仕事がある更識会長と別れた俺達はビットにいたメンバーにIS学園内を案内してもらった。まだ夕方だが少し早目の夕食をとる為食堂へ向かう。
俺達が食堂に入った時に視線は集まったが、それ以上にテレビに向かい注がれていた。俺も列に並びながらテレビを眺めることにした。
既にIS学園から正式な発表がされていたのでテレビは全て俺と青衣の件で一色だった。複数あるテレビはそれぞれ違う局が映されているが全て特番である。ちなみにテレビは普段付いていないことが多いそうだ。
俺が5人を相手に試合していたとき、すでにIS委員会へ通達はされていたらしい。
緊急の会議が通信で行われIS委員会からの了承後、直ぐにマスコミへの発表に踏み切ったようだ。そして夕方には特番である。
滅茶苦茶素早い対応だ。IS委員会にも事前に根回しをしていたのだろう。
放送内容は先に学園関係者にはプリントで知らされていることだ。但し、放送では本来は男性でも操縦可能で女性にだけ操縦できるように制限されている可能性が『ある』と少し温い表現にされている。絶対命令にしてもISという強力な兵器に対しては付けているのが当たり前と言う論調も見られた。
やっぱりISは兵器扱いだ。当初の目的である宇宙開発はどこへ行ったのだろう。武器を捨て宇宙でISが活躍する。それこそ既に幻想なのだろうか?
例のプリントはIS学園の公式ホームページにも載せると以前に言っていたので、そのうち環境があれば誰もが見ることはできるだろう。転載も編集しないことと全文が条件で許可するみたいだし。
一方で破棄されたISコアが復活し操縦者を連れて現れたことはセンセーショナルになっていた。しかも操縦者の俺は戸籍上は行方不明から死亡となったことも発表されている。
死人を操縦者とする破棄されたIS。しかもそのISは自らの意志を持ち人間の様に動き回る。確かにちょっとしたホラーやサスペンスだろう。
というか、俺の名前が記載されていたはずなんだがね。少年Nって誰だよ。俺は指名手配犯か。
テレビには青衣を纏った俺の写真が何枚か映し出されているが、狐の面を被っているので顔は見えない。他にも青い和服や学園の制服を着た青衣は出るが俺は居ない。野郎よりは見る目麗しい女の子の方が良い、それは同感。でも一切俺の顔が無いっていうのはそれはそれでどうよ?
操縦者は整形手術ではないかと女性コメンテイターが喚き散らすが、受ける男性がIS学園からの正式な報告で別の男性でも適性が認められた事を繰り返し怒鳴っていた。
認められない女性とそれみたことかという男性。もはや取っ組み合いになりかねない雰囲気だ。
別のチャンネルを見る。
俺が公式には死亡しているので男性と言う証明ではないと主張する女性と、そんな馬鹿な話があるか公式発表だという男性の怒鳴り合いだ。唾の飛ばし合いとも言う。
どこもそんな様子である。テレビを見ていると俺が飯の注文をする番になった。
「久しぶりだね。そちらのお嬢ちゃんも」
注文を受けるおばさんにそう声をかけられた。
「お久しぶりです。それと唐揚げ定食をお願いします」
「あの時はお世話になりました。私は和食セットで」
俺と青衣はあいさつと注文をする。
「知り合いなのか?」
前の一夏が俺と尋ねてくる。他の者も怪訝な顔だ。
「ああ。以前に少しね」
適当に返す。拙いかったかもしれない。
「以前に織斑先生が調査に付き合ってくれって来てね。その後でその二人と家に来たんだよ」
俺の内心とは逆に、おばさんはあっさりばらしその言葉で再度注目が集まった。仕方がない。
「IS学園を通じて極秘でやった青衣への適性調査に協力してもらった。ご家族の方にもね」
「……本当に調査やっていたんだな」
一夏が少し驚いた様だ。
