問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? 作:エステバリス
今年の初投稿!みなさん今年も孤独の狐をよろしくお願いします!
時は暫く経過し、北側へ。ジンの"ノーネーム"は"階層支配者"の招集会の動向という"ノーネーム"では考えもつかない大抜擢を受けてやって来ている。それもホスト側からの直々の指名だ。
ジンとペストはその招集会に参加すべく北側の都"煌熖の都"に集い、そこでサンドラとジャックの歓迎を受けていた。サンドラとペストはいつ爆発してもおかしくないくらい淀んだ空気だったが。
そんな素晴らしいを通り越して奇跡とでも言うべきそんな時、問題児達は───
「おお!思った以上に絶景じゃねえか!」
「ええ。炎と硝子の街だけあって、まるで地上の宝石箱だわ」
「うん。"アンダーウッド"とは対照的な景観」
北側の都、"煌熖の都"の発展の象徴たるペンダントランプの上で、どう見ても不法占拠しながら若干一名を欠けてお弁当を広げていた。
思わずジンはずっこけた。
「な、なな、なんで十六夜さん達があんな所に!?」
ジンとペストに先駆けて北側に来ていた彼らであったが、流石にこんな大事なことがある中で問題行動を起こすことはなかろうと思っていた。思いたかった。
だが、現実はそうも上手くいかない。よりにもよって"サラマンドラ"の秩序と権威の象徴たるペンダントランプの上であんなことをしてしまっては信頼問題に発展し、招集会から叩き出されても文句の言いようもない。
「と、とにかくペスト!あの三人をバレないうちに無理やりにでも降ろして───」
「貴様らああああああああああああああああああああああああああッ!!!誰の許可を得て其処に立っている!?」
時すでにお寿司、否遅し。眼下では既に"サラマンドラ"の憲兵が集っていた。
ジンは頭を抱え、普段の苦労が滲み出るような顔つきをしていた。
「………………あのさ、ペスト」
「なぁに?」
「キミの力で皆さんを暫く大人しくさせられないかな?」
そしてこの有様である。問題児と過ごすうちに自然と彼の中でもモラルが崩れ始め、性格が荒み始めているのだろう。ともかく、声が静かな分物騒極まりない。
「出来なくはないけど、終わった後はジンの命が危ないんじゃない?」
ペストはニヤリと笑う。そしてジンは御免被るという顔を。
「……専門家に任せよう」
「そうね。それが無難だわ」
「彼女らならば回廊を抜けた先の宿舎にいるはずですヨ」
「ありがとう。ペストはすぐに二人を呼んできて」
はいはーい、とペストはメイド服を揺らしながら宿舎へと向かっていった。
一方問題児達。
三人はペンダントランプの端に座って眼下を見降ろす。その遥か下には"サラマンドラ"参謀のマンドラと憲兵団が、
「ふざけているのか貴様らッ!?そのペンダントランプをなんだと思っている!!さっさと降りて来い大バカ者ども!あとなんかペンダントランプにヒビ入ってるけど弁償するんだろうなぁ!?」
これを三人は完全に無視。彼らはふざけているのではない。真面目に、真剣に、悪戯をしているだけなのだ。
「それじゃ、そろそろ遅めの昼にするか」
「そうね。竜胆くんがいないのが残念だけど」
「竜胆、急に『お前らといると嫌な予感がする』って言って宿舎の厨房に籠っちゃったからね」
十六夜達三人は宿舎を出る前に竜胆に貰ったお手製のお弁当を広げ、歓談に勤しみ出す。
十六夜は梅鰹おにぎりを口にし、思い出したように問う。
「そういえば春日部。登録したギフトゲームがまだ一つ残ってるそうじゃないか。どれに出るつもりなんだ?」
「火龍誕生祭で登録した"造物主の決闘"。今回はリベンジ」
「ふふ、今回こそ勝てるといいわね春日部さん」
飛鳥の言葉にこくんと頷いた耀はパクパクとおにぎりとサンドイッチと唐揚げを驚異的な速度で頬張る。
(美味しい。竜胆のご飯はやっぱり美味しいな。スズがあんなに絶賛してたのもやっぱり頷ける)
因みにスズとはアホおねーちゃんこと鈴蘭のことである。彼女は竜胆の作るご飯ならお米だけで一年過ごせると言ってのけている。それほど竜胆のご飯が美味しいのだろう。
或いはブラザーコンプレックスとも言う。弟は弟でシスコンなのだが。
『むぅ……汝の口を通して我にもこの食物の味が染み込んでくるぞ。なかなかにいい味ではないか』
そんな時、彼女の脳裏にククルカンの声が聞こえてくる。
───うん。私が今現在この世で一番好きな料理人が作った食べ物───
『一番好き……か。ここ二日間汝の言う料理人を見てきたが……なるほど。あれはまたよい伴侶となるであろうな』
───そうかもね───
軽く振った、料理人の耀に対する心の代弁をククルカンはしてみたが、耀の反応はまるで他人事。思わず二日で色々と察してしまったククルカンも呆れてしまう。
