問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?   作:エステバリス

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孤独の狐今年最後の更新です!

いや、なんかすんません!年末もいいとこなのにゲームハマって……はい、サーセン。

それでは虚構の箱庭編を挟んだ第六章、スタート!




原初龍と輪廻龍
一話 音色《ついおく》


……いつぐらい、だったろうか。

 

そう、確か……七年前。俺が初めて稲穂に触れたのは。

 

あの時はなんというか、すごく感動した。俺の身体の都合上、俺はありとあらゆるものの生命というものに気付けば関心を寄せていたのだ。

 

これはこうだからこうだ、とか。絶対に他の人には解り得ない自分だけの世界に没頭するのが大好きだったのだ。

 

「リ~ン~!なにやってるの?おねーちゃんも混ざっていいかな?いいよね?ダメって言っても行くからね!答えは聞いてないからね~!」

 

……ああ、お姉は昔っからこんなのだったな。

 

そう言えば、母さんが昔仕事で外国に医学の勉強に一ヶ月くらい旅立った時だ。俺は母さんに無理を言って同行させてもらった。

 

多分、本意ではなかったんだろう。なにせ母さんの人生は俺がキマイラになった時からなにもかもが変わったから、きっと勉強っていうのも嘘で本当は外国に行ってまで俺の身体を弄り回したヤツらに復讐しに行ってたんだろう。息子にそんな姿見せたくなかったんだ。

 

だって母さんは笑顔になれないのにいつだって家族の前では笑顔だなんて呼べるはずのない、メチャクチャな笑顔を無理に作っていたから。

 

そんな母さんの顔を見る度に俺は申し訳なくなって、俺がいていいのかだなんてガキの頃からずっと思ってた。あの時はいらない正義感なんてよく捻り出してたものだ。

 

……そんな時だ。母さんが丸一日だけ帰れなくなった日があった。別に俺は当時から自炊はできたし、そもそも外国に来てからというもの、自炊どころか包丁すら握ったことのない母さんに代わって料理を作ってたからそこは問題なかった。

 

でも、流石に俺は外国で丸一日親のいない環境下で暮らすということには耐え難かった。思わず泣いてしまった。でも……

 

『……貴方、男でしょう?なんで男のくせに泣いてるの』

 

そう、声が聞こえた。当時は涙で視界がぼやけて誰が俺に喋りかけたのかもわからなかった。いや、今もわからない。いくら記憶力があっても見えなかった景色を覚えれるはずがないのだ。

 

俺がただただ泣きじゃくってると、その声の主は弱ったような顔をして───

 

『参ったわね……あ、そうだ』

 

そういうとその子は俺の目の前に一つのオルゴールを置いて、その曲を鳴らした。

 

その曲の音色ははっきりと覚えている。優しくて、包みこまれるようで。思わず泣くのをやめたぐらいだ。

 

『この前拾ったのだけど、ちゃんと使えるようね。……そうだ、それは貴方にあげる。今度会った時にでも返してくれればいいわ』

 

そう言うとその子の声は『じゃあね、バイバイ』という一言を最後に聞こえなくなった。

 

その後も暫くオルゴールは鳴り続けて……やがて、止まった。

 

止まったオルゴールがすごく寂しくて、また泣きそうになったからオルゴールを鳴らそうとした……でも、そのオルゴールは決して音を奏でる事はなかった。

 

まぁ、当たり前か。巻きネジがなかったんだから。今思えばあの子はすごく慌てん坊だったんだろう。落ち着けるためにあげたオルゴールの巻きネジを忘れるなんて。

 

それ以降、俺はそのオルゴールを後生大事に持っていたが……それも、家族が死んだ時に一緒に燃え尽きてしまった。

 

……そうだ。今度時間があったらオルゴールでも作ろう。作り方は知ってそうな黒ウサギか十六夜にでも教えてもらえばいいし、あの曲の音は今でも憶えてる。

 

あゝ、今日もいゝおつきさまだ。

 

◆◇◆

 

「……農園に来たらこれか」

 

「ご、ごめんなさい竜胆様。ペストさんも白雪姫様も『米だ、パンだ』と言い争いになってしまって……」

 

「で、その結果最終的に罵倒のし合いになったと」

 

「キャベツの千切りもできないくせによく言うわねムダおっぱい!」

 

「なんじゃとぉ!?二時間もあれば千切りくらいこなせるわ!ナイムネ!」

 

「ずっとあんな感じで……」

 

「……リリ。今日は中華料理だ。暫く中華で行く。これ以上女同士の惨めな貶し合いは見てられない」

 

