけど」
「使えなければ同じでしょう。俺の三敗だ」
「私の反則勝ちは無いわ。あなたは一勝二敗、ルールが明確じゃないんだから。それにまだ手の内残っているでしょう?」
「俺が何枚手札を切ったと思っています? 確かにまだありますけど出しても会長相手なら嫌がらせだ」
「何を言ってるのよ、初見殺しも良いところじゃない。どうせ私にも有効な手札残しているでしょうが!?
あなた何年乗っているのよ!?」
「嫌味かよ!! どうせ何年も乗っててこれですよ!!」
「あなた殆ど我流だったじゃない!! 知ったらあっさり覚えて何を言うのよ!!」
俺は何年も乗ってるのだ。確かに更識会長にも代表候補生クラスと言われたが、起動時間は300時間どころではない。
俺の発言が気に障ったのか、更識会長は青衣の口を解放すると肩を掴んで回転させて強制的に正面を向かせる。
それまで面白そうにしていた青衣だが、突如振られ少し狼狽する。
「青衣ちゃん、私が見ていないのはどの位あるの」
更識会長にがっしりと青衣は肩を掴まれる。
「えっと、緑兵も言ってましたが有効かわかりませんし。いやがらせ程度にしか」
「ケーキ奢るわ。食堂だけど3つでどう?」
「いや、買いますよその位」
当たり前である。
「追加でレシピを聞いてあげる」
「最低でも一枚手札を残しています。他は作成中です」
「お前何ばらしてんだ!!」
あっさり買収された青衣を俺は批難するも、彼女は俺目掛けびしっと右手の指を一本立てる。
「何だよ?」
俺がその行動に疑問を持つ。眉間にしわが寄ったのが自分でもわかった。
「いいですか、私がケーキを食べて、レシピを覚え、練習すれば再現できます。どうですか?」
確かにこいつ料理が趣味だし、外の世界に来てから菓子をやたら食っていたな。
「確かに近いモノはできるんじゃないか? ケーキは知らんが他の菓子は暇なとき再現していたし」
「なら良しとします」
「おい!!」
「いらないんですか?」
俺の顔をやたら綺麗な顔で青衣はじっと見つめてくる。
「美味しいですよ? きっと」
「……調理器具はどうする? 無駄使いは許さないってお前が言っているだろう。一式揃えるのに幾ら使う気だ?」
美味の誘惑を堪え、俺は冷静に考える。生活で使う支出以外に個人で使う小遣いも十分にあるが逆を言えばそれしかない。そして主に青衣が握っているのだ。
「最悪私が器具を作りますよ。ISとして腕の見せ所です」
ISとして絶対おかしいと思う。胸を張る青衣にそう思うが本人がやる気だ。
もう良いや。既にばらされたし、これ以上の事を言われても困るし、喧嘩してもしょうがない。
「わかった。楽しみにしている」
「はい!!」
最後には負ける俺と嬉しそうな青衣。仕方ないと思い、俺はあさっての方向を見るが更識会長に両方の肩を掴まれた。すごい力だ。
更識会長と再び目線が合う。逃がしませんと目が言っている。一瞬怯んでしまった。
何と言うか、笑顔だがものすごい迫力である。そう言えば笑うとはもともと威嚇の意味が強いんだったな。
「一勝二敗ね? 私の負けは負けよ」
にっこり笑って更識会長が言う。俺は強引に両肩を解く。
「俺の三敗、俺の負けは負けです」
多分俺も笑っていた。宥めるどころか逆効果なのはわかっている。どうして俺はこうなんだ?