『……そうだな。まったくどうして、汝という女子は他人の心を掴む癖にこうも無知なのだ?』
───……?どういうこと?───
『気にせずともよい。そのうち知ることだ』
ククルカンとの秘密の会話も終わらせ気合も頬袋も心境もいっぱい。そんな時もマンドラの声が聞こえた気がしたが、無視。
「十六夜くんの予定は?」
「俺?俺は特にねーよ。今日は散策にでも行こうと思ってたからお嬢様に付いて行ってからはまったくのノープランだ」
「そう。でも意外ね。普段から考えすぎなくらい計画練ってそうな十六夜くんなのに」
「そうか?」
「うん。でも偶にはこういう日もあっていいかもしれないよ。十六夜は普段から色々考えすぎだから、もう少し周りに合わせて生きて欲しい」
「それはなんとも難しい注文だ。この段階で竜胆以外のヤツらにはだいたい合わせてるんだけどな。竜胆は言わなくても合わせてくるから合わせる以前の問題だし……っと、考えすぎで言うなら竜胆も竜胆だな」
「ええ。あれはどう見ても考えすぎね」
十六夜と飛鳥が耀を見ながらプークスクスと笑う。
「うん。人生難しく生きてる。あんな誰彼構わず助けて一人で抱え込む竜胆はそのうち考えすぎで老けちゃいそう」
そして耀も言ってしまう。そんな彼女に対して十六夜と飛鳥はお、おおうみたいな目で耀を見る。ククルカンも顔があればまさしくそんな顔をしている。
会話の趣旨が違うのに成立してしまった。彼の恋模様と彼の人生模様という違うにも程がある内容の会話はなぜか混ざっても違和感がない。
「それじゃ、お嬢様はジャック達と合流。御チビと竜胆は招集会会場の挨拶回り……竜胆と御チビは合流場所を決めてあるそうだが。春日部はゲームに参加」
「あら、ジャックも来ているの?」
「ああ、最後の同盟相手の紹介と……お嬢様へのプレゼントを用意してな」
ニヤリと笑う十六夜。キョトンとする飛鳥。竜胆のお弁当美味しいと頬張る耀。三人の真後ろで殺意の波動的なものを出す黒ウサギ。後ろで気付かずに美味しい美味しい言われて赤面する竜胆。
一名は気付かずだったが、やはり無視。
おにぎりに添えられた油揚げをひょい、と口に投げ込んで十六夜は勢いよく立ち上がる。
「それじゃ、ここで一度解散とするか」
「ふぉうふぁふぇ。ふぁふふぁふぁほぉうふふふぉ?(そうだね。飛鳥はどうするの?)」
「どうするもなにも、私一人じゃ降りられないわ。二人のどちらかに降ろしてもらわな
「だったら黒ウサギがたたき落としてあげますこの問題児様方ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「お、美味しい?お、美味しいって……こんなにストレートに言われたの初めてなんだけど……ど、どどどどどうしよう!?ステーキの時は勝負だったし感想聞く間も無く馬肉騒ぎになってたし、それまでは感想なんて軽く聞き流してたし……あ、わわわ……ほ、褒められた……耀に褒められた……!」
ズパパパァアン!!!と勢いのあるハリセンが迸り、三人はペンダントランプから叩き落とされる。ついでに三人を叩き落とすために呼ばれた一人は嬉しさのあまりトリップして降りる気配もなく、叩き落とされる側になっていた。
◆◇◆
「……悪い、ジン。叩き落すために呼ばれたのに気づいたら叩き落されてた」
「いえ……貴女の料理を食べてる彼女という状況で貴女を呼んだ僕の落ち度でしたから」
そうして叩き落された四人のうち三人は亜龍達との鬼ごっこを繰り広げ、一人はリーダーと反省会。
「全くその通りね。ジンはジンでもう少し自分でなんとかする方法を覚えるべきだし、リンドウはリンドウで平和ボケが過ぎるんじゃない?」
ペストが皮肉たっぷりに二人を糾弾。当然二人は反省するが、ジンは竜胆達が箱庭に来た当初とは違い、怯みかけこそはしたもののすぐに気合を入れる。
「確かにその通りだ。何時までも二人に任せていられない。僕ももっとしっかりすべきだ」
「その意気だ。……まぁ、」
「その意気ね。……まぁ、」
「「百年後くらいには一矢報いて死ぬんじゃないか/死ねるんじゃないの?」」
「はは……はぁ」
二人揃って出た忌憚のない意見にジンは脱力して肩を落とす。
「さ、それじゃそろそろ行こうか」
「何処に?」
「挨拶回りだな。召集会に来るコミュニティは俺達のように支配者だけじゃない。
今後の支配者の動きを知りたいであろうコミュニティなんてごまんといるから、名前を売るにはいい機会だ」
なるほど、と納得したペストは二人とともに"サラマンドラ"本拠に足を伸ばしたのだった。
◆◇◆
竜胆の心境は不可解なものでいっぱいだった。
(……さっきからなにかに見られてるような気がするな。いや、見られてるというよりは……見られていた、か?
