問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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バイバイは言わないよ。

だって、お前の想いはずっと、俺の中で生きているから。




五話 人類の希望

『……よかろう。ならばその誇りと共に、消え失せるがいい───!』

 

「ッ、このっ……!」

 

龍の姿をした鷲獅子、グライア=グライフは春日部耀に向けて衝撃の真実を告げる。

 

それは、春日部耀のギフト"生命の目録"が遺伝子配列の操作により獣の力を呼び起こし、生体兵器キメラを創り上げるというものであった。

 

しかし、耀はそれを頑なに受け入れない。父が創り上げた贈り物が、そんなものであるわけがない。

 

それに、この力は仲間達が"素敵な力"と言ってくれたのだ。この力をそんなものだと認めたくない。

 

認めたく、ない。

 

自分はそんなものなのだと、認めたくない。

 

認めるわけにはいかない。春日部耀はそんな生き物ではない。

 

少なくとも、皆に認められた命はそんな命じゃあ、ない。

 

それに、皆と会えたのはこの力があったからこそなんだ。その世界を切り拓いたのは、自分の足なんだ。

 

だったら、ならば。その命は───

 

「私の命……財産は、皆のものなんだ……!」

 

グライアの炎が耀を包み込む。その炎に自らの死を覚悟し、それでも生きると思い続ける。

 

誰かに助けは請わない。彼ならば、絶対に助けなんて請わない。

 

気づけば、箱庭に来るために捨てるものなんてほとんど持っていなかった自分は、同じく捨てるものがなかった彼に既視感を持ったのかもしれない。

 

陽炎のように、気づけば死んでしまいそうな、危なっかしい彼を見ていたら身体が動いている。

 

彼なら逃げない。彼は生への諦めがあっても、死ぬという他者への冒涜だけは絶対に持ち合わせていない。

 

だったら、私もなろう。矛盾してでも、この力が生体兵器を創る力だとしても、この力に頼ろう。

 

それしか、家族に……高町竜胆という自分の希望に、してあげられるものがないから。

 

「私はっ……!矛盾を抱えてでも、生きる!この力がそんな力だとしても、私は合成獣の力を拒否して、希望として受け入れる!!」

 

だから───

 

だから。

 

「私の竜胆─希望─は、いつだってそこにいるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はっ!大事な人を!二度と死なせないッ!

だから手を伸ばす!どこまでも伸びる手で!大事な人を引っ張るッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀を包んでいた炎は突如氷の塊になり、炎は砕けて散った。

 

「りん……どう……?」

 

来てくれた?耀はそう呟こうとしたが、彼の瞳には悲しみ、怒り、憤り……色々な感情が混ざって、耀は口を出すことができなかった。

 

「もう、死なせない……!父さんや兄さん、姉さんに双子、お姉みたいに関わりもなく死んで行った人達も、母さんみたいな人生が狂った人も、死なせない……っ!タマモみたいに、誰かのために消えて行った人も消させやしない!

例え俺の家族が俺のせいで人生が狂ったとしても!俺は皆を死なせない!

トゥルーエンドなんて御免だ!全員幸せのハッピーエンドで、生きて幸せにするんだ!俺の"罪"で……」

 

竜胆は黒く染まった、しかし新月のような神秘を持つ翼を広げる。

 

「竜胆……その身体、それに"罪"って……」

 

「……一つ。俺は自分の理性を抑えることができずに、周囲に多大な迷惑をかけた。

二つ。俺のせいでタマモは消えた。

三つ。仲間に余計な時間をとらせた……そして無限。俺は生きる"罪"。

俺は自分の罪を数えた。

さあ、お前の罪を数えろ」

 

左手の指で銃を作り、グライアに向ける。

 

『そんなもの、数えるヒマなどない!!』

 

グライアは龍の吐息で竜胆の身体を焼き尽くす。耀の時よりも、強い炎で。

 

「……弱いな。俺の知っている龍の吐息は一吹きで幾多の世界を同時に壊す」

 

右手を軽く振るうだけでその炎は消し飛んだ。

 

