如月が見た桜の旗の下で   作:weryu

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読者様の中に、限定建造で1時間30分の建造時間しか出ない呪いに掛かっている指揮官はいらっしゃいますか?


ケージの中の煩悶(1)

 鉄錆の暗い黒褐色に覆われた独居房。明らかに光量の足りない電球がぶら下がるその部屋で、如月は灰色の捕虜服に身を包み天井を眺めていた。色彩の乏しいその空間に、鮮やかな桜の髪と獣の耳が不釣り合いに際立っている。彼女はアーク・ロイヤルの声に一瞥だけくれると、すぐに視線は天井に戻っていった。

「……じんもん、ですか? ごめんなさい、如月は、なんにもしりません。やくたたずで、ごめんなさ……」

「じ、尋問? い、いやいや、そんなつもりで参ったわけではないぞ。私は、ただ君に会って、話をしてみたかっただけだ。怖がらなくていい」

 アーク・ロイヤルが頭を振り、努めて優しい声色で返答する。

「……」

 無言が返る。警戒と猜疑、そして無関心を含有した返答だと、アーク・ロイヤルは感じた。駆逐艦に対して、よく行き過ぎた愛を向けるアーク・ロイヤルにとって、この程度の反応には慣れている。すかさず艦載機の滑走路となるマスケット銃を取り出し、

「そ、そうだ、これで遊んではみまいか? 駆逐艦の妹たちの中には、結構これで喜んでくれる子もいるんだ」

 言いながら、ラジコンサイズの小さな複葉機を射出した。航空機らしいエンジン音を響かせて飛び立つ、ソードフィッシュのレプリカ。瞬間、如月の身体がビクンと跳ねた。そして、天井付近を飛ぶ航空機が如月の視界に入った時、

「……ひっ!?」

 引きつった悲鳴を上げるが早いか部屋の隅に駆けよって縮こまり、アーク・ロイヤルに背を向けてガタガタと震え出した。

「な……!? す、すまない! ソードフィッシュ、戻れ!」

 航空機を飛行甲板で受け止め、慌てて駆けよろうとした瞬間、

「こないで!」

 如月の叫びが、アーク・ロイヤルを制止した。

「ひこうき……いやっ……! こないで……ください! もう、如月を、いじめないでぇ……。おねがいします、おねがい、します……!」

「…………」

 後悔しても遅かった。震える背中を前に、アーク・ロイヤルは咄嗟に掛ける言葉を何も思いつけなかった。

「……本当にすまいな。君を怖がらせるつもりはなかったんだ。日を改めさせてもらう。……また、来させてくれ」

 力なく言い残し、アーク・ロイヤルが退室する。如月は頭を抱えてうずくまりながら、助けを求める言葉を呟き続けていた。

 これが、二人の出会いの初日である。

 

   ⚓    ⚓

 

 2日目。怯えた瞳で警戒する如月に、アーク・ロイヤルは昨日の謝罪、そして取り留めのないことを1時間、一方的に話し続けた。如月は終始無言だった。

 怯えられるのはまだいい。それは生きることを諦めていない故の反応だから。

 3日目。食事に全く手を付けていないという話を聴いたアーク・ロイヤルが、昼下がりに食事を持って現れた。燃料で薄めたスープと、一緒に食べるためにパンを持参したが、如月は一口も手を付けなかった。

 恐怖や不安の中に見え隠れする、何もかも諦めたような力ない瞳。節々に垣間見せるそんな瞳が、アーク・ロイヤルはとにかく気がかりだった。

 4日目。

「食欲が湧かないのは分かる。しかし、燃料が無くなれば動けなくなってしまうよ。少しだけでいい、口をつけてはくれないか」

「……」

 無言で、最小限の身じろぎしかなかった如月に変化があった。アーク・ロイヤルが持参したスープを手に取り、口をつけた。

「……! やっと食べてくれるのだな。あ、熱いからゆっくり飲んでくれ。これで、少しは元気に……」

「……あーくろいやるさんは、」

 カップから口を話し、如月が声を出す。アーク・ロイヤルにとって彼女の声を聴くのは実に3日ぶりだった。

「如月を、たべるんですか……?」

「た、たべ……!? あ、いや、えっと、そ、そんなことはしないゾ? いや、それは確かに魅力的な提案ではあるが、そういうのは、こう、段階を踏んでだな?」

 一人狼狽するアーク・ロイヤルを尻目に、如月は続けた。

「……えほんでよみました。おおかみさんは、あとでたべるひつじさんに、たっくさんおいしいものをあげて、まるまるとふとらせてからたべるんです」

 言いながら顔を上げる如月の瞳が、アーク・ロイヤルを見据える。

「……!」

 思わず、息を呑んだ。その幼女の瞳はあまりに、あまりにも、

「如月は、おいしいひつじさんになれますか?」

 生気を宿していなかったから。

「……どうして、そんな」

 今にも嗚咽に変わりそうな、震える声でそう絞り出した後、ぎゅっと唇を結び、アーク・ロイヤルは続けた。

「私は、君を食べたりしない。確かに、君を快く思わないもののもこの基地には大勢いるが、その者たちにも君を食べるようなことはさせない。……だから、ちゃんとそのパンとスープを食べておくんだよ。また、来させてくれ」

 アーク・ロイヤルが如月に背を向けて部屋を出る。鉄扉を閉め施錠し、通路を少し歩いた後、手近の壁に思い切り拳を叩きつける。殴った拳は赤く腫れ、血が滲んでいた




いつもネタキャラ扱いなアクロ姐さんをかっこよく書きたい! が目標なのですが、アクロ姐さんはアクロ姐さんなので、どこまで特殊性癖的なアレを出していくのか実に悩みますね!
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