問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
「……"マグナ"……?」
「そう、"マグナ"。夜雷と貭魂は使わなかったみたいだけど……それが私達のギフトの真骨頂」
「我々"エルフ"の持つ……貴女方"アルト"には使う事のできない、我々のみに許された人類の未来の力……でしょうか」
立ち会っただけでもわかる。この二人の力はただ強くなっただけのものじゃない。正面に立つだけで目眩のするような感覚に当てられていて、十六夜は軽く吐き気を催した。
「……人類の未来の力、ねぇ。その割にゃ随分
精一杯の強がりを以って言い返す十六夜だが、それに対する生物の本能が語る震えには逆らえないようで彼女の手の震えが鈴蘭には見える。
故に、鈴蘭も彼女の強がりに応えるべく精一杯の、いつもの自分を演じる。
「んにゃ、そだよいざちー。未来が云々かんぬん言うってんなら無性生殖でもしとけってんだよ。今この時の人間ってのは有性生殖する生き物なんだから、クローン技術は未来に帰れってね!」
いまいちわかりにくい例えだ、と十六夜は思ったが、逆に彼女らしい阿呆な発言を聞けて肩の荷が降りた気もした。
「……お前、わかってやってるんなら相当な女狐だよスズ」
「にゃは。死んでから暫くは大分落ち込んだからね。ウィラっち直伝のメンタルカウンセリングだよ……まぁ、流石に鈍器は使わないけどねぇ!」
そして彼女は彼女らしく先陣切って駆け出す。"マグナ"がなんなのかはわからないが、その前に潰せばいいだけのこと。力押しは鈴蘭の得意分野だ。
「しょーげきの……ゲルマン殺法!」
頭に浮かんだ意味不明の単語を繋げて叫ぶ。ノリと勢いが信条だからこそこんなことを叫ぶ。そんなことをすることにも彼女自身知覚仕切っていない理由がある。
幼い頃より"魔法"を持っていた鈴蘭はそれを争い事に使ったこともある。加えて彼女は十六夜や竜胆よりも三年長く箱庭にいる。それは彼女にとってかなり大きなアドバンテージとなる。
「ゲルマンニンポ!分身のジツ!……って気分でね!」
気分、果たしてそれだけでこんなことが……本当に分身なんてバカげたことができるのだろうか。だがそれができる。それが魔法とともに歩み、一度死したことで得た文字通り無尽蔵のマナ。それが彼女の彼女たる……"ウィル・オ・ウィスプ"の"獄炎の使者"たる所以なのだ。
「増えたところで……無駄なのよ!」
一喝。吼えるだけで増えた彼女らは本体を残して一瞬で消える。本体も無論ダメージを負っている。
「ぐっ!?」
「スズ!?」
「こっち向いて……ハニーを奪った、バツ!」
十六夜が悲鳴を挙げる鈴蘭に思わず目を移すその一瞬を玖螺摩は逃さない。十六夜に向けて手をかざし───その身体を一刀両断にした。
「───ぐ!?ぁぁあああッッ!?」
「
───痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!
十六夜が感じていたのは、ただひたすらに痛み。例え腕をもがれようとも第三宇宙速度で飛来する物体を捉えようとも決して砕かれることのない彼女のその肉体は、ただの一言で砕け散ってしまったのだ。
いや……捻じ切る、という方が正しいか。彼女の身体と共に、意図していない深層心理に存在する彼女の心にもその破滅の蝶は飛来し、その鱗粉で総てを捻じ切るのだから。
「貴女のココロは……どんな味?」
玖螺摩は無表情から少しだけ、唇を吊り上げる。
彼女は勝利を確信したのだ───
◆◇◆
時が止まった。そう形容すればいいだろうか。
鈴蘭は今しがた行われた逸生のギフトを大方目星を立てていた。
それが最初の考え、"時を操る"ギフト。もし最初のアレが物質を消すギフトではなく物質の時間を急速に早めるものだとしたら?
それなら鈴蘭の焔が消えたことにも説明がつく。
空気と焔の時間を操って急速に焔の維持に使う酸素量を早めたのならば、周囲にある気体は二酸化炭素ばかりになって焔がカタチを維持することができなくなる。多分答えはこれだ。
そして恐らく、今は物質ではなく"世界"の時間を止めた。なら、恐らくこのギフト……使うギフトの真の名をさらけ出すという行為が"マグナ"なのだろう。理由は定かではないが、確かに名前を封じて真の力を封じるという枷が必要となることも納得できるほどの力だ。
「謎さえ解けば楽チン……て言いたいけど、無理くせー」
「あら、どうやらタネには気付いたようですね。行動と思考には見合わない洞察力ですね」
「にゃはは!お褒めに預かってどーも!」
「褒めてはいないわ」
逸生がなにか言っているようだが、そんなものはガン無視。それこそ彼女のジャスティスなのだ。
「ですが……ならば貴女も先程呟いた通り、御理解なさっているのでは?これが躱しようのないものであると」
「っ……!」
「ならば今一度───"フリーダム"!」
来る───
防ぎようのない攻撃を前に鈴蘭は現状打破に勤しむべく意識を傾ける───
◆◇◆
声が、聞こえる。
……なんの声?
