問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
竜胆くんェ……キミはなぜ他作者様の主人公に対してまでヒロイン&ちょろイン属性を遺憾なく出してしまうんだい?
翌日
「……むぅ。場所が違っても生活習慣だけは変わらないな。起きたら農場と台所に行きたくなる……でも台所はともかく農場は俺が口出しすることじゃないからな……ああ困った。もう完ッ全に目が覚めた」
竜胆達は健太達に借りた一室を使って寝ることにした。流石に当初はいくら姉弟と言えど男女が同じ部屋で寝泊まりするのは如何かと少し竜胆達は議論したが、結局「リンと久しぶりに二人で寝るんだい!」ともうどっちが姉なのかわからないくらいに鈴蘭が猛反発したため、この状況に落ち着いた。
ふと、竜胆は何故か自分は床で寝たはずなのにいつの間にかベッドの上にいたことを思い出し、隣を見てみるとそこにはアホっぽい顔をしながら寝ている鈴蘭の姿があった。起きると知らぬ間に姉のベッドにいたり鈴蘭が横で寝てたりは昔割とよくあったことなので竜胆は動じない。どうせ今回も寝ているうちにお姉が魔法で気付かれないように運んだんだろう、とその程度の感想しかない。
「うへへへ……リンのごはんはおぃしぃぞぉう……ぜぇんぶ私のものだもんね……」
「……しかし、こうもひっつかれると起きられないな……」
まあ、竜胆は姉にたいしては割と容赦がないのでその気になれば引きずりながら動くくらいはするのだろうが、
「……うふへへひほっ。ダメだよリン……いくらおねーちゃんが大好きだからって、そんな行為におよんじゃあいくら箱庭でもマズイってばよ〜」
「………………」
ゲシッ。
つくづく竜胆は時々この姉のことがよくわからない。一応生前はリア充だったはずなのに優先順位はいつも竜胆〉〉(越えられない壁)金〉〉彼氏〉〉家族〉〉自分なのだから、もしかしたら竜胆を性対象として見てるんじゃないかという発言も時々飛び交う。
まあ、多分おねーちゃんジョークとか言われるだろうし、そもそも彼女は可愛い弟の幸せのためならなんだってやる、が信条なので竜胆が余程彼女に対して本気で性的恋愛感情を抱かない限り彼の迷惑を考えてそんなことはしないだろう。彼女はアホであってもバカではない。
とまあ、そんなことはともかく、竜胆の足裏によって床に叩き落された鈴蘭はそれでも眠り続ける。幸せそうな寝言も健在だ。
「……やることないし、勝手にやるのは気が引けるが朝飯でも作るか。勿論、いいと言われたらの話なんだけどな」
竜胆は呪術を使って手早く寝間着をスカート部分を太ももあたりまでにし、ズボンを履いたエプロンドレスに着替えると悠々と厨房の中へと入っていった。
◆◇◆
「……なんだかすごく早くに目が覚めたな……もう眠れない」
それから少し、健太も目を覚ました。理由はよくわからないがやたらと眠気はない。
「……腹減った……なんか食いたい……」
健太は自分の腹を軽く摩ってベッドから降りる。するとその瞬間無性にいい匂いがした。
「……誰か厨房にいるのかね……?リリはこの時間はまだ起きてないだろうし……あ、まさか……」
健太はこのいい匂いの素を作っているのが誰なのか察しがついたのか、そそくさと衣服を着替え、多少身嗜みを整えて食堂に向かって行った。
◆◇◆
「やっぱりいた」
「やっぱりとはなんだ健太。まるで俺がここで勝手に料理してるとわかってここに来たみたいに……いや、わかって来たんだろうな。この時間はリリが起きる時間じゃないからな」
食堂と厨房を繋ぐカウンターの一席に健太が座り、一言。すると案の定というか竜胆の声が帰ってきた。
「そうゆうこと。起きたのは偶然だけどね」
健太が改めて背中を伸ばすと、コキコキといい音が彼の肩やら背中やらから鳴った。
「……健太、朝は何派だ?」
「秘密で。シェフに任せるさ」
「了解。ちょっと待ってろ」
竜胆はそう言うと厨房の奥の方へと入っていった。一応他人のコミュニティの本拠のはずなのにどこになにがあるのか、どういう品種なのかも完璧に理解して竜胆は調理を始める。
「よくそんなささっと取ってささっとできるね。ここ一応キミの"ノーネーム"とは違うんだろ?」
「俺は鼻が効くからな。十年以上この道に従事していれば匂いでどんな食材なのかは察しがつく。味覚審査員が食べるだけで食材を理解できるのとおんなじさ」
「十年……竜胆クン、いつからどんな理由でこれ始めたのさ」
