問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
なんだか箱庭家族がいっぱい頑張っているっぽいので僕も暫く孤独の狐集中期間に入りたいと思います。
といっても感情のない少女も箱庭超コラボもしっかり更新せねば……
あぁ……欲しい。全部が、何もかもが。この身体は欲望のカタマリなんだ。なら、素直に生きたってバチは当たらないでしょう?
その言葉は甘美で、背徳的で、恍惚を感じるものであった。今の今までこの感情に気付けなかった自身に萎えてしまうようで、だというのにそこから百八十度自身の価値観をただの一度で変えてしまう麻薬のような禁忌の悦びに飢えていた。
ただ欲望のままに欲望の化身は言葉を紡ぐ。この世のモノとは思えない歪んだ瞳孔で、この痛みという快楽を味わい、与えることのできる幸福感を最愛の人に与えられるという
だが、ダメだ。それがあくまで妄想であると知っているからこそどうしても想うだけでは煮え切らない。想い、想われ、行い、行ってもらう。これこそが互いに
ああ……なんて
待っていてね、アナタ……すぐに、快楽の虜になるから、一緒に……ね?
…………………………あれ。アナ■って、■?……■■■■?誰、だ■たっけ■■
◆◇◆
ククルカンからすれば、今から千余百年程度前のことだ。
アレと協力したのは確かあれっきりだったはず……いや、あれっきりであってほしい。
今思えばバカで無謀な若僧だった。アイツに協力した時点で当時の自分をぶん殴ってやりたいとすら思っている。そこまで恥ずかしく、頭に来るヤツがいる。
アイツの、猫の手も借りたかったあの憎たらしい過去がなければこうして自分は何度も異世界を転々とする理由も、ヤツも"天に招かれた善神"となることなどなかっただろう。
だが実際はどうだ。ヤツは天に昇るために自分の手から太陽主権を奪っていった。
以来我は天軍なるものを信用することはなくなった。幾度となく、太陽主権を取り戻すために天軍を制圧し、その度にまた太陽主権を持って優位になったヤツが我を追い払う。
だが……それも今回で止める。存外この小娘……ヨウの中は居心地がよい。愛されて恋を知らず……かといって愛を知らないわけでもない。熟していない未熟な果実だからこそ神という"完成されてしまった"存在である我に新鮮味を味あわせてくれる。
だというのに、この新鮮味は……反吐が出てしまう。
ようやく恋というものを自覚し始めたこの宿主を愛し、宿主が自覚のない恋を抱くこの少年に……なんの罪があろうか。
我ができることは、このような因果へと導いた世界に憎しみをぶつけることだけだ。
◆◇◆
理由はわからない。だが今目の前にいる竜胆がいつもの竜胆ではないこと。それだけは耀は確かに知覚していた。
「っ……ククルカン」
『……逃げろ、ヨウ』
「それは……なんで?」
『あの少年の神格が消えている。汝達の記憶を漁ればそれがあの少年にとって何を意味するのか───そんなものすぐにわかる』
「───、」
やはり。耀は目に見えて悔しそうな表情で下唇を噛み締める。
竜胆にとってタマモから受け継いだ神格は形見であると同様に自らのギフトである
今の竜胆が"暴走"を引き起こしているのは明白だ───
だからこそククルカンは耀に逃げることを促した。恋している人を愛している者がその生命を断ち切るなんて、決してあってはいけない。彼の老婆心は咄嗟に耀を守ろうとするが、それを本人が実行に移せるかはまた別の問題だ。
できない。自分はあくまでも耀の中に住み着いていてギフトを貸しているに過ぎない存在。ヤツのように完全な憑依は不可能だ。
「……く、あは、ひ……あ……そ、ぼ?」
「……ぁ、っ………」
天真爛漫なその笑顔。微笑ましくもとれるその笑みはその意味を全て理解している耀にとって悪魔の笑みにしか見えなかった。無邪気な邪気は理性というものを持つ耀には恐怖心を煽られるような感覚だ。
だが、耀もこれまで様々な苦難を乗り越えてきている。多少恐怖心を煽られたと言っても何もできないわけではない。今
あの時十六夜は彼を止めたではないか。ならば今、十六夜よりも彼に近くあの時よりも力を持っている自分が止められない道理はない。
「……いや、逃げない。ここで竜胆を放って逃げたら絶対に被害が悪化する。そんなこと……絶対させちゃいけない」
