問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
コラボ最終回です!
疾風の隼さんありがとうございました!
目の前の少女は、炎の中の幻影と戯れている。
少年は戯れる少女を憐れむ。
そして鴉は、二人を見守る。
「……あら?お兄さんとお姉さん、こっちに来て。おばあちゃんが一緒に楽しいことしよって言ってるよ」
マッチ売りの少女……アンナはニコリと微笑んで二人……竜胆と八汰鴉を手招きする。
「……少女の幻影をうつつにしろ。つまり……この物語のハッピーエンドが大前提か。自身の母の幼い頃を描いたというアンデルセン御大に怒られそうだな」
竜胆はアンナに微笑み、彼女に近づく。
「……竜胆くん……」
八汰鴉もそんな彼に続いてアンナの下に寄って行く。
「お兄さんにお姉さん。私とおばあちゃんと、楽しいことしよ?」
「別にいいけど……俺はお姉さんじゃなくてお兄さんだからな」
「ふふ。わかったわ、お姉さん」
「……はぁ」
訂正して承諾されても変わらなかった。ちょっとだけ精神ダメージ。
竜胆はアンナが渡して来た、現在進行形で燃えているマッチを受け取る。
「これで会いたい人に会いたいって願えばその人に会えるんだよ。お姉さん、とっても会いたい人、いるよね?」
「……いるよ。でも、その人達に会っても意味なんてないさ」
竜胆がマッチの火を消さないように慎重に持つ。
身体のあちこちが凍えて機能しなくなってきた。どうやらアンナそのものは無事でも、アンナの身体が限界に達してきているのだろう。
「どうして?もう会えないんだよ?」
「……そうだな。会えないから、会っても意味がないんだよ」
「……むーっ。お姉さんの言ってることがよくわかんない」
「……うん。きっと難しいね」
竜胆が昔を思い出すように考える。家族がいた日のこと。家族が死んだ日のこと。
そうして箱庭に来たこと。たった一人の家族が自分のために消えたこと。
恋をしたこと。
昔に会えるのなら、その時の人達に言いたい放題言ってやりたいとさえ思う。
だけど、その昔は鏡像なのだ。様々に存在する過去の一つ。あるいは、ただの鏡。感情もなく、演技を行うだけの鏡かもしれない。
「確かに過去って大事だよ。それでも……俺達が生きているのは"今"だろ?
失った過去を守るのはいい。でもアンナ。今のキミは失った過去にすがっているだけだ」
「なんで?おばあちゃんに会えたのに、それはいけないことなの?」
「手厳しいなぁ……いいかい、アンナ。俺が言いたいのはおばあちゃんに会えるのがいけないことなんじゃなくて、そのおばあちゃんについていくことがいけないことなんだよ」
竜胆がアンナに優しく諭すように言い、八汰鴉の方を振り向く。
「八汰鴉……お前確か、未来予知のギフトがあったよな?」
「"導の陽光"ですか?確かにありますが……」
「アンナに見せてやってくれ。彼女の未来を……このまま祖母について行った先の未来を」
「……わかりました」
八汰鴉が自ら発せられる光をアンナに照射する。太陽神の遣いとされる八汰鴉の陽光はなぜかアンナに暖かさを与えることができなかったのだが、その光の中身……アンナはそなよ光景を見て、目を見開く。
「……あれ?おばあちゃん、いない……私、動いて……ない?」
アンナが見た光景は、絶望そのものだった。
灯りを失い、先端が焦げた無数のマッチ。そのマッチに囲まれたアンナは虚ろな目で壁にもたれかかって微動だにしない。
そしてアンナの周りには祖母の姿はカケラもなく、好機の目、あるいは彼女を貧乏なばかりに喜ばしい記念日に死んでいった哀れな少女という目で見ている見たことのない大人だけ。
「私……なんで動いてないの?」
アンナは自らが見た光景に震え、恐怖する。
無理もない。幼い子供が自分がこのままだともうすぐ死ぬと言われたのだ。まだまだ動物的本能と理性の均等がとれていない幼い子供は、恐怖に対して人一倍敏感だ。
「それがキミの未来なんだ、アンナ。このままおばあちゃんについて行ったら、キミはそうなって二度と帰ってこれない」
物語としては死ぬことでしか救われない彼女だったが、竜胆はレティシアのギフトゲーム以降自他共に認めるモストハッピーエンド症候群に陥っていると言っても過言ではないくらいにバッド、トゥルーエンドが嫌いだ。
例えアンデルセン御大にいかな意図があってこの少女を創ったのであろうと、竜胆はこの少女を救いたいと願った。
「ねえアンナ……キミも俺もまだまだ子供だ。世界には俺達の知らないことは沢山ある。そんな知らないことを知らずに死んじゃうなんて嫌だろ?
