問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
孤独の狐、少しだけ過去の感傷に浸る……ってあれ?これいつも通りじゃね?
グリーと別れた竜胆達を待っていたのは、また再開だった。
「あー!誰かと思ったらお前、耀じゃん!何?お前らも収穫祭に、」
「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」
聞き覚えのある名前と声につられて上を見る。そこには"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャとジャックが窓から身を乗り出して手を振っていた。
「アーシャ……キミも来てたんだ」
「まあねー。コッチにも色々事情があって、サッと!」
窓から飛び降りて竜胆達の前に現れるアーシャ。
自慢の青いツインテールを揺らし、黒のゴスロリ衣装の後ろ手で手を組みながらニヤリと笑う。
「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」
「ううん。今ついたところ」
「なら"ヒッポカンプの騎手"には必ず出場しろよ。私も出るしね」
「……ひっぽ……何?」
何それ?と耀はペリュドンの時にしっかり説明してくれた竜胆の方に向く。
「ジン。説明してやってくれ」
コホン、とまるでそれが癖であるかのように一間入れたジンは簡単にだけ説明する。
「ヒッポカンプとは別目"海馬(シーホース)"と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です。
半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが、"ヒッポカンプの騎手"というゲームかと思います」
「……そう。水を駆ける馬までいるんだ」
「因みに、ヒッポカンプにはトビウオのような羽を持って飛ぶこともできる種もいる。
彼らの解体新書によれば成長過程でタツノオトシゴと分岐した、とも言われている」
ジンの説明に軽い追記を加える竜胆。
耀は両手を胸の前で組み、強く噛みしめる。
半刻も経たないうちに二種類もの幻獣の情報を得たことが、南側が幻獣の宝庫だということへの実感がわき始めているのだろう。
「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな」
「わかった。検討しとく」
パチン、と指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。
一方ジャックは竜胆の前にフワフワと麻布を揺らして近づき、礼儀正しくお辞儀した。
「久しいな、ジャック。お前と話したい話題があって困ってたんだよ」
「ヤホホ。こちらこそ。……話したい話題、というのはだいたいの検討はつきますが、なんの話題でしょうか?」
「決まってるだろ。お前が俺に会わせたいヤツだよ。ここには来てるのか?」
「ヤホホ。やはりそうですか。残念ですがそれは───」
「お前に会わせたいヤツ?聞きたいか?それはな───」
「アーシャ、会うまでは秘密と釘を刺されているでしょう?」
「あっ……そうだった」
「そういうわけです。残念ながらお会いするまでの秘密、と言わせてもらいます。
それと、ここにいるかという質問については、NOです。ですが、お伝えすればひとっ飛びでやって来ると思われますヨ?」
「ひとっ飛び、か」
「勿論、一瞬で現れるなんてこと……いえ、わかりませんネ。あの方は時間と自分にルーズですから」
◆◇◆
その後、アーシャとジャックの二人と共に今回の収穫祭の"主催者"に挨拶することが決まり、地下都市の螺旋階段を下っている。
収穫祭というだけあって様々な場所に出店が張ってあり、それらから香ばしい香りが漂う。
耀はその中で"六本傷"の旗が飾られている出店にふっと瞳を奪われる。
「……あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる"白牛の焼きたてチーズ"って、」
「駄目ですよ。食べ歩きは"主催者"への挨拶をすませてから、」
「美味しいね」
「いつの間に買ってきたんですか!?」
「うむ、チーズのくせに乳製品特有の匂いも無加工でなく、それでいて伸びのあるな焼き上がりだ。