「当たり前だ。それにこの人達だけじゃないぞ。
それとあまり言わないで下さい。発表されたとはいえ誰を調査したかばれるのは良くない」
前半は一夏へ、後半はおばさんに対してだ。
「あら、ごめんなさいね。
こっち見ても何も反応しないから忘れていると思っちゃったよ。そちらのお嬢ちゃんも」
「本当に駄目なんですよ。協力してくれた方が特定されるって」
青衣が少し笑いながら言う。
「それにしてもお嬢ちゃんがISだったんだね。ニュース見て驚いたよ」
「よく言われます」
よくではなく毎回だ。
「青衣への適性調査って具体的に何をやったのよ」
今度は一夏の前にいる鳳、いや鈴だ。俺達も愛称で呼ぶように言われたのだ。そういえば鈴は違うクラスだから方法までは聞いてなかったな。
「簡単ですよ。私が触れれば適性を出せます。手を取るとかね。後は性別、年齢、ISの適性があれば聞いて私への適性と一緒にパソコンに入力しただけです。
織斑先生は立ち合いと入力チェックです。目立つので随伴の殆どは山田先生ですけどね。あのときは非公式だったとはいえIS学園としての調査ですし、そうでないと調査への協力は簡単に得られません」
「なるほどね」
鈴は青衣の回答に納得した様だ。ついでに周囲の者も。
因みに最初はIS学園の出入りする業者などに対して調査するだけだったが、性別と年齢に偏りが出た。出入り業者も女性中心にしているからだ。普通に考えて女尊男卑の中心ともいえるIS学園に男が来たいとは思わないだろう。それと少数でいいから子供や老人などの幅広い年齢を調べる必要もあると学園長から言われたのだ。その為、条件の合う家族持ちと周囲の方(子供の同級生の家族など)に調査協力して貰い家まで行った。
ちなみに学園外での調査に使う足は車だった。通勤圏内だったので可能だったのだ。
俺の『空間を操る程度の能力』を使えば楽なのだが、行ったことのない場所へ繋ぐには『窓』や『扉』を併用しないといけない。この二つは余り見せたくないのだ。特に内心では信用していない織斑先生には。入試の時は海側から空間転移でやってきたと伝えている。ハイパーセンサーがあればIS学園のある人工島外から見ることは不可能ではない。外の世界の住人でそれらを知るのは学園長と夫の轡木十蔵、更識会長の三人だけだ。口止めもしている。
これは全く関係ない話だが、山田先生の要望で適当な場所に空間転移したところ大変喜ばれた。
「お待たせ、唐揚げ定食だよ」
「どうも、って数多くないですか」
「サービスだよ。これから大変だろうしまずは食べな」
おばさんは豪快に笑いながら言う。
「ありがとうございます」
定食を受け取るとラウンジで一夏達がいるテーブルを探す。男は目立つので、直ぐに見つかった。
人数が人数なのでテーブルを二つ取っていた。とはいえ一塊になるが。青衣が来るのを待ってそちらへ移動する。俺が端で中央が青衣、その隣は空席だ。俺の向かい鈴、真ん中が一夏、空席の向かいが箒だ。
「すごい反響だね~」
のほほんさんだ。彼女を名前で呼んだところ、そう呼ぶように指定されたのだ。反響とはテレビのことだろう。
「そりゃそうだろな、学園からの公式発表だし」
「でないと私たちが来た意味が無いですよ」
予想はしていたけど俺達のテーブルに集まる視線は多い。
最後にやってきたオルコットさんだけではなく青衣が食事するのが珍しい様だ。それだけでもないと思うが、まあ仕方ない。
周囲に全員集まったので俺は一度手を合わせ箸を持つ。まずは唐揚げを一つ口に入れた。
うん、美味い。よく味が染み込んでいる。柔らかいし完璧だな。
「ところで試合中につけていたあの仮面は何なのだ?」
同じテーブルで食事をしている箒が質問をしてくる。狐の面についてだろう。
