問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
コラボ第二弾……のはず。
カオスに定評のある甲殻類が多分最もはっちゃけた結果。
「これで何回目だ……?違う世界の箱庭の、しかも"ノーネーム"から来る奴は……」
五月雨の世界の十六夜は嘆息した。あまりにも同じ現象が起きすぎていて、最早第三者によって仕組まれているのではないかとすら思えてくる。
「この世界に来訪してくる輩はこれで六回目だな。こうも来ると流石の拙者も運命を感じられずにはいられない」
うむ、と竜胆からすると時代錯誤な口調をする、いかにもサムライな霞刃も頷く。
「普通はこういうのには正史の物語に加えて一人だけ介入してくる筈なんだがなぁ……この世界はやたらと俺の知らない奴が多いな」
しかも、色々と竜胆の知っている"ノーネーム"にいないはずの知っている者までいたりともうなにがなにやら。
「まあいいか……そもそもここまで懇意にしてもらう意味なんてないし、俺がここに来たことに関しては俺の問題だからな。いつまでもここにはいられない」
「待ってください。行くって、どこに?行くアテでもあるんですか?」
「ない」
キッパリと言い放って本拠から離れようとする。ちょっとかっこいいかもしれないが、全然かっこよくないと全員が思ったのはご愛嬌である。
「それじゃあ僕が貴方を助けた時のように飢え死にするだけですよ。ここにいた方が」
竜胆が変に格好をつけるので八汰鴉は彼を止めようとする。
「ここはお前達の世界だ。俺が絡んでいってお前達が本来行うはずだったことができなくなったら、困るのはそっちだ」
感情論には理屈で。レティシアを助けた時の理屈には感情で、という時とはまるで正反対である。
「仮にこの世界で永住することになっても、お前達の物語には介入しないさ」
「しかしっ……!」
「……竜胆の好きにしてやってくれないか?八汰鴉」
そんな竜胆を止めようとする八汰鴉を諌めたのは五月雨だった。
「なっ、なにを言って……」
「竜胆の言うとおり、これは僕達の物語なんだ。言っちゃなんだけど、その物語に彼が関わる資格はない。だから、僕達も彼の物語に無闇に関わりにいく資格なんてないんだよ」
「っ………!」
「……八汰鴉。俺を見つけてここまで運んできてくれたのには感謝する、ありがとう」
じゃあな。とそれだけ言うと竜胆は本拠から出て行った。
「……まあ、今まで来たヤツらも一癖二癖あったよ。竜胆はそんな彼らよりも少しだけ気難しいだけだ」
「……五月雨くん……」
「だけど、竜胆もやっぱりここに来た異世界の"ノーネーム"の彼らと同じものを持っていたね」
「……同じもの、ですか?」
「ああ。家族を想う気持ち……世界が違って知らないヤツがいようと、彼らは"ノーネーム"という家族を守ってくれてた。あれが竜胆なりの想い方さ……まあ、素直になれないだけだよ」
「………」
八汰鴉はただ、竜胆が開けたドアを見つめていた。
◆◇◆
「……さーて。カッコつけて飛び出したわけだが……はてさてどうするべきか……」
東側の商店街、いつもはよく見るこの光景も世界が違うというだけでかなり違和感を覚えてしまう。なんというか、今までpH値6.9だった水のpH値が急に7.1になったような……まあとにかく、本当に微妙な違和感だ。
「匂いも若干違うんだよなぁ……空気の味も、風の音も……」
獣さながらの五感は街の微かな違和感にすら過敏に反応する。こうやって違いがわかって、ここが自分の物語でないというのを実感させられる。
「こうも違和感だらけだと余計に早く帰りたくなるな……っ、ん?この声……」
商店街らしい喧騒の中、竜胆の聴覚は確かにある声を捉えた。
───だ……か、……け……────
───……けな……こ……よ……なしく……ろな……────
「声は……!裏路地?なんでそんなところに人が……」
更に耳を澄ませる。竜胆のキマイラという特徴は喧騒の中の数々の声の中で、はっきりと裏路地の声が聞こえた。
───助けて……、誰か助けて……!────
───助けなんてくるわけねえだろ!入り口は完全に封鎖しれてるんだぜ。"名無し"は"名無し"らしく目上のコミュニティの奴隷になれってんだ!────
「───命の冒涜……!」
瞬間、竜胆の瞳が一瞬だけ赤く血走る。しかし、それを自制し、声が聞こえた方向へと全力で駆ける。
30秒ほど走り、声が壁越しに聞こえる場所に来ると、目に入った目の前にそびえている壁はまるでつい先ほど作られたように下層の路地裏には不釣り合いなものだった。
「入り口は完全に封鎖……ここか!」
竜胆は右手を巨人のものに変幻させ、拳で思い切りそれを破る。
