問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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孤独の狐、更新!

最近新作のネタばっか出て来て困ってます。どうせすぐ飽きるのに。




二話 嘆く咆哮

 

 

「―――ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

獣は叫ぶ。一縷の理性すらも掻き消されたその記憶には最早なにかが残ることはない。

 

次々と硝子のように獣の記憶が砕けていく。生まれた記憶。人として生きた記憶。友だった者に出会った記憶。小さな斑の旅人に勇気付けられた記憶。家族が消えた記憶。姿を消した記憶。自分を一途に慕ってくれる家族と出会った記憶。この世界に来た記憶。慇懃無礼な親友に出会った記憶。情熱的なお嬢様に出会った記憶。ウサギの同士と出会った記憶。小さな長と出会った記憶。大いなる白夜と出会った記憶。数年ぶりに心配された記憶。斑の旅人と再会した記憶。全ての感覚が消え行く記憶。なにかを自覚した記憶。くだらない戦いに本気になった記憶。死んだ姉にまた会えた記憶。記憶の奥底に消えた記憶。友だった者と再会した記憶。記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶

 

 

 

大切な()()との記憶。

 

 

()()()に裏切られた記憶。

 

 

 

全てが混ざって、溶けていく。

 

嗚呼、でも最後だけは、名前だけでも。側にいてほしい。名前もわからない誰か。一人は寂しい。だから―――

 

「―――さようなら、⬛⬛⬛⬛――――」

 

獣は世界から今まさに、消えようとしている。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いいや、汝にはまだ。願いがあるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

「―――撒いた?すぐに嗅ぎ付けられるかもしれないけどっ……今は飛鳥達に知らせないと……!」

 

『だが、この身体ではそう長くは持たないぞ……これ以上無茶な顕現を使えば汝の生命に関わりうる』

 

「……ッ、黒ウサギ……飛鳥……」

 

二頭龍達から命からがら逃げてきた耀。途中幾度となくその攻撃に晒されてククルカンによる"本来使える力以上の力の行使"は確実に彼女の身体を傷つけていた。

 

だがそれでも彼女は歩を止めない。真実と現状を知るただ一人の者として―――

 

「……いた。飛鳥、ペスト……黒ウサギ……?」

 

そうしてようやく二人を見つけたが、黒ウサギはあの時飛鳥が呼び出した山羊の星獣に掴み掛かっている。

 

明らかに様子が変だ。疑問に感じた耀は歩調を速めて三人の元に急ぐ。

 

「な、なんてことを……!貴女が本当に山羊座の星獣ならば、あの魔王が何者か知っていたはずです!アレは、魔王アジ=ダカーハはただの魔王ではありませんッ!!あの魔王は数多の神群を退けてきた人類最終試練(ラスト・エンブリオ)ッ!如何に十六夜さんと言えど勝ち目など皆無!それぐらい貴女なら知っていたでしょう!?」

 

『知っていましたとも。そして他でもない、十六夜殿も承知していたはず。末期と悟っていたからこそ彼は、私に貴女を託したのです』

 

星獣―――アルマテイアの言葉に黒ウサギはなにかを思い出したのか、ドサリと膝を折って項垂れた。

 

理解はできても否定してほしかったほどのなにかが、起こっていたのだ。

 

「……、っ。……四人とも」

 

今このタイミングで顔を出すのが空気の読めない行為だということは理解しているが、それを気にしている程の余裕も彼女にはない。ふらふらと三人の元に歩み寄り、倒れそうになったところを飛鳥に支えられる。

 

「春日部さん……!?いったいどうしたの!?」

 

「……竜胆が、また"暴走"した。それで重傷を負わされて、今はエトが足止めをしてくれてるはずだけど……その後にアジ=ダカーハの分身体に襲われた」

 

「―――!耀さん!十六夜さんは、十六夜さんは!?」

 

「……逃げろ、って。それだけ言って、三頭龍に挑んでいった」

 

耀の口から語られた二つの真実は黒ウサギにより一層重たい影を落とす。大事な同士―――家族を今再び失ってしまうのか。

 

「……そんな。私は、お二人にそんな目に遭って貰いたくて箱庭に招待したわけじゃないのに……なんで、そんな……」

 

「……アルマ。春日部さん……十六夜くんは、死んだの?」

 

『私も死亡を確認したわけではありません。逃げ切れたという可能性だって無いわけではありません。ですがしかし……あの傷では難しいかと』

 

「……私も、ボロボロで挑んでいく姿しか見えなかったから。わからないとしか」

 

二人は直接的な言葉を避けて選んだが、飛鳥もそこまで鈍くはない。十六夜が決死の戦いを挑んだのは火を見るより明らか。

 

