問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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よくわかる(?)前回の孤独の狐!

エト「お前の家族殺したの俺なんだわ(笑)」

竜胆「」



耀ちゃんさん「もしかしたら私は竜胆を十六夜や飛鳥以上に見てるのかも」

クーさん「おせぇよタコ」



飛鳥「双頭龍が襲ってきた。そっちオナシャス」

ちゃんさん「おk把握」

おねーちゃん「行方不明なう」

十六夜「死にそうなう」

そんなこんなで孤独の狐、暴謔の三頭龍最終話スタートー。




三話 叫ぶ絶望

―――契約するんだ。汝の……キミの願いを、聞かせてほしい。

 

◆◇◆

 

二つ首の龍が、吼える。それは戦うという行為をする、明確な意志の表れだ。

 

なるほど、確かにこれは三頭龍が言っていた通り間違うことなき神格保持者の持つそれ。

 

ならばその敵と戦うには、自分もありったけの力をぶつけて対向するしかない。

 

そして、ククルカンという"主催者権限"こそ持たないものの、神格を持つ力を解放するとその余波がどこまで及ぶかわかったものじゃない。というか見られてそれを追求されると面倒くさい。

 

よって―――

 

「ウィラ、ペスト。二人は"サラマンドラ"の方の援護に回って」

 

「は?なに言ってるのヨウ。貴女一人でこれだけの二頭龍に立ち向かうっていうの?」

 

「……それは無謀」

 

「大丈夫。無謀じゃないし、向こうも人が多い方がいいでしょ?だからここは任せて」

 

「それはなにか策があるって信じていいのね?」

 

「策というほどでもないけどね」

 

任せろ、と言わんばかりにペストに向けて親指を立てる。竜胆のことで色々あるだろうに、気丈に振る舞う耀の姿を見たウィラはペストの肩に手をポンと置く。

 

「ここはヨウヨウに任せて、私達は行こう」

 

「……わかったわ。でも、言ったからには生きてかえって来なさいよ。貴女になにかあったらそれこそリンドウが悲しむわ」

 

「死ぬ気はないよ」

 

自信を含んだ耀の返答を聞いた二人はウィラの作った境界門(アストラル・ゲート)を通過して"サラマンドラ"のいる方に向かっていった。

 

それを見届けた耀は二頭龍達と対峙する。獰猛かつ無機物的という不可思議な感覚を与えるだけです眼を向けられて少し訝しんだが、すぐに迷いは振り払う。

 

「……いけるよね?」

 

『まだ汝と我の力は完全に信和していない。これほどまでに時間がかかるなど普通は断じてあり得ぬことだが……無理はできぬとだけ言っておこう』

 

「無茶や無謀はしないよ……無理はするけど」

 

彼女のギフトカードが薄紅く輝きだし、首にかけたペンダントも光りだす。"生命の目録"の力が本来あるべき姿から離れ、"金星の創世神"の力が溢れだす。

 

自らの衣服がほんの一瞬だけ弾け飛び、それに代わるかのように白い翼を模した、露出の多い装束に変わっていく。

 

「"生命の目録"……形態、"大鵬金翅鳥"(ガルーダ)!!」

 

神鳥"大鵬金翅鳥"。七天大聖が一人、"混沌大聖"(天を混沌せし者)が属する神獣。

 

普通ならば"獣達の遺伝子の組合せで未だ見ぬ生物の力を手にする"という彼女の"生命の目録"ができる範囲のことを簡単にオーバーロードしている。なんの助力もなければ不可能なものだ。

 

が、助力があれば?

 

幸いなことに今の彼女の中には神格と神性を持つククルカンがいる。しかも彼は大鵬金翅鳥と同じ"炎"の力の持ち主。彼の力と合わされば、"生命の目録"の力で大鵬金翅鳥に限りなく近い者の遺伝子を作り出して力を上乗せするだけの仕事になる。

 

「……やるんだ。竜胆だってこの力を箱庭に来る前から使ってた。今はあの時の彼と同じ条件……!?」

 

かつてタマモの神格を取り込んだように、彼女もククルカンの神格を取り込んでいる。体験したことがなくとも、使っている様さえ見ればできる。あの時のタマモも今のククルカンも、魂に宿っている存在だからそれは同じ――――そう思っていた。

 

『無事か!?力だけでなく一気に神格まで貸し渡したのだ……汝に相当な負担はかかっているだろう……』

 

(こ、こんな……こんな借りるだけでっ、ここまで負担が……!?条件は一緒のはずなのに、彼は何喰わない顔でこんな重荷を背負っていたの……!?)