そして睨み合いが始まった。
経緯はこうだ。学園長室のでき事から少し経った頃、更識会長は俺達に模擬戦の提案した。俺と青衣は存在がばれるのが嫌だったのでアリーナも適当な名目で無人にし記録も取らずに行った。
最初の1戦目は普通に戦った。但し更識会長は俺や青衣を探っているのが見え見えだったし、青衣の『スペルカード再現』も『幻符・偽マスタースパーク』の一枚だった。俺としても『スペルカード再現』による破壊力よりも、通常の弾幕を使った実力を伸ばしたかったこともある。無論全力で戦った。
結果として1戦目は更識会長の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)のシールドエネルギーを3割ほど減らして負けた。更識会長自身の腕の他にもミステリアス・レイディの液状防御フィールドが固くやっかいだったのだ。幻想郷に分身を使うのは多くいるがまさが外の世界でもお目にかかるとは。
だが試合後、彼女は俺が『スペルカード再現』を一回しか使わなかったこと、そして空間転移を使わなかったことに対し腹を立ててきたのだ。俺が織斑先生との試験を彼女に見られていたことに気が付いたのはこの時だった。要は最後に構えていたことで『幻符・偽マスタースパーク』は数発撃てると解釈されたのだ。
その後は売り言葉に買い言葉、後日改めて模擬戦をすることになった。
『スペルカード再現』も4枚、空間転移も使った。結果は負けたがミステリアス・レイディのシールドエネルギーは残り2割だった。もう少しだったので、正直悔しかった。能力の使用も空間転移はまだ移動なのでまあいいや程度の反応だった。だが今度は青衣はぶーたれた。
更識会長は学園長室や『拠点』での出来事と、把握した俺の性格から能力をほとんど使っていないと考えていたので半ば挑発的に言ったのだ。『全力で来い』と。そして青衣も能力をフルで使えと俺に言う。俺は『そんなことをしたら試合にならない』と言ったのだが二人に睨まれた。
女尊男卑抜きにしても男は結局女に勝てないというのを改めて認識した。挑戦的で俺を小馬鹿にする更識会長にカチンときたのも事実だ。
そして問題の3戦目。更識会長に腹を立てていた俺はお望みの通り『空間を操る程度の能力』を使ったのだ。
アリーナ程度の大きさなら直ぐに支配下に置ける。試合開始からミステリアス・レイディ周囲の空間を支配し捻じ曲げ、内部の相対速度をゼロにしてやった。
矛盾がある表現だが、彼女は何をどう動こうとも一か所で固定されてしまったのだ。例えばエレベータやランニングマシンをイメージしてもらいたい。機械の動きと逆方向の速さで動けば少し離れた者からすれば一点から動かないように見える。それの三次元バージョンだ。但し動きの主はミステリアス・レイディで釣り合いをとる速度を出すのは空間自体だ。ISの計器は正常、狂ったのは空間だ。それに気が付いた時の更識会長は流石に慌てていた。
もちろん槍に内蔵されたガトリングガンや水蒸気爆発等で俺を攻撃してきたが、それ自体も動けないので自爆するだけだ。物が押し合うように、爆発で逃れようとしたのかもしれないが、甘い。俺はぶら下がった人形の様なミステリアス・レイディを的に撃ちまくる。最後まで『空間を操る程度の能力』のコントロールと青衣での遠距離攻撃に終始した。
無傷で完勝し、顔を合わせた瞬間『反則よ!!』と叫ばれた。俺が相手でもそう言うだろう。ISを使う意味はあるのだが、向こうからすれば納得がいかないのも理解できる。
この時は学園長の他に何故か織斑先生と山田先生も見ていたのだが、最早乾いた笑いしか出ていなかった。織斑先生には見せたくなかったのだが、俺も頭に血が上っていたのだ。折角アリーナ丸ごと支配下に置いたのに。冷静さを欠いたことを反省した。
後の俺と青衣の会話から、俺の能力は汎用的であり戦闘が特別強いわけではないこと、能力込みでなら実力が上な者がごろごろいること、今のこれも上位陣からすればお遊びでしかないことを知った時の顔は正に絶望とも言うべきものだった。
俺はIS抜きでも嵌めることができ、生身でシールドや絶対防御を解体できるのだ。特に学園長は八雲紫と直接会っているので納得したのかもしれない。
俺より実力が上の連中の大半が人間でないので簡単に外の世界に出てこれないなど幻想郷の仕組みを知らない者には解るわけがない。無論、修正もしない。そして『俺達、云わば下っ端だから命令されて来てるんですけど』『IS学園に入るには年齢制限が』の言葉によって、そういう連中ですら風潮である女尊男卑を危惧している現状を改めて認識してもらった。