『ならん!少年の力は汝が思っている以上に残酷だ!それに汝は少年を止める術など持っていないだろうに!』
「できなくてもやるんだ!今は私にしか……私と貴方にしかできないことなんだ!」
『っ〜……!不服だが汝の言い分にも一理ある。非ッッ常ォーに嫌だが助力はする。死んだら責任とれ!』
「死んだら責任なんて取れないよ!」
大きな掛け声を挙げながら耀はククルカンの恩恵により強化された"生命の目録"を起動させる。
『集中せよ。今の汝は
「───シフト"フレースヴェルグ"。
重ね掛け。これがククルカンの存在によって可能とした耀の新たなステージ。二つの獣や神性の能力を重ね合わせることで短所ごと長所を纏め込んだというハイリスクハイリターンの技能。
そしてフレースヴェルグとスフィンクスは共に鷲の姿をしている。耀の狙いはほぼ間違いなく───被害を最小限に抑えられる空中戦。それも超高高度の。
「来て!」
「あっ……おいてかないでよ!」
竜胆を尻目に耀は空中へと駆り出す。するとやはり耀以外眼中にない"罪"はたどたどしい口調で耀に静止を呼びかけながら追いかける。だがその速度は幼い口調に反して耀を追い越さんばかりの速度で飛んでいる。
無論、追いつかれることは耀も百も承知だ。初めて彼のギフトゲームを見たときからもその圧倒的な速度は知っている。ならばタガの外れた今の"罪"には耀に追いつけない道理はない。
だからこそ、理性と本能の決定的な差を、発想というものに違いがあると理解している耀はまだ駆け抜ける。唯飛ぶのではない。足元に風のターボを作り、耀は加速。その風は耀を疾くするのと同時に彼女の後ろにいる"罪"の速度を下げる働きもしている。
「めんどくさい!これじゃま!きえちゃえ!」
だがそれは"罪"の駄々のような声一つで消え去ってしまった。それを見た耀は思わず足を止めてしまう。
(なんで!?今の竜胆には"罪"しかギフトがない筈……あんな大胆な力を使える生物の力を顕現するのには時間をかけて力を収束するかわざわざ肉体の部位を変質させる必要があるのに……?)
『言ったであろう、少年は汝が思っている以上に残酷な力を持っていると。恐らく暴走状態に陥って深層心理が無意識にかけていたリミッターが外れたのであろう』
認識そのものが違った!耀は竜胆自身が知らなかったギフトの一面に思わず歯噛みする。ギフトゲーム……箱庭での戦闘とは知らない手を見せられようが知らない方の落ち度。それが箱庭のルールとしてわかっている以上それ以上はなにも言わない。
それでも"罪"を被害の及ばない雲海上にまで誘導した。であればここからは耀も攻勢に回ることができる。
「……、"イタカ"、"フェンリル"」
速さを追うにはそれ相応の速さを以って。いくら頑丈な身体を選択しようとも人体構造の弱点である関節や内蔵を突かれては意味がないし、そもそも守りを固めても当たらなければどうともならない。
故に、速さ。
"罪"と耀は直角に曲がる軌跡を描きながら幾重にも光を重ね、また離れ……互いの身体にかかる強烈なGを二人はものともせずに飛び回る。
「ふっ、とばす!」
耀の拳は"罪"と重なるより前に突き出され、それを"イタカ"の風で拳圧を発射する。"罪"は射程外からの攻撃を予想外と思ったのか強引な動作で風を避ける。
が、それは耀の思うツボ。無理な体勢で攻撃を躱した"罪"を逃さず横腹にハイキックをぶつけ、脚にイタカの風をホイール状に回転させてゴリゴリと防御を削る。
決まった───完璧に捉えたと確信した耀はしかし、"罪"の淫靡で悪魔的な笑みを見て一瞬だけ手を緩めてしまった。
攻撃を受けつつも耀のジャケットを掴み、横腹に受けている攻撃を完全に無視しながら強烈なヘッドバッドをお見舞いし、あまりの痛みと頭部に与えられた衝撃で明確な隙を晒してしまった耀に"罪"は容赦なく追撃のボディーブローをぶちかます。
「ぉぁ、ごっ……!!げほっ!ぐっ!?」
思わず胃に詰まったものを纏めて吐き出しそうになるが、一欠片の慈悲のように"罪"が喉を押さえつけて気道ごと食道を締め付けて気持ち悪い感覚を吐き出すことすら認めさせてはくれない。
「……ねぇ、もっとかんじあおうよ?きみも、がまんなんてしなくていーんだよ。いっかいしょうじきになればさ……いままでがばかみたいにおもえるよ?」
「っ……!それは、ダメ……!」
「どうして?くだらないりせいなんかをすてるの、こわい?こんなに、こぉんなに、きもちいーのに」
だから、ね?