 

顔の所々にぼぅ、と光のラインが走る。その光の出現が引き金になったかのように彼女を激しい頭痛が襲う。

 

「―――ぁ、ああ!!ぎ、ぅ、……!」

 

『無茶はするな!できぬと判断したら即刻神格のパスを断つからそのつもりでいるのだ!』

 

「―――ぅ、も、問題っ……ない」

 

ククルカンの言葉を聞いて逆に吹っ切れたか。耀は頭痛と奇妙な感覚を無理矢理抑え込んで二頭龍の群れに向き直る。顔に浮かんだ光のラインはすでに消えている。

 

「―――」

 

言葉は交わさない。交わせないし、交わす必要も交わす理由もない。

 

ただ一瞬の溜めを以て、それらは急激に動き出した。

 

いつだったか、自分と同じ"生命の目録"を所持していたグライア=グライフは最強種の力を顕現させることのリスクを明確に口にしていた。

 

耀のギフトが本来あるべきカタチから姿を変えているとしてもそれは変わらないだろう。この恩恵には隠された代価が確実にある。

 

―――そもそも、代価もなしに手にできるものなどないのだ。箱庭に来た時もそうだ。来てからも何時だって、勇気や自らの血肉を……あの二人を代価にして今自分はこの場にいる。

 

(ククルカン……私は今日までこの力のリスクが怖かった。目の前に自分の力のリスクを恐れることなく身を(なげう)ってる人がいたのにだよ)

 

『―――………』

 

(でも、それがこの有り様なんだ。またあんな目に遭った竜胆を止められずに、十六夜を一人で戦わせて……きっと飛鳥にも無理をさせちゃってる)

 

『今の汝の力。これを使えたのであれば……足手まといになどならなかったのであろうな』

 

(うん……きっとこれを見せていたら十六夜だって、『一緒に魔王と戦ってほしい』って言ってくれたはずなんだ……だから……ッ!!)

 

「どけっ……!私は今、助けなきゃいけない人達がいるんだッ―――!!!」

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!』

 

三体の二頭龍をたった一人で相手取る耀。まるで躍りでも踊っているかのように炎を振り撒き、二頭龍の持つ鋼鉄すらも上回る肉体を燃やす。

 

二頭龍が周りの龍脈やら大木やら水脈やらに自らの血を浴びせて新たな二頭龍を産み出そうとしようとなると直ぐ様耀はその素を大鵬金翅鳥の炎で焼き尽くす。比喩などではなく、焼き尽くしている。

 

だが、やはり彼女の懸念通り反動があったのか、大鵬金翅鳥の炎は耀の身体そのものを焼きつくし始めた。

 

「―――!っ、ぅ」

 

その一瞬のよろめきを見て二頭龍は好機と思ったのか、数で増やそうとしてもそれができないと悟ったのか、一斉に耀に襲いかかってきた。

 

「な、めるな、蜥蜴!!」

 

彼女らしくもない、十六夜のような物言いで腕を振るう。その腕の軌跡に合わせて炎が壁になるように二頭龍を遮る。散った炎は耀の右目を襲い、自らの視力すらも焼いてしまう。

 

「ぁ、ァぁぁあァァァあぁぁアぁあああァ!!!」

 

『くっ、おい無事か!?』

 

「ぅう、おおあああああああああああああああ!!!!」

 

自分の身体を襲う炎の痛みを掻き消さんとする絶叫。自分の身体すらも焼いてしまう炎を腕に纏って二頭龍の両の首を掴んで炎を誘導させる。

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!?』

 

「ふっとべぇぇぇぇぇえええええ!!」

 

それを他の二頭龍に向けて蹴り出す。吹っ飛んだ二頭龍は見事に他のそれを巻き込み、さらに炎を拡散させる。

 

「ぅぅうぅぅぅう……まだ、だ……!」

 

一応これで二体倒した。あとは一体。

 

どこにいるかと周りを軽く見渡していると―――右半身に衝撃が迸った。

 

「っぐ、が!?」

 

『ぐぉ!?使い物にならなくなった右目の死角を……!』

 

完全な不意討ちに耀は対応することができず、受け身をとれずに倒れてしまう。二頭龍はその追撃と言わんばかりに自らの影を伸ばして襲う。

 

『飛べ!ヨウ!』

 

「っ!」

 

ククルカンの言葉を聞いて反射的に衣の翼を翻す。なんの準備もなしに飛んだものだからそのフライトは酷い有り様だ。

 

だが当たらなければなんの問題もない。崩れた体勢を良しとし、二頭龍は凶爪を煌めかせて彼女を襲う。

 

「炎の……壁!!」

 

