それは幸せか、不幸せか……それは本人達にしか分からない。
「死ね」
そう言って私はそいつにナイフを突き立てた。そして、抜いては刺し、抜いては刺し、抜いては刺しの繰り返し。それを何十回も繰り返すと、出血多量で死んだのかそいつは倒れた。そして何事も無かったかのように傷が治った状態で復活した。
「そんなんじゃあ、僕を殺せませんよ?もっと絶望に叩き落としてから殺さないと」
そいつは自分が殺された事に何も文句も言わず、逆にアドバイスをしてくる。だが、そのアドバイスは一番最初に言われた物であり、ただわかってる事を言われてるに過ぎなかった。そんな些細な事でさえ腹が立ち、殺したくなる。
「うるさい、黙れ」
次はナイフで首を撥ね飛ばす。しかし、数秒後に体の方が頭を拾い、また復活する。簡単に殺そうとしても絶望は与えられない。だからそいつは死なない。だが、殺さなくてはならない。そいつを殺さなければ幻想郷は滅んだままなのだから。
「て言うか、その殺し方何回もやったじゃないですか。同じ殺しかたしても絶望は生まれませんよ?」
そう、もうそいつは何度も殺した。絞殺、刺殺、溺死、毒殺、圧殺、撲殺、斬殺、惨殺、殴殺、焼殺……もう、いろんな方法で殺したが、何度も蘇ってきている。やはり、幻想郷のみんなが与えられた絶望以上の絶望を与えて殺さなければ死なないのだろう。
そいつは私以外の幻想郷の人間と妖怪を殺して、生き残った……生き残された私に言った、『僕を殺したら時が戻りますよ?勿論、幻想郷が平和だったあの頃にね。』と……その言葉を聞いた私はすぐさまそいつを殺した。弾幕を撃って殺した、そいつの上に乗って首を絞めて殺した、周りの木を倒してそれでそいつ潰して殺した、そいつの顔を土に埋めて殺した。だが、そいつは死ぬ度に蘇った。
100回以上、殺した所で私はこのままではそいつは殺せないということに気づいた。そして、私が殺さなくなった所でそいつはまた話始めた。『ただ殺すだけで僕が死ぬ訳無いじゃないですか。僕を殺すには幻想郷の人々が味わった絶望以上の絶望を与えないと……貴女に出来るかどうかは分かりませんけどね』
その時はそんな姿に苛ついてまた殺した。しかし、当然のようにそいつは復活した。そして、その日から私とそいつの生活が始まった。それから10年、未だに私はそいつを殺せていない。
「あれ、もう手を止めちゃうのかな?」
「……気が変わったんですよ。朝ごはんでも作って来ますよ」
「うん、ナイフを心臓に刺しながら言う当たり、まだ気が変わってないと思……」
そして、そいつは倒れる。どうせ数秒後にはまた復活するのだろう。そいつを気遣う必要は無い。私は台所に着くと、料理を始めた。まあ、朝食なのだからご飯と味噌汁という粗末な物だ。一応、そいつの分も用意している。毒?全ての料理に少しずつ入れたから大丈夫だろう。そんな事を考えていると出来たようなので、二人分の料理を居間へと運ぶ。居間には心臓からナイフを抜いた、そいつがいた。
「あれ、もう朝食?」
「そうですよ。はい、どうぞ」
そういいながら、毒の入った料理を渡す。そいつは臆することなく食べ始めた。それに合わせて私も食べ始めた。
「ねえ、なんか食べ進めると苦しくなるんだけど、毒入れてる?」
「当たり前じゃないですか。何を今さら」
「そうなんだけどね、この量の毒じゃあ死ぬのに時間かかるというか……なんというか……長い時間苦しむと思うんだけど……」
「当然ですよ、そのためにその量の毒を入れたんですから」
「この鬼‼悪魔‼天狗‼」
「最後、急にランクが下がりましたね。あと、ご馳走です」
そういいながら、私は食器を片付けに台所へ向かう。
「待って、食べるのいつもより速くない?」
「いや、目の前に苦しんでいる姿が見えましてね。いやぁ、ご飯が進む、進む」
「……さすがに鬼畜過ぎると思うんですけど⁉」
「幻想郷の住民らを絶望に叩き落としてから殺したやつが何を言ってるんですか」
私はそいつを睨み付けながら言う。そいつへの恨みは十年たった今でも消えてはいない。何故なら私は実際に見たのだ。自分の能力で。空から落とされ、地べたで殺された博麗の巫女。自分の技で全くダメージを与えられず、そのまま絶望してその間に殺された人間の魔法使い。自分の罠に落とされ殺された兎。