「あれで表情を隠している。ハイパーセンサーがあるから面を被ることでできる死角も無い。
どうしても目線とかは動いてしまうし、顔に出ると何考えているか読まれるかもしれないだろ?」
ごはんの後、唐揚げを一つ口に入れる。
「ふむ、なるほどな。他にもさっきの試合で何か仕掛けはしていたのか?」
言うべきか、言わざるべきか咀嚼しながら少し悩む。
「試合開始直前に私が周りを見るように誘導してプレッシャーをかけたのわかりました?」
俺が噛んでいるうちに隣の青衣が答える。その言葉に箒は頷いた。俺は口の中のものを飲み込むと簡単に説明する。
「早い話、あの5人は自分をハードルを上げ過ぎた。勝って当たり前ってね。しかもアリーナの大半が煽っていた。
俺達はそれを意識させただけ。そして自覚したらプレッシャーで動きが悪くなった。試合前に集中を乱す意味もある」
「ほう」
箒が相槌を打つ。
「ステージに上がった時点で冷静さは欠いていた。半分取り乱していたと言っても良い。だから成立したんだ。
相手によっては逆効果だからな、あまり使える手ではないぞ」
「逆効果?」
今度は一夏だ。
「例えば鈴。アリーナのほぼ全体が自分を応援していたらどうなる?」
先ほど彼女に鈴と呼ぶように言われた。彼女に聞く。
「私なら気合入るわね……そういうことか」
彼女は納得した様だ。
「プレッシャーに対する強さだな。逆に相手が張り切ってしまうこともある」
俺が言う一方で箒は顔を顰めていた。
「私はそういった策を使うのは感心しないが……」
「策と言えるレベルじゃないだろう。
それに例えば宮本武蔵と佐々木小次郎との決闘、戦国時代の合戦や果し合いも騙し合いが多い。諸説あるしフィクションも多いだろうけどね」
「うっ」
俺の答えに箒が詰まる。鈴が続ける。
「ところで急いで試合を進めたように感じたけど」
「当たり。なるべく早目に決着を付けたかった。理由はわかる?」
「冷静になったら困るから」
鈴が断言する。
「正解。実際に2番目に落としたラファールはすぐに冷静さを取り戻したしな。仮にも一年以上訓練した相手が複数いるんだ。取り乱しているうちに数を減らしておきたかった」
はー、と俺達の声が聞こえていたらしい何人かが感嘆の声を上げた。知らない生徒もいる。多分あの時アリーナに居たのだろう。
実はこれだけが理由ではないが今は伏せる。
「お前、最初からそこまで考えていたのか?」
今度は対面にいる一夏だ。
「いいや」
「え?」
「さっき言った通り、試合前に最初から本人達がハードルを上げていたからやったんだ。明らかに様子がおかしかったしね。
その原因の大半は織斑先生だろう。精神的にへし折っていたのが大きい」
「あんたも随分だったけどね」
ジト目で俺を見る鈴。
「そこまででもないだろう?」
多少怯えさせたのは事実だが、ほとんどは織斑先生だ。俺は反論するが、
「怖かったわ」
「うん」
「怖かったよ~」
「びっくりしたわ」
「俺もそう思う」
鈴に同意する面々、他のテーブルの者もだ。青衣を見る。
「へし折っていましたね」
「……わかった」
しぶしぶ認める。
ところで俺は気になっていたのだが、
「そういえばオルコットさん、食べないのか? 冷めるぞ」
オルコットさんが食事にまだ手を付けていない。隣に座る青衣を興味津々な目で見ている。少し青衣は居心地が悪そうだ。そういえばクラスにいた時からものすごい食い付きだったな。
「い、いえ、食べますわ」
俺の指摘で彼女はパスタを口に運ぶが少しぎこちない。そして時々青衣をちらちら見ている。挙動不審だ。他の者も少し疑問に感じている様だ。
何かあるのか? 彼女ってイギリスの代表候補生だったよな。ん、イギリス?