無論詮索の禁止や口止めは厳重にしてある。脅しとも言う。
そういうわけなので俺はISの試合として勝ちを認めていない。結局、空間捻じ曲げただけだったからね、
そして冒頭に戻る。
「お前ら何をやっている?」
ピットの様子がおかしい事に気が付いたのか、織斑先生がやってきたようだ。ちらりと横目で確認する。モーゼのごとく人が左右に分かれ中心を織斑先生が歩いてきた。俺と更識会長は動かない。
「青衣、説明よろしく」
横で楽しそうにしているであろう青衣に丸投げすると、彼女は織斑先生に俺と更識会長の勝敗について、補足としてピットで起きたことの説明を始めた。周囲の生徒への確認も含め、一通り把握した織斑先生は呆れた様子で一言。
「あれは無効試合で七海は二敗、勝ちは無しだ。それで納得しろ」
俺達は無言、何秒か後互いに折れた。
「仕方ないですね……」
「妥当な落としどころか」
更識会長と俺はしぶしぶ納得する。
「それと……」
バシンッと俺の頭に衝撃が走り思わず頭を押さえる。もう一つ響く。くぐもった声の主は青衣だ。俺と同じく何かで叩かれたのだろう、頭を押さえ蹲っている。
うわっ……とあちらこちらで自分が叩かれたような呻き声が聞こえた。他の生徒も経験あるのだろう。
「お前達は学園の生徒丸ごと相手する気か!! 気持ちはわかるが喧嘩っ早いにもほどがある!!」
織斑先生を見ると手に出席簿を持っている。それで頭を叩かれたらしい。なぜ持っている? そうか、クラスから管制室へ移動、そして此処か。
「……ある意味で俺は喧嘩を売りに」
もう一発貰う。今度は蹲った。視界も涙で滲む。
「だからって全方位に売ってどうする!!」
はい、確かにやり過ぎました。
「ところで青衣、お前は菓子まで作るのか?」
俺を無視し、織斑先生は青衣に話を振る。青衣は頭をさすりながら立ち上がる。
「作りますよ。洋菓子は練習中です」
俺も立ち上がって織斑先生を見ると、実に不思議そうな顔をしていた。確かにレシピや調理器具はともかく、俺達の会話はある程度作れることが前提の話だ。
「前に何度か生徒会室であられやクッキーを食べましたよね?」
「あれは手作りだったのか……」
俺が言うと織斑先生は納得をしたようだ。青衣が練習で作ったクッキーや、以前に作り過ぎたあられを生徒会室に置いていた。それを生徒会室に訪れた織斑先生へお茶請けとして出したのだ。
「青衣ちゃんが口に合わないか聞いてましたよね。先生?」
「既製品だと思っていた」
「私は少し歪だと思ってたんですが」
更識会長が織斑先生に尋ね、最後は青衣だ。どうも勘違いをしていたらしい。ふむふむ頷いている織斑先生を見て、別の意味で周囲は騒がしかった。
「ISが……料理を作る?」
「クッキーか、しばらく食べてないな」
「進化の方向性がわからない」
なぜかショックを受けている者、諦めたのか特に反応が無い者、頭を抱えている者など生徒達の反応は様々だ。
「進化の方向性って単なる私の趣味ですけど。そんな複雑な理由は無いです」
青衣が呟いた。そこに織斑先生が追加する。
「そういえば家事ができるんだったな」
「ええ。基本的に二人暮らしですから」
そこで俺に視線が集中する。
「まさか彼女にだけやらせて……」
「俺もある程度はできるぞ。菓子は作れないけど飯なら作れる。確かに最近は青衣の負担が増え気味だが……」
「緑兵は入学してやること増えましたし、仕方ないのでは?」
知らない声だったが反論する。反省した直後だが謂れのない事は修正しておきたい。
俺と青衣とのやりとりで周囲の生徒の中に落ち込む者が出始めた。
ひょっとして家事できないのか? 確かに必要が無ければ身につかない物でもある。俺もそうだったし。
「調理器具は学園のものを使え。わざわざIS使って製造など色んな意味でありえないぞ。そんな容量は別の事に使え」
織斑先生が呆れたかのように言い周囲も頷いている。だが青衣は口を尖らせるだけだ。そんなに作りたかったのか?
それにしても雰囲気がぐだぐだである。
「とにかく解散しろ」
織斑先生はバシバシ手を叩いて野次馬を退散させていく。そして織斑先生も姿を消す。試合の後始末や無人機の解析など仕事は山積みだろう。そういえば山田先生を見ていないな。仕事を押し付けたか?