帰る場所がないのなら俺が帰る場所になる。家族が恋しいのなら、俺が家族になる。心を暖める太陽がいないのなら、俺が太陽になる。だから死なないでくれ。俺はキミに死んでほしくない」
竜胆がアンナを優しく抱きしめる。アンナとほぼ同じくらいに冷えている竜胆の身体はアンナに物理的な暖かさを与えることはできない。
「お姉さん……あったかいね」
「そう言ってくれると嬉しいよ。つい最近まで冷えきっていたから……俺の太陽が、俺の心を温めてくれたんだ」
自分の心のド真ん中からいつも離れてくれない……否、離せないたった一人の少女がくれた温もりはいつの間にか、自分でも他の人を温めることができるようになっていた。
たったそれだけでも、彼女という存在は今の竜胆には必要不可欠となっていた。
「……帰ろう、アンナ。俺の家に」
「……うん。ありがとう、お姉さん」
「……俺は男だ」
すっかり蚊帳の外になってしまった八汰鴉の目には、竜胆とアンナは本物の兄妹にしか見えなかった。
◆◇◆
「世話になったな、八汰鴉」
「いいや。僕も十分有意義な時間を遅らせてもらったよ、竜胆くん」
ギフトゲーム終了後、アンナの右手を握った竜胆が八汰鴉にもう一度礼を述べると、八汰鴉はついさっきまでのよそよそしい態度から一変、普通の人間が仲のいい友人に言うような態度でそう言った。
「おい……口調変わってないか?」
「ふふ。友情の証……そうとってくれると嬉しいよ」
「随分と友情のハードルが高いな……じゃ、ほら」
竜胆が自分の右手を差し出してくる。握手、ということなのだろう。
八汰鴉も竜胆の右手を左手で握る。二人は手を握り合い、もう一度握り直すように握りあった手を一度上下に振る。
手を離すと、手を握ったままだった八汰鴉に右手を握ってぶつける。そして上からその手で軽く叩き下ろし、今度は下から軽く振り上げる。
「友情の証だ。宇宙に行ったら宇宙キターって叫べ」
「叫ばないよ……」
八汰鴉が呆れ気味に笑うと、竜胆とアンナの身体が急に光り出した。
「……おわかれみたいだな」
「どうやらそうみたいだね」
竜胆と八汰鴉は互いにもったいなさそうな顔をする。だがすぐに表情を元に戻す。
「じゃあな。八汰鴉……バイバイ。また会おう」
「ああ……またいつか、会おう」
竜胆と八汰鴉が互いの拳を合わせようとし、拳が合わさった瞬間、竜胆とアンナの存在は八汰鴉の箱庭から消えた。
「……また会おう、竜胆」
◆◇◆
「───ん、帰ってきたか」
竜胆が瞳を開くと、そこは本拠のすぐ前だった。隣りにはちゃんとアンナもいる。
「り、竜胆さん!?今までどちらに!?」
帰ってくるなりうるさいウサギの声が聞こえてくる。うるさいなぁ、と思いつつも帰ってきたということを実感させる意味ではやはりいいうるささだ。
「どれくらい行方不明だったんだ?俺は」
「丁度一週間です!一週間もどこに雲隠れしてたのですか!?皆さん心配して昨日も探し回っていたんですよ!」
「人助けしてたんだよ。マッチのために死んじゃいそうだった女の子をな」
「はい……?って、その女の子はどちら様ですか!?」
「助けが必要だった女の子さ」
竜胆がニコリと笑うと、丁度それが引き金のように十六夜、耀、飛鳥の三人が飛んできた。
「竜胆テメェ……今の今まで散々迷惑かけやがって……人助けだぁ?」
「私達を置いて人助けなんていい身分ね、竜胆くん。貴方がいないだけで普段のご飯も物足りなく感じていたのよ?」
「うん。リリと竜胆が一緒に作らないと味半減してた」
三人が次々と文句を言うように言い寄ってくる。竜胆は森林の孤独生活からまた騒がしい生活に逆戻りだな、なんて思いながら笑う。
「ほれ。人助けしたら新しい家族が増えた。名前はアンナ……マッチ売りの少女だよ」
「アンナだよ。マッチ、買う?」
「おおう。会うなりいきなりマッチ買えときたか……」
「というか竜胆くんってペストといいリリといい、なんでそんなに小さい子と仲良くなるの?」
「もしかして竜胆ってロリコン?」
「なわけあるかっ!誰がロリコンだ!俺が好きなのは───」
「「「「「好きなのは?」」」」」
「好きなのは……───!」
ボフン、という謎の音と共に急に竜胆はバタンと倒れた。
どうやら、あの箱庭の人達とは違って竜胆が自分の思いを素直に吐露するのは、もう少し先のようだ。
というわけでコラボ終了です!疾風の隼さんありがとうございました!
今回のギフトゲームの魔王は他でもない、アンナです。アンナは永遠に転輪するゲームの中で永遠に死に続ける存在で、何度も何度も死に続けているうちに魔王としての記憶を死んでも死ねないというショックで失ったということになっています。つまり魔王を殺す=ギフトゲーム敗北で、アンナが記憶を失っていなかったらその時点でほとんど積みでした。
まあともかく、八汰鴉さんという竜胆くんの新しいお友達とアンナが現れたおかげでまた一つ竜胆くんが死ねない理由が増えました!
コラボありがとうございました!次回から本編に戻ります!