「……ですね」

 

そして竜胆は年長組を一箇所に集め、ペストと白雪姫をガン無視して麦と米の収穫に勤しんだ。

 

暫くして後ろからレティシアの説教が二人に対して降り注いだが、そんなの御構い無しに竜胆達は農作業を続けていった。

 

◆◇◆

 

「は?オルゴールの作り方を教えてほしい?」

 

「な、なにを急に『二人に頼み事がある』なんて真剣な顔でおっしゃるかと思えば……」

 

「真剣なんだよ黒ウサギ。オルゴール作りたいんだ」

 

「と、言われましても……私達月の兎が箱庭に招かれたのは時期的にオルゴールが社会に普及するより遥か昔。私も詳しいわけでは……」

 

「同じくだ。お前、いくら俺が多芸でスゴいからって買いかぶりすぎじゃねぇか?いくらなんでもオルゴール製作なんてマニアックなことしたことねぇよ」

 

「……そうか。残念だ」

 

十六夜と黒ウサギの返答は半ば予想してはいたが、やはり無理の一言を伸ばしたものだった。

 

竜胆はため息をつくが、すぐにいつもの表情に戻ってその場から去ろうとする。

 

否、去ろうとしないと十六夜になにを言われるかわからないから去りたいのだ。

 

「……竜胆、お前オルゴールなんか作ってどうするつもりだったんだ?」

ほら来たー、と竜胆はため息をつきながら十六夜の方に振り返る。そして二、三秒ほどタメ、ゆっくりと言い放つ。

 

「……キ、キブンダ」

 

「なんつーわかりやすい嘘」

 

「片言でまるわかりでございますね」

 

そもそも隠し事を隠し通す意地に定評があっても嘘が苦手な以上これはもう逃げられないだろう。竜胆は観念してポツリと呟いた。

 

「……昔、女の子……?に貰ったオルゴールのことを思い出した。そしたら作りたくなったんだよ」

 

「女の子……?って、お前それなんで疑問形なんだよ」

 

「顔もわからないんだ。あの時は顔を見ることもなかったからな。喋り方に抑揚があったから女の子だと思っただけだ」

 

竜胆は呪術で自分が次元の歪みの中に保管してある場所から紙と鉛筆を引っ張り出し、ガリガリと絵を描き始め、終わった。

 

「速えな。さすが」

 

「そんなのはどうだっていいだろ。重要なことじゃない。オルゴールはこんな感じだった」

 

「巻きネジがねえぞ?巻きネジのカタチは?」

 

「その子、俺に巻きネジ渡すの忘れてたからカタチも知らない」

 

「なんと慌てん坊な……」

 

「だな。今思えばホントにそう思う。でも……いや、だからこそ作りたいんだよ。

顔も知らないあの子のオルゴールをさ」

 

竜胆が頬を掻きながらオルゴールの絵を眺める。その顔はどこか嬉しそうであり、多分並の男が見たら欲望に任せて襲いかかりそうなくらい可愛かった。

 

だがしかし、十六夜は揺れる小舟の中黒ウサギともつれ合って彼女の胸部を押し付けられても『役得だな』程度にしか思わない猛者。今回も『可愛いな。写真でも撮ればまた弄り甲斐のありそうな顔をしてる』くらいの反応だった。

 

反対に黒ウサギが萌えすぎて悶えていたが。

 

「ってかよ。オルゴールならこう、当時流行ってたと思うお嬢様とか未来の技術でうんたらと春日部とかに頼めばよくないか?なんでわざわざ俺達に頼みに来たんだよ」

 

「……十六夜なら、なんでも知ってそうだったから」

 

「人をネコ型ロボットみたいに言うな。俺にだってできないことはあるんだよ」

 

「あのー、じゃあ黒ウサギは?」

 

「なんとなく、黒ウサギなら知ってるかなーって。ウサギは騒音が苦手らしいからオルゴールは好きなんじゃないかと」

 

「そ、それは確かに私は騒音が苦手ですし、オルゴールも好きかと問われれば好きデスけど……そんなに積極的に聴くほどじゃありません」

 

はぁ、と無意識にため息をつく竜胆。普段から誰かに心配されたがらない彼らしくないそれは一層二人を申し訳なく、同時に不安にもさせた。

 

豆腐メンタルの彼に支障がなければいいんだけど、的な意味で。

 

◆◇◆

 

所変わって、耀の部屋。

 

春日部耀は"アンダーウッド"から帰って来てすぐの頃から感じている違和感に頭を傾げ、その原因について考えていた。

 