咄嗟の判断で炎の壁を作り出して二頭龍の行動を遮る。同類が二体もやられたその炎の強力さはいかに暴力のみの生命体以下である二頭龍とて理解している。そしてそれを無闇に出せば耀が自滅することも充分知っている。

 

だから、その行動は二頭龍には理解できなかった。

 

耀は自ら、その炎を突っ切って二頭龍に肉薄してきたのだ。最早正気の沙汰ではない。幾度か軽く触れるだけで右目を潰しているというのに、それが怖くないとでも言わんばかりの突進だ。

 

「くた、ばれええええええええええええ!!」

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!!??』

 

身体の捻りを加えたハイキックが吸い込まれるかのように二頭龍の二つの頭を巻き込んで直撃する。

 

総時間、二分にも満たないほどの短さ。たったそれだけで二頭龍を駆逐し尽くした耀の姿をその場にいた者達はまるで生物以上の存在を仰ぎ見るかのように眺めていた。

 

「凄ぇ……」

 

「あの人間……龍を三体も倒した……!」

 

「あれが本当に人間の力なのかよ……!?」

 

火龍隊は勿論、駆けつけたマンドラもその圧倒的な力に舌を巻いていた。

 

が、当の本人はそんな状態ではない。

 

「ぁ、あ、ぎ……!!」

 

『無理をするな……!右目が焼かれたのだ。平衡感覚だっておかしくなっているだろう……』

 

脅威の焼いた炎は敵だけに留まらず、自らの身をも焼いていた。白い肌は真っ黒に焼け爛れ、指先は麻痺して痙攣している。力の危険性を露骨に、かつ単純に示すかのように右目の付近の睫毛と眉毛は塵一つ残さずに消え、栗色の虹彩のは真っ白になっている。

 

「……問題、ない。傷なら治るし、痛いのは我慢すればいいだけだから……!」

 

だが、命は灯火がなくなればそれで終わりだ。

 

様々な獣と言葉を交わす力を持った耀は世界の残酷さをよく知っている。

 

家畜が食物であることを、生餌が自身は餌であることを、自覚していた。

 

二千年代以降を生きる人間にとって獣の言葉を理解する力というのは、決していいことだけではない。むしろ、心が折れるようなことだらけだ。

 

弱肉強食、淘汰される命。

 

自らより後に生まれ、自らよりも先に逝く。

 

それを知る耀はこの世界にすぐに馴染めた。

 

それをしっているからこそ、今しなければならないことはわかっていた。

 

(さっきの光……あれは間違いなく十六夜のギフトだ。なら、まだ間に合う―――)

 

痛みは絆と根性と想いでなんとかなる。やれる。できる。今なら、力になれなかったあの時のとは違う。力になってやれる。ずっと頼ってきた彼に、頼ることのできる人になれる。

 

だが、現実は常に非情だった。

 

「っ、え……、」

 

『な、なに……!?』

 

なんの前触れもなく"生命の目録"がその姿をペンダントへと戻る。飛ぶことすらままならず、虚空から現れたウィラが受けとめ―――

 

「わっぷ!」

 

られなかった。腕をすり抜け、胸のド真ん中に落ちて、危うく飛鳥の残したディーンに助けられる。

 

「耀。大丈夫?」

 

「う、うん。ありがとう。でもどうして急に―――」

 

不自然に言葉が切られた。それを怪訝に思ったウィラはどうかしたのか、といった眼差しで彼女を見つめる。

 

耀は愕然としたまま己の下半身を凝視している。まるで信じられないものを見るかのように。……信じたくない現実(もの)を、見ているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……足が、動かない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「足が……う、動かない……!?そんな、そんなどうして!?どうしてこんな時に!?」

 

狂乱したように声をあげる。目の失明や腕の傷などとは比べ物にもならない衝撃だったのだ。

 

『……ヨウ、もしや汝は……いや、耳を澄ませてみよ』

 

あわてふためく耀を諭すようにククルカンが助言をする。だがそれは助言というよりは、冷たい現実を突きつける最後の言葉そのものだ。

 

その証拠に、今までの卓越した彼女の聴覚からはヒトが得られる以上の情報は一切入ってこなかったのだ。

 

「……まさか、ギフトがなくなった……!?」

 

急激に彼女の顔が青ざめた。それはなにも心情的なものにも限らない。

 

耀の身体は急激に衰弱を始めたのだ。

 

「ぁ……ぁあ、あ……!!ッ!ガ、げほっ、ごふっごふっ!?」

 

絶望のあまりに霞んで出てきた声の震動にすら自分の身体は反応してしまう。咳き込み、倒れ、瞳に浮かんだ悔し涙が彼女の状態をそのまま投影している。

 

グライアの言葉から、ギフトの代償は竜胆と同じく"春日部 耀が春日部 耀ではないナニカ"へと変貌することなのだと思っていた。しかし、真実は全くの逆だった。器に注げる量を越えた力の代償は、それまで注がれていた力ごと、その器をなくすこと。

 

(これじゃ、竜胆どころか十六夜すら助けられない……友達の証だったギフトも、なくなって……!)