「なっ!?なんだ!?」
「助けを求めたヤツ!無事か!?助けに来たぞ!」
竜胆が暗闇を見通す瞳で暗がりにはいった場所を見る。するとそこには、縄でグルグル巻きにされた小さな少年の姿があった。
「おっ、よく見るとなかなか可愛い娘じゃねえか。しかも、さっきチラッと見たギフトカードは"名無し"のものと来たもんだ」
「マジかよ……!ちょっと目が勝ち気だけど、その手の輩には高く売れるぜ……!」
恐らく、彼らは身分の証明ができない"ノーネーム"の人間を攫って行って違法売買をする、所謂奴隷商人というヤツなのだろう。
命の冒涜を自分の死を望んでいた頃から嫌っていた竜胆はそれを理解すると、より一層怒りが強くなる。更に、
「おい……クソ野郎共……」
「ヘッヘッヘ……一丁前に男らしいセリフ吐いちゃって。これは天のもたらしたなんとやらってヤツじゃないのか?」
「そうだなぁ。男らしい口調も見た目とギャップがあっていいじゃねえか!」
「俺は……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
竜胆の叫びが響き、地面から見た感じ30キログラムほどありそうな赤と黒が混じった銃剣が姿を表す。
竜胆はその銃剣のハンマーを上げ、手のひらに呼び出したEと書かれたUSBメモリをそこに挿す。
「くたばれ変態があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
『エンジン!マキシマムドライブ!!』
更に神格も起動し、背中の炎輪がブースターとなり、目にも留まらぬ速さで変態に肉薄し、一刀の下斬り捨てる。
「変態共……絶望がお前らのゴールだ」
変態が倒れているのを見て満足した竜胆は少年の方に向かって行く。
「よいしょっと……無事か?」
竜胆は銃剣を仕舞い、今度は小さいサバイバルナイフを使って縄を切る。
「うん……怪我はないみたいだな。よかった」
竜胆が立ち上がると、少年は余程怖かったのか竜胆に抱きついてきた。
「うぉっ……そんなに怖かったのか……無理もないな。これから奴隷として売り払われるかもしれなかったん───」
直後、竜胆は続く言葉を遮られた。
「なっ……!?」
その少年の姿が著しく変化したのだ。
それは、妙にネバネバとした粘着質のあるものだ。カタチは個体とも液体ともとれない奇妙な……スライム状のものだ。
「どういう……っ!」
竜胆の身体のあちこちにスライム状の少年だったなにかがへばりつく。竜胆は妙な気持ち悪さに顔をしかめる。
「なんだこれ……!?」
竜胆が露骨に嫌な顔をすると、その瞬間さっき気絶させたはずの変態が奇妙な笑い声を上げながら立ち上がった。
「イッヒヒャヒャヒャ……!まさかこうも簡単に釣れると思ってなかったぜ……!ハイブリッドの中でも何万人もの喧騒の中で針が落ちる音も聞き取れる希少な生物が東側に群れで来てるって聞いてこんなめんどくさい手を使ってみたら……群れからはぐれた、それもかなり可愛いのが獲れるなんてよぉ……!」
「なっ……!?まさか、少年も……」
「ご明察ゥ!お前らを捕まえる道具だよ!」
最悪だ。よかれと思って助けに来れば、自分とは接点なんて遺伝子を持っているかもしれないこと以外の関わりがない生き物と勘違いされて捕まっただなんて。
「こんの……!」
竜胆は太陽神の神格を解放しようとするが、身体から発現される炎はおろか、神格すら現れなかった。
「ギフトが……使えない?」
「イッヒハハハハハハ!!そのとぉりだぁ!そいつはギフトカードに含まれた"ラプラスの悪魔"の力を封印する力があぁる!!これでお前はもう逃げることもできねぇ、奴隷生活まっしぐらだよぉ!!」
「ギフトが使えないならっ……力ずくで───ふぁぁ!?」
竜胆が男達に直接殴りかかろうとした瞬間、竜胆の身体にへばりついていたスライム状の物体がめまぐるしく動き出す。
そのせいで竜胆は妙に艶かしい悲鳴を上げながらバランスを崩して倒れる。
「ヒュー。可愛い声出しちゃってぇ……ホントに男かよ?」
「うるさい……!そのナメたツラで二度と外に歩けないようにして───ひ、ぅう!?」
竜胆が抵抗の言葉を、反抗の意思を見せつけようとする度にスライム状の物体は動き出す。あらゆる生物……中には女性の遺伝子だって詰め込まれている竜胆の男らしからぬ弱点と言えるだろう。
やがて疲弊しきり、抵抗も反抗もできなくなった竜胆は意識を失う。
消えかかった意識の中で、男達の下衆な笑い声が嫌に耳に残った。
なんなんだこれ……いったい誰得なんだよ……と問われるとどう考えてもロリショタコン得だったことを思い出す。
きっとコラボ作品でこの子より酷い目にあう人なんてそうはいない。