最悪の状況は考えていたが、これはその更に上を行っていた。今までも窮地に陥ったことこそあれど、今回はその比ではない。

 

黒ウサギは霊格を失い、ジンは行方知れず。十六夜は魔王と一騎討ち、そして竜胆は再び"罪"を暴走させた。

 

残る主力は飛鳥と耀のみだが、耀も傷だらけでいつものように期待することは正直できない。

 

「……だからって、気落ちしている暇なんてないわ」

 

パシッ、と己の頬を叩いてアルマテイアに向き直り、改めて問う。

 

「状況はわかったわ。でも魔王の情報が少なすぎる。アルマ……なにか知っているのなら情報をちょうだい。貴女はあの魔王を知っているのでしょう?」

 

『ええ。箱庭の古参ならばかの悪神を知らぬものなどおりますまい。―――マスターは"拝火教"(ゾロアスター)という神群をご存知ですか?』

 

いいえ、と飛鳥は首を横に振る。それを見たアルマは緊張したような面持ちで三頭龍の所属する神群について語り始めた。

 

『拝火教の悪神群は"悪"(Aksara)の旗印をかかげ、不倶戴天の敵として箱庭を荒らして回りました。今でこそ善神筆頭格とされる帝釈天、彼も本来は"拝火教"に身をおいた魔王と聞いています』

 

「じゃあ、あの龍は帝釈天と同格と?」

 

『……ええ、少なくとも昔は』

 

「……どういうこと?」

 

隣で聞いていた耀がその含みを持った言い方に怪訝な表情で返す。

 

アルマテイアは答えるかどうか考えた後、言葉を選びつつ語る。

 

『あの三頭龍はただの魔王ではありません。……いえ、むしろ魔王として真にあるべき魔王、でしょうか』

 

「というと"主催者権限"とは別のもの、ということ?」

 

『むしろ逆です。魔王とは形を成した試練そのもの。そもそも"主催者権限"とは内的宇宙を解放して最古の魔王を己の霊格に取り込むための秘奥。悪用されるようになったのは最古の魔王が駆逐されて安寧を手にしたからなのです」

 

つまるところ"主催者権限"とは、魔王を筆頭とする悪を討つためのもの。飛鳥はさきほど見たジャックの"主催者権限"を思い出す。

 

子供を悪用、もしくは殺害したことのある者に対してのみ発動する善性の試練それこそが"主催者権限"のあるべき姿。

 

『真の魔王は全く別物の試練。それも只の試練ではなく、人類を根絶させかねない史上最強の試練が顕現したもの―――我々はそれを"人類最終試練"(ラスト・エンブリオ)と呼びます』

 

「……っ。"人類最終試練"」

 

『聞いたことはありませんか?魔王とは"天災"だと。それは額面通りの意味。雷雨、地殻流動、疫病……これらの擬人化が神群に多いのは度重なる人類存続の危機を我等心霊が調伏させてきたことの証。中には天体法則のような例外もありますが』

 

頷いた飛鳥は次にペストを。耀はククルカンに問いかける。

 

黒死病の大流行などその最たる一例の一つ。人類最悪の疫病を乗り越えたそれは、人類繁栄に課された最大級の試練と数えられる。

 

(……ククルカン)

 

『そうさな。我はむしろ逆だ。"人類最終試練"が人類に課す試練であれば、我とアレの存在は"滅びた人類を再生させる"神霊だ。宇宙を作り上げた数ある宇宙観(コスモロジー)の一つ。"疑似創聖図"(アナザー・コスモロジー)と呼ばれる』

 

「……ならあの三頭龍もなにかの天災や年代記、天体法則を取り込んだ魔王なの?」

 

『……恐らく。アジ=ダカーハも昔はあそこまで絶大な魔王ではありませんでした。西洋神ならば戦女神や死者の王達と同じほど……ですがある日を境に―――アジ=ダカーハを筆頭にした何体かの魔王達が、一斉に霊格を肥大させたのです。それこそ一体一体が、百万の神霊を退けるほどに』

 

「「ひゃ、百万の神群を!?」」

 

二人は状況を忘れて素っ頓狂な声を上げた。そんなもの強いとかそういう次元ではない。文字通りの桁違い。驚異すら越えている。

 

項垂れていた黒ウサギも拳を強く握りしめて肯定する。

 

「その話は……本当です。比喩ですらない。かつてこの箱庭には数多くの神群が存在していました。そのほとんどが最古の魔王によって駆逐されていったのです」

 

『試練そのものたる最古の魔王達を倒すことは、物的には不可能でした。そこで最古の魔王に対抗する手段として後に造られたものこそ、"主催者権限"。ギフトゲームの原形』

 

