問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
こんだけ待たせて短いって言うね!ごめんなさい桔梗@不治さん含めて皆様!
唐突な話だが、鈴蘭=T=イグニファトゥスは自分が"高町 鈴蘭"であった頃のことをあまり覚えていない。
薄情、と言われるだろうか。だがそれも仕方のないことなのかもしれない。
消えない炎に焼き尽くされ、生きながらも地獄を味わった彼女はその炎の不思議な力によって記憶の大部分を消去された。まるで焼き切れたフィルムのように記憶が途切れ途切れに存在している。
覚えているのは家族の名前と生前恋人がいたこと。そして自分は生来"魔法"と呼ばれる技術を身に付けていたこと。
あとは……死ぬ間際に聞いた死神の『復讐を』という言葉だけ。
恐らくは母を恨んでいた者達だろう。弟の身体を弄り回した者達への復讐のために母は生きる価値のないと断じられた者からただ姿を見た者まで、その二振りの日本刀で狩り尽くした。
ならばその母が、家族である自分達がまた復讐されるのも道理かもしれない。
鈴蘭が本当に懸念を抱いているのは竜胆が"生き残ってしまったこと"。
復讐は復讐へ、そうやって報復され続けているのを幼い彼は知らなかったのかもしれない。だが彼がとったのは予想外にも"誰の迷惑にもならないようにする"こと。
自慢ではないが、小さな頃から賢しかった竜胆だ。復讐の無意味さを知っていたか。あるいは―――そんなことをする気にすらならなかったか。
恐らくは後者だ。久しぶりに見たときの彼の瞳と、割と打たれ脆い性格から多分違いはない。
まぁ、要するに。
彼女は彼のことをよく知っているようでなにも知らないし、彼女の心労は彼女や、彼女をよく知る者ほど知らないのだ。
◆◇◆
「おねーちゃん、踵落としぃ!」
謎の技名が響き、紅蓮を纏う脚撃が大地を揺るがす。少年はとんとん、と軽々しくそれを避けて、かと思うと一瞬で距離を詰めてくる。
「そぉ、れ!」
「ジャストガード!残念ダメージ入りませーん!」
なんのゲームだ。思わずそう突っ込まずにはいられない。
だがそんなふざけた攻防もせめぎあいが続いている。攻撃と防御。二つがおびただしく入れ替わり、バトルスピードもだんだんと増していく。時折向こう側の赤い乱気流とそれと対峙する黒い波導の余波が邪魔や加勢をしてゆく。
現在この二組は少年と鈴蘭が前で殴り合い、少女と夏凛が後方で小競り合いを続けているという感じだ。
だがこの状況に二人は違和感を感じている。
確かに鈴蘭は殴り合いもできる。だが彼女の本領は後方からの砲撃。およそ支援とは言い難い火力の支援。
対して夏凛はギフトの特異性をいかして臨機応変に戦えるものの、どちらかと言えば好んで前に出る方だ。
互いが互いに、どういうことか本来の仕事を交換しているという状態。疑問と違和感を持っているというのに不思議とその役割を変える気にはならなかった。
どういうことだ、と二人は思う。だが答えは出ず、また出す気にもならない。
「考え事はいけないよ!」
「うわ、たた!」
突然目の前に飛んできた裏拳を杖でなんとか守り抜く。が腕が痺れた。これくらいなら我慢はできるが、反応速度や握力の低下は免れないだろう。
しくじった。鈴蘭はこれ以上の猛攻を阻止すべく目の前に障壁を構築しつつも後ろに下がる。
が。
「せやぁ!」
少年がおもむろに雪面を蹴り上げたと思いきや、その中からいくらかの小石が第三宇宙速度を超えて襲い掛かって来て、障壁を一瞬で破った。
「ぐっ!?ウッソだろお前!」
迫る障壁に身構えたが、それらが直撃する瞬間に夏凛の乱気流がそれを阻んだ。
「さ、サンキュー!」
「ゆーうぇるかむだよ!」
互いに親指を立てるが、そんなことをやってる余裕もなく少女の力の奔流が夏凛を襲う。
が、それは助けた礼と言わんばかりに夏凛の周囲に球状の壁が現れて阻む。
改めて互いの顔を見た二人はニカッと笑んで、二人共に前に突進した。
「―――来た!」
「戦況が覆った。これは……」
二人の行動の中からなにかを察した二人も衝動に突き動かされて前に出る。二つの嵐と一つの炎と、その身一つ。
ぶつかり合ってまだまだ戦いは続く。
少し、時間を遡る。
竜胆と呉羽がブラックホールのようなものに吸い込まれて少し。ようやく二人は目を覚ました。
「ぅ……つ……ここは……」
「歓迎されてる……わけじゃないね。感じる。ところ狭しとさっきの力が」
