問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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一応これで虚構の箱庭編は終了です。

こんな寄り道以外のなにものでもなかった編ですが、見てくれれば幸いです。




最終譚 世界を止めた少女

「っは……ぜ、……ふ、ぅ」

 

五つの軌跡がリップの身体に刻まれ、最早動くことも叶わないほどの傷跡をつけられた。

 

それと同時に竜胆が使っていた"太陽神の表情"と呪術による尻尾変幻も解かれ、能輪、雅槍、神刀が四つの金属音を奏でて地面に落下する。

 

「勝……っ、た!」

 

舞斧を持つ右手を支えながらリップを見下ろす。リップは虚ろな目をしながらも必死に身体を動かそうとしている。

 

「まだ……!まだよ……ワタシは、まだ……!終われな……ワ、ワタ、わた、わたし、私は……!」

 

「……!」

 

そして竜胆はリップの言葉の違和感を感じる。なんというか、語感が違う……

 

「ワタシ、は……終われ……い、いや……!私は、私……!」

 

元々発言が支離滅裂だったリップのその言動は更によくわからないものだった。竜胆も流石にこれには首を傾げ、もう彼女が動くことも叶わないということは理解しているため、時間のある限りリップを眺めていた。

 

「違う……!あなた、は!私なんかじゃ、ない……!いや、ワタシがワタシ……!耀はワタシ……!違う、あなたは、耀じゃない!」

 

最早意味がわからなかった。彼女の口ぶりはまるで耀が二人いるような───

 

「───ふた、り?」

 

この感覚はかつての自分も覚えがある。彼に関しては全く抵抗することもできなかったが、"罪"に完全侵食された時も竜胆は勝手に動く自分の身体に抗っていた。

 

正直あの時は視覚が消えた時には既に自分に未来はないと悟っていたが、まさかと竜胆はその可能性に当たる。

 

「まさか……耀もなにかに"侵食"されてるのか?」

 

人は世界が違えば徹底的に変わる。だから竜胆もこの瞬間まで耀が支配されているという可能性に当たらなかった。

 

だが、この口ぶりはそうとも捉えれる……否、そうであって欲しいという希望的観測が竜胆にはあった。

 

「リップ……おい、リップ!お前はなにかに支配されているのか!?教えてくれ!リップ!」

 

「りん、……どぅ!これ、は……ワタシが耀……!うる、さい!私に憑いた魔王の仕業……!そうじゃない!そうじゃなく、ない。世界を、取り憑いた人間の想いを手前勝手に捻じ曲げて、うるさい……!うるさいのは、そっち……!世界をやりたいように、変える魔王……!」

 

耀が竜胆に向かって右手を出し、それをリップが左腕で抑えようとする。

 

だが、リップが竜胆によってほぼ殺された状態となったせいか、今や耀の方が肉体の主導権を握る状態となっている今の状態ではリップの腕を払いのけるなど容易なことだった。

 

「りん、どう……!手を、とって……!時間がない、リップのギフトを使って、竜胆に理由と解決策、教えるか……やめろ!竜胆!早く!」

 

「っ、わかった!」

 

竜胆は咄嗟に耀の手を掴む。もしかしたらこれ自体リップの罠かもしれないとは竜胆も思っていた。

 

だけど、彼女の言葉は信じられた。全てを否定したリップとは違う、暖かな包容力が竜胆には感じられたのだ。

 

「っ……"量子変換"。私の記憶を水に変えて……竜胆。こっち来て」

 

「あ、ああ……っ!?」

 

耀に促されるままに耀の下に身体を近づける竜胆。すると突然、耀は竜胆の唇を奪った。

 

「んにゃっ!?にゃ、にゃにしふぇ……ん、ふぁ……」

 

「んっ……ちゅ……」

 

ただ唇を奪われただけならそれでもいい。だがこれはこう、所謂愛を貪り食うディープなヤツだった。無論、というか当たり前のように舌が竜胆の口内に入り込んでいる。

 

「ふぇ、ょ、ふぁっ……」

 

「じゅぶ……ぷはっ」

 

暫くこの状態が続いたが、唇は離れ、竜胆は真っ赤な顔になる。

 

「んなっ、なななななななななななななななななななななななななななななななななななな」

 

「竜胆っ……初心い。可愛い」

 

もしかして、この世界の耀は本質的にはリップと一切変わりないのではないだろうか。そう竜胆が思った瞬間だ。

 

竜胆の記憶の中に見覚えのない景色が広がった。

 

◆◇◆

 

───これは?

