問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
今回の番外編、いくつか構想があって……
①、主要メンバー軒並みTS。
②、耀ちゃんさんが色恋に積極的になって竜胆くんが抱かれる。
③、未だ訪れぬ原作の終わりを妄想して描く、問題児たちの別れの物語。
結局、③になりました。理由としては①は……TSしてもいつも通りじゃね?とか思ったから却下。②は耀ちゃんさんが覚醒したら竜胆くんが萌え死にしたり腹上死したりするので却下になりました。
というわけで、イフルートとしては旗を取り返した後に箱庭に残るか、元の世界に帰るか……この二択。原作は前者で終わりそうな気もしますが、さっき表記した通り、別れの物語なので帰るルートです。
というわけで、はじまりはじまり〜
いったい、どれくらいの時を刻んだのだろう。
……わからないな。楽しい時間って、あっという間だから。
俺の人生、色々あったけど、後悔はしてないよ。
……して、ないと思う。
だから、この選択も必然で、これも……当たり前のことなんだ。後悔もないし、悔やみもない。
……ただ、ただ一つ。あるとすれば……
俺がまだ、彼女に俺の想いを伝えていないこと……
言ったらきっと迷惑をかける。だってこれは、もしかしたら……いや、もしかしなくても、今生の別れになる可能性が膨大だ。
だから、俺はこの想いを胸の中に仕舞おう。胸の中に仕舞って……忘れよう。この、忘れることのできない身体で……
……でも、俺の心は、頭で理解してることよりもずっと、物わかりが悪くて……
結局俺は、あのコミュニティで一番、子供だったんだ───
◆◇◆
「……皆様、今日まで本当にありがとうございました。御四人様がこのコミュニティに来てくれたおかげで、我々は名と旗を取り戻し、過去の栄誉を越える功績を手にしました。
皆様は……元々いるべき世界に帰ることを選びました。ですので、最後の一日……心残りのないように御過ごしください」
黒ウサギの精一杯の感謝の気持ちは竜胆達、問題児四人の魂を震わせる。
黒ウサギはまだ別れの時でもないのに大粒の涙を隠そうともしなかった。それほどに、彼らがやって来たこの時は彼女の200年という年月よりも濃いものだったのだろう。
「別に、再開する可能性が限りなく低いだけでないわけじゃないんだ。今生の別れと決まったわけじゃないんだからそこまで泣くな」
「で、でしゅがっ……!」
涙そうそうと泣く黒ウサギを宥めるように言う竜胆。だがしかし、彼も心の奥底ではもう再び合う可能性がほぼ皆無なのは理解している。元の世界にある次元跳躍装置さえあれば簡単なのだが、この次元の座標を知らないから元の世界に戻ってもここに来れる可能性なんてないに等しいのだ。
「後悔はしないように。だろ?だったら、お前がこの二択を迫って来たんだから後悔はするな」
「……はぃ……」
竜胆の説得に黒ウサギは声を小さくしながらも頷く。
「……後悔はしないように、か。じゃあさっさと会いたい奴らと会って今日を終えるとするよ」
そうして竜胆はその場を去って行った。
◆◇◆
「ここの農場にも随分世話になったもんだ。店の商品の材料を採ってコミュニティの奴らにメシ作って……いいもんだったな」
「その通りよ。私も貴方というコックがいなくなるのは残念だわ」
「わ、私も竜胆さんともう一緒にお料理ができないと思うと……」
竜胆の独り言についてくるように来たのはペストとリリだった。なぜか農場と彼女達は縁があるな、と思わずにはいられない。
「悪いな……それでも俺には帰る世界があるんだよ」
「そんなのわかってるわ。だから引き止めたりなんかしないわよ」
「はい。私達は皆様が一番これだと思った道のりを、ひたすら応援することしかできませんから」
「……ふっ、励ましていくつもりが励まされちまったな……」
竜胆が目を閉じて笑うと、すぐに目を開けて両手をパシンと叩く。すると彼の手の中からペンダントとピアスが出てきた。
