問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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一旦、一話だけ本編に戻ります。そのあとはコラボ編に戻るので御安心を!

なお、今回ゲストとして別作品に出演してる竜胆くんとおねーちゃんのお母さんのコトネさんを出演させてみました。久しぶりにこの人書いたなぁ……




暴虐の三頭龍、呪われた呪術師
一話 繋がる切れ端


 

―――あれから、八年が経つ。

 

竜胆の母、コトネは炎に包まれる研究施設から真っ黒のコートと長ズボンを身に纏い、血の着いた二本の剣を握って出てきた。

 

「っ……ここも違った……もう尻尾を掴んでも切ってはまた生やすの繰り返し……」

 

くそっ、と解りやすい毒を吐く。

 

竜胆(むすこ)があの事件で人でなくなった時、彼女は自分を恨んだ。平和というぬるま湯に浸かっていた自分を。

 

彼女の家は有り体に言えば暗殺者の家業だ。彼女自身そうであると判明したのは諸々の理由もあって竜胆と鈴蘭が生まれた少し後になるが。

 

とにかく、自分がその家の人間と判明した時自分の姉に当たる人物は二つの選択肢を与えた。

 

家の一員として従事すること。

 

その事実を忘れてこれまで通りの生活をすること。

 

彼女は即決で後者を選んだ。家族に心配させたくないから。なによりもそれは家族が認めないから。

 

だが……その選択は誤りだった。

 

自分に力があればあんな悲劇は起こらなかったかもしれない。あの子の未来を、なにもない真っ白なものにせずに済んだかもしれない

 

感情のやり場を失った彼女は、涙と憎しみを全て竜胆という少年をコロした者達に押し付けて、自責の感情と、自らの境遇を知っていながら、自分達を不安がらせないよう気丈に笑う竜胆から逃げるように人殺しに打ち込んだ。

 

「でも、八年前の研究者の日記があった……研究所が壊滅した時にどこかへ流れて行ったらしいけど、やっぱり人工複合生命体の研究所の関連施設にあったみたいだ」

 

コトネの左手に握られている小さな日記帳。これが八年前の真相に少しでも近づければ、そう一縷の想いを馳せながら彼女は日にちがほとんど焼ききれている日記を捲った。

 

◆◇◆

 

⬛月⬛⬛日

 

新しい実験体の目星がついたらしい。どうやら今回は先天的に他の生物に対しての適合率と感受性を優先して手に入れたモノらしい。既に姐さん何百代と渡って適合率を上げてきていた人工モノとどんな競争をするの、一科学者として楽しみでならない。……だが、こんなことをしていいのかというチクチクとした罪悪感は消えないばかりである。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

件の実験体が手に入った。話通り、あらゆる生命体のとの適合率が極めて高い。コレは間違いなく人類が新たな進化を果たすための偉大な一歩となるだろう。実験体の肉体は別の生命体のみならず、同じ人間の、それも稀型と呼ばれるような血液型、さらには異性の肉体パーツや遺伝子にすら適合している。疑いようもない、コレは今までチマチマと積み重ねてきた人工モノよりもはるかな出来映えだ。

 

私はこの実験体にEVEと名付けた。新たな人類を作る者として、この名は最も相応しいだろう。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

EVEの調整とこれまでの人工モノを全て排除することが決定した。確かに人工モノ達は年月をかさねるごとに数も増えている。EVEというこれまでにない素材を手にした以上はもう存在している理由など到底ないだろう。

 

だが、気掛かりだ。EVEを調整したことや彼らを産み出したのは此方の都合だ。本来ならばEVEもこのような目には遭ってはいけないただの男の子だろうし、彼らだって生きていることには変わりがない。

 

結局、EVEの調整と彼らの廃棄は私の手前勝手な一存では止めることができなかった。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

どうやらこれは然るべき裁きのようだ。どうやら昨日彼らの廃棄の話を偶然耳にしたらしい⬛⬛⬛⬛が突然暴れだした。これが原因であの男にもここの存在が察知され、急速に接近してきている。やはり、人を人工的に新たな進化の段階へと推し進めるということは不可能であり、侵してはいけないテリトリーだったようだ。

 

ならば、私はこの日記を綴ろう。この研究が如何に愚かで、如何に自然の摂理に反していたのかを。それをこの日記を手にした某につたえるために。……彼らやEVE、そしてEVEの家族への償いにすらならない贖罪のために。私はこの日記を死する時まで綴

 

◆◇◆

 