逃げ切れずに捕まり殺された月の兎。一度殺され、そのまま蘇ることはなかった不老不死達。自分の能力が発動しないと、そのまま殺された妖怪の賢者とその部下。格闘技で敗北し、満足した姿で殺された門番。会って数秒で殺されたメイド。狂気のまま殺された吸血鬼。妹を殺された怒りに身を任せ殺された吸血鬼。
最初から諦めた姿で殺された魔法使い。自然から絶ち切られ自然消滅した妖精。逃げ切る事が出来ずに殺された天の邪鬼。桜ごと消滅した亡霊。刀を折られ、抵抗も出来ずに殺された半人半霊。逃げる事も臆することもせず、達観した姿のまま殺された店主。実力の差を感じさせながら殺された花育て妖怪。
そして……そのプライドの高さが腹立つからと会うだけで殺された天狗達。他にも沢山の人間と妖怪と神が殺された。そいつの命と幻想郷の者達の命、どちらかを取るなんて決まっている。まあ、まだ殺せて居ないのだが。
「まあ、私は今から出掛けるのでさようなら」
「うわぁ……ついていきたいけど毒のせいでついていけない……」
「ざまあみろ……とは言ってもそれ程度で絶望するような人じゃあ無いことは分かってますから、せいぜい死ぬまで苦しんで下さい」
そいつにそう吐き捨てながら外に出る。そして私は山から出て無縁塚へと向かった。あそこには外の世界の物が落ちていたりする。外の世界の物ならばやつに絶望を与えながら殺せる物……は無くともヒント位は落ちているかもしれない。そいつは痛みとかでは絶望を与えられない。
カエンタケやドクササコ、ドクツルタケも笑って食べるようなやつなのだ……勿論症状には困らされていたが。因みに本人曰く、ちゃんと死ねるだけドクツルタケとカエンタケの方がましらしい。まあ、私は食べる気はないのだが。
まあ、ドクササコを食べた後のそいつは実に見物だった。何ヵ月にも渡って苦しむ姿は白ご飯だけでも進んだ程だ。そんな事を思っていると気づけば無縁塚に到着していた。適当にそこら辺りを歩き、何か無いかを探す。しかし、一通り見た所あいつに絶望を与えながら殺せるような物はなかった。
そんな中一つ目に止まる物があった。漫画だ。私はそれを手に取り中をパラパラっと読む。外の世界の漫画だ。でも、一巻ではない。少し、残念である。まあ、最初から楽しむ事は出来なくても何かそいつに絶望を与えながら殺すヒントがあるかもしれない。
そんな中、ある台詞を見つけた。『逆に考えるんだ「あげちゃってもいいさと」考えるんだ』というもの……逆に考える?つまりそれは私がそいつを殺さずに放って置くこと……そんなんでそいつが絶望するだろうか。
とてつもないうざい顔で「ん?今日は殺さないの?幻想郷は諦めたのかな?」とか言って来そうだ……ただの想像だと言うのにとてつもなく腹が立つ。無駄に10年も一緒に生活してきたせいか、声も顔も簡単にイメージできてしまう……ああ、腹が立つ。そいつは一体、何をしたいのか分からないのだ。
私を生かした理由も分からないし、急に幻想郷を滅ぼした理由も分からない。まあ、そんなこと聞いたってそいつは「暇だったから」の一言で済ませそうだが……腹が立つ。ほとんどの事をどうでもいいと思っているであろうそいつに、殺さない等しても意味があるのだろうか。て言うか、良く考えればこの10年間、毎日休む事なくそいつを殺している。まるで仕事のように……。
まるでこれじゃ、そいつに依存しているみたいだ。もしかしたら、それがそいつの狙いだったのかもしれない。1人だけ生かし、自分に怒りを感じるようにしそして好きなだけ自分を殺させる……ああ、もしもそうだったとしたらなんと私は馬鹿なのだろうか。
自分の怒りを発散するため、幻想郷を救う為に殺していたというのに、それすらもそいつの思惑通りだったという事になる……なんという事だ。私は全てそいつの手のひらの上で踊っていたという事ではないか。
それが真実とは限らない。だが、少しでも可能性としてあるのは事実だ。そいつはきっと楽しんでいるのだろう。何しろここまでうまく作戦が成功しているのだ。手のひらで踊っていた私はさぞかし滑稽だっただろう。