「ほら……リリにはこっち、豊穣神の加護がついたペンダント。ペストには健康の加護がついたピアス……まあ、お守りみたいなものだから、気に入らなければどこかに置いておいてくれ」
「……いいえ。貴方からプレゼントなんて初めてよ。気に入らないわけがないわ」
「はい!私もこんなに立派なものを貰ったからには頑張ります!」
「……それでいいさ。未来は木の枝。その枝から選ぶ道は、きっと最良の選択肢がある。俺はそれの後押しをするだけだ」
竜胆は最後に農場の手入れをして、その場を跡にした。
◆◇◆
「悪いな飛鳥。勝手に押しかけて来て」
「いいえ、竜胆くんの方から訪ねてくるなんて珍しいわ。招き入れない方がおかしいわよ」
飛鳥が紅茶を淹れようとするが、そこはありとあらゆる料理を網羅した料理の天才高町竜胆。自分で淹れると言って元々高級だったのに、さらにヤバイくらいに高級感を醸し出すものと変貌していた。
「さて……最後だからって感傷に浸ってみたが……なにを話せばいいのやら」
「あら、竜胆くんはついさっきまた会えるかもしれないと言っていたのに、随分と弱気ね」
「それはそうだ。あの時は黒ウサギがあんなんだったからああ言ったが、正直なところ俺達がまた会える可能性なんてそれこそ限りなくゼロに近いんだ。
この箱庭だって様々な歴史を歩んだパラレルワールドがある。その中からこの世界を見つけ出すなんて、砂漠から一粒の砂を見つけ出すようなものだ」
竜胆はお手上げだ、と両手を上げる。
「……前から言いたかったけど、私も今を逃したらもう言えないかもしれないって理解してるから言うわ……私、貴方のその悪い開き直りの仕方、正直嫌いよ」
「こういう性格になっちまったからな……もう直しようがない。諦めてくれ」
竜胆がペコリと謝る。まあ飛鳥もそう言われることは承知だったので特に表情を変えることもなく言い返す。
「じゃあ、今度会う時までに直しておきなさい」
「……それは、久遠飛鳥としての命令か?」
「わかってるくせに……友達としての約束よ。高町竜胆くん」
飛鳥が右手の小指を出して来たので、竜胆も右手の小指を出して指を絡める。
「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本呑〜ます。指切った」」
飛鳥の部屋からは楽しそうな声が聞こえてきたという。
◆◇◆
「フラッシュだ」
「残念だったな竜胆、フルハウス」
十六夜の部屋。突然彼の部屋にやって来た彼は「ポーカーでもやろう」と言い、約30分ずっとポーカーを続けている。
だが、まあ結果はずっと十六夜が勝ち続けている。
「……なんでだ?今日は勝率が悪いな……」
「……満足したか、竜胆」
「……満足したって、どういうことだよ」
「いや……聞くだけ無駄だな。お前が今、満足なんてしてるわけがねえ」
十六夜がカードを片付けてその辺に投げ捨てる。十六夜は竜胆を見つめて、真っ正面から問い質す。
「お前、春日部になんにも言ってねえだろ」
「……なんで、そこで耀が出てくるんだよ」
「んなのどうでもいいだろ。なんでお前、アイツに会いに行かねえ」
「……お前には関係ない」
「ああ確かに関係ねーさ。だけどな竜胆、お前だってそんなナリしてても男だろ。男はやらなきゃいけない時がある……今ここで春日部になんにも言わなかったら、一番後悔するのはお前だぞ」
「……言っても、俺がスッキリしてもアイツが今度は苦しむだけだろ……!返事もできずに生涯を終えるかもしれないんだぞ!
俺はアイツが好きだよ。もういっそ認めてやる!だけど……俺が一番望んでるのはアイツの幸せだ。俺が今このタイミングでアイツに好きだなんて言っても……アイツを苦しめるだけなんだよ!」
「それがどうした」
竜胆の心のままの叫びを十六夜はたった一言で一蹴する。十六夜は竜胆の胸倉を掴んで顔を掴む。
「お前のそれはただの言い訳だ。だったらどうしてお前の心は泣いてる。どうした"人類の罪"!お前はお前の欲望のままに生きて自分も仲間もハッピーエンドで終わらせるんだろ!