……いや、知ってる。この声、知ってる。
多分箱庭に来てから、いや、それよりも前……何もなかった退屈な十年と金糸雀と過ごした七年、そのどちらよりも俺に……いや、逆廻 十六夜という
……だった、はず。
……いや、そもそも俺にそんなヤツがいたのか?俺には……私には、彼氏と呼ばれる存在がいたのだろうか?
というか、そもそも私って誰だ?誰って、ダレ?
ああああああ、アー アー アー …… わからない。誰なんだ、私を呼んでいるのは。
私の名前みたいなものを呼んでいるのは……誰?
……いや、一つじゃない。ついさっき聞いてた声が聞こえる。これは……?
───んなろ、人が避けれないからっていい気になりおってからに!
アホっぽい声。いや、このダメな意味で趣のある喋り方はアホっぽいではなく、アホそのものだ。
───き…み……女の子……!?
ああ、これだこれだ。思い出した。アホっぽい声の次に今となってはなんかムカつく発言。こんなことを言われてこんな気持ちになるヤツなんて一人しかいない。
ならばこのモヤモヤはなんだ?答えは単純だ、愛してるが故の怒り。
ならば、この愛している者とは?それも簡単。私の……いや、俺の、俺だけのオトコ。
ならば俺だけとは?決まっている。俺のカレシだ。
ならば俺とは?そんなの分かりきっている。俺は俺。逆廻 十六夜だ。
ならば───それは───ならば───それに関しては───ならば───そんなもの
質問を解く度に生まれる質問は、質問の内容を問われる前に答えに辿り着く。
なぜ?そんなのは当たり前だ。
「───人の思い出を、勝手に奪い取れると思うなよ」
逆廻 十六夜は、誰よりも己の存在に悩んで、誰よりもその答えを知っているからだ。
◆◇◆
「───うおらァッ!!」
「なっ───!?」
鈴蘭が状況の変化に気付いたのはその声が聞こえてから十六夜の体感で数秒後だった。
「ぐっ……
「……そんな。"記憶"の空間を捻じ切ったのに、なんで……?」
「ハッ、そんなん決まってんだろ。頭が覚えてなくても身体が憶えてんだよ!このアホの頭を悩ませる発言と行動も、アイツの味も!!」
ド直球に、意味がわからないヤツなんてそうそういないくらいにわかりやすく告げる。少し前の自分だったら恥ずかしがって言うこともなかっただろうが、色々と吹っ切れた。むしろ、コイツらに少しでも隙が生まれるのならどんな醜態だって晒してやるとさえ思っている。
一瞬でも忘れさせたツケはでけぇ、あとここでこの事を言っても十六夜の世界に本来いた人間なんて当の十六夜と封印されてるだろうから聞こえていないであろうメルヘンしかいない。
「いざちーアダルト!大人の階段登っちゃってたのね!リンが寝てて良かった!」
「なにに安心してるんだお前は。いいからさっさと倒すぞ」
「ウィッス!」
鈴蘭が威勢良く頷く。それを見た十六夜は心なしか張った顔を少しだけ緩める。
十六夜の捻じ切れたはずの肉体は何故か冗談のように元通りになっていた。恐らくこれが"butterfly"の正体───脳に対して現在存在している空間の認識に齟齬を生じさせて見せられた幻覚を現実と誤認させるもの。
一瞬記憶を失ったのは"記憶"という空間を捻じ切られたせいで記憶に齟齬が生じたせい……だろう。
「魔法を集中して……と、"ジャスティスハート"、久々にその名前を晒すよ!」
今まで鈴蘭が一度たりともその名を呼ばなかった魔杖、彼女はその名を呼ぶ。例え間違いであれ、己の信じることこそが正義であるという心の杖の名を。
そしてその瞬間、魔杖の先端から槍状のカタチをしたエーテルのカタマリが現出する。これこそが鈴蘭の魔杖、生前から愛用し続けて彼女の魂にこべりついて共に箱庭に来た杖"ジャスティスハート"。
「名を晒す……であればそれは名を明かすことで真の力を発揮する類のギフトということなのね」
「関係ない。ぶっ殺す」
「やれるもんならやってみなさいよってね!今の私ゃ久しぶりに本気を出すから、テンションハイのマックスハートだっ!」
「やるこた変わんねぇよな!ぶっ飛ばして他人の世界まで巻き込んでやがるバカどもの本拠地をあぶり出すだけだ!」