きっと、幻想郷は帰ってこない。そいつは嘘をつかない。きっと、幻想郷のみんなが与えられた以上の絶望を与えてそいつを殺したら本当に時が巻き戻るのだろう。だが、それは叶わない。滑稽に踊っていた私に一体なにができるのか。
もう、何もかもが手遅れだ。そもそも私は幻想郷の人物を覚えているのだろうか。おぼろげなら覚えているだろう、だがその人物がどんな性格でどんな関係だったかとなれば私は覚えていない。
それほど、私のほとんどがそいつへの復讐の気持ちを向けすぎているからだ。とんでもない事だ、復讐する理由を忘れかけているというのに何故こんなにもそいつへの苛つく気持ちは止まらないのだろうか。
ああ、ごめんなさい幻想郷の皆さん。私は貴方たちを助けることはもうできない。もう私には貴方たちを救う方法も勇気も資格も無いのだから。
……ああ、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。ずっと無心に立ち尽くしていたからか時間の経過が分からない。けど、もうすでに周りはとてつもなく暗くなっており風が葉っぱを揺らしている。鴉の声も聞こえる。
もう、夜と言った所だろうか。帰ろう、もはや地獄とも思える
「ただいま」
「お帰り。やっと毒が抜けた所だよ……全く苦しいから止めて欲しいね」
私が扉を開けるとそいつが目の前に居る。ああ、憎たらしい顔だ。だが、殺せない……今の私にはそいつを命を断ち切るという意味で殺すことは勿論、ただの行為としてもそいつを殺すことはできない。
その行為はそいつの望んでいることだからだ。殺したい、だか殺せばそいつの手のひらで踊っている事になる。それは嫌だ、だが殺したい。そんな私の気持ちがぐるぐると回り廻る。そんな気持ちをどうする事もなく「邪魔です」と言いながらそいつを横に押し部屋へと向かう。
「あれ、殺さないの?」
「気分ですよ、気分」
「ふーん」
そいつは私の返答にどうでもよくなったのか私が向かってるのとは違う部屋へと入っていく。今は何をしても殺されないとでも判断したのだろうか。とりあえず私は部屋へと行き食事の準備をする。
静かな部屋の空間ではもはや意味の無い時計の針の音がなっているだけだ。他にもあげるとしたら料理の音ぐらいだろう。水の沸く音や野菜の切れる音、本当にそれぐらいだ。
そいつが居なければここまでも静かなものなのか……これまではそいつへの復讐心が強すぎて気づかなかったが自分以外誰も居ない空間というものはここまでも静かなものらしい。きっとそれはこの部屋だけではなく、外の場所もそうなのだろう。
元は活気の溢れていた人里も、もう私とそいつしかいない妖怪の山も管理する巫女が居なくなり寂れた神社もここのようにただ自然の音だけしか出ないのだろう。とは言ってもここは人口の音しか出ていない訳だが。
……少し、外の色んな場所を見て回っても言いかもしれない。昔はだいたいこの山で監視役をしていただけなので幻想郷がどんな場所だったなんて覚えてはいないが、恐らくだいぶ変わっているだろう幻想郷を見ても、楽しいかもしれない。
どうせそいつを殺さないなら私はかなりの暇人なのだ。昔のように仕事もなく、将棋をやる仲間ももう居らずもはやこの前本で見たニートとやらと変わらないだろう。まあ、やっていたことがそいつを殺すとそいつを殺す方法を探すぐらいしかなかったのだ、仕方ないとも言えるだろう。
明日の予定がなんとなく決まったところで料理がちょうど出来上がる。匂いで駆けつけたのかそいつもやって来た。できた料理を皿に盛り付け机の上へと持っていく。私とそいつ「「いただきます」」の合図で食べ始める。
「……あれ毒は?」
「そんな事を疑問に思う前にその質問が常識から外れている事を疑問に思って欲しいところですね」
「いや、いつも入れているのは誰だと思ってるんだい?」
「さあ、知りませんね」
そんな会話をしながら食べ進めていく。するとまたそいつが質問をしてきた。
「なんか変わった?少し楽しそうに見えるね」
「女性というものは毎日変わりますよ。むしろ、人間の癖に十年も変わらない方がおかしいとは思いますけどね」
「俺の方が変わってると思うけどね。いや、変えられたというべきか」
「……何を言っているんですか?」
