天涯~柳編~   作:清夏

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ひとつ、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


『序』

「10歳の記念に海外旅行でもしよっか?」

 その日、母さんは上機嫌で僕にそう言った。 これは質問ではなかった。むしろ事後報告だった。

 僕はその時、何て答えたのかは良くは憶えていない。けれど嬉しかったのは間違いない。 初めての海外旅行だった。きっと、「行く、行く」と大騒ぎで応えていたはずだ。

 

 共稼ぎの両親、僕は一人っ子。僕の家は金持ちだった訳ではないが、国内旅行は年に何度かしていたし、「特別」な時には、海外旅行に行くくらいの余裕があったのだろう。

 

 ただ、僕の「10歳の記念」という理由は、ちょっと疑問だった。

 10歳って、そんなに「特別」な感じはしないんじゃないかな? 

 僕をだしにしてるだけじゃないのかな? 

 そう、思った。でも僕は物凄く嬉しかったから、「理由」なんてどうでもよかった。

 だけどその分、行き先が「中国の奥の奥の奥の方」だと聞かされた時は、がっかりしてしまった。僕はアメリカとかイギリスとか、そういう処に行きたかった。

 

 まあ結局、その「中国の奥の奥の奥の方」にも、行けなかったんだけれど。

 

 

 僕の両親は、図書館で出逢ったのだと聞かされていた。

 母さんはその話をするときは、うっとりとした声で

「とってもロマンチックだったのよねぇ」

 と遠い昔に想いをはせていた。

 同じ本を借りようとして譲り合ったのがなれそめだったのだそうだ。それのどこがロマンチックのか僕には分からなかった。実は、未だに良く分からない。

 

 ともかく、両親がその時に同時に手を出した本が、中国の奥の奥の奥の方を舞台にした小説だったと、そういうことだ。

 これって、「ロマンチック」なのだろうか?

 やっぱり分からない。

 

 父さんと母さんが出逢って20回目の夏、僕が生まれて10回目の夏に中国の奥の奥の奥へ3人で行くのは、母さんに言わせるとこうだ。

 

「とってもロマンチックよねぇ」

 

 母さんはロマンチックが大好きだった。

 何かにつけ、「ロマンチック」という言葉を使う。 そのうち、いつもの朝ご飯ですら、その形容詞が飛び出してくる始末だった。

 莫迦莫迦しく聞こえるが、それが僕の家の日常だった。他の家では、そうではないことに気付いたのは、いつだっただろうか。

 父さんは母さんの「ロマンチック」に、喜んでつき合っているみたいだった。今でも二人は、そんな風に暮らしているのだろうか。

 

 実際のところ両親が生きているのか死んでいるのかすら分からないし、確かめる術もない。

 

 中国の奥の奥の奥への旅、あの飛行機事故から8年がたちました。

 

 お母さん、いま僕は人を殺して生きています。




1,000文字辛いっす。もともと700文字くらいのものを、とっつけ、ひっつけしてナントカ1,000文字に……これからが、思いやられマス。
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