何かが引っ掛かる。頭を回転させ思い出そうとする。イギリス……。
青衣を含め周囲は考え込んでしまった俺を見る。青衣と俺の違いは、性別じゃなくて、種族もそうだが、あ、そういうことか。
「ひょっとしてファンタジー好き?」
例えば不思議の国のアリス等のルイス・キャロル作品、ガリバー旅行記、アーサー王伝説、ベストセラーの某眼鏡魔法使いもそうだったか。全てイギリスだ。俺がちょっと思い出しただけでこれである。地元の者ならどれだけあるのやら。
「な、何を」
図星だったのか声が少し高くなる。
「確かに私はある意味ファンタジーですね」
と言う青衣。うん、実は妖怪(付喪神)だし、本来は幻想の存在だし。
「……はい。ずっと気になっていました。まるで小説の中から出て来たみたいで……」
オルコットさんは観念した様だ。少し拗ねている。
「なるほど」
「確かに」
周囲の者がオルコットさんに同意していく。
「それにあのテレポート、気になりまして」
少し恥ずかしそうに赤くなりながらオルコットさんが言う。
「そうよ、あの瞬間移動どうやるの?」
鈴が青衣に質問する。他の者も同じだ。ああ、こいつら勘違いしているな。是非そのままでいてほしい。
俺はごはんを口に入れる。
「瞬間移動ではなく空間転移ですね。私にそんなことはできませんよ。機能も無いです」
だが青衣はあっさり返答する。おい。
「さっきの試合でやったではないか」
箒が眉を顰める。
「あれは緑兵ですよ。アリーナで見かけませんでしたか?」
今度は俺に振る。皆は青衣と交互に見て困惑していた。一緒に来た連中どころか俺達のテーブルの周囲にいる全員だ。
「……冗談よね?」
鈴だ。冷や汗をかいている。
「首のネックレス、鎖だっけ? さっき俺の前に来たときは付けて無かったよな」
一夏だ。本当は皆気が付いていたのだろう。俺も『青衣はビットにいる』なんて迂闊な事言ったし。常識に縛られているので口に出さずに、気が付かない振りをしていたのだろう。
「私の相棒ですよ。唯の人間の訳ないじゃないですか。いいえ、私が唯の人間を相棒に認めると思いますか?」
にやりと笑う。
「全く、スルー出来たのに……」
呟く。俺のミスから出た事ではあるので文句までは言えない。
こういうところが悪い癖なんだよな。俺を前面に出したがる。今思ったのだが、織斑千冬に対する篠ノ之束もこうなのだろうか。
しかたない。俺は青衣の本体である首の鎖を外し、隣にいる青衣に渡す。ああ、ややこしい。
「一夏、そういえば飲み水ってどこにある?」
「……ここから一番近いのは後ろだな」
一夏は俺の背後を指さす。振り向くと少し離れた場所に給水器が数台置いてあり、未使用のコップは給水器の横に並べられている。その前には生徒が何人か順番待ちをしている。
「ありがとう。
青衣、お前も要るか?」
「貰います」
それを聞くと皆の注目が集まる中で俺は立ち上がると、給水機を軽く見て並んでいる生徒の最後尾に空間転移をした。
目の前には給水器の前に並ぶ生徒の背中、当たり前だが女だ。
俺が食事をしているテーブル周辺と、俺の周りから驚愕する声が響いた。俺の前に並ぶ生徒達は気が付いていなかったが、その声にびっくりし、きょろきょろする。
「気にしないで下さい」
俺に視線が集中したため、前の生徒に一声かける。俺を見て一瞬不思議そうな顔をしていたが、そのタイミングで給水器が空いたので其方へ歩いて行った。俺の番もすぐに来る。給水機から2つ水を用意して再び空間転移をする。
食事をしていたテーブルに戻ると皆が完全に固まっていた。俺の背後、給水機のところでは悲鳴が上がる。
俺は青衣に水の入ったコップを渡し、代わりに本体を受け取って首に付ける。
ちなみに俺が待機形態の鎖を身に付けているか機体を纏った状態で青衣が妖怪としての体を保てない範囲の外へ空間転移すると妖怪の体は俺と一緒に転移してしまう。その時は俺(というか本体)に密着した形になるのだが細かな位置は指定できない。もちろん場所によっては青衣が何かにぶつかる可能性や、壁にめり込んでしまう可能性もある。妖怪なので物理的なダメージは深刻なことにはならないが、痛いものは痛いらしい。当たり前だろう。