 

竜胆の記憶に植えつけられた記憶。それはこうなった原因、対抗策、全てが綴られていた。

 

「竜胆」

 

「うっ……耀」

 

その記憶の中にいた耀は、竜胆の知っている彼女よりも少しだけ背が大きかった。逆に、竜胆は更に小さく、なんか年上受けがよさそうだった。

 

「竜胆~!」

 

「いーやーだー!離してー!」

 

その記憶の二人はおよそ彼には予想だにしなかった。耀が積極的に竜胆に抱きついて頬ずり。竜胆は全力でもがく。

 

これがこの世界の二人の違いなのだろう。抱いている恋愛感情が逆になって、耀が竜胆を好み、竜胆は耀を心強い知り合い程度に……過度なスキンシップに辟易しているのだろう。

 

だが、彼らが歩んできた刻は竜胆が歩んだ歴史と大差はなかった。

 

自分でも恥ずかしくなるような箱庭初期、タマモを従えて、"罪"に悩まされ、ペストとの戦いで"侵食"が進み、"アンダーウッド"で"罪"が完全侵食。十六夜に救われると同時にタマモが消失。そして"龍角を持つ鷲獅子"連合の代表を決めるギフトゲームを行い、そこからバカをやって本拠に戻り……

 

そこからだ。耀に魔王が取り憑いたのは。

 

耀は竜胆に想いを伝えられないことへの焦りからつい魔王に漏らした願い、"竜胆の全てを受け入れたい"というものを媒体として世界の全てを人形へと変えた。

 

そうして自分の恋は最早何にも受け入れられないと悟り……バゲット=ツポレフ・リップ。Tu-リップ……チューリップとなった。

 

そうしてリップの欲望の赴くままに、様々な世界の竜胆を基点として新たな世界も人形に変えるべく竜胆達を呼んだ。

 

これが、この世界の……世界を止めた少女の真実。

 

そしてその記憶は竜胆に向かって叫ぶのだ。

 

元の世界に帰りたければ……人形となった全てを救いたければリップと融合した耀を、二人を繋ぐ"人形部屋"となった彼女を壊せと。

 

◆◇◆

 

「………」

 

「竜胆……!わかった、でしょ。だから早く!やめて……!傷が癒えたらもう私はまたリップに侵食される……!リップは一度取り憑いた相手とは絶対に離れることができない!だから早く!リップを、人形部屋を、私を殺して!」

 

「っ……で、できるわけ、ないだろ!そんなことしたら、お前が死ぬんだぞ!?」

 

「もう、私は死んでるようなものだから……!そうよ竜胆、ワタシは耀……!それに、もう私は数え切れない程の"罪"を魔王として犯した。そもそも、私を殺さないと竜胆は元の世界に帰れないんだよ!?」

 

「討てない!討てるわけない!」

 

「竜胆ッ!!」

 

「嫌だ!!殺したくない!死にたくない!ぼくは、ぼくはぁ……!」

 

「───!分からず屋!"量子変換"!!」

 

耀は右腕の量子に変えて竜胆の腕を強引に動かした。

 

「なっ───まっ、待ってくれ!待って!やめ───」

 

「さよなら、竜胆───やめろ!ワタシはまだ!まだやりたいことが!自分勝手だけど、最後に貴方に会えてよかった───」

 

「いや、やだ……やめて、やめてよ、やめてくれ!

 

"耀"───────!!」

 

無情にも耀によって操られた腕は、九頭龍の舞斧は振るわれる。

 

耀は最後に笑っていた。なにに笑っていたのかは定かではない。だが、その顔は間違いなく、これから死にゆく者が見せるような顔ではなかった。

 

「嬉しいな───私を、その名前で呼んでくれるんだ」

 

───私はチューリップ……報われることのない、悲恋の花言葉───

 

◆◇◆

 

「───あ、れ?」

 

「───う、りんどう。竜胆!」

 

「……耀」

 

気づけば竜胆は"アンダーウッド"の模擬店売り場の近くにいた。

 

「今までどこにいたの?探したんだよ」

 

「え、そう、なの?あのさ……俺、どのくらい探されてた?」

 

