問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
第三章開始!三章と四章……つまりアンダーウッドの魔王編はついに竜胆くんの過去と"人類の罪"に触れ込みます!
一話 守銭狐
「キミ、立派ね。"ノーネーム"だからって理由で一人で小さいのに働くなんて」
「あ……いえ、僕よりも小さな子達は沢山いますから……その子達のためにも働かないとやっていけないんです。
それに、"ノーネーム"になってコミュニティから逃げ出した人もいますから……僕はいつかコミュニティを復興させたいんです」
「へ~……うんわかった。このパスタ、貰っちゃおうかな」
「あ、じゃあ銅貨50枚になります。どこのコミュニティが作った銅貨でも大丈夫ですよ?」
「へえ、安いのね」
「所詮"名無し"ですから、安くないと買ってくれませんよ」
気のいい女性はそのままパスタを人啜りすると、「美味しい!小さいのに凄いね!」と絶賛してもう二つ買って行った。
「……さて、これで銅貨の合計数は1700……金貨一枚と銀貨七枚分か」
先程のニコニコとした表情から一転、屋台の裏から銅貨の数を数える茶髪アメジストの少年、竜胆である。
「低身長と童顔……使いたくもない特徴をこんなところで使うハメになるとはな……」
「あ、ねえキミ」
「あ、いらっしゃいませ!なにか御用でしょうか?」
ものすごい態度の変わり方である。これも彼が昔役者をやっていたからできる技だ。
「とっても美味しそうな匂いがしたからなにかな、て思って来たんだけど……キミ、所属は?」
「あ……えっと、"ノーネーム"です。コミュニティの仲間が食べるには誰かが収入を得ないといけないから……」
「うぅっ……小さいのにエラいのね……私、パスタ一つ買うわ……」
「ありがとうございます!銅貨50枚です!」
涙ながらにパスタを啜って帰っていく女性を尻目にまた裏でいつもの顔に戻る。
「1750枚……ったく、なんで俺がこんなお姉みたいなド守銭奴なマネをしなきゃならん……利益もギリギリ黒字ってとこだし」
そもそも、なぜ竜胆がこんなことをしているのか、理由は少し前に遡る。
◆◇◆
ペスト……"黒死斑の魔王"との戦いからおよそひと月。
十六夜を筆頭にした四人の問題児と(竜胆は色んな意味で問題児)と"ノーネーム"の代表格達は今後の方針について語り合うため、本拠大広間に集まっていた。
大広間の中心に置かれた長机は上座からジン=ラッセル、逆廻 十六夜、久遠 飛鳥、春日部 耀、高町 竜胆、黒ウサギ、メイドのレティシア、そして年長組代表、竜胆と同じく食事当番の狐娘のリリが座る。
"ノーネーム"では会議の際、コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式であるのだ。
コミュニティリーダーのジンの次席に十六夜が座っているのは水源の奪還をはじめとした様々な戦果を挙げているからで、彼の次席にいる飛鳥は不満そうである。
そして竜胆が四人の問題児達の中で一番下の理由。それは彼の"ギフト"である"人類の罪"が原因であることに他ならない。魔王戦で見せたあの暴走は、コミュニティにおいて危険すぎるという判断を受けたためだ。
竜胆も特に不満を見せることもなく、むしろ「一番下の方が妥当じゃないか?」と言っていた。
そしてリーダーであり、旗頭でもあるジンだが、ガチガチに緊張しているようだ。
十六夜はそんなジンを見ていつものようにヤハハ、と笑う。
「おいおい御チビ。俺よりいい位置に座ってんのに、随分気分が悪そうじゃねえか」
「だ、だって、旗本の話ですよ?緊張して当たり前じゃないですかっ」
ギュッとローブを掴んで反論するジン。しかし理由はそれだけではなく、上座に座る、ということはそもそも前提として"コミュニティのために試練……ギフトゲームに参加できる者"でなければならない。この常識に加え、組織への貢献、献身、影響力などが求められる。
戦果らしい戦果をあげてないジンが引け目を感じるのは当たり前だろう。
「ジン、憶えてるだろう?お前は俺達のシンボルとなっている。
今後の"ノーネーム"として挙げた戦果は全てお前の名の下に集約されるだろう。そのお前が上座に座らないということはお前がそのシンボルという役割を放棄したと俺は取るが?」
「YES!竜胆さんの言うとおりでございますよ!