「さあね。どうでもよくないかい?」
「まあ、その通りですね」
それで会話はピタリと止まり、お互いにご飯を食べ進めた。そして数十分もすれば両方とも食べ終わり食器を片付ける。そして、お風呂わ沸かし素早く入り、適当に寝る。ああ、どんな場所なのかも分からないというのに何故こんなにも楽しみに思えるのだろうか。寝るまでの間、それを考えてみるというのも面白いかもしれない。さて、考えてみるか……。
朝日が窓から差し込む。どうやら考えている間にもう朝になってしまったらしい。まあ、一応妖怪なので睡眠などそこまで重要では無いのだが……良く考えれば何故妖怪の私は恐れの元である人間がそいつ以外にいないのに私はまだ存在できているのだろうか。
そもそも、幻想郷の住民を全滅させ、毎回死んでも蘇るそいつは何者なのだろうか……能力のおかげであろうことは分かるが。今、私がいる状況はいろいろと謎が多いようだ……まあ、いい。速くそいつが起きないうちに朝食を食べ外へ出掛けなくては……。
私は素早く、朝食を、作り食べ、あまり意味もないかもしれないが服を着替えて外へと出掛けた。とりあえず、確か人里とやらがあった場所へ行ってみよう。
「これが今の人里ですかね……」
私がついたその場所は大量の家があった。勿論、人の気配は無い。少なくはあるが色んな場所に植物のツタが伸びているようだ。とりあえず、目に入った家に入ってみる。床は老朽化のせいか軋む音がし、残されている家具全てに埃が広がっていた。タンスの中を開けてみると中にあるのは服、男物だ。
取り出してみると裏に封筒がある。その封筒の中から小銭の音がするのでへそくりというやつなのだろう。この世界でお金などもう意味は無いのだが。とりあえずここを出ようと服を戻し玄関へと戻る。対して何があるわけでもなかったが。何故か楽しく感じる。新鮮さというやつだろうか。一つ一つが新しく感じれるのだ。
適当に元人里を歩いていると一つだけ大きい建物があるので中に入ってみる。中に入るとそこには大量の本があり、どれもが埃を被っている。探してみれば外の本もあるかもしれない。私は本棚にある本をどんどんと取り出し、外の本を探し始めた。
「へぇ、こんなところに来てたんだ」
突然声が聞こえ、声の方をみるとそいつがいた。私は本を読みながらそいつに質問する。
「ここにいた私を見つけるなんてすごいですね。どこに行くかも言ってなかったのに」
「勘ってやつだよ勘。しかし、朝起きてすぐに出掛けるなんてね、朝食ぐらい作ってくれてたっていいじゃないか!」
「黙って下さい。今、本を読んでいるので」
「何だって⁉僕より本の方が大事なのかい⁉」
「当然ですね。なので突然やって来たヒットマンに撃たれて死んで下さい」
「さてはそれ漫画だな!」
当たり前の事を無駄に大きな声で話すそいつを無視しながら本を読み進める。やはり外の世界の人たちは発想力が豊かなのだろうか。幻想郷の人たちならこんな巨大ロボとやらの対決など思い付く訳無い。
このまま静かに本を読めたら良かったのだがそいつがやって来た今、静かに読む事は出来ないだろう。ああ、やはり殺したくなる。一瞬でもそう思うと、自分の怒りなどの気持ちがこみ上がってくる。だが、それはそいつの策略なのだから殺したところで更に怒りはますばかりだろう。そしてまたそいつを殺して……なんとつまらない無限ループだろうか。だが、それのせいで私はそいつを殺し続けたのだ。全く、良くできた無限ループとも言えよう。
良く考えればこの十年間私は生きていたのだろうか。ただ、これまでの十年間は無限ループをするための歯車として動き続けていただけなのでは無いだろうか。肯定する材料は無い、だがこういう話に限って否定する言葉も無いものなのだ。『生きていたのか』『動いていただけなのか』、『自分の意思で動いていたのか』『他人に動かされていたのか』、『私は妖怪だったのか』『機械の一部だったのか』……後半はなんとしても否定したいものだ。否定する材料など一つも無いが。
考えるのが少し嫌になり、目を本から反らすとそいつは本を読んでいた。私が見つけてきた外の本では無いようだ。まあ、幻想郷の本も面白いものはあるのだからそれが普通と言えば普通かもしれない。幻想郷には、外の世界の本より幻想郷で作られた本の方が多いのだから。