蠱惑的な誘いだ。艶かしさすら感じる幼い言葉にはこれまでの竜胆という少年の絶望と希望の全てを無駄なことだったと吐き捨てるような言葉が詰まっていた。紅く濁った瞳はかつての宝石のようなアメジストの輝きを塗りつぶすように光を灯さない。
『ヨウ!今の少年の言葉を絶対に耳に貸すな!頷いてしまえば汝は少年の虜になってしまう!』
心地の良い言葉を投げかけてくる"罪"に圧倒されていた耀を立て直すようにククルカンが叫ぶ。その言葉に意識を持って行かれた耀はハッとなって竜胆を押さえつけていた脚を離して距離を置く。
「ゴメン……助かった」
『礼なら少年を救ってからだ。尤も、救う方法など我らには持ち得ていないのだが……っ!』
首を抑えられたからか、酸素を求めて全力で咳き込む。軽く涙を浮かべながら目はしっかりと"罪"を見据える。
"罪"を見た耀は一瞬呆気にとられたような表情をしてしまった。"罪"自身が信じられないような眼でぼうっと耀を見ていた。
「……ひてぇ、するんだ」
「……え?」
「じゃあ、もういい。ひてぇしてもひていしてもヒテイしても否定しても泣いて許しを請いても!!気絶するくらいの快楽を与えてやる!!!指を折って手の皮を剥いで!!手首を捥いで肘を叩き斬って!膝より下もなくして逃げられなくして!ずっとずっとずっっっっっ、、、と!!愛を一方的に注ぐ!絶望に顔を歪ませる瞬間だけをいつまでも見せてくれるようにたたいてぶって蹴って!!死んじゃっても知らない!!!」
ひときしり
「しんじゃえ、しんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえ!!しんじゃえぇええええ!!!」
部位変質によって形容しがたいナニかへとカタチを変えた腕部をメチャクチャに振り回しながら"罪"は耀に襲いかかる。謎の圧力に押さえつけられて耀は金縛りに遭ったように動けない。恐らくは今"罪"が顕現させている未知の生命体の力なのだろうが、それだけでは説明のしようがない本能的恐怖を煽られる。
「動けっ……!動け!動いて!!」
『なぜ動かん!動けと言うておるだろうが!動け!!』
精神が繋がっているククルカンにも耀の感じている恐怖がダイレクトに伝わる。叫んでも喝を入れても身体が動くことはない。最早これまでか。ククルカンが宿主の、自らが定めた最後のチャンスの終わりを感じたその瞬間───
「はいはい、逢瀬の最中を邪魔してゴメンよお二人様」
耀の前に出た何者かによって"罪"の身体が弾かれる。割って入ってきたそれは銀髪の三つ編みを揺らし、未だに震えたままの耀に近づく。
「おい、無事か?お姫様」
「……お、姫様?」
「お、無事みたいだな。動けるか?動けるならさっさと逃げろ。アンタに死なれちゃ困るからな」
耀の安否だけを確認したその人物はさっさと視線を"罪"に移す。
「……まだ時間はかかるか。まぁ、関係ないか」
「……あ、貴方は……?」
「ん、俺?俺はエト。コイツに名前を貰ったトモダチさ……わかったらさっさと逃げな」
エト。話は竜胆やジンを通して十六夜から聞いている。竜胆が"罪"を与えられる前に知り合った
だが、任せろと言われた以上今の彼の相手ができない耀はその言葉に頷くしかない。
「っ……わかった。任せる」
「任された。口約束で申し訳ないがお姫様が逃げるまでの時間は稼いでやるよ」
耀がフラフラと戦列から離れて行くのを尻目に、視線は"罪"から外さない。
「にがさない!」
「おおっと、お前の相手は俺だぜ?お仲間同士相手になってやるからさ」
わかりやすい余裕を見せるエト。"罪"はその姿が頭にキたのか、目に見えて嫌悪感を露わにしながらエトに向けて構えをとる。
「さ、第二ラウンドと洒落込もうじゃないか?」
エトは急速に肉薄してきた竜胆に向けて密かにほくそ笑んだ。
元からニッチ層向けだったのにドンドンヤバい層向けになってきてる気がするこの作品……