ピットに残ったのは俺と青衣、更識会長、織斑一夏、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、布仏本音、鳳鈴音、そして名前を知らないクラスメイトが数人だった。
特に織斑一夏はクラスメイトに囲まれ大丈夫か声を掛けられていた。見るとどこかぼんやりしている。
其方へ向かうと青衣は俺を指で何度かつついた後、すっと離れる。
俺は近くにいた者にどいて貰い、織斑一夏の前まで行く。視線が集中する。
「だいぶショックを受けたようだな」
「ああ」
俺は織斑一夏に声をかけるが、彼は俺を一瞬見ただけで上の空だ。これはひどいな。
「学園でこれだ。女尊男卑やふざけた女性優先を何とかしたい。お前は本当にそう思っているか?」
少し、彼の目に力が戻る。
「もちろんだ」
「俺は青衣しか操縦できない例外だ。世界唯一の男性操縦者という肩書が無くなるかもしれないぞ」
「別に構わない」
ふむ。熱い奴だな。よし煽るか。
「これ以上にショックな事実が、しかも大量にあると思うがそれでも進む気はあるか?」
「ああ!!」
「個人的に馬が合うかはこれからの話だが状況を打破するには方向性が必要だ。
青衣の操縦者、七海緑兵だ。よろしく頼む」
俺は右手を差し出した。一瞬戸惑った後、彼はその手を固く握った。
因みにこの日を境に料理部への見学希望者や入部する生徒が増えたらしい。
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青衣はピットにあるカメラに向かう。これは音声も取ることができる代物だ。
皆の視線は緑兵が集めている。握手など柄にもないことまでして。
彼が本体を持っているのでカメラまで移動できるかギリギリだったが、何とか範囲内だった。
いや緑兵が計算しておいたのだろう。事前に挨拶したいと言ってはいたが誰かは聞いてこなかった。青衣はそのことに感謝する。
「改めて、七海青衣です」
ぺこりとお辞儀する。
青衣は挑戦的な目で紡ぐ。
「私の相棒は面白いでしょう? 貴方は薄暗い部屋で一人、人形遊びをしているがいいわ。
でもね、人間は人形とは違うの。私達ISも人形じゃない。そして世界は貴方のおもちゃ箱ではない」
くすくす笑い、刺々しい言葉を投げる。
「ところで、私には気になることがあります。責任者の織斑先生はどんな責任を問われるのでしょうか?
今回は織斑先生に呼ばれて私達が無人機を倒したけど、例え一夏君と鳳さんがそのまま倒しても同じこと。襲撃され、IS学園挙げてのイベントが潰された時点で責任者は責任を問われる。当たり前ね。
そうそう。無人機という証拠が残っているわ。この調査も責任者は織斑先生になるのかしら?
でも自分まで繋がる証拠なんて残していないでしょう? 生徒達や外部の人が閉じ込められたせいで目撃者も山ほどいるし、誰だって疑問に思うわ。何で犯人がわからないんだ、と。妨害相手が不明では無能呼ばわりされてもおかしくない。
だから私にはわからない。わざわざ織斑先生の経歴に傷をつけるなんて」
首を傾げる。
「いずれ会いましょう」
そして背を向け、皆の元へ戻っていった。
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機械だらけの部屋で篠ノ之束は笑っていた。
「言うこと聞かない、あの悪い子が生きてたんだ」
千冬の様子がおかしかったことでIS学園にハッキングを掛けていたのだが、情報はなかなか集まらなかった。
時々現れる青い髪の女と隣にいる男に疑問を持ってはいたが取るに足らない存在と完全にスルーしていた。まさかISが人間のような形をとり自由に動き回るとは天災と呼ばれる彼女ですら思ってもいなかったのだ。
IS学園のセキュリティを掌握し、一夏に活躍の場をプレゼントしようと無人機を与えたが彼らに手柄を横取りされてしまった。
その後の試合も無様な姿を晒すかと思えば圧倒的な実力を見せ無傷で勝ってしまった。
緑兵と青衣を呼んだのも、後の試合を組んだのも千冬なのだがそんなことは篠ノ之束の頭からはすっぽりと抜け落ちている。そして自らが放った無人機が原因で千冬が問われる責任も抜け落ちていたのだ。その事を悪い子に嘲られた。
感づいていたのだ。あの悪い子は。ハッキングを止める。
「ちーちゃんが責任を取らされるだって。いっくんも人気者にならなかった」
無性に腹を立て机を殴りつけた。その後、満面の笑みを浮かべ、
「皆、束さんに逆らったこと、邪魔したことを後悔させてあげるねっ!!」
緑兵と青衣のみならずIS学園の関係者全員に対し、己の思う通りにならなかったことに対する八つ当たりともいうべきものだった。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
更識楯無の性格なら試合を申し込む。そして青衣の性格ならこうなる。
何でもありなら主人公たちを強くし過ぎたと少し反省。でも幻想郷なら上の者がごろごろいる。
パワーバランスは本当にどうなっている?
無人機の件って、一夏の手柄よりもイベント中止と証拠があるのに犯人を特定できないことに対する千冬の責任の方が大きいと思うんですよね。衆目の真っ只中だし、隠せません。本来なら調査機関が動くでしょうが、そんな素振りも無いし。
一夏が学園内でヒーローになる。それだけ。全く釣り合いません。
子供じみた行動が束たる由縁でしょうか。
ある程度書き溜めた分がもうすぐ尽きるので、次回の更新までに時間は少しかかると思います。
なるべく早めに出せるようにはします。
-追加-
辻褄の合わない箇所があり修正 冗長な個所を修正 全体見直し 一文追加
全体の改行修正 「ビット」⇒「ピット」