 

手にしたものが音もなく消えていく。

 

父がくれた両足も。

 

種族を越えた友情も。

 

世界を越えて育んだ絆も。

 

仄かに灯っていた僅かな想いすらも。

 

なにもかも総てが消えてなくなる。そんなもの初めからなかったのだと。父に、三毛猫やグリーに、黒ウサギに、飛鳥に、十六夜に……竜胆に。

 

彼らにそんなもの存在していなかったのだと、突きつけられたかのような絶望感すら襲ってくる。

 

「―――クッ、ハ、ハハハハハハハハハハッ!!これはこれは、思いもよらぬ僥倖だ!力の代価は、思った以上に大きかったようだなァ!」

 

下卑た笑い声が突如木霊し、ハッと二人は顔をあげる。耀はそれを僅かにだが、ウィラはそれの覚えは確かにある。

 

途端、熱風と冷風を放出してマクスウェルの魔王が姿を現す。

 

「大鵬金翅鳥を顕現させた時は流石に肝を冷やしたが……ククッ、まさかそんな対価が必要だったとは。どうやら天も私の恋路を応援してくれているようだ」

 

「マクスウェル……今度は負けない!」

 

「おおっと勘違いしないでくれ花嫁よ。なにも私は戦いに来たわけではない。この窮地にキミを迎えに来たのさ」

 

「キモい!」

 

「嬉しそうでなによりだ」

 

即答するが、聞こえていない。いかに陶酔していようとこの変態ストーカーが危険なのには変わりない。とりわけ今のマクスウェルには不定の狂気が宿っている節がある。

 

「ウィラ。私もあれから反省したんだ。今まで私は手を尽くしすぎた。それが遠回りになってキミには良く思えなかったのだろう。それくらいは私も察せる」

 

「キモいッ!!」

 

「そこで私は真摯に考えた。キミが私の下に来る方法を―――そして思い付いたんだ」

 

マクスウェルは右手を軽く上げる。二人はその仕草に覚悟を決めた。

 

が、マクスウェルの奇行はその予想を上回っていた。

 

「要するに、私の下へ来ざるを得なくすればいいんだ!」

 

弾いた指の彼方から、爆発が巻き起こった。その先は街道辺りだろうか。そして街道を越えた先にあるものといえば―――

 

「ま、まさか、"境界門"(アストラルゲート)を壊したの!?」

 

「御名答!はてさて……隣の"境界門"まで、何万キロだったかな?」

 

本来、如何なる魔王とて"境界門"の破壊だけは絶対にしない。それを壊すということはつまり、そこにいるもの達を小さな惑星に放り込むことと同義だからだ。

 

だが境界を操るマクスウェルにそんな常識は通用しない。そんなもの、あってないようなものなのだ。

 

「ふふ……では、脅迫(こうしょう)だウィラ。我が花嫁に来るというのなら、私の力で避難民とキミの友達を助けてあげないこともない」

 

「っ……!」

 

チェックメイトだ。この状況を乗り切る方法はマクスウェルの要求を飲むしかない。

 

『最悪だ……この外道もこの状況も、最悪だぞ……!』

 

タイミングだって悪すぎる。耀は恩恵を失って、ククルカンの力を引き出しても肝心の本人が戦えず、いつアジ=ダカーハが来てもおかしくない。

 

一度でも断る素振りを見せればマクスウェルは耀達を容赦なくここに投げ捨てるだろう。

 

霊体の空間跳躍が可能なウィラなら、自分だけでも逃げ出せるのだから。

 

最悪で、最低の状況。彼女達は、ついになにもすることが敵わなかった。

 

◆◇◆

 

 

 

『踏み越えよ―――我が屍の上こそが、正義であるッ!!』

 

 

 

「お前が魔王か、アジ=ダカーハ―――!!」

 

 

 

 




認めたくない真実。

突きつけられる現実。

誰もが理想のようにはなれないとわかっていながらも、己の理想そのものとなった者を認められず。

復讐を。必ず、復讐を。

復讐を願われ、彼はなにを想う。

簡単だ。彼の想いは、常に一つなのだから。

次章、そして狐は契約を。

―――サヨウナラ、ボクノダイスキナヒト

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