これほどまでに上質なチーズもそれほどないな」
「竜胆さんはしれってそれを調理しながら歩かないでください!そもそもどこで入手したんですか!?」
「俺の店」
「ていうか竜胆くん、ついさっきまですっごいローテンションだったのになんで料理が絡むとここまでその気になるのかしら……」
二口、三口と食べ進める耀と次々と焼き上げて行く竜胆の隣で、飛鳥とアーシャが物欲しそうな目でチーズを見つめる。
それに気づいた耀は包み紙を二人に近づけて小首を傾げた。
「───……匂う?」
「匂う!?」
「匂う!!?匂うって聞かれた!?そこは普通『食べる?』って聞くはずなのに『匂う?』つて聞いたよコイツ!!」
「うん。だってもう食べちゃったし」
「しかも空っぽ!?」
「残り香かよ!どんなシュールプレイ望んでるのお前!?」
「あっ、チーズが焼きあがったら消えた……」
「やっぱり竜胆が作ったやつの方が美味しいよ」
「おかわり入りやがったよコイツ!私達にあげる気ゼロだ!」
食べては出来上がるチーズを食べる。出来ては消えるの繰り返しを暫く見ているととってもお腹がすいたという。
◆◇◆
一同はそのまま暫く進み、目の前にある件の大樹を見上げていた。
「……黒ウサギ。この樹、何百メートルあるの?」
「"アンダーウッド"の水樹は全長500メートルと聞きます。境界壁の巨大さには及びませんが、ご神木では大きな部類だと思いますよ」
「そう……私達が向かう場所は?」
「中ほどの位置ですね」
「………。そう」
つまり高度250メートルほど。それを梯子や備え付けの足場を伝って行かなければいけないのだ。
耀はめんどくさそうな顔を隠すそぶりもなく表情に出し、
「……わた」
「飛ぶなよ?それいくらなんでも自由すぎるから飛ぶなよ?
あと、こういうのは足で登って行って最終的に感動するものじゃないのか?」
「飛んでいっていい?」
「春日部さん、それは自由度が高すぎるわ。それに、そろそろ私は竜胆くんの多趣味についていけなくなりそうよ」
「ヤホホ!春日部嬢と竜胆殿のお気持ちはわかりますが、団体行動を乱すのはよろしくありません。それに本陣までは基本的にエレベーターで入るものなんです」
エレベーター?と一同は首を傾げるが、途中で竜胆だけは「ああ……なるほど。水を使うのか」と納得する。
ジャックは特に説明もせずに歩みを進めて、太い幹の根元まで来て木造のボックスに全員を手招きする。
「このボックスに乗ってください。全員乗ったら扉を閉めて、傍にあるベルを二回鳴らしてください」
「わかった」
木製のボックスに備えられたベルの縄を二回引いて鳴らす。
すると上空で、水樹の瘤から水が流れ始めた。
竜胆達の乗っているボックスと繋がった空間に大量の水が注がれているのだ。乗用ボックスと連結している滑車がカラカラと回り、徐々に上がり始めた。
「わっ……!?」
「上がり始めたわ!」
「……やっぱりか。箱庭といえど、考えることは人間的だな」
「ヤホホ!反対の空箱に注水して引き上げているのです。原始的な手段ですが、歩くよりはよほど速い」
ジャックの言うとおり、水式エレベーターはものの数分で本陣まで到着した。
吊られたボックスを金具で固定し、木造の通路に降り立つ。
「……板を繋げているだけにしてはかなり丈夫だな」
「ほ、本当ね……」
「……このまま俺だけ落ちればいいのに」
「……いや、どうして竜胆さんはそこで自分死ねよみたいなことを言うんデスかねぇ?」
「そのうち死ぬ気だから……耀、そんな目で見るな」
「……私の目が黒いうちはそれは禁止」
「……わかったよ。自殺願望を口にするのはお前がいないうちにな」
「私がいなくてもダメ。勝手に死ぬのも禁止」
「はぁっ……結局そうなるのか……」
竜胆が呆れ、全員に「悪かった」と一言だけ告げる。
よく見ると、落ちないように両側に柵が設けられている。身を乗り出すことがない限りは落ちないだろう。
幹の通路を進むと、主催者である"龍角を持つ鷲獅子"の旗印が見えた。
「旗が一枚、二枚、三枚……七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」
「残念ながらNOですね。"龍角を持つ鷲獅子"は六つのコミュニティが一つの連盟を結んでいると聞いております。中心の大きな旗は連盟旗でございますね」
黒ウサギが指す旗印は七枚。