そんな事を思っていたが、そいつを見るぐらいなら考えていた方がましだと思い、私はまた本に目を戻した……ブロッコリーの花言葉は小さな幸せと言うらしい。覚えておこう。
そいつを殺さない生活を送り始めてから一週間がたった。そこで私は自分はすでに変えられていてしまった事に気づいた。
まず、頭痛がする。この頭痛はほとんど収まらずほぼ一日発生する。今はまだ無視出来るが痛みが更に大きくなればどうなるかは分からない。
更に殺人衝動というのだろうか、そいつを殺したいという欲求が日に日に大きくなっている。あの、柔らかい肉を鋭い刃で切り刻みたい、あえて刃を落としてズタズタにしてやりたい。炎の中に投げ入れてその様子を見てみたい等々……そういう欲求が強くなってしまっている。
そしてそのたびにそいつがやって来て殺されようとするのだが……自分の腕を噛んだりしてなんとか押さえつけた。全く、そいつは嫌なことばかりする……だが、最近のそいつの様子は何故か少し焦っているように見えた。まあ、そいつのことなどどうでもいいが。
とにかく、この二つの現象はそいつを殺さなくなった事から自分の身に起きたのだから、それほど私がそいつを殺すことを『日常』としてしまったのだろう。そいつを殺さない最近は『非日常』というわけだ。
この現象はそいつを殺すようにすれば収まるだろう。だが、そうしてしまえば私は機械へ逆戻りだ。機械にはなりたくない、だがそいつを殺したい。矛盾してないようで矛盾してしまっているこの気持ちを抱えながら生き続けなければならないのだろうか……ああ、憂鬱だ。
更に一週間たった。前から発生していた現象……いや、症状と呼ぶべきか。症状は更に酷くなってしまっている。だが、まだそいつは一回も殺していない。きっと、今そいつを殺せば今の私を殺してしまうも同然なのだから。だが、この調子でまた何十年も暮らせるのだろうか。今の私には分からないと言うしかない。
まあ、そいつを殺さないですんでいるのにも理由がある。最近、そいつと話す事が無いからだ。よく分からないがそいつは焦っている。何に焦っているのかは分からない。私がそいつを殺さなくなった程度なら笑って済ませそうなものだと言うのに……何故だろうか。幻想郷を滅ぼしたそいつが焦ってしまうほどの事とはなんなのか……まあ、所詮そいつのことだ。気にすることはない。
地震が起きた。これまでに体験したこともない大地震。自分の身の安全のために空を飛んで、能力で幻想郷を見渡すと人里の跡にある家々は崩れ、遠くには紅い館が崩れ、妖怪の山はどんどんと崩壊していく。博麗神社なととっくに崩れていた。だが、博麗神社の場所にはそいつがいた。何故かは分からない、そいつは何故か博麗神社におり、そして倒壊した神社に潰れていたのだ。ギリギリ、生きていると言ったところだろうか。
だが、そいつが簡単に死ぬとは思えない。とりあえず私は博麗神社へと向かった。どうせ、この地震を起こしたのもそいつなのだろうから。
博麗神社に来て見ると、そいつは能力を使って見た光景と同じように倒壊した神社に潰されていた。
「……久し振り、突然だけどこの状況見てどう思う?」
「ざまぁみろって感じですかね」
「ははぁ……椛ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ」
「何ですか、椛ちゃんって……気持ち悪いのでやめてくれませんか?」
「何を言ってるのさ。十年も一緒に暮らしたじゃないか」
「その十年間で心を開いた記憶はありませんけどね」
そいつは久し振りに会ってしかも神社に潰されついたとしても元気なようだ……いや、一センチも動かず血だらけのそいつを見て元気と言うのはおかしいかもしれないが。口だけはかなりの達者のようだが。
「ははっ、手厳しいね。女の子の心情を察するのはやっぱり大変だ」
「むしろ大量虐殺しているのに何で優しく接すると思っているのか不思議ですね」
「……まあ当然か。で、何しに来たんだい?」
「急に大きすぎる地震が起きたから探しに来たんですよ」
