如月が見た桜の旗の下で   作:weryu

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これから海戦シーンとかも挑戦する予定なのですが、軍事的な知識は素人も同然なのでツッコミ所は寛大にスルーしていただければ幸いです。
ぜんぜんわからない。筆者は雰囲気で描写を書いている。


砲撃演習(1)

 如月にとって、海軍での生活は毎日のように心躍るような体験ばかりだった。

 睦月にとって、いつもの変わり映えしない生活は同い年の友達によって彩られた。

 ある日は、お絵描きをした。如月はクレヨンの豊富な色彩に心を奪われた。如月の似顔絵を描いたげる!と胸を張る睦月にピンクと肌色でぐちゃぐちゃした何かを差しだされ、流石の如月も眉を顰めた。お返しに、と生まれて初めて描いた睦月の似顔絵は辛うじて人型の体を成している程度のものだったけど、睦月には手放しで喜ばれた。満面の笑顔でお礼を言う睦月に、照れて頬がほんのりと紅潮した。

 ある日は、積み木をした。大きなお城を作りたい、という睦月の提案で積み上げられたブロックの城壁は二人の身長を越えた。背伸びをして更にブロックを積もうとする睦月が転倒し、作りかけのお城はバラバラになってしまったけれど、積み木に埋もれる睦月の様子が可笑しくて、二人は声を上げて笑った。

 ある日は、教官の神風の目を盗み二人で戦術教室を抜け出した。如月は怒られるからと何度も睦月を制止しようとしたけれど、悪びれもしない睦月を見ていると罪悪感と同時に得も言われぬ高揚感を覚えた。授業をサボってやって来た、工廠を一望できる高台の景色は、ずっと如月の心に残った。帰ったら二人そろってこっぴどく叱られた。

 他愛ないけれど、楽しい日常がこれからはずっと続くのだと、如月は思った。

 けれどもここは、幼稚園ではなく『軍隊』だった。軍人であれば戦闘訓練を積み、戦場に出なければならない。その日は、如月にとって初めての砲撃演習だった。

 

 ⚓     ⚓

 

「ふむ、海上航行も随分安定してきたのう。覚えの早い童じゃ。良き哉、良き哉」

「よく水鉄砲撃って遊んでたみたいだからね。飲み込みが早いと僕らも助かるよ」

「あ、ありがとうございます……」

 砲撃演習の教官である神風と松風に、おずおずと感謝の言葉を述べる如月。いつも実習は沿岸で行われていたが、今日は沖合の方まで三人は航行していた。

「今日は120mm単装砲の実弾演習を行う。軽量砲では、わっちら神風型に一日の長があるからのう」

「標的は鹵獲した敵量産型の艦艇を使うよ。もう少し先で機関停止して浮かばせてるけど……お、見えてきた見えてきた」

 双眼鏡で水平線の先を覗きながら、松風が呟く。

「ふむ、まあ目視できるくらいの距離には近づこうかの」

 二人に誘導され、如月は指定の座標で停止した。如月の視界の先に、小さな艦艇のシルエットが見えた。

「さて、ここで簡単な座学じゃ、如月。艦砲が目標を射撃するために必要なデータを射撃諸元と言う。通常、水上射撃で必要なのは方向、目標、左右苗頭、照尺距離じゃ。これを計算し、最終的に砲手が照準合わせて発射するわけじゃが……」

「……???」

「……分からんじゃろ?」

 疑問符を顔いっぱいに浮かべながら神風を見上げる如月。神風は苦笑しながら返答する。

「だから、お主は余計なことを考えなくてよい。目で見よ、水平線の先を想像せよ、貫きたい場所を強く願え。この、“カミ”の国である重桜の艤装は心に強く感応する。先に、かの敷島型がそれを示した」

「要するに、『ここに当てたい』と強く念じればいいんだ。そうすれば、カミの気に当てられて艤装が勝手に動いてくれる。その心の力が強ければ強いほど、遠くにいる敵も正確に撃ち抜けるようになるんだ。砲の射程内ならね」

「あの……如月に、そんなことできるんですか?」

 松風の言葉に如月は懐疑的だった。どうしても自分にそんな力がある実感がなかった。

「いや、出来ると思うよ。詳しい仕組みは分かってないんだけど、これが出来る艦船には、共通点があるんだ」

 そう言って、松風は自分の耳を指差す。

「ここさ。“カミ”の力を使えるのは、生まれつき獣の耳や尻尾を持って生まれたヒトだけなんだ。まあ、鉄血の連中はもっと別の力を使っているみたいだけど」

「まあ、モノは試しじゃやってみない事には実感も湧かんじゃろう。あれに向かって単装砲を構えよ」

「は、はい!」

 神風に言われ、慌てて砲口を艦艇のシルエットに向ける如月。

「目を凝らして、よく見るんだ。船の真ん中に、ひときわ高く、尖っているように見えるところがあるだろう? あれが艦橋。量産型にとってあそこは急所だ。まずはあそこに直撃させる事を目指してみよう」

「……」

 如月は目を凝らす。豆粒のような小さな影の、うっすらと尖っているように見える部分。それが松風の言う艦橋と言う場所だ。

「(……当たって……当たって……当たって……)」

 目を細め、影を凝視する。当てる場所を見据えながら、何度も何度も懇願するように反芻する。それに応えるように、単装砲の仰角が自動で上げられていく。

「(……当たって!)」

 刹那。如月は発射音と共に目標に向かって弧を描いて飛ぶ、砲弾の姿を視認した。




ちょっとづつ、出撃に向けて物語を動かしてきました。
さて、そろそろ如月ちゃんにはひどいめに遭っていただきましょうか……ねぇ?

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