なんというか、身体が妙に熱い。熱とかそういう病の類ではないのはいつにも増して健康な身体が証明しているのだが、それがかえって不安だった。

 

そしてそれは今朝、意外なカタチで判明した。

 

「っ……!?」

 

突然、彼女の右腕が燃え盛り出したのだ。だが、熱を感じなければなにかが燃えたような跡もない。

 

「なん、なの……これ……!?」

 

『……ぬぅ。地に降り立つこと自体は幾度と屈辱と共に味わっていたが、人間の娘を依り代として降り立つのは初めてか』

 

「……え?え!?」

 

普段からマイペースで慌て顔をあまり見せたがらない彼女が思わず素で驚いてしまった。

 

『……おい娘。娘よ』

 

「……え?え?」

 

『聞いているのか娘!』

 

「……どうしよう。これじゃご飯食べる前に炭になっちゃう」

 

だが彼女がこの事態で一番気にしているのはそれだった。流石の食い意地。今日は和か洋かと待ちわびて思考を巡らせているが、今日はペストと白雪姫のせいで中華料理になっている。

 

『おい小娘!?どうして我よりも飯に頭が傾く!?』

 

「そうだった。貴方は誰なの?どこにいるの?」

 

あ、と耀は自体を再確認し、半ばどうでもよさそうに問いた。

 

だがその者は聞いてきたことにかなりテンションが上がった。

 

『えっ、いきなりか……まあよかろう。我は"ククルカン"、気軽に呼ぶといい、ヨウ』

 

ククルカンと名乗ったその存在はクククと笑いながら耀にそう言うが、本来ならここで提示される問題『なんで私の名前を』には彼女は一切触れなかった。

 

ククルカンはその質問が来なかったことに凹んでいたのだが。

 

「それよりククルカンはどこにいるの?あとなんで私に話しかけてるの?」

 

『しっ、質問には答えるが、(なれ)はなぜ汝自身の名を知っているとか、そういう前提条件を疑問に思わないのか?』

 

「知らない人に突然名前を呼ばれるの初めてだから気づかなかった」

 

そこでようやく耀はそのことに気づいた。これにはククルカンも唖然としている。

 

『……ま、まぁよかろう。語ろうか。なぜわれ我が汝の名を知っているかと問われると』

 

「いいから早く質問に答えて。その過程でその理由も必要なら語って」

 

『……酷い……』

 

完全に凹んでしまったククルカン。しかし耀はガン無視。

 

「早く」

 

『……あーわかったとも。言えばいいのだろう言うとも』

 

それでもなお急かされるのでククルカンは半ばヤケになって耀に語り出す。

 

『我はこれまで幾度となく現世に現界した。此度は偶然汝の身体を依り代としただけでな。で、我が汝の身を依り代としてこの世界に現界した理由はただ一つ。あんの憎きヤツをブチのめし再び太陽の主権を取り戻す!これしかあるまいに!』

 

「……太陽の主権。それって白夜叉のこと?」

 

『白夜叉?ヤツはそのような名ではない。あぁぁあああんにゃろうの名前を、ふざけた格好を思い出す度に殴りたくなる……一時とはいえアレに協力した自分もぶん殴りたくなるわ……!』

 

「……はぁ」

 

なにはともあれ、一応このことは伝えない方がいいだろう。太陽の主権の件について白夜叉が関わらない以上、耀はククルカンをどうするつもりもないし、ククルカンは耀に取り憑いているだけでヤツというのに会わなければなにをすることもなさそうだし。そもそも"ノーネーム"にはお節介焼きで心配性なくせにお節介を焼きたくなって心配になる少年がいるのだから、余計な心配を少年にかけたくない。

 

「……うん、このことは黙っておこう。竜胆やみんなに余計な心配かけたくないし」

 

そうして耀はククルカンに頼んで腕の炎を消してもらって食堂へと足を運んだ。

 

彼女のギフトカードには一つ、"金星の創世神"(ヴィーナス・ラ・クリヱィター)というギフトが記されており、それはこれから始まる戦争の火蓋となることもしらずに。

 

 




というわけで今年最後の孤独の狐でした!

耀ちゃんさんに取り憑いたククルカン……多分わかる人ならすぐにわかります。ギフトネームとかすげぇドストレートですしね!

つまり、ククルカンの正体わかればあんにゃろぅの正体もわかる!一石二鳥!

……ぁ、でもわかっても感想のとこで答えるのは……こう、ナ、ナンダッテー的なのを、ね?

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