「心配してく「言っておきますけど、あなたがこのし地震を起こしたことを常識と思ってますので」……はぁ、やっぱり長年一緒に暮らしてきたから分かるもんなんだね」
「まあ、消し去りたい過去ですけどね」
何故か人間からしたら大ピンチであろう状況でも減らず口が叩けるようだ。さっきそいつは女の子の心情が分からないなんて言っていたが私としてはそいつの心情の方が分からないものだ。
「で、なんで地震なんか起こしたんですか?」
「まあ、簡単に言えば殺されたかったからかな?」
「……は?」
「あれ、分からなかったかい?君に殺されたかったんだよ」
「すみません、更に分からなくなったんですけど」
「ああ、なら更に言うよ。僕は君に殺されすぎたんだよ」
……は?やはりよく分からない。実はドMだったとかするのだろうか。
「別にドMって訳じゃないけどね」
「じゃあどういう訳なんです?」
速く答えを言って欲しいものだ。じゃないと、殺されたいなんて言われたら更に殺したくなってしまう。
「僕は毎日君に殺された」
「ええ、そうですね」
「それが何年も続いていたわけだ」
「そうですね……で、結論を速く言ってください」
「まあ、言ってしまうと君に殺されることが僕の日常になってしまったんだよ」
その結論を聞いた瞬間、そいつの言いたい事が理解できた。そいつは私と同じだったのだ。殺す方と殺される方。そんな違いがあるとはいえ、私と同じくいつもの行動がしたいと思い、私と同じくその行為をしたときのことを想像してやりたいと思ってしまう。
「……あれ?これじゃあまだ理解出来ないと思ってたんだけどもしかして心あたりがあったりするのかな?」
「……少し黙ってください」
「もしかして君の場合は僕を殺したいという欲求かな?なんで、ずっと殺してきた僕を殺さなくなったかは謎だけど……まあ、いいや。ほら、殺しなよ」
そいつはそう言うと私にナイフを投げる。私はそれを普通にキャッチした。もしかして、いつも持っていたのだろうか。
「ほらほら、持ってたままじゃあナイフは使えないよ?」
そう言われ思わずナイフの持ち手を握ってしまう……まずい。このままじゃあ、本当にそいつを殺してしまう。そいつを殺せば私は前の生活に元通りだ。そいつを殺せすだけの生活になってしまう。
実際、自分の理性で誤魔化そうとはしているが今もそいつを殺したいという欲求は収まっていないのだ。むしろ、ナイフを持っていたことで更に高まっている。
「さあ、早く殺しなよ。僕は君に殺されて、君は僕を殺せる。両方幸せのハッピーエンドじゃないか」
ナイフを持つ手がそいつにだんだん近づいていく。
「そのナイフを僕に刺すだけで全ては解決するんだから」
そしてナイフの刃先がそいつの顔に少し当たったところで……私は一気にナイフを戻し自分に突き刺した。
「……は?」
そいつは間抜けな顔をしていた。ここ十年間一緒に暮らしてきたがそんな顔は見たことがない……ああ、面白い。
「なんで……」
「確かに私は貴方を殺したいですよ」
「だったらなんで……!」
「けど、それ以上に貴方に絶望を与えたかった。」
「……そうか、そうか。駄目だなこりゃあ……やっぱり思い通りに行くわけ無いよな」
「そうですね。貴方の思い通りに行かせる訳にはいかないですし……じゃあ、さようならをしましょう。もう貴方に用は無いですから」
私は後ろを向き、片手を上に上げながらこう言った。
「さようなら、貴方と過ごした十年間最悪の日々でしたよ」
そして、後ろからこう聞こえてきた。
「バイバイ、君との十年間最高の日々だったよ」
私はそこから空へ飛び適当な木を見つける。よく、地震で倒れなかったものだ……地震にも耐えるのなら私だって支えてくれるだろう。そう思った私は木にもたれ掛かる。少しの間休憩だ……。
「椛、起きて」
そんな声で目が覚める。目を開けると木に外は地震があったとは思えないほど綺麗な自然だった。よく見たら自分で刺した筈のナイフが無い……誰かが抜いた?そう考えた瞬間頭に痛みが走る。
「ぼおっとする仕事してる訳じゃないわよね?けど、椛が寝てるなんて珍しい、新聞の記事にでもしようかしら」
「止めてくださいよはたてさん……」
全く寝ていただけで新聞の記事にされるなど迷惑以外の何者でもない、全く冗談だろうけど止めてほしい……ん?
