如月が見た桜の旗の下で   作:weryu

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お ま た せ


砲撃演習(2)

 射出された砲弾が風を切って飛翔する。遥か遠方に見える艦のシルエット、そこに砲弾が届くのはわずか数秒の後であった。

「着弾を確認。……すごいな、司令部を正確に貫いてる」

 双眼鏡を覗きながら、松風が呟く。如月の肉眼からは、小さな影にパッと赤い点が灯り、その後、煙らしきものが上がっているのが分かっただけだった。

「カカ、初弾からそれとはスジが良いのう。重畳、重畳」

 哄笑しながら如月の頭を撫でる神風。褒められた理由は理解していなかったものの、如月はまんざらではない気分だった。

「艦橋に当たるまでは演習を続けようかと思ったけど、その必要もなさそうだ。じゃ、砲撃演習の後の恒例。結果確認に行こうか」

「うむ、参ろうぞ。己が挙げた功績をしかと確認するのじゃぞ、如月よ」

「あ、はい……」

 如月は、標的艦に向かって航行する神風たちの後を追いながら思う。自分は、褒められることをした筈だ。それなのにどうして、こんなにも胸騒ぎがするんだろう、と……。

 

 

   ⚓    ⚓

 

 あれだけ小さかった艦のシルエットは、如月の身体を凌駕する大きさとして目の前に在った。

「脚部艤装は浮かせておいて。梯子で最上甲板まで上がるよ」

 梯子を一段、また一段と登る度、如月の心臓がざわついた。胸騒ぎを裏付けるような、嫌な臭いが鼻をつく。それは、むせ返るような鉄の臭い。そして、何かが焼け焦げたような悪臭。そして、今まで嗅いだことがないような……。

「うわぁ、これは酷いな。誘爆用の爆薬を積んでおいたとはいえこれほどとは。爆風で吹き飛んだのかな」

「よいよい。どの道、魚雷演習に使うなり自沈させるなりして沈める予定なのじゃ。捕虜の口減らしには、誂え向きの墓標じゃろ」

 先に上がった二人が何かを言っている。如月はやっとの思いで最上甲板までよじ登る。

 そして、見た。その場所に広がる惨状を。

「ぁ……ひゃっ、ひっ、あああああああああぁぁぁ……!!!」

 小さく悲鳴を上げ、如月はその場にへたり込んだ

「おお、来たか。そら、見よ。お主の放った砲弾が、見事に艦橋を潰しておるぞ」

「ち、ちが……そうじゃなくて、これ、これぇ……!」

 頸をブンブンと振りながら、甲板に散らばるそれら(・・・)を指す。

 まず目に入ったのは真っ赤な血だまりだった。その上には、おそらくヒト型だった何か、がある。それは、そこかしこに飛散していた。肉片、頭部、腕、足、臓物……それらは、ある部分は粉々に、ある部分はごちゃごちゃにもつれ、ある部分は黒く焦げて異臭を放っていた。

「ああ、これ? この艦を鹵獲したときの敵の乗員さ。我が国は捕虜を養えるほど余裕があるわけじゃないしさ、有効に活用したんだよ。司令部室に捕縛してた奴らだから、ここに散らばってるってことは大当たりだったってわけだね」

「うぁ……あぁ……」

 如月は、震えていた。震えが、止まらなかった。凄惨な屍の山も十分に恐怖だった。でもそれ以上に、この光景を前に平然と会話をする二隻の艦船少女が、堪らなく恐ろしかった。

「おお、童、気をつけよ。そこな近くに……あー……」

 神風が何か言っている途中、如月の右手に“ぶちゅり”と何かが触れた。腕を動かした時、何かを潰してしまったようだ。やかましいくらいに早鐘を打つ心臓の音を感じながら、如月が手を退けると……。

「どこぞの眼窩から飛び出した眼球が転がっておった故、手のやり場には気をつけよ。と忠告しようと思ったのじゃが、遅かったかの」

「ぇ……うぇ……うええぇぇ…………、カハッ……ゲホッ、ゲホ、ゴホ……カハッ……!」

 酸っぱいものが一気にせり上がり、如月は嘔吐した。煮え湯のような熱い胃酸が喉を焼く。溜まった涙液で霞む視界に、自身の吐瀉物がビチャビチャと足元を汚すのを見た。神風、松風という艦船達が苦笑するノイズと、自分の背中をさする感触がとにかく気持ち悪くて、吐き気に拍車をかけた。

 如月の胃から内容物が出し切られるまで、その嘔気は治まることはなかった。




いつから如月ちゃんがリョナると錯覚していた? お前がリョナをするんだよ!
というわけで、如月ちゃんが酷い目に遭う回でした。筆者は身体を欠損したりするより、精神的に追い詰めるような残酷さが好みなのでこんな感じになりました。多分、ここが作中で一番残酷だと思います。ハードな展開を切望しておられた諸氏、もしいらっしゃればここで解散です、お疲れさまでした。拙著の如月ちゃんの顛末を見届けて頂ける方、今少しお付き合いくだされば幸いです。
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