目覚めてすぐに頭のスイッチを切り替えるのは流石と言ったところか。竜胆が呉羽の前に立ち、静かに正面を見据える。
「お目覚めか両人」
「そろそろ起きる頃だと思っていたよ」
「……それはどうも。態々待ってたっていうのか」
「ん?怒りに身を任せて突進はしてこないのだな。短気に見えてその実、戦局を見誤らないクチか」
「寝て頭が冷えただけだ」
ペッ、と吐き捨てるように呟く竜胆。片方の青年が「結構」と呟くとスッ……とその構えを臨戦態勢のものへと変える。
「答えろよ。お前らはどうして俺達が起きるのを待っていた。それとEってのは誰だ。それ以外にもまだ聞きたいことは山ほどある。なんで母さんの転移装置を持っていたとか……聞きたいことだらけでな」
「答えたはずだ。時が来ればわかると」
「そういう勿体ぶる態度なんて必要ない。答えるか、答えないのか。どっちだと聞いているんだ」
「……今はNO、だな」
「―――そうかい!」
答えを聞いた途端、竜胆は褐色の青年に拳を叩き込んでいた。
「こいつはお礼代わりだ……」
「……確かに受け取った。では、やろうか」
二人は後ろにいる相方を見て、即座に一歩引いた。
竜胆が己の呪術で造り上げた弩を呉羽に渡すと、呉羽は自らのギフト
牽制目的のそれはあっさりと避けられたが、竜胆が呉羽の思考に合わせているかのように用意されたピストルやアサルトライフル、レールガンと、次々に自らの身体を同化させて射撃の嵐を穿つ。
「うおっ……は!面白ぇギフト持ってんじゃねえか男女!」
「その呼ばれ方は、あんまり嬉しくないね!」
嵐のように降り注ぐ鉛や鋼鉄。竜胆の作り出す武器という武器を身体に取り込んで耳をつんざく轟音を鳴らすが、二人の男はすべてを避けることはできずともその多くを回避している。
が、その回避を竜胆は読んだ。次にどこをどう動くか。呉羽の攻撃の雨を卓越した動体視力で全て把握して、最短ルートに筋肉の挙動から予想される次の動作。
それらを理解して、褐色の男に二振りの手斧を振る。
「っ!」
「まだだ!」
次に狙うのはもう片方。色白の男だ。雨の中を走り、ジャンプしながら宙返り。所謂前方宙返りをして、右足に鋼鉄を織り込み、踵落とし。
さらに踵落としの勢いでさらに宙返りをし、両手にボウガンを構えて発射。それを投げつけて更に別のボウガンを作って発射を繰り返す。
「ぐぉっ……!」
そしてすぐさま呉羽の雨から離脱した。
竜胆の猛攻に怯んだ二人はそのまま呉羽の攻撃を甘んじてしまう。
「とんでもない攻撃だが……」
「パワーが足りないな!」
だが二人はニヤリと笑い、強引に猛攻を掻い潜る。色白の男が褐色の前に立ってブラックホールから二振りの剣を取り出して、目にも止まらない異常な速度―――とは似ても似つかない、ゆったりとした一振りで銃撃の嵐を一瞬で振り払ったのだ。
「お返しだ、受け取りやがれよ」
ひゅっ、と指揮棒を振るうように剣を振るった。するとどうしたことか。呉羽が撃ち放った弾丸の全てがまるごと、二人に帰って来た。
「あ―――」
「呉羽!これに!」
竜胆がおもむろに紐を取り出して呉羽に掴ませた。
「うん!」
竜胆の意図を理解し、呉羽は紐と同化した。
"境界上"の性質上残ってしまう呉羽の要素、質量はともかく、紐と同化して形状の自由性を有するのは竜胆にとって都合がいい。
紐と同化した呉羽を若干乱雑に掴んで、弾丸の嵐を避ける。
「なかなかキレるな……じゃ、これだな!」
色白自身がブラックホールに飲み込まれたと思うと、竜胆の目の前に現れた。
(瞬間移動の系統かっ……いや、物質転移!?だとすればこの空間は転移先の空間……じゃあさっきのは!)
恐らくは転移させて、そのまま進行方向を変えてもう一度呼び出したか。
だがそうなれば疑問も浮かぶ。自分達を巻き込んだときの吸引力はなんだったのか。
ギフトの合わせ技という線もあるが、ならさっきの一勢掃射の時に重力波を使えば回避もできたはず。
ならなにが考えられるか。恐らくはまだ、外に誰かいるんだ。
なら褐色の方のギフトは未知数だ。なにをするのか、なにが用意されているのか。わからない。
だが……少なくとも現状、自分達はこの男らに踊らされる以外に解決策はないのだ。
先週デジモンの映画見に行きました。アグモンの進化シーンで思わず泣いてしまいました。
……リアルタイム時赤ん坊だったのになんで涙流せるんでしょうね?こういうのって二十歳過ぎた人が流すべき涙だよね?