グライアと耀は驚愕したが、それは炎を消し飛ばしたことに対してではない。

 

「モドキでいいのなら俺でも龍になれる。……お前の相手をするなら右手で充分だけどな」

 

竜胆の右腕は見間違えようのない、龍のものとなっていた。

 

『ま、まさか……貴様も"生命の目録"を……!?』

 

狼狽するグライアに対し、竜胆は見下すように笑う。

 

「そんなわけがあるか……遺伝子操作で元の生き物に戻れるだけマシだ。たった今、生き物の遺伝子を見る生き物の力を使わせてもらって理解したよ。

その"生命の目録"の正体」

 

竜胆は大げさに腕を広げて、自分を見る。

 

「はんっ……!なるほどやはり、俺の身体は最悪だよ。

本来の自分が欠片の欠片の欠片の欠片ほどしかなくて、それを強引に引っ張ってるんだからなぁ……」

 

竜胆は自分の遺伝子を見て不快な気分になる。

 

自分の身体にある幾億もの遺伝子。その圧倒的な数に吐き気すら覚える。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおのおおおおおおおおおおおおおれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』

 

グライアはトチ狂ったように剛拳を竜胆に振り下ろす

 

竜胆はそれを、灼熱の腕で止める。

 

「"サウザンドアイズ"のイフリート……力を借りるぞ」

 

右腕の灼熱はイフリートのものへと変貌した腕の結果である。腕はグライアの腕を燃やす。

 

そして竜胆はすぐさま地面に腕を突っ込む。

 

「来い……メダガブリュー」

 

地面から引き抜かれた腕に握られた砲斧一体の武器、メダガブリュー。

 

「タマモ……力、貸してくれ。太陽剣」

 

竜胆の胸部辺りから、赤い剣が姿を現した。

 

そして一枚、十六夜の時のメダルを自分に投げ入れる。

 

それだけでメダルはあり得ない量、彼自身の身体から零れ落ちてきた。

 

「……なるほど。人類の強欲の塊である俺は欲望そのものってか……まあ、それも悪くはない。

これで、守れる力が大きくなるからな!」

 

竜胆は生み出したメダルを自身の身体の中へと取り込んでいく。

 

「さぁっ……飛ばして行くぜ。止めてみな」

 

竜胆はそのまま超スピードで動き出す。ギフトの力を完全に使いこなせるようになった今の彼は、これだけの速度下でも細かな動き一つ捉えれるほどとなっている。

 

グライアの身体は速すぎる竜胆の速度について来れず、なんの前触れもなく身体に傷がついていくようにしか見えない。

 

『おっ、のれぇぇ……!』

 

「太陽剣……貫け!」

 

『ぐっ、おおおおおお!?』

 

「メダガブリュー……喰らい砕け!」

 

ある程度の攻撃を終えた竜胆は急に止まり、地面のメダルを確認する。

 

「お前の欲望は、薄いな……メダルが出てこない」

 

地面に一枚のメダルも落ちないことに辟易とし、同時に竜胆はグライアに呆れる。

 

「まあいいか……そこに、もっと美味そうな欲望があるんだ」

 

竜胆がアメジストと紅の混じった瞳で後ろを見る。そこには、大蛇の身体と翡翠の翼を携えた杖を持つ耀がいた。

 

『───なっ!?なんなのだ、それは……!それは、私の知る"生命の目録"では……!』

 

「欲望の進化だよ、それは……」

 

竜胆はその姿を見て、"罪"が持つ欲望への感動を解放する。

 

「素晴らしいッ!新しい欲望、その力の誕生だぁ!ハッピバァァァァアアスデェイッ!!」

 

強欲から生まれた彼は、人に戻れて、人ならざるモノにもなれる春日部耀を疎ましく思った。

 

だから、叫んだ。彼女の決意に。自分と同じ、否定する力で戦う覚悟を決めた彼女の誕生に。

 

『グアアアアアアッ!!?』

 

杖から放たれた閃光がグライアの身体を焼き尽くす。グライアはボロボロの身体となり、地面に膝を着く。

 