「趣味だ。他の料理人とは違って俺はこれが本職じゃないしまだ趣味の範疇だからな。正直店を開いてもまだまだだとは思う」
竜胆は卵を皿に落として手慣れた動きでかき混ぜ、フライパンに入れ、加熱。時間になるまでの間にキャベツを千切りにしてハムを薄く切る。
「コーヒー?紅茶?」
「コーヒー、ホットで」
「把握……じゃあスマトラをベースにしてエルドラードか。キリマンジャロを入れるのも一興だな」
竜胆はまたすらすらと本でも読んでるようにコーヒーを抽出。フィルターにセットする。
そしてコーヒーが出来上がるのとほぼ同時に卵も焼かれ、竜胆は手早くコーヒーを注ぎ、キャベツとハムの乗った皿の傍らに焼いた卵の一欠片を乗せ、完成。
「お待ちどう……エスプレッソに限らずコーヒーは淹れたてが美味いらしいから早く飲むことを勧める」
「お、サンキュ。……で、なんでらしい?」
「……俺はコーヒーは苦すぎて飲めないんだよ。淹れるのはいいがよくこんな苦いのを飲めるって思う」
「へぇ、勿体無い。シェフの努力も相まってこんなに美味いのに」
「せ、世辞を言うなっ!俺はまだ未熟だってさっきも言ったろ!?」
「……ほほう、これはこれは」
ちょっと褒めるだけで竜胆は狼狽して顔を真っ赤にし、顔を背けた。それを見た健太はまるで『面白いものを見つけた』とばかりに目を輝かせた。
「そっ、それより耀はどうした?アイツなら匂いに惹かれて起きても不思議じゃないんだが……」
「……そうなの?」
「少なくともウチの耀はそうだ。おかげで朝は大抵こうやって今みたいにほぼ二人っきり……やりにくいったらありゃしない」
「……へぇー〜。ほォ〜。そうなんだぁ」
「なんだそのウザい言い方」
竜胆が自分の分の料理を調理し始めたところでそう漏らすと健太は彼と彼の世界の耀の関係……という竜胆の耀へ抱いている感情をなんとなく理解した。
「いや、なに?ここは人生と経験のセンパイとしてね。……耀とはどこまで行ったのカナって」
その一言を申した瞬間、竜胆の持っていた包丁が落ちて彼の足の指を切断した。
「───ッ!!?お、おおおお前何言ってる!?どこまでって、俺と耀はそういう関係じゃないしそもそも俺みたいなのが耀に相応しいわけがないというか俺なんかがそんなんになったらアイツも迷惑するに決まってるというか───」
「へぇ、つまり好きだけど付き合ってないんだ……ってまずはその足心配しない!?ザックリイッたけど!?」
「あ、そ、それは問題ない。これくらい一時間もあればまた生えるから」
ともかく、厨房に人の血があるのは流石にマズいので切れた足の指はビニールに詰めて切断面は強引に止血。床を拭いて靴を洗い、乾くまで草履で代用するが……切れたのが親指のため、草履ではうまく動けない。
まあそれは置いておき、竜胆も竜胆で紅茶を淹れて砂糖をダバダバ突っ込みクピクピと飲む。若干拗ねた顔がまた可愛らしいと思わず健太も感じた。
「……確かに俺は耀が好きだよ。だけどアイツ朴念仁だし、頑張っても俺元々こんな身体にされるくらいには運悪いから肝心なとこだけありとあらゆる現象で『ごめん聞こえなかった』状態になるし、そもそもアイツは俺のこと手間がかかる、正直になれない妹くらいに思ってるんだろーし」
「………」
思わず健太は目をそらす。まさか同じ人間にここまで差があるとは。いや、多分彼の世界の耀だけが特別こんなんなのだろうが。
というかそもそもの問題は
まぁ、後者に関しては彼自身の趣味嗜好と思考が子供っぽいのと耀と同じくらいの身長なのが原因なのだろう。あとついでに健太は女扱いされるのもなんとなく理解できた。
(もう……これはまさしくツンデレのオンナノコだよなぁ、彼)
指摘されるだけであの反応、認めたと思うと愚痴り始めて若干自己嫌悪に陥る。そして恐らく素であろう、健太の褒め言葉に対する反応からもう確定的に明らかだった。
そして耀はこれ。性別が逆転しても違和感がない(番外編参照)
「因みにどういう朴念仁回答を?」
「夜に偶然二人きりで出かけた時に星を見てて、『星も綺麗だけど近くにもっと綺麗なものがある』って言ったら『うん。竜胆の方がずっと綺麗』って……」
「うわぉ」
「付き合えこのヤローってヤケクソ気味に言ったら『どこまで付き合えばいいの?』とか、他にも……」
話を聞く限りもう竜胆の世界の耀は朴念仁男子のテンプレを網羅していた。そして竜胆もまた気づけばツンデレのテンプレを網羅していた。
「っていうかだいたいさ……俺は、ぶっちゃけ不安なんだよな……もしかしたらそれが足枷になってこんな中途半端になってるのかもな」