"一本角"
"二翼"
"三本の尾"
"四本足"
"五爪"
"六本傷"
そして中心に連盟旗・"龍角を持つ鷲獅子"が飾られていた。
「これが連盟旗……でも、連盟ってなんのために組むの?」
「はいな。それは、」
「連盟旗なんてものは用途様々さ。一定の契約をして連盟を組むコミュニティが複数あれば、それは連盟として為るだろう。
だが……その一番の目的は恐らく魔王への対抗だな」
「ま、また横入りされたのデス……」
「魔王に?」
「連盟旗を組んでいるということは……つまり旗印一つにしているということだ。
だったら連盟を結んだコミュニティが魔王のギフトゲームに強制参加された時に介入だってできるんじゃないか?」
「本当にいい読みしてマスネ、竜胆さん……その通りです。
まあ、絶対に助けてくれるかはわかりません。介入するか否かは連盟コミュニティの判断です」
「そんなんじゃ気休め程度にしかならんな……血盟でも結べばいいのに」
そっか、と相槌を打ち旗印を見上げる。他のメンバーは三人が話している間に本陣入り口の両脇にある受付で入場届けを出していた。
「"ウィル・オ・ウィスプ"のジャックとアーシャです」
「"ノーネーム"のジン=ラッセルです」
「はい。"ウィル・オ・ウィスプ"と"ノーネーム"の……あ、」
受付をしていた樹霊(コダマ)の少女はハッ、と顔を見上げる。
彼女はメンバーの顔を一人一人確認し、ついでに名前も確認する。そして飛鳥のところで視線を留める。
「もしや"ノーネーム"所属の久遠飛鳥様でしょうか?」
「ええ。そうだけど、貴女は?」
「私は火龍誕生祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を助けていただいたとお聞きしたのですが……」
「そんなことがあったのか」
ああ、と飛鳥は思い出したように声を出す。
「あの白布の痴女……ラッテンと戦っていた時にちょっとね。火蜥蜴に襲われてた樹霊の子が一人いたわ」
「やはりそうでしたか。その節は弟の命を助けていただきありがとうございました。
おかげでコミュニティ一同、一人も欠けることなく帰ってこられました」
「こちらは一人死にかけましたけど……」
「生きてるならそれでいいだろ。何度も掘り返すな。凹む」
話に便乗して狐様を弄るウサギ。狐はバツの悪そうな顔をする。
「そんなことより、それはよかったわ。なら招待状をくれたのは貴女達なのかしら?」
「はい。大精霊は今眠っていますので、私達が送らせていただきました。
他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"連合の議長であらせられる、サラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」
"ノーネーム"一同、竜胆を除いて一斉に顔を見合わせて驚いた。
竜胆はなぜ、見合わせていなかったのかと言うと───
「───サラ、」
その名前に過敏に反応していたのである。
「どうかしたの?竜胆くん」
「ああ、いや……なんでもない。それより、ドルトレイクって確か白夜叉に聞いた限りだと……確か、"サラマンドラ"の、」
竜胆がジンに向かって問うと、ジン本人も驚いたような顔になっていた。
「え、ええ。サンドラの姉である、長女のサラ様です。でもまさか南側に来ていたなんて……そういえば街の随所に北側で作られている水晶体をみましたが、まさかそれを流出させたのは───」
「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」
聞き覚えのない女性の声が響き、ハッと一同が振り返る。
途端、熱風が大樹の木々を揺らした。激しく吹きすさぶ熱と風、その発生源は空から現れた女性の持つ、二枚の炎翼だった。
「サ、サラ様!」
「久しいなジン。会える日を待っていた。後ろの"箱庭の貴族"殿とは、初対面かな?」
燃え盛る翼を消し、樹の幹に舞い降りた女性、サラ=ドルトレイク。
姉妹のサンドラ同様の赤髪を長く靡かせる彼女は、健康的な褐色肌を大胆に露出させ、踊り子の服ではないかと思うほどである。
強い意思を感じさせるような瞳の頭上に生えた、サンドラ以上の威厳を放つ二本の龍角が猛々しく並ぶ。亜龍としての力量を推し量るのにはそれだけで十分だろう。