今はそうでもないが、今度は若干"サラマンドラ"の近衛兵がうるさくなってきている……これは、なにかが起こっているな)
獣の力により発達した聴覚は竜胆に知りたくなくても細かな情報を与えてしまう。この辺はある程度自分で出し入れできる耀のものと比べると不便だ。こうも聴覚が発達しているとそのうち発達しすぎてあらゆることを逆手にとられかねない。
(ともあれ、今は俺達に関係は───ん?)
そんな中、上方向から空気を裂くような音が聞こえた。これは……落ちている、だろうか。
「ジン、上」
竜胆がぼーっと思案しているとえ?とジンの間抜けな声とペストの冷静な声が聞こえ、振り返ると。
宮殿の天井からフード姿の人影がジンの頭上に落ちてきた。
「ってちょっとなんで───!?」
ジンが理解するより早く人影に押し潰された。
ゴベギッ、とか色々鳴っちゃいけない音が鳴ったかと思うとペストは悠々とジンの前に歩み寄り、ドSな目でジンを見下ろし……
「……ちっ」
「なんで舌打ち!?なにに対する舌打ちなの!?」
「主人の無事を呪ったメイド的舌打ち」
「死んだらシャレにならんぞペスト」
「ジョークよリンドウ」
さも当たり前のようにそう言うペストにジンは言い返そうとしたが、落下した人物がそれを遮った。
「……ジン!?ご、ごめん!怪我はない!?」
突然自分の名前を呼ばれたのでジンはヒヨコが見えそうな頭を抑えながらその人物を見て、叫んだ。
「サ、サンドラ!?ど、どうしたのその格好!?」
「事件の捜査にお忍びで出かけるところ。ジンも来る?」
サンドラは赤い髪を揺らしながら無垢な瞳で小首をかしげた。
竜胆はその顔がこちらのサラとダブり、やっぱり姉妹なんだなと思わされる。
「あ、あのねサンドラ。キミは仮にも北の"階層支配者"なんだよ?そう無闇に外出するもんじゃないし、第一召集会の時間が迫るこの頃に」
「うん。だからその前に終わらせようって三人で決めたの」
「いやだから、そういうことじゃなくて───」
三人、という言葉にジンは言葉を切った。
そういえば、人影は三つあった。ジンはサンドラから視線を離し、背後で沈黙していた二人に声をかける。
「貴方達は、"サラマンドラ"の同志ですか?」
「………、」
二人は麻布のフードを被り黙り込む。その見た目は背丈からジンと同年代と思われる。
それが怪しさを助長させ、ジンはじっと二人を見つめていた。
「べ、別に怪しい人じゃないの!1年くらい前から仲良くなった二人で……その、ジンにも紹介しようと」
サンドラは両手を振ってしどろもどろと説明しようとするが、一人が見かねたのか、不思議な声を挙げた。
「慌てなくても大丈夫だよーサンドラちゃん。私達の身分はそこのメイドさん───ペストちゃんが保証してくれるから」
刹那、ペストの顔が強張った。
麻布のフードを被った二人は示し合わせたようにフードを外し、顔を露わにした。
「な……!?」
「………?」
その二人の顔を見たペストは間違いなく、動揺していた。
その二人はジンとほぼ変わりのない年代と見て取れる少年少女だった。
「私はリン。こっちは殿下。よろしくね、ジンくん」
「……殿下?」
「……よろしく。訳あって名は名乗れないが、好きに呼んでくれ」
「……で、ジンくん?そこの、ペストちゃんとジンくんと一緒の女の人は?」
もう竜胆は女の人と呼ばれても動揺しなくなっていた。いや、動揺することが無意味なのだと一種の悟りを拓いていた。
「俺は男だ。俺は……リン、とでも呼んでくれ。偶然にもキミと同じ呼び方になるが、そこの殿下と同じ、訳あって名乗るのはよしとく」
「ぅわお!私と同じ呼び名なんだね!ますますお姉さんっぽいよ!」
「あ……怖いお姉さん!その節はお世話になりました」
「……サンドラ。頼むからその怖いお姉さんはやめてくれ。傷つく」
(嘘……!?なんでリンと殿下が……!?なんで、二人が"サラマンドラ"の宮殿に……!?)
ほんわかとした空気、ほんわかとした空間の中、ペストは冷や汗を禁じ得ない状況となっていた。
少々駆け足気味ですが、リンちゃんと殿下の登場です!うへへ、ロリショタはやはりよいですなぁ……じゅるり。