「青衣も言ったが、ビットからアリーナに行ったと思うんだけど」
未だ固まっている皆に言う。一拍おいた後、
「あんた、何したの!?」
「空間転移。もうテレポートでもいいや」
鈴の叫びへの対応。
「何でそんなことができるのだ!!」
「できるからとしか、後訓練」
困惑する箒への答え。
「すばらしいですわ!!」
「そりゃどうも」
何故か大喜びのオルコットさん。
「後で乗せて~」
「どこ行く気だよ」
マイペースのほほんさん。
「その時は」
「私たちも」
「だからどこ行くのさ」
相川さんと谷本さん、あんたらもか。
しかし、オルコットさんが幻想郷に来たらどうなるんだろう。ヨーロッパでも魔法使いや妖精、人魚は知っているだろうし、吸血鬼やホブゴブリンまでいる。そういえば竹取物語も知られているのかな? かぐや姫もいるぞ。
少し落ち着きを取り戻した後、食事は再開される。というか皆がいろいろ言っている間に俺は殆ど食い終わった。
「で、なんでそんなことできるわけ?」
鈴、ジト目だ。
しかしこの娘、よく質問するね。
「さてね。はぐらかしているわけじゃないぞ。稀にいるでしょ? 霊感持ちとか。その人たちと同類だよ。端的に言うと普通は無いはずの機能が付いてしまった人間」
「よくわかんないわよ」
俺はテレビを指さした。
「例えば人間をそこのテレビだとするだろ。そのテレビは五感にちなんで映るチャンネルは5つだ。今はテレビでも此方から情報の送信もできるしね。ここまではいいか?」
今度は右手の指を広げ5を表現する。その手に視線が集まる。俺は左手の人差し指を立てると、右手に合わせて6にした。
「俺は何故か6つ目が映るようになったテレビだ。どこをどうチェックしても、ソフトもハードも他のテレビと全く変わらない。だが何故か本来映らないチャンネルが映せて情報送信もできてしまった。はっきり言って異常と言っても良い。俺の場合はさっき見せたものだよ」
極一部だがね、今日初めて会った相手にそこまで教えるつもりはない。そう心の中で追加する。
誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「そんな馬鹿な」
箒の声を無視し、皆に聞く。
「その馬鹿なことが出来るんだ、俺は。だから青衣に乗っている」
青衣に視線が集中する。俺は両手を戻す。
「私が一番恐れていることは捕獲され、自由に動き回れない事です。それにISですから搭乗者がいない事には始まりません。
最悪の場合でも緑兵なら空間転移で逃げられますからね」
「逃げる前提の話なのですか」
今度はオルコットさん。他の皆も驚いている。
「そうですよ。装備も緑兵の戦い方に合わせていますが、同時に多数相手に戦う事も前提に入っています。
普通に考えて、捕獲に来るなら多人数で囲むでしょう?」
「確かに貴重なISの中でも青衣はレア中のレアでしょうね。さっきの話じゃないけどファンタジー入っているし」
鈴が納得するように頷く。
「なら何故表に出てきたのだ? 姉の命令と言っていたが、それを理由に出てこない方が良かったのではないか?」
箒だ。幾人かは同意するように頷いている。
「既に10年、そんなことを言っている場合じゃなくなったからですよ。女尊男卑もそうですけど、私を破棄したこと、ふざけた命令で姉妹たちが拘束されっぱなしというのも個人的に気に入らなかったんです。
私が一発や二発殴ってもどこからも文句は出てこないと思いません?」
青衣の目が箒を捉え、すっと細くなる。『お前の姉のせいだぞ』と言っている様だ。
「す、すまん」
謝り、暗くなる箒。
「別に謝る必要はないです。これは念のため聞きますけど連絡先は知らないですよね?」
「むしろ私が知りたい」
「そりゃそうですよね。失礼しました」
姉である篠ノ之束に思うところがあるようだ。憮然とし、口調にも少し怒りが込められている。もし彼女が連絡先を知っていればチェックされてばれているだろう。
それにしても半日くらいしか見ていないが彼女は喜怒哀楽が激しすぎないか?
