戒莉は何かを斬った後、体と心に変調をきたす。
さすがに毎回、失神している訳ではないが、こんなことは珍しいことではない。
一晩も眠ればすぐに快癒するので、珊揮はそれ程に心配していなかったが、こんなことで仕事が続けられるかという懸念は抱いてはいた。
現場では申し分のない、むしろ期待以上の働きをする。
それが目覚ましければ、目覚ましい程、後から来る反動が大きい。
はじめから、こんな風だっただろうか。
珊揮と初めて逢った時、戒莉はやたらと話したがった。
周りの人が言っていることが分からない、自分の意思が相手に伝わらないという生活に疲れていたためだろう。戒莉はよく喋り、珊揮にも何か喋ってくれとせがんだ。 思えば、あの頃の戒莉は可愛かった。
今では、口数が減って、口を開けば憎らしいことばかり言う。何を考えているのか、測りかねる。
ただ、美しさには磨きがかかった。
昔は、きれいだが寂しげな少年だった。
今は凄みというか迫力がある。
かつての戒莉、今の戒莉。
並べてみると、随分違う。同じ人間のはずだが、異なる人物のことを思い起こしているかのようだ。
ああ、しかし。
妖魔を殺し、人を殺す前から、戒莉は罪の意識、自分を罰して欲しいという意識が強かった。それはどうも蓬莱に居るころから根強くあるものらしかった。
わずかに十歳の子供が、そんな気持ちで生きていたのだと考えると、痛ましい気がする。
更にこちらに来てからの過酷な状況、寄る辺無い、居場所のない孤独、閉塞感が彼を追いつめていったのだろう。
もっとも戒莉はこっちに来てから珊揮に会うまでのことをほとんど話さない。故にどんな暮らしをして、どんな気持ちでいたのかは、珊揮の想像にすぎない。
ただ、珊揮が戒莉に会った時には戒莉は奴隷だった。
もちろん、どの国でも奴隷は法的に許されてはいない。
しかし、現実的に隷属させられる人々がいて、人を売り買いする人が居る。
そして、珊揮は戒莉を買った。
それは彼を自由にする行為だったが、戒莉にとっては自分を鎖で繋ぐ主が代わったという程度のことだったのかもしれない。
戒莉は、人など斬りたくないのだろう。生き物を殺すことが嫌でたまらないのだろう。しかし、主がそれを命じれば従うしかない。故に、人を斬るたびに心と体が悲鳴を上げる。それを無視して、さらに血を浴びれば、戒莉は壊れてしまうかもしれない。
もう、こんな仕事は止めさせた方が良いのだろうか。
珊揮は、眠る戒莉の青白い顔を眺めながら、自分の罪深さを感じた。
―― 地獄から救ってやったつもりだが、別の地獄に堕としただけだったのだろうか ?
センチメンタル珊揮