「あ、吹雪~! また
「えぇ……また~? はいはい、わかったから。如月ちゃんも一緒に聞く?」
「ぁ……はい、聞きたいです」
「観客が睦月ちゃんだけなのも寂しいもんね。え~っと、これはとっても悪い狼さんです。狼さんはとっても悪いので、出会ったら最後、頭からかぷっと食べられてしまいます」
「食べられちゃうの!?」
「ひっ……」
「食べられてしまう前に、狼さんをみんなでやっつけるんだ! そう言ってみんなは頑張って、“軍”を作りました。でも、狼さんも私達を食べてやろうと必死です。毛むくじゃらの身体でヨダレを垂らしていたら、すぐにやっつけられてしまいます。だから、ヒトの姿をしてヒトの中に紛れ込むことにしたのです」
「えっ……じゃあ、おおかみさんは、ヒトにそっくりなの」
「そうなの!? 如月、あったまいー!」
「そうね、如月ちゃん。正解だよ。じゃあ、二人にはここで質問です。ここに、重桜と、ユニオンと、ロイヤルの水兵さんがいました。さて、この中で、」
⚓ ⚓
突如海より出でた異形の艦隊、セイレーン。
二分された世界情勢の渦中において、しかしその小規模基地は、特殊な事情でどの陣営にも属していない。経緯上、ユニオンやロイヤルといった国家を出身とした艦船・水兵が多くはある。
その小さな基地に所属するアーク・ロイヤルは、地下の捕虜収容所への道を急いでいた。本来レッドアクシズに与している筈の重桜出身の工作艦、明石。いつの間にか部隊に転がり込んでいた工作艦が、爆撃で沈みかけていたある駆逐艦をサルベージしたとの報が彼女の耳に入った。無類の駆逐艦愛好家である彼女は当然様子を見に行ったのであるが……その駆逐艦が引き上げられた直後は、見るも無残な姿をしていた。
「にゃ、やっぱりロリコンとしては気になるのかにゃ?
以前容態を尋ねた時、ニヤニヤと真意の分からない笑みを浮かべながら明石は回答した。……食えない
度重なる手術と治療(明石は溶接とか調整と呼ぶ)の末、その駆逐艦は一命を取り留めた。しかし、元は他陣営の艦船である。扱いは捕虜として、治療が終わった後は収容所への収監となった。
「捕虜の艦船に面会に来た。閣下の許可も貰っている。通してもらえないだろうか」
守衛に声を掛けると、彼は憮然な態度で返答する。
「重桜の兵器にですか? あなたが駆逐艦船を好いているのは聞き及んでいますが……流石に趣味が悪い。アレは、敵ですよ」
「……随分な物言いだな。私は駆逐艦の妹に会いに来ただけだ。どこの陣営にいたかなど些細な問題だろう」
「些細な……ですって!?」
守衛は、語気を荒げアーク・ロイヤルに食ってかかる。
「奴らが何人の同胞を殺したと思っているのですか。それが、些細なことですって……? 奴らは、ヒトの形をした人でなしだ! 見てくれだけで慈しんでどうするおつもりか、お抱えの娼婦にでもするつもりですか!?」
「……おい」
アーク・ロイヤルはそう一言だけ発し、守衛の胸倉をつかみ上げ睨みつける。
「……申し訳、ありません。全面的に私の失言です。貴艦を、侮辱するつもりは……」
「……私のことはいいんだ。君は東煌の出だろう。重桜を恨む気持ちも分かる。だが、駆逐艦の妹を悪くは言わないでくれないか」
「どうして、そこまで……」
アーク・ロイヤルは胸倉から手を離し、続ける。
「駆逐艦は、まだ幼い。だから、分からないじゃないか。本当に、あの子たちは戦争をしたかったから戦争をしていたのか、なんてことはな」
それだけ言い残し、アーク・ロイヤルは収容所の奥に進んでいった。
件の駆逐艦は、独居房に一つに収監されていた。指揮官から渡されたメモで部屋番号を一瞥し、番号が合っているのを確認してから鉄扉の格子に向かって声を張る。
「ロイヤルネイビー、アーク・ロイヤルが参ったぞ。失礼する」
開錠し、扉を開ける。粗末で不潔な部屋に最低限の手洗い場、便器、寝具が備え付けられた部屋。その寝具の上で、生気のない目を天井に向ける、幼女がいた。
「君が、ムツキ級駆逐艦の、如月ちゃんだね?」
如月の眼だけが、声のする方角に気怠げに滑り動いた。
絶対にロリコンを出すんだ、という鋼の意志。筆者が絶対に、心の友であるアーク姐さんをかっこよく書いてやるぜ!
そして遂に主役が一言も喋らない回になってしまいました。次回は多分いっぱい喋ってくれるはず!