「……胸糞悪い。こんなの見なければよかった」

 

EVEと呼称されておるのが自分の息子とわかったのだろう。コトネはそれをバラバラに切り裂こうと考えたが、それが手掛かりになる可能性を考慮してそれはしなかった。

 

「っ……!明日はリンくんとスズちゃんの誕生日なんだ。さっさと帰ろう……!」

 

その次の日、彼女はただ一人、その息子を遺して死んでしまった。

 

おかげで、研究施設で起こった事の真実を知るものは当事者以外いなくなってしまったのだった。

 

◆◇◆

 

魔王の証明たる黒い契約書類(ギアスロール)が空を舞う。

 

ギフトゲームの概要を記す物はその羊皮紙には一切ない。ギフトゲームではある。だがルールなど存在しない。そうとでも言うようだ。

 

そのゲームを開くモノは、絶対たるモノ。"不倶戴天"を掲げる悪の王。

 

汝、"悪であれかし"。絶対たる存在は三つの双眸と六の紅の瞳を光らせて、再誕と決戦の鐘を鳴らした。

 

 

 

『―――いざ来たれ、幾百年ぶりの英傑よッ!!死"力"を尽くせッ!"知"謀を尽くせッ!!蛮"勇"を尽くし―――我が胸を貫く光輝の剣となってみせよッ!!!』

 

 

 

「っ!?」

 

己の生物としての本能が十六夜をその攻撃から避けさせたのは、奇跡の二文字と言っても差し違えないだろう。

 

"悪"の凶爪の余波はたちまち宮殿の断崖を吹き飛ばして地盤を切り裂いた。

 

殿下と呼ばれたあの少年の姿はもう見当たらない。コレの存在に感づいていたからか、あるいは初めからコレを甦らせるつもりだったか―――ジン達から聞いた話から考えるに、それは間違いなく後者だ。

 

(っぐ……!ふざけてるとしか思えねぇ。コイツが、魔王アジ=ダカーハ……本物の最強種かよ……!)

 

アジ=ダカーハ。"拝火教"(ゾロアスター)という善悪の二元論で世界の理を解くという特異な宇宙観(コスモロジー)を持つ神群の一派。

 

この三頭龍の一派の持つ"魔王"とは神群の敵対者に与えられる座とは一線を画す。

 

彼らは神群に仇なしたから"魔王"となったのではない。この三頭龍を筆頭とした"拝火教"の魔王は―――悪行を為すことを目的として産まれ、暴威を振るう魔王なのだから。

 

(どうすればいい!?右腕はさっきコイツに殴ってぶっ壊れた。なら左でも結末は変わらねえ……!)

 

殿下との闘いで既に肉体は瀕死の域。意識も途切れかけていて朦朧としている。

 

―――正面からじゃ、勝てない。

 

本能が告げる。十六夜はそれに屈辱を感じながらも逆らわず、三頭龍に背を向けて先程黒ウサギと共に逃げたアルマテイアが向かった方向とは真逆に走る。

 

「嘗めんなよ、蜥蜴……!」

 

足なら動く。熔岩の海に沈みかけた岩盤を踏み抜いて距離を離す。

 

この、現在考えうる最善の策ですらも三頭龍は一蹴した。

 

裂け

 

刹那、十六夜の身体は鋭利なナニカに切り裂かれる。

 

「ガッ!?」

 

何が起こった。認知することすらできない。三頭龍はその場から一切動いていない。

 

(なんだコイツ……どんな恩恵を使ったんだ……!?)

 

『………』

 

十六夜の心の問いに答えるように三頭龍は虚空を指でなぞる。

 

途端、三頭龍の背中の翼が鋭利な刃に姿を変える。変幻自在なその黒い物体に十六夜はあるものを思い出す。

 

(レティシアと同じ龍の影……!正体はコイツか!?)

 

だが、それは十六夜の知っているものとは格が違う。竣さ、精度。どれも何段階も上のそれを懸命に避けるが、避けきれないで頬をかするものもいくつかあった。

 

(クソッマジで洒落にならねぇ……!)

