如月が見た桜の旗の下で   作:weryu

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わたし……睦月型でいちばんはやくしずんで……人が怖くて…でもみんなにはあいたい……


実戦 -馬蹄の島で-

 如月は……睦月型駆逐艦は、決して強い艦というわけではなかった。120mm単装砲4門、7.7mm対空機銃2挺、610mm3連装魚雷発射管2基6門の兵装は吹雪たち特型駆逐艦のそれに劣っていた。小柄な体躯は砲が命中しにくくはあるが、かといって速力は脚部艤装に搭載するタービンに依存するため、小回りが利くわけではない。そも、敵艦船を砲戦で華々しく撃沈するのは巡洋艦・戦艦クラスの役割であった。水雷戦に特化する駆逐艦は、魚雷が直撃すれば大型艦に大打撃を与えられる程度に留まる。

 如月は、自分が強くないことをよく理解していた。だから、艦隊戦演習ではサポートに徹することを覚えた。常に周囲の顔色を窺う性格は、艦隊の支援に向いていた。煙幕で味方の艦を隠し、砲は敵艦隊のかく乱に使い、雷跡が視認し難い酸素魚雷の射線に誘い込む。味方が何を望み、敵が何を忌避するか敏感に感じ取り、立ち回る。貧弱ながらも高い精度の砲撃と取り回しの早さ(快速装填)は彼女の特技(スキル)であり、兵装以上に強い武器だった。

 ……だからこそ、油断があったのかもしれない。演習で優秀な成績が続いたことで、艦隊(みんな)を守れるようになったのだと思い上がってしまったのかもしれない。驕った新兵の末路は、決まっていたのかもしれない。彼女は誰よりも幼く、その本質はあまりにもか弱い幼女であることに変わりはなかったのに―――。

     

       ⚓   ⚓

 

 馬の蹄のような形をした島での戦いが、如月の運命の日になった。

「如月は南側から島を砲撃して支援してくれ。大丈夫だ、相手の砲台と基地は、こちらの空襲で壊滅しているぞ。だから安心して行ってきてくれ」

 夕張の言葉を信じて、如月は他の駆逐艦船1隻と連れ立って島の南側に航行していた。

「如月、りくにあがるみんなをちゃんとたすけられるかな……?」

 そう、眉尻を下げた不安げな表情で僚艦に尋ねる。僚艦は、きっと大丈夫、演習ではあんなに上手に砲を撃ってたじゃない。といった返答をしていた、その、途中だった。

 ヒュッ、という風切り音が如月の耳朶を打つ。直後、爆音とともに如月の視界は夥しい粒の塊に、真っ白に染められていた。

「え……?」

 何が起こったのか、分からなかった。混乱して鈍重になっている頭を無理矢理に駆動し、状況を確認する。まず感じたのは塩水でびしょ濡れになった身体。視界を覆った粒は、海水だった。すぐ近くで水柱が上がり、その波に覆われた結果だと分かった。そして、水柱が上がる理由は一つしか考えられない。

「あ……うぁ……そんな、だって、夕張さんは、あんしんだって……!」

 次に如月の視界に入ったのは、先刻まで会話していた駆逐艦がいた場所に浮かぶ粉々になった艤装と、赤黒く染まった海であった。その時になってようやく、如月は全てを察した。

「……っ!?」

 敵の攻撃。どこから? 頭を上げ島を見る。緑に紛れて、それは如月に砲口を向けていた。それは辛くも重桜の空襲を逃れた、固定砲台の1基だった。

「あ、……やっ……!」

 慌てて全速で舵を切った直後、先刻まで如月のいた位置に水柱が上がる。恐怖に引きつる相貌でそれを眺めながら必死に島から離れるよう速度を上げる。

「……こわい、こわい、こわい、こわい、こわい、こわいぃ……! 睦月、た、たすけて……!!」

 その場にいない親友の名を叫びながら、必死に逃げた。恐慌状態になりながらも、砲台の射程から離れればきっと逃げられる。そう思っていた。

「あ、あれ、は……」

 空から自分を追うエンジン音に、恐怖で目を見開く。この作戦に、重桜の航空母艦は参加していない。だから、答えは出ていた。

「あいての、ひ、ひこうき……!?」

 制空権のない海での戦闘。如月はその恐怖を、演習で身をもって経験していた。水上艦にはどれだけ正確な射撃も、空には届かない。海に浮かぶ自分は、空にいる敵に対して圧倒的に不利だと、危険なのだと身体が警鐘を鳴らすように、如月の心臓が高速で拍動した。

「……い、いや、いやぁ……! やめて、おって、こないでぇ……!」

 我武者羅に放たれた如月の単装砲は空に届くことなく、海に落下し水しぶきを上げる。その後にやっと如月は対空機銃の存在を思い出したが、遅かった。敵の戦闘機は反撃に転じようとしていた。

「……ひっ!?」

 低空飛行で如月に接近したF4F戦闘機が、如月に向かって機銃を掃射する。

「……ひっ、あ゛、がっ……! いたい、いたい、いだい゛い゛ぃ……や、やめてぇ……!」

 機銃は水上艦を撃沈する決定打になりにくい。装甲分は機銃の弾丸を弾き、海へ落とした。しかし、駆逐艦の装甲は薄く、何発かの弾は如月に届き、その身体を強く打つ。艦船にとってそれは豆鉄砲であったとしても、大量に浴びせられたそれは如月にとって激痛だった。

「……こないで、こないでよぉ……!!!」

 ようやく機銃を手に取り、振り返って応戦しようとした直後。如月の目の前に、黒い物体があった。

「……ぇ」

 それが爆弾だと理解する間もなく、視界は光と炎に呑まれ、鼓膜を突き破るような炸裂音が満ち、そして全身を猛烈な熱さと激痛が走ったのを最期に、如月の意識はプツリと断線し、暗転した。




もう如月ちゃんにひどいことしないって言ったじゃないですかヤダー!
……ソンナコトナイヨ? イチバンザンコクナノハオワッタヨッテイッタダケダヨ?
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