天涯~柳編~   作:清夏

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『終わり』

『藍椋特製健康茶』は、これがもう生まれて来たことを後悔する程に衝撃的な味だった。

 何をどう混ぜたら、どうしてあんな味になるのか。全く以てミステリーだ。因みに藍椋は、その成分を『企業秘密よ』などと言って教えてはくれなかった。

 結局、戒莉は『藍椋特製健康茶』を大振りな湯呑みに5杯飲んだ。

「すごいなぁ、さすが戒莉」

 珊揮は、心から感服した。

「私もあれは1杯が限界だったなぁ」

 珊揮は遠い目をしてみせた。

「飲む前に教えて呉れ」

 戒莉はぐったりとした顔を上げて、恨めしげに珊揮をじろっと見た。

「教えるって、、、『体には良いらしいよ。お前は5杯くらい飲んでおいた方がいいんじゃないか』……ってこと?」

 にっこり。

 ぐったり。

 口中にあの苦臭い風味が甦り、更に『藍椋特製健康茶』本体までが逆流してきそうになった。

 戒莉はあわてて口を押さえた。

「ところで、例の賊だけど」

 珊揮は、何かのついでのように大切なことを言う。

「賊?」

 涙目で聞き返す戒莉は、珊揮に出逢った頃の可愛らしい少年を思い起こさせた。

 珊揮は思わず、微笑んだ。

「一人殴って連れて来ただろ。あれに吐かせようとしたんだけど」

 吐く、と言う珊揮の言葉に戒莉は反応した。

「それで?」

 戒莉は、ぐっとこみ上げるものを無理矢理に喉元で押し留めた。

「死んだ」

「死んだ?あんた拷問でもしたのかよ」

 戒莉は、眉をひそめた。

 賊に襲われた時、珊揮はそいつをちょっと殴っただけだ。あの程度では死ぬはずがない。

 では、捕らえてから仲間のことを吐かせようとして力に訴えたのだろうか。

「いや」

 珊揮は、謂われない責めを否定した。

「じゃ、なんで」

「さあ」

「さあ……って」

 珊揮のとぼけた答えに、戒莉は呆れる。いつものことだが、つい呆れる。

「こっちの役人に引き渡そうとした時には、死んでた」

 珊揮は何を言いたいのだろうか。戒莉は探りながら尋ねる。

「あんたの殴りすぎで?」

「いや、胸を刺されていた」

 珊揮は戒莉の胸を刺す仕草をしてみせた。

 戒莉は自分の胸に押しつけられた珊揮のこぶしを見ながら、珊揮の言葉を胸の内で繰り返してみた。

「自殺じゃないんだ……」

「そうだ。刺した刃物が見付かっていない」

 珊揮が刺した訳ではない。いつの間に、そして誰が。

「それで?」

「それで?」

 戒莉の問いかけに、珊揮は同じ言葉を返した。

「それで何、つづきを話せよ」

「つづきなんてないよ。話はこれでお終いっ」

 珊揮は両の掌を戒莉に示しながら、からっと言う。

 可愛い仕草をする大男に、戒莉は気が遠くなる。

「終わりのはずないだろう」

「ああ、これでは終わらせないよ」

 にやりと、珊揮はこの話題には不似合いな笑顔を見せた。

 

『天涯~柳編~』 第一章 了




『閑話休題』

「……なあ、あいつらどうして妖魔の声を真似たんだろ」
戒莉は、暗い森であった賊のことで、ふと思いついたことを珊揮に問うてみた。
「ま、脅しでしょう。怖がらせようってことじゃないの」
「でも、妖魔が来たら普通逃げるよな。逃げろって注意してるようなものじゃないのか」
「そうだなぁ。恐怖のあまりすくんでしまうってのもあるだろ。混乱するとか」
「護衛が居るのに?」
「それはお前の…」
お前の姿を見て侮ったのだろうとか何とか言いかけて、珊揮は口をつぐんだ。
しかし、戒莉は、言葉の続きを察知していた。
珊揮は、戒莉のむっとした顔に慌てて話を別の方向へ向けようとした。
「だいたい妖魔もなんで赤ん坊なんだろうな。たまには色っぽい女の声とかにすれば良いのになぁ。みんな油断するぞ」
「そんなものにひっかかるのはのはあんただけだ」

 藪蛇。   
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