 

強いとはわかっていた。だがこれほどの力の差があるのか。

 

紅の双眸で十六夜を見下す三頭龍は、状況を確認するようにつぶやいた。

 

『……そうか。私と闘う前から既に死に体だったか。傷さえなければ逃げることはできたのであろうに』

 

「!?っ、んだと……!?」

 

あちらからすれば最大級の慈悲を込めたのだろう。だがそれの真理を理解した、否、理解してしまった十六夜は屈辱で奥歯を噛み締める。

 

―――傷さえなければなければ、逃げることはできた

 

それはつまり、万全であっても戦いにすらならないという意味だ。

 

それは箱庭に来るまでの十六夜そのものだった。己の勝利を疑うことなく、敗北を疑うことなど微塵もない。

 

生まれついて強いものは強い。弱いものは弱くて仕方がない。逆廻 十六夜がずっと抱き続けた価値観を、逆に叩きつけられた。

 

(なるほど……確かにコイツは、腸が煮えくり返る……!)

 

今まで一切経験のない同情や憐憫、そういった負の感動に笑みを浮かべて彼は自らの右腕を掴む。

 

「憐れんでくれてありがとうよ……おかげでもう少し足掻けそうだ……!」

 

自らはその絶対たるモノに屈しない。それこそが今の十六夜にできる抵抗。十六夜を立ち上がらせているのは、不屈の闘志というどうしようもない根性論だけだ。

 

三頭龍はその双眸と瞳で十六夜を見つめ―――邪悪に嗤う。

 

『なるほど。その不屈さ、高く評価しよう。どうやら貴様は暴力だけでは折れんらしい。ならば、こういう絶望はどうだ?』

 

三頭龍はその白い爪で自らの身体を切り裂いた。途端に大量の血液が噴出し、三メートルはあろう彼の巨体が血に染まる。血液は緩やかに滴り落ち、やがて命を得たかのように蠢く。

 

大地が、溶岩が、朽ちた大木が。血液を浴びたソレらが双頭の龍へと姿を変える。

 

(コイツら……神霊級の分身!?白夜叉が戦ってたっていうアレか!?)

 

『山羊を一匹、雌を一匹逃がした。それと……そこに雌が一匹いる。追って殺せ』

 

「何!?」

 

驚愕に捕らわれた十六夜が思わず眼を向けた先には、どういうことか先程から姿が見えなかった、満身創痍の春日部 耀。

 

「か、春日部!?バカ野郎、早く逃げろッ!!」

 

そこにいた耀に十六夜は叫ぶ。最悪のことだけは避けなければ。ここで全員が死ねば、箱庭に未来があるかすらもわからないのだ。

 

耀の元に向かおうとする十六夜を先回りして背中に背負う旗印を靡かせながら、三頭龍は吼える。

 

『さぁ、どうする人間?これで時間を稼ぐ意味はなくなった。同士を救うためには私を滅ぼすしか道はないぞ』

 

「ふっ―――ざけやがれ、この駄蜥蜴がッ!!」

 

死に体の闘志を振り絞り、十六夜は三頭龍の腹部に左の拳を叩き込む。

 

諸刃の剣に等しいそれは純白の巨体に打ち込まれ、その身体に深々と食い込んだ。

 

『っ……!?』

 

三頭龍から僅かに苦悶の声が漏れる。だが十六夜が感じた衝撃はそれを遥かに上回っていた。

 

(お、もい……!?三メートルが持ってていい質量じゃねぇだろ……!?)

 

どういうことか、この三頭龍は大陸に匹敵する質量をその僅か三メートルの身体に秘めている。十六夜の拳が砕けたのも納得だろう。

 

左拳は砕けて血飛沫を上げる。迸る激痛を猛る血潮と雄叫びでねじ伏せる。

 

「ガァァアアアア!!!」

 

秒間数百発。打つ度に飛び散る鮮血。三頭龍がどれだけの質量を秘めていようが、十六夜には星を揺るがす力を持っている。それが第三宇宙速度を越えて三頭龍の身体に食い込めば―――

 

『ぬぅっ……!!』

 

三頭龍の身体は一歩引いた。その一瞬の体重移動。それを見逃さない手はない。拳打の標的を腹部から左の首に変え三発。その後に首を羽交い締めにして横転させる。

 

三頭龍の上に乗った十六夜は最期の勝負に出る。

 

(ここだ―――コイツを逃せば、もう勝機は永遠にない……!)

 

砕けた右腕に極光が宿る。

 

巨龍を打ち砕き、かつて死者の世界を切り裂いた恩恵。

 

"正体不明"を"正体不明"たらしめているそれを見た三頭龍は驚愕に揺れる。

 

「―――っ!?」

 

否、揺れたのは彼のみではない。三頭龍を中心に大地と大気が鳴動し、彼の双掌には力の渦が収束し、灼熱の球体が生まれる。

 

『"アヴェスター"起動―――相剋して廻れ、"疑似創星図"(アナザー・コスモロジー)……!!』

 

溶岩よりも熱いそれを身で浴びる十六夜は思わず息を飲む。

 

(なんだ……炎の恩恵か……?)