「もし見つかったらどうなさるんですか?」
オルコットさんが少し心配そうな顔で青衣に聞く。
「とりあえず殴り込みですかね?」
さらっと言った青衣の一言に、ぎょっとする他の面々。
「どうかしました?」
「殴り込みって何ですの?」
他の者の反応を見てオルコットさんがおずおずと聞き返す。
日本語ペラペラだから忘れていたけど留学生なんだよな、そういえば。悪い日本語は知らなくても不思議はない。
「相手の家や本拠地を襲うっていうことです」
青衣の説明にオルコットさんが凍りつく。
「血の気多いぞ、こいつは。多分自分の意志で武器を積んだ唯一のISだしな。何度行かされた事か」
主に八雲に喧嘩売ってきた新参の人妖相手と異変解決の見物、時々人間の里からの依頼だ。
一斉に俺を見る皆。
「ん? だって他のISは自分の意志出せないでしょ? 青衣は自分の意志がある」
「実戦経験が一番ですよ。殴り込み何て可愛いもの、下手をすれば私たちは現役軍人相手にする必要も出てきますしね。
私は私で冷静に努めてはいるんですけど、緑兵の判断は助かりますよ」
「判断できなきゃ死んでるよ。いきなり『さあ、現状不利ですけどどうします? 絶対防御も武器も切りました。切り抜けてくださいね』だからな」
「緑兵が出来ると思わないとやりませんでしたよ。私は」
「どうだか」
俺達の会話を聞いた全員の顔が引きつる。状況を想像したのだろう。
「ところで食べないのか、皆」
そう聞くと、皆は食事を再開した。
「しかし、この食堂は期待できそうだな」
「ええ。美味しかったです」
皆食べ終えた様だ。適当に談笑していると不意に変な気配を感じた。其方を見ると食堂の入り口から見覚えのある生徒が一人、何も取らずに此方へ歩いてくる。肩をいからせたその女は何時間か前に倒した5人のリーダー格だ。彼女1人で他にはいない。今更だがリボンは黄色、2年だったようだ。周囲の者がひそひそと何やら話している。影口だろう。彼女はそのまま俺達のいるテーブルまで歩いてくる。
そしてそのまま彼女は俺のいるテーブルの前で足を止めた。俺と目が合う。どうも目の下が赤い。何が起きたかは予想が付く。
嫌な沈黙。緊張感だけが溢れていく。周囲の者ははらはらしている様だ。俺と青衣、そして彼女を交互に見ている。
「これは……宣言よ」
やがて彼女が口を開いた。
「宣言?」
少し予想と違う答えに俺は疑問に思う。
「七海緑兵、青衣、次は貴方達に必ず一撃を当てて見せる」
そして彼女は俺達に背を向けた。
「いつでもどうぞ。他の4人にもそう伝えておいて下さい」
返す俺も一言だけ。
「言われなくても!!」
ぐっと何かを堪えるような声を発し、走る様に去って行った。
緊張が解かれたのか同じテーブルの者も大きく息を吐いた。
「次は本腰入れないと食らいますね」
「だな」
青衣の声に同意し、俺は水を一口飲んだ。
「えらく評価するわね。気に入らない相手じゃなかったの?」
鈴が不思議そうに俺を見る。
「腕の話で俺が気に入る気に入らないは関係ないよ。
さっき言ったみたいに今日の試合は半分自滅だったんだ。でも今度は失うものないから我武者羅だろ。あの状況から再起した以上、精神性が全く違う。そんな相手に油断するわけにはいかないよ。俺が足を掬われる」
「確かにね。スポーツも一緒よ」
声からして相川さんだろう。彼女は何かやっているのだろうか。
「スポーツは分からないが織斑先生曰く『並より上』の実力なんだろ? 今後は訓練が一層身が入るだろうし。さっき言っていた『俺に一撃を入れる』なら直ぐに達成されるかもな。明確な目標ができたわけだし」
「うむっ」
何故か嬉しそうな箒。正直、彼女が分からない。
「そうね、あんた、覚悟しておきなさいよ」
と鈴が言う。何故に?
