問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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竜胆の姿は少しずつ、メッキを剥がされて暴かれる……




三話 ユメ

高町竜胆はふわっとした感覚の中にいた。

 

覚めることがないのなら、ずっとこの安寧に身を預けてもいい。そんな安心感を与える感覚だった。

 

だが、現実はそうはいかなかった。

 

竜胆はその感覚から突き放され、冷たい地面に足を着ける。

 

「……っ、なんだここ……」

 

竜胆は現在地を確かめるように歩き出す。

 

真っ暗な空間の中暫く歩いていると、足の感覚がなにか感じた。

 

「この匂い……血?」

 

竜胆がその血の発生源を辿るように、匂いの源へと向かう。暫く歩き続け、最も濃い匂いのする場所にたどり着くと───

 

「なんだ……これ……?」

 

死体の山だった。

 

しかも、その死体の中にはガルド=ガスパーやペストなど、自分と関わってしまったが故に死んでしまった者もいる。

 

「りん……どう……」

 

真下から声が聞こえ、そこに目を向けると、そこには右目を喪失した、顔を血で濡らした耀の姿があった。

 

「───────ッ!!」

 

思わず視線をズラす竜胆。だが、ズラした先にはタマモがいて、その姿は耀同様に見る目も当てられない。

 

逃げるように視線をズラせばそこには"ノーネーム"という"家族"がいて、竜胆は逃げる場所を失った。

 

「りん、どう……たすけて……」

 

死体、重症の身体、その全てが竜胆の身体にのしかかってくる。

 

「や、めろ」

 

「りんどう……」

 

「やめろ……」

 

「りんどう」

 

「やめろと言っている!」

 

「「「りんどう……」」」

 

「やめてくれぇ!」

 

りんどう、その言葉だけが彼の耳に入ってくる。その声を否定し、逃げる度に彼にかかる重みは増していく。

 

「「「たすけ、て……」」」

 

「やめろ……やめるんだ……やめてくれ……」

 

亡者の中に覆いつくされた竜胆は、僅かに残された視界から、なんの傷もない一人の人間を見つけた。

 

「たす、け───」

 

竜胆は気付けばその名前も顔もわからない誰かに助けを求めていた。

 

どれだけ惨めに、哀れに見えたろうか。

 

「……助ける?なにを言っているんだ、お前は」

 

僅かに聞こえてきた声は、不思議と他の声よりも澄んで、よく聞こえた。

 

「……え」

 

故に、彼にとっては一番の打撃だった。

 

「お前/俺は死にたいんだろう?死に際になって、そんなことを言うのか?」

 

その姿は、はっきりと見えた。

 

その人物の姿は、竜胆自身だった。

 

「お前/俺は、ここで死ぬんだ」

 

その声を皮切りに、自身の声は聞こえなくなり、亡者達の声が一層大きくなった。

 

「嫌だ……嫌だ……死にたくない……でも、俺は……」

 

亡者達の声に、小さな呻きは掻き消されていた。

 

◆◇◆

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

竜胆は瞳に僅かな涙を浮かべ、腕でそれを拭おうとして、全身から出ていた汗のせいで目が染みた。

 

だが、逆にそれのおかげで今までパニック状態だった頭を落ち着けた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………夢、か……最悪だ」

 

多分、今まで彼が見た夢の中で最悪、というのは家族が死んだ夢だろう。

 

なのに、今の彼は自らが死ぬことにそう漏らした。無論、あの亡者にも一因はあるが、彼はそう言ったのだ。

 

「……くそっ、俺と関わって死んだ奴も全員……家族以外全員いた。

なんて嫌味な夢だ……!今日はアンダーウッド収穫祭の初日だっていうのに……!」

 

竜胆はベッドを叩きながらそう呟く。だが、彼は自分の中の価値観……自分自身の存在というものを理解していないのか、どうして最悪なんて言ったのかもわかっていなかった。

 

◆◇◆

 

そして、南側に向かう日がやってきた。

 

「ようやく来たのデスよ」

 

「……すまん」

 

黒ウサギの茶々を一言で返す竜胆。少し顔を俯け、顔色は伺えない。

 

「……どうかしたの?」

 

「少し、嫌な夢を見ただけだ……別にいつかのように体調が悪いわけじゃ、ない」

 

「ならいいんだけど……」

 

はたしてこれは嫌な夢を見た、それだけで済ませていいのだろうかと耀、飛鳥、黒ウサギ、ジンの四人は揃ってそう思っていた。

 

「……そういえば、十六夜は?」

 

「十六夜さんはヘッドホンがなくなってそれを探すと言って、権利を耀さんに渡しました」

 

「……そう、か」

 

十六夜がいれば幾分かはこの不安もなくなるんじゃないかと思っていたが、その十六夜がいないということに少し辟易した。

 

「ホントに大丈夫?」

 

「大丈夫……って言えたらいいのにな……ま、時間も惜しいから早く行くとしよう」

 

◆◇◆

 

「「………っ!」」

 

そして、一行は"アンダーウッドの大瀑布"にたどり着いた。

 

ちらりと見るだけでわかるほどの絶景。目測でも300メートルはありそうな巨大な水樹が目を惹く。そのあり得ないサイズは樹齢何千年と過ごした大樹でも比較できない。

 

そして、そこから流れる大量の水は大瀑布の名前を冠しても違和感のないものであり、その下流にはその流水による恩恵を受けているであろう都市部が見える。

 

「………」

 

そんなはしゃぐ二人を尻目に、竜胆はただただ滝を見て溜息をついた。

 

「水はいいな……流されるだけの人生で」

 

どこかポエムのような感じがしたが、そう言っていないと気分が晴れないのだ。

 

はしゃぐ乙女二人とやけにローテンションな乙女っぽい男。かなりカオスだった。

 