「はたてさん……?」
「そうだけどどうしたのよ」
「はたてさーーーん!」
「えっ、いやちょっと椛⁉」
久々にそいつ以外の人に会えた事に喜びを感じ、はたてさんに抱きつく。ああ、久々の人の温もり……妖怪だけど。そんなしょうもないことはどうでもいい。なんで、はたてさんが生きてるのかも分からないし、なんで、周りの環境が戻っているのかも分からないが今は久しぶりの温もりを……。
結論から言うと、時が戻っていた。そいつが事件を起こす十年前に。ちなみにはたてさんには「椛がおかしくなった!」といいながら逃げられた……まあ、仕方がないだろう。しかし、あれは夢だったのだろうか……だが、それにしては長すぎるし、何よりリアルすぎる。だが、今の私には夢であろうが現実であろうがどうでもいいのだ。
どちらであれ、生活は元通りになったのだ今度の十年間は楽しくなりそうだ。
また、結論から言おう。どうでも良くなかった。あのとき、私に起きた症状が殺人癖として残っていた。自分の持っている人形や、そこら辺を歩いていた雑魚妖怪。そんなものを切っては切ってはを繰り返して、誤魔化してはきたのだが、もう駄目そうだ。
今日は幸い休日なので誰にも会わないですむが、次誰かと会ってしまったら殺しにかかってしまうだろう。全く、いつもならにとりと将棋でもしているというのに……そんな時だった。玄関からノックの音が聞こえる。誰か来たらしい。
ああ、誰にも会いたくないのに……ドア越しに話せばなんとか抑さえられるだろうか……私はそう考えドアの向こうから話しかける。
「誰ですか」
「やあ、十年先ぶりだね」
あり得ない……そう思った。思わず、ドアを開いてしまう……ドアの向こうにはそいつがいた。
「驚いてるって顔だね。まあ、いいや。本題に入らせてもらうよ」
そいつはまだ今の状況を良く把握できていない私に何かを言おうとする。止めてくれ、考えに集中できない。
「僕を殺してくれ。君以外が僕を殺しても満足できない。他の誰でもない、君が僕を殺してくれないと僕は僕でいられないんだよ」
やっと状況を理解できた。そいつにも症状は残っていてついに我慢の限界が来てしまったという事だろう。やはり勝手だ、だが……。
「いいですよ、ちょうど私もそう思っていましたし」
そいつは許されない事をした。でも、それはもう過ぎた事でその事実も、消えてしまっている。だが、私達の歪んだ繋がりは消えなかったという事だろう。
なら、殺そう。私もそいつもそれで満足だ。
そいつは私に殺されたい、私はそいつを殺したい。
だったらそれでいいじゃないか……ねぇーーー
果たしてこれ程度で残酷な、描写タグはいるのだろうか……俺はビビりだから付けるけど。
とりあえずキャラ紹介しときます。
犬走 椛
今回の主人公。思い込みが微妙に激しい。そいつに生き残らされたのは、そいつと戦っている途中能力の千里眼で相手の微妙な動きから未来を予測するという事を成し遂げたため気に入られたから。
そいつ
実は名前は幸野 竹だったりする。口調のわりにはかなりの頑固もので自分の言った事をねじ曲げようとしない。時が巻き戻った時も、椛に傷つけられたところから血を止まらないようにして出血死した。幻想郷のみんなを殺したのは暇だったため。その後、更に暇になって後悔していた。ちなみに途中で椛が考えたようなことは一ミリも思ってなかった。能力は[能力を作る程度の能力]というどっかで見たことのある能力である。