サラは一人一人の顔を確認し、受付の樹霊の少女に笑いかけた。
「受付ご苦労だな、キリノ。中には私がいるからお前は遊んで来い」
「え?で、でも私がここを離れては挨拶に来られた参加者が、」
「私が中にいると言ったろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。
受付を開けたところで誰も責めんよ。お前も他の幼子同様、少しくらい収穫祭を楽しんで来い」
「は、はい……!」
キリノ、そう呼ばれた樹霊の少女は子供らしい表情を見せ、竜胆達に一礼して収穫祭へ向かう。
「ようこそ、"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"。下層で噂の両コミュニティを招くことができて、私も鼻高々といったところだ」
「……噂?」
「ああ、立ち話もなんだ。皆、中に入ってくれ。茶の一つも入れよう」
手招きしながら本陣へ消えるサラ。
竜胆は他のメンバーが反応する前に彼女の後を追い、先ほどの超ネガティブなグリーの飛行とは全く違う表情を見せた竜胆に面食らった三人は、急いでアーシャとジャックと共に後を追った。
◆◇◆
「では、改めて自己紹介させてもらおうか。私は"一本角"の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"の一員でもある」
「じゃあ、さっき地下都市や街で見かけた水晶は」
「モチロン私が作った。しかし勘違いしないでくれ。あの水晶や"アンダーウッド"の技術は私が独自に生み出したもの。盗み出したように言うのはやめてくれ」
ホッとジンは胸を撫で下ろす。まあ、ぶっちゃけると独自の技術でもない限りは盗作と言っていいのだからそれは気がかりだったのだろう。
「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女達はやはり来ていないのか?」
「はい。ウィラは滅多なことでは領地からは離れないので……それに、もう一人の彼女はとても時間と自分にルーズですから。
まあ、彼女に関しては恐らくあと一日二日でもすれば飛んで来るでしょうね。文字通り」
「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者二名、是非とも見たかったのだが……」
「「……北側、最強?」」
耀と飛鳥が声を上げる。
隣に座っていたアーシャは自慢そうにツインテールを揺らして話す。
「当然、私達"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダーと、そのリーダーの最強の右腕なんて言われてる二人のことさ」
サラは彼女達を一瞥し、頷きながら話を続ける。
「そう。"蒼炎の悪魔"、ウィラ=イグニファトゥスと"獄炎の使者"、ス」
「ストップ。彼女は彼……竜胆殿がいる場所では話さないでくださりますか?
彼女は『彼に会って驚かせる』と意気込んでいましたし」
驚かせる。そんな子供のような言葉を使う女らしい。そんなのが自分に会いたがってるかと思うと、竜胆は少し辟易した。
「そ、そうか……ん?竜胆……もしやキミは最近この辺で見るようになった料理屋のオーナーか?」
「あ、はい。そうなります。憶えてもらえて光栄です」
竜胆が珍しく敬語を使うので、それもまた一同面を食らう。
「そう言えば南側にも展開してたな……あんまり名前知られたくないんだが……」
「謙遜しないでほしい。一度あの店には立ち寄ったが、南側でもあれほどの職人はそうそう……いや、殆どいないだろう」
「いえ、俺なんてまだまだですから……それと、"サラさん"って呼ばせていいですか?」
「構わないが……急にどうした?」
「……その、昔の知り合いと同じ名前で、雰囲気も似てるので、そう呼びたくなったんです。
多分、敬語もその名残りで……」
「そうか。そう呼びたくばそう呼んでくれ。私は一向に構わんよ」
「すみません。貴女自身として見ていないみたいな感じで……」
「そう悲観的にならないでくれ。私が悪いようだ。かといって、キミが悪いわけでもないんだが……」
最近はなんだか竜胆の色々な表面が見えるなぁ、なんて思う"ノーネーム"一同だった。
なんだか急速度で竜胆くんの元の世界の扱いだの暮らしだのわかってきます。
竜胆くん……正直に言うと若干M気質があったり。