「これが、無欲と有欲の違いだよ。俺はこの力を否定するし、受け入れないが、この力で戦う。

アンタは、自分が自分じゃなくなる力を受け入れているんだよ」

 

竜胆は左手を鷲獅子のものへと変え、グライアを突き落とした。

 

◆◇◆

 

グライアが消えて、緊張感が消えた場。竜胆は耀に振り向き、右手を差し出す。

 

「───はじめまして。高町竜胆です」

 

はじめまして。それにはなんて感情が含まれていたのか。それはよくわからない。

 

でも。

 

「……うん。はじめまして」

 

耀は彼の右手を掴んだ。耀はニッコリと微笑み、竜胆も若干顔を赤らめながらも微笑む。

 

そして、竜胆の身体は元の姿へと戻り、服もいつもの陣羽織に戻る。

 

そこで、竜胆はどっと疲れが来たのか、身体がふらついた。

 

耀も慣れない力を使い、身体をふらつかせ、結果的に二人は互いを支え合うように座り込んだ。

 

「……タマモ、いなくなったの?」

 

耀が不意に聞いてくる。先ほどの竜胆の言葉が頭に残っているのだろう。

 

「……ああ。俺の"人類の罪"を止めるために、太陽神の神格を俺に与えて……」

 

竜胆は涙を流すこともなく告げる。彼の悲しみで流れる涙は、とうに枯れてしまっているのだ。子供らしい悔やみで流れても、家族がいないという悲しみでは泣けないのだ。

 

「最低だよな……家族が死んでるのに、泣けないだなんて……」

 

「……ううん。無理して泣く意味なんてないよ」

 

耀は竜胆の手を握る。気づけばこの行為も彼が不安になる度にやっている。

 

「それに、竜胆は笑ってた方が絶対いいよ。竜胆らしい顔になる」

 

耀の笑顔が竜胆の表情を難しいものにさせる。

 

(そう言えば……向こうのサラさんにも母性を求めてたよな。俺)

 

世話を焼くな、鬱陶しい。竜胆はずっと耀にそう思っていたのだが、冷静に考えてみると、自分自身母性を求めていたのだ。

 

(ああ……そうか。どうもサラさんの時と似たような感覚だと思ったんだ……)

 

向こうのサラは竜胆を助けるために手段を選ばなかった。そうしているうちに竜胆はやがてサラに依存するようになっていて、独りで生きていくうちにそれを忘れていた。

 

それでも、身体に染み付いてしまった、母性への甘えは消えずに一度弱いところを見せてしまった耀に依存するようになってしまった。

 

(そうだったのか……)

 

それだけじゃない。ただサラに似ているだけでは似ている人で終わらせる筈なのに、どうしてここまで耀を気にかけるのか。

 

きっと、手段を選ばずに助けていたサラとは違い、ただひたすら「竜胆は生きるべきなんだ」と言ってくれた彼女に涙が出て来ていたのだ。

 

理由なんてない。生きるんだと。

 

(ああ……そっか)

 

竜胆はようやく、なぜ自分がここまで必死になって耀を助けに行っていたのかを理解する。

 

(俺……好きになってたんだ。耀のこと)

 

理屈なんてないのに、なぜか納得してしまった。

 

納得したら、今までのつっかえが全部とれたせいか、急に眠気が出てくる。

 

耀を見ると、竜胆より人間的な欲に忠実な耀は既に眠っていた。

 

竜胆は耀の寝顔を少しだけ見て、少しだけ笑う。

 

そして、彼女の耳元に唇を近づける。

 

「───好きだよ、耀」

 

それだけ言うと竜胆は起きる気力を完全に失い、耀の隣で眠りについた。

 

眠る彼が持っていたギフトカードには、今まで彼が保有していたギフトが全て消えて、新たなギフトが浮かび上がっていた。

 

"太陽神の表情(アマテラスの顔)"

"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)"






人を好きになるのに理由が必要かい?

少々急ぎ足気味でしたが、竜胆くんが好きを知ったのは、理由なんて必要ないことを知ったからです。
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