それこそが、"主催者権限"を悪用した者を魔王と呼ぶ理由。己の霊格を試練そのものに変えるそれは、本質的にはなにも変わらない。

 

(……あれ。でもそれって。"主催者権限"さえあれば三頭龍を倒せるってことじゃ……)

 

『理屈上はそうなる。年代記にせよ天災にせよ。試練の食い合いとなるのだ。だがその三頭龍を打倒、あるいは封印する程の"主催者権限"となると最強種か、戦いに特化した天軍……アヤツ程度だな』

 

「……蛟劉さんは?」

 

ならばかつて"斉天大聖"や"平天大聖"と共に箱庭で神群相手に暴れまわったという蛟劉ならば。

 

だがそれは飛鳥が否定する。

 

「残念だけど蛟劉さんは行方不明よ。同じくサンドラ、ウィラ、ジャック、鈴蘭さん。そして"ペルセウス"のボンボン坊っちゃんも。避難民は"サラマンドラ"が辛うじて纏めている状態」

 

最悪なんて状況じゃない。ならククルカンは?彼も神霊の筈。なんらかの対策案はあることも期待できる―――

 

『期待しても無駄だ。我は産み出す側と言ったばかりだぞ。相反する属性で試練に対抗することができてもそれは根本から違うものをぶつけ合うこと。宇宙ほど作ることが簡単で、壊すことが難しく、規模の大きなものはない。ぶつけ合っても完全に力負けする。そもそも今の我は太陽主権を奪われた影響で宇宙創世の力の一端をも使うことができん』

 

だいたい我の宇宙創世はアヤツの助力なしではなし得なかった分力も半分だろうよ。と自嘲気味に笑う。

 

―――本当に打つ手がない。殿を務めていた飛鳥とペスト以外ほぼ壊滅ととって間違いない。

 

「……参ったわ。私達、あの二人がいないとマトモに打開策も思い付かないのね」

 

歯痒さを堪えられない飛鳥も自嘲気味に笑う。今までの魔王戦のほとんどは十六夜と竜胆に方針を任せ、十六夜に中心を任せていた。依存していたと言ってもいい。曲がりなりにも"ノーネーム"が魔王と戦ってこられた要因の大半があの二人の知識量と尽力によるものだったのだ。

 

歯痒さに痛いほど身を震わせた飛鳥は、

 

 

 

ズガシュ!

 

 

 

鈍器に頭を殴られた。この痛みには文字通り痛いほど身に覚えがある。

 

「……ウィラ=ザ=イグニファトゥス!いるのなら出てきなさいッ!」

 

あぅ、という声とともに虚空からウィラが降りてくる。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃあないでしょう!?鈍器を落とされたのは二度目よ!普通に声を掛けられないの!?」

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いて飛鳥。……ウィラも無事でよかった」

 

見かねた耀が苦笑いで止める。半泣きになっていたウィラはゴシゴシと涙を拭い、改めて謝罪した。

 

「本当に、ごめんなさい……龍が来たとき、真っ先に逃げたから……みんなと合流するのが後ろめたかった」

 

「だからって鈍器をぶつけるのはどうなの」

 

『……とにもかくにも。頭主と参謀のいない非常時です。私とマスターはコミュニティの代表として"サラマンドラ"の現状報告を行い、そのまま前衛に回ります。異論は?』

 

「ないよ。ペストは?」

 

「……ないわ」

 

『よろしい。ではお乗りなさい』

 

アルマテイアの促す仕草に一瞬思案した飛鳥はすぐに背中に跨がる。

 

「……それじゃ、行ってくるわ」

 

「うん……!飛鳥、早く行って!三頭龍の……アジ=ダカーハの分身体が来る!」

 

『急ぎます!捕まっていてください!』

 

耀の言葉に有無を言わさぬほど早くアルマテイアは電光となって駆け出した。

 

飛鳥を見送った耀達は分身体……二頭龍に視線を移して睨む。

 

「……やろう」

 

「ええ」

 

「……うん」

 

『異論はない』

 

人類に課せられた試練がなんだ。壁があるなら乗り越えて全部幸せにしてやる。

 

彼ならそう言うだろう。耀は信じることのできない相手に任せた彼のことを案じながら、二頭龍へと挑むのだ。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、人類の進化の終着点。その第一歩の始まりだ

 

 

 

 

 

 

 

 






徐々に、徐々に大きくなっていく。彼女にとっての彼。

だがその切っ掛けは決して二人が望んだものではなく、小さく、大きな願望に揺れ動かされた結果―――

次回、叫ぶ絶望

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