と、そんな状況の中耀はあるものを見つける。

 

「飛鳥、竜胆、あれ!」

 

耀に促されるまま無気力に上を向く。その瞬間、竜胆は表情を一変させた。

 

その生き物は青い羽毛で羽を覆った、二本足の鹿というような姿ぢった。

 

「……耀、アイツには近づくな。間違ってもトモダチなんかになろうとするな」

 

「なんで?」

 

「アイツはペリュドン。人を殺す生き物だ」

 

「人を……殺す?食べるとか、そういう意味で?」

 

「違う。ヤツらは人を殺して失った自らの影を取り戻す。影がある限りは人畜無害な生き物だが……」

 

ペリュドンは竜胆と目が合い、そのまま竜胆に向かって襲いかかってくる。

 

「生まれ持った影には呪いがあって人を殺さないとそれを取り戻せず、取り戻さないと生きていられない哀れな生き物だよ。……俺みたいにな」

 

竜胆はペリュドンに向けて軽く睨みつける。

 

その瞬間、ペリュドンはなんの前触れもなく、死んだ。

 

「見つかったら死ぬまで追われる……だから殺すしかない」

 

竜胆はペリュドンの死骸に一言、「すまない」とだけ言いペリュドンを呪術で焼却する。

 

『その通りだ。博識だな、少年』

 

すると突然、上方から聞き覚えのある声が響いてきた。

 

そこに目を向けると一頭のグリフォンが空に止まっていた。止まっていた、という言い方は変かもしれないが、グリフォンの翼は動いていないためそう言うしかない。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

そのグリフォンの言葉遣いからして、今までに出会ったことのある物言い。

 

そして誇り高いグリフォンと友になった、となればそのグリフォンは間違いなく、"サウザンドアイズ"のグリフォンだ。

 

「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

 

『ああ。収穫祭で行われるバザーには"サウザンドアイズ"も参加するらしい。私も護衛の戦車を引いてやって来たのだ』

 

見れば彼の背中には立派な鋼の鞍と手綱がある。彼の騎手と友に来たのだろう。

 

「白夜叉がいれば……まあ、いざという時になんとかなるか」

 

そんな中、竜胆は不安を紛らわすように呟く。そのつぶやきは動物にも聞き取れないほど小さいものだ。

 

グリフォンは黒ウサギ達にも視線を向け、翼を畳み前足を折る。

 

『"箱庭の貴族"と友の友よ。お前達も久しいな』

 

「YES!お久しぶりなのです!」

 

「……ああ、久しぶりだ」

 

「お、お久しぶり……でいいのかしら、ジン君?」

 

「き、きっと合ってますよ」

 

飛鳥とジンはグリフォンの言葉がわからず、とりあえずお辞儀をする。

 

グリフォンは嘴を自らの背中に向け、彼らに乗るよう促す。

 

『此処から街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。東や北よりも道中は気をつけねばならん。

もしよければ、私の背で送って行こう』

 

「本当でございますか!?」

 

黒ウサギは喜びの声を上げ、ジンと飛鳥はやはり言葉の壁のせいで首を傾げる。

 

耀はグリフォンから一歩距離を置き、深々と頭を下げた。

 

「ありがとう。よかったら、名前を聞いてもいい?」

 

『無論だ。私は騎手より"グリー"と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

 

「うん。私は耀でいいよ。それでこっちが飛鳥とジンで……そこの可愛いのが竜胆」

 

「………」

 

あれ?と耀は思わず首を傾げる。竜胆の性格……というか、今までの彼の反応からすれば「俺は男だ」というのは当たり前だったはずだが、彼はなんの反応もしない。

 

『分かった。友は耀で、友の友は飛鳥とジン、それに竜胆だな』

 

グリーと名乗ったグリフォンは翼をはためかせ承諾する。その間に事情を黒ウサギから説明された飛鳥とジンは同じく頭を下げグリフォンの背に跨る。三毛猫も黒ウサギに抱かれ同乗。

 

「……すまない、失礼する。

……なにかあったらとりあえず俺のせいにしておいてくれ」

 

『面白い冗談だな』

 

竜胆はそれだけ言うとグリフォンの背中に跨らず、両足を同じ方向に投げ出してグリフォンの背中に座る。

 

耀はもう一度、グリフォンにペリュドンの事を聞き、その後グリフォンと耀は飛び立った。

 

空の旅に少しトラブルもあったりしたが、まあ兎も角一行は普通に目的地へと向かっていく。

 

「……グリー、と言ったか」

 

竜胆が突然、会話が途切れたタイミングでグリーに話しかけてくる。

 

『なんだ、竜胆?いや、それより私の言葉は……』

 

「聞こえている。それより、お前に聞きたいことがある」

 

『……聞きたいこと?』

 

言葉を理解していることに若干驚きながら、グリーは竜胆の話に耳を傾ける。

 

「お前……窮屈じゃないのか?」

 

『窮屈?』

 

「獅子と鷲……二つの混ざり合うことのない生き物が混ざっている。

お前は……その二つのどれに当てはまることもできないでいて、窮屈じゃないのか?」

 

竜胆は珍しく本気で問いかけるように質問してきた。ただ、本人は空を見上げながら独り言のように呟いている。

 

『……窮屈か。確かに、グリフォンという種族が私一人であればそう思っていたろうな。

だが、グリフォンは私一人ではないのだ。同じグリフォンである……家族とも呼べる者達が、きっと混合種という壁を破ってくれたんだろう』

 

「……そう、か」

 

竜胆は空を見上げたまま、グリーの言葉を受け止め切れなかった。






種族の壁、そこに疑問を持ったのにもわけがあります。なぜなら、竜胆くん自身がその当事者だからです。

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