他人のハッピーエンドを案じるなら……まず自分のハッピーエンドを作り上げろ!その上で春日部にもそんな心配を与えてやらない究極のハッピーエンドを作れ!」
竜胆は、泣いていた。ハッピーエンドを作る……どんなご都合主義になったってベターなハッピーエンドは妥協しない、ベストなハッピーエンドを創り上げると。
その言葉は一種の症候群と診断されるほどのものだった……ハッピーエンドシンドローム。とでも言おうか。幸せを溺愛し、不幸を身がよじれるほどに嫌う、最早病気の領域のそれ。
「……ダメだよ。こればっかりはどうやっても無理なんだ。耀の不幸と俺の不幸……俺が選ぶのは、やっぱり自分の不幸でいいと思うんだ」
だが、そんな竜胆も今回ばかりはと頭を横に振る。胸倉を掴んだままの十六夜の手をそっと解いて、そのまま十六夜の部屋に手をかける。
「……大バカ野郎がっ……!」
「ああ、バカなんだろうな……でも、あの時もタマモが言ってたろ?俺は……お前達のためにしかバカになれないんだ。だからこれもバカなりの選択なんだよ」
竜胆の笑顔は、とても笑顔とはいえない哀しさを帯びたものだった。
◆◇◆
竜胆の自室。
「……なぁ、本当について来るのか?」
「当然でございます。私はご主人様の付き人ですから」
「モチ!このまま弟だけ帰るってなるとおねーちゃん悲しくてゲームに集中できないよ!」
竜胆が目の前でフワフワと浮いているタマモと鈴蘭に話しかける。すると二人共既に竜胆と共に元の世界に帰ることを選んだようで、しっかりと頷いた。
「神格も霊格も失って存在自体が消えてしまったというのに、それでもご主人様はタマモを助けてくださりました。ならば、タマモはご主人様にずっと添い従うことにしました」
「私も、もうウィラっち達にはお別れ言ってあるからね。後はリンに憑いて、リンと一緒に帰るだけだよ」
「……そっか。んじゃいいや……俺、そういや帰ったらなにやるか全然決めてなかったな……」
「だったら、みんなのところに帰ろうよ。俺は帰ってきたぞーってね」
「……そうだな。母さん達がいなくても、あの人達はきっとなにも変わらないからな……」
竜胆は懐かしむように笑う。だが、それなりの年月を彼と一緒に暮らしている二人には竜胆の笑顔に曇りがあることをなんとなく理解していた。
「……耀ちゃんには会わないの?」
「……会ってどうするんだよ。会ったらきっと、俺もう耐えれないよ」
竜胆はすぐにその笑顔が消えて悲しそうな顔になる。
「後悔はしないって言ったんだ。後悔してるところを見せたら……カッコ悪いよ」
二人は頭を抑える。やっぱりこの少年は悲観的だ。こうだったら、ああだったらと。自分のことは仮定やこうなるだろうという高い可能性ばかり見て、そんなことして迷惑じゃないのかと葛藤をする。
「……リン」
「……なに、お姉」
鈴蘭はその小さな身体をめいっぱい使って大事な弟の身体を抱きしめる。
「恋ってさ、なによりも行動することが大事だと思うよ?お金や見た目、内面なんかも大事に思われるけど……それでも、好きになった方が動かないとお互いどれくらい気があってもダメだと思うんだ」
「……それは、耀を不幸にする選択だよ」
「うん。そう言うのはわかってるよ。だから、言わなくてもいい。言わなくてもいいから、ただ一目、耀ちゃんに会って来なよ。後悔しても遅いんだよ?」
「……お姉、俺……」
「にゃはは、皆まで言うな!おねーちゃんとタマモはなによりもリンの幸せを願ってるから、私達は今のリンを後押しするだけ」
竜胆が二人に顔を向けると、鈴蘭はいつもの笑顔を、タマモはいつもの飄々とした、つかみどころのないような表情をしていた。
「行って行きなさいな、ご主人様。私達は耀様の代わりになどなれません。ですから、貴方様の選ぶ道を、ただ最良の方向に向かうために導くのが、私とお姉様の御務めでございます」
「……うん。行ってくる」
竜胆はふら、と立ち上がり、部屋を飛び出て行った。
目指す場所は、やはり───
◆◇◆
「……待ってて、くれてたのか?」
「遅いよ竜胆。寝ちゃうところだったよ」
いつもの木の下。いつもは竜胆がそこで昼寝をすると耀がふらっと現れるのだが、今回はシチュエーションが逆だった。
「いつからいたんだよ」
「わかんない。けど夕焼けになる前からいたから……二時間はいたかな」
随分と待たせてしまったな、なんて竜胆は思う。それと同時に、自分が来ると信じて二時間もここにいた耀にはやはり感服したし、愛おしさも感じる。
そう思っていたら、身体が勝手に動いていた。勝手に身体が耀のすぐそばにまで来て、勝手に彼女の身体を抱きしめていた。
「……竜胆?」
「ゴメン。突然変なことやって……でも、少しこのままにしといてくれ」
「……ん。わかった」
耀は表情が見えないながらも、竜胆の今の表情をなんとなく理解したまま竜胆の背中に手を回した。