「え?ほんの五分くらいだよ。ちょっと探したけど、すぐにここでボーッとしてたから。

ほら、行こう。私と食べ歩き、するんでしょ?」

 

竜胆の手を握る耀。その手はなぜか、酷く懐かしく、悲しさを感じた。

 

「り、竜胆……?なんで泣いてるの?」

 

「……え?」

 

竜胆は無意識のうちに泣いていた。どうして泣いているのか、なんで耀の手の暖かさが懐かしく思うのか。それは竜胆にはわからない。

 

「なんで……だろう」

 

「……変なの。やっぱり竜胆って時々よくわからないことするよね。それも……"人類の希望"の副作用?」

 

「そんなはず……ない」

 

「あー!竜胆くん!」

 

「ぬ、竜胆ではあるまいか」

 

そんな時、突然最近聞いた覚えのある二人の声が聞こえた。

 

セックとエイーダは見知らぬ女性を引き歩いていて、竜胆の首を傾げさせた。

 

「セック……エイーダ」

 

「ええ!?なんで竜胆くん私達見ただけで泣いてるんですか!?」

 

「ほんに子供じゃのお主……ほれ、面識のない朱里が困っとるじゃろ」

 

「……朱里?」

 

「うむ。本来なら儂に変わって白夜叉に呼ばれていた者じゃ。本来は秀里という男なのじゃがな……湯やら水やらを被ると性別が変わる故、今回のギフトゲームは遠慮しておったのだよ」

 

「うへー。話に聞いたとおり、本当に女の子みたいだね竜胆くん」

 

「お主には言われたくなかろう朱里」

 

「……秀里」

 

秀里。その名前に聞き覚えがないのに、何故か知っている。

 

なにか大事なことをそいつに言われたような……そんな気が。

 

「……どうする?竜胆。それじゃ二人で食べ歩きできないね」

 

「え……あ、ああ!こーなったら俺の男らしいことろ見せてやる!金なら幾らでも払う!今日は四人とも俺の奢りで好き勝手しろってんだ!」

 

「竜胆くん太っ腹です!(あと男っぽく振る舞うところが可愛い!抱きしめたい!)」

 

「"ノーネーム"の割には偉く太っ腹ではないか。うむ。今日くらいは儂も乗っからせてもらおう」

 

「竜胆くんカッコいいー!私惚れちゃいそうだよ!」

 

「竜胆……遠慮なく食べるけど、いいの?」

 

そうして竜胆は今更自分の発言を後悔した。ヤバい。絶対コイツら俺の奢りをいいことに好き放題やらかして屋台が壊れたとしても修理費俺にツケる気だ。

 

「……は、ははははははは!!お、男に二言はない!やってやろうじゃないか!」

 

そうして竜胆の財布が空以下になって、暫く料理店が私情で赤字になったのは秘密だ。

 

竜胆の記憶からはリップという記憶は消えた。

 

だが、なければ失った分を育めばいい。竜胆はそうして、失った家族だって育んだのだから。

 

───ありがとう、竜胆

 

その言葉は喧騒の中に消え、竜胆の記憶の奥底に、思い出せないくらい小さく封じられた。

 

 




記憶なくなったら話の意味なくね?とか思うでしょうが、少なくとも彼ら四人には無意識下にこの虚構の箱庭での出来事を覚えています。

まー、ゲームの結末を見ればわかるでしょうが、世界の鎖とは世界の全てを支配していた人形部屋のことを指していたんですね。

ですからぶっちゃけると、竜胆くんはこれから更に耀ちゃんさんに対して無意識に殺してしまったことへの罪悪感を感じてしまうので、ストーリー的には結構大きく絡んでいます。

あ、あとなんでリップ隷属しないの?とかに関してはリップは肉体の主導権を得た耀ちゃんの"量子変換"によって自分の魂もろともリップの魂をタマモの末路と同じく存在をなくして初めから存在しなかったことにしたのです。元々なかった存在はいくら魔王のルールでも再生して隷属はできなかったということです。



次章予告

「殿下。そう呼ばれている」

「じゃあ私も貴方もリンですね!」

「サンドラ……その人達は?」

「あ!怖い女のお兄さん!」

「サンドラ……頼むからその呼び方はやめてくれないか?」

「私怖い!この檻が、私をまた殺すんじゃないのかって!」

「キミは、死なない」

次章 原初龍と輪廻龍

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