 

ならば、どれほどのものであろうと恐るるに値しない。十六夜の光はどんな物質であろうと防げるものではない。

 

光を逆手に構えた十六夜は三頭龍の心臓に柱を振り降ろす。

 

三頭龍は炎を天に掲げ、その一撃を受け止める。極光に触れたそれは掻き消えるかと思いきや、より激しい灼熱を以てせめぎ合いを始めた。

 

「っ―――クソッ、なんでもアリかよテメェ……!!」

 

ありったけの力を込めて柱を押し込む。

 

しかし三頭龍の炎はより勢いを増して輝きを放つ。

 

反発を増した二つの力はやがて光球となって周囲の全てを文字どおりねじ曲げる。

 

二つの力は森羅万象の全てを打ち砕き、原子すらも砕かれる。

 

十六夜の霞む視界には凶悪な笑みを浮かべる魔王を見る。

 

『終わりだ、新たな時代の申し子よ。貴様では―――この"悪"の御旗は砕けないッ!!』

 

二つの力が同時に砕ける。余波の直撃を受けた十六夜は塵芥の如くその身を宙に舞わせた。

 

◆◇◆

 

「バカ野郎、早く逃げろッ!!」

 

「―――ッ!」

 

十六夜の渾身の懇願を聞いた耀は本能で二頭龍から逃げる。身体は先程の竜胆との戦闘で動くのを拒んでいるが、それを自らの風で身体を吹き飛ばすカタチで動かす。

 

『GEEEEYAAAAAAA!!』

 

自分がここにいては彼に余計な心配をかけるだけだ。二頭龍から全力で逃げ、飛鳥達と合流し、十六夜と竜胆の身に起こったことをありのまま伝える。

 

これだけが耀がすること。コレだけしか、今の耀が果たせないこと。

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!』

 

『ヨウ!逃げるアテでもあるのか!?』

 

「ない!」

 

『メチャクチャだ!我はそのようなこと認めんぞ!』

 

「だったら!ここで死ねっていうの!?竜胆も助けられずに、十六夜の目の前で!?」

 

『そうではない、動くのなら考えよ!此度の戦争は考えもなしに何かを為すことなど不可能だ!』

 

「っ……!」

 

耀は自らの身体を振り向き、炎熱を二頭龍に向けて放つ。ククルカンの恩恵を受けたそれはいつもとは比べ物にならない力を持っていたが、それだけではかの三頭龍の分身を倒すことはできない。

 

必死に逃げる。痛む腹部を押さえながら、彼女が浮かべるのはただ一人、彼のこと。

 

「……竜胆」

 

彼の名前を呼ぶ。ただそれだけの行為がこんなに苦しさの感情を含んだのは初めてだ。

 

思えば、彼に会ってから、箱庭に来てから不可思議なことでいっぱいだった。

 

死にかけた春日部 耀を無理矢理治療してくれた。黒死病に侵された耀につきっきりで看病してくれた。"アンダーウッド"の夜の河で喋った時も不思議と会話が弾んだ。さっきだって、私とふたりでどこかへ行こうと誘ってくれた。そして、竜胆が竜胆じゃないナニカになっても根本的に私に向けてきた瞳は変わらなかった。

 

苦しい。もがけばもがくほどこの感情が泥沼に漬かって行く。

 

「"アフーム・ザー"!!」

 

牽制をしながら逃げる。逃げて逃げて、想いを馳せる。

 

『俺は死神だ、死にたくなかったら関わるな』『ひとりにしないで……』『バカか、俺は。なんでコイツに嫌われたくないなんて……』『トゥルーエンドなんて御免だ!全員幸せのハッピーエンドで生きて帰るんだ!俺の"罪"で……!』『お前は宇宙だな』『約束する。それで俺は、キミに伝えたいことがあるから』

 

記憶が、想いが、細胞の一つ一つが。彼の言葉を思い出させる。

 

理解のできない感覚に苛まれながら耀は二つ首の龍から逃げる。生きるために、事実を教えるために、

 

―――彼を、想うために。

 

 





ってなわけで次回からはコラボ編に戻ります。ちなみにエトの力ってどんだけ?て思う読者様がいると思うので一言で説明しますと、

平行世界に存在する箱庭(要するに問題児SS)の数だけ無限に強くなります。

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