「不安?キミの"罪"はもう"希望"となって、暴走の心配はないんだろう?なにを今更」
「そうじゃない……違う。俺の不安はその過程じゃなくて結果なんだ……もし、仮に俺が耀と恋人同士になって、お前らみたいになったとしたら……それは俺達の関係はただの"恋するヤツとその友達"から"恋人"になる。それが怖いんだ」
竜胆は天井の電気に向かって手を伸ばし、なにもない虚空から"ソレ"を掻き分けるように手を揺らす。
「もし、そのたった一つの変化が俺の関係全部を変えたら……?そう思うと、俺は"変わること"が怖くなった……悲観、だよな。ある種自分の立場に酔っているのかもしれない」
「………」
健太は黙って竜胆の言葉を聞いていた。竜胆から吐露されるそれはまさしく、彼の心の弱さと誰かに縋る思いを綴っているのだろう。
だから健太は聞いた。竜胆の弱音を、そしてその上で、言うべき言葉を言う。
「……羨ましいね、竜胆クンは」
「……は?」
一瞬、何を言っているんだこいつはとでも言わんばかりの顔で竜胆は健太に振り向いた。
「竜胆クンがそうして迷ってるってことは、キミはこのまま変わっても変わらなくてもキミの人生に間違いはないってことなんだよ。僕みたいに"変わることでしか自分を正しいモノとして正当化できない存在"とは違ってね」
健太は竜胆の注いだコーヒーを一気に飲み干してカウンターから立ち、彼の手を握った。
「ほら、キミの手は暖かい。キミの存在は僕みたいな"影"とは違う。誰かを照らす"太陽"だ」
「………」
「キミの手は間違いなく誰かに影響を及ぼしている。そういう意味じゃ確かにキミがそうやって怯えるのも無理はないかもしれないけど……そういう時は僕らが支えるさ」
健太はゆっくり、取った彼の手にもう片方の手を乗せる。健太の手は冷たかったが、竜胆にはそれが不思議と暖かく感じた。
「迷えばいい。迷う人間は確実に大きくなる。迷んだことのない人間よりも多くの経験を手にできる。だから……そう悲観的にならないでほしいな」
「……けん、た……」
「…………ん?なに?」
「……あ、ありがと。嬉しい……で、でも!」
竜胆は何故か顔を真っ赤にしながら顔を背ける。健太は首をかしげる。
「……こういう風に手を握られたら、その……勘違い、されそう……」
「───!?わぁああああ!?ご、ごめん!」
そう、竜胆は容姿で言うならまごうことなく美少女の領域。そんな彼にこう、異性を慰めるかのような手の握り方をするという健太の図はハタから見れば"いかにも地味っぽい少年が美少女を口説いている"という風に見えなくもない。
普段は別に鈍感でもなんでもない健太がこれに気付けなかったのは一重に"竜胆が男である"という事実がそういう考えに持って行きにくくしていたからであろう。だが竜胆はそれが日時茶飯事なので気づく。
「……い、いや、いいんだ。いいんだけど……」
「え、あ、はい」
お互いが状況を理解し、暫く無言の時間が過ぎてどうしようもない。
「……その。健太を───」
竜胆が頑張ってなにか言おうとした瞬間、屋敷の壁が粉砕され、同時に一本の刀が二人に向かって飛んで来た。
「「ッ!?」」
二人は今までの妙に甘酸っぱい雰囲気から一転、急いで椅子から飛び退いた。
「へぇ、ぃまのを避けるかぁ!」
「そっちのいかにも普通っぽいヤツが避けるのは意外だった」
「誰だ!」
竜胆は洗面台の水を集めて固形化し、声の発生源に向かって投擲すると目標地点に達する前にそれは掻き消された。
「おぃおぃ、ぃくらなんでもそんな赤子あぃてにするくれぇの雑魚ぇ攻撃てぃどで沈むとでも思ってんかよ!?」
「心外だ」
「質問してるのはこっちだ。勝手に人様のコミュニティに進入して屋敷を壊して……『塗りつぶす』よ?」
勝手に話を進める二人に健太はイラっと来たのか、その"異常"を振り撒く。
「おぉ!なぁるほど!そのぃじょうな感じ……それならあれを避けたのも納得だぁ!」
だが、片方の声は健太の言葉に圧されることなく騒ぎ続ける。
「
「ィヒヒ!わぁってるよ
13という年月を経て、亡霊は再び現れた。
番外コラム
もしも竜胆くんを攻略するゲームがあったら。エンディングタイトル編(告白セリフ編とかあるとは言っていない)
十六夜ルート 最高の相棒
飛鳥ルート 小さな
黒ウサギルート いつまでも一緒に
ジンルート 互いの信頼
タマモルート 純情狐
鈴蘭ルート おねーちゃんの幸せ
ペストルート 親愛なる
耀ルート スノーホワイト
……会話とかは思いついたらで。はい。