"ジャスティスハート"を握る鈴蘭と"月神の籠手"と"青龍偃月刀"を持つ十六夜。確固たる個を握る二人と、時間と空間という概念を掌握する二人。四人の得物は相容れぬ同士混じり合い、それは切り離された世界を揺るがす。
「ケッ、人の部屋だからって好き放題荒らし回りやがって……スズ!」
「あいさー!」
十六夜の号令と同時に鈴蘭は槍と化した杖の穂先を更にマナを集中させることによって肥大化させて広範囲を薙ぎはらう。それを玖螺摩が自分と穂先の境界の空間を切断して回避する……が、ギフトを無効化させる"正体不明"でその境界を物理的に乗り越えて玖螺摩をぶん殴る。
「ぎぁ!?」
「玖螺摩!」
「よそ見運転してる暇はねーだわさ!」
「ごっ、ぉあ!?」
玖螺摩に気を取られた逸生に槍を全力で突き刺す。
「ブラスト!!」
鈴蘭の叫びに呼応するように逸生を突き刺すエーテルは逸生の傷口からガンガンと球状のエーテルとなって逸生の肉体に寸分違わず炸裂する。
が、しかし。
「っ……捕まえました、よ!」
「脚を……捻じ切る!」
それだけでやられる二人ではない。逸生は槍ごと鈴蘭の身体を掴み、玖螺摩は吹っ飛ばされざまに鈴蘭への救援を阻害するべく十六夜の脚を捻じ切った。
「ぐっ───」
幻覚であるのはわかっているが、脳にダメージが与えられていると認識されればそうもいかない。脳はその存在しないダメージに"本当にダメージを受けた"と錯覚させてしまう。そして鈴蘭も───
「"フリーダム"」
その言葉を紡いで、十六夜がマトモに動くことがかなわなくなったこの世界は文字通り逸生のモノとなる。目の前の奇怪な少女を恐れる必要もない。ゆっくりと、確実に葬るだけ。
だけ、なのに───
「───ぃよいしょおおおおおおお!!!」
「はぁぁあああああ!?」
鈴蘭は動く。時間が支配された世界で、鈴蘭は逸生の世界をぶっ壊す。
「本当の力を明かした"ジャスティスハート"は、私の気合と合わさって時間をぶっ壊すくらい訳などなぁぁあい!!」
「なんて無茶苦茶!?」
「無理無茶なんて、私の辞書にはない!なぜなら……おとーとを守るおねーちゃんは無敵だからなのDA!」
ちょいさー!と、無茶苦茶すぎるのに彼女なら納得できそうなわけのわからない理由で逸生のギフトを打ち破ってきた。
「逸生……!」
「ちぇすとー!」
今度は穂先を棒状にしてぶっ叩く。もう彼女の暴れっぷりはメチャクチャな領域だ。時間が止まった世界でも彼女の大暴れを視認していた十六夜はそう形容するしかなかった。
とにかく、玖螺摩と逸生は完全に気絶してしまったのだが。
「勝利の……2!」
「Vだろ」
勝利を確信した鈴蘭はそう叫ぶので突っ込む。なんでこのドアホに付き合わされにゃならんのだ……と十六夜は玖螺摩が気絶したことで自由になった脚を動かしながら鈴蘭に話しかける。
「さって……あとは目覚めたコイツらを尋問するだけなんだが……!?」
鈴蘭に目を向けた十六夜はその異常に目を見張った。
「お!おお!?なんだこれなんだこれなんだこれ!」
鈴蘭をはじめとする、十六夜以外の四人はまるで泥に呑まれるようにそのカタチを失い始めていた。鈴蘭はやはりマイペースに驚くだけだったから緊張感に欠けるが。
「……んー、もしかしたら時間切れかな?元々私達はいざちーの世界にいるべきじゃないモノ。だから私達はこれからまた違う世界に飛ばされるか、元いた箱庭に戻るか……その二択だね」
「お前、以外といろんなこと知ってんだな」
「にゃははは!異世界云々に関してはこの年代ではリンも私もかなり博識の部類に入っちゃうよ?なにせ物心つく前から体験してることだからね」
あくまで陽気に笑う鈴蘭。それならもう俺が変な心配かける必要はないか、と十六夜は息を吐く。
「この空間もそのうちいざちーの世界に戻れるハズだから、また会えたら会おうぜ!アデュー!」
「……おう、お前、結構面白かったぜスズ」
こうして二つ目の世界での旅は、終わりを告げた。
次の世界は……なんなのだろうか。それは鈴蘭も竜胆も知らない、Eと呼ばれる人物だけが知っているのであろう。
ってなわけで江宮 香さんありがとうございました!
この13年の亡霊編は孤独の狐編最終エピソード、Loneliness of fox に繋がるので、コラボさせていただいた以上は必ず完結させます!
それでは、次回からは本編に戻ります!