暫くずっとそのままだったが、やがて、竜胆の身体が震え始める。
「……明日でお別れだな」
「そうだね」
「……多分、もう会えないだろうな」
「……そうだね」
「……俺、嫌だ」
「……?」
竜胆が身体を離す。耀の目に映っていた竜胆の顔は、箱庭に来て初めて家族と会えなくなることで泣いていた。
「もう皆と会えないなんて、俺は嫌だ……!黒ウサギの時はああ言ったけど……絶対もう二度と会えないから、嫌だ……!別れたくない……!」
「……私も、別れたくはないよ。でも、四人で決めたことでしょ?」
耀が宥めるように言うが、竜胆の涙は止まらない。
もう何年も前に、家族と会えなくなる涙は枯れたはずなのに、竜胆の涙は止まらない。嫌だ、嫌だと泣き散らす。
「………」
口下手な耀には、彼を宥める言葉を持ち合わせてなどいなかった。
◆◇◆
「それではこれより、皆様を元の世界に戻す転送を行います。方法は、ただ皆様を召喚した際のギフトを逆転換させるだけ……それで皆様は元の世界に帰れます」
黒ウサギの簡単な説明が終わり、四人の足下に奇妙な魔法陣が現れる。
「皆様、転送までに少し時間がかかりますのでお待ちください」
十六夜はいつも通りの顔で、飛鳥は少しだけ泣きそうな顔で、竜胆は顔を見せようともせず、耀はいつもの無表情がいつも以上に出ている。
「……ヤハハ。お別れだな。楽しかったぜ箱庭!楽しかったぜ俺達のコミュニティ!アディオス!」
「ここの思い出は元の世界よりもすごく鮮明に残っているわ。ここで知って培ったこと、二度と忘れません」
「………………じゃあな」
「みんな、バイバイ。また会おうね」
四人がそれぞれ言うことを言って、身体が光の粒子となる。
そうして、十六夜、飛鳥と消えて、竜胆が消える瞬間だった───
竜胆は言葉が途切れても、応えることのできない彼女を不幸にしても、やっぱりこれを伝えることにした。
「耀!俺はお前が、何億何兆とあるこの世界で、誰よりもお前のことが───」
竜胆の姿は、そこで消えた。最後まで言葉は聞こえなかったが、その先の言葉は当事者達以外の誰もが予想できただろう。
「待って!りん───」
耀の姿も最後までその言葉を言うことなく、消えてしまった。
それが、月の兎が知る、彼女のコミュニティが誇る問題児たちの最後の刻。彼らがどうなったのか、彼女らが知ることは、なかった。
◆◇◆
───────……………………風が、冷たいな。
まるであの時と同じだ。
確かあの時もこんな感じに全身風を浴びて、そのあとは……あれ?身体の正面が、あったかい。
風を浴びていないとはいえ、さっきよりあったかい。
───────……………………なんで?
◆◇◆
ドボン、と竜胆の身体は海の中へと落ちて行った。竜胆は感触で海水と理解し、海水が目に入るのを嫌ったため目を閉じたまま上へと上がって行く。
竜胆が感じたあたたかさは海に落ちた後も続いたので、竜胆はそれを見るために、呼吸してから確認する。
そして、言葉を失った。
「……耀」
「なんか、来ちゃった」
「なんで……!?」
「わからないけど、今はこれでいいよ」
「よくないだろ!耀は帰るのを選んだんだろ!?だったら───」
竜胆の昨日までの言葉と矛盾した言葉を耀は人差し指を当てて止める。
耀のスリーブレスのジャケットも、竜胆の陣羽織も着水した時にはだけたようだが、耀はそれを気にせずに竜胆の手を取る。
「さっきの言葉の続き、私聞けなかったもん。お前のことが、までしか聞けなかった」
「───なっ、」
「だから、ね?少なくとも、竜胆が教えてくれるまでは帰る気もないよ。教えてくれても、わからないけど」
「…………………い、いぃいぃぃぃいい……」
「い?」
「言えるかぁッ!!耀のバカ!」
高町竜胆は、孤独故に世界に呼ばれた。その世界で、自分の力のせいで人間的に孤立してしまった彼らと出会い、彼らは人間的に大きな成長をして、孤独に打ち勝つ力を手に入れた。
きっと、あの世界の彼らの家族は、彼らに未来という名のギフトを送ってくれたのだろう。
罪は、希望で償える。
「私達は完全にお邪魔虫のようですね……いかがなさいます?お姉様」
「そんなの……この楽しそうな二人がこれをやめるまで見てるしかないよね」
だって、罪の塊だった少年は、たった一人の少女の温もりがそれを変えたのだから。
彼らはきっと、この先も変わらない。変わった彼らは変わらない日常を送り続けるのである。
Fin
「竜胆、どういうことか教えてよ。なにが言いたかったの?」
「知らない!耀のバカ!」
というわけでアフターモードでした。原作がどうなるかはわかりませんが、原作が帰還エンドなら間違いなく本編ラストはこのお話しの使い回しになります。
なぜ耀ちゃんさんが元の世界ではなく、竜胆くんの世界に来たのか……それは神のみぞ知るってとこです。
作者ですら愛が起こした不思議パワーとしか言えません!