事実、この一ヶ月間に届いたギフトゲームの招待状は全てジン坊ちゃんの名前で届いております!」
ジャジャン!と黒ウサギが見せたのはそれぞれ違うコミュニティの封蝋が押されている三枚の招待状。それも、うち二枚は参加者ではなく、貴賓客としての招待状だ。
「ほぉう……俺達"名無し"にしては破格の待遇だな」
「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!
だから堂々と胸を張って上座にお座りくださいな!」
「苦節三年ね……ババ臭い言い回しだな」
次の瞬間竜胆は黒ウサギに思いっきり睨まれたので「悪い悪い」と言って身を竦ませる。
しかし、ジンは先程以上に思いつめたように俯いた。
「だけど、それは───」
「僕の戦果じゃない、か?」
「……はい」
竜胆はジンが言った一言に呆れた。子供は面倒だ、と思った……のだが、恐らく竜胆以上に面倒な子供はそうそういないだろう。
「お前、なんのために俺達が他のコミュニティに行けるものをこの"名無し"に居座ってると思ってる?」
「え?」
「本当にここの生活が嫌だったら今頃俺達はそれぞれ適当に箱庭をほっつき回って"魔王"の烙印でも押されるだろうさ。まあ俺はそれでも構わないがね。
……だけど、俺達はここの生活を気に入っている。その気に入った生活をくれたのは間違いなく俺達を召喚したお前だ。それに、お前は絶対にコミュニティを復興させるという"覚悟"もある。
……羨ましい。死を望んで自分で死ねない俺にはないものだ」
「………」
「だからな、ジン=ラッセル。お前は覚悟をカタチにできない俺のようにはなるな……だから、そこにいてくれ」
「……わかりました。皆さんの期待に応えれるリーダーになるべく、僕も精進します」
「そうだ。若造は夢を持つことから始まるんだよ」
「……多分、貴方に若造なんて言われたくもない言葉ナンバーワンに入るんじゃないかしら?」
飛鳥の言葉を受けた竜胆が泣きそうになったのは余談である。
◆◇◆
そんなこんなで会議は続き……
「それじゃ、最後に……リリ。農場の復興はどのくらい?」
「は、はい!農園区の土壌はメルンとディーン、それにタマモおねーさまが毎日がんばってくれたおかげで全体の四分の一が既に使える状態です!
これでコミュニティ内のご飯の確保には十二分……いえ、竜胆様のお料理ならば十五分の土地が用意できました!
田園に整備するにはもう少し掛かると思いますが、葉菜類、根菜類、果菜類を優先して植えれば数ヶ月後には成果が期待できると思います!」
ひょコン!と狐耳を立てて喜ぶリリ。あの荒廃した土地を僅かひと月で復興させれるとは思っても見なかったであろう。
「……ん?タマモおねーさま?」
「あー、それがですね。どうやらリリちゃんのお母様のルーツが私とほぼ同じ、私とは別の倉稲魂の神だったそうでして、一応農耕の神としてお手伝いしてたらそう呼ばれるようになっちゃいました」
えへへ、と舌を出すタマモ。それに対し竜胆は───
「むしろババ様か叔母様だろ」
「酷い言い掛かりでございます!私まだそういうお年頃じゃないです!」
「幽霊生活千年がよく言う」
「反論できない……」
完全論破していた。
「さて、アホ狐との話が終わったところで……本題はなんだ?」
「あ、はい。今回のお題は復興が進んだ農園区に特殊栽培の特区を置こうと思うのです」
「特区?」
「YES!ありていに言えば霊草・霊樹を栽培する土地ですね。例えば」
「芭蕉精とか?」
「マンドラゴラとか?」
「マンドレイクとか?」
「マンイーターとか?」
「YES♪っていやいや最後のおかしいですよ!?"人喰い華"なんて物騒な植物を子供達に任せることなんてできませんっ!
それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も芭蕉精のようなものを育てて詩人の霊が夜な夜な子供を泣かせたらヤバいじゃないですか!?」
「……そう。なら妥協して、ラビットイーターとか」
「なんですかその黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!?」
うがーっ!とウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。
レティシアは一向に話が進まないのを肩を落とし、十六夜達に率直に告げた。
「つまり、主達には農園の特区に相応しい苗や牧畜を手に入れてきてほしいのだ」
「牧畜って、山羊や牛みたいな?」
「そうだ。都合のいいことに"龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)"連盟から収穫祭の招待状が届いている。
連盟主催ということもあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう」
「それに今回の招待状は前夜祭から参加を求められたものです。しかも旅費と宿泊費は"主催者"が請け負うという超VIP待遇!場所も南側屈指の景観を持つという"アンダーウッドの大瀑布"!境界壁に負けない迫力の大樹と美しい河川の舞台!皆さんが喜ぶことは間違いございません!」
「……行きたい」
竜胆の眼がすっごいキラキラしてたのは恐らく火龍誕生祭でまともにお祭りを満喫できなかった分もあるだろう。
「へえ……"箱庭の貴族"の太鼓判付きとはすごい。
さぞかし壮大な舞台なんだろうなぁ。お嬢様はどう思う?」
「あら、そんなの当たり前じゃない。だってあの"箱庭の貴族"がこれほど推してる場所よ。
目も眩むくらい神秘的な場所に違いないわ。
……そうよね、春日部さん?」
「うん。これでガッカリな場所だったら……黒ウサギはこれから"箱庭の貴族(笑)"だね」
「"箱庭の貴族(笑)"!?な、なんですかそのおバカっぽいボンボン貴族みたいなネーミングは!?
我々"月の兎"は由緒正しい貞潔で献身的な貴族でございますっ!」
「そんな服装でよく貞潔だなんて言えるな。しかも献身的な貴族っていうのが俺達にハリセン使ってる時点で怪しい」
四人が黒ウサギをからかっていると、ジンがコホンとわざとらしく咳払いをし、一同に注目を集める。
「方針については一通り説明が終わりました。……しかし、一つだけ問題が」
「問題?」
「はい。この収穫祭ですが、二十日ほど開催される予定で、前夜祭を入れれば二十五日。
この規模はそうそうないですし、最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力がいないのはよくないです。そこでレティシアさんと共に一人残ってほし
「「「「嫌だ」」」」
問題児満場一致で否定された。しかしこればかりはジンも譲れない。
「でしたら、せめて日数を絞らせてくれませんか?」
「というと?」
「前夜祭を三人、オープニングセレモニーからの一週間を四人。残りの日数を三人……このプランでどうです?」
「ジン、そのプランだと二人が全部参加できるが、それはどう決める?」
「それは───」
席次順で、と言いかけたが、この箱庭世界の常識がこの外界からの問題児四人に通用するかはわからない。
それに加え、問題児一の問題児ストッパーの竜胆も明らかに全日参加したいオーラを出している。
どうしたものかと迷っていると、十六夜がテーブルに身を乗り出し、提案した。
「なら、前夜祭までの期間で誰が何日行くのかをゲームで決めるのはどうだ?」
「ゲーム?」
「あら、面白そうじゃない。どんなゲームをするの?」
「ふむ……ならば、"前夜祭までにより多くの成果を出した二人が勝者"というのはどうだ?
この箱庭らしい、いいゲームだとは思わないか?」
竜胆が提示した内容に三人は顔を見合わせる。それなら条件は五分五分だ。
「いいぜ」
「ええ。それで行きましょう」
「うん。……絶対負けない」
こうして問題児四人はゲームを開始し、冒頭に至るのである。
竜胆くんに最も言われたくない言葉ベストスリー
一位、お前可愛いな
二位、ホントにガキみたいだな……
三位、ツンデレとか面倒だなおい