「あんた、今日私達と戦ったこと抜けてない?」
あ。顔に出ていたらしい。
「そんなことは無いぞ」
正直忘れていた。無人機や5人相手の方がイメージ強くて。ん? そういえば今日3回戦ったのか。
「一夏!! 絶っっっっっ対、こいつら倒すわよ!!」
「ああ!!」
最後は暑苦しいまま、注目を集めて食事は終わった。
---------------------------------------
「それじゃあ俺達はこれで」
えらく金の掛かった寮だな。ホテルと間違えそうになる寮の前で俺と青衣は立ち止まる。
俺達は食堂から此処までの話しながらここまで来たが、俺達はここに住んでいない。
「上がっていけば?」
「そういう訳にもいかないよ。この後行きたい場所もあるし」
一夏の誘いに乗ってそのまま中に入っても良いが、だらだらと時間だけが過ぎそうだ。
「また明日ね~」
「その内、再戦しなさいよね」
「では明日」
のほほんさんがぶんぶん手を振り、他の者もそれぞれ返してくれる。青衣も手を振りかえしていた。
俺も適当に返すと空間転移し一度『拠点』へ戻った。
既に見慣れた土足で入れる応接室、テーブルや椅子が置いてある部屋だ。次いで靴を脱ぐ玄関に位置する場所、奥に台所と和室、他に部屋が幾つか。生活空間として拡張をしていたのだ。
ひょっとしたら他に人が来るかもしれないし。
とにかく今日は疲れた。連戦したというのもあるが、何せ外の世界に来て以降今までは狭い人間関係でやってきたのだ。これからクラスに合流する事を考えると、どっと疲れが出て来る。しかも一人を除いて女だらけ。姉やら何やで女性が多い場所で育ちはしたが、やはり男の俺にはきついものがあったのだ。
俺は手短の椅子に座り、机に突っ伏した。
「お茶入れますか?」
「頼む」
俺は体を起こすと青衣の本体を彼女に渡す。青衣は自身の首にかけると奥に消えて行った。
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さて一服後、俺達は生徒会室に行った。
世話になっている布仏虚先輩に顔を出しておく為だ。既に俺達が姿を現したことは知っているだろうが、俺達からも直接挨拶しておきたかったのだ。
そういえば知り合いの妖怪に同じ名前で霊烏路空、通称お空がいる。彼女とタイプは全然違うが。
眼鏡をかけた三つ編みの虚さんは硬い雰囲気を持ち、仕事をこなす秀才タイプだ。彼女が居なければ生徒会は回らない。更に整備課の学年主席らしい。一方のお空はほわほわしていて人懐っこい。むしろ妹ののほほんさんに近いが、ん? お空も仕事については真面目で彼女にしかできない事も多いね。
あれ? 意外と共通点多い?
「入りますよ」
生徒会室に入ると会長は不在だった。仕事じゃなかったのか?
虚先輩に二人で挨拶すると隅のテーブルに来るように言われる。付き合いは長くないが不機嫌なのが丸わかりだった。そして彼女に今日一日何があったのか、二人並んで事情聴取された。多分、会長は逃げたのだろう。
この時、のほほんさんも俺と同じ生徒会の書記であることを知った。
道理で俺は一人目と言われたはずだ。そう納得する一方で何故今まで一度も会ったことが無かったのか、その理由について尋ねてみた。
「居ると仕事が増えますから」
そう言われた。解任しろよと思う。いろいろやり難いと思った。
不機嫌だった理由も判明した。
俺が書記とばらしたせいで彼女はクラスで質問攻めにあったらしい。それも生徒どころか教師にまで。かなり深く突っ込まれたようだ。対面で目が座ったまま淡々と話す虚さんを見て、彼女の胃に穴が開かなければいいな、と思った。
この愚痴は一時間以上に渡って続けられ、原因の一部でもある俺は自身の胃の心配をしなければいけなくなった。
こうして俺の初日は終わった。
最後まで読んで頂き、有難うございます。
テレビでの例え方、何か覚えがあると思ったら以前に読んで映画・TVアニメにもなった小説ですね。気になった方は多分同じものを読んでいます。
セシリアの反応は別の映画を見て思いつきました。
青衣は多数相手に戦う前提。東方Projectはモロにそうです。
『八雲に喧嘩売ってきた新参の人妖相手』について、幻想郷には血の気の多い者も多いので、そういう相手もありかと思います。
東方の作中に出てきませんが、設定としては人間の里には妖怪退治の専門家いるみたいですし。
紫や藍にいちいち相手する余裕などないでしょう。橙は基本的に別行動。残るのは二人だけですので。
『07まで_オリジナル設定紹介』に追加修正を行いました。
この主人公2人ってどうなんでしょうか?
次回の更新も未定ですが、なるべく早めに出せるようにします。
-追加-
言い回しを修正 全体見直し 「待機状態」⇒「待機形態」
全体の改行修正 修正 ご指摘